ガウスの歴史を巡るブログ(その日にあった過去の出来事)

 学生時代からの大の旅行好きで、日本中を旅して回りました。その中でいろいろと歴史に関わる所を巡ってきましたが、日々に関わる歴史上の出来事や感想を紹介します。Yahooブログ閉鎖に伴い、こちらに移動しました。

タグ:優生保護法

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 今日は、昭和時代前期の1940年(昭和15)に、「国民優生法」(昭和15年法律第107号)が公布(施行は翌年7月1日)された日です。
 「国民優生法」(こくみんゆうせいほう)は、日中戦争下の総力戦体制のもとで、優生学に基づき、ナチスの「断種法」にならって、不妊手術と中絶に関して定めた法律でした。その目的は、「本法ハ悪質ナル遺伝性疾患ノ素質ヲ有スル者ノ増加ヲ防遏スルト共ニ健全ナル素質ヲ有スル者ノ増加ヲ図リ以テ国民素質ノ向上ヲ期スルコトヲ目的トス」(第1条)とし、「本法ニ於テ優生手術ト称スルハ生殖ヲ不能ナラシムル手術又ハ処置ニシテ命令ヲ以テ定ムルモノヲ謂フ」(第2条)としています。
 そして、その対象を、①遺伝性精神病、②遺伝性精神薄弱、③強度且悪質ナル遺伝性病的性格、④強度且悪質ナル遺伝性身体疾患、⑤強度ナル遺伝性畸形と定めました。当時の政府は、この法律によって、「悪質な遺伝性疾患の素質をもつ者」に対して不妊手術を促す一方で、「健全な素質をもつ者」に対しては不妊手術や妊娠中絶を厳しく制限し、彼らの子どもを増やそうとしたものです。しかし、この法律による不妊手術総件数は538件で、あまり機能しないまま、太平洋戦争敗戦を迎え、1948年(昭和23)の「優生保護法」(昭和23年法律第156号)制定により、その36条によって、同年9月11日をもって廃止されました。
 その後、「優生保護法」の下で、医師の申請にもとづく不妊手術の手続きを定めた強制断種の規定(第4条)により、公式統計によるだけでも、1996年(平成8)までに14,566件の不妊手術が実施されています。尚、2018年(平成30)以降、旧「優生保護法」に基づいて強制不妊を受けさせられたとする原告らが、国に対して国家賠償を求める民事訴訟が全国各地で提起され、各地の地方裁判所では、優生保護法の立法あるいは同法を改正しないまま長らく放置した立法不作為について、憲法に反して違法であるとの判断が相次いだものの、請求棄却の判決が続きました。しかし、2022年(令和4)2月22日、大阪高等裁判所は、全国で初めて国家賠償請求を認容しています。
 以下に、「国民優生法」(昭和15年法律第107号)を全文掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「国民優生法」(昭和15年法律第107号) 1940年(昭和15)5月1日公布、翌年7月1日施行

第一条 本法ハ悪質ナル遺伝性疾患ノ素質ヲ有スル者ノ増加ヲ防遏スルト共ニ健全ナル素質ヲ有スル者ノ増加ヲ図リ以テ国民素質ノ向上ヲ期スルコトヲ目的トス

第二条 本法ニ於テ優生手術ト称スルハ生殖ヲ不能ナラシムル手術又ハ処置ニシテ命令ヲ以テ定ムルモノヲ謂フ

第三条 左ノ各号ノ一ニ該当スル疾患ニ罹レル者ハ其ノ子又ハ孫医学的経験上同一ノ疾患ニ罹ル虞特ニ著シキトキハ本法ニ依リ優生手術ヲ受クルコトヲ得但シ其ノ者特ニ優秀ナル素質ヲ併セ有スト認メラルルトキハ此ノ限ニ在ラズ
 一 遺伝性精神病
 二 遺伝性精神薄弱
 三 強度且悪質ナル遺伝性病的性格
 四 強度且悪質ナル遺伝性身体疾患
 五 強度ナル遺伝性畸形
2 四親等以内ノ血族中ニ前項各号ノ一ニ該当スル疾患ニ罹レル者ヲ各自有シ又ハ有シタル者ハ相互ニ婚姻シタル場合(届出ヲ為サザルモ事実上婚姻関係ト同様ノ事情ニ在ル場合ヲ含ム)ニ於テ将来出生スベキ子医学的経験上同一ノ疾患ニ罹ル虞特ニ著シキトキ亦前項ニ同ジ
3 第一項各号ノ一ニ該当スル疾患ニ罹レル子ヲ有シ又ハ有シタル者ハ将来出生スベキ子医学的経験上同一ノ疾患ニ罹ル虞特ニ著シキトキハ亦第一項ニ同ジ

第四条 前条ノ規定ニ依リ優生手術ヲ受クルコトヲ得ル者ハ優生手術ノ申請ヲ為スコトヲ得此ノ場合ニ於テ本人配偶者(届出ヲ為サザルモ事実上婚姻関係ト同様ノ事情ニ在ル者ヲ含ム以下之ニ同ジ)ヲ有スルトキハ其ノ配偶者ノ同意ヲ、三十歳ニ達セザルトキ又ハ心神耗弱者ナルトキハ其ノ家ニ在ル父母(婚姻ニ依リ其ノ配偶者ノ家ニ入リタル者ニ在リテハ其ノ配偶者ノ父母トス以下之ニ同ジ)ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
2 前条ノ規定ニヨリ優生手術ヲ受クルコトヲ得ル者心神喪失者ナルトキハ優生手術ノ申請ハ前項ノ規定ニ拘ラズ其ノ家ニ在ル父母之ヲ為スコトヲ得但シ本人配偶者ヲ有スルトキハ其ノ配偶者及其ノ家ニ在ル父母之ヲ為スコトヲ得
3 第一項及前項但書ノ場合ニ於テ其ノ配偶者知レザルトキ又ハ其ノ意思ヲ表示スルコト能ハザルトキハ第一項ノ場合ニ在リテハ其ノ家ニ在ル父母ノ同意ヲ以テ配偶者ノ同意ニ代ヘ前項但書ノ場合ニ在リテハ其ノ家ニ在ル父母ノミニテ申請ヲ為スコトヲ得ルモノトス
4 前三項ノ規定ニ依リ其ノ家ニ在ル父母ノ同意ヲ要ストセラレ又ハ其ノ家ニ在ル父母ガ申請ヲ為ス場合ニ於テ父母ノ一方ガ知レザルトキ、死亡シタルトキ、家ヲ去リタルトキ又ハ其ノ意思ヲ表示スルコト能ハザルトキハ他ノ一方ノミノ同意又ハ申請ヲ以テ足リ父母共ニ知レザルトキ、死亡シタルトキ、家ヲ去リタルトキ又ハ其ノ意思ヲ表示スルコト能ハザルトキハ後見人ノ、後見人知レザルトキ、ナキトキ又ハ其ノ意思ヲ表示スルコト能ハザルトキハ戸主ノ、戸主知レザルトキ、未成年者ナルトキ又ハ其ノ意思ヲ表示スルコト能ハザルトキハ親族会ノ同意又ハ申請ヲ以テ父母ノ同意又ハ申請ニ代フルモノトス但シ後見人及親族会ハ第二項ノ規定ニ依ル申請ヲ為スコトヲ得ズ

第五条 第三条第一項ノ規定ニ依リ優生手術ヲ受クルコトヲ得ル者ニ対シ監護上ノ処置、保健上ノ指導又ハ診療ヲ為シタル精神病院法ニ依ル精神病院(同法第七条ノ規定ニ依リ代用スル精神病院ヲ含ム)若ハ保健所ノ長又ハ命令ヲ以テ定ムル医師ハ本人ノ同意ヲ得テ優生手術ノ申請ヲ為スコトヲ得此ノ場合ニ於テ本人配偶者ヲ有スルトキハ其ノ配偶者ノ同意ヲモ、三十歳ニ達セザルトキ又ハ心神耗弱者ナルトキハ其ノ家ニ在ル父母ノ同意ヲモ得ルコトヲ要ス
2 前項ノ規定ニ依リ優生手術ノ申請ヲ為ス場合ニ於テ本人心神喪失者ナルトキハ其ノ家ニ在ル父母ノ同意ヲ以テ本人ノ同意ニ代フルモノトス
3 前条第三項及第四項ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ準用ス

第六条 前条ノ規定ニ依リ優生手術ノ申請ヲ為スコトヲ得ル者本人ノ疾患著シク悪質ナルトキ又ハ其ノ配偶者本人ト同一ノ疾患ニ罹レルモノナルトキ等其ノ疾患ノ遺伝ヲ防遏スルコトヲ公益上特ニ必要アリト認ムルトキハ同条ノ規定ニ依ル必要ナル同意ヲ得ルコト能ハザル場合ト雖モ其ノ理由ヲ附シテ優生手術ノ申請ヲ為スコトヲ得

第七条 優生手術ノ申請ハ命令ノ定ムル所ニ依リ地方長官ニ之ヲ為スベシ
2 前項ノ申請ニハ本人ノ健康診断書及遺伝ニ関スル調査書並ニ本人(本人心神喪失者ナルトキハ其ノ家ニ在ル父母トス但シ本人配偶者ヲ有スルトキハ其ノ配偶者及其ノ家ニ在ル父母トス)ガ優生手術ガ生殖ヲ不能ナラシムルモノナルコトヲ了知シタル旨ノ医師ノ証明書ヲ添附スベシ
3 第四条第三項及第四項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス

第八条 地方長官ハ優生手術ノ申請ヲ受理シタルトキハ優生手術ヲ行フベキモノト認ムルヤ否ヲ決定ス
2 地方長官ノ決定ヲ為サントスルトキハ予メ地方優生審査会ノ意見ヲ徴スベシ
3 地方長官第一項ノ決定ヲ為シタルトキハ第四条又ハ第五条ノ規定ニ依リ優生手術ノ申請ヲ為スコトヲ得ル者及優生手術ノ申請ニ付同意ヲ得ルコトヲ要ストセラレタル者ニ之ヲ通知スベシ

第九条 前条第三項ノ規定ニ依リ通知ヲ受クベキ者ハ同条ノ決定ニ不服アルトキハ厚生大臣ニ之ヲ申立ツルコトヲ得
2 前項ノ申立ハ決定ノ通知ヲ受ケタル後(通知ヲ受ケザル者ニ付テハ決定アリタル後)三十日ヲ経過シタルトキハ之ヲ為スコトヲ得ズ
3 厚生大臣宥恕スベキ事由アリト認ムルトキハ前項ノ期限経過後ニ於テモ仍之ヲ受理スルコトヲ得

第十条 厚生大臣ハ前条ノ申立ヲ受理シタル場合ニ於テ申立ヲ理由ナシト認ムルトキハ之ヲ却下シ申立ヲ理由アリト認ムルトキハ地方長官ノ決定ヲ取消シ且優生手術ヲ行フベキモノト認ムルヤ否ヲ決定ス
2 厚生大臣前項ノ却下又ハ取消及決定ヲ為サントスルトキハ予メ中央優生審査会ノ意見ヲ徴スベシ
3 第八条第三項ノ規定ハ第一項ノ却下並ニ取消及決定ニ之ヲ準用ス

第十一条 第四条又ハ第五条ノ規定ニ依リ優生手術ノ申請ヲ為スコトヲ得ル者及優生手術ノ申請ニ付同意ヲ得ルコトヲ要ストセラレタル者ハ書面又ハ口頭ヲ以テ中央優生審査会又ハ地方優生審査会ニ対ン事実又ハ意見ヲ申述スルコトヲ得
2 厚生大臣又ハ地方長官ハ中央優生審査会又ハ地方優生審査会ノ審査ノ為必要アリト認ムルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ第三条ノ規定ニ依リ優生手術ヲ受クルコトヲ得ル者ヲシテ審査会ニ出頭ノ上事実ヲ申述セシメ又ハ医師ノ健康診断ヲ受ケシムルコトヲ得

第十二条 中央優生審査会及地方優生審査会ニ関スル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム

第十三条 優生手術ヲ行フベキモノト認ムル決定確定シタルトキハ第三条ノ規定ニ依リ優生手術ヲ受クルコトヲ得ル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ優生手術ヲ受クベシ
2 優生手術ハ厚生大臣又ハ地方長官ノ命ニ依リ命令ヲ以テ定ムル医師命令ヲ以テ定ムル場所ニ於テ之ヲ行フ
3 前項ノ規定ニ依リ優生手術ヲ行ヒタル医師ハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ経過ヲ地方長官ニ報告スベシ

第十四条 優生手術ニ関スル費用ニ付テハ勅令ノ定ムル所ニ依ル

第十五条 故ナク生殖ヲ不能ナラシムル手術又ハ放射線照射ハ之ヲ行フコトヲ得ズ

第十六条 第十三条ノ規定ニ依ル場合ヲ除クノ外医師生殖ヲ不能ナラシムル手術若ハ放射線照射又ハ妊娠中絶ヲ行ハントスルトキハ予メ其ノ要否ニ関スル他ノ医師ノ意見ヲ聴取シ且命令ノ定ムル所ニ依リ予メ行政官庁ニ届出ヅベシ但シ特ニ急施ヲ要スル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
2 前項ノ届出アリタル場合ニ於テ行政官庁必要アリト認ムルトキハ其ノ指定シタル医師ノ意見ヲ更ニ聴取セシムルコトヲ得
3 第一項但書ノ場合ニ於テ届出ヲ為サズシテ生殖ヲ不能ナラシムル手術若ハ放射線照射又ハ妊娠中絶ヲ行ヒタルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ行政官庁ニ届出ヅベシ

第十七条 優生手術ヲ受ケタル者婚姻セントスルトキハ相手方ノ要求ニ依リ優生手術ヲ受ケタル旨ヲ通知スベシ

第十八条 第十五条ノ規定ニ違反シ生殖ヲ不能ナラシムル手術又ハ放射線照射ヲ行ヒタル者ハ一年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス因テ人ヲ死ニ致シタルトキハ三年以下ノ懲役ニ処ス

第十九条 中央優生審査会及地方優生審査会ノ委員若ハ委員タリシ者又ハ優生手術ニ関スル審査若ハ施行ノ事務ニ従事シ若ハ従事シタル公務員若ハ公務員タリシ者故ナク其ノ職務上取扱ヒタルコトニ付知得シタル人ノ秘密ヲ漏泄シタルトキハ六月以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
2 前項ノ罪ハ告訴ヲ待テ之ヲ論ズ

第二十条 第十六条第一項又ハ第三項ノ規定ニ違反シ届出ヲ為サズ又ハ虚偽ノ届出ヲ為シタル者ハ百円以下ノ罰金ニ処ス

  附 則

本法施行ノ期日ハ各規定ニ付勅令ヲ以テ之ヲ定ム

   「官報」より

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 今日は、昭和時代中期の1948年(昭和23)に、優生手術、人工妊娠中絶などについて定めた、「優生保護法」が公布(施行は同年9月11日)された日です。
 「優生保護法(ゆうせいほごほう)」は、現行の「母体保護法」の改正前の法律で、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的」(第1条)として、優生手術、母体保護(人工妊娠中絶)、優生保護委員会および優生結婚相談などについて規定したものでした。日本では、戦前にナチスの「断種法」にならって、強制的優生断種の考え方を持つ、不妊手術と中絶に関する「国民優生法」が制定されていましたが、戦後になって、混乱期における人口急増対策と危険な闇堕胎の防止のため人工妊娠中絶の一部を合法化した形で、1948年(昭和23)7月13日に、この法律が公布(施行は同年9月11日)されます。
 その中の人工妊娠中絶や優性思想の是非等については常に議論があり、障害者差別として改正を求める声などが出されました。このため、この法律の内、優生思想に基づく部分を削除する改正が、1996年(平成8)に行われ、法律名も「母体保護法」(同年9月施行)に改められています。
 以下に、旧「優生保護法」(昭23年法律第156号)を全文掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「優生保護法」(昭23年法律第156号) 1948年(昭和23)7月13日公布、9月11日施行

第一章 総則

 (この法律の目的)

第一条 この法律は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律で優生手術とは、生殖腺を除去することなしに、生殖を不能にする手術で命令をもつて定めるものをいう。
2 この法律で人工妊娠中絶とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に胎児及びその附属物を母体外に排出することをいう。

第二章 優生手術

 (任意の優生手術)

第三条 医師は、左の各号の一に該当する者に対して、本人の同意並びに配偶者(届出をしないが事実上婚姻関係と同様な事情にある者を含む。以下同じ。)があるときはその同意を得て、任意に、優生手術を行うことができる。但し、未成年者、精神病者又は精神薄弱者については、この限りでない。
 一 本人又は配偶者が遺伝性精神変質症、遺伝性病的性格、遺伝性身体疾患又は遺伝性奇形を有しているもの
 二 本人又は配偶者の四親等以内の血族関係にある者が、遺伝性精神病、遺伝性精神薄弱、遺伝性精神変質症、遺伝性病的性格、遺伝性身体疾患又は遺伝性奇形を有し、且つ、子孫にこれが遺伝する虞れのあるもの
 三 本人又は配偶者が、癩疾患に罹り、且つ子孫にこれが伝染する虞れのあるもの
 四 妊娠又は分娩が、母体の生命に危険を及ぼす虞れのあるもの
 五 現に数人の子を有し、且つ、分娩ごとに、母体の健康度を著しく低下する虞れのあるもの
2 前項の同意は、配偶者が知れないとき又はその意思を表示することができないときは本人の同意だけで足りる。

 (強制優生手術の審査の申請)

第四条 医師は、診断の結果、別表に掲げる疾患に罹つていることを確認した場合において、その者に対し、その疾患の遺伝を防止するため優生手術を行うことが公益上必要であると認めるときは、前条の同意を得なくとも、都道府県優生保護委員会に優生手術を行うことの適否に関する審査を申請することができる。

 (優生手術の審査)

第五条 都道府県優生保護委員会は、前条の規定による申請を受けたときは、優生手術を受くべき者にその旨を通知するとともに、同条に規定する要件を具えているかどうかを審査の上、優生手術を行うことの適否を決定して、その結果を、申請者及び優生手術を受くべき者に通知する。
2 都道府県優生保護委員会は、優生手術を行うことが適当である旨の決定をしたときは、申請者及び関係者の意見をきいて、その手術を行うべき医師を指定し、申請書、優生手術を受くべき者及び当該医師に、これを通知する。

 (再審査の申請)

第六条 前条第一項の規定によつて、優生手術を受くべき旨の決定を受けた者は、その決定に異議があるときは、同条同項の通知を受けた日から二週間以内に、中央優生保護委員会に対して、その再審査を申請することができる。
2 前項の優生手術を受くべき旨の決定を受けた者の配偶者、親権者、後見人又は保佐人もまた、その再審査を申請することができる。

 (優生手術の再審査)

第七条 中央優生保護委員会は、前条の規定による再審査の請求を受けたときは、その旨を、手術を行うべき医師に通知するとともに、審査の上、改めて、優生手術を行うことの適否を決定して、その結果を、再審査の申請者、優生手術を受くべき者、都道府県優生保護委員会及び手術を行うべき医師に通知する。

 (審査に関する意見の申述)

第八条 第四条の規定による申請者、優生手術を受くべき者及びその配偶者、親権者、後見人又は保佐人は、書面又は口頭で、都道府県優生保護委員会又は中央優生保護委員会に対し、第五条第一項の審査又は前条の再審査に関して、事実又は意見を述べることができる。

 (訴の提起)

第九条 中央優生保護委員会の決定に対して不服のある者は、第七条の通知を受けた日から一箇月以内に訴を提起することができる。

 (優生手術の実施)

第十条 優生手術を行うことが適当である旨の決定に異議がないとき又はその決定若しくはこれに関する判決が確定したときは、第五条第二項の医師が、優生手術を行う。

 (費用の国庫負担)

第十一条 前条の規定によつて行う優生手術に関する費用は、政令の定めるところによつて、国庫の負担とする。

第三章 母性保護

 (任意の人工妊娠中絶)

第十二条 都道府県の区域を単位として設立せられた社団法人たる医師会の指定する医師(以下指定医師という。)は、第三条第一項第一号から第四号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、任意に、人工妊娠中絶を行うことができる。
2 前項の同意には、第三条第二項の規定を準用する。

 (人工妊娠中絶の審査の申請)

第十三条 指定医師は、左の各号の一に該当する者に対して、人工妊娠中絶を行うことが母性保護上必要であると認めるときは、本人及び配偶者の同意を得て、地区優生保護委員会に対し、人工妊娠中絶を行うことの適否に関する審査を、申請することができる。
 一 別表中第一号又は第二号に掲げる疾患に罹つているもの
 二 分娩後一年以内の期間に更に妊娠し、且つ、分娩によつて母体の健康を著しく害する虞れのあるもの
 三 現に数人の子を有している者が更に妊娠し、且つ、分娩によつて母体の健康を著しく害する虞れのあるもの
 四 暴行若しくは脅迫によつて、又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて、妊娠したもの
2 前項の申請には、同項第一号から第三号の場合にあつては他の医師の意見書を、同条第四号の場合にあつては民生委員の意見書を添えることを要する。
3 第一項の同意は、配偶者が知れないとき又はその意思を表示することができないときは本人の同意だけで足り、本人が心神喪失の状況にあるときは後見人又は保佐人の同意をもつてこれに代えることができる。

 (人工妊娠中絶の審査)

第十四条 地区優生保護委員会は、前条第一項の規定による申請を受けたときは、命令の定める期間内に、同条第一項に規定する要件を具えているかどうか及び未成年者についてはその同意が他から強制されたものでないかどうかを審査の上、人工妊娠中絶を行うことの適否を決定して、その結果を、申請者に通知する。

 (人工妊娠中絶の実施)

第十五条 指定医師は、前条の決定に従い、人工妊娠中絶を行うことができる。

第四章 優生保護委員会

 (優生保護委員会)

第十六条 優生手術及び人工妊娠中絶に関する適否の審査その他この法律で定める優生保護上必要な事項を処理するため、優生保護委員会を置く。

 (種類と権限)

第十七条 優生保護委員会は、中央優生保護委員会、都道府県優生保護委員会及び地区優生保護委員会とする。
2 中央優生保護委員会は、厚生大臣の監督に属し、主として優生手術に関する適否の再審査を行う外、この法律で定める優生保護上必要な事項を処理する。
3 都道府県優生保護委員会は、都道府県ごとにこれを置き、都道府県知事の監督に属し、優生手術に関する適否の審査を行う。
4 地区優生保護委員会は、保健所の区域ごとにこれを置き、都道府県知事の監督に属し、人工妊娠中絶に関する適否の審査を行う。

 (構成)

第十八条 中央構生保護委員会は委員三十人以内で、都道府県優生保護委員会は委員十人以内で、地区優生保護委員会は委員五人以内で、これを組織する。
2 各優生保護委員会において、特に必要があるときは、臨時委員を置くことができる。
3 委員及び臨時委員は、医師、民生委員、裁判官、検察官、関係行政庁の官吏又は吏員その他学識経験ある者の中から、中央優生保護委員会にあつては厚生大臣が、都道府県優生保護委員会及び地区優生保護委員会にあつては都道府県知事が、それぞれ、これを命ずる。
4 各優生保護委員会に、委員の互選による委員長一人を置く。

 (委任事項)

第十九条 この法律で定めるものの外、委員の任期、委員長の職務その他優生保護委員会の運営に関して必要な事項は、命令でこれを定める。

第五章 優生結婚相談所

 (優生結婚相談所)

第二十条 優生保護の見地から結婚の相談に応ずるとともに、遺伝その他優生保護上必要な知識の普及向上を図つて、不良な子孫の出生を防止するため優生結婚相談所を設置する。

 (配置)

第二十一条 優生結婚相談所は、都道府県に少くとも一箇所以上、これを設置する。
2 優生結婚相談所は、保健所に、これを附置することができる。

 (設置の認可)

第二十二条 国以外の者は、優生結婚相談所を設置しようとするときは、厚生大臣の認可を得なければならない。
2 前項の優生結婚相談所は、厚生大臣の定める基準によつて医師をおき、検査その他に必要な設備をそなえなければならない。

 (名称の独占)

第二十三条 この法律による優生結婚相談所でなければ、その名称中に、優生結婚相談所たることを示す文字を用いてはならない。

 (委任事項)

第二十四条 この法律で定めるものの外、優生結婚相談所に関して必要な事項は、命令でこれを定める。

第六章 届出、禁止その他

 (届出)

第二十五条 医師又は指定医師は、第三条第一項、第十条又は第十五条の規定によつて優生手術又は人工妊娠中絶を行つた場合は、その日から三日以内に、その旨を、理由を記して、都道府県知事に届け出なければならない。

 (通知)

第二十六条 優生手術を受けた者は、婚姻しようとするときは、その相手方に対して、優生手術を受けた旨を通知しなければならない。

 (秘密の保持)

第二十七条 優生保護委員会の委員及び臨時委員、優生手術若しくは人工妊娠中絶の審査若しくは施行の事務に従事した公務員又は優生結婚相談所の職員は、職務上知り得た人の秘密を、漏らしてはならない。その職を退いた後においても同様とする。

 (禁止)

第二十八条 何人も、この法律の規定による場合の外、故なく、優生手術を行つてはならない。

第七章 罰則

 (第二十二条違反)

第二十九条 第二十二条の規定に違反して、厚生大臣の認可を得ないで優生結婚相談所を開設したものは、これを五千円以下の罰金に処する。

 (第二十三条違反)

第三十条 第二十三条の規定に違反して、優生結婚相談所たることを示す名称を用いた者は、これを千円以下の過料に処する。

 (第二十五条違反)

第三十一条 第二十五条の規定に違反して、届出をせず又は虚偽の届出をした者は、これを一万円以下の罰金に処する。

 (第二十七条違反)

第三十二条 第二十七条の規定に違反して、故なく、人の秘密を漏らした者は、これを六月以下の懲役又は二万円以下の罰金に処する。

 (第二十八条違反)

第三十三条 第二十八条の規定に違反して、優生手術を行つた者は、これを一年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。そのために、人を死に至らしめたときは、三年以下の懲役に処する。

附 則

 (施行期日)

第三十四条 この法律は、公布の日から起算して六十日を経過した日から、これを施行する。

 (関係法律の廃止)

第三十五条 国民優生法(昭和十五年法律第百七号)は、これを廃止する。

 (罰則規定の効力の存続)

第三十六条 この法律施行前になした違反行為に対する罰則の適用については、前条の法律は、この法律施行後も、なおその効力を有する。

 (届出の特例)

第三十七条 第二十五条の規定は、昭和二十一年厚生省令第四十二号(死産の屈出に関する規程)の規定による届出をした場合は、その範囲内で、これを適用しない。

別 表

一 遺伝性精神病
 精神分裂病
 躁鬱病
 真性癲癇

二 遺伝性精神薄弱
 白痴
 痴愚
 魯鈍

三 強度且つ悪質な遺伝性精神変質症
 著しい性欲異常
 兇悪な常習性犯罪者

四 強度且つ悪質な遺伝性病的性格
 分裂病質
 循環病質
 癲癇病質

五 強度且つ悪質な遺伝性身体疾患
 遺伝性進行性舞踏病
 遺伝性脊髄性運動失調症
 遺伝性小脳性運動失調症
 筋萎縮性側索硬化症
 脊髄性進行性筋萎縮症
 神経性進行性筋萎縮症
 進行性筋性筋栄養障碍症
 筋緊張病
 筋痙攣性癲癇
 遺伝性震顫症
 家族性小児四肢麻痺
 痙攣性脊髄麻痺
 強直性筋萎縮症
 先天性筋緊張消失症
 先天性軟骨発育障碍
 多発性軟骨性外骨腫
 白児
 魚鱗癬
 多発性軟性神経繊維腫
 結節性硬化症
 色素性乾皮症
 先天性表皮水疱症
 先天性ポルフイリン尿症
 先天性手掌足蹠角化症
 遺伝性視神経萎縮
 網膜色素変性
 黄斑部変性
 網膜膠腫
 先天性白内障
 全色盲
 牛眼
 黒内障性白痴
 先天性眼球震盪
 青色鞏膜
 先天性聾
 遺伝性難聴
 血友病

六 強度な遺伝性奇型
 裂手、裂足
 指趾部分的肥大症
 顔面披裂
 先天性無眼球症
 嚢性脊髄披裂
 先天性骨欠損症
 先天性四肢欠損症
 小頭症

 その他厚生大臣の指定するもの

(法務総裁・厚生・内閣総理大臣署名)

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