今日は、昭和時代中期の1946年(昭和21)の太平洋戦争後の占領下において、連合国最高司令官指令(SCAPIN)として、日本国政府に対して「地理授業再開に関する覚書」(SCAPIN-1046)が指令された日です。
「地理授業再開に関する覚書(ちりじゅぎょうさいかいにかんするおぼえがき)」は、連合国最高司令官指令(SCAPIN)として日本国政府に対して発せられた基本的施策を定める指示・訓令の一つでした。戦前の皇国史観が色濃い地理の教科書には、台湾や朝鮮、満州などの記載があり、当初はそのような記述のある箇所を黒く墨塗りにして削除させていましたが、1945年(昭和20)12月31日に指令された「修身、日本歴史及び地理停止に関する件」(SCAPIN-519)で、授業そのものを停止させられ、教科書も回収させられています。
それを修正し、この指令によって、文部省が作成し、連合国最高司令官が承認した教科書で、まず地理授業を再開するように指示したものでした。これに基づいて、文部省で新たに編集した暫定教科書によって、同年7月から国民学校(小学校)における地理授業は再開されています。
しかし、修身については、公民という全く新しい科目が設置され、同年9月から公民科が課されることとなりました。また、同年10月12日には、「日本史授業再開に関する覚書」(SCAPIN-1266)も出されて、同じ条件で日本史の授業の再開も許可され、同年10月から、文部省が作成した暫定教科書「くにのあゆみ」を使用して授業が再開されています。
以下に、「地理授業再開に関する覚書」(SCAPIN-1046)の全文(英語)と日本語訳を掲載して得おきます。また、参考までに「修身、日本歴史及び地理停止に関する件」(SCAPIN-519)の解説と日本語訳も付しておきます。
〇地理授業再開に関する覚書 (全文) (SCAPIN-1046) 1946年(昭和21)6月29日
AG 000.5 (29 June. 46) CIB APO 500
(SCAPIN-1046) 29 June 1946
MEMORANDUM FOR : IMPERIAL JAPANESE GOVERNMENT.
THROUGH : Central Liaison Office, Tokyo
SUBJECT : Reopening of School Courses in Geography.
1. Reference letter Imperial Japanese Government, Central Liaison office, C.L.O. No. 2833(PE), dated 12 June 1946, Subject:“Reoperening of School Courses in Geography”.
2. Permission is granted for the reopening of courses in Jeography in all educational institutions, including government, public and private schools, for which textbooks are published or sanctioned by the Ministry of Education, provided that in such courses only those textbooks prepared by the Ministry of Education and approved by General Headquarters, Supreme Commander for the Allied Powers, are used.
FOR THE SUPREME COMMANDER:
/s/ JOHN b. COOLEY
JOHN b. COOLEY,
Colonel, AGD,
Adjutant General.
「国立国会図書館デジタルコレクション」より
<日本語訳>
AG 000.5(1946年6月29日)CIB APO 500
(SCAPIN-1046) 1946年6月29日
覚書:日本帝国政府
経由:中央連絡事務所、東京。
件名:地理学授業の再開。
1. 参照文書は日本帝国政府への中央連絡事務所(C.L.O)No.2833(PE)、1946年6月12日付け、件名:「地理学授業の再運営」。
2. 文部省によって発行または認可され、連合軍の最高司令官である総司令部によって承認された教科書によって、官立、公立および私立学校を含むすべての教育機関で、地理授業の再開が許可されます。
最高司令官に代り
JOHN b. COOLEY (署名)
JOHN b. COOLEY
アメリカ合衆国海軍 大佐
総務
※英語の原文から訳しました。
☆「修身、日本歴史及び地理停止に関する件」(SCAPIN-519)とは?
太平洋戦争後の連合軍占領下において、1945年(昭和20)12月31日に、連合国軍最高司令部(GHQ)が出した指令(SCAPIN)で、正式には、「修身、日本歴史及び地理停止に関する件」(SCAPIN-519)といい、といい、GHQ教育四大指令の一つとされています。が出されます。文部省に対し、すべてのコースおよび教育機関で使用されている終身科、国史科、地理科に関する教科書および教師用マニュアルをすべてを使用中止とするよう指示し、指令部の許可あるまで再開しないようにしたものでした。そして、代替用教科書の改定案を準備し、連合国最高司令官に提出することとしています。その後、翌年6月29日の「地理授業再開に関する覚書」(SCAPIN-519)で地理科の再開を許可、10月12日の「日本史授業再開に関する覚書」(SCAPIN-1266)で国史科の再開を許可していますが、文部省が作成し、連合国最高司令官が承認した教科書を使用することが条件とされました。
☆(参考)「修身、日本歴史及び地理停止に関する件」(SCAPIN-519)の日本語訳
(昭和二十年十二月三十一日連合国軍最高司令官総司令部参謀副官第八号民間情報教育部ヨリ終戦連絡中央事務局経由日本帝国政府宛覚書)
一 昭和二十年十二月十五日附指令第三号国家神道及ビ教義ニ対スル政府ノ保障ト支援ノ撤廃ニ関スル民間情報教育部ノ基本的指令ニ基キ且日本政府ガ軍国主義的及ビ極端ナ国家主義的観念ヲ或ル種ノ教科書ニ執拗ニ織込ンデ生徒ニ課シカカル観念ヲ生徒ノ頭脳ニ植込マソガ為メニ教育ヲ利用セルニ鑑ミ茲ニ左ノ如キ指令ヲ発スル
(イ)文部省ハ曩ニ官公私立学校ヲ含ム一切ノ教育施設ニ於イテ使用スベキ修身日本歴史及ビ地理ノ教科書及ビ教師用参考書ヲ発行シ又ハ認可セルモコレラ修身、日本歴史及ビ地理ノ総テノ課程ヲ直チニ中止シ司令部ノ許可アル迄再ビ開始セザルコト
(ロ)文部省ハ修身、日本歴史及ビ地理夫々特定ノ学科ノ教授法ヲ指令スル所ノ一切ノ法令、規則又ハ訓令ヲ直チニ停止スルコト
(ハ)文部省ハ本覚書附則(イ)ニ摘要セル方法ニ依リテ設置スル為メニ(一)(イ)ニ依リ影響ヲ受クベキアラユル課程及ビ教育機関ニ於テ用ヒル一切ノ教科書及ビ教師用参考書ヲ蒐集スルコト
(ニ)文部省ハ本覚書附則(ロ)ニ摘要セル措置ニ依リテ本覚書ニ依リ影響ヲ受クベキ課程ニ代リテ挿入セラルベキ代行計画案ヲ立テ之ヲ当司令部ニ提出スルコト之等代行計画ハ茲ニ停止セラレタル課程ノ再開ヲ当司令部ガ許可スル迄続イテ実施セラルベキコト
(ホ)文部省ハ本覚書附則(ハ)ニ摘要セル措置ニ依リ修身、日本歴史及ビ地理ニ用フベキ教科書ノ改訂案ヲ立テ当司令部ニ提出スベキコト
二 本指令ノ条項ニ依リ影響ヲ受クベキ日本政府ノ総テノ官吏、下僚、傭員及ビ公私立学校ノ総テノ教職員ハ本指令ノ条項ノ精神並ニ字句ヲ遵守スル責任ヲ自ラ負フベキコト
三 附則略
「文部科学省ホームページ」より
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