この法律は、本土決戦に備えて政府への委任立法権を規定したもので、軍需生産・運輸通信の維持増強、生活必需物資の確保、防衛と秩序維持、税制の適正化、戦災の善後措置、そのほか広範な事項に関する緊急措置を現行法にかかわることなく施行しうることにしたものでした。
第87回帝国議会で提案され、戦時緊急措置委員会の諮問を必要とすることなどの修正後、枢密顧問の諮詢を経た上で、6月22日法律第38号として公布され、翌日より同法施行令と共に施行されます。
この効力の及ぶ範囲は広く、ほとんど立憲的手続を白紙にした非常大権の行使に等しいもので、政府に生産、流通、通信、防衛など、あらゆる面での緊急措置がとれる権限を与えることになりました。
同時に成人女子を含むほとんどの国民を軍事要員として組織化する「義勇兵役法」(昭和20年法律第39号)を同じ日に成立させ、本土決戦に備えての非常態勢に突入します。
また、政府はこの法令を根拠に7月以後に臨時の土地収用及び増税、事実上の強制労働を課することなどを意図して5つの勅令の承認を受けました。
しかし、「ポツダム宣言」を受諾して、同年8月15日に降伏したために、「国家総動員法及戦時緊急措置法廃止法律」(昭和20年法律第44号)により、この法律は1946年(昭和21)4月1日をもって廃止されます。
以下に、「戦時緊急措置法」の全文を掲載しておきますので、ご参照ください。
〇「戦時緊急措置法」(昭和20年法律第38号)昭和20年6月22日公布、23日施行
第一条 大東亜戦争ニ際シ国家ノ危急ヲ克服スル為緊急ノ必要アルトキハ政府ハ他ノ法令ノ規定ニ拘ラズ左ノ各号ニ掲グル事項ニ関シ応機ノ措置ヲ講ズル為必要ナル命令ヲ発シ又ハ処分ヲ為スコトヲ得
一 軍需生産ノ維持及増強
二 食糧其ノ他生活必需物資ノ確保
三 運輸通信ノ維持及増強
四 防衛ノ強化及秩序ノ維持
五 税制ノ適正化
六 戦災ノ善後措置
七 其ノ他戦力ノ集中発揮ニ必要ナル事項ニシテ勅令ヲ以テ指定スルモノ
第二条 政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ前条ノ規定ニ基キテ発スル命令ニ依リ為ス処分又ハ同条ノ規定ニ依リ為ス処分ニ因リ生ジタル損失ヲ補償スルコトヲ得
第三条 第一条ノ規定ニ基キテ発スル命令若ハ之ニ依リ為ス処分又ハ同条ノ規定ニ依リ為ス処分ニ違反シタル者ハ十年以下ノ懲役又ハ十万円以下ノ罰金ニ処ス
2 第一条ノ規定ニ基キテ発スル命令ニ依リ為ス処分又ハ同条ノ規定ニ依リ為ス処分ヲ拒ミ、妨ゲ又ハ忌避シタル者ハ三年以下ノ懲役、五千円以下ノ罰金又ハ拘留若ハ科料ニ処ス
3 国家総動員法第三十五条、第四十八条及第四十九条ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第四条 第一条ノ規定ニ基ク措置ニシテ重要ナルモノニ付テハ政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ戦時緊急措置委員会ニ諮問スベシ但シ已ムコトヲ得ザル場合ニ於テハ事後ニ之ヲ報告スベシ
2 戦時緊急措置委員会ニ関スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第五条 本法施行ニ関シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
「法令全書」より