ガウスの歴史を巡るブログ(その日にあった過去の出来事)

 学生時代からの大の旅行好きで、日本中を旅して回りました。その中でいろいろと歴史に関わる所を巡ってきましたが、日々に関わる歴史上の出来事や感想を紹介します。Yahooブログ閉鎖に伴い、こちらに移動しました。

タグ:国際条約

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 今日は、平成時代の2001年(平成13)に、ハンガリーのブダペストにおいて、「サイバー犯罪に関する条約」に、日本を含む30ヶ国が署名・採択した日です。
 「サイバー犯罪に関する条約」(さいばーはんざいにかんするじょうやく)は、コンピューター犯罪に国際的に対処するための国際条約です。コンピューター・システムを攻撃するような犯罪およびコンピューター・システムを利用して行われる犯罪(いわゆるサイバー犯罪)に対し、国際的に協調して有効な手段をとる必要性から、欧州評議会が2001年(平成13)に発案し、ハンガリーのブダペストで、11月23日に日本を含む30ヶ国が署名・採択したことから「ブダペスト条約」とも呼ばれてきました。
 条約は全48ヶ条で、①違法アクセス、オンライン詐欺、コンピュータ・ウイルスによるデータの破損やシステム機能妨害、児童ポルノ配信、著作権侵害などのサイバー犯罪の類型を定義した刑事実体法部分、②データの保全、捜索、押収、通信傍受などの手法を定めた手続法部分、③国際的な捜査の相互協力、犯罪人引き渡し、裁判権などを定めた条約部分、などで構成されています。日本は、2004年(平成16)4月に国会承認して批准し、同年7月1日に、批准国数の条件を満たして発効しました。2023年(令和5)11月現在の条約の締約国は、68ヶ国となっています。
 以下に、「サイバー犯罪に関する条約」の日本語訳を掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「サイバー犯罪に関する条約」2001年(平成13)11月23日署名・採択、2004年(平成16)7月1日発効

前文

 欧州評議会の加盟国及びこの条約に署名したその他の国は、
 欧州評議会の目的がその加盟国の一層強化された統合を達成することであることを考慮し、
 この条約の他の締約国との協力を促進することの価値を認識し、
 特に適当な法令を制定し及び国際協力を促進することによって、サイバー犯罪から社会を保護することを目的とした共通の刑事政策を優先事項として追求することが必要であることを確信し、コンピュータ・ネットワークがデジタル化され、統合され及び地球的規模で拡大し続けることによってもたらされる大きな変化を認識し、
 コンピュータ・ネットワーク及び電子情報が犯罪を行うためにも利用される可能性があるという危険並びに犯罪に関する証拠がコンピュータ・ネットワークによって蔵置され及び送信される可能性があるという危険を憂慮し、
 サイバー犯罪との戦いにおいて国家と民間業界との間の協力が必要であること並びに情報技術の利用及び開発において正当な利益を保護することが必要であることを認識し、
 サイバー犯罪と効果的に戦うためには、刑事問題に関する国際協力を強化し、迅速に行い、かつ、十分に機能させることが必要であることを確信し、
 この条約に規定する行為を犯罪として定め及びそのような犯罪と効果的に戦うための十分な権限の付与について定めること、そのような犯罪の探知、捜査及び訴追を国内的にも国際的にも促進すること並びに迅速で信頼し得る国際協力のための措置を定めることによって、コンピュータ・システム、コンピュータ・ネットワーク及びコンピュータ・データの秘密性、完全性及び利用可能性に対して向けられた行為並びにコンピュータ・システム、コンピュータ・ネットワーク及びコンピュータ・データの濫用を抑止するために、この条約が必要であることを確信し、
 すべての者が有する干渉されることなく意見を持つ権利、表現の自由(国境とのかかわりなくあらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由等)についての権利及びプライバシーの尊重についての権利を再確認する千九百五十年に欧州評議会で採択された人権及び基本的自由の保護に関する条約、千九百六十六年に国際連合で採択された市民的及び政治的権利に関する国際規約その他の適用される人権に関する国際条約にうたう法の執行の利益と基本的人権の尊重との間に適正な均衡を確保することが必要であることに留意し、
 また、個人情報の保護についての権利(例えば、千九百八十一年に欧州評議会で採択された個人情報の自動処理における個人の保護に関する条約によって付与されている権利)に留意し、
 千九百八十九年に国際連合で採択された児童の権利に関する条約及び千九百九十九年に国際労働機関で採択された最悪の形態の児童労働条約を考慮し、
 欧州評議会で採択された刑事分野における協力に関する現行の諸条約及び欧州評議会の加盟国と他の国々との間に存在する同様の諸条約を考慮し、並びにこの条約が、コンピュータ・システム及びコンピュータ・データに関連する犯罪に関する捜査及び刑事訴訟をより効果的なものとし、かつ、犯罪に関する電子的形態の証拠の収集を可能とするために、それらの条約を補足することを目的とするものであることを強調し、
 国際連合、経済協力開発機構、欧州連合及び主要八箇国(G8)の活動その他の近年の進展により、サイバー犯罪との戦いに関する国際的な理解及び協力が更に進められていることを歓迎し、刑事問題についての相互援助に関する欧州条約の実際の適用(電気通信の傍受に係る嘱託状に関するもの)に関する閣僚委員会勧告第十号(千九百八十五年) 、著作権及び著作隣接権の分野における違法な複製行為に関する同勧告第二号(千九百八十八年) 、警察部門における個人情報の使用を規制する同勧告第十五号(千九百八十七年) 、電気通信サービス(特に電話サービス)の領域における個人情報の保護に関する同勧告第四号(千九百九十五年) 、特定のコンピュータ犯罪の定義について国内の立法機関のための指針を提供するコンピュータに関連する犯罪に関する同勧告第九号(千九百八十九年)及び刑事手続法における情報技術に関連する問題に関する同勧告第十三号(千九百九十五年)を想起し、
 第二十一回欧州司法大臣会議(千九百九十七年六月十日及び十一日にプラハで開催)において採択された決議第一号(国内刑事法の規定を相互に一層類似したものとし及びサイバー犯罪の捜査について効果的な手段を利用可能とするために犯罪問題に関する欧州委員会(CDPC)が実施するサイバー犯罪に関する作業を支持するよう閣僚委員会に勧告したもの)及び第二十三回欧州司法大臣会議(二千年六月八日及び九日にロンドンで開催)において採択された決議第三号(できる限り多数の国がこの条約の締約国となることができるようにするための適当な解決を見いだすために交渉当事国が努力を継続するよう奨励し、及びサイバー犯罪との戦いについての特有の要件を十分に考慮した迅速かつ効果的な国際協力体制の必要性を認めたもの)に考慮を払い、
 また、第二回首脳会議(千九百九十七年十月十日及び十一日にストラスブールで開催)において欧州評議会の加盟国の元首又は政府の長によって採択された行動計画(欧州評議会の基準及び価値に基づき新たな情報技術の開発に対する共通の対応を追求するためのもの)に考慮を払って、
 次のとおり協定した。

第一章 用語

第一条 定義
 この条約の適用上、
a「コンピュータ・システム」とは、プログラムに従ってデータの自動処理を行う装置又は相互に接続された若しくは関連する一群の装置であってそのうちの一若しくは二以上の装置がプログラムに従ってデータの自動処理を行うものをいう。
b「コンピュータ・データ」とは、コンピュータ・システムにおける処理に適した形式によって事実、情報又は概念を表したものをいい、コンピュータ・システムに何らかの機能を実行させるための適当なプログラムを含む。
c「サービス・プロバイダ」とは、次のものをいう。
ⅰ そのサービスの利用者に対しコンピュータ・システムによって通信する能力を提供する者(公私を問わない。 )
ⅱ ⅰに規定する通信サービス又はその利用者のために、コンピュータ・データを処理し又は蔵置するその他の者
d「通信記録」とは、コンピュータ・システムによる通信に関するコンピュータ・データであって、通信の連鎖の一部を構成するコンピュータ・システムによって作り出され、かつ、通信の発信元、発信先、経路、時刻、日付、規模若しくは継続時間又は通信の基礎となるサービスの種類を示すものをいう。

第二章 国内的にとる措置

第一節 刑事実体法

第一款 コンピュータ・データ及びコンピュータ・システムの秘密性、完全性及び利用可能性に対する犯罪

第二条 違法なアクセス
 締約国は、コンピュータ・システムの全部又は一部に対するアクセスが、権限なしに故意に行われることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。締約国は、このようなアクセスが防護措置を侵害することによって行われること、コンピュータ・データを取得する意図その他不正な意図をもって行われること又は他のコンピュータ・システムに接続されているコンピュータ・システムに関連して行われることをこの犯罪の要件とすることができる。

第三条 違法な傍受
 締約国は、コンピュータ・システムへの若しくはそこからの又はその内部におけるコンピュータ・データの非公開送信(コンピュータ・データを伝送するコンピュータ・システムからの電磁的放射を含む。 )の傍受が、技術的手段によって権限なしに故意に行われることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。締約国は、このような傍受が不正な意図をもって行われること又は他のコンピュータ・システムに接続されているコンピュータ・システムに関連して行われることをこの犯罪の要件とすることができる。

第四条 データの妨害
1 締約国は、コンピュータ・データの破損、削除、劣化、改ざん又は隠ぺいが権限なしに故意に行われることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
2 締約国は、1に規定する行為が重大な損害を引き起こすことをこの犯罪の要件とする権利を留保することができる。

第五条 システムの妨害
 締約国は、コンピュータ・データの入力、送信、破損、削除、劣化、改ざん又は隠ぺいによりコンピュータ・システムの機能に対する重大な妨害が権限なしに故意に行われることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。

第六条 装置の濫用
1締約国は、権限なしに故意に行われる次の行為を自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
a第二条から前条までの規定に従って定められる犯罪を行うために使用されることを意図して、次のものを製造し、販売し、使用のために取得し、輸入し、頒布し又はその他の方法によって利用可能とすること。
ⅰ 第二条から前条までの規定に従って定められる犯罪を主として行うために設計され又は改造された装置(コンピュータ・プログラムを含む。 )
ⅱ コンピュータ・システムの全部又は一部にアクセス可能となるようなコンピュータ・パスワード、アクセス・コード又はこれらに類するデータ
b第二条から前条までの規定に従って定められる犯罪を行うために使用されることを意図して、aⅰ又はⅱに規定するものを保有すること。締約国は、自国の法令により、これらのものの一定数の保有を刑事上の責任を課するための要件とすることができる。
2この条の規定は、1に規定する製造、販売、使用のための取得、輸入、頒布若しくはその他の方法によって利用可能とする行為又は保有が、第二条から前条までの規定に従って定められる犯罪を行うことを目的としない場合(例えば、コンピュータ・システムの正当な試験又は保護のために行われる場合)に刑事上の責任を課するものと解してはならない。
3締約国は、1の規定を適用しない権利を留保することができる。ただし、その留保が1ⅰⅱに規定するものの販売、頒布又はその他の方法によって利用可能とする行為に関するものでない場合に限る。

第二款 コンピュータに関連する犯罪

第七条 コンピュータに関連する偽造
 締約国は、コンピュータ・データの入力、改ざん、削除又は隠ぺいにより、真正でないコンピュータ・データ(直接読取りが可能であるか否か及び直接理解が可能であるか否かを問わない。 )を生じさせる行為が、当該データが法律上真正であるとみなされ又は扱われることを意図して権限なしに故意に行われることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。締約国は、詐取する意図又はこれに類する不正な意図を刑事上の責任を課するための要件とすることができる。

第八条 コンピュータに関連する詐欺
 締約国は、自己又は他人のために権限なしに経済的利益を得るという詐欺的な又は不正な意図をもって、権限なしに故意に次の行為が行われ、他人に対し財産上の損害が加えられることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
aコンピュータ・データの入力、改ざん、削除又は隠ぺい
bコンピュータ・システムの機能に対する妨害

第三款 特定の内容に関連する犯罪

第九条 児童ポルノに関連する犯罪
1締約国は、権限なしに故意に行われる次の行為を自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
aコンピュータ・システムを通じて頒布するために児童ポルノを製造すること。
bコンピュータ・システムを通じて児童ポルノの提供を申し出又はその利用を可能にすること。
cコンピュータ・システムを通じて児童ポルノを頒布し又は送信すること。
d自己又は他人のためにコンピュータ・システムを通じて児童ポルノを取得すること。
eコンピュータ・システム又はコンピュータ・データ記憶媒体の内部に児童ポルノを保有すること。
21の規定の適用上、 「児童ポルノ」とは、次のものを視覚的に描写するポルノをいう。
a性的にあからさまな行為を行う未成年者
b性的にあからさまな行為を行う未成年者であると外見上認められる者
c性的にあからさまな行為を行う未成年者を表現する写実的影像
32の規定の適用上、 「未成年者」とは、十八歳未満のすべての者をいう。もっとも、締約国は、より低い年齢(十六歳を下回ってはならない。 )の者のみを未成年者とすることができる。
4締約国は、1d及びe並びに2b及びcの規定の全部又は一部を適用しない権利を留保することができる。

第四款 著作権及び関連する権利の侵害に関連する犯罪

第十条 著作権及び関連する権利の侵害に関連する犯罪
1締約国は、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約の千九百七十一年七月二十四日のパリ改正条約、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定及び著作権に関する世界知的所有権機関条約に基づく義務に従って自国の法令に定める著作権(これらの条約によって付与された人格権を除く。 )の侵害が故意に、商業的規模で、かつ、コンピュータ・システムによって行われることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
2締約国は、実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(ローマ条約) 、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定及び実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約に基づく義務に従って自国の法令に定める関連する権利(これらの条約によって付与された人格権を除く。 )の侵害が故意に、商業的規模で、かつ、コンピュータ・システムによって行われることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
3締約国は、限定的な状況において、1及び2の規定に基づく刑事上の責任を課さない権利を留保することができる。ただし、他の効果的な救済手段が利用可能であり、かつ、その留保が1及び2に規定する国際文書に定める締約国の国際的義務に違反しない場合に限る。

第五款 付随的責任及び制裁

第十一条 未遂及びほう助又は教唆
1締約国は、第二条から前条までの規定に従って定められる犯罪が行われることを意図して故意にこれらの犯罪の実行をほう助し又は教唆することを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
2締約国は、第三条から第五条まで、第七条、第八条並びに第九条1a及びcの規定に従って定められる犯罪であって故意に行われるものの未遂を自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
3いずれの締約国も、2の規定の全部又は一部を適用しない権利を留保することができる。

第十二条 法人の責任
1締約国は、単独で又は法人の機関の一部として活動する自然人であって当該法人内部で指導的地位にあるものが、次のいずれかの権限に基づき、かつ、当該法人の利益のためにこの条約に従って定められる犯罪を行う場合に当該犯罪についての責任を当該法人に負わせ得ることを確保するため、必要な立法その他の措置をとる。
a法人の代表権
b法人のために決定を行う権限c法人内部で管理を行う権限
21に規定する場合に加え、締約国は、法人の権限に基づき活動する自然人が当該法人の利益のためにこの条約に従って定められる犯罪を行う場合において、当該犯罪の実行が1に規定する自然人による監督又は管理の欠如によるものであるときは、当該法人に責任を負わせ得ることを確保するため、必要な措置をとる。
3法人の責任は、締約国の法的原則に従って、刑事上、民事上又は行政上のものとすることができる。
4法人の責任は、犯罪を行った自然人の刑事上の責任に影響を及ぼすものではない。

第十三条 制裁及び措置
1締約国は、第二条から第十一条までの規定に従って定められる犯罪について自由のはく奪その他の制裁であって効果的な、均衡のとれたかつ抑止力のあるものが科されることを確保するため、必要な立法その他の措置をとる。
2締約国は、前条の規定に従って責任を負う法人に対し、刑罰又は刑罰以外の制裁若しくは措置であって効果的な、均衡のとれたかつ抑止力のあるもの(金銭的制裁を含む。 )が科されることを確保する。

第二節手続法

第一款 共通規定

第十四条 手続規定の適用範囲
1締約国は、特定の捜査又は刑事訴訟のためにこの節に定める権限及び手続を設定するため、必要な立法その他の措置をとる。
2第二十一条に別段の定めがある場合を除くほか、締約国は、次の事項について1に規定する権限及び手続を適用する。
a第二条から第十一条までの規定に従って定められる犯罪
bコンピュータ・システムによって行われる他の犯罪
c犯罪に関する電子的形態の証拠の収集
3a締約国は、留保において特定する犯罪又は犯罪類型についてのみ第二十条に定める措置を適用する権利を留保することができる。ただし、当該犯罪又は犯罪類型の範囲が、第二十一条に定める措置を適用する犯罪の範囲よりも制限的とならない場合に限る。締約国は、第二十条に定める措置を最も幅広く適用することができるように留保を制限することを考慮する。
b締約国は、この条約の採択の時に有効な法令における制限により次のÞ及びßのシステムを有するサービス・プロバイダのコンピュータ・システムの内部における通信に第二十条及び第二十一条に定める措置を適用することができない場合には、そのような通信にこれらの措置を適用しない権利を留保することができる。
ⅰ閉鎖されたグループの利用者のために運営されているシステム
ⅱ公共通信ネットワークを利用せず、かつ、他のコンピュータ・システム(公的なものであるか私的なものであるかを問わない。)に接続されていないシステム締約国は、第二十条及び第二十一条に定める措置を最も幅広く適用することができるように留保を制限することを考慮する。

第十五条 条件及び保障措置
1締約国は、この節に定める権限及び手続の設定、実施及び適用が、自国の国内法に定める条件及び保障措置であって、千九百五十年に欧州評議会で採択された人権及び基本的自由の保護に関する条約、千九百六十六年に国際連合で採択された市民的及び政治的権利に関する国際規約その他の適用される人権に関する国際文書に基づく義務に従って生ずる権利その他の人権及び自由の適当な保護を規定しており、かつ、比例原則を含むものに従うことを確保する。
21に規定する条件及び保障措置には、該当する権限又は手続の性質にかんがみ適当な場合には、特に、司法上の又は他の独立した監督、適用を正当化する事由並びに当該権限又は手続の適用範囲及び期間に関する制限を含む。
3締約国は、公共の利益、特に司法の健全な運営に反しない限り、この節に定める権限及び手続が第三者の権利、責任及び正当な利益に及ぼす影響を考慮する。

第二款 蔵置されたコンピュータ・データの迅速な保全

第十六条 蔵置されたコンピュータ・データの迅速な保全
1締約国は、特に、自国の権限のある当局がコンピュータ・システムによって蔵置された特定のコンピュータ・データ(通信記録を含む。 )が特に滅失しやすく又は改変されやすいと信ずるに足りる理由がある場合には、当該権限のある当局が当該コンピュータ・データについて迅速な保全を命令すること又はこれに類する方法によって迅速な保全を確保することを可能にするため、必要な立法その他の措置をとる。
2締約国は、ある者が保有し又は管理している特定の蔵置されたコンピュータ・データを保全するよう当該者に命令することによって1の規定を実施する場合には、自国の権限のある当局が当該コンピュータ・データの開示を求めることを可能にするために必要な期間(九十日を限度とする。)、当該コンピュータ・データの完全性を保全し及び維持することを当該者に義務付けるため、必要な立法その他の措置をとる。締約国は、そのような命令を引き続き更新することができる旨定めることができる。
3締約国は、コンピュータ・データを保全すべき管理者その他の者に対し、1又は2に定める手続がとられていることについて、自国の国内法に定める期間秘密のものとして取り扱うことを義務付けるため、必要な立法その他の措置をとる。
4この条に定める権限及び手続は、前二条の規定に従うものとする。第十七条通信記録の迅速な保全及び部分開示1締約国は、前条の規定に基づいて保全される通信記録について、次のことを行うため、必要な立法その他の措置をとる。
a通信の伝達に関与したサービス・プロバイダが一であるか二以上であるかにかかわらず、通信記録の迅速な保全が可能となることを確保すること。
第十七条 通信記録の迅速な保全及び部分開示
1締約国は、前条の規定に基づいて保全される通信記録について、次のことを行うため、必要な立法その他の措置をとる。
a通信の伝達に関与したサービス・プロバイダが一であるか二以上であるかにかかわらず、通信記録の迅速な保全が可能となることを確保すること。
b当該サービス・プロバイダ及び通信が伝達された経路を自国が特定することができるようにするために十分な量の通信記録が、自国の権限のある当局又は当該権限のある当局によって指名された者に対して迅速に開示されることを確保すること。
2この条に定める権限及び手続は、第十四条及び第十五条の規定に従うものとする。

第三款 提出命令

第十八条 提出命令
1締約国は、自国の権限のある当局に対し次のことを行う権限を与えるため、必要な立法その他の措置をとる。
a自国の領域内に所在する者に対し、当該者が保有し又は管理している特定のコンピュータ・データであって、コンピュータ・システム又はコンピュータ・データ記憶媒体の内部に蔵置されたものを提出するよう命令すること。
b自国の領域内でサービスを提供するサービス・プロバイダに対し、当該サービス・プロバイダが保有し又は管理している当該サービスに関連する加入者情報を提出するよう命令すること。
2この条に定める権限及び手続は、第十四条及び第十五条の規定に従うものとする。3この条の規定の適用上、「加入者情報」とは、コンピュータ・データという形式又はその他の形式による情報のうち、サービス・プロバイダが保有するサービス加入者に関連する情報(通信記録及び通信内容に関連するものを除く。 )であって、それにより次のことが立証されるものをいう。
a利用された通信サービスの種類、当該サービスのためにとられた技術上の措置及びサービスの期間
b加入者の身元、郵便用あて名又は住所及び電話番号その他のアクセスのための番号並びに料金の請求及び支払に関する情報であって、サービスに関する契約又は取決めに基づいて利用可能なもの
c通信設備の設置場所に関するその他の情報であってサービスに関する契約又は取決めに基づいて利用可能なもの

第四款 蔵置されたコンピュータ・データの捜索及び押収

第十九条 蔵置されたコンピュータ・データの捜索及び押収
1締約国は、自国の権限のある当局に対し、自国の領域内において次のものに関し捜索又はこれに類するアクセスを行う権限を与えるため、必要な立法その他の措置をとる。
aコンピュータ・システムの全部又は一部及びその内部に蔵置されたコンピュータ・データ
bコンピュータ・データを蔵置することができるコンピュータ・データ記憶媒体
2締約国は、自国の権限のある当局が1aの規定に基づき特定のコンピュータ・システムの全部又は一部に関し捜索又はこれに類するアクセスを行う場合において、当該捜索等の対象となるデータが自国の領域内にある他のコンピュータ・システムの全部又は一部の内部に蔵置されていると信ずるに足りる理由があり、かつ、当該データが当該特定のコンピュータ・システムから合法的にアクセス可能であるか又は入手可能であるときは、当該権限のある当局が当該他のコンピュータ・システムに関し捜索又はこれに類するアクセスを速やかに行うことができることを確保するため、必要な立法その他の措置をとる。
3締約国は、自国の権限のある当局に対し、1又は2の規定に基づきアクセスしたコンピュータ・データの押収又はこれに類する確保を行う権限を与えるため、必要な立法その他の措置をとる。これらの措置には、次のことを行う権限を与えることを含む。
aコンピュータ・システムの全部若しくは一部又はコンピュータ・データ記憶媒体の押収又はこれに類する確保を行うこと。
b当該コンピュータ・データの複製を作成し及び保管すること。
c関連する蔵置されたコンピュータ・データの完全性を維持すること。
dアクセスしたコンピュータ・システムの内部の当該コンピュータ・データにアクセスすることができないようにすること又は当該コンピュータ・データを移転すること。
4締約国は、自国の権限のある当局に対し、1又は2に定める措置をとることを可能にするために必要な情報を合理的な範囲で提供するようコンピュータ・システムの機能又はコンピュータ・システムの内部のコンピュータ・データを保護するために適用される措置に関する知識を有する者に命令する権限を与えるため、必要な立法その他の措置をとる。
5この条に定める権限及び手続は、第十四条及び第十五条の規定に従うものとする。

第五款 コンピュータ・データのリアルタイム収集

第二十条 通信記録のリアルタイム収集
1締約国は、自国の権限のある当局に対し、コンピュータ・システムによって伝達される自国の領域内における特定の通信に係る通信記録についてリアルタイムで次のことを行う権限を与えるため、必要な立法その他の措置をとる。
a自国の領域内にある技術的手段を用いることにより、当該通信記録を収集し又は記録すること。
bサービス・プロバイダに対し、その既存の技術的能力の範囲内で次のいずれかのことを行うよう強制すること。
ⅰ自国の領域内にある技術的手段を用いることにより、当該通信記録を収集し又は記録すること。
ⅱ当該権限のある当局が当該通信記録を収集し又は記録するに当たり、これに協力し及びこれを支援すること。
2締約国は、自国の国内法制の確立された原則により1aに定める措置をとることができない場合には、当該措置に代えて、自国の領域内にある技術的手段を用いることにより、自国の領域内において伝達される特定の通信に係る通信記録をリアルタイムで収集し又は記録することを確保するため、必要な立法その他の措置をとることができる。
3締約国は、サービス・プロバイダに対し、この条に定める権限の行使の事実及び当該権限の行使に関する情報について秘密のものとして取り扱うことを義務付けるため、必要な立法その他の措置をとる。
4この条に定める権限及び手続は、第十四条及び第十五条の規定に従うものとする。

第二十一条 通信内容の傍受
1締約国は、自国の権限のある当局に対し、自国の国内法に定める範囲の重大な犯罪に関して、コンピュータ・システムによって伝達される自国の領域内における特定の通信の通信内容についてリアルタイムで次のことを行う権限を与えるため、必要な立法その他の措置をとる。
a自国の領域内にある技術的手段を用いることにより、当該通信内容を収集し又は記録すること。
bサービス・プロバイダに対し、その既存の技術的能力の範囲内で次のいずれかのことを行うよう強制すること。
ⅰ自国の領域内にある技術的手段を用いることにより、当該通信内容を収集し又は記録すること。
ⅱ当該権限のある当局が当該通信内容を収集し又は記録するに当たり、これに協力し及びこれを支援すること。
2締約国は、自国の国内法制の確立された原則により1aに定める措置をとることができない場合には、当該措置に代えて、自国の領域内にある技術的手段を用いることにより、自国の領域内における特定の通信の通信内容をリアルタイムで収集し又は記録することを確保するため、必要な立法その他の措置をとることができる。
3締約国は、サービス・プロバイダに対し、この条に定める権限の行使の事実及び当該権限の行使に関する情報について秘密のものとして取り扱うことを義務付けるため、必要な立法その他の措置をとる。
4この条に定める権限及び手続は、第十四条及び第十五条の規定に従うものとする。

第三節 裁判権

第二十二条 裁判権
1締約国は、次の場合において第二条から第十一条までの規定に従って定められる犯罪についての自国の裁判権を設定するため、必要な立法その他の措置をとる。
a犯罪が自国の領域内で行われる場合
b犯罪が自国を旗国とする船舶内で行われる場合
c犯罪が自国の法令により登録されている航空機内で行われる場合
d犯罪が行われた場所の刑事法に基づいて刑を科することができる場合又は犯罪がすべての国の領域的管轄の外で行われる場合において、当該犯罪が自国の国民によって行われるとき。
2締約国は、1bからdまでの全部若しくは一部に定める裁判権に関する規則を適用しない権利又は特定の場合若しくは状況においてのみ当該規則を適用する権利を留保することができる。
3締約国は、容疑者が自国の領域内に所在し、かつ、引渡しの請求を受けたにもかかわらず当該容疑者の国籍のみを理由として他の締約国に当該容疑者の引渡しを行わない場合において第二十四条1に定める犯罪についての裁判権を設定するため、必要な措置をとる。
4この条約は、締約国が自国の国内法に従って行使する刑事裁判権を排除するものではない。
5この条約に従って定められる犯罪が行われたとされる場合において、二以上の締約国が裁判権を主張するときは、関係締約国は、適当な場合には、訴追のために最も適した裁判権を有する国を決定するために協議する。

第三章 国際協力

第一節 一般原則

第一款 国際協力に関する一般原則

第二十三条 国際協力に関する一般原則
 締約国は、この章の規定に従い、かつ、刑事問題についての国際協力に関する関連の国際文書、統一的又は相互主義的な法令を基礎として合意された取極及び国内法の適用を通じ、コンピュータ・システム及びコンピュータ・データに関連する犯罪に関する捜査若しくは刑事訴訟のため又は犯罪に関する電子的形態の証拠の収集のために、できる限り広範に相互に協力する。

第二款 犯罪人引渡しに関する原則

第二十四条 犯罪人引渡し
1aこの条の規定は、第二条から第十一条までの規定に従って定められる犯罪(双方の締約国の法令において長期一年以上自由をはく奪する刑又はこれよりも重い刑を科することができるものに限る。 )に関する締約国間の犯罪人引渡しについて適用する。
b統一的若しくは相互主義的な法令を基礎として合意された取極又は二以上の締約国間で適用可能な犯罪人引渡条約(犯罪人引渡しに関する欧州条約(ETS第二十四号)等)に基づいて適用される最も軽い刑罰が異なる場合には、当該取極又は条約に定める最も軽い刑罰を適用する。
21に定める犯罪は、締約国間の現行の犯罪人引渡条約における引渡犯罪とみなされる。締約国は、締約国間で将来締結されるすべての犯罪人引渡条約に1に定める犯罪を引渡犯罪として含めることを約束する。
3条約の存在を犯罪人引渡しの条件とする締約国は、自国との間に犯罪人引渡条約を締結していない他の締約国から犯罪人引渡しの請求を受けた場合には、この条約を1に定める犯罪に関する犯罪人引渡しのための法的根拠とみなすことができる。
4条約の存在を犯罪人引渡しの条件としない締約国は、相互間で、1に定める犯罪を引渡犯罪と認める。
5犯罪人引渡しは、請求を受けた締約国の法令に定める条件又は適用可能な犯罪人引渡条約に定める条件に従う。これらの条件には、請求を受けた締約国が犯罪人引渡しを拒否することができる理由を含む。
6請求を受けた締約国は、1に定める犯罪に関する犯罪人引渡しにつき、引渡しを求められている者の国籍のみを理由として又は自国が当該犯罪について裁判権を有すると認めることを理由として拒否する場合には、請求を行った締約国からの要請により訴追のため自国の権限のある当局に事件を付託するものとし、適当な時期に確定的な結果を当該請求を行った締約国に報告する。当該権限のある当局は、自国の法令に定めるこれと同様の性質を有する他の犯罪の場合と同様の方法で、決定、捜査及び刑事訴訟を行う。
7a締約国は、署名の際又は批准書、受諾書、承認書若しくは加入書の寄託の際に、欧州評議会事務局長に対し、犯罪人引渡条約が存在しない場合に犯罪人引渡し又は仮拘禁のための請求を行い又は受けることについて責任を有する当局の名称及び所在地を通報する。
b欧州評議会事務局長は、締約国によって指定された当局の登録簿を作成し、これを常に最新のものとする。締約国は、登録簿に記載された事項が常に正確であることを確保する。

第三款 相互援助に関する一般原則

第二十五条 相互援助に関する一般原則
1締約国は、コンピュータ・システム及びコンピュータ・データに関連する犯罪に関する捜査若しくは刑事訴訟のため又は犯罪に関する電子的形態の証拠の収集のために、できる限り広範に相互に援助を提供する。
2締約国は、第二十七条から第三十五条までに定める義務を履行するため、必要な立法その他の措置をとる。
3締約国は、緊急の状況においては、ファクシミリ、電子メール等の緊急の通信手段が適当な水準の安全性及び認証を提供する限り(必要な場合には、暗号の使用を含む。)、このような手段により相互援助の要請又はこれに関連する通報を行うことができる。この場合において、要請を受けた締約国が要求するときは、その後正式な確認を行う。要請を受けた締約国は、このような緊急の通信手段による要請を受け入れ、そのような手段によりこれに回答する。
4この章に別段の定めがある場合を除くほか、相互援助は、要請を受けた締約国の法令に定める条件又は適用可能な相互援助条約に定める条件に従う。これらの条件には、当該締約国が協力を拒否することができる理由を含む。当該締約国は、要請が財政に係る犯罪と認められる犯罪に関係することのみを理由として、第二条から第十一条までに定める犯罪について相互援助を拒否する権利を行使してはならない。
5要請を受けた締約国がこの章の規定に基づき双罰性を相互援助の条件とする場合において、援助が求められている犯罪の基礎を成す行為が当該締約国の法令によって犯罪とされているものであるときは、当該援助が求められている犯罪が、当該締約国の法令により、要請を行った締約国における犯罪類型と同一の犯罪類型に含まれるか否か又は同一の用語で定められているか否かにかかわらず、この条件が満たされているものとみなす。

第二十六条 自発的な情報提供
1締約国は、自国が行った捜査の枠組みの中で入手した情報を他の締約国に開示することが、当該他の締約国がこの条約に従って定められる犯罪に関する捜査若しくは刑事訴訟を開始し若しくは実施するに際して役立つ可能性があると認める場合又はそのような開示により当該他の締約国がこの章の規定に基づき協力を要請することとなる可能性があると認める場合には、自国の国内法の範囲内において当該情報を事前の要請なしに当該他の締約国に送付することができる。
21に規定する情報を提供しようとする締約国は、当該情報を提供する前に、当該情報を秘密のものとして取り扱うこと又は一定の条件を満たす場合にのみ使用することを要請することができる。情報を受領することとなる締約国は、そのような要請に応ずることができない場合には、情報を提供しようとする締約国に対しその旨を通報する。この場合において、情報を提供しようとする締約国は、それにもかかわらず情報を提供すべきか否かについて決定する。情報を受領する締約国は、条件が付された情報を受領する場合には、当該条件に拘束される。

第四款 適用される国際協定が存在しない場合の相互援助の要請に関する手続

第二十七条 適用される国際協定が存在しない場合の相互援助の要請に関する手続
1相互援助条約又は統一的若しくは相互主義的な法令を基礎とする取極であって要請を行った締約国と要請を受けた締約国との間において有効なものが存在しない場合には、2から9までの規定を適用する。そのような条約、取極又は法令が存在する場合には、関係締約国がこれらの条約、取極又は法令に代えて2から9までの規定の一部又は全部を適用することを合意したときを除くほか、この条の規定を適用しない。
2a締約国は、相互援助の要請を送付し及び当該要請に回答し、当該要請を実施し又は当該要請を実施する権限を有する当局に対して当該要請を送付する責任を有する一又は二以上の中央当局を指定する。
b中央当局は、直接相互に連絡する。
c締約国は、署名の際又は批准書、受諾書、承認書若しくは加入書の寄託の際に、欧州評議会事務局長に対し、この2の規定に従って指定した中央当局の名称及び所在地を通報する。
d欧州評議会事務局長は、締約国によって指定された中央当局の登録簿を作成し、これを常に最新のものとする。締約国は、登録簿に記載された事項が常に正確であることを確保する。
3この条の規定による相互援助の要請は、当該要請を受けた締約国の法令と両立しない場合を除くほか、当該要請を行った締約国が定める手続に従って実施される。
4要請を受けた締約国は、第二十五条4に規定する拒否の理由がある場合に加え、次の場合には援助を拒否することができる。
a当該要請が、政治犯罪又はこれに関連する犯罪であると自国が認める犯罪に関係する場合
b当該要請の実施により自国の主権、安全、公の秩序その他の重要な利益を害されるおそれがあると自国が認める場合
5要請を受けた締約国は、当該要請に基づく措置が自国の権限のある当局が行う捜査又は刑事訴訟を害することとなる場合には、当該措置をとることを延期することができる。
6要請を受けた締約国は、援助を拒否し又は延期する前に、当該要請を行った締約国と協議し、適当な場合には、当該要請を部分的に認めるか否か又は当該要請を自国が必要と認める条件に従って認めるか否かについて検討する。
7要請を受けた締約国は、当該要請を行った締約国に対し、援助の要請の実施の結果を速やかに通報する。当該要請を拒否し又は延期する場合には、その理由を示さなければならない。また、当該要請を受けた締約国は、当該要請を行った締約国に対し、当該要請を実施することができない理由又は当該要請の実施を著しく遅延させるおそれのある理由を通報する。
8要請を行った締約国は、当該要請を受けた締約国に対し、当該要請の実施に必要な範囲を除くほか、この章の規定に基づく要請の事実及び内容を秘密のものとして取り扱うことを求めることができる。当該要請を受けた締約国は、当該要請を秘密のものとして取り扱うことができない場合には、速やかにその旨を当該要請を行った締約国に通報する。この場合において、当該要請を行った締約国は、それにもかかわらず当該要請が実施されるべきか否かについて決定する。
9a緊急の場合には、相互援助の要請又はこれに関連する通報は、当該要請を行う締約国の司法当局が当該要請を受ける締約国の司法当局に直接行うことができる。この場合において、当該要請を受ける締約国の中央当局に対し、当該要請を行う締約国の中央当局を通じて当該要請の写しを同時に送付する。
bこの9の規定に基づく要請又は通報は、国際刑事警察機構を通じて行うことができる。
caの規定に基づく要請が行われたが、要請を受けた司法当局が当該要請を取り扱う権限を有していない場合には、当該司法当局は、当該要請を自国の権限のある当局に委託し、その委託の事実を当該要請を行った締約国に直接通報する。
dこの9の規定に基づいて行われる要請又は通報(強制的な措置に関するものを除く。 )は、当該要請を行う締約国の権限のある当局が当該要請を受ける締約国の権限のある当局に直接行うことができる。
e締約国は、署名の際又は批准書、受諾書、承認書若しくは加入書の寄託の際に、この9の規定に基づく要請については効率上の理由により自国の中央当局に対して行われるべきことを欧州評議会事務局長に通報することができる。

第二十八条 秘密性及び使用制限
1相互援助条約又は統一的若しくは相互主義的な法令を基礎とする取極であって要請を行った締約国と要請を受けた締約国との間において有効なものが存在しない場合には、この条の規定を適用する。そのような条約、取極又は法令が存在する場合には、関係締約国がこれらの条約、取極又は法令に代えて2から4までの規定の一部又は全部を適用することを合意したときを除くほか、この条の規定を適用しない。
2要請を受けた締約国は、当該要請に応じて情報又は資料を提供するに際し、次の条件を付することができる。
a秘密保持の条件なしでは法律上の相互援助の要請に応じられない場合に当該情報又は資料が秘密のものとして取り扱われること。
b要請書に記載された捜査又は刑事訴訟以外の捜査又は刑事訴訟に当該情報又は資料が使用されないこと。
3要請を行った締約国は、2に定める条件に従うことができない場合には、速やかにその旨を当該要請を受けた締約国に通報する。この場合において、当該要請を受けた締約国は、それにもかかわらず情報を提供すべきか否かについて決定する。当該要請を行った締約国は、そのような条件を受け入れた場合には、当該条件に拘束される。42に定める条件を付して情報又は資料を提供する締約国は、当該条件に関連して、要請を行った締約国に対し、当該情報又は資料がどのように使用されたかについて説明するよう要求することができる。

第二節 特別規定

第一款 暫定措置に関する相互援助

第二十九条 蔵置されたコンピュータ・データの迅速な保全
1締約国は、他の締約国に対し、コンピュータ・システムによって蔵置されたコンピュータ・データであって、当該他の締約国の領域内に所在し、かつ、自国が当該データに関しその捜索若しくはこれに類するアクセス、その押収若しくはこれに類する確保又はその開示のために相互援助の要請を提出する意図を有するものについて、迅速な保全を命令し又はその他の方法によって迅速な保全を確保するよう要請することができる。
21の規定に基づいて行われる保全の要請書には、次の事項を明記する。
a保全を求める当局
b捜査又は刑事訴訟の対象となっている犯罪及び関連する事実の簡潔な要約
c保全すべき蔵置されたコンピュータ・データ及び当該データとbに規定する犯罪との関係
d蔵置されたコンピュータ・データの管理者又はコンピュータ・システムの所在地を特定する情報であって、利用可能なもの
e保全の必要性f締約国が、蔵置されたコンピュータ・データの捜索若しくはこれに類するアクセス、その押収若しくはこれに類する確保又はその開示のために相互援助の要請を提出する意図を有すること。
3締約国は、他の締約国から要請を受けた場合には、特定のデータを自国の国内法に従って迅速に保全するため、すべての適当な措置をとる。締約国は、要請に応ずるに当たり、双罰性をそのような保全を行うための条件として要求してはならない。
4蔵置されたコンピュータ・データの捜索若しくはこれに類するアクセス、その押収若しくはこれに類する確保又はその開示のための相互援助の要請に応ずる条件として双罰性を要求する締約国は、第二条から第十一条までの規定に従って定められる犯罪以外の犯罪に関し、開示の時点で双罰性の条件が満たされないと信ずるに足りる理由がある場合には、この条の規定に基づく保全のための要請を拒否する権利を留保することができる。
5保全のための要請は、4に定める場合に加え、次の場合にのみ拒否することができる。
a当該要請が、政治犯罪又はこれに関連する犯罪であると当該要請を受けた締約国が認める犯罪に関係する場合
b当該要請の実施により自国の主権、安全、公の秩序その他の重要な利益を害されるおそれがあると当該要請を受けた締約国が認める場合
6要請を受けた締約国は、保全によっては当該要請に係るデータの将来における利用可能性が確保されず、又は当該要請を行った締約国の捜査の秘密性が脅かされ若しくはその他の態様で捜査が害されるであろうと信ずる場合には、当該要請を行った締約国に対し速やかにその旨を通報する。この場合において、当該要請を行った締約国は、それにもかかわらず当該要請が実施されるべきか否かについて決定する。
71に定める要請に応ずるために行われた保全は、当該要請を行った締約国が蔵置されたコンピュータ・データの捜索若しくはこれに類するアクセス、その押収若しくはこれに類する確保又はその開示のための要請を提出することができるようにするため六十日以上の期間のものとする。当該データは、当該要請を受領した後、当該要請に関する決定が行われるまでの間引き続き保全される。

第三十条 保全された通信記録の迅速な開示
1前条の規定に基づいて行われた要請を受けた締約国は、特定の通信に関する通信記録の保全のための要請を実施する過程において、他の国のサービス・プロバイダが当該通信の伝達に関与していたことを知った場合には、要請を行った締約国に対し、当該サービス・プロバイダ及び当該通信が伝達された経路を特定するために十分な量の通信記録を迅速に開示する。
21の規定に基づく通信記録の開示は、次の場合にのみ行わないことができる。
a要請が、政治犯罪又はこれに関連する犯罪であると当該要請を受けた締約国が認める犯罪に関係する場合
b要請の実施により自国の主権、安全、公の秩序その他の重要な利益を害されるおそれがあると当該要請を受けた締約国が認める場合

第二款 捜査の権限に関する相互援助

第三十一条 蔵置されたコンピュータ・データに対するアクセスに関する相互援助
1締約国は、他の締約国に対し、コンピュータ・システムによって蔵置されたコンピュータ・データ(第二十九条の規定に従って保全されたデータを含む。 )であって当該他の締約国の領域内に所在するものの捜索若しくはこれに類するアクセス、その押収若しくはこれに類する確保又はその開示を要請することができる。
2要請を受けた締約国は、第二十三条に規定する国際文書、取極及び法令の適用を通じ、かつ、この章の他の関連する規定に従って、当該要請に応じなければならない。
3要請を受けた締約国は、次の場合には、迅速に当該要請に応じなければならない。
a関連するデータが特に滅失しやすく又は改変されやすいと信ずるに足りる理由がある場合
b2に規定する国際文書、取極及び法令に迅速な協力について別段の定めがある場合

第三十二条 蔵置されたコンピュータ・データに対する国境を越えるアクセス(当該アクセスが同意に基づく場合又は当該データが公に利用可能な場合)
 締約国は、他の締約国の許可なしに、次のことを行うことができる。
a公に利用可能な蔵置されたコンピュータ・データにアクセスすること(当該データが地理的に所在する場所のいかんを問わない。)。
b自国の領域内にあるコンピュータ・システムを通じて、他の締約国に所在する蔵置されたコンピュータ・データにアクセスし又はこれを受領すること。ただし、コンピュータ・システムを通じて当該データを自国に開示する正当な権限を有する者の合法的なかつ任意の同意が得られる場合に限る。

第三十三条 通信記録のリアルタイム収集に関する相互援助
1締約国は、コンピュータ・システムによって伝達される自国の領域内における特定の通信に係る通信記録をリアルタイムで収集することについて、相互に援助を提供する。2の規定に従うことを条件として、この援助は、国内法に定める条件及び手続に従って行う。
2締約国は、少なくとも国内の類似の事件において通信記録のリアルタイム収集を行うことができる犯罪については、1に規定する援助を提供する。

第三十四条 通信内容の傍受に関する相互援助
 締約国は、自国に適用される条約及び国内法によって認められている範囲内で、コンピュータ・システムによって伝達される特定の通信の通信内容をリアルタイムで収集し又は記録することについて、相互に援助を提供する。

第三款二十四/七ネットワーク

第三十五条 二十四/七ネットワーク
1締約国は、コンピュータ・システム及びコンピュータ・データに関連する犯罪に関する捜査若しくは刑事訴訟のため又は犯罪に関する電子的形態の証拠の収集のために速やかに援助することを確保するため、週七日かつ一日二十四時間利用可能な連絡部局を指定する。その援助には、次の措置を促進すること又は国内法及び慣行によって認められている場合には次の措置を直接とることを含む。
a技術上の助言を提供すること。
b第二十九条及び第三十条の規定に従いデータを保全すること。
c証拠を収集し、法律上の情報を提供し、及び容疑者の所在を探すこと。
2a締約国の連絡部局は、他の締約国の連絡部局と迅速に通信する能力を有する。
b締約国が指定する連絡部局は、国際的な相互援助又は犯罪人引渡しについて責任を有する当該締約国の当局の一部でない場合には、当該責任を有する当局と迅速に調整を行うことができることを確保する。
3締約国は、二十四/七ネットワークの運用を促進するため、訓練されかつ装備された要員が利用可能であることを確保する。

第四章 最終規定

第三十六条 署名及び効力発生
1この条約は、欧州評議会の加盟国及びこの条約の作成に参加した欧州評議会の非加盟国による署名のために開放しておく。
2この条約は、批准され、受諾され又は承認されなければならない。批准書、受諾書又は承認書は、欧州評議会事務局長に寄託する。
3この条約は、五の国(欧州評議会の加盟国の少なくとも三の国を含むことを要する。 )が、この条約に拘束されることに同意する旨を1及び2の規定に従って表明した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。
4この条約は、この条約に拘束されることに同意する旨をその後表明する署名国については、その旨を1及び2の規定に従って表明した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。

第三十七条 この条約への加入
1この条約の効力発生の後、欧州評議会閣僚委員会は、この条約の締約国と協議してすべての締約国の同意を得た後に、この条約の作成に参加しなかった欧州評議会の非加盟国に対してこの条約に加入するよう招請することができる。決定は、欧州評議会規程第二十条dに定める多数による議決であって同委員会に出席する資格を有するすべての締約国の代表の賛成票を含むものによって行う。
2この条約は、1の規定によりこの条約に加入する国については、加入書を欧州評議会事務局長に寄託した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。

第三十八条 適用領域
1いずれの国も、署名の際又は批准書、受諾書、承認書若しくは加入書の寄託の際に、この条約を適用する領域を特定することができる。
2いずれの国も、その後いつでも、欧州評議会事務局長にあてた宣言により、当該宣言において特定する他の領域についてこの条約の適用を拡大することができる。この条約は、当該他の領域については、同事務局長が当該宣言を受領した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。
31又は2の規定に基づいて行われたいかなる宣言も、当該宣言において特定された領域について、欧州評議会事務局長にあてた通告により撤回することができる。撤回は、同事務局長が通告を受領した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。

第三十九条 この条約の効果
1この条約は、締約国間で適用される多数国間又は二国間の条約及び取極を補足することを目的とする。これらの条約及び取極には、次のものを含む。千九百五十七年十二月十三日にパリにおいて署名のために開放された犯罪人引渡しに関する欧州条約(ETS第二十四号)千九百五十九年四月二十日にストラスブールにおいて署名のために開放された刑事問題についての相互援助に関する欧州条約(ETS第三十号)千九百七十八年三月十七日にストラスブールにおいて署名のために開放された刑事問題についての相互援助に関する欧州条約の追加議定書(ETS第九十九号)
2二以上の締約国は、この条約に規定する事項に関して、既に協定若しくは条約を締結し若しくは他の方法による固有の関係を確立している場合又は将来そのような協定若しくは条約を締結し若しくはそのような関係を確立する場合には、当該協定若しくは条約を適用し又は当該他の方法による関係に従って当該締約国間の関係を規律する権利を有する。締約国は、この条約に規定する事項に関しこの条約が規律する態様以外の態様でそのような関係を確立する場合には、この条約の目的及び原則に反しないように行う。
3この条約のいかなる規定も、締約国が有する他の権利、制限、義務及び責任に影響を及ぼすものではない。

第四十条 宣言
 いずれの国も、欧州評議会事務局長にあてた書面による通告により、署名の際又は批准書、受諾書、承認書若しくは加入書の寄託の際に、第二条、第三条、第六条1b、第七条、第九条3及び第二十七条9eに定める追加的な要件を課することを宣言することができる。

第四十一条 連邦条項
1連邦制の国は、第三章に定める協力を行うことができることを条件として、第二章に定める義務を中央政府と州その他これに類する領域的主体との間の関係を規律する基本原則に適合する範囲において履行する権利を留保することができる。
2連邦制の国は、1の規定に基づく留保を付する場合には、第二章に定める措置について規定する義務を免除し又は著しく減ずることとなる内容の留保を付してはならない。連邦制の国は、いかなる場合にも、第二章に定める措置について幅広くかつ効果的な法執行能力を規定する。
3この条約の規定であって、州その他これに類する領域的主体の管轄の下で実施されるものであり、かつ、連邦の憲法制度によって州その他これに類する領域的主体が立法措置をとることを義務付けられていないものについては、連邦の政府は、これらの州の権限のある当局に対し、好意的な意見を付してその規定を通報し、その実施のために適当な措置をとることを奨励する。

第四十二条 留保
 いずれの国も、欧州評議会事務局長にあてた書面による通告により、署名の際又は批准書、受諾書、承認書若しくは加入書の寄託の際に、第四条2、第六条3、第九条4、第十条3、第十一条3、第十四条3、第二十二条2、第二十九条4及び第四十一条1に定める留保を付する旨を宣言することができる。その他のいかなる留保も、付することができない。

第四十三条 留保の撤回
1前条の規定に従って留保を付した締約国は、欧州評議会事務局長にあてた通告により留保の全部又は一部を撤回することができる。撤回は、同事務局長が通告を受領した日に効力を生ずる。通告において特定された日に留保の撤回が効力を生ずる旨が記載されており、かつ、当該特定された日が同事務局長による当該通告の受領の日よりも遅い日である場合には、撤回は、当該特定された日に効力を生ずる。
2前条に規定する留保を付した締約国は、状況が許す場合には、その留保の全部又は一部を速やかに撤回する。
3欧州評議会事務局長は、前条に規定する留保を付した締約国に対し、その留保の撤回の見込みについて定期的に照会することができる。

第四十四条 改正
1いずれの締約国も、この条約の改正を提案することができる。欧州評議会事務局長は、改正案を欧州評議会の加盟国、この条約の作成に参加した欧州評議会の非加盟国及び第三十七条の規定によりこの条約に加入し又は加入するよう招請された国に通報する。
2締約国が提案する改正案は、犯罪問題に関する欧州委員会(CDPC)に通報され、CDPCは、当該改正案に関する意見を欧州評議会閣僚委員会に提出する。
3欧州評議会閣僚委員会は、改正案及びCDPCによって提出された意見を検討するものとし、欧州評議会の非加盟国であってこの条約の締約国であるものと協議を行った後、当該改正案を採択することができる。
43の規定に従って欧州評議会閣僚委員会によって採択された改正は、受諾のため締約国に送付される。
53の規定に従って採択された改正は、すべての締約国が欧州評議会事務局長に対しこれを受諾する旨を通告した後三十日目の日に効力を生ずる。

第四十五条 紛争の解決
1犯罪問題に関する欧州委員会(CDPC)は、この条約の解釈及び適用に関して常時通報を受ける。
2この条約の解釈又は適用に関して締約国間で紛争が生じた場合には、当該締約国は、交渉又はその選択する他の平和的手段(関係締約国間の合意に基づき、当該紛争をCDPC、締約国を拘束する決定を行う仲裁裁判所又は国際司法裁判所に付託すること等)により紛争の解決に努める。

第四十六条 締約国間の協議
1締約国は、適当な場合には、次のことを促進するため定期的に協議する。
aこの条約の効果的な活用及び実施(これらに関する問題の特定及びこの条約に基づいて行われた宣言又は留保の効果を含む。 )
bサイバー犯罪及び電子的形態の証拠の収集に関連する法律上、政策上又は技術上の著しい進展に関する情報の交換
cこの条約の補足又は改正の検討
2犯罪問題に関する欧州委員会(CDPC)は、1に規定する協議の結果に関して定期的に通報を受ける。
3CDPCは、適当な場合には、1に規定する協議を促進するものとし、締約国がこの条約の補足又は改正のために努力することを支援するために必要な措置をとる。CDPCは、この条約が効力を生じた後三年以内に、締約国と協力してこの条約のすべての規定を再検討し、必要な場合には、適当な改正を勧告する。
41の規定の実施に要する費用は、欧州評議会が負担する場合を除くほか、締約国が決定する方法で締約国が負担する。
5締約国は、この条の規定に基づく任務を遂行するに当たり、欧州評議会事務局の支援を受ける。

第四十七条 廃棄
1いずれの締約国も、欧州評議会事務局長にあてた通告により、いつでもこの条約を廃棄することができる。
2廃棄は、欧州評議会事務局長が通告を受領した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。

第四十八条 通報
 欧州評議会事務局長は、欧州評議会の加盟国、この条約の作成に参加した欧州評議会の非加盟国及びこの条約に加入し又は加入するよう招請された国に対して次の事項を通報する。
a署名
b批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託
c第三十六条及び第三十七条の規定による効力発生の日
d第四十条の規定に従って行われた宣言及び第四十二条の規定に従って付された留保
eこの条約に関して行われたその他の行為、通告又は通報
 以上の証拠として、下名は、正当に委任を受けてこの条約に署名した。

 二千一年十一月二十三日にブダペストで、ひとしく正文である英語及びフランス語により本書一通を作成した。本書は、欧州評議会に寄託する。欧州評議会事務局長は、欧州評議会の各加盟国、この条約の作成に参加した欧州評議会の非加盟国及びこの条約に加入するよう招請されたすべての国に対しその認証謄本を送付する。

       内閣総理大臣 野田佳彦
       総務大臣   川端達夫
       法務大臣   滝実
       外務大臣   玄葉光一郎
       文部科学大臣 平野博文
       経済産業大臣 枝野幸男

   「ウィキソース」より

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

1703年(元禄16)房総半島沖を震源とする元禄地震がおきる(新暦12月31日)詳細
1707年(宝永4) 富士山宝永噴火が始まる(新暦12月16日)詳細
1885年(明治18)自由民権運動激化事件の一つである大阪事件が起きる詳細
1896年(明治29)小説家樋口一葉の命日(一葉忌)詳細
1909年(明治42)大阪・長堀川に石造りの心斎橋が完成し、渡り初め式が行われ詳細
1940年(昭和15)産業報国会の全国連合組織として大日本産業報国会が結成される詳細
2004年(平成16)洋画家吉井淳二の命日詳細
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 今日は、平成時代の1989年(平成元)に、国連総会において、「児童の権利に関する条約」が採択された日です。
 「児童の権利に関する条約」(じどうのけんりにかんするじょうやく)は、1959年(昭和34)11月20日に国連(国際連合)で採択された「児童の権利に関する宣言」の30周年にあたる、1989年(平成元)11月20日に国連総会で全会一致で採択され、1990年(平成2)9月2日に、国際条約として発効した18歳未満の子供の権利について定めた国際条約で「子どもの権利条約」とも呼ばれてきました。日本国内では、1994年(平成6)3月29日に国会承認され、同年5月22日から効力が発生しましたが、「批准国は子の最善の利益のために行動しなければならない」(第3条)と定められています。
 この条約は、前文と 3部(54条)からなり、18歳未満のすべての人の保護と基本的人権の尊重を促進することを目的とし、①生命・生存への権利、②親・家族にかかわる子供の権利、③意見表明権、市民的権利、④特別な状況下にある子供の保護、⑤教育への権利、文化への権利などが示されました。2016年(平成28)現在、署名国・地域数は140、締約国・地域数は196ですが、アメリカ合衆国は条約に署名はしたものの、批准していません。
 以下に、「児童の権利に関する条約」の日本語訳を全文掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇児童の権利に関する宣言(じどうのけんりにかんするせんげん)とは?

 昭和時代中期の1959年(昭和34)11月20日に、国連総会において採択された子どもの権利を促進するための国際文書です。前段として、1924年(昭和19)に、5ヶ条からなる「ジュネーブ児童権利宣言」が、国際連盟で採択され、太平洋戦争後に拡張されたものでした。「国連憲章」と「世界人権宣言」に基づくもので、前文6項と本文10ヶ条からなり、心身ともに未成熟な子供が,健全な成育と幸福と社会的諸権利を保障されるべきことを確認したものでした。
 これを実現するために、両親、個人、民間団体、地方行政機関および政府が、この宣言に従って立法およびその他の措置を講じることを求めています。日本は、1959年(昭和34)12月に参議院本会議で支持を決議しました。

☆「児童の権利に関する条約」1989年(平成元)11月20日採択、1990年(平成2)9月2日発効

前文

 この条約の締約国は、
 国際連合憲章において宣明された原則によれば、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認めることが世界における自由、正義及び平和の基礎を成すものであることを考慮し、
 国際連合加盟国の国民が、国際連合憲章において、基本的人権並びに人間の尊厳及び価値に関する信念を改めて確認し、かつ、一層大きな自由の中で社会的進歩及び生活水準の向上を促進することを決意したことに留意し、
 国際連合が、世界人権宣言及び人権に関する国際規約において、すべての人は人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしに同宣言及び同規約に掲げるすべての権利及び自由を享有することができることを宣明し及び合意したことを認め、
 国際連合が、世界人権宣言において、児童は特別な保護及び援助についての権利を享有することができることを宣明したことを想起し、
 家族が、社会の基礎的な集団として、並びに家族のすべての構成員、特に、児童の成長及び福祉のための自然な環境として、社会においてその責任を十分に引き受けることができるよう必要な保護及び援助を与えられるべきであることを確信し、
 児童が、その人格の完全なかつ調和のとれた発達のため、家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべきであることを認め、
 児童が、社会において個人として生活するため十分な準備が整えられるべきであり、かつ、国際連合憲章において宣明された理想の精神並びに特に平和、尊厳、寛容、自由、平等及び連帯の精神に従って育てられるべきであることを考慮し、
 児童に対して特別な保護を与えることの必要性が、1924年の児童の権利に関するジュネーヴ宣言及び1959年11月20日に国際連合総会で採択された児童の権利に関する宣言において述べられており、また、世界人権宣言、市民的及び政治的権利に関する国際規約(特に第23条及び第24条)、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(特に第10条)並びに児童の福祉に関係する専門機関及び国際機関の規程及び関係文書において認められていることに留意し、
 児童の権利に関する宣言において示されているとおり「児童は、身体的及び精神的に未熟であるため、その出生の前後において、適当な法的保護を含む特別な保護及び世話を必要とする。」ことに留意し、
 国内の又は国際的な里親委託及び養子縁組を特に考慮した児童の保護及び福祉についての社会的及び法的な原則に関する宣言、少年司法の運用のための国際連合最低基準規則(北京規則)及び緊急事態及び武力紛争における女子及び児童の保護に関する宣言の規定を想起し、
 極めて困難な条件の下で生活している児童が世界のすべての国に存在すること、また、このような児童が特別の配慮を必要としていることを認め、
 児童の保護及び調和のとれた発達のために各人民の伝統及び文化的価値が有する重要性を十分に考慮し、
 あらゆる国特に開発途上国における児童の生活条件を改善するために国際協力が重要であることを認めて、
 次のとおり協定した。

第一部

第一条 [定義]
この条約の適用上、児童とは、18歳未満のすべての者をいう。ただし、当該児童で、その者に適用される法律によりより早く成年に達したものを除く。
第二条 [差別の禁止]
締約国は、その管轄の下にある児童に対し、児童又はその父母若しくは法定保護者の人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、種族的若しくは社会的出身、財産、心身障害、出生又は他の地位にかかわらず、いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し、及び確保する。
締約国は、児童がその父母、法定保護者又は家族の構成員の地位、活動、表明した意見又は信念によるあらゆる形態の差別又は処罰から保護されることを確保するためのすべての適当な措置をとる。
第三条 [児童の利益の最優先]
児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。
締約国は、児童の父母、法定保護者又は児童について法的に責任を有する他の者の権利及び義務を考慮に入れて、児童の福祉に必要な保護及び養護を確保することを約束し、このため、すべての適当な立法上及び行政上の措置をとる。
締約国は、児童の養護又は保護のための施設、役務の提供及び設備が、特に安全及び健康の分野に関し並びにこれらの職員の数及び適格性並びに適正な監督に関し権限のある当局の設定した基準に適合することを確保する。
第四条 [条約義務の実施]
締約国は、この条約において認められる権利の実現のため、すべての適当な立法措置、行政措置その他の措置を講ずる。締約国は、経済的、社会的及び文化的権利に関しては、自国における利用可能な手段の最大限の範囲内で、また、必要な場合には国際協力の枠内で、これらの措置を講ずる。
第五条 [保護者の指導の尊重]
締約国は、児童がこの条約において認められる権利を行使するに当たり、父母若しくは場合により地方の慣習により定められている大家族若しくは共同体の構成員、法定保護者又は児童について法的に責任を有する他の者がその児童の発達しつつある能力に適合する方法で適当な指示及び指導を与える責任、権利及び義務を尊重する。
第六条 [生命に対する権利]
締約国は、すべての児童が生命に対する固有の権利を有することを認める。
締約国は、児童の生存及び発達を可能な最大限の範囲において確保する。
第七条 [氏名及び国籍に対する権利]
児童は、出生の後直ちに登録される。児童は、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有するものとし、また、できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する。
締約国は、特に児童が無国籍となる場合を含めて、国内法及びこの分野における関連する国際文書に基づく自国の義務に従い、1の権利の実現を確保する。
第八条 [身元関係事項の保持]
締約国は、児童が法律によって認められた国籍、氏名及び家族関係を含むその身元関係事項について不法に干渉されることなく保持する権利を尊重することを約束する。
締約国は、児童がその身元関係事項の一部又は全部を不法に奪われた場合には、その身元関係事項を速やかに回復するため、適当な援助及び保護を与える。
第九条 [父母からの分離の防止]
締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。ただし、権限のある当局が司法の審査に従うことを条件として適用のある法律及び手続に従いその分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りでない。このような決定は、父母が児童を虐待し若しくは放置する場合又は父母が別居しており児童の居住地を決定しなければならない場合のような特定の場合において必要となることがある。
すべての関係当事者は、1の規定に基づくいかなる手続においても、その手続に参加しかつ自己の意見を述べる機会を有する。
締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。
3の分離が、締約国がとった父母の一方若しくは双方又は児童の抑留、拘禁、追放、退去強制、死亡(その者が当該締約国により身体を拘束されている間に何らかの理由により生じた死亡を含む。)等のいずれかの措置に基づく場合には、当該締約国は、要請に応じ、父母、児童又は適当な場合には家族の他の構成員に対し、家族のうち不在となっている者の所在に関する重要な情報を提供する。ただし、その情報の提供が児童の福祉を害する場合は、この限りでない。締約国は、更に、その要請の提出自体が関係者に悪影響を及ぼさないことを確保する。
第一〇条 [家族の再統合の支援]
前条1の規定に基づく締約国の義務に従い、家族の再統合を目的とする児童又はその父母による締約国への入国又は締約国からの出国の申請については、締約国が積極的、人道的かつ迅速な方法で取り扱う。締約国は、更に、その申請の提出が申請者及びその家族の構成員に悪影響を及ぼさないことを確保する。
父母と異なる国に居住する児童は、例外的な事情がある場合を除くほか定期的に父母との人的な関係及び直接の接触を維持する権利を有する。このため、前条1の規定に基づく締約国の義務に従い、締約国は、児童及びその父母がいずれの国(自国を含む。)からも出国し、かつ、自国に入国する権利を尊重する。出国する権利は、法律で定められ、国の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳又は他の者の権利及び自由を保護するために必要であり、かつ、この条約において認められる他の権利と両立する制限にのみ従う。
第一一条 [不法な国外移送等の防止]
締約国は、児童が不法に国外へ移送されることを防止し及び国外から帰還することができない事態を除去するための措置を講ずる。
このため、締約国は、二国間若しくは多数国間の協定の締結又は現行の協定への加入を促進する。
第一二条 [意思表明の権利]
締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。
このため、児童は、特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる。
第一三条 [表現の自由]
児童は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。
1の権利の行使については、一定の制限を課することができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。
(a) 他の者の権利又は信用の尊重
(b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護
第一四条 [思想、良心及び宗教の自由]
締約国は、思想、良心及び宗教の自由についての児童の権利を尊重する。
締約国は、児童が1の権利を行使するに当たり、父母及び場合により法定保護者が児童に対しその発達しつつある能力に適合する方法で指示を与える権利及び義務を尊重する。
宗教又は信念を表明する自由については、法律で定める制限であって公共の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳又は他の者の基本的な権利及び自由を保護するために必要なもののみを課することができる。
第一五条 [結社及び集会の自由]
締約国は、結社の自由及び平和的な集会の自由についての児童の権利を認める。
1の権利の行使については、法律で定める制限であって国の安全若しくは公共の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳の保護又は他の者の権利及び自由の保護のため民主的社会において必要なもの以外のいかなる制限も課することができない。
第一六条 [私生活、名誉及び信頼の保護]
いかなる児童も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。
児童は、1の干渉又は攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。
第一七条 [マス・メディアの活用]
締約国は、大衆媒体(マス・メディア)の果たす重要な機能を認め、児童が国の内外の多様な情報源からの情報及び資料、特に児童の社会面、精神面及び道徳面の福祉並びに心身の健康の促進を目的とした情報及び資料を利用することができることを確保する。このため、締約国は、
(a) 児童にとって社会面及び文化面において有益であり、かつ、第29条の精神に沿う情報及び資料を大衆媒体(マス・メディア)が普及させるよう奨励する。
(b) 国の内外の多様な情報源(文化的にも多様な情報源を含む。)からの情報及び資料の作成、交換及び普及における国際協力を奨励する。
(c) 児童用書籍の作成及び普及を奨励する。
(d) 少数集団に属し又は原住民である児童の言語上の必要性について大衆媒体(マス・メディア)が特に考慮するよう奨励する。
(e)第13条及び次条の規定に留意して、児童の福祉に有害な情報及び資料から児童を保護するための適当な指針を発展させることを奨励する。
第一八条 [父母の責任と父母への支援]
締約国は、児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原則についての認識を確保するために最善の努力を払う。父母又は場合により法定保護者は、児童の養育及び発達についての第一義的な責任を有する。児童の最善の利益は、これらの者の基本的な関心事項となるものとする。
締約国は、この条約に定める権利を保障し及び促進するため、父母及び法定保護者が児童の養育についての責任を遂行するに当たりこれらの者に対して適当な援助を与えるものとし、また、児童の養護のための施設、設備及び役務の提供の発展を確保する。
締約国は、父母が働いている児童が利用する資格を有する児童の養護のための役務の提供及び設備からその児童が便益を受ける権利を有することを確保するためのすべての適当な措置をとる。
第一九条 [虐待等からの保護]
締約国は、児童が父母、法定保護者又は児童を監護する他の者による監護を受けている間において、あらゆる形態の身体的若しくは精神的な暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い又は搾取(性的虐待を含む。)からその児童を保護するためすべての適当な立法上、行政上、社会上及び教育上の措置をとる。
1の保護措置には、適当な場合には、児童及び児童を監護する者のために必要な援助を与える社会的計画の作成その他の形態による防止のための効果的な手続並びに1に定める児童の不当な取扱いの事件の発見、報告、付託、調査、処置及び事後措置並びに適当な場合には司法の関与に関する効果的な手続を含むものとする。
第二〇条 [家庭環境を奪われた児童の保護]
一時的若しくは恒久的にその家庭環境を奪われた児童又は児童自身の最善の利益にかんがみその家庭環境にとどまることが認められない児童は、国が与える特別の保護及び援助を受ける権利を有する。
締約国は、自国の国内法に従い、1の児童のための代替的な監護を確保する。
2の監護には、特に、里親委託、イスラム法の力ファーラ、養子縁組又は必要な場合には児童の監護のための適当な施設への収容を含むことができる。解決策の検討に当たっては、児童の養育において継続性が望ましいこと並びに児童の種族的、宗教的、文化的及び言語的な背景について、十分な考慮を払うものとする。
第二一条 [養子縁組]
養子縁組の制度を認め又は許容している締約国は、児童の最善の利益について最大の考慮が払われることを確保するものとし、また、
(a) 児童の養子縁組が権限のある当局によってのみ認められることを確保する。この場合において、当該権限のある当局は、適用のある法律及び手続に従い、かつ、信頼し得るすべての関連情報に基づき、養子縁組が父母、親族及び法定保護者に関する児童の状況にかんがみ許容されること並びに必要な場合には、関係者が所要のカウンセリングに基づき養子縁組について事情を知らされた上での同意を与えていることを認定する。
(b) 児童がその出身国内において里親若しくは養家に託され又は適切な方法で監護を受けることができない場合には、これに代わる児童の監護の手段として国際的な養子縁組を考慮することができることを認める。
(c) 国際的な養子縁組が行われる児童が国内における養子縁組の場合における保護及び基準と同等のものを享受することを確保する。
(d) 国際的な養子縁組において当該養子縁組が関係者に不当な金銭上の利得をもたらすことがないことを確保するためのすべての適当な措置をとる。
(e) 適当な場合には、二国間又は多数国間の取極又は協定を締結することによりこの条の目的を促進し、及びこの枠組みの範囲内で他国における児童の養子縁組が権限のある当局又は機関によって行われることを確保するよう努める。
第二二条 [難民児童の保護]
締約国は、難民の地位を求めている児童又は適用のある国際法及び国際的な手続若しくは国内法及び国内的な手続に基づき難民と認められている児童が、父母又は他の者に付き添われているかいないかを間わず、この条約及び自国が締約国となっている人権又は人道に関する他の国際文書に定める権利であって適用のあるものの享受に当たり、適当な保護及び人道的援助を受けることを確保するための適当な措置をとる。
このため、締約国は、適当と認める場合には、1の児童を保護し及び援助するため、並びに難民の児童の家族との再統合に必要な情報を得ることを目的としてその難民の児童の父母又は家族の他の構成員を捜すため、国際連合及びこれと協力する他の権限のある政府間機関又は関係非政府機関による努力に協力する。その難民の児童は、父母又は家族の他の構成員が発見されない場合には、何らかの理由により恒久的又は一時的にその家庭環境を奪われた他の児童と同様にこの条約に定める保護が与えられる。
第二三条 [障害児童の権利]
締約国は、精神的又は身体的な障害を有する児童が、その尊厳を確保し、自立を促進し及び社会への積極的な参加を容易にする条件の下で十分かつ相応な生活を享受すべきであることを認める。
締約国は、障害を有する児童が特別の養護についての権利を有することを認めるものとし、利用可能な手段の下で、申込みに応じた、かつ、当該児童の状況及び父母又は当該児童を養護している他の者の事情に適した援助を、これを受ける資格を有する児童及びこのような児童の養護について責任を有する者に与えることを奨励し、かつ、確保する。
障害を有する児童の特別な必要を認めて、2の規定に従って与えられる援助は、父母又は当該児童を養護している他の者の資力を考慮して可能な限り無償で与えられるものとし、かつ、障害を有する児童が可能な限り社会への統合及び個人の発達(文化的及び精神的な発達を含む。)を達成することに資する方法で当該児童が教育、訓練、保健サービス、リハビリテーション・サービス、雇用のための準備及びレクリエーションの機会を実質的に利用し及び享受することができるように行われるものとする。
締約国は、国際協力の精神により、予防的な保健並びに障害を有する児童の医学的、心理学的及び機能的治療の分野における適当な情報の交換(リハビリテーション、教育及び職業サービスの方法に関する情報の普及及び利用を含む。)であってこれらの分野における自国の能力及び技術を向上させ並びに自国の経験を広げることができるようにすることを目的とするものを促進する。これに関しては、特に、開発途上国の必要を考慮する。
第二四条 [健康を享受する権利]
締約国は、到達可能な最高水準の健康を享受すること並びに病気の治療及び健康の回復のための便宜を与えられることについての児童の権利を認める。締約国は、いかなる児童もこのような保健サービスを利用する権利が奪われないことを確保するために努力する。
締約国は、1の権利の完全な実現を追求するものとし、特に、次のことのための適当な措置をとる。
(a) 幼児及び児童の死亡率を低下させること。
(b) 基礎的な保健の発展に重点を置いて必要な医療及び保健をすべての児童に提供することを確保すること。
(c) 環境汚染の危険を考慮に入れて、基礎的な保健の枠組みの範囲内で行われることを含めて、特に容易に利用可能な技術の適用により並びに十分に栄養のある食物及び清潔な飲料水の供給を通じて、疾病及び栄養不良と闘うこと。
(d) 母親のための産前産後の適当な保健を確保すること。
(e) 社会のすべての構成員特に父母及び児童が、児童の健康及び栄養、母乳による育児の利点、衛生(環境衛生を含む。)並びに事故の防止についての基礎的な知識に関して、情報を提供され、教育を受ける機会を有し及びその知識の使用について支援されることを確保すること。
(f) 予防的な保健、父母のための指導並びに家族計画に関する教育及びサービスを発展させること。
締約国は、児童の健康を害するような伝統的な慣行を廃止するため、効果的かつ適当なすべての措置をとる。
締約国は、この条において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため、国際協力を促進し及び奨励することを約束する。これに関しては、特に、開発途上国の必要を考慮する。
第二五条 [児童収容措置に対する審査]
締約国は、児童の身体又は精神の養護、保護又は治療を目的として権限のある当局によって収容された児童に対する処遇及びその収容に関連する他のすべての状況に関する定期的な審査が行われることについての児童の権利を認める。
第二六条 [社会保障に対する権利]
締約国は、すべての児童が社会保険その他の社会保障からの給付を受ける権利を認めるものとし、自国の国内法に従い、この権利の完全な実現を達成するための必要な措置をとる。
1の給付は、適当な場合には、児童及びその扶養について責任を有する者の資力及び事情並びに児童によって又は児童に代わって行われる給付の申請に関する他のすべての事項を考慮して、与えられるものとする。
第二七条 [生活水準に関する権利]
締約国は、児童の身体的、精神的、道徳的及び社会的な発達のための相当な生活水準についてのすべての児童の権利を認める。
父母又は児童について責任を有する他の者は、自己の能力及び資力の範囲内で、児童の発達に必要な生活条件を確保することについての第一義的な責任を有する。
締約国は、国内事情に従い、かつ、その能力の範囲内で、1の権利の実現のため、父母及び児童について責任を有する他の者を援助するための適当な措置をとるものとし、また、必要な場合には、特に栄養、衣類及び住居に関して、物的援助及び支援計画を提供する。
締約国は、父母又は児童について金銭上の責任を有する他の者から、児童の扶養料を自国内で及び外国から、回収することを確保するためのすべての適当な措置をとる。特に、児童について金銭上の責任を有する者が児童と異なる国に居住している場合には、締約国は、国際協定への加入又は国際協定の締結及び他の適当な取決めの作成を促進する。
第二八条 [教育に関する権利]
締約国は、教育についての児童の権利を認めるものとし、この権利を漸進的にかつ機会の平等を基礎として達成するため、特に、
(a) 初等教育を義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとする。
(b) 種々の形態の中等教育(一般教育及び職業教育を含む。)の発展を奨励し、すべての児童に対し、これらの中等教育が利用可能であり、かつ、これらを利用する機会が与えられるものとし、例えば、無償教育の導入、必要な場合における財政的援助の提供のような適当な措置をとる。
(c) すべての適当な方法により、能力に応じ、すべての者に対して高等教育を利用する機会が与えられるものとする。
(d) すべての児童に対し、教育及び職業に関する情報及び指導が利用可能であり、かつ、これらを利用する機会が与えられるものとする。
(e) 定期的な登校及び中途退学率の減少を奨励するための措置をとる。
締約国は、学校の規律が児童の人間の尊厳に適合する方法で及びこの条約に従って運用されることを確保するためのすべての適当な措置をとる。
締約国は、特に全世界における無知及び非識字の廃絶に寄与し並びに科学上及び技術上の知識並びに最新の教育方法の利用を容易にするため、教育に関する事項についての国際協力を促進し、及び奨励する。これに関しては、特に、開発途上国の必要を考慮する。
第二九条 [教育の目的]
締約国は、児童の教育が次のことを指向すべきことに同意する。
(a) 児童の人格、才能並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること。
(b) 人権及び基本的自由並びに国際連合憲章にうたう原則の尊重を育成すること。
(c) 児童の父母、児童の文化的同一性、言語及び価値観、児童の居住国及び出身国の国民的価値観並びに自己の文明と異なる文明に対する尊重を育成すること。
(d) すべての人民の間の、種族的、国民的及び宗教的集団の間の並びに原住民である者の理解、平和、寛容、両性の平等及び友好の精神に従い、自由な社会における責任ある生活のために児童に準備させること。
(e) 自然環境の尊重を育成すること。
この条又は前条のいかなる規定も、個人及び団体が教育機関を設置し及び管理する自由を妨げるものと解してはならない。ただし、常に、1に定める原則が遵守されること及び当該教育機関において行われる教育が国によって定められる最低限度の基準に適合することを条件とする。
第三〇条 [少数民族又は原住民児童の権利]
種族的、宗教的若しくは言語的少数民族又は先住民である者が存在する国において、当該少数民族に属し又は先住民である児童は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。
第三一条 [文化的生活等への参加]
締約国は、休息及び余暇についての児童の権利並びに児童がその年齢に適した遊び及びレクリエーションの活動を行い並びに文化的な生活及び芸術に自由に参加する権利を認める。
締約国は、児童が文化的及び芸術的な生活に十分に参加する権利を尊重しかつ促進するものとし、文化的及び芸術的な活動並びにレクリエーション及び余暇の活動のための適当かつ平等な機会の提供を奨励する。
第三二条 [経済的搾取及び有害労働からの保護]
締約国は、児童が経済的な搾取から保護され及び危険となり若しくは児童の教育の妨げとなり又は児童の健康若しくは身体的、精神的、道徳的若しくは社会的な発達に有害となるおそれのある労働への従事から保護される権利を認める。
締約国は、この条の規定の実施を確保するための立法上、行政上、社会上及び教育上の措置をとる。このため、締約国は、他の国際文書の関連規定を考慮して、特に、
(a) 雇用が認められるための1又は2以上の最低年齢を定める。
(b) 労働時間及び労働条件についての適当な規則を定める。
(c) この条の規定の効果的な実施を確保するための適当な罰則その他の制裁を定める。
第三三条 [麻薬及び向精神薬からの保護]
締約国は、関連する国際条約に定義された麻薬及び向精神薬の不正な使用から児童を保護し並びにこれらの物質の不正な生産及び取引における児童の使用を防止するための立法上、行政上、社会上及び教育上の措置を含むすべての適当な措置をとる。
第三四条 [性的搾取及び性的虐待からの保護]
締約国は、あらゆる形態の性的搾取及び性的虐待から児童を保護することを約束する。このため、締約国は、特に、次のことを防止するためのすべての適当な国内、二国間及び多数国間の措置をとる。
(a) 不法な性的な行為を行うことを児童に対して勧誘し又は強制すること。
(b) 売春又は他の不法な性的な業務において児童を搾取的に使用すること。
(c) わいせつな演技及び物において児童を搾取的に使用すること。
第三五条 [誘拐、売買又は取引の防止]
締約国は、あらゆる目的のための又はあらゆる形態の児童の誘拐、売買又は取引を防止するためのすべての適当な国内、二国間及び多数国間の措置をとる。
第三六条 [他の全ての形態の搾取からの保護]
締約国は、いずれかの面において児童の福祉を害する他のすべての形態の搾取から児童を保護する。
第三七条 [拷問及び死刑等の禁止・自由を奪われた児童の取り扱い]
締約国は、次のことを確保する。
(a) いかなる児童も、拷問又は他の残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けないこと。死刑又は釈放の可能性がない終身刑は、十八歳未満の者が行った犯罪について科さないこと。
(b) いかなる児童も、不法に又は恣意的にその自由を奪われないこと。児童の逮捕、抑留又は拘禁は、法律に従って行うものとし、最後の解決手段として最も短い適当な期間のみ用いること。
(c) 自由を奪われたすべての児童は、人道的に、人間の固有の尊厳を尊重して、かつ、その年齢の者の必要を考慮した方法で取り扱われること。特に、自由を奪われたすべての児童は、成人とは分離されないことがその最善の利益であると認められない限り成人とは分離されるものとし、例外的な事情がある場合を除くほか、通信及び訪問を通じてその家族との接触を維持する権利を有すること。
(d) 自由を奪われたすべての児童は、弁護人その他適当な援助を行う者と速やかに接触する権利を有し、裁判所その他の権限のある、独立の、かつ、公平な当局においてその自由の剥奪の合法性を争い並びにこれについての決定を速やかに受ける権利を有すること。
第三八条 [武力紛争における保護]
締約国は、武力紛争において自国に適用される国際人道法の規定で児童に関係を有するものを尊重し及びこれらの規定の尊重を確保することを約束する。
締約国は、15歳未満の者が敵対行為に直接参加しないことを確保するためのすべての実行可能な措置をとる。
締約国は、15歳未満の者を自国の軍隊に採用することを差し控えるものとし、また、15歳以上18歳未満の者の中から採用するに当たっては、最年長者を優先させるよう努める。
締約国は、武力紛争において文民を保護するための国際人道法に基づく自国の義務に従い、武力紛争の影響を受ける児童の保護及び養護を確保するためのすべての実行可能な措置をとる。
第三九条 [被害児童の回復及び社会復帰]
締約国は、あらゆる形態の放置、搾取若しくは虐待、拷間若しくは他のあらゆる形態の残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰又は武力紛争による被害者である児童の身体的及び心理的な回復及び社会復帰を促進するためのすべての適当な措置をとる。このような回復及び復帰は、児童の健康、自尊心及び尊厳を育成する環境において行われる。
第四〇条 [刑事法上の保護責任]
締約国は、刑法を犯したと申し立てられ、訴追され又は認定されたすべての児童が尊厳及び価値についての当該児童の意識を促進させるような方法であって、当該児童が他の者の人権及び基本的自由を尊重することを強化し、かつ、当該児童の年齢を考慮し、更に、当該児童が社会に復帰し及び社会において建設的な役割を担うことがなるべく促進されることを配慮した方法により取り扱われる権利を認める。
このため、締約国は、国際文書の関連する規定を考慮して、特に次のことを確保する。
(a) いかなる児童も、実行の時に国内法又は国際法により禁じられていなかった作為又は不作為を理由として刑法を犯したと申し立てられ、訴追され又は認定されないこと。
(b) 刑法を犯したと申し立てられ又は訴追されたすべての児童は、少なくとも次の保障を受けること。
(i) 法律に基づいて有罪とされるまでは無罪と推定されること。
(ii) 速やかにかつ直接に、また、適当な場合には当該児童の父母又は法定保護 者を通じてその罪を告げられること並びに防御の準備及び申立てにおいて弁 護人その他適当な援助を行う者を持つこと。
(iii) 事案が権限のある、独立の、かつ、公平な当局又は司法機関により法律に基づく公正な審理において、弁護人その他適当な援助を行う者の立会い及び、特に当該児童の年齢又は境遇を考慮して児童の最善の利益にならないと認められる場合を除くほか、当該児童の父母又は法定保護者の立会いの下に遅滞なく決定されること。
(iv) 供述又は有罪の自白を強要されないこと。不利な証人を尋間し又はこれに対し尋問させること並びに対等の条件で自己のための証人の出席及びこれに対する尋問を求めること。
(v) 刑法を犯したと認められた場合には、その認定及びその結果科せられた措置について、法律に基づき、上級の、権限のある、独立の、かつ、公平な当局又は司法機関によって再審理されること。
(vi) 使用される言語を理解すること又は話すことができない場合には、無料で通訳の援助を受けること。
(vii) 手続のすべての段階において当該児童の私生活が十分に尊重されること。
締約国は、刑法を犯したと申し立てられ、訴追され又は認定された児童に特別に適用される法律及び手続の制定並びに当局及び施設の設置を促進するよう努めるものとし、特に、次のことを行う。
(a) その年齢未満の児童は刑法を犯す能力を有しないと推定される最低年齢を設定すること。
(b) 適当なかつ望ましい場合には、人権及び法的保護が十分に尊重されていることを条件として、司法上の手続に訴えることなく当該児童を取り扱う措置をとること。
児童がその福祉に適合し、かつ、その事情及び犯罪の双方に応じた方法で取り扱われることを確保するため、保護、指導及び監督命令、力ウンセリング、保護観察、里親委託、教育及び職業訓練計画、施設における養護に代わる他の措置等の種々の処置が利用し得るものとする。
第四一条 [他の法規との関係]
この条約のいかなる規定も、次のものに含まれる規定であって児童の権利の実現に一層貢献するものに影響を及ぼすものではない。
(a) 締約国の法律
(b) 締約国について効力を有する国際法

第二部

第四二条 [締約国の広報義務]
締約国は、適当かつ積極的な方法でこの条約の原則及び規定を成人及び児童のいずれにも広く知らせることを約束する。
第四三条 [児童の権利に関する委員会]
この条約において負う義務の履行の達成に関する締約国による進捗の状況を審査するため、児童の権利に関する委員会(以下「委員会」という。)を設置する。委員会は、この部に定める任務を行う。
委員会は、徳望が高く、かつ、この条約が対象とする分野において能力を認められた10人の専門家で構成する。委員会の委員は、締約国の国民の中から締約国により選出されるものとし、個人の資格で職務を遂行する。その選出に当たっては、衡平な地理的配分及び主要な法体系を考慮に入れる。
委員会の委員は、締約国により指名された者の名簿の中から秘密投票により選出される。各締約国は、自国民の中から一人を指名することができる。
委員会の委員の最初の選挙は、この条約の効力発生の日の後6箇月以内に行うものとし、その後の選挙は、2年ごとに行う。国際連合事務総長は、委員会の委員の選挙の日の遅くとも4箇月前までに、締約国に対し、自国が指名する者の氏名を2箇月以内に提出するよう書簡で要請する。その後、同事務総長は、指名された者のアルファべット順による名簿(これらの者を指名した締約国名を表示した名簿とする。)を作成し、この条約の締約国に送付する。
委員会の委員の選挙は、国際連合事務総長により国際連合本部に招集される締約国の会合において行う。これらの会合は、締約国の3分の2をもって定足数とする。これらの会合においては、出席しかつ投票する締約国の代表によって投じられた票の最多数で、かつ、過半数の票を得た者をもって委員会に選出された委員とする。
委員会の委員は、4年の任期で選出される。委員は、再指名された場合には、再選される資格を有する。最初の選挙において選出された委員のうち5人の委員の任期は、2年で終了するものとし、これらの5人の委員は、最初の選挙の後直ちに、最初の選挙が行われた締約国の会合の議長によりくじ引で選ばれる。
委員会の委員が死亡し、辞任し又は他の理由のため委員会の職務を遂行することができなくなったことを宣言した場合には、当該委員を指名した締約国は、委員会の承認を条件として自国民の中から残余の期間職務を遂行する他の専門家を任命する。
委員会は、手続規則を定める。
委員会は、役員を2年の任期で選出する。
委員会の会合は、原則として、国際連合本部又は委員会が決定する他の適当な場所において開催する。委員会は、原則として毎年1回会合する。委員会の会合の期間は、国際連合総会の承認を条件としてこの条約の締約国の会合において決定し、必要な場合には、再検討する。
国際連合事務総長は、委員会がこの条約に定める任務を効果的に遂行するために必要な職員及び便益を提供する。
この条約に基づいて設置する委員会の委員は、国際連合総会が決定する条件に従い、同総会の承認を得て、国際連合の財源から報酬を受ける。
第四四条 [締約国の報告義務]
締約国は、(a)当該締約国についてこの条約が効力を生ずる時から2年以内に、(b)その後は5年ごとに、この条約において認められる権利の実現のためにとった措置及びこれらの権利の享受についてもたらされた進歩に関する報告を国際連合事務総長を通じて委員会に提出することを約束する。
この条の規定により行われる報告には、この条約に基づく義務の履行の程度に影響を及ぼす要因及び障害が存在する場合には、これらの要因及び障害を記載する。当該報告には、また、委員会が当該国における条約の実施について包括的に理解するために十分な情報を含める。
委員会に対して包括的な最初の報告を提出した締約国は、1(b)の規定に従って提出するその後の報告においては、既に提供した基本的な情報を繰り返す必要はない。
委員会は、この条約の実施に関連する追加の情報を締約国に要請することができる。
委員会は、その活動に関する報告を経済社会理事会を通じて2年ごとに国際連合総会に提出する。
締約国は、1の報告を自国において公衆が広く利用できるようにする。
第四五条 [国際協力のための委員会の機能]
この条約の効果的な実施を促進し及びこの条約が対象とする分野における国際協力を奨励するため、
(a) 専門機関及び国際連合児童基金その他の国際連合の機関は、その任務の範囲内にある事項に関するこの条約の規定の実施についての検討に際し、代表を出す権利を有する。委員会は、適当と認める場合には、専門機関及び国際連合児童基金その他の権限のある機関に対し、これらの機関の任務の範囲内にある事項に関するこの条約の実施について専門家の助言を提供するよう要請することができる。委員会は、専門機関及び国際連合児童基金その他の国際連合の機関に対し、これらの機関の任務の範囲内にある事項に関するこの条約の実施について報告を提出するよう要請することができる。
(b) 委員会は、適当と認める場合には、技術的な助言若しくは援助の要請を含んでおり又はこれらの必要性を記載している締約国からのすべての報告を、これらの要請又は必要性の記載に関する委員会の見解及び提案がある場合は当該見解及び提案とともに、専門機関及び国際連合児童基金その他の権限のある機関に送付する。
(c) 委員会は、国際連合総会に対し、国際連合事務総長が委員会のために児童の権利に関連する特定の事項に関する研究を行うよう同事務総長に要請することを勧告することができる。
(d) 委員会は、前条及びこの条の規定により得た情報に基づく提案及び一般的な性格を有する勧告を行うことができる。これらの提案及び一般的な性格を有する勧告は、関係締約国に送付し、締約国から意見がある場合にはその意見とともに国際連合総会に報告する。

第三部

第四六条 [署名]
この条約は、すべての国による署名のために開放しておく。
第四七条 [批准]
この条約は、批准されなければならない。批准書は、国際連合事務総長に寄託する。
第四八条 [加入]
この条約は、すべての国による加入のために開放しておく。加入書は、国際連合事務総長に寄託する。
第四九条 [効力発生]
この条約は、20番目の批准書又は加入書が国際連合事務総長に寄託された日の後30日目の日に効力を生ずる。
この条約は、20番目の批准書又は加入書が寄託された後に批准し又は加入する国については、その批准書又は加入書が寄託された日の後30日目に効力を生ずる。
第五〇条 [改正の手続き]
いずれの締約国も、改正を提案し及び改正案を国際連合事務総長に提出することができる。同事務総長は、直ちに、締約国に対し、その改正案を送付するものとし、締約国による改正案の審議及び投票のための締約国の会議の開催についての賛否を示すよう要請する。その送付の日から4箇月以内に締約国の3分の1以上が会議の開催に賛成する場合には、同事務総長は、国際連合の主催の下に会議を招集する。会議において出席しかつ投票する締約国の過半数によって採択された改正案は、承認のため、国際連合総会に提出する。
1の規定により採択された改正は、国際連合総会が承認し、かつ、締約国の3分の2以上の多数が受諾した時に、効力を生ずる。
改正は、効力を生じたときは、改正を受諾した締約国を拘束するものとし、他の締約国は、改正前のこの条約の規定(受諾した従前の改正を含む。)により引き続き拘束される。
第五一条 [留保]
国際連合事務総長は、批准又は加入の際に行われた留保の書面を受領し、かつ、すべての国に送付する。
この条約の趣旨及び目的と両立しない留保は、認められない。
留保は、国際連合事務総長にあてた通告によりいつでも撤回することができるものとし、同事務総長は、その撤回をすべての国に通報する。このようにして通報された通告は、同事務総長により受領された日に効力を生ずる。
第五二条 [廃棄]
締約国は、国際連合事務総長に対して書面による通告を行うことにより、この条約を廃棄することができる。廃棄は、同事務総長がその通告を受領した日の後1年で効力を生ずる。
第五三条 [寄託]
国際連合事務総長は、この条約の寄託者として指名される。
第五四条 [正文]
アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とするこの条約の原本は、国際連合事務総長に寄託する。
以上の証拠として、下名の全権委員は、各自の政府から正当に委任を受けてこの条約に署名した。

   「ウィキソース」より

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1890年(明治23)木骨煉瓦造り3階建て約60室の初代帝国ホテルが完成し、竣工式が行われる詳細
1938年(昭和13)岩波書店が「岩波新書」の最初の20点(赤版)を刊行する詳細
1942年(昭和17)日本文学報国会が企画・選定した「愛国百人一首」が情報局より発表される詳細
1945年(昭和20)GHQが「無線通信の統制に関する覚書」 (SCAPIN-321)を出す詳細
1959年(昭和34)国連総会において「児童の権利に関する宣言」が採択される(世界こどもの日)詳細
2005年(平成17)書家村上三島の命日詳細
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kokurenfuhauboushijyouyaku0
 今日は、平成時代の2003年(平成15)に、国際連合総会において、「腐敗の防止に関する国際連合条約(UNCAC)」が採択された日です。
 「腐敗の防止に関する国際連合条約(UNCAC)」(ふはいのぼうしにかんするこくさいれんごうじょうやく)は、組織や個人の汚職や腐敗行為から生じる経済犯罪を防止するために設置された国際条約で、略称は「国連腐敗防止条約」と言います。2002年(平成14)1月に、国際連合において、民主主義や公正な競争、組織犯罪・テロの防止策、法の支配、人権、生活水準などが、腐敗による横領、粉飾決算、資金洗浄、贈収賄、汚職などの経済犯罪によって脅かされることを懸念して、交渉開始され、2003年(平成15)10月31蘇飛に、メキシコのメリダで開催中の国際連合総会において採択されました。
 同年12月に、メキシコのメリダにて署名会議が開催(日本も署名)され、2005年(平成17)12月に、条約発効しています。本条約は、2000年(平成12)11月15日に採択された「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」を補完する役割を担っており、この2つの条約の執行及び締約国の監視は国連薬物犯罪事務所が行い、国連腐敗防止条約加盟団体会議がほぼ2年毎に開催されてきました。
 以下に、「腐敗の防止に関する国際連合条約(UNCAC)」の日本語訳を掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「腐敗の防止に関する国際連合条約」(日本語訳)2003年(平成15)10月31日採択

前文
この条約の締約国は、 
腐敗が社会の安定及び安全に対してもたらす問題及び脅威が、民主主義の制度及び価値、倫理上の価値並びに正義を害すること並びに持続的な発展及び法の支配を危うくすることの重大性を憂慮し、 
また、腐敗行為とその他の形態の犯罪、特に組織犯罪及び経済犯罪(資金洗浄を含む。)との結び付きを憂慮し、 
さらに、国の資源の相当の部分を構成する巨額の財産に関連し、その国の政治的安定及び持続的な発展を脅かす腐敗行為の事案について憂慮し、 
腐敗がもはや地域的な問題ではなく、すべての社会及び経済に影響を及ぼす国際的な現象であり、腐敗行為を防止し、及び規制するための国際協力が不可欠であることを確信し、 
また、効果的に腐敗行為を防止し、及びこれと戦うために包括的かつ総合的な取組が必要であることを確信し、 
さらに、効果的に腐敗行為を防止し、及びこれと戦うための国の能力の向上(人的能力の強化及び制度の確立によるものを含む。)に当たり、技術援助の利用が重要な役割を果たすことができることを確信し、 
個人的な富を不正に取得することが、特に民主主義の制度、国の経済及び法の支配を損なう可能性があることを確信し、 
不正に取得された財産の国際的な移転を一層効果的な方法によって防止し、探知し、及び抑止すること並びに財産の回復における国際協力を強化することを決意し、 
刑事手続及び財産権について裁判する民事上又は行政上の手続における正当な法の手続の基本原則を確認し、 
腐敗行為の防止及び撲滅はすべての国の責任であること並びにこの分野における各国の努力を効果的なものとするためには、市民社会、非政府機関、地域社会の組織等の公的部門に属さない個人及び集団の支援及び参加を得て、すべての国が相互に協力しなければならないことに留意し、 
また、公の事務及び財産の適切な管理、公平性、責任並びに法の下の平等の諸原則並びに誠実性を保障する必要性及び腐敗を拒絶する文化を育成する必要性に留意し、 
腐敗行為の防止及びこれとの戦いにおいて犯罪防止刑事司法委員会及び国際連合薬物犯罪事務所が遂行している業務を称賛し、 
この分野において他の国際機関及び地域機関が遂行している業務(アフリカ連合、欧州評議会、関税協力理事会(世界税関機構と称することもある。)、欧州連合、アラブ連盟、経済協力開発機構及び米州機構の活動を含む。)を想起し、 
特に、千九百九十六年三月二十九日に米州機構が採択した腐敗の防止に関する米州条約、千九百九十七年五月二十六日に欧州連合理事会が採択した欧州共同体の職員又は欧州連合加盟国の公務員に係る腐敗の防止に関する条約、千九百九十七年十一月二十一日に経済協力開発機構が採択した国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約、千九百九十九年一月二十七日に欧州評議会閣僚委員会が採択した腐敗に関する刑事法条約、千九百九十九年十一月四日に同委員会が採択した腐敗に関する民事法条約、二千三年七月十二日にアフリカ連合の加盟国の元首又は政府の長が採択した腐敗の防止及び腐敗との戦いに関するアフリカ連合条約等の腐敗行為を防止し、及びこれと戦うための多数国間の文書を評価しつつ、これらの文書に留意し、 
国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約が二千三年九月二十九日に効力を生じたことを歓迎して、 
次のとおり協定した。

第一章 一般規定

第一条 目的
この条約は、次のことを目的とする。
(a) 一層効率的かつ効果的に腐敗行為を防止し、及びこれと戦うための措置を促進し、及び強化すること。
(b) 腐敗行為を防止し、及びこれと戦うことについての国際協力及び技術援助(財産の回復についての協力及び援助を含む。)を促進し、容易にし、及び支援すること。
(c) 誠実性を高め、説明責任を果たすことを促進し、並びに公の事務及び財産の適切な管理を促進すること。
第二条 用語
この条約の適用上、
(a) 「公務員」とは、
(i) 締約国の立法、行政又は司法に属する職にある者(任命されたか選出されたか、永続的な職にあるか一時的な職にあるか、報酬が支払われているか否か、また、序列のいかんを問わない。)、
(ii) 締約国の国内法において公的なものとされる任務(公的機関又は公的企業のための任務を含む。)又は役務であって、当該締約国の関連する分野の法の適用を受けるものを遂行し、又は提供するその他の者、及び
(iii) 締約国の国内法において公務員とされるその他の者をいう。ただし、第二章に定める特定の措置の適用上、「公務員」とは、締約国の国内法において公的なものとされる任務又は役務であって、当該締約国の関連する分野の法の適用を受けるものを遂行し、又は提供する者をいうものとすることができる。
(b) 「外国公務員」とは、外国の立法、行政又は司法に属する職にある者(任命されたか選出されたかを問わない。)及び外国のために公的な任務(当該外国の公的機関又は公的企業のための任務を含む。)を遂行する者をいう。
(c) 「公的国際機関の職員」とは、国際公務員又は公的国際機関に代わって行動することを当該公的国際機関から委任された者をいう。
(d) 「財産」とは、あらゆる種類の財産(有体物であるか無体物であるか、動産であるか不動産であるか及び有形であるか無形であるかを問わない。)及びこれらの財産に関する権原又は権利を証明する法律上の書類又は文書をいう。
(e) 「犯罪収益」とは、犯罪の実行により生じ、又は直接若しくは間接に入手された財産をいう。
(f) 「凍結」又は「押収」とは、裁判所その他の権限のある当局が出した命令に基づき財産の移転、転換、処分若しくは移動を一時的に禁止すること又は当該命令に基づき財産の一時的な保管若しくは管理を行うことをいう。
(g) 「没収」とは、裁判所その他の権限のある当局の命令による財産の永久的なはく奪をいう。
(h) 「前提犯罪」とは、その結果として第二十三条に定める犯罪の対象となり得る収益が生じた犯罪をいう。
(i) 「監視付移転」とは、犯罪を捜査するため、及び当該犯罪を実行し、又はその実行に関与した者を特定するため、一又は二以上の国の権限のある当局が、事情を知りながら、かつ、その監視の下に、不正な又はその疑いがある送り荷が当該一又は二以上の国の領域を出ること、これを通過すること又はこれに入ることを認めることとする方法をいう。
第三条 適用範囲
1 この条約は、この条約に定めるところにより、腐敗行為の防止、捜査及び訴追並びにこの条約に従って定められる犯罪の収益の凍結、押収、没収及び返還について適用する。
2 この条約を実施するためには、別段の定めがある場合を除くほか、この条約に定める犯罪により国の財産に対する損害又は侵害が生ずることを要しない。
第四条 主権の保護
1 締約国は、国の主権平等及び領土保全の原則並びに他の国の国内問題への不干渉の原則に反しない方法で、この条約に基づく義務を履行する。
2 この条約のいかなる規定も、締約国に対し、他の国の領域内において、当該他の国の当局がその国内法により専ら有する裁判権を行使する権利及び任務を遂行する権利を与えるものではない。

第二章 防止措置

第五条 腐敗行為の防止に関する政策及び慣行
1 締約国は、自国の法制の基本原則に従い、社会の参加を促進し、かつ、法の支配、公の事務及び財産の適切な管理、誠実性、透明性並びに説明責任の諸原則を反映する効果的で調整された腐敗行為の防止に関する政策を策定し、及び実施し、又は維持する。
2 締約国は、腐敗行為の防止を目的とする効果的な慣行を確立し、及び促進するよう努める。
3 締約国は、腐敗行為を防止し、及びこれと戦う上で妥当なものであるか否かについて判断することを目的として、関連する法的文書及び行政上の措置を定期的に評価するよう努める。
4 締約国は、適当な場合には、自国の法制の基本原則に従い、この条に定める措置を促進し、及び発展させることについて、相互に並びに関連する国際機関及び地域機関と協力する。この協力には、腐敗行為の防止を目的とする国際的な計画及び事業への参加を含めることができる。
第六条 腐敗行為の防止のための機関
1 締約国は、自国の法制の基本原則に従い、次の方法により腐敗行為を防止する機関を適宜一又は二以上設ける。
(a) 前条に定める政策を実施し、並びに適当な場合にはこれらの政策の実施について監督し、及び調整すること。
(b) 腐敗行為の防止に関する知識を増進させ、及び普及させること。
2 締約国は、自国の法制の基本原則に従い、1の機関に対し、その任務を効果的に、かつ、いかなる不当な影響も受けることなく遂行することができるよう必要な独立性を付与する。必要な物的資源及び専門職員並びにこれらの専門職員が任務の遂行のために必要とする訓練は、提供されるべきである。
3 締約国は、国際連合事務総長に対し、腐敗行為の防止に関する具体的な措置の策定及び実施について他の締約国を援助することができる一又は二以上の当局の名称及び所在地を通報する。
第七条 公的部門
1 締約国は、適当な場合には、自国の法制の基本原則に従い、行政官及び適当な場合には選出によらないその他の公務員の募集、採用、雇用、昇進及び退職に関する次の制度を採用し、維持し、及び強化するよう努める。
(a) 効率性及び透明性の原則並びに能力、公平、適性等の客観的な基準の原則に基づく制度
(b) 特に腐敗行為が発生しやすいとされる公的な地位に就く者の選定及び訓練並びに適当な場合にはそのような者の他の地位への交代のための適切な手続を有する制度
(c) 自国の経済発展の水準を考慮しつつ、適正な報酬及び公平な俸給表の設定を促進する制度
(d) 公的な任務を正確に、廉潔に及び適正に遂行するとの要求をこれらの公務員が満たすことができるようにするための教育及び訓練の計画を促進し、並びにその任務の遂行に固有の腐敗行為の危険性についての意識を高めるための専門的かつ適切な訓練を提供する制度。これらの計画においては、適用可能な分野における行動の規範又は基準を参照することができる。
2 締約国は、公職への立候補及び選出に関する基準を定めるため、この条約の目的及び自国の国内法の基本原則に従い、適当な立法上及び行政上の措置をとることを考慮する。
3 締約国は、選出される公職への立候補に係る資金及び適当な場合には政党の資金についての透明性を高めるため、この条約の目的及び自国の国内法の基本原則に従い、適当な立法上及び行政上の措置をとることを考慮する。
4 締約国は、自国の国内法の基本原則に従い、透明性を高め、及び利益相反を防止する制度を採用し、維持し、及び強化するよう努める。
第八条 公務員の行動規範
1 締約国は、腐敗行為と戦うため、自国の法制の基本原則に従い、自国の公務員について、特に誠実性、廉直性及び責任感を高めるようにする。
2 締約国は、特に、自国の組織及び法制の枠内で、公的な任務を正確に、廉潔に及び適正に遂行するための行動の規範又は基準を適用するよう努める。
3 この条の規定を実施するため、締約国は、適当な場合には、自国の法制の基本原則に従い、千九百九十六年十二月十二日の国際連合総会決議第五十九号(第五十一回会期)の附属書に定める「公務員の国際的行動規範」等の地域機関、地域間機関及び多数国間機関による関連の提案に留意する。
4 締約国は、自国の国内法の基本原則に従い、公務員がその任務の遂行に当たり腐敗行為の存在を知るに至った場合には、当該腐敗行為について適当な当局に報告することを促進するための措置及び制度を定めることを考慮する。
5 締約国は、適当な場合には、自国の国内法の基本原則に従い、特に、公的な任務以外の活動、就職、投資、財産及び相当な価額の贈与された金品又は実質的な利益であって、公務員としての自己の任務との関係において利益相反が生じ得るものに関し、適当な当局に対して申告を行うことを公務員に求める措置及び制度を定めるよう努める。
6 締約国は、自国の国内法の基本原則に従い、この条の規定に従って定められる規範又は基準に違反する公務員に対し、懲戒上その他の措置をとることを検討する。
第九条 公的調達及び財政の管理
1 締約国は、自国の法制の基本原則に従い、透明性、競争及び意思決定における客観的な基準に基づく適当な調達の制度であって特に腐敗行為の防止に効果的なものを設けるため、必要な措置をとる。これらの制度については、その適用に当たり適当な基準額を考慮することができるものとし、特に次のことができるようなものとする。
(a) 潜在的な入札者が十分な時間的余裕をもって入札書を作成し、及び提出することができるようにするため、調達の手続及び契約に関する情報(入札への招請に関する情報及び落札に関する関連情報を含む。)を公に配布すること。
(b) 参加の条件(選択及び落札の基準並びに入札の規則を含む。)を事前に定め、及び公表すること。
(c) 規則又は手続の正確な適用についての事後の確認を容易にするため、公的調達に係る決定のための客観的な、かつ、あらかじめ定められた基準を用いること。
(d) この1の規定に従って定められる規則又は手続が遵守されない場合に法的な請求を行い、及び法的な救済を受けることができるようにするため、国内における見直しのための効果的な制度(不服申立てについての効果的な制度を含む。)を設けること。
(e) 適当な場合には、調達について責任を有する職員に関する事項(特定の公的調達における利害関係についての申告、職員選定の手続、必要な訓練等をいう。)を規律するための措置をとること。
2 締約国は、自国の法制の基本原則に従い、財政の管理において透明性を高め、及び説明責任を果たすことを促進するため、適当な措置をとる。これらの措置には、特に次の事項を含める。
(a) 国の予算の採択に関する手続
(b) 収入及び支出に関する時宜を得た報告
(c) 会計及び監査の基準並びに関連の監督に関する制度
(d) 危険の管理及び内部の統制に関する効果的かつ効率的な制度
(e) 適当な場合には、この2に定める要件に適合していない際の是正措置
3 締約国は、自国の国内法の基本原則に従い、公の支出及び収入に関する会計帳簿、記録、会計報告その他の文書の完全性を維持するため、並びにこれらの文書における虚偽の記載を防止するため、必要な民事上及び行政上の措置をとる。
第十条 公衆への報告
締約国は、腐敗行為と戦う必要性を考慮して、自国の国内法の基本原則に従い、公共行政における透明性を高めるため、必要な措置(適当な場合には、公共行政に係る組織、活動及び意思決定手続に関連するものを含む。)をとる。これらの措置には、特に次の事項を含めることができる。
(a) 自国の公共行政に係る組織、活動及び意思決定手続に関する情報並びに公衆に関係のある決定及び法的行為に関する情報であって私生活及び個人情報の保護に妥当な考慮を払ったものを公衆が適当な場合に入手することを認めるための手続又は規則を定めること。
(b) 意思決定を行う権限のある当局から公衆が情報を入手することを容易にするため、適当な場合には、行政上の手続を簡素化すること。
(c) 情報を公表すること。この情報には、自国の公共行政における腐敗行為の危険性に関する定期的な報告を含めることができる。
第十一条 司法機関及び訴追部門に関する措置
1 締約国は、司法機関の独立性及び腐敗行為との戦いにおける司法機関の重要な役割に留意して、自国の法制の基本原則に従い、かつ、司法の独立性を妨げることなく、司法機関の職員について誠実性を強化し、及び腐敗行為を行い得る機会を防止するための措置をとる。これらの措置には、司法機関の職員の行動に関する規則を含めることができる。
2 訴追部門が司法機関の一部を成していないが司法部門の独立性と同様の独立性を付与されている締約国においては、1の規定に従ってとられる措置と同等の効果を有する措置を訴追部門内に導入し、及び適用することができる。
第十二条 民間部門
1 締約国は、自国の国内法の基本原則に従い、民間部門に係る腐敗行為を防止し、並びに民間部門における会計及び監査の基準を強化するための措置をとるものとし、適当な場合には、これらの措置に従わないことについて、効果的な、均衡のとれた、かつ、抑止力のある民事上、行政上又は刑事上の罰則を定めるための措置をとる。
2 1の目的を達成するための措置には、特に次の事項を含めることができる。
(a) 法執行機関と関連の民間の主体との間の協力を促進すること。
(b) 関連の民間の主体の誠実性を保障するための基準及び手続(事業活動及びすべての関連する職業上の活動を正確に、廉潔に及び適正に遂行し、並びに利益相反を防止するための行動規範並びに事業相互の間における及び国との事業に係る契約上の関係における適切な商慣行の利用を促進するための行動規範を含む。)の策定を促進すること。
(c) 民間の主体について透明性を高めること(適当な場合には、企業の設立及び運営に関係する法人及び自然人の特定に関する措置を含む。)。
(d) 民間の主体を規律する手続(公の当局により商業活動のために与えられる補助金及び免許に関する手続を含む。)の濫用を防止すること。
(e) 公務員であった者の職業上の活動又は民間部門による辞職後若しくは退職後の公務員の雇用がこれらの公務員がその任期中に遂行し、又は監督していた任務に直接関係する場合において、適当なときは、そのような活動又は雇用を行うことに対し合理的な期間制限を課することにより、利益相反を防止すること。
(f) 民間企業が、その構成及び規模を考慮して、腐敗行為を防止し、及び探知することに資する内部の監査について十分な管理を行うことを確保し、並びに民間企業の勘定書及び必要とされる財務諸表が適当な監査及び証明の手続に従うことを確保すること。
3 締約国は、腐敗行為を防止するため、帳簿及び記録の保持、財務諸表の開示並びに会計及び監査の基準に関する自国の法令に従い、この条約に従って定められる犯罪を行うことを目的とする次の行為を禁止するために必要な措置をとる。
(a) 簿外勘定を設定すること。
(b) 帳簿外での取引又は不適切に識別された取引を行うこと。
(c) 架空の支出を記載すること。
(d) 目的が不正確に識別された負債を記入すること。
(e) 虚偽の書類を使用すること。
(f) 法律に定める日前に帳簿書類を故意に廃棄すること。
4 締約国は、第十五条及び第十六条の規定に従って定められる犯罪を構成する要素の一つである賄賂となる支出並びに適当な場合には、腐敗行為を助長するために要したその他の支出について、税の控除を認めてはならない。
第十三条 社会の参加
1 締約国は、自国が有する手段の範囲内で、かつ、自国の国内法の基本原則に従い、腐敗行為の防止及びこれとの戦いについての市民社会、非政府機関、地域社会の組織等の公的部門に属さない個人及び集団の積極的な参加を促進するため、並びに腐敗行為の存在、原因及び重大性並びに腐敗行為がもたらす脅威についての公衆の意識を高めるため、適当な措置をとる。このような参加は、次の措置によって強化されるべきである。
(a) 意思決定手続の透明性を高め、及び意思決定手続についての公衆の参加を促進すること。
(b) 公衆が情報を効果的に利用することができるようにすること。
(c) 腐敗行為を許容しないことに資する広報活動及び公共教育計画(学校及び大学の教育課程を含む。)
(d) 腐敗行為に関する情報を求め、受領し、公表し、及び提供する自由を尊重し、促進し、及び保護すること。これらの自由については、一定の制限を課することができる。ただし、そのような制限は、法律によって定められ、かつ、次のいずれかの目的のために必要とされるものに限る。
(i) 他の者の権利又は信用を尊重すること。
(ii) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳を保護すること。
2 締約国は、この条約に定める関連の腐敗行為の防止のための機関を公衆に周知させるために適当な措置をとるものとし、また、適当な場合には、この条約に従って定められる犯罪を構成すると認められる事件に関する報告(匿名によるものを含む。)を行うためにそのような機関を利用することができるようにする。
第十四条 資金洗浄を防止するための措置
1 締約国は、次の措置をとる。
(a) すべての形態の資金洗浄を抑止し、及び探知するため、自国の権限の範囲内で、銀行及び銀行以外の金融機関(金銭又は金銭的価値を有するものの移転のための公式又は非公式の役務を提供する自然人又は法人を含む。)並びに適当な場合には特に資金洗浄が行われやすい他の機関についての包括的な国内の規制制度及び監督制度を設けること。これらの制度は、顧客及び適当な場合には受益者の身元確認、記録保存並びに疑わしい取引の報告を求めることに重点を置くものとする。
(b) 第四十六条の規定の適用を妨げることなく、資金洗浄との戦いに従事する行政当局、規制当局、法執行当局その他の当局(国内法に基づき適当な場合には、司法当局を含む。)が、自国の国内法に定める条件の範囲内で、国内的及び国際的に協力し、及び情報を交換するための能力を有することを確保し、並びにそのために潜在的な資金洗浄に関する情報の収集、分析及び提供について自国の中心としての役割を果たす金融情報機関の設立を考慮すること。
2 締約国は、情報の適正な使用を確保するための保障を条件とし、かつ、合法的な資本の移動を何ら妨げることなく、現金及び適当な譲渡可能な証書の国境を越える移動を探知し、及び監視するための実行可能な措置をとることを考慮する。これらの措置には、相当な量の現金及び適当な譲渡可能な証書の国境を越える移転について報告することを個人及び企業に求めることを含めることができる。
3 締約国は、金融機関(送金を行う業者を含む。)に次のことを求めるための適当かつ実行可能な措置をとることを考慮する。
(a) 送金元に関する正確かつ有意義な情報を資金の電子的送金のための様式及び関連する通信に含めること。
(b) 一連の支払全体にわたっての情報を維持すること。
(c) 送金元に関する完全な情報を伴わない資金の移転に対し厳格な審査を適用すること。
4 締約国は、この条の規定に基づき国内の規制制度及び監督制度を設けるに当たり、他の条の規定の適用を妨げることなく、地域機関、地域間機関及び多数国間機関による関連の提案であって資金洗浄と戦うためのものを指針として使用するよう求められる。
5 締約国は、資金洗浄と戦うため、司法当局、法執行当局及び金融規制当局の間の世界的、地域的及び小地域的な協力並びに二国間の協力を発展させ、及び促進するよう努める。

第三章 犯罪化及び法執行

第十五条 自国の公務員に係る贈収賄
締約国は、故意に行われる次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
(a) 公務員に対し、当該公務員が公務の遂行に当たって行動し、又は行動を差し控えることを目的として、当該公務員自身又は他の者若しくは団体のために不当な利益を直接又は間接に約束し、申し出、又は供与すること。
(b) 公務員が、自己の公務の遂行に当たって行動し、又は行動を差し控えることを目的として、当該公務員自身又は他の者若しくは団体のために不当な利益を直接又は間接に要求し、又は受領すること。
第十六条 外国公務員及び公的国際機関の職員に係る贈収賄
1 締約国は、国際商取引に関連して商取引上の利益又はその他の不当な利益を取得し、又は維持するために、外国公務員又は公的国際機関の職員に対し、当該外国公務員又は公的国際機関の職員が公務の遂行に当たって行動し、又は行動を差し控えることを目的として、当該外国公務員若しくは公的国際機関の職員自身又は他の者若しくは団体のために不当な利益を直接又は間接に約束し、申し出、又は供与することを故意に行うことを犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
2 締約国は、外国公務員又は公的国際機関の職員が故意に、自己の公務の遂行に当たって行動し、又は行動を差し控えることを目的として、当該外国公務員若しくは公的国際機関の職員自身又は他の者若しくは団体のために不当な利益を直接又は間接に要求し、又は受領することを犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることを考慮する。
第十七条 公務員による財産の横領、不正使用その他目的外使用
締約国は、公務員が故意に、自己又は他の者若しくは団体の利益のために、その地位に基づき当該公務員に委託された財産、公的若しくは私的な資金又は証券その他の価値を有する物につき、横領、不正使用その他目的外使用を行うことを犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
第十八条 影響力に係る取引
締約国は、故意に行われる次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることを考慮する。
(a) 公務員その他の者に対し、行為を働きかけた者その他の者のために当該締約国の行政機関又は公の当局から不当な利益を取得するため当該公務員その他の者が現実又は想像上の影響力を不当に行使することを目的として、不当な利益を直接又は間接に約束し、申し出、又は供与すること。
(b) 公務員その他の者が、当該締約国の行政機関又は公の当局から不当な利益を取得するため自己の現実又は想像上の影響力を不当に行使することを目的として、当該公務員その他の者自身又は他の者のために不当な利益を直接又は間接に要求し、又は受領すること。
第十九条 職権の濫用
締約国は、公務員が故意に、自己又は他の者若しくは団体のために不当な利益を取得するため、自己の任務の遂行に当たり、職権又は地位を濫用すること(法令に違反して特定の行為を行うこと又は行わないことをいう。)を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることを考慮する。
第二十条 不正な蓄財
締約国は、自国の憲法及び法制の基本原則に従い、不正な蓄財(自己の合法的な収入との関係において合理的に説明することのできない公務員の財産の著しい増加をいう。)が故意に行われることを犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることを考慮する。
第二十一条 民間部門における贈収賄
締約国は、経済上、金融上又は商業上の活動において故意に行われる次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることを考慮する。
(a) 民間部門の主体を運営し、又はこれに勤務する者(資格のいかんを問わない。)に対し、その者が自己の任務に反して行動し、又は行動を差し控えることを目的として、その者自身又は他の者のために不当な利益を直接又は間接に約束し、申し出、又は供与すること。
(b) 民間部門の主体を運営し、又はこれに勤務する者(資格のいかんを問わない。)が、自己の任務に反して行動し、又は行動を差し控えることを目的として、その者自身又は他の者のために不当な利益を直接又は間接に要求し、又は受領すること。
第二十二条 民間部門における財産の横領
締約国は、民間部門の主体を運営し、又はこれに勤務する者(資格のいかんを問わない。)が故意に、経済上、金融上又は商業上の活動において、その地位に基づき自己に委託された財産、私的な資金又は証券その他の価値を有する物を横領することを犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることを考慮する。
第二十三条 犯罪収益の洗浄
1 締約国は、自国の国内法の基本原則に従い、故意に行われる次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
(a)(i) その財産が犯罪収益であることを認識しながら、犯罪収益である財産の不正な起源を隠匿し若しくは偽装する目的で又は前提犯罪を実行し若しくはその実行に関与した者がその行為による法律上の責任を免れることを援助する目的で、当該財産を転換し、又は移転すること。
(ii) その財産が犯罪収益であることを認識しながら、犯罪収益である財産の真の性質、出所、所在、処分、移動若しくは所有権又は当該財産に係る権利を隠匿し、又は偽装すること。
(b) 自国の法制の基本的な概念に従い、
(i) その財産が犯罪収益であることを当該財産を受け取った時において認識しながら、犯罪収益である財産を取得し、所持し、又は使用すること。
(ii) この条の規定に従って定められる犯罪に参加し、これを共謀し、これに係る未遂の罪を犯し、これをほう助し、教唆し若しくは援助し、又はこれについて相談すること。
2 1の規定の実施上又は適用上、
(a) 締約国は、最も広範囲の前提犯罪について1の規定を適用するよう努める。
(b) 締約国は、少なくとも、この条約に従って定められる犯罪を包括的に前提犯罪に含める。
(c) (b)の規定の適用上、前提犯罪には、締約国の管轄の内外のいずれで行われた犯罪も含める。ただし、締約国の管轄外で行われた犯罪は、当該犯罪に係る行為がその行為の行われた国の国内法に基づく犯罪であり、かつ、この条の規定を実施し、又は適用する締約国において当該行為が行われた場合にその行為が当該締約国の国内法に基づく犯罪となるときに限り、前提犯罪を構成する。
(d) 締約国は、この条の規定を実施する自国の法律の写し及びその法律に変更があった場合にはその変更後の法律の写し又はこれらの説明を国際連合事務総長に提出する。
(e) 締約国は、自国の国内法の基本原則により必要とされる場合には、1に規定する犯罪についての規定を前提犯罪を行った者について適用しないことを定めることができる。
第二十四条 隠匿
前条の規定の適用を妨げることなく、締約国は、この条約に従って定められる犯罪に参加することなく、当該犯罪が行われた後に、当該犯罪の結果生じた財産であることを認識しながら当該財産の隠匿又は継続的な保有を故意に行うことを犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることを考慮する。
第二十五条 司法妨害
締約国は、故意に行われる次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
(a) この条約に従って定められる犯罪に関する手続において虚偽の証言をさせるために、又は証言すること若しくは証拠を提出することを妨害するために、暴行を加え、脅迫し若しくは威嚇し、又は不当な利益を約束し、申し出若しくは供与すること。
(b) 裁判官又は法執行の職員によるこの条約に従って定められる犯罪に関する公務の遂行を妨害するために、暴行を加え、脅迫し、又は威嚇すること。この(b)の規定は、締約国が裁判官及び法執行の職員以外の公務員を保護する法律を定めることを妨げるものではない。
第二十六条 法人の責任
1 締約国は、自国の法的原則に従い、この条約に従って定められる犯罪への参加について法人の責任を確立するため、必要な措置をとる。
2 法人の責任は、締約国の法的原則に従い、刑事上、民事上又は行政上のものとすることができる。
3 法人の責任は、犯罪を行った自然人の刑事上の責任に影響を及ぼすものではない。
4 締約国は、特に、この条の規定に従って責任を負う法人に対し、効果的な、均衡のとれた、かつ、抑止力のある刑罰又は刑罰以外の制裁(金銭的制裁を含む。)が科されることを確保する。
第二十七条 参加及び未遂
1 締約国は、自国の国内法に従い、共犯者、ほう助者、教唆者等立場のいかんを問わず、この条約に従って定められる犯罪に参加することを犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
2 締約国は、自国の国内法に従い、この条約に従って定められる犯罪の未遂を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることができる。
3 締約国は、自国の国内法に従い、この条約に従って定められる犯罪の予備を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることができる。
第二十八条 犯罪の要件としての認識、故意及び目的
この条約に従って定められる犯罪の要件として求められる認識、故意又は目的は、客観的な事実の状況により推認することができる。
第二十九条 出訴期間
締約国は、適当な場合には、自国の国内法により、この条約に従って定められる犯罪につき、公訴を提起することができる長期の出訴期間を定める。また、締約国は、容疑者が裁判を逃れている場合について、一層長期の出訴期間又は出訴期間の進行の停止を定める。
第三十条 訴追、裁判及び制裁
1 締約国は、この条約に従って定められる犯罪の実行につき、これらの犯罪の重大性を考慮した制裁を科する。
2 締約国は、自国の法制及び憲法上の原則に従い、自国の公務員に対しその任務の遂行のために与える免除又は司法上の特権と、この条約に従って定められる犯罪につき必要な場合には効果的に捜査、訴追及び裁判を行う可能性との間に適当な均衡を確立し、又は維持するため、必要な措置をとる。
3 締約国は、この条約に従って定められる犯罪を行った者の訴追に関する国内法における法律上の裁量的な権限が、これらの犯罪に関する法の執行が最大の効果を上げるように、かつ、これらの犯罪の実行を抑止することの必要性について妥当な考慮を払って、行使されることを確保するよう努める。
4 締約国は、この条約に従って定められる犯罪については、自国の国内法に従い、かつ、防御の権利に妥当な考慮を払って、裁判までの間又は上訴までの間に行われる釈放の決定に関連して課される条件においてその後の刑事手続への被告人の出頭を確保する必要性が考慮されることを確保するよう努めるため、適当な措置をとる。
5 締約国は、この条約に従って定められる犯罪について有罪とされた者の早期釈放又は仮釈放の可否を検討するに当たり、このような犯罪の重大性を考慮する。
6 締約国は、自国の法制の基本原則に適合する範囲内で、適当な当局がこの条約に従って定められる犯罪について訴追された公務員を、無罪の推定の原則の尊重に留意しつつ、適当な場合には罷免し、停職にし、又は配置換えすることのできる手続を定めることを考慮する。
7 締約国は、犯罪の重大性により正当と認められる場合には、自国の法制の基本原則に適合する範囲内で、この条約に従って定められる犯罪について有罪とされた者に関し、裁判所の命令その他の適当な方法により、自国の国内法が定める期間、次のことについて資格を有しないものとする手続を定めることを考慮する。
(a) 公職に就任し、又は在任すること。
(b) 自国がその全部又は一部を所有する企業に就職し、又は在職すること。
8 1の規定は、権限のある当局が行政官に対して懲戒上の権限を行使することを妨げるものではない。
9 この条約のいかなる規定も、この条約に従って定められる犯罪並びに適用可能な法律上の犯罪阻却事由及び行為の合法性を規律する他の法的原則は締約国の国内法により定められるという原則並びにこれらの犯罪は締約国の国内法に従って訴追され、及び処罰されるという原則に影響を及ぼすものではない。
10 締約国は、この条約に従って定められる犯罪について有罪とされた者の社会復帰を促進するよう努める。
第三十一条 凍結、押収及び没収
1 締約国は、次のものの没収を可能とするため、自国の国内法制において最大限度可能な範囲で必要な措置をとる。
(a) この条約に従って定められる犯罪により生じた犯罪収益又は当該犯罪収益に相当する価値を有する財産
(b) この条約に従って定められる犯罪において、用い、又は用いることを予定していた財産、装置又は他の道具
2 締約国は、1に規定するものを最終的に没収するために特定し、追跡し、及び凍結し、又は押収することができるようにするため、必要な措置をとる。
3 締約国は、自国の国内法に従い、権限のある当局が1及び2に規定する財産であって、凍結し、押収し、又は没収したものを管理することを規律するため、必要な立法その他の措置をとる。
4 犯罪収益の一部又は全部が他の財産に変わり、又は転換した場合には、当該犯罪収益に代えて当該他の財産につきこの条に規定する措置をとることができるようにするものとする。
5 犯罪収益が合法的な出所から取得された財産と混同した場合には、凍結又は押収のいかなる権限も害されることなく、混同した当該犯罪収益の評価価値を限度として、混同が生じた財産を没収することができるようにするものとする。
6 犯罪収益、犯罪収益が変わり若しくは転換した財産又は犯罪収益が混同した財産から生じた収入その他の利益についても、犯罪収益と同様の方法により及び同様の限度において、この条に規定する措置をとることができるようにするものとする。
7 この条及び第五十五条の規定の適用上、締約国は、自国の裁判所その他の権限のある当局に対し、銀行、財務又は商取引の記録の提出又は押収を命令する権限を与える。締約国は、銀行による秘密の保持を理由としては、この7の規定に基づく行動をとることを拒否することができない。
8 締約国は、自国の国内法の基本原則及び司法その他の手続の性質に適合する範囲内で、犯人に対し、没収の対象となる疑いがある犯罪収益その他の財産の合法的な起源につき明らかにするよう要求することの可能性を検討することができる。
9 この条の規定は、善意の第三者の権利を害するものと解してはならない。
10 この条のいかなる規定も、この条に規定する措置が締約国の国内法に従って、かつ、これを条件として定められ、及び実施されるという原則に影響を及ぼすものではない。
第三十二条 証人、専門家及び被害者の保護
1 締約国は、自国の国内法制に従い、かつ、自国が有する手段の範囲内で、この条約に従って定められる犯罪に関して証言する証人及び専門家並びに適当な場合にはそれらの親族その他密接な関係を有する者について、生じ得る報復又は威嚇からそれらの者を効果的に保護するため、適当な措置をとる。
2 1に規定する措置には、被告人の権利(適正な手続についての権利を含む。)を害することなく、特に次の事項を含めることができる。
(a) 1に規定する者の身体の保護のための手続を定めること。例えば、必要かつ実行可能な範囲内で、その者の居所を移転すること又は適当な場合にはその身元及び所在に関する情報の不開示若しくは当該情報の開示の制限を認めること。
(b) 証人及び専門家の安全を確保する方法で証人及び専門家が証言することを認めるための証拠に関する規則を定めること。例えば、ビデオリンク等の通信技術その他の適当な手段の利用を通じて証言することを認めること。
3 締約国は、1に規定する者の居所の移転に関し、他の国と協定又は取極を締結することを考慮する。
4 この条の規定は、被害者に対しても、当該被害者が証人である限りにおいて適用する。
5 締約国は、自国の国内法に従うことを条件として、防御の権利を害しない方法で被害者の意見及び懸念が犯人に対する刑事手続の適当な段階において表明され、及び考慮されることを可能とする。
第三十三条 報告者の保護
締約国は、この条約に従って定められる犯罪に関する事実につき、誠実に、かつ、十分な根拠に基づき権限のある当局に報告する者を不当な待遇から保護するための適当な措置を自国の国内法制に取り入れることを考慮する。
第三十四条 腐敗行為により生じた結果
締約国は、善意に取得された第三者の権利に妥当な考慮を払いつつ、自国の国内法の基本原則に従い、腐敗行為により生じた結果に対処するための措置をとる。このため、締約国は、契約を取り消し若しくは解除し、免許その他これに類する文書を撤回し、又は他の是正措置をとるための法的手続において、腐敗行為を関連する要因として考慮することができる。
第三十五条 損害の賠償
締約国は、自国の国内法の原則に従い、腐敗行為の結果として損害を被った団体又は個人が、賠償を受けるために当該損害について責任を有する者に対し法的手続を開始することができるようにすることを確保するため、必要な措置をとる。
第三十六条 専門の当局
締約国は、自国の法制の基本原則に従い、法の執行を通じて腐敗行為と戦うための一若しくは二以上の専門の機関又は者が存在することを確保する。これらの機関又は者は、自国の法制の基本原則に従い、その任務を効果的に、かつ、いかなる不当な影響も受けることなく遂行することができるよう必要な独立性を付与される。これらの者又はこれらの機関の職員は、その業務を実施するための適当な訓練及び資源を有するべきである。
第三十七条 法執行当局との協力
1 締約国は、この条約に従って定められる犯罪の実行に参加している者又は参加した者に対し、権限のある当局にとって捜査及び立証のために有用な情報を提供すること並びに事実に基づく具体的な援助であって犯人から犯罪収益をはく奪し、及び回収することに貢献し得るものを権限のある当局に提供することを奨励するため、適当な措置をとる。
2 締約国は、適当な場合には、この条約に従って定められる犯罪の捜査又は訴追において実質的に協力する被告人の処罰を軽減することを可能とすることについて考慮する。
3 締約国は、自国の国内法の基本原則に従い、この条約に従って定められる犯罪の捜査又は訴追において実質的に協力する者の訴追を免除することを可能とすることについて考慮する。
4 2及び3に規定する者の保護については、第三十二条の規定を準用する。
5 1に規定する者であって一の締約国に所在するものが他の締約国の権限のある当局に実質的に協力することができる場合には、関係締約国は、自国の国内法に従い、当該他の締約国がその者について2及び3に規定する取扱いを行うことの可能性に関する協定又は取極を締結することを考慮することができる。
第三十八条 自国の当局間の協力
締約国は、自国の国内法に従い、自国の公の当局及び自国の公務員と犯罪の捜査及び訴追について責任を有する自国の当局との間の協力を奨励するため、必要な措置をとる。これらの協力には、次の(a)又は(b)のいずれかを含めることができる。
(a) 第十五条、第二十一条及び第二十三条の規定に従って定められる犯罪のいずれかが行われたと信ずるに足りる十分な根拠がある場合には、公の当局及び公務員が、自己の発意により、犯罪の捜査及び訴追について責任を有する当局に通報すること。
(b) 公の当局及び公務員が、犯罪の捜査及び訴追について責任を有する当局の要請に基づき、当該当局に対しすべての必要な情報を提供すること。
第三十九条 自国の当局と民間部門との間の協力
1 締約国は、自国の国内法に従い、この条約に従って定められる犯罪の実行に関連する事項に関し、自国の捜査当局及び訴追当局と民間部門の主体(特に金融機関)との間の協力を奨励するため、必要な措置をとる。
2 締約国は、自国の国民及び自国の領域内に常居所を有するその他の者に対し、この条約に従って定められる犯罪の実行について自国の捜査当局及び訴追当局に報告するよう奨励することを考慮する。
第四十条 銀行による秘密の保持
締約国は、この条約に従って定められる犯罪の国内における捜査に関し、銀行による秘密の保持に関する法律の適用により生じ得る障害を克服するため、自国の法制において利用可能な適当な仕組みを設ける。
第四十一条 犯罪記録
締約国は、この条約に従って定められる犯罪に関する刑事手続において利用することを目的として、適当と認める条件の下で、かつ、適当と認める目的のため、容疑者の他の国における過去の有罪判決を考慮するための必要な立法その他の措置をとることができる。
第四十二条 裁判権
1 締約国は、次の場合においてこの条約に従って定められる犯罪についての自国の裁判権を設定するため、必要な措置をとる。
(a) 犯罪が自国の領域内で行われる場合
(b) 犯罪が、当該犯罪の時に自国を旗国とする船舶内又は自国の法律により登録されている航空機内で行われる場合
2 締約国は、第四条の規定に従うことを条件として、次の場合には、1に規定する犯罪について自国の裁判権を設定することができる。
(a) 犯罪が自国の国民に対して行われる場合
(b) 犯罪が自国の国民又は自国の領域内に常居所を有する無国籍者によって行われる場合
(c) 第二十三条1(b)(ii)の規定に従って定められる犯罪が、同条1の(a)(i)若しくは(ii)又は(b)(i)の規定に従って定められる犯罪を自国の領域内において行うために、自国の領域外において行われる場合
(d) 犯罪が自国に対して行われる場合
3 第四十四条の規定の適用上、締約国は、容疑者が自国の領域内に所在し、かつ、容疑者が自国の国民であることのみを理由として当該容疑者の引渡しを行わない場合においてこの条約に従って定められる犯罪についての自国の裁判権を設定するため、必要な措置をとる。
4 締約国は、容疑者が自国の領域内に所在し、かつ、当該容疑者の引渡しを行わない場合においてこの条約に従って定められる犯罪についての自国の裁判権を設定するため、必要な措置をとることができる。
5 1又は2の規定に基づいて自国の裁判権を行使する締約国が、他の締約国が同一の行為に関して捜査、訴追又は司法手続を行っていることを通報され、又はその他の方法で知った場合には、これらの締約国の権限のある当局は、それぞれの行動を調整するため、相互に適宜協議する。
6 この条約は、一般国際法の規範が適用される場合を除くほか、締約国が自国の国内法に従って設定した刑事裁判権の行使を排除するものではない。

第四章 国際協力

第四十三条 国際協力
1 締約国は、次条から第五十条までの規定に従い、刑事上の問題について協力する。締約国は、適当な場合には、自国の国内法制に従い、腐敗行為に関する民事上及び行政上の問題における調査及び手続について相互に援助することを考慮する。
2 国際協力に係る事項に関し、双罰性を条件とする場合において、援助が求められている犯罪の基礎を成す行為が双方の締約国の法律によって犯罪とされているものであるときは、当該援助が求められている犯罪が、要請を受けた締約国の法律により、要請を行った締約国における犯罪類型と同一の犯罪類型に含まれるか否か又は同一の用語で定められているか否かにかかわらず、この条件は満たされているものとみなす。
第四十四条 犯罪人引渡し
1 この条の規定は、この条約に従って定められる犯罪であって、犯罪人引渡しの請求の対象となる者が当該請求を受けた締約国の領域内に所在するものについて適用する。ただし、当該請求に係る犯罪が、当該請求を行った締約国及び当該請求を受けた締約国の双方の国内法に基づいて刑を科することができる犯罪であることを条件とする。
2 締約国は、1の規定にかかわらず、自国の法律が認めるときは、この条約の対象となる犯罪であって自国の国内法に基づいて刑を科することができないものについて、犯罪人引渡しを行うことができる。
3 犯罪人引渡しの請求が二以上の別個の犯罪に係るものである場合において、これらの犯罪の少なくとも一がこの条の規定に基づいて引渡しが可能なものであり、かつ、これらの犯罪の一部がその拘禁刑の期間を理由として引渡し不可能であるがこの条約に従って定められる犯罪に関連するものであるときは、当該請求を受けた締約国は、そのような犯罪についても、この条の規定を適用することができる。
4 この条の規定の適用を受ける犯罪は、締約国間の現行の犯罪人引渡条約における引渡犯罪とみなされる。締約国は、相互間で将来締結されるすべての犯罪人引渡条約にこの条の規定の適用を受ける犯罪を引渡犯罪として含めることを約束する。締約国は、自国がこの条約を引渡しの根拠とする場合において、自国の法律が認めるときは、この条約に従って定められる犯罪を政治犯罪とみなさない。
5 条約の存在を犯罪人引渡しの条件とする締約国は、自国との間に犯罪人引渡条約を締結していない他の締約国から犯罪人引渡しの請求を受けた場合には、この条約をこの条の規定の適用を受ける犯罪に関する犯罪人引渡しのための法的根拠とみなすことができる。
6 条約の存在を犯罪人引渡しの条件とする締約国は、次の措置をとる。
(a) この条約の批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託の際に、国際連合事務総長に対し、この条約を他の締約国との間における犯罪人引渡しに関する協力のための法的根拠とするか否かを通報すること。
(b) この条約を犯罪人引渡しに関する協力のための法的根拠としない場合において、適当なときは、この条の規定を実施するため、他の締約国と犯罪人引渡しに関する条約を締結するよう努めること。
7 条約の存在を犯罪人引渡しの条件としない締約国は、相互間で、この条の規定の適用を受ける犯罪を引渡犯罪と認める。
8 犯罪人引渡しは、請求を受けた締約国の国内法に定める条件又は適用可能な犯罪人引渡条約に定める条件に従う。これらの条件には、特に、犯罪人引渡しのために最低限度必要とされる刑に関する条件及び請求を受けた締約国が犯罪人引渡しを拒否することができる理由を含む。
9 締約国は、自国の国内法に従うことを条件として、この条の規定の適用を受ける犯罪につき、犯罪人引渡手続を迅速に行うよう努めるものとし、また、この手続についての証拠に関する要件を簡易にするよう努める。
10 請求を受けた締約国は、状況が正当かつ緊急であると認められる場合において、当該請求を行った締約国の請求があるときは、自国の国内法及び犯罪人引渡条約に従うことを条件として、その引渡しが求められている自国の領域内に所在する者を抑留することその他犯罪人引渡手続へのその者の出頭を確保するための適当な措置をとることができる。
11 容疑者が自国の領域内において発見された締約国は、この条の規定の適用を受ける犯罪につき当該容疑者が自国の国民であることのみを理由として引渡しを行わない場合には、犯罪人引渡しの請求を行った締約国からの要請により、不当に遅滞することなく、訴追のため自国の権限のある当局に事件を付託する義務を負う。当該権限のある当局は、自国の国内法に規定する重大性を有する他の犯罪の場合と同様の方法で決定を行い、及び手続を実施する。関係締約国は、このような訴追の効率性を確保するため、特に手続及び証拠に係る側面に関して相互に協力する。
12 締約国は、自国の国内法が、引渡しの請求に係る裁判又は手続の結果科された刑に服するために自国の国民が自国に送還されるとの条件下においてのみ当該自国の国民の引渡しを認める場合において、当該引渡しの請求を行う締約国との間でそのような方法をとること及び他の適当と認める条件について合意するときは、そのような条件付の引渡しによって11に規定する義務を履行することができる。
13 請求を受けた締約国は、刑の執行を目的とする犯罪人引渡しをその引渡しの対象となる者が自国の国民であるという理由により拒否した場合において、当該請求を行った締約国からの申出があるときは、自国の国内法が認め、かつ、その法律の要件に適合する限りにおいて、当該請求を行った締約国の国内法に従って言い渡された刑又はその残余の執行について考慮する。
14 いずれの者も、自己につきこの条の規定の適用を受ける犯罪のいずれかに関して訴訟手続がとられている場合には、そのすべての段階において公正な取扱い(その者が領域内に所在する締約国の国内法に定められたすべての権利及び保障の享受を含む。)を保障される。
15 この条約のいかなる規定も、犯罪人引渡しの請求を受けた締約国が、性、人種、宗教、国籍、民族的出身若しくは政治的意見を理由として当該請求の対象となる者を訴追し若しくは処罰するために当該請求が行われたと信じ、又は当該請求に応ずることによりその者の地位がこれらの理由によって害されると信ずるに足りる実質的な根拠がある場合には、引渡しを行う義務を課するものと解してはならない。
16 締約国は、犯罪が財政上の問題にも関連すると考えられることのみを理由として、犯罪人引渡しの請求を拒否することはできない。
17 犯罪人引渡しの請求を受けた締約国は、その引渡しを拒否する前に、適当な場合には、請求を行った締約国がその意見を表明し、及びその主張に関する情報を提供する機会を十分に与えるため、当該請求を行った締約国と協議する。
18 締約国は、犯罪人引渡しを行い、又はその実効性を高めるための二国間又は多数国間の協定又は取極を締結するよう努める。
第四十五条 刑を言い渡された者の移送
締約国は、この条約に従って定められる犯罪につき拘禁刑その他の形態の自由をはく奪する刑を言い渡された者が自国の領域においてその刑を終えることを可能とするため、これらの者の自国の領域への移送に関する二国間又は多数国間の協定又は取極を締結することを考慮することができる。
第四十六条 法律上の相互援助
1 締約国は、この条約の対象となる犯罪に関する捜査、訴追及び司法手続において、最大限の法律上の援助を相互に与える。
2 法律上の相互援助は、要請を行う締約国において第二十六条の規定に基づいて法人が責任を負う可能性のある犯罪に関して行われる捜査、訴追及び司法手続について、要請を受けた締約国の関連する法律、条約、協定及び取極の下で、最大限度可能な範囲で与える。
3 この条の規定に従って与えられる法律上の相互援助については、次の事項のために要請することができる。
(a) 供述の取得
(b) 裁判上の文書の送達の実施
(c) 捜索、押収及び凍結の実施
(d) 物及び場所の見分
(e) 情報、証拠物及び鑑定の提供
(f) 関連する文書及び記録(政府、銀行、財務、法人又は業務の記録を含む。)の原本又は証明された謄本の提供
(g) 証拠のための犯罪収益、財産及び道具その他の物の特定又は追跡
(h) 要請を行った締約国において人が任意に出頭することの促進
(i) その他の種類の援助であって要請を受けた締約国の国内法に違反しないもの
(j) 第五章の規定に基づく犯罪収益の特定、凍結及び追跡
(k) 第五章の規定に基づく財産の回復
4 締約国の権限のある当局は、刑事問題に関する情報が、他の締約国の権限のある当局が調査及び刑事手続を行い若しくはこれらを成功裡に完了させるための援助となり得るものであると信じ、又は当該他の締約国がこの条約に基づいて援助の要請を行うことにつながり得るものであると信ずる場合には、事前の要請がないときでも、自国の国内法の範囲内で当該情報を当該他の締約国の権限のある当局に送付することができる。
5 4の規定に基づく情報の送付は、当該情報を提供する権限のある当局の属する国における調査及び刑事手続を妨げるものではない。当該情報を受領した権限のある当局は、当該情報を秘密とすること(一時的に秘密とすることを含む。)の要請又は当該情報の使用に係る制限に従う。ただし、このことは、情報を受領した締約国が自国の手続において被告人の無罪の立証に資するような情報を開示することを妨げるものではない。この場合において、情報を受領した締約国は、情報を送付した締約国に対してその開示に先立って通報し、及び要請があったときは当該情報を送付した締約国と協議する。例外的に事前の通報が不可能であった場合には、情報を受領した締約国は、情報を送付した締約国に対し遅滞なくその開示について通報する。
6 この条の規定は、法律上の相互援助について全面的又は部分的に定める現行の又は将来締結される二国間又は多数国間の他の条約に基づく義務に影響を及ぼすものではない。
7 9から29までの規定は、関係締約国が法律上の相互援助に関する条約によって拘束されていない場合には、この条の規定に従って行われる要請について適用する。当該関係締約国がそのような条約によって拘束されている場合には、そのような条約の対応する規定は、当該関係締約国がこれらの規定に代えて9から29までの規定を適用することに合意する場合を除くほか、適用する。締約国は、9から29までの規定が協力を促進する場合には、これらの規定を適用することを強く奨励される。
8 締約国は、銀行による秘密の保持を理由としては、この条の規定に基づく法律上の相互援助を与えることを拒否することができない。
9(a) 要請を受けた締約国は、双罰性が満たされない場合において、この条の規定に基づく援助の要請に対応するに当たり、第一条に規定するこの条約の目的に留意する。
(b) 締約国は、双罰性が満たされないことを理由として、この条の規定に基づく援助を与えることを拒否することができる。ただし、要請を受けた締約国は、自国の法制の基本的な概念に反するものでない場合には、強制的な措置を伴わない援助を与える。そのような援助については、その要請が軽微な事項に関するものであるとき、又は協力若しくは援助が求められている事項がこの条約の他の規定に基づいて実現可能なものであるときは、拒否することができる。
(c) 締約国は、双罰性が満たされない場合において、この条の規定に基づく一層広範な援助を与えることを可能とするため、必要な措置をとることを考慮することができる。
10 一の締約国の領域内において拘禁され、又は刑に服している者については、当該者が確認、証言その他援助であってこの条約の対象となる犯罪に関する捜査、訴追又は司法手続のための証拠の収集に係るものの提供のために他の締約国において出頭することが要請された場合において、次の条件が満たされるときは、移送することができる。
(a) 当該者が事情を知らされた上で任意に同意を与えること。
(b) 双方の締約国の権限のある当局がこれらの締約国の適当と認める条件に従って合意すること。
11 10の規定の適用上、
(a) 10に規定する者が移送された締約国は、当該者を移送した締約国が別段の要請を行わず、又は承認を与えない限り、移送された当該者を抑留する権限を有し、及び義務を負う。
(b) 10に規定する者が移送された締約国は、自国及び当該者を移送した締約国の双方の権限のある当局による事前又は別段の合意に従い、移送された当該者をその移送した締約国による抑留のために送還する義務を遅滞なく履行する。
(c) 10に規定する者が移送された締約国は、当該者を移送した締約国に対し、当該者の送還のために犯罪人引渡手続を開始するよう要求してはならない。
(d) 移送された者が移送された締約国において抑留された期間は、当該者を移送した国における当該者の刑期に算入する。
12 移送された者は、10及び11の規定に従って当該者を移送する締約国が同意しない限り、その国籍のいかんを問わず、当該者を移送した国の領域を出発する前の行為、不作為又は有罪判決につき、当該者が移送された国の領域内において、訴追されず、拘禁されず、処罰されず、又は身体の自由についての他のいかなる制限も課せられない。
13 締約国は、法律上の相互援助の要請を受領し、及び当該要請を実施し、又は当該要請をその実施のために権限のある当局に送付する責任及び権限を有する中央当局を指定する。締約国は、法律上の相互援助につき別個の制度を有する特別の地域又は領域を有する場合には、当該特別の地域又は領域に関し同じ任務を有する別個の中央当局を指定することができる。中央当局は、受領した要請の迅速かつ適切な実施又は送付を確保する。中央当局は、受領した要請をその実施のために権限のある当局に送付する場合には、その要請が当該権限のある当局によって迅速かつ適切に実施されるよう奨励する。締約国は、この条約の批准書、受諾書、承認書又は加入書を寄託する際に、指定した中央当局を国際連合事務総長に通報する。法律上の相互援助の要請及びこれに関連する連絡は、締約国が指定した中央当局に対して行う。この規定は、このような要請及び連絡が、外交上の経路により又は緊急の状況において関係締約国が合意し、かつ、可能な場合には国際刑事警察機構を通じて行われることを要求する締約国の権利を害するものではない。
14 要請は、当該要請を受ける締約国が受け入れることができる言語による書面又は可能な場合には文書による記録を作成することのできる手段により、当該締約国がその真正を確認することができる条件の下で行う。締約国は、この条約の批准書、受諾書、承認書又は加入書を寄託する際に、自国が受け入れることができる一又は二以上の言語を国際連合事務総長に通報する。緊急の状況において関係締約国が合意する場合には、要請は、口頭によって行うことができるが、直ちに書面によって確認する。
15 法律上の相互援助の要請には、次の事項を含める。
(a) 要請を行う当局の特定
(b) 要請に係る捜査、訴追又は司法手続の対象及びその性質並びにこれらの捜査、訴追又は司法手続を行う当局の名称及び任務
(c) 関連する事実の概要(裁判上の文書の送達のための要請の場合を除く。)
(d) 要請する援助についての記載及び要請を行った締約国がとられることを希望する特別の手続の詳細
(e) 可能な場合には、関係者の身元、居所及び国籍
(f) 証拠、情報又は措置が求められる目的
16 要請を受けた締約国は、追加の情報が自国の国内法に従って当該要請を実施するために必要と認める場合又は追加の情報が当該要請の実施を容易にすることができる場合には、当該追加の情報を求めることができる。
17 要請は、当該要請を受けた締約国の国内法に従って実施し、並びに当該締約国の国内法に違反しない範囲内で及び可能な場合には、当該要請において明示された手続に従って実施する。
18 一の締約国の司法当局が他の締約国の領域内に所在する個人を証人又は専門家として尋問する必要がある場合において、当該個人が当該一の締約国の領域に直接出頭することが不可能であるか又は望ましくないときは、当該個人がその領域内に所在する当該他の締約国は、当該一の締約国の要請により、可能な限り、かつ、自国の国内法の基本原則に従って、ビデオ会議によって尋問を行うことを認めることができる。締約国は、要請を行った締約国の司法当局が尋問を実施し、及び要請を受けた締約国の司法当局がこれに立ち会うことを合意することができる。
19 要請を行った締約国は、当該要請を受けた締約国が提供した情報又は証拠を、当該要請を受けた締約国の事前の同意なしに、当該要請において明記された捜査、訴追又は司法手続以外のもののために送付してはならず、また、利用してはならない。この19の規定は、要請を行った締約国が自国の手続において被告人の無罪の立証に資するような情報又は証拠を開示することを妨げるものではない。この場合において、要請を行った締約国は、要請を受けた締約国に対してその開示に先立って通報し、及び要請があったときは当該要請を受けた締約国と協議する。例外的に事前の通報が不可能であった場合には、要請を行った締約国は、要請を受けた締約国に対し遅滞なくその開示について通報する。
20 要請を行った締約国は、当該要請を受けた締約国が当該要請の実施に必要な範囲を除くほか当該要請の事実及び内容を秘密のものとして取り扱うことを求めることができる。当該要請を受けた締約国が秘密のものとして取り扱うことができない場合には、当該要請を受けた締約国は、速やかにその旨を当該要請を行った締約国に通報する。
21 法律上の相互援助については、次の場合には、拒否することができる。
(a) 要請がこの条の規定に従って行われていない場合
(b) 要請を受けた締約国が、当該要請の実施により自国の主権、安全、公の秩序その他の重要な利益を害されるおそれがあると認める場合
(c) 要請を受けた締約国の当局が、当該要請に係る犯罪と同様の犯罪について捜査、訴追又は司法手続が当該当局の管轄内において行われているとした場合において、要請された措置をとることを自国の国内法により禁止されているとき。
(d) 要請を受け入れることが当該要請を受けた締約国の法律上の相互援助に関する法制に違反することとなる場合
22 締約国は、犯罪が財政上の問題にも関連すると考えられることのみを理由として、法律上の相互援助の要請を拒否することはできない。
23 法律上の相互援助を拒否する場合には、その理由を示さなければならない。
24 法律上の相互援助の要請を受けた締約国は、当該要請を可能な限り速やかに実施し、及び要請を行った締約国が理由を付して示す期限(その理由は当該要請において示されることが望ましい。)を可能な限り考慮する。要請を行った締約国は、要請を受けた締約国が当該要請に応ずるためにとった措置の状況及び進展に関する情報の提供について、合理的な要望を表明することができる。要請を受けた締約国は、当該要請の取扱い及びその取扱いにおける進展について、要請を行った締約国の合理的な要望に応ずる。要請された援助が必要でなくなった場合には、要請を行った締約国は、要請を受けた締約国に速やかに通報する。
25 要請を受けた締約国は、進行中の捜査、訴追又は司法手続が法律上の相互援助により妨げられることを理由として、その援助を延期することができる。
26 要請を受けた締約国は、21の規定に基づいて当該要請を拒否し、又は25の規定に基づいて当該要請の実施を延期する前に、自国が必要と認める条件に従って援助を行うか否かについて検討するために当該要請を行った締約国と協議する。当該要請を行った締約国は、当該条件に従って援助を受ける場合には、その条件に従う。
27 12の規定の適用を妨げることなく、要請を行った締約国の求めに応じて当該要請を行った締約国の領域内で司法手続において証言を行い、又は捜査、訴追若しくは司法手続に協力することに同意する証人、専門家その他の者は、当該要請を受けた締約国の領域を出発する前の行為、不作為又は有罪判決につき、当該要請を行った締約国の領域において訴追されず、拘禁されず、処罰されず、又は身体の自由についての他のいかなる制限も課せられない。このような保証措置は、当該証人、専門家その他の者が、当該要請を行った締約国の司法当局により出頭することを要求されなくなったことを公式に伝えられた日から引き続く十五日の期間(当該両締約国が合意する期間がある場合には、その期間)内において当該要請を行った締約国の領域から離れる機会を有していたにもかかわらず当該領域内に任意に滞在していたときにあっては当該期間が満了した時に又は当該領域から離れた後自己の自由意思で当該領域に戻ってきたときにあってはその時に、それぞれ終了する。
28 要請の実施に要する通常の費用は、関係締約国間において別段の合意がある場合を除くほか、当該要請を受けた締約国が負担する。要請を実施するために高額の経費又は特別な性質の経費が必要であり、又は必要となる場合には、関係締約国は、当該要請を実施する条件及び費用の負担の方法を決定するために協議する。
29 要請を受けた締約国は、
(a) 自国が保有する政府の記録文書、文書又は情報であって自国の国内法上公衆が入手することができるものの写しを要請を行った締約国に提供する。
(b) 裁量により、自国が保有する政府の記録文書、文書又は情報であって自国の国内法上公衆が入手することができないものの写しの全部又は一部を、適当と認める条件に従い、要請を行った締約国に提供することができる。
30 締約国は、必要な場合には、この条の規定の目的に寄与し、この条の規定を効果的に実施し、又はこの条の規定を拡充するための二国間又は多数国間の協定又は取極の締結の可能性を考慮する。
第四十七条 刑事手続の移管
締約国は、裁判の正当な運営の利益になると認める場合、特に二以上の裁判権が関係している場合には、訴追を集中させるために、この条約に従って定められる犯罪の訴追のための手続を相互に移管することの可能性を考慮する。
第四十八条 法執行のための協力
1 締約国は、自国の法律上及び行政上の制度に従い、この条約の対象となる犯罪と戦うための法執行の活動の実効性を高めるため、相互にかつ緊密に協力する。締約国は、特に次の事項のための効果的な措置をとる。
(a) この条約の対象となる犯罪のすべての側面(自国が適当と認める場合には、他の犯罪活動との関連を含む。)に関する情報の確実かつ迅速な交換を促進するため、権限のある当局、機関及び部局の相互間の連絡の経路を強化し、並びに必要なときはこれを設けること。
(b) この条約の対象となる犯罪について次の事項に関して調査するに当たり、他の締約国と協力すること。
(i) 当該犯罪にかかわっていると疑われる者の身元、所在及び活動又は他の関係者の所在
(ii) 当該犯罪の実行により生じた犯罪収益又は財産の移動
(iii) 当該犯罪の実行に用い、又は用いることを予定していた財産、装置又は他の道具の移動
(c) 適当な場合には、分析又は捜査のために必要な物品又は必要な量の物質を提供すること。
(d) 適当な場合には、この条約の対象となる犯罪の実行に使用される特定の手段及び方法(虚偽の身元関係事項、偽造され若しくは変造された文書又は虚偽の文書及び犯罪活動を隠匿する他の手段の利用を含む。)について、他の締約国と情報を交換すること。
(e) 権限のある当局、機関及び部局の相互間の効果的な調整を促進し、並びに職員その他の専門家の交流(関係締約国間の二国間の協定又は取極に従うことを条件として連絡員を配置することを含む。)を推進すること。
(f) この条約の対象となる犯罪の早期発見のため、情報を交換し、及び適宜とられる行政上その他の措置について調整すること。
2 締約国は、この条約を実施するため、それぞれの法執行機関の間で直接協力することに関する二国間又は多数国間の協定又は取極を締結することを考慮し、及びこのような協定又は取極が既に存在する場合には、これらを改正することを考慮する。締約国は、関係締約国間にこのような協定又は取極がない場合には、この条約の対象となる犯罪に関し、この条約を法執行に関する相互の協力の根拠とみなすことができる。締約国は、適当な場合には、それぞれの法執行機関の間の協力を促進するため、協定又は取極(国際機関又は地域機関を含む。)を十分に利用する。
3 締約国は、最新の技術を利用して行われるこの条約の対象となる犯罪に対応するため、自国の有する手段の範囲内で協力するよう努める。
第四十九条 共同捜査
締約国は、一又は二以上の国において捜査、訴追又は司法手続の対象となる事項に関し、関係を有する権限のある当局が共同捜査班を設けることができることを定める二国間又は多数国間の協定又は取極を締結することを考慮する。このような協定又は取極がない場合には、共同捜査は、個々にその事例に応じて合意によって行うことができる。関係締約国は、領域内において共同捜査が行われる締約国の主権が十分に尊重されることを確保する。
第五十条 特別な捜査方法
1 締約国は、腐敗行為と効果的に戦うため、自国の国内法制の基本原則によって認められる限り、かつ、自国の国内法によって定められる条件に従い、自国の権限のある当局が自国の領域内において監視付移転及び適当と認める場合にはその他の特別な捜査方法(電子的その他の形態による監視、潜入して行う捜査等をいう。)を適宜利用することができるようにするため、並びにこれらの特別な捜査方法から得られた証拠の裁判における使用を可能とするため、自国の有する手段の範囲内で必要な措置をとる。
2 締約国は、この条約の対象となる犯罪を捜査するため、必要な場合には、国際的な協力において1に規定する特別な捜査方法を利用するための適当な二国間又は多数国間の協定又は取極を締結することを奨励される。このような協定又は取極は、国の主権平等の原則を完全に遵守して締結され、及び実施されなければならず、かつ、当該協定又は取極に定める条件に厳格に従って実施されなければならない。
3 2に規定する協定又は取極がない場合には、1に規定する特別な捜査方法を国際的に利用することの決定は、個々にその事例に応じて行うものとし、また、必要な場合には、その決定に当たり、財政上の取極及び関係締約国の裁判権の行使に関する了解を考慮に入れることができる。
4 監視付移転を国際的に利用することの決定には、関係締約国の同意の下に、物品又は資金を差し止めた上で、当該物品若しくは資金をそのままにして又はそれらの全部若しくは一部を抜き取って若しくは差し替えて、当該物品又は資金が引き続き送付されることを認める等の方法を含めることができる。

第五章 財産の回復

第五十一条 一般規定
この章の規定に基づく財産の返還は、この条約の基本原則を成すものであり、締約国は、これについて最大限の協力及び援助を相互に行う。
第五十二条 犯罪収益の移転の防止及び探知
1 第十四条の規定の適用を妨げることなく、締約国は、自国の管轄内にある金融機関に対し、顧客の身元を確認すること、高額の預金を有する口座にある資金の受益者の身元を確定するための妥当な措置をとること並びに重要な公的任務を与えられている若しくは与えられていた者、その者の家族及びその者と密接な関係を有する者によって又はこれらの者に代わって開設される又は維持されている口座について厳格な審査を行うことを求めるため、自国の国内法に従って必要な措置をとる。この厳格な審査は、権限のある当局への報告のため、疑わしい取引を探知することを目的として妥当に行われるものとし、金融機関が正当な権利を有する顧客と取引を行うことを抑制し、又は禁止するものと解するべきではない。
2 締約国は、1に規定する措置の実施を容易にするため、自国の国内法に従い、かつ、地域機関、地域間機関及び多数国間機関による関連の提案であって資金洗浄と戦うためのものを参照しつつ、次のことを行う。
(a) 自国の管轄内にある金融機関により厳格な審査を適用することが求められる口座を有する自然人又は法人の類型、特別の注意を払うべき口座及び取引の類型並びにこれらの口座の開設、維持及び記録保持についての適当な措置に関する勧告を発出すること。
(b) 適当な場合には、他の締約国の要請又は自国の発意により、自国の管轄内にある金融機関に対し、これらの金融機関が別途身元を確認することのできる者以外の自然人又は法人であって厳格な審査を適用することが求められる口座を有する特定のものの身元関係事項について通報すること。
3 締約国は、2(a)の規定の実施に当たり、自国の金融機関が1に規定する者に係る口座及び取引の適当な記録(これらの記録には、少なくとも、顧客及び知り得る限りの受益者の身元に関する情報を含めるべきである。)を適当な期間保持することを確保するための措置をとる。
4 締約国は、この条約に従って定められる犯罪の収益の移転を防止し、及び探知するため、自国の規制機関及び監督機関の支援を得て、実体がなく、かつ、規制されている金融上の集団に加入していない銀行の設立を防止するための適当かつ効果的な措置をとる。また、締約国は、自国の金融機関に対し、これらの銀行との取引関係の確立又は継続を拒否すること及びこれらの銀行による口座の利用を認める外国の金融機関との関係の確立を防止することを求めることを考慮することができる。
5 締約国は、自国の国内法に従い、適当な公務員について金融上の情報開示に関する効果的な制度を設けることを考慮し、及びそのような情報開示の不履行に対する適当な制裁について定める。また、締約国は、この条約に従って定められる犯罪の収益について捜査し、及び請求を行い、並びに当該収益を回収するために必要な場合には、自国の権限のある当局が他の締約国の権限のある当局と情報を共有することを認めるため、必要な措置をとることを考慮する。
6 締約国は、外国にある金融機関の口座について権益又は署名その他の権限を有する適当な公務員に対し、適当な当局にそのような関係について報告し、及びこれらの口座に関する適当な記録を保持することを求めるため、自国の国内法に従って必要な措置をとることを考慮する。この措置には、不履行に対する適当な制裁について定めることも含める。
第五十三条 財産の直接的な回復のための措置
締約国は、自国の国内法に従い、次のことを行う。
(a) 自国の裁判所において、他の締約国がこの条約に従って定められる犯罪の実行によって取得された財産に関する権原又は所有権を確定するために民事訴訟を提起することを認めるため、必要な措置をとること。
(b) 自国の裁判所がこの条約に従って定められる犯罪により損害を被った他の締約国に対する賠償の支払を当該犯罪を実行した者に対して命じることを認めるため、必要な措置をとること。
(c) 自国の裁判所又は権限のある当局がこの条約に従って定められる犯罪の実行によって取得された財産を没収することを決定する場合において、当該裁判所又は当該当局が当該財産の正当な所有者としての他の締約国の請求を認めることを可能とするため、必要な措置をとること。
第五十四条 没収についての国際協力による財産の回復のための仕組み
1 締約国は、この条約に従って定められる犯罪の実行によって取得された財産又は当該犯罪の実行に関連する財産に関し、次条の規定に基づく法律上の相互援助を提供するため、自国の国内法に従って次のことを行う。
(a) 自国の権限のある当局が他の締約国の裁判所の出した没収についての命令を執行することを認めるため、必要な措置をとること。
(b) 自国の権限のある当局が管轄権を有する場合において、資金洗浄その他自国が裁判権を有する犯罪についての裁判又は自国の国内法が認めるその他の手続により、外国に起源を有する財産の没収を当該当局が命じることを認めるため、必要な措置をとること。
(c) 死亡、逃亡又は不在を理由として犯人を訴追することができない場合その他適当な場合において、有罪判決なしにこれらの財産を没収することを認めるため、必要な措置をとることを考慮すること。
2 締約国は、次条2に規定する要請に基づき法律上の相互援助を提供するため、自国の国内法に従って次のことを行う。
(a) 要請を行った締約国の裁判所又は権限のある当局が出した凍結又は押収についての命令であって、凍結又は押収を行う十分な理由があり、かつ、財産が最終的に1(a)に規定する没収についての命令の対象となると信ずるに足りる妥当な根拠を与えるものに基づき、自国の権限のある当局が当該財産を凍結し、又は押収することを認めるため、必要な措置をとること。
(b) 凍結又は押収を行う十分な理由があり、かつ、財産が最終的に1(a)に規定する没収についての命令の対象となると信ずるに足りる妥当な根拠を与える要請に基づき、自国の権限のある当局が当該財産を凍結し、又は押収することを認めるため、必要な措置をとること。
(c) 自国の権限のある当局が、財産の取得に係る外国での逮捕、刑事訴追等を理由として、没収に備えて当該財産を保全することを認めるため、追加的な措置をとることを考慮すること。
第五十五条 没収のための国際協力
1 締約国は、第三十一条1に規定する犯罪収益、財産、装置又は他の道具が自国の領域内にある場合において、この条約に従って定められる犯罪について裁判権を有する他の締約国から没収の要請を受けたときは、自国の国内法制において最大限度可能な範囲で、次のいずれかの措置をとる。
(a) 没収についての命令を得るため、当該要請を自国の権限のある当局に提出し、当該命令が出されたときは、これを執行すること。
(b) 当該要請を行った締約国の領域内にある裁判所により出された第三十一条1及び前条1(a)の規定に基づく没収についての命令が、自国の領域内にある第三十一条1に規定する犯罪収益、財産、装置又は他の道具に関するものであるときは、要請される範囲内で当該命令を執行するため、自国の権限のある当局にこれを提出すること。
2 締約国は、この条約に従って定められる犯罪について裁判権を有する他の締約国による要請を受けた場合には、当該他の締約国又は1に規定する要請に従い自国が没収についての命令を最終的に出すために第三十一条1に規定する犯罪収益、財産、装置又は他の道具を特定し、追跡し、及び凍結し、又は押収することができるようにするための措置をとる。
3 第四十六条の規定は、この条の規定を適用する場合について準用する。この条に規定する要請には、第四十六条15に規定する情報のほか、次の事項を含める。
(a) 1(a)の規定に関する要請にあっては、没収されるべき財産についての記載(可能な限り、当該財産の所在地及び適当な場合にはその見積価額を含める。)及び当該要請を行った締約国が基礎とする事実であって、当該要請を受けた締約国がその国内法に従い命令を求めることを可能とするに足りるものの記述
(b) 1(b)の規定に関する要請にあっては、当該要請を行った締約国が出した当該要請に係る没収についての命令の法律上認められる謄本、事実の記述及び命令の執行が要請される範囲に関する情報、善意の第三者に対し適切な通報を行い、かつ、適正な手続を確保するために当該要請を行った締約国がとった措置の記述並びに当該没収についての命令が最終的なものである旨の記述
(c) 2の規定に関する要請にあっては、当該要請を行った締約国が基礎とする事実の記述及び要請する措置についての記載並びに可能な場合には当該要請に係る命令の法律上認められる謄本
4 1及び2に規定する処分又は行為は、要請を受けた締約国の国内法及び手続規則又は当該要請を受けた締約国を当該要請を行った締約国との関係において拘束する二国間若しくは多数国間の協定若しくは取極に従って、かつ、これらを条件として行う。
5 締約国は、この条の規定を実施する自国の法令の写し及びその法令に変更があった場合にはその変更後の法令の写し又はこれらの説明を国際連合事務総長に提出する。
6 関連する条約の存在を1及び2の措置をとるための条件とする締約国は、この条約を必要かつ十分な根拠となる条約として取り扱う。
7 要請を受けた締約国は、十分かつ適時に証拠を受領していない場合又は当該財産の価値がわずかなものである場合には、この条の規定に基づく協力を拒否することができ、また、暫定措置を解除することができる。
8 要請を受けた締約国は、この条の規定に基づく暫定措置を解除する前に、可能な限り、要請を行った締約国に対し、当該暫定措置の継続を希望する理由を提示する機会を与える。
9 この条の規定は、善意の第三者の権利を害するものと解してはならない。
第五十六条 特別な協力
締約国は、この条約に従って定められる犯罪の収益に関する情報の開示が他の締約国による捜査、訴追若しくは司法手続の開始若しくは実施に役立ち、又は他の締約国がこの章の規定に基づく要請を行うことにつながり得ると認める場合には、自国の国内法の適用を妨げることなく、かつ、自国の捜査、訴追又は司法手続に影響を及ぼすことなく、当該他の締約国に対して事前の要請なしにこれらの情報を送付することを可能とするための措置をとるよう努める。
第五十七条 財産の返還及び処分
1 締約国が第三十一条又は第五十五条の規定により没収した財産は、当該締約国がこの条約及び自国の国内法に従って処分する。この処分には、3の規定に従い当該財産を正当な権利を有する従前の所有者へ返還することを含む。
2 締約国は、自国の権限のある当局が、他の締約国の要請に応じて行動する場合において、善意の第三者の権利を考慮しつつ、没収された財産をこの条約に従って返還することができるようにするため、自国の国内法の基本原則に従って必要な立法その他の措置をとる。
3 要請を受けた締約国は、第四十六条、第五十五条並びにこの条の1及び2の規定に従って、次のことを行う。
(a) 第十七条及び第二十三条に規定する公的資金の横領又は横領された公的資金の洗浄の場合については、没収が第第五十五条の規定に従って、かつ、当該要請を行った締約国における確定判決に基づいて行われたときは、当該要請を行った締約国に対し、没収された財産を返還すること。もっとも、当該要請を受けた締約国は、確定判決に基づくという要件を放棄することができる。
(b) この条約の対象となる他の犯罪の収益については、没収が第五十五条の規定に従って、かつ、当該要請を行った締約国における確定判決に基づいて行われた場合において、当該要請を行った締約国が当該要請を受けた締約国に対し没収された財産の従前の所有権を合理的な程度に立証するとき、又は当該要請を受けた締約国が没収された財産の返還の根拠として当該要請を行った締約国に損害が生じていることを認めるときは、当該要請を行った締約国に対し、没収された財産を返還すること。もっとも、当該要請を受けた締約国は、確定判決に基づくという要件を放棄することができる。
(c) その他のすべての場合については、当該要請を行った締約国若しくは正当な権利を有する従前の所有者に対し没収された財産を返還し、又は犯罪の被害者に対し補償を行うことを優先的に考慮すること。
4 要請を受けた締約国は、要請を行った締約国との間で別段の決定を行わない限り、没収された財産をこの条の規定に従って返還し、又は処分する場合において適当なときは、捜査、訴追又は司法手続において生じた相当の経費を差し引くことができる。
5 締約国は、適当な場合には、没収された財産の最終的な処分のため、個々にその事例に応じて協定又は相互に受諾し得る取極を締結することにつき、特別な考慮を払うことができる。
第五十八条 金融情報機関
締約国は、この条約に従って定められる犯罪の収益の移転を防止し、及びこれと戦うこと並びに当該収益を回収する方法及び手段の発展を促進することを目的として相互に協力するものとし、このため、疑わしい金融取引に関する報告を受領し、分析し、及び権限のある当局に送付することについて責任を有する金融情報機関の設置を考慮する。
第五十九条 二国間及び多数国間の協定及び取極
締約国は、この章の規定に基づく国際協力の実効性を高めるため、二国間又は多数国間の協定又は取極を締結することを考慮する。

第六章 技術援助及び情報交換

第六十条 訓練及び技術援助
1 締約国は、必要な範囲内で、腐敗行為を防止し、及びこれと戦うことについて責任を有する自国の職員のための特別な訓練計画を開始し、発展させ、又は改善する。その訓練計画には、特に次の事項を含めることができる。
(a) 腐敗行為の防止、探知、捜査、処罰及び取締りのための効果的な措置(各種の証拠収集の方法及び捜査方法の利用を含む。)
(b) 戦略的な腐敗行為の防止に関する政策の策定及び立案についての能力を構築すること。
(c) この条約の要件を満たす法律上の相互援助の要請に備えて権限のある当局を訓練すること。
(d) 制度、公的役務及び財政(公的調達を含む。)の管理並びに民間部門の管理の評価及び強化
(e) この条約に従って定められる犯罪の収益の移転を防止し、及びこれと戦い、並びに当該収益を回収すること。
(f) この条約に従って定められる犯罪の収益の移転を探知し、及び凍結すること。
(g) この条約に従って定められる犯罪の収益の移動を監視し、及び当該収益の移転、隠匿又は偽装に用いられる方法について監視すること。
(h) この条約に従って定められる犯罪の収益の返還を容易にするための適当かつ効果的な法律上及び行政上の仕組み及び方法
(i) 司法当局に協力する被害者及び証人を保護するために用いられる方法
(j) 国内法令及び国際的な規則並びに語学に関する訓練
2 締約国は、自国の能力に応じ、特に開発途上国の利益のため、腐敗行為と戦うための自国の計画において最大限の技術援助(1に規定する事項に関する物的援助及び訓練、並びに犯罪人引渡し及び法律上の相互援助の分野における締約国間の国際協力を容易にするような訓練、援助並びに関連の経験及び専門知識の交流を含む。)を相互に与えることを考慮する。
3 締約国は、必要な範囲内で、実務上及び訓練上の活動であって、国際機関及び地域機関におけるもの並びに関連する二国間及び多数国間の協定又は取極に基づく枠組みにおけるものを最大限に活用するための努力を強化する。
4 締約国は、権限のある当局及び社会の参加を得つつ、腐敗行為と戦うための戦略及び行動計画を作成するため、自国における腐敗行為の類型、原因及び影響並びに腐敗行為による損失に関する評価、研究及び調査を行うに当たり、要請に応じて相互に援助することを考慮する。
5 締約国は、この条約に従って定められる犯罪の収益の回収を容易にすることを目的として、その目的の達成を援助することができる専門家の氏名を相互に提供することについて協力することができる。
6 締約国は、協力及び技術援助を促進し、並びに相互に関心のある問題(開発途上国及び移行経済国に特有の問題及び必要性を含む。)についての討論を奨励するために、小地域的、地域的及び国際的な会議及びセミナーを利用することを考慮する。
7 締約国は、技術援助の計画及び事業を通じ、この条約を適用するための開発途上国及び移行経済国の努力に対し資金面において貢献するため、任意の仕組みを確立することを考慮する。
8 締約国は、この条約の実施に当たり、国際連合薬物犯罪事務所を通じて開発途上国における計画及び事業を促進するために、同事務所に対して任意の拠出を行うことを考慮する。
第六十一条 腐敗行為に関する情報の収集、交換及び分析
1 締約国は、専門家の協力を得て、自国の領域内における腐敗行為の傾向及び腐敗行為に関する犯罪が行われる事情を分析することを考慮する。
2 締約国は、相互に並びに国際機関及び地域機関を通じて、共通の定義、基準及び方法を可能な限り定めるため統計を作成し、腐敗行為に関する分析についての専門知識を発展させ、及び資料を作成し、並びに腐敗行為を防止し、及びこれと戦うための最良の慣行に関する資料を作成し、並びにこれらを共有することを考慮する。
3 締約国は、腐敗行為と戦うための自国の政策及び実際の措置を監視し、並びにこれらの政策及び措置の実効性及び効率性を評価することを考慮する。
第六十二条 その他の措置(経済的な発展及び技術援助を通じたこの条約の実施)
1 締約国は、腐敗が社会一般、特に持続的な発展に及ぼす悪影響を考慮して、国際協力を通じ、可能な範囲内で、この条約の最も適当な実施に貢献する措置をとる。
2 締約国は、相互に並びに国際機関及び地域機関と調整の上、可能な範囲内で、次の事項のために具体的な努力を払う。
(a) 腐敗行為を防止し、及びこれと戦うための開発途上国の能力を強化するため、様々なレベルにおける開発途上国との間の協力を促進すること。
(b) 効果的に腐敗行為を防止し、及びこれと戦うための開発途上国の努力を支援するため並びに開発途上国がこの条約を成功裡に実施することを援助するため、財政的及び物的な援助を促進すること。
(c) 開発途上国及び移行経済国がこの条約を実施する上での必要性を満たすことができるよう援助するため、これらの国に技術援助を与えること。このため、締約国は、国際連合の資金調達の仕組みにおけるこの目的のために特に指定された口座に十分かつ定期的に任意の拠出を行うよう努める。また、締約国は、自国の国内法及びこの条約に従い、この条約に従って没収された金銭又は犯罪収益若しくは財産の価額の一定の割合を当該口座に拠出することを特に考慮することができる。
(d) 他の国及び金融機関に対し、締約国がこの条の規定の下で行う努力に参加すること(特に、開発途上国がこの条約の目的を達成することを援助するためにより多くの訓練計画及び最新の装置を開発途上国に提供すること)を適宜奨励し、及び説得すること。
3 この条に規定する措置は、可能な限り、現行の対外援助の約束及びその他の資金協力に関する二国間の、地域的な又は国際的な取極に影響を及ぼさないようなものとする。
4 締約国は、この条約に定める国際協力の手段を効果的なものとするため並びに腐敗行為の防止、探知及び取締りのために必要な財政上の取極を考慮に入れて、物的援助及び業務上の援助に関する二国間又は多数国間の協定又は取極を締結することができる。

第七章 条約の実施のための仕組み

第六十三条 締約国会議
1 この条約の目的を達成するために締約国の能力を向上させ、及び締約国間の協力を促進するため、並びにこの条約の実施を促進し、及び検討するため、この条約により締約国会議を設置する。
2 国際連合事務総長は、この条約の効力発生の後一年以内に締約国会議を招集する。その後は、締約国会議が採択する手続規則に従って、締約国会議の通常会合を開催する。
3 締約国会議は、手続規則及びこの条に規定する活動の運営を規律するための規則(オブザーバーの出席及び参加に関する規則並びに当該活動に要する経費の支払に関する規則を含む。)を採択する。
4 締約国会議は、1に規定する目的を達成するための活動、手続及び作業方法について合意する。これらの活動等には、次のことを含める。
(a) 第六十条及び前条並びに第二章から第五章までの規定に基づく締約国の活動を促進すること(任意の拠出の調達を促進することによるものを含む。)。
(b) 腐敗行為の形態及び傾向に関する情報並びに腐敗行為の防止及びこれとの戦い並びに犯罪収益の返還において成功した措置に関する情報の交換を、特にこの条に規定する関連情報の公表を通じ、締約国間で促進すること。
(c) 関連する国際的及び地域的な機関及び仕組み並びに非政府機関と協力すること。
(d) 作業の不必要な重複を避けるため、腐敗行為と戦い、及びこれを防止するための他の国際的及び地域的な仕組みにより提供される関連情報を適宜利用すること。
(e) 締約国によるこの条約の実施状況を定期的に検討すること。
(f) この条約及びその実施の改善のための勧告を行うこと。
(g) この条約の実施に関する締約国の技術援助の必要性に留意すること及びこれについて必要と認める措置を勧告すること。
5 4の規定の適用上、締約国会議は、締約国が提供する情報及び締約国会議が設ける補足的な検討の仕組みを通じて、この条約の実施に当たり締約国がとった措置及びその際に直面した困難に関する必要な知識を入手するものとする。
6 締約国は、締約国会議から要請があったときは、この条約を実施するための計画及び実行並びに立法上及び行政上の措置に関する情報を締約国会議に提供する。締約国会議は、情報(特に、締約国及び権限のある国際機関からの情報を含む。)を受領し、及び当該情報に基づいて行動するための最も効果的な方法について検討する。締約国会議は、締約国会議が決定する手続に従って認定された関連の非政府機関から受領する情報についても、考慮することができる。
7 締約国会議は、必要と認める場合には、4から6までの規定により、この条約の効果的な実施を援助するための適当な仕組み又は機関を設置する。
第六十四条 事務局
1 国際連合事務総長は、締約国会議のために必要な事務局の役務を提供する。
2 事務局は、次の任務を遂行する。
(a) 締約国会議が前条に規定する活動を行うに当たり、締約国会議を補佐し、その会合を準備し、及びこれに必要な役務を提供すること。
(b) 締約国が前条5及び6に規定する締約国会議への情報の提供を行うに当たり、要請に応じて、当該締約国を補佐すること。
(c) 関連する国際機関及び地域機関の事務局と必要な調整を行うこと。

第八章 最終規定

第六十五条 条約の実施
1 締約国は、この条約に定める義務の履行を確保するため、自国の国内法の基本原則に従って、必要な措置(立法上及び行政上の措置を含む。)をとる。
2 締約国は、腐敗行為を防止し、及びこれと戦うため、この条約に定める措置よりも厳しい措置をとることができる。
第六十六条 紛争の解決
1 締約国は、この条約の解釈又は適用に関する紛争を交渉によって解決するよう努める。
2 この条約の解釈又は適用に関する締約国間の紛争で交渉によって合理的な期間内に解決することができないものは、いずれかの紛争当事国の要請により、仲裁に付される。仲裁の要請の日の後六箇月で仲裁の組織について紛争当事国が合意に達しない場合には、いずれの紛争当事国も、国際司法裁判所規程に従って国際司法裁判所に紛争を付託することができる。
3 締約国は、この条約の署名、批准、受諾若しくは承認又はこの条約への加入の際に、2の規定に拘束されない旨を宣言することができる。他の締約国は、そのような留保を付した締約国との関係において2の規定に拘束されない。
4 3の規定に基づいて留保を付した締約国は、国際連合事務総長に対する通告により、いつでもその留保を撤回することができる。
第六十七条 署名、批准、受諾、承認及び加入
1 この条約は、二千三年十二月九日から十一日まではメキシコのメリダにおいて、その後は、二千五年十八五二月九日までニューヨークにある国際連合本部において、すべての国による署名のために開放しておく。
2 この条約は、また、地域的な経済統合のための機関の構成国のうち少なくとも一の国が1の規定に従ってこの条約に署名していることを条件として、当該機関による署名のために開放しておく。
3 この条約は、批准され、受諾され、又は承認されなければならない。批准書、受諾書又は承認書は、国際連合事務総長に寄託する。地域的な経済統合のための機関は、その構成国のうち少なくとも一の国が批准書、受諾書又は承認書を寄託している場合には、当該機関の批准書、受諾書又は承認書を寄託することができる。当該機関は、当該批准書、受諾書又は承認書において、この条約の規律する事項に関する自己の権限の範囲を宣言する。また、当該機関は、自己の権限の範囲の変更で関連するものを寄託者に通報する。
4 この条約は、すべての国又は地域的な経済統合のための機関であってその構成国のうち少なくとも一の国がこの条約の締約国であるものによる加入のために開放しておく。加入書は、国際連合事務総長に寄託する。地域的な経済統合のための機関は、その加入の際に、この条約の規律する事項に関する自己の権限の範囲を宣言する。また、当該機関は、自己の権限の範囲の変更で関連するものを寄託者に通報する。
第六十八条 効力発生
1 この条約は、三十番目の批准書、受諾書、承認書又は加入書が寄託された日の後九十日目の日に効力を生ずる。この1の規定の適用上、地域的な経済統合のための機関によって寄託される文書は、当該機関の構成国によって寄託されたものに追加して数えてはならない。
2 三十番目の批准書、受諾書、承認書又は加入書が寄託された後にこの条約を批准し、受諾し、承認し、又はこれに加入する国又は地域的な経済統合のための機関については、この条約は、当該国若しくは地域的な経済統合のための機関によりこれらの文書が寄託された日の後三十日目の日又は1の規定によりこの条約が効力を生ずる日のうちいずれか遅い日に効力を生ずる。
第六十九条 改正
1 締約国は、この条約の効力発生から五年を経過した後は、改正を提案し、及び改正案を国際連合事務総長に提出することができる。同事務総長は、直ちに、締約国及び締約国会議に対し、改正案をその審議及び決定のために送付する。締約国会議は、各改正案につき、コンセンサス方式により合意に達するようあらゆる努力を払う。コンセンサスのためのあらゆる努力にもかかわらず合意に達しない場合には、改正案は、その採択のため、最後の解決手段として、締約国会議の会合に出席し、かつ、投票する締約国の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
2 地域的な経済統合のための機関は、その権限の範囲内の事項について、この条約の締約国であるその構成国の数と同数の票を投票する権利を行使する。当該機関は、その構成国が自国の投票権を行使する場合には、投票権を行使してはならない。その逆の場合も、同様とする。
3 1の規定に従って採択された改正は、締約国によって批准され、受諾され、又は承認されなければならない。
4 1の規定に従って採択された改正は、締約国が国際連合事務総長に当該改正の批准書、受諾書又は承認書を寄託した日の後九十日で当該締約国について効力を生ずる。
5 改正は、効力を生じたときは、その改正に拘束されることについての同意を表明した締約国を拘束する。他の締約国は、改正前のこの条約の規定(批准し、受諾し、又は承認した従前の改正を含む。)により引き続き拘束される。
第七十条 廃棄
1 締約国は、国際連合事務総長に対して書面による通告を行うことにより、この条約を廃棄することができる。廃棄は、同事務総長がその通告を受領した日の後一年で効力を生ずる。
2 地域的な経済統合のための機関は、当該機関のすべての構成国がこの条約を廃棄した場合には、この条約の締約国でなくなる。
第七十一条 寄託者及び言語
1 国際連合事務総長は、この条約の寄託者に指定される。
2 アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とするこの条約の原本は、国際連合事務総長に寄託する。
以上の証拠として、下名の全権委員は、各自の政府から正当に委任を受けてこの条約に署名した。

  「ウィキソース」より

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

1884年(明治17)秩父事件が起きる詳細
1903年(明治36)土佐藩士・自由民権家・政治家片岡健吉の命日詳細
1934年(昭和9)小説家・児童文学作家灰谷健次郎の誕生日詳細
1940年(昭和15)タバコの改名が発表される(ゴールデンバット→金鵄、チェリー→桜、カメリア→椿など)詳細
1943年(昭和18)「軍需会社法」が公布される詳細
1964年(昭和39)関門連絡船の最後の便が就航し、この日限りで廃止される詳細
1967年(昭和42)医学者佐々木隆興の命日詳細
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kakujittken01
 今日は、昭和時代中期の1963年(昭和38)に、「部分的核実験禁止条約(PTBT)」が発効した日です。
 「部分的核実験禁止条約(PTBT)」(ぶぶんてきかくじっけんきんしじょうやく)は、1963年(昭和38)8月5日にアメリカ合衆国、イギリス、ソ連の3国外相により、モスクワで正式調印された、核兵器の一部の核実験停止を決めた国際条約で、正式名称は、「大気圏内、宇宙空間及び水中における核兵器実験を禁止する条約」と言います。前文および本文5条からなり、大気圏内、宇宙空間、水中での核実験は禁止されたものの、地下核実験は抜け道として残されました。
 同年10月10日に発効し、それまでに108ヶ国(原調印国を含め111ヶ国)がこの条約に調印しましたが、中華人民共和国、フランスを含む十数ヶ国は調印していません。日本は、同年8月14日に調印し、1964年(昭和39)6月15日より効力が発生しました。
 その後、アメリカ合衆国とソ連(1991年以降はロシア)は、1968年(昭和43)に「核拡散防止条約(NPT)」、1974年(昭和49)に「地下核実験制限条約(TTBT)」、1978年(昭和53)に「平和目的地下核実験制限条約(PNET)」、1996年(平成8)に「包括的核実験禁止条約(CTBT)」に調印しています。
 以下に、「大気圏内、宇宙空間及び水中における核兵器実験を禁止する条約」の英語版原文と日本語訳を掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「大気圏内、宇宙空間及び水中における核兵器実験を禁止する条約」 1963年(昭和38)8月5日調印、1963年(昭和38)10月10日発効

<英語版原文>

Treaty Banning Nuclear Weapon Test in the Atmosphere, in outer Space and under Water

The Governments of the United Sates of America, the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland, and the Union of Soviet Socialist Republics, hereinafter referred to as the "Original Parties",
Proclaiming as their principal aim the speediest possible achievement of an agreement on general and complete disarmament under strict international control in accordance with the objectives of the Untied Nations which would put an end to the armaments race and eliminate the incentive to the production and testing of all kinds of weapons, including nuclear weapons,
Seeking to achieve the discontinuance of all test explosions of nuclear weapons for all time, determined to continue negotiations to this end, and desiring to put an end to the contamination of man's environment by radioactive substances,
Have agreed as follows:

Article Ⅰ
1. Each of the Parties to this Treaty undertakes to prohibit, to prevent, and not to carry out any nuclear weapon test explosion, or any other nuclear explosion, at any place under its jurisdiction or control:
(a) in the atmosphere; beyond its limits, including outer space,;or underwater, including territorial waters or high seas; or
(b) in any other environment if such explosion causes radioactive debris to be present outside the territorial limits of the State under whose jurisdiction or control such explosion is conducted. It is understood in this connection that the provisions of this subparagraph are without prejudice to the conclusion of a treaty resulting in the permanent banning of all nuclear test explosion, including all such explosions underground, the conclusion of which, as the Parties have stated in the Preamble to this Treaty, they seek to achieve.
2. Each of the parties to this Treaty undertakes furthermore to refrain from causing, encouraging, or in any way participating in, the carrying out of any nuclear weapon test explosion, or any other nuclear explosion, anywhere which would take place in any of the environments described, or have the effect referred to, in paragraph 1 of this Article.

Article Ⅱ
1. Any Party may propose amendments to this Treaty. The text of any proposed amendment shall be submitted to the Depositary Governments which shall circulate it to all Parties to this Treaty. Thereafter, if requested to do so by one-third or more of the Parties, the Depositary Governments shall convene a conference, to which they shall invite all the Parties, to consider such amendment.
2. Any amendment to this Treaty must be approved by a majority of the votes of all the Parties to this Treaty, including the votes of all of the Original Parties. The amendment shall enter into force for all Parties upon the deposit of instruments of ratification by a majority of all the Parties, including the instruments of ratification of all of the Original Parties.

Article Ⅲ
1. This Treaty shall be open to all States for signature. Any State which does not sign this Treaty before its entry into force in accordance with paragraph 3 of this Article may accede to it at any time.
2. This Treaty shall be subject to ratification by signatory States. Instruments of ratification and instruments of accession shall be deposited with the Governments of the Original Parties ― the United States of America, the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland, and the Union of Soviet Socialist Republics ― which are hereby designated the Depositary Governments.
3. This Treaty shall enter into force after its ratification by all the Original Parties and the deposit of their instruments of ratification.
4. For States whose instruments of ratification or accession are deposited subsequent to the entry into force of this Treaty, it shall enter into force on the date of the deposit of their instruments of ratification or accession.
5. The Depositary Governments shall promptly inform all signatory and acceding States of the date of each signature, the date of deposit of each instrument of and ratification to accession of this Treaty, the date of its entry into force, and the date of receipt of any requests for conferences or other notices.
6. This treaty shall be registered by the Depositary Governments pursuant to Article 102 of the Charter of the United Nations.

Article Ⅳ
This Treaty shall be of unlimited duration.
Each Party shall in exercising its national sovereignty have the right to withdraw from the Treaty if it decides that extraordinary events, related to the subject matter of this Treaty, have jeopardized the supreme interests of its country. It shall give notice of such withdrawal to all other Parties to the Treaty three months in advance.

Article Ⅴ
This Treaty, of which the English and Russian texts are equally authentic, shall be deposited in the archives of the Depositary Governments. Duly certified copies of this Treaty shall be transmitted by the Depositary Governments to the Governments of the signatory and acceding States.
IN WITNESS WHEREOF the undersigned, duly authorized, have signed this Treaty.
DONE in triplicate at the city of Moscow the fifth day of August, one thousand nine hundred and sixty-three.

(署名略)

<日本語訳>

大気圏内、宇宙空間及び水中における核兵器実験を禁止する条約

アメリカ合衆国、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国及びソヴィエト社会主義共和国連邦(以下「原締約国」という。)の政府は、
国際連合の目的にしたがって厳重な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する合意をできる限りすみやかに達成し、その合意により、軍備競争を終止させ、かつ、核兵器を含むすべての種類の兵器の生産及び実験への誘因を除去することをその主要な目的として宣言し、
核兵器のすべての実験的爆発の永久的停止の達成を求め、その目的のために交渉を継続することを決意し、また、放射性物質による人類の環境の汚染を終止させることを希望して、
次のとおり協定した。

第一条
1 この条約の各締約国は、その管轄又は管理の下にあるいかなる場所においても、次の環境における核兵器の実験的爆発及び他の核爆発を禁止すること、防止すること及び実施しないことを約束する。
a 大気圏内、宇宙空間を含む大気圏外並びに領水及び公海を含む水中
b そのような爆発がその管轄又は管理の下でその爆発が行われる国の領域外において放射性残 渣 さが存在するという結果をもたらすときは、その他の環境。この点に関して、締約国がこの条約の前文で述べたように締結を達成しようとしている条約、すなわち、地下における実験的核爆発を含むすべての実験的核爆発を永久に禁止することとなる条約の締結がこのbの規定により妨げられるものではないことが了解される。
2 この条約の各締約国は、さらに、いかなる場所においても、1に掲げるいずれかの環境の中で行なわれ、又は1に規定する結果をもたらす核兵器の実験的爆発又は他の核爆発の実施を実現させ、奨励し、又はいかなる態様によるかを問わずこれに参加することを差し控えることを約束する。

第二条
1 いずれの締約国も、この条約の改正を提案することができる。改正案の本文は、寄託国政府に提出するものとし、寄託国政府は、これをこの条約のすべての締約国に送付する。その後、締約国の三分の一以上の要請があつたときは、寄託国政府は、その改正を審議するため会議を招集し、すべての締約国をその会議に招請する。
2 この条約のいかなる改正も、すべての原締約国の票を含むこの条約のすべての締約国の過半数の票により承認されなければならない。その改正は、すべての原締約国の批准書を含むすべての締約国の過半数の批准書が寄託された時に、すべての締約国について効力を生ずる。

第三条
1 この条約は、署名のためすべての国に開放される。この条約が3の規定に従って効力を生ずる前にこの条約に署名しない国は、いつでもこの条約に加入することができる。
2 この条約は、署名国により批准されなければならない。批准書及び加入書は、ここに寄託国政府として指定される原締約国の政府、すなわち、アメリカ合衆国、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国及びソヴィエト社会主義共和国連邦の政府に寄託するものとする。
3 この条約は、すべての原締約国による批准及びその批准書の寄託の後に効力を生ずる。
4 この条約の効力発生後に批准書又は加入書を寄託する国については、この条約は、その批准書又は加入書の寄託の日に効力を生ずる。
5 寄託国政府は、すべての署名国及び加入国に対し、各署名の日、この条約の各批准書及び加入書の寄託の日、その効力発生の日並びに会議の招集の要請を受領した日又は他の通知をすみやかに通報する。
6 この条約は、寄託国政府が国際連合憲章第百二条の規定に従って登録する。

第四条
この条約の有効期間は、無期限とする。
各締約国は、この条約の対象である事項に関連する異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認めるときは、その主権の行使として、この条約から脱退する権利を有する。
各締約国は、そのような脱退をこの条約の他のすべての締約国に対して三箇月前に予告するものとする。

第五条
この条約は、英語及びロシア語による本文をひとしく正文とし、寄託国政府に寄託するものとする。この条約の認証謄本は、寄託国政府が署名国及び加入国の政府に送付するものとする。

以上の証拠として、下名は、正当に委任を受けて、この条約に署名した。
千九百六十三年八月五日にモスクワ市で本書三通を作成した。

 (署名略)

  「ウィキソース」より

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yoshiwarayuukaku01
 今日は、大正時代の1921年(大正10)に、「婦人及児童ノ売買禁止ニ関スル国際条約」が国際連盟で採択・署名された日です。
 「婦人及児童ノ売買禁止ニ関スル国際条約」(ふじんおよびじどうのばいばいきんしにかんするこくさいじょうやく)は、大正時代の1921年(大正10年)9月30日に、国際連盟によって採択され、翌年6月15日に発効した、売春(醜業)とそれに伴う女性と児童の人身売買を禁止するための国際条約です。1870年代になって リカードウ派社会主義者ジョン・グレイの娘、ジョセフィン・エリザベス・バトラー(Josephine Elizabeth Butler)らの売春婦救済運動(廃娼運動)が盛んになり、19世紀末のイギリスやアメリカ合衆国では本国では公娼制が廃止されたものの、植民地においては存在し続けました。
 その中で、1904年(明治37)5月に、欧州12ヶ国で「醜業を行わしむるための婦女売買取締に関する国際協定」が締結され、1910年(明治43)5月には欧州13ヶ国で「醜業を行わしむるための婦女売買禁止に関する国際条約」が締結されます。そして、この国際条約が、国際連盟において28ヶ国の署名を得て、人身売買を人道的観点から制限した協定と条約を強化するために制定されました。
 日本は、1925年(大正14)12月15日に批准書を寄託し、同日効力を発効し、同年12月21日に公布されることで本条約に加盟していますが、対象となる年齢について、すでに娼妓取締規則において満18歳としていたことで、条約の年齢に関する第5条条項(21歳未満を禁止)については留保しています。その後、1947年(昭和22)に採択された議定書により改定され、国際連合の法として継承されることとなり、1949年(昭和24)に採択された「人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約」の前文においても、その法源として言及されました。
 以下に、「婦人及児童ノ売買禁止ニ関スル国際条約」の英語版原文と日本語訳を掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「婦人及児童ノ売買禁止ニ関スル国際条約」1921年(大正10)9月30日国際連盟で採択、1922年(大正11)6月15日発効

<英語版原文>

International Convention for the Suppression of the Traffic in Women and Children, 1921
Entry into force: Monday, April 24, 1950
Signed by 27 countries, ratified by 73 countries

Introduction
Albania, Germany, Austria, Belgium, Brazil, the British Empire (with Canada, the Commonwealth of Australia, the Union of South Africa, New Zealand and India), Chile, China, Colombia, Costa Rica, Cuba, Estonia, Greece, Hungary, Italy, Japan, Latvia, Lithuania, Norway, the Netherlands, Persia, Poland (with Danzig), Portugal, Romania, Siam, Sweden, Switzerland and Czechoslovakia,
BEING ANXIOUS to secure more completely the suppression of the Traffic in Women and Children described in the preambles to the Agreement of 18 May 1904 and to the Convention of 4 May 1910, under the name of "White Slave Traffic";
HAVING TAKEN NOTE of the Recommendations contained in the Final Act of the International Conference which was summoned by the Council of the League of Nations and met at Geneva from 30 June to 5 July 1921; and
HAVING DECIDED to conclude a Convention supplementary to the Arrangement and Convention mentioned above:
Have nominated for this purpose as their Plenipotentiaries:
[Names of plenipotentiaries not listed here.]
Who, having communicated their full powers, found in good and due form, have agreed upon the following provisions:

Article 1
The High Contracting Parties agree that, in the event of their not being already Parties to the Agreement of 18 May 1904 and the Convention on 4 May 1910 mentioned above, they will transmit, with the least possible delay, their ratifications of, or adhesions to, those instruments in the manner laid down therein.

Article 2
The High Contracting Parties agree to take all measures to discover and prosecute persons who are engaged in the traffic in children of both sexes and who commit offences within the meaning of Article 1 of the Convention of 4 May 1910.

Article 3
The High Contracting Parties agree to take the necessary steps to secure the punishment of attempts to commit, and, within legal limits, of acts preparatory to the commission of, the offences specified in Articles 1 and 2 of the Convention of 4 May 1910.

Article 4
The High Contracting Parties agree that, in cases where there are no extradition Conventions in force between them, they will take all measures within their power to extradite or provide for the extradition of persons accused or convicted of the offences specified in Articles 1 and 2 of the Convention of 4 May 1910.

Article 5
In paragraph B of the final Protocol of the Convention of 1910, the words "twenty completed years of age" shall be replaced by the words "twenty- one completed years of age".

Article 6
The High Contracting Parties agree, in case they have not already taken legislative or administrative measures regarding licensing and supervision of employment agencies and offices, to prescribe such regulations as are required to ensure the protection of women and children seeking employment in another country.

Article 7
The High Contracting Parties undertake in connection with immigration and emigration to adopt such administrative and legislative measures as are required to check the traffic in women and children. In particular, they undertake to make such regulations as are required for the protection of women and children travelling on emigrant ships, not only at the points of departure and arrival, but also during the journey, and to arrange for the exhibition, in railway stations and in ports, of notices warning women and children of the danger of the traffic and indicating the places where they can obtain accommodation and assistance.

Article 8
The present Convention, of which the French and the English texts are both authentic, shall bear this day's date, and shall be open for signature until 31 March 1922.

Article 9
The present Convention is subject to ratification. The instruments of ratification shall be transmitted to the Secretary- General of the League of Nations, who will notify the receipt of them to the other Members of the League and to States admitted to sign the Convention. The instruments of ratification shall be deposited in the archives of the Secretariat.

In order to comply with the provisions of Article 18 of the Covenant of the League of Nations, the Secretary- General will register the present Convention upon the deposit of the first ratification.

Article 10
Members of the League of Nations which have not signed the present Convention before 1 April 1922 may accede to it.
The same applies to States not Members of the League to which the Council of the League may decide officially to communicate the present Convention.
Accession will be notified to the Secretary- General of the League, who will notify all Powers concerned of the accession and of the date on which it was notified.

Article 11
The present Convention shall come into force in respect of each Party on the date of the deposit of its ratification or act of accession.

Article 12
The present Convention may be denounced by any Member of the League or by any State which is a party thereto, on giving twelve months' notice of its intention to denounce.
Denunciation shall be effected by notification in writing addressed to the Secretary- General of the League of Nations. Copies of such notification shall be transmitted forthwith by him to all other Parties, notifying them of the date on which it was received.
The denunciation shall take effect one year after the date on which it was notified to the Secretary- General, and shall operate only in respect of the notifying Power.

Article 13
A special record shall be kept by the Secretary- General of the League of Nations, showing which of the Parties have signed, ratified, acceded to or denounced the present Convention. This record shall be open to the Members of the League at all times; it shall be published as often as possible, in accordance with the directions of the Council.

Article 14
Any Member or State signing the present Convention may declare that the signature does not include any or all of its colonies, overseas possessions, protectorates or territories under its sovereignty or authority, and may subsequently adhere separately on behalf of any such colony, overseas possession, protectorate or territory so excluded in its declaration.
Denunciation may also be made separately in respect of any such colony, overseas possession, protectorate or territory under its sovereignty or authority, and the provisions of Article 12 shall apply to any such denunciation.

<日本語訳>

婦人及兒童ノ賣買ニ関スル国際条約

第一條
締約國ニシテ未ダ千九百四年五月十八日ノ協定及千九百十年五月四日ノ條約ノ當事國タラサルニ於イテハ右締約國ハ成ルヘク速ニ定メラレタル方法ニ従ヒ之カ批准書又ハ加入書ヲ送付スルコトヲ約ス

第二條
締約國ハ男女児童ノ賣買ニ従事シ千九百十年五月四日ノ條約第一條ニ規定スルカ如キ罪ヲ犯ス者ヲ捜索シ且之ヲ處罰スル爲一切ノ措置ヲ執ルコトヲ約ス

第三條
締約國ハ千九百十年五月四日ノ條約第一條及第二條ニ定メタル犯罪ノ未遂及法規ノ範圍内ニ於テ該犯罪ノ豫備ヲ處罰スルコトヲ確保スル爲必要ナル手段ヲ執ルコトヲ約ス

第四條
締約國ハ締約國間ニ犯罪人引渡條約存在セサル場合ニ於テハ千九百十年五月四日ノ條約第一條及第二條ニ定メタル犯罪ニ付起訴セラレ又ハ有罪ト判決セラレタル者ノ引渡又ハ之カ引渡準備ノ爲其ノ爲シ得ル一切ノ措置ヲ執ルコトヲ約ス

第五條
千九百十年ノ條約ノ最終議定書(ロ)項ノ「滿二十歳」ナル語ハ之ヲ「滿二十一歳」ニ改ムヘシ

第六條
締約國ハ職業紹介所ノ免許及監督ニ關シ未タ立法上又ハ行政上ノ措置ヲ執ラサル場合ニ於テハ他國ニ職業ヲ求ムル婦人及兒童ノ保護ヲ確保スルニ必要ナル規則ヲ設クルコトヲ約ス

第七條
締約國ハ移民ノ入國及出國ニ關シテ婦人及兒童ノ賣買ヲ防遏スルニ必要ナル行政上及立法上ノ措置ヲ執ルコトヲ約ス特ニ締約國ハ移民船ニ依リ旅行スル婦人及兒童ニ付其ノ出發地及到着地ニ於ケルノミナラス亦其ノ旅行中ニ於ケル保護ニ必要ナル規則ヲ定ムルコト竝婦人及兒童ニ該賣買ノ危險ヲ警告シ且宿泊及援助ヲ得ヘキ場所ヲ指示スル掲示ヲ停車場及港ニ掲クル手配ヲ爲スコトヲ約ス

第八條
本條約ハ佛蘭西語及英吉利語ノ本文ヲ以テ共ニ正文トシ本日ノ日附ヲ有シ且千九百二十二年三月三十一日迄之ニ署名スルコトヲ得

第九條
本條約ハ批准ヲ要ス國際聯盟事務總長ニ之ヲ送付スヘク事務總長ハ之カ受領ヲ他ノ聯盟國及本條約ニ署名ヲ許サレタル國ニ通知スヘシ批准書ハ事務局ノ記録ニ寄託セラルへシ

第十條
聯盟國ニシテ千九百二十二年四月一日前ニ本條約ニ署名セサルモノハ之ニ加入スルコトヲ得

第十一條
本條約ハ各當事國ニ付其ノ批准書又ハ加入書ノ寄託ノ日ヨリ實施セラルへシ

第十二條
本條約ノ當事國タル聯盟國又ハ其ノ他ノ國ニ於テ十二月ノ豫告ヲ以テ之ヲ廢棄スルコトヲ得廢棄ハ聯盟事務總長ニ宛テタル書面ノ通告ニ依リ之ヲ爲スヘシ事務總長ハ直ニ他ノ一切ノ當事國ニ右通告ノ謄本ヲ送付シ同通告受領ノ日ヲ通知スヘシ
廢棄ハ事務總長ニ通告アリタル日ヨリ一年ヲ経テ其ノ効力ヲ生シ且通告ヲ爲シタル國ニ關シテノミ効力アルモノトス

第十三條
聯盟事務総長ハ本條約ニ署名シ之ヲ批准シ之ニ加入シ又ハ之ヲ廢棄シタル當事國ヲ表示スル特別ノ記録ヲ保存スヘシ右記録ハ聯盟國ヲシテ何時ニテモ之ヲ閲覧スルコトヲ得シムヘク又聯盟理事會ノ指示ニ從ヒ成ルヘク○之ヲ公表スヘシ

第十四條
本條約ニ署名スル聯盟國又ハ其ノ署名カ其ノ殖民地、海外屬地、保護國又ハ其ノ主權若ハ權力ノ下ニ在ル地域ノ全部又ハ一部ヲ包含セサルコトヲ宣言シ得ヘク右宣言ニ於テ除外セラレタル右殖民地、海外屬地、保護國又ハ地域ノ何レノ爲ニモ後日格別ニ加入ヲ爲スコトヲ得
廢棄モ亦右殖民地、海外屬地、保護國又ハ其ノ主權若ハ權力ノ下ニ在ル地域ノ何ニ關シテモ各別ニ之ヲ爲スコトヲ得ヘク且第十二條ノ規定ハ右廢棄ニ付適用セラルへシ

千九百二十一年九月三十日「ジュネーヴ」ニ於テ本書一通ヲ作成シ之ヲ國際聯盟ノ記録ニ寄託保存ス

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