ガウスの歴史を巡るブログ(その日にあった過去の出来事)

 学生時代からの大の旅行好きで、日本中を旅して回りました。その中でいろいろと歴史に関わる所を巡ってきましたが、日々に関わる歴史上の出来事や感想を紹介します。Yahooブログ閉鎖に伴い、こちらに移動しました。

2024年10月

kokurenfuhauboushijyouyaku0
 今日は、平成時代の2003年(平成15)に、国際連合総会において、「腐敗の防止に関する国際連合条約(UNCAC)」が採択された日です。
 「腐敗の防止に関する国際連合条約(UNCAC)」(ふはいのぼうしにかんするこくさいれんごうじょうやく)は、組織や個人の汚職や腐敗行為から生じる経済犯罪を防止するために設置された国際条約で、略称は「国連腐敗防止条約」と言います。2002年(平成14)1月に、国際連合において、民主主義や公正な競争、組織犯罪・テロの防止策、法の支配、人権、生活水準などが、腐敗による横領、粉飾決算、資金洗浄、贈収賄、汚職などの経済犯罪によって脅かされることを懸念して、交渉開始され、2003年(平成15)10月31蘇飛に、メキシコのメリダで開催中の国際連合総会において採択されました。
 同年12月に、メキシコのメリダにて署名会議が開催(日本も署名)され、2005年(平成17)12月に、条約発効しています。本条約は、2000年(平成12)11月15日に採択された「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」を補完する役割を担っており、この2つの条約の執行及び締約国の監視は国連薬物犯罪事務所が行い、国連腐敗防止条約加盟団体会議がほぼ2年毎に開催されてきました。
 以下に、「腐敗の防止に関する国際連合条約(UNCAC)」の日本語訳を掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「腐敗の防止に関する国際連合条約」(日本語訳)2003年(平成15)10月31日採択

前文
この条約の締約国は、 
腐敗が社会の安定及び安全に対してもたらす問題及び脅威が、民主主義の制度及び価値、倫理上の価値並びに正義を害すること並びに持続的な発展及び法の支配を危うくすることの重大性を憂慮し、 
また、腐敗行為とその他の形態の犯罪、特に組織犯罪及び経済犯罪(資金洗浄を含む。)との結び付きを憂慮し、 
さらに、国の資源の相当の部分を構成する巨額の財産に関連し、その国の政治的安定及び持続的な発展を脅かす腐敗行為の事案について憂慮し、 
腐敗がもはや地域的な問題ではなく、すべての社会及び経済に影響を及ぼす国際的な現象であり、腐敗行為を防止し、及び規制するための国際協力が不可欠であることを確信し、 
また、効果的に腐敗行為を防止し、及びこれと戦うために包括的かつ総合的な取組が必要であることを確信し、 
さらに、効果的に腐敗行為を防止し、及びこれと戦うための国の能力の向上(人的能力の強化及び制度の確立によるものを含む。)に当たり、技術援助の利用が重要な役割を果たすことができることを確信し、 
個人的な富を不正に取得することが、特に民主主義の制度、国の経済及び法の支配を損なう可能性があることを確信し、 
不正に取得された財産の国際的な移転を一層効果的な方法によって防止し、探知し、及び抑止すること並びに財産の回復における国際協力を強化することを決意し、 
刑事手続及び財産権について裁判する民事上又は行政上の手続における正当な法の手続の基本原則を確認し、 
腐敗行為の防止及び撲滅はすべての国の責任であること並びにこの分野における各国の努力を効果的なものとするためには、市民社会、非政府機関、地域社会の組織等の公的部門に属さない個人及び集団の支援及び参加を得て、すべての国が相互に協力しなければならないことに留意し、 
また、公の事務及び財産の適切な管理、公平性、責任並びに法の下の平等の諸原則並びに誠実性を保障する必要性及び腐敗を拒絶する文化を育成する必要性に留意し、 
腐敗行為の防止及びこれとの戦いにおいて犯罪防止刑事司法委員会及び国際連合薬物犯罪事務所が遂行している業務を称賛し、 
この分野において他の国際機関及び地域機関が遂行している業務(アフリカ連合、欧州評議会、関税協力理事会(世界税関機構と称することもある。)、欧州連合、アラブ連盟、経済協力開発機構及び米州機構の活動を含む。)を想起し、 
特に、千九百九十六年三月二十九日に米州機構が採択した腐敗の防止に関する米州条約、千九百九十七年五月二十六日に欧州連合理事会が採択した欧州共同体の職員又は欧州連合加盟国の公務員に係る腐敗の防止に関する条約、千九百九十七年十一月二十一日に経済協力開発機構が採択した国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約、千九百九十九年一月二十七日に欧州評議会閣僚委員会が採択した腐敗に関する刑事法条約、千九百九十九年十一月四日に同委員会が採択した腐敗に関する民事法条約、二千三年七月十二日にアフリカ連合の加盟国の元首又は政府の長が採択した腐敗の防止及び腐敗との戦いに関するアフリカ連合条約等の腐敗行為を防止し、及びこれと戦うための多数国間の文書を評価しつつ、これらの文書に留意し、 
国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約が二千三年九月二十九日に効力を生じたことを歓迎して、 
次のとおり協定した。

第一章 一般規定

第一条 目的
この条約は、次のことを目的とする。
(a) 一層効率的かつ効果的に腐敗行為を防止し、及びこれと戦うための措置を促進し、及び強化すること。
(b) 腐敗行為を防止し、及びこれと戦うことについての国際協力及び技術援助(財産の回復についての協力及び援助を含む。)を促進し、容易にし、及び支援すること。
(c) 誠実性を高め、説明責任を果たすことを促進し、並びに公の事務及び財産の適切な管理を促進すること。
第二条 用語
この条約の適用上、
(a) 「公務員」とは、
(i) 締約国の立法、行政又は司法に属する職にある者(任命されたか選出されたか、永続的な職にあるか一時的な職にあるか、報酬が支払われているか否か、また、序列のいかんを問わない。)、
(ii) 締約国の国内法において公的なものとされる任務(公的機関又は公的企業のための任務を含む。)又は役務であって、当該締約国の関連する分野の法の適用を受けるものを遂行し、又は提供するその他の者、及び
(iii) 締約国の国内法において公務員とされるその他の者をいう。ただし、第二章に定める特定の措置の適用上、「公務員」とは、締約国の国内法において公的なものとされる任務又は役務であって、当該締約国の関連する分野の法の適用を受けるものを遂行し、又は提供する者をいうものとすることができる。
(b) 「外国公務員」とは、外国の立法、行政又は司法に属する職にある者(任命されたか選出されたかを問わない。)及び外国のために公的な任務(当該外国の公的機関又は公的企業のための任務を含む。)を遂行する者をいう。
(c) 「公的国際機関の職員」とは、国際公務員又は公的国際機関に代わって行動することを当該公的国際機関から委任された者をいう。
(d) 「財産」とは、あらゆる種類の財産(有体物であるか無体物であるか、動産であるか不動産であるか及び有形であるか無形であるかを問わない。)及びこれらの財産に関する権原又は権利を証明する法律上の書類又は文書をいう。
(e) 「犯罪収益」とは、犯罪の実行により生じ、又は直接若しくは間接に入手された財産をいう。
(f) 「凍結」又は「押収」とは、裁判所その他の権限のある当局が出した命令に基づき財産の移転、転換、処分若しくは移動を一時的に禁止すること又は当該命令に基づき財産の一時的な保管若しくは管理を行うことをいう。
(g) 「没収」とは、裁判所その他の権限のある当局の命令による財産の永久的なはく奪をいう。
(h) 「前提犯罪」とは、その結果として第二十三条に定める犯罪の対象となり得る収益が生じた犯罪をいう。
(i) 「監視付移転」とは、犯罪を捜査するため、及び当該犯罪を実行し、又はその実行に関与した者を特定するため、一又は二以上の国の権限のある当局が、事情を知りながら、かつ、その監視の下に、不正な又はその疑いがある送り荷が当該一又は二以上の国の領域を出ること、これを通過すること又はこれに入ることを認めることとする方法をいう。
第三条 適用範囲
1 この条約は、この条約に定めるところにより、腐敗行為の防止、捜査及び訴追並びにこの条約に従って定められる犯罪の収益の凍結、押収、没収及び返還について適用する。
2 この条約を実施するためには、別段の定めがある場合を除くほか、この条約に定める犯罪により国の財産に対する損害又は侵害が生ずることを要しない。
第四条 主権の保護
1 締約国は、国の主権平等及び領土保全の原則並びに他の国の国内問題への不干渉の原則に反しない方法で、この条約に基づく義務を履行する。
2 この条約のいかなる規定も、締約国に対し、他の国の領域内において、当該他の国の当局がその国内法により専ら有する裁判権を行使する権利及び任務を遂行する権利を与えるものではない。

第二章 防止措置

第五条 腐敗行為の防止に関する政策及び慣行
1 締約国は、自国の法制の基本原則に従い、社会の参加を促進し、かつ、法の支配、公の事務及び財産の適切な管理、誠実性、透明性並びに説明責任の諸原則を反映する効果的で調整された腐敗行為の防止に関する政策を策定し、及び実施し、又は維持する。
2 締約国は、腐敗行為の防止を目的とする効果的な慣行を確立し、及び促進するよう努める。
3 締約国は、腐敗行為を防止し、及びこれと戦う上で妥当なものであるか否かについて判断することを目的として、関連する法的文書及び行政上の措置を定期的に評価するよう努める。
4 締約国は、適当な場合には、自国の法制の基本原則に従い、この条に定める措置を促進し、及び発展させることについて、相互に並びに関連する国際機関及び地域機関と協力する。この協力には、腐敗行為の防止を目的とする国際的な計画及び事業への参加を含めることができる。
第六条 腐敗行為の防止のための機関
1 締約国は、自国の法制の基本原則に従い、次の方法により腐敗行為を防止する機関を適宜一又は二以上設ける。
(a) 前条に定める政策を実施し、並びに適当な場合にはこれらの政策の実施について監督し、及び調整すること。
(b) 腐敗行為の防止に関する知識を増進させ、及び普及させること。
2 締約国は、自国の法制の基本原則に従い、1の機関に対し、その任務を効果的に、かつ、いかなる不当な影響も受けることなく遂行することができるよう必要な独立性を付与する。必要な物的資源及び専門職員並びにこれらの専門職員が任務の遂行のために必要とする訓練は、提供されるべきである。
3 締約国は、国際連合事務総長に対し、腐敗行為の防止に関する具体的な措置の策定及び実施について他の締約国を援助することができる一又は二以上の当局の名称及び所在地を通報する。
第七条 公的部門
1 締約国は、適当な場合には、自国の法制の基本原則に従い、行政官及び適当な場合には選出によらないその他の公務員の募集、採用、雇用、昇進及び退職に関する次の制度を採用し、維持し、及び強化するよう努める。
(a) 効率性及び透明性の原則並びに能力、公平、適性等の客観的な基準の原則に基づく制度
(b) 特に腐敗行為が発生しやすいとされる公的な地位に就く者の選定及び訓練並びに適当な場合にはそのような者の他の地位への交代のための適切な手続を有する制度
(c) 自国の経済発展の水準を考慮しつつ、適正な報酬及び公平な俸給表の設定を促進する制度
(d) 公的な任務を正確に、廉潔に及び適正に遂行するとの要求をこれらの公務員が満たすことができるようにするための教育及び訓練の計画を促進し、並びにその任務の遂行に固有の腐敗行為の危険性についての意識を高めるための専門的かつ適切な訓練を提供する制度。これらの計画においては、適用可能な分野における行動の規範又は基準を参照することができる。
2 締約国は、公職への立候補及び選出に関する基準を定めるため、この条約の目的及び自国の国内法の基本原則に従い、適当な立法上及び行政上の措置をとることを考慮する。
3 締約国は、選出される公職への立候補に係る資金及び適当な場合には政党の資金についての透明性を高めるため、この条約の目的及び自国の国内法の基本原則に従い、適当な立法上及び行政上の措置をとることを考慮する。
4 締約国は、自国の国内法の基本原則に従い、透明性を高め、及び利益相反を防止する制度を採用し、維持し、及び強化するよう努める。
第八条 公務員の行動規範
1 締約国は、腐敗行為と戦うため、自国の法制の基本原則に従い、自国の公務員について、特に誠実性、廉直性及び責任感を高めるようにする。
2 締約国は、特に、自国の組織及び法制の枠内で、公的な任務を正確に、廉潔に及び適正に遂行するための行動の規範又は基準を適用するよう努める。
3 この条の規定を実施するため、締約国は、適当な場合には、自国の法制の基本原則に従い、千九百九十六年十二月十二日の国際連合総会決議第五十九号(第五十一回会期)の附属書に定める「公務員の国際的行動規範」等の地域機関、地域間機関及び多数国間機関による関連の提案に留意する。
4 締約国は、自国の国内法の基本原則に従い、公務員がその任務の遂行に当たり腐敗行為の存在を知るに至った場合には、当該腐敗行為について適当な当局に報告することを促進するための措置及び制度を定めることを考慮する。
5 締約国は、適当な場合には、自国の国内法の基本原則に従い、特に、公的な任務以外の活動、就職、投資、財産及び相当な価額の贈与された金品又は実質的な利益であって、公務員としての自己の任務との関係において利益相反が生じ得るものに関し、適当な当局に対して申告を行うことを公務員に求める措置及び制度を定めるよう努める。
6 締約国は、自国の国内法の基本原則に従い、この条の規定に従って定められる規範又は基準に違反する公務員に対し、懲戒上その他の措置をとることを検討する。
第九条 公的調達及び財政の管理
1 締約国は、自国の法制の基本原則に従い、透明性、競争及び意思決定における客観的な基準に基づく適当な調達の制度であって特に腐敗行為の防止に効果的なものを設けるため、必要な措置をとる。これらの制度については、その適用に当たり適当な基準額を考慮することができるものとし、特に次のことができるようなものとする。
(a) 潜在的な入札者が十分な時間的余裕をもって入札書を作成し、及び提出することができるようにするため、調達の手続及び契約に関する情報(入札への招請に関する情報及び落札に関する関連情報を含む。)を公に配布すること。
(b) 参加の条件(選択及び落札の基準並びに入札の規則を含む。)を事前に定め、及び公表すること。
(c) 規則又は手続の正確な適用についての事後の確認を容易にするため、公的調達に係る決定のための客観的な、かつ、あらかじめ定められた基準を用いること。
(d) この1の規定に従って定められる規則又は手続が遵守されない場合に法的な請求を行い、及び法的な救済を受けることができるようにするため、国内における見直しのための効果的な制度(不服申立てについての効果的な制度を含む。)を設けること。
(e) 適当な場合には、調達について責任を有する職員に関する事項(特定の公的調達における利害関係についての申告、職員選定の手続、必要な訓練等をいう。)を規律するための措置をとること。
2 締約国は、自国の法制の基本原則に従い、財政の管理において透明性を高め、及び説明責任を果たすことを促進するため、適当な措置をとる。これらの措置には、特に次の事項を含める。
(a) 国の予算の採択に関する手続
(b) 収入及び支出に関する時宜を得た報告
(c) 会計及び監査の基準並びに関連の監督に関する制度
(d) 危険の管理及び内部の統制に関する効果的かつ効率的な制度
(e) 適当な場合には、この2に定める要件に適合していない際の是正措置
3 締約国は、自国の国内法の基本原則に従い、公の支出及び収入に関する会計帳簿、記録、会計報告その他の文書の完全性を維持するため、並びにこれらの文書における虚偽の記載を防止するため、必要な民事上及び行政上の措置をとる。
第十条 公衆への報告
締約国は、腐敗行為と戦う必要性を考慮して、自国の国内法の基本原則に従い、公共行政における透明性を高めるため、必要な措置(適当な場合には、公共行政に係る組織、活動及び意思決定手続に関連するものを含む。)をとる。これらの措置には、特に次の事項を含めることができる。
(a) 自国の公共行政に係る組織、活動及び意思決定手続に関する情報並びに公衆に関係のある決定及び法的行為に関する情報であって私生活及び個人情報の保護に妥当な考慮を払ったものを公衆が適当な場合に入手することを認めるための手続又は規則を定めること。
(b) 意思決定を行う権限のある当局から公衆が情報を入手することを容易にするため、適当な場合には、行政上の手続を簡素化すること。
(c) 情報を公表すること。この情報には、自国の公共行政における腐敗行為の危険性に関する定期的な報告を含めることができる。
第十一条 司法機関及び訴追部門に関する措置
1 締約国は、司法機関の独立性及び腐敗行為との戦いにおける司法機関の重要な役割に留意して、自国の法制の基本原則に従い、かつ、司法の独立性を妨げることなく、司法機関の職員について誠実性を強化し、及び腐敗行為を行い得る機会を防止するための措置をとる。これらの措置には、司法機関の職員の行動に関する規則を含めることができる。
2 訴追部門が司法機関の一部を成していないが司法部門の独立性と同様の独立性を付与されている締約国においては、1の規定に従ってとられる措置と同等の効果を有する措置を訴追部門内に導入し、及び適用することができる。
第十二条 民間部門
1 締約国は、自国の国内法の基本原則に従い、民間部門に係る腐敗行為を防止し、並びに民間部門における会計及び監査の基準を強化するための措置をとるものとし、適当な場合には、これらの措置に従わないことについて、効果的な、均衡のとれた、かつ、抑止力のある民事上、行政上又は刑事上の罰則を定めるための措置をとる。
2 1の目的を達成するための措置には、特に次の事項を含めることができる。
(a) 法執行機関と関連の民間の主体との間の協力を促進すること。
(b) 関連の民間の主体の誠実性を保障するための基準及び手続(事業活動及びすべての関連する職業上の活動を正確に、廉潔に及び適正に遂行し、並びに利益相反を防止するための行動規範並びに事業相互の間における及び国との事業に係る契約上の関係における適切な商慣行の利用を促進するための行動規範を含む。)の策定を促進すること。
(c) 民間の主体について透明性を高めること(適当な場合には、企業の設立及び運営に関係する法人及び自然人の特定に関する措置を含む。)。
(d) 民間の主体を規律する手続(公の当局により商業活動のために与えられる補助金及び免許に関する手続を含む。)の濫用を防止すること。
(e) 公務員であった者の職業上の活動又は民間部門による辞職後若しくは退職後の公務員の雇用がこれらの公務員がその任期中に遂行し、又は監督していた任務に直接関係する場合において、適当なときは、そのような活動又は雇用を行うことに対し合理的な期間制限を課することにより、利益相反を防止すること。
(f) 民間企業が、その構成及び規模を考慮して、腐敗行為を防止し、及び探知することに資する内部の監査について十分な管理を行うことを確保し、並びに民間企業の勘定書及び必要とされる財務諸表が適当な監査及び証明の手続に従うことを確保すること。
3 締約国は、腐敗行為を防止するため、帳簿及び記録の保持、財務諸表の開示並びに会計及び監査の基準に関する自国の法令に従い、この条約に従って定められる犯罪を行うことを目的とする次の行為を禁止するために必要な措置をとる。
(a) 簿外勘定を設定すること。
(b) 帳簿外での取引又は不適切に識別された取引を行うこと。
(c) 架空の支出を記載すること。
(d) 目的が不正確に識別された負債を記入すること。
(e) 虚偽の書類を使用すること。
(f) 法律に定める日前に帳簿書類を故意に廃棄すること。
4 締約国は、第十五条及び第十六条の規定に従って定められる犯罪を構成する要素の一つである賄賂となる支出並びに適当な場合には、腐敗行為を助長するために要したその他の支出について、税の控除を認めてはならない。
第十三条 社会の参加
1 締約国は、自国が有する手段の範囲内で、かつ、自国の国内法の基本原則に従い、腐敗行為の防止及びこれとの戦いについての市民社会、非政府機関、地域社会の組織等の公的部門に属さない個人及び集団の積極的な参加を促進するため、並びに腐敗行為の存在、原因及び重大性並びに腐敗行為がもたらす脅威についての公衆の意識を高めるため、適当な措置をとる。このような参加は、次の措置によって強化されるべきである。
(a) 意思決定手続の透明性を高め、及び意思決定手続についての公衆の参加を促進すること。
(b) 公衆が情報を効果的に利用することができるようにすること。
(c) 腐敗行為を許容しないことに資する広報活動及び公共教育計画(学校及び大学の教育課程を含む。)
(d) 腐敗行為に関する情報を求め、受領し、公表し、及び提供する自由を尊重し、促進し、及び保護すること。これらの自由については、一定の制限を課することができる。ただし、そのような制限は、法律によって定められ、かつ、次のいずれかの目的のために必要とされるものに限る。
(i) 他の者の権利又は信用を尊重すること。
(ii) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳を保護すること。
2 締約国は、この条約に定める関連の腐敗行為の防止のための機関を公衆に周知させるために適当な措置をとるものとし、また、適当な場合には、この条約に従って定められる犯罪を構成すると認められる事件に関する報告(匿名によるものを含む。)を行うためにそのような機関を利用することができるようにする。
第十四条 資金洗浄を防止するための措置
1 締約国は、次の措置をとる。
(a) すべての形態の資金洗浄を抑止し、及び探知するため、自国の権限の範囲内で、銀行及び銀行以外の金融機関(金銭又は金銭的価値を有するものの移転のための公式又は非公式の役務を提供する自然人又は法人を含む。)並びに適当な場合には特に資金洗浄が行われやすい他の機関についての包括的な国内の規制制度及び監督制度を設けること。これらの制度は、顧客及び適当な場合には受益者の身元確認、記録保存並びに疑わしい取引の報告を求めることに重点を置くものとする。
(b) 第四十六条の規定の適用を妨げることなく、資金洗浄との戦いに従事する行政当局、規制当局、法執行当局その他の当局(国内法に基づき適当な場合には、司法当局を含む。)が、自国の国内法に定める条件の範囲内で、国内的及び国際的に協力し、及び情報を交換するための能力を有することを確保し、並びにそのために潜在的な資金洗浄に関する情報の収集、分析及び提供について自国の中心としての役割を果たす金融情報機関の設立を考慮すること。
2 締約国は、情報の適正な使用を確保するための保障を条件とし、かつ、合法的な資本の移動を何ら妨げることなく、現金及び適当な譲渡可能な証書の国境を越える移動を探知し、及び監視するための実行可能な措置をとることを考慮する。これらの措置には、相当な量の現金及び適当な譲渡可能な証書の国境を越える移転について報告することを個人及び企業に求めることを含めることができる。
3 締約国は、金融機関(送金を行う業者を含む。)に次のことを求めるための適当かつ実行可能な措置をとることを考慮する。
(a) 送金元に関する正確かつ有意義な情報を資金の電子的送金のための様式及び関連する通信に含めること。
(b) 一連の支払全体にわたっての情報を維持すること。
(c) 送金元に関する完全な情報を伴わない資金の移転に対し厳格な審査を適用すること。
4 締約国は、この条の規定に基づき国内の規制制度及び監督制度を設けるに当たり、他の条の規定の適用を妨げることなく、地域機関、地域間機関及び多数国間機関による関連の提案であって資金洗浄と戦うためのものを指針として使用するよう求められる。
5 締約国は、資金洗浄と戦うため、司法当局、法執行当局及び金融規制当局の間の世界的、地域的及び小地域的な協力並びに二国間の協力を発展させ、及び促進するよう努める。

第三章 犯罪化及び法執行

第十五条 自国の公務員に係る贈収賄
締約国は、故意に行われる次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
(a) 公務員に対し、当該公務員が公務の遂行に当たって行動し、又は行動を差し控えることを目的として、当該公務員自身又は他の者若しくは団体のために不当な利益を直接又は間接に約束し、申し出、又は供与すること。
(b) 公務員が、自己の公務の遂行に当たって行動し、又は行動を差し控えることを目的として、当該公務員自身又は他の者若しくは団体のために不当な利益を直接又は間接に要求し、又は受領すること。
第十六条 外国公務員及び公的国際機関の職員に係る贈収賄
1 締約国は、国際商取引に関連して商取引上の利益又はその他の不当な利益を取得し、又は維持するために、外国公務員又は公的国際機関の職員に対し、当該外国公務員又は公的国際機関の職員が公務の遂行に当たって行動し、又は行動を差し控えることを目的として、当該外国公務員若しくは公的国際機関の職員自身又は他の者若しくは団体のために不当な利益を直接又は間接に約束し、申し出、又は供与することを故意に行うことを犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
2 締約国は、外国公務員又は公的国際機関の職員が故意に、自己の公務の遂行に当たって行動し、又は行動を差し控えることを目的として、当該外国公務員若しくは公的国際機関の職員自身又は他の者若しくは団体のために不当な利益を直接又は間接に要求し、又は受領することを犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることを考慮する。
第十七条 公務員による財産の横領、不正使用その他目的外使用
締約国は、公務員が故意に、自己又は他の者若しくは団体の利益のために、その地位に基づき当該公務員に委託された財産、公的若しくは私的な資金又は証券その他の価値を有する物につき、横領、不正使用その他目的外使用を行うことを犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
第十八条 影響力に係る取引
締約国は、故意に行われる次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることを考慮する。
(a) 公務員その他の者に対し、行為を働きかけた者その他の者のために当該締約国の行政機関又は公の当局から不当な利益を取得するため当該公務員その他の者が現実又は想像上の影響力を不当に行使することを目的として、不当な利益を直接又は間接に約束し、申し出、又は供与すること。
(b) 公務員その他の者が、当該締約国の行政機関又は公の当局から不当な利益を取得するため自己の現実又は想像上の影響力を不当に行使することを目的として、当該公務員その他の者自身又は他の者のために不当な利益を直接又は間接に要求し、又は受領すること。
第十九条 職権の濫用
締約国は、公務員が故意に、自己又は他の者若しくは団体のために不当な利益を取得するため、自己の任務の遂行に当たり、職権又は地位を濫用すること(法令に違反して特定の行為を行うこと又は行わないことをいう。)を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることを考慮する。
第二十条 不正な蓄財
締約国は、自国の憲法及び法制の基本原則に従い、不正な蓄財(自己の合法的な収入との関係において合理的に説明することのできない公務員の財産の著しい増加をいう。)が故意に行われることを犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることを考慮する。
第二十一条 民間部門における贈収賄
締約国は、経済上、金融上又は商業上の活動において故意に行われる次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることを考慮する。
(a) 民間部門の主体を運営し、又はこれに勤務する者(資格のいかんを問わない。)に対し、その者が自己の任務に反して行動し、又は行動を差し控えることを目的として、その者自身又は他の者のために不当な利益を直接又は間接に約束し、申し出、又は供与すること。
(b) 民間部門の主体を運営し、又はこれに勤務する者(資格のいかんを問わない。)が、自己の任務に反して行動し、又は行動を差し控えることを目的として、その者自身又は他の者のために不当な利益を直接又は間接に要求し、又は受領すること。
第二十二条 民間部門における財産の横領
締約国は、民間部門の主体を運営し、又はこれに勤務する者(資格のいかんを問わない。)が故意に、経済上、金融上又は商業上の活動において、その地位に基づき自己に委託された財産、私的な資金又は証券その他の価値を有する物を横領することを犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることを考慮する。
第二十三条 犯罪収益の洗浄
1 締約国は、自国の国内法の基本原則に従い、故意に行われる次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
(a)(i) その財産が犯罪収益であることを認識しながら、犯罪収益である財産の不正な起源を隠匿し若しくは偽装する目的で又は前提犯罪を実行し若しくはその実行に関与した者がその行為による法律上の責任を免れることを援助する目的で、当該財産を転換し、又は移転すること。
(ii) その財産が犯罪収益であることを認識しながら、犯罪収益である財産の真の性質、出所、所在、処分、移動若しくは所有権又は当該財産に係る権利を隠匿し、又は偽装すること。
(b) 自国の法制の基本的な概念に従い、
(i) その財産が犯罪収益であることを当該財産を受け取った時において認識しながら、犯罪収益である財産を取得し、所持し、又は使用すること。
(ii) この条の規定に従って定められる犯罪に参加し、これを共謀し、これに係る未遂の罪を犯し、これをほう助し、教唆し若しくは援助し、又はこれについて相談すること。
2 1の規定の実施上又は適用上、
(a) 締約国は、最も広範囲の前提犯罪について1の規定を適用するよう努める。
(b) 締約国は、少なくとも、この条約に従って定められる犯罪を包括的に前提犯罪に含める。
(c) (b)の規定の適用上、前提犯罪には、締約国の管轄の内外のいずれで行われた犯罪も含める。ただし、締約国の管轄外で行われた犯罪は、当該犯罪に係る行為がその行為の行われた国の国内法に基づく犯罪であり、かつ、この条の規定を実施し、又は適用する締約国において当該行為が行われた場合にその行為が当該締約国の国内法に基づく犯罪となるときに限り、前提犯罪を構成する。
(d) 締約国は、この条の規定を実施する自国の法律の写し及びその法律に変更があった場合にはその変更後の法律の写し又はこれらの説明を国際連合事務総長に提出する。
(e) 締約国は、自国の国内法の基本原則により必要とされる場合には、1に規定する犯罪についての規定を前提犯罪を行った者について適用しないことを定めることができる。
第二十四条 隠匿
前条の規定の適用を妨げることなく、締約国は、この条約に従って定められる犯罪に参加することなく、当該犯罪が行われた後に、当該犯罪の結果生じた財産であることを認識しながら当該財産の隠匿又は継続的な保有を故意に行うことを犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることを考慮する。
第二十五条 司法妨害
締約国は、故意に行われる次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
(a) この条約に従って定められる犯罪に関する手続において虚偽の証言をさせるために、又は証言すること若しくは証拠を提出することを妨害するために、暴行を加え、脅迫し若しくは威嚇し、又は不当な利益を約束し、申し出若しくは供与すること。
(b) 裁判官又は法執行の職員によるこの条約に従って定められる犯罪に関する公務の遂行を妨害するために、暴行を加え、脅迫し、又は威嚇すること。この(b)の規定は、締約国が裁判官及び法執行の職員以外の公務員を保護する法律を定めることを妨げるものではない。
第二十六条 法人の責任
1 締約国は、自国の法的原則に従い、この条約に従って定められる犯罪への参加について法人の責任を確立するため、必要な措置をとる。
2 法人の責任は、締約国の法的原則に従い、刑事上、民事上又は行政上のものとすることができる。
3 法人の責任は、犯罪を行った自然人の刑事上の責任に影響を及ぼすものではない。
4 締約国は、特に、この条の規定に従って責任を負う法人に対し、効果的な、均衡のとれた、かつ、抑止力のある刑罰又は刑罰以外の制裁(金銭的制裁を含む。)が科されることを確保する。
第二十七条 参加及び未遂
1 締約国は、自国の国内法に従い、共犯者、ほう助者、教唆者等立場のいかんを問わず、この条約に従って定められる犯罪に参加することを犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
2 締約国は、自国の国内法に従い、この条約に従って定められる犯罪の未遂を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることができる。
3 締約国は、自国の国内法に従い、この条約に従って定められる犯罪の予備を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることができる。
第二十八条 犯罪の要件としての認識、故意及び目的
この条約に従って定められる犯罪の要件として求められる認識、故意又は目的は、客観的な事実の状況により推認することができる。
第二十九条 出訴期間
締約国は、適当な場合には、自国の国内法により、この条約に従って定められる犯罪につき、公訴を提起することができる長期の出訴期間を定める。また、締約国は、容疑者が裁判を逃れている場合について、一層長期の出訴期間又は出訴期間の進行の停止を定める。
第三十条 訴追、裁判及び制裁
1 締約国は、この条約に従って定められる犯罪の実行につき、これらの犯罪の重大性を考慮した制裁を科する。
2 締約国は、自国の法制及び憲法上の原則に従い、自国の公務員に対しその任務の遂行のために与える免除又は司法上の特権と、この条約に従って定められる犯罪につき必要な場合には効果的に捜査、訴追及び裁判を行う可能性との間に適当な均衡を確立し、又は維持するため、必要な措置をとる。
3 締約国は、この条約に従って定められる犯罪を行った者の訴追に関する国内法における法律上の裁量的な権限が、これらの犯罪に関する法の執行が最大の効果を上げるように、かつ、これらの犯罪の実行を抑止することの必要性について妥当な考慮を払って、行使されることを確保するよう努める。
4 締約国は、この条約に従って定められる犯罪については、自国の国内法に従い、かつ、防御の権利に妥当な考慮を払って、裁判までの間又は上訴までの間に行われる釈放の決定に関連して課される条件においてその後の刑事手続への被告人の出頭を確保する必要性が考慮されることを確保するよう努めるため、適当な措置をとる。
5 締約国は、この条約に従って定められる犯罪について有罪とされた者の早期釈放又は仮釈放の可否を検討するに当たり、このような犯罪の重大性を考慮する。
6 締約国は、自国の法制の基本原則に適合する範囲内で、適当な当局がこの条約に従って定められる犯罪について訴追された公務員を、無罪の推定の原則の尊重に留意しつつ、適当な場合には罷免し、停職にし、又は配置換えすることのできる手続を定めることを考慮する。
7 締約国は、犯罪の重大性により正当と認められる場合には、自国の法制の基本原則に適合する範囲内で、この条約に従って定められる犯罪について有罪とされた者に関し、裁判所の命令その他の適当な方法により、自国の国内法が定める期間、次のことについて資格を有しないものとする手続を定めることを考慮する。
(a) 公職に就任し、又は在任すること。
(b) 自国がその全部又は一部を所有する企業に就職し、又は在職すること。
8 1の規定は、権限のある当局が行政官に対して懲戒上の権限を行使することを妨げるものではない。
9 この条約のいかなる規定も、この条約に従って定められる犯罪並びに適用可能な法律上の犯罪阻却事由及び行為の合法性を規律する他の法的原則は締約国の国内法により定められるという原則並びにこれらの犯罪は締約国の国内法に従って訴追され、及び処罰されるという原則に影響を及ぼすものではない。
10 締約国は、この条約に従って定められる犯罪について有罪とされた者の社会復帰を促進するよう努める。
第三十一条 凍結、押収及び没収
1 締約国は、次のものの没収を可能とするため、自国の国内法制において最大限度可能な範囲で必要な措置をとる。
(a) この条約に従って定められる犯罪により生じた犯罪収益又は当該犯罪収益に相当する価値を有する財産
(b) この条約に従って定められる犯罪において、用い、又は用いることを予定していた財産、装置又は他の道具
2 締約国は、1に規定するものを最終的に没収するために特定し、追跡し、及び凍結し、又は押収することができるようにするため、必要な措置をとる。
3 締約国は、自国の国内法に従い、権限のある当局が1及び2に規定する財産であって、凍結し、押収し、又は没収したものを管理することを規律するため、必要な立法その他の措置をとる。
4 犯罪収益の一部又は全部が他の財産に変わり、又は転換した場合には、当該犯罪収益に代えて当該他の財産につきこの条に規定する措置をとることができるようにするものとする。
5 犯罪収益が合法的な出所から取得された財産と混同した場合には、凍結又は押収のいかなる権限も害されることなく、混同した当該犯罪収益の評価価値を限度として、混同が生じた財産を没収することができるようにするものとする。
6 犯罪収益、犯罪収益が変わり若しくは転換した財産又は犯罪収益が混同した財産から生じた収入その他の利益についても、犯罪収益と同様の方法により及び同様の限度において、この条に規定する措置をとることができるようにするものとする。
7 この条及び第五十五条の規定の適用上、締約国は、自国の裁判所その他の権限のある当局に対し、銀行、財務又は商取引の記録の提出又は押収を命令する権限を与える。締約国は、銀行による秘密の保持を理由としては、この7の規定に基づく行動をとることを拒否することができない。
8 締約国は、自国の国内法の基本原則及び司法その他の手続の性質に適合する範囲内で、犯人に対し、没収の対象となる疑いがある犯罪収益その他の財産の合法的な起源につき明らかにするよう要求することの可能性を検討することができる。
9 この条の規定は、善意の第三者の権利を害するものと解してはならない。
10 この条のいかなる規定も、この条に規定する措置が締約国の国内法に従って、かつ、これを条件として定められ、及び実施されるという原則に影響を及ぼすものではない。
第三十二条 証人、専門家及び被害者の保護
1 締約国は、自国の国内法制に従い、かつ、自国が有する手段の範囲内で、この条約に従って定められる犯罪に関して証言する証人及び専門家並びに適当な場合にはそれらの親族その他密接な関係を有する者について、生じ得る報復又は威嚇からそれらの者を効果的に保護するため、適当な措置をとる。
2 1に規定する措置には、被告人の権利(適正な手続についての権利を含む。)を害することなく、特に次の事項を含めることができる。
(a) 1に規定する者の身体の保護のための手続を定めること。例えば、必要かつ実行可能な範囲内で、その者の居所を移転すること又は適当な場合にはその身元及び所在に関する情報の不開示若しくは当該情報の開示の制限を認めること。
(b) 証人及び専門家の安全を確保する方法で証人及び専門家が証言することを認めるための証拠に関する規則を定めること。例えば、ビデオリンク等の通信技術その他の適当な手段の利用を通じて証言することを認めること。
3 締約国は、1に規定する者の居所の移転に関し、他の国と協定又は取極を締結することを考慮する。
4 この条の規定は、被害者に対しても、当該被害者が証人である限りにおいて適用する。
5 締約国は、自国の国内法に従うことを条件として、防御の権利を害しない方法で被害者の意見及び懸念が犯人に対する刑事手続の適当な段階において表明され、及び考慮されることを可能とする。
第三十三条 報告者の保護
締約国は、この条約に従って定められる犯罪に関する事実につき、誠実に、かつ、十分な根拠に基づき権限のある当局に報告する者を不当な待遇から保護するための適当な措置を自国の国内法制に取り入れることを考慮する。
第三十四条 腐敗行為により生じた結果
締約国は、善意に取得された第三者の権利に妥当な考慮を払いつつ、自国の国内法の基本原則に従い、腐敗行為により生じた結果に対処するための措置をとる。このため、締約国は、契約を取り消し若しくは解除し、免許その他これに類する文書を撤回し、又は他の是正措置をとるための法的手続において、腐敗行為を関連する要因として考慮することができる。
第三十五条 損害の賠償
締約国は、自国の国内法の原則に従い、腐敗行為の結果として損害を被った団体又は個人が、賠償を受けるために当該損害について責任を有する者に対し法的手続を開始することができるようにすることを確保するため、必要な措置をとる。
第三十六条 専門の当局
締約国は、自国の法制の基本原則に従い、法の執行を通じて腐敗行為と戦うための一若しくは二以上の専門の機関又は者が存在することを確保する。これらの機関又は者は、自国の法制の基本原則に従い、その任務を効果的に、かつ、いかなる不当な影響も受けることなく遂行することができるよう必要な独立性を付与される。これらの者又はこれらの機関の職員は、その業務を実施するための適当な訓練及び資源を有するべきである。
第三十七条 法執行当局との協力
1 締約国は、この条約に従って定められる犯罪の実行に参加している者又は参加した者に対し、権限のある当局にとって捜査及び立証のために有用な情報を提供すること並びに事実に基づく具体的な援助であって犯人から犯罪収益をはく奪し、及び回収することに貢献し得るものを権限のある当局に提供することを奨励するため、適当な措置をとる。
2 締約国は、適当な場合には、この条約に従って定められる犯罪の捜査又は訴追において実質的に協力する被告人の処罰を軽減することを可能とすることについて考慮する。
3 締約国は、自国の国内法の基本原則に従い、この条約に従って定められる犯罪の捜査又は訴追において実質的に協力する者の訴追を免除することを可能とすることについて考慮する。
4 2及び3に規定する者の保護については、第三十二条の規定を準用する。
5 1に規定する者であって一の締約国に所在するものが他の締約国の権限のある当局に実質的に協力することができる場合には、関係締約国は、自国の国内法に従い、当該他の締約国がその者について2及び3に規定する取扱いを行うことの可能性に関する協定又は取極を締結することを考慮することができる。
第三十八条 自国の当局間の協力
締約国は、自国の国内法に従い、自国の公の当局及び自国の公務員と犯罪の捜査及び訴追について責任を有する自国の当局との間の協力を奨励するため、必要な措置をとる。これらの協力には、次の(a)又は(b)のいずれかを含めることができる。
(a) 第十五条、第二十一条及び第二十三条の規定に従って定められる犯罪のいずれかが行われたと信ずるに足りる十分な根拠がある場合には、公の当局及び公務員が、自己の発意により、犯罪の捜査及び訴追について責任を有する当局に通報すること。
(b) 公の当局及び公務員が、犯罪の捜査及び訴追について責任を有する当局の要請に基づき、当該当局に対しすべての必要な情報を提供すること。
第三十九条 自国の当局と民間部門との間の協力
1 締約国は、自国の国内法に従い、この条約に従って定められる犯罪の実行に関連する事項に関し、自国の捜査当局及び訴追当局と民間部門の主体(特に金融機関)との間の協力を奨励するため、必要な措置をとる。
2 締約国は、自国の国民及び自国の領域内に常居所を有するその他の者に対し、この条約に従って定められる犯罪の実行について自国の捜査当局及び訴追当局に報告するよう奨励することを考慮する。
第四十条 銀行による秘密の保持
締約国は、この条約に従って定められる犯罪の国内における捜査に関し、銀行による秘密の保持に関する法律の適用により生じ得る障害を克服するため、自国の法制において利用可能な適当な仕組みを設ける。
第四十一条 犯罪記録
締約国は、この条約に従って定められる犯罪に関する刑事手続において利用することを目的として、適当と認める条件の下で、かつ、適当と認める目的のため、容疑者の他の国における過去の有罪判決を考慮するための必要な立法その他の措置をとることができる。
第四十二条 裁判権
1 締約国は、次の場合においてこの条約に従って定められる犯罪についての自国の裁判権を設定するため、必要な措置をとる。
(a) 犯罪が自国の領域内で行われる場合
(b) 犯罪が、当該犯罪の時に自国を旗国とする船舶内又は自国の法律により登録されている航空機内で行われる場合
2 締約国は、第四条の規定に従うことを条件として、次の場合には、1に規定する犯罪について自国の裁判権を設定することができる。
(a) 犯罪が自国の国民に対して行われる場合
(b) 犯罪が自国の国民又は自国の領域内に常居所を有する無国籍者によって行われる場合
(c) 第二十三条1(b)(ii)の規定に従って定められる犯罪が、同条1の(a)(i)若しくは(ii)又は(b)(i)の規定に従って定められる犯罪を自国の領域内において行うために、自国の領域外において行われる場合
(d) 犯罪が自国に対して行われる場合
3 第四十四条の規定の適用上、締約国は、容疑者が自国の領域内に所在し、かつ、容疑者が自国の国民であることのみを理由として当該容疑者の引渡しを行わない場合においてこの条約に従って定められる犯罪についての自国の裁判権を設定するため、必要な措置をとる。
4 締約国は、容疑者が自国の領域内に所在し、かつ、当該容疑者の引渡しを行わない場合においてこの条約に従って定められる犯罪についての自国の裁判権を設定するため、必要な措置をとることができる。
5 1又は2の規定に基づいて自国の裁判権を行使する締約国が、他の締約国が同一の行為に関して捜査、訴追又は司法手続を行っていることを通報され、又はその他の方法で知った場合には、これらの締約国の権限のある当局は、それぞれの行動を調整するため、相互に適宜協議する。
6 この条約は、一般国際法の規範が適用される場合を除くほか、締約国が自国の国内法に従って設定した刑事裁判権の行使を排除するものではない。

第四章 国際協力

第四十三条 国際協力
1 締約国は、次条から第五十条までの規定に従い、刑事上の問題について協力する。締約国は、適当な場合には、自国の国内法制に従い、腐敗行為に関する民事上及び行政上の問題における調査及び手続について相互に援助することを考慮する。
2 国際協力に係る事項に関し、双罰性を条件とする場合において、援助が求められている犯罪の基礎を成す行為が双方の締約国の法律によって犯罪とされているものであるときは、当該援助が求められている犯罪が、要請を受けた締約国の法律により、要請を行った締約国における犯罪類型と同一の犯罪類型に含まれるか否か又は同一の用語で定められているか否かにかかわらず、この条件は満たされているものとみなす。
第四十四条 犯罪人引渡し
1 この条の規定は、この条約に従って定められる犯罪であって、犯罪人引渡しの請求の対象となる者が当該請求を受けた締約国の領域内に所在するものについて適用する。ただし、当該請求に係る犯罪が、当該請求を行った締約国及び当該請求を受けた締約国の双方の国内法に基づいて刑を科することができる犯罪であることを条件とする。
2 締約国は、1の規定にかかわらず、自国の法律が認めるときは、この条約の対象となる犯罪であって自国の国内法に基づいて刑を科することができないものについて、犯罪人引渡しを行うことができる。
3 犯罪人引渡しの請求が二以上の別個の犯罪に係るものである場合において、これらの犯罪の少なくとも一がこの条の規定に基づいて引渡しが可能なものであり、かつ、これらの犯罪の一部がその拘禁刑の期間を理由として引渡し不可能であるがこの条約に従って定められる犯罪に関連するものであるときは、当該請求を受けた締約国は、そのような犯罪についても、この条の規定を適用することができる。
4 この条の規定の適用を受ける犯罪は、締約国間の現行の犯罪人引渡条約における引渡犯罪とみなされる。締約国は、相互間で将来締結されるすべての犯罪人引渡条約にこの条の規定の適用を受ける犯罪を引渡犯罪として含めることを約束する。締約国は、自国がこの条約を引渡しの根拠とする場合において、自国の法律が認めるときは、この条約に従って定められる犯罪を政治犯罪とみなさない。
5 条約の存在を犯罪人引渡しの条件とする締約国は、自国との間に犯罪人引渡条約を締結していない他の締約国から犯罪人引渡しの請求を受けた場合には、この条約をこの条の規定の適用を受ける犯罪に関する犯罪人引渡しのための法的根拠とみなすことができる。
6 条約の存在を犯罪人引渡しの条件とする締約国は、次の措置をとる。
(a) この条約の批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託の際に、国際連合事務総長に対し、この条約を他の締約国との間における犯罪人引渡しに関する協力のための法的根拠とするか否かを通報すること。
(b) この条約を犯罪人引渡しに関する協力のための法的根拠としない場合において、適当なときは、この条の規定を実施するため、他の締約国と犯罪人引渡しに関する条約を締結するよう努めること。
7 条約の存在を犯罪人引渡しの条件としない締約国は、相互間で、この条の規定の適用を受ける犯罪を引渡犯罪と認める。
8 犯罪人引渡しは、請求を受けた締約国の国内法に定める条件又は適用可能な犯罪人引渡条約に定める条件に従う。これらの条件には、特に、犯罪人引渡しのために最低限度必要とされる刑に関する条件及び請求を受けた締約国が犯罪人引渡しを拒否することができる理由を含む。
9 締約国は、自国の国内法に従うことを条件として、この条の規定の適用を受ける犯罪につき、犯罪人引渡手続を迅速に行うよう努めるものとし、また、この手続についての証拠に関する要件を簡易にするよう努める。
10 請求を受けた締約国は、状況が正当かつ緊急であると認められる場合において、当該請求を行った締約国の請求があるときは、自国の国内法及び犯罪人引渡条約に従うことを条件として、その引渡しが求められている自国の領域内に所在する者を抑留することその他犯罪人引渡手続へのその者の出頭を確保するための適当な措置をとることができる。
11 容疑者が自国の領域内において発見された締約国は、この条の規定の適用を受ける犯罪につき当該容疑者が自国の国民であることのみを理由として引渡しを行わない場合には、犯罪人引渡しの請求を行った締約国からの要請により、不当に遅滞することなく、訴追のため自国の権限のある当局に事件を付託する義務を負う。当該権限のある当局は、自国の国内法に規定する重大性を有する他の犯罪の場合と同様の方法で決定を行い、及び手続を実施する。関係締約国は、このような訴追の効率性を確保するため、特に手続及び証拠に係る側面に関して相互に協力する。
12 締約国は、自国の国内法が、引渡しの請求に係る裁判又は手続の結果科された刑に服するために自国の国民が自国に送還されるとの条件下においてのみ当該自国の国民の引渡しを認める場合において、当該引渡しの請求を行う締約国との間でそのような方法をとること及び他の適当と認める条件について合意するときは、そのような条件付の引渡しによって11に規定する義務を履行することができる。
13 請求を受けた締約国は、刑の執行を目的とする犯罪人引渡しをその引渡しの対象となる者が自国の国民であるという理由により拒否した場合において、当該請求を行った締約国からの申出があるときは、自国の国内法が認め、かつ、その法律の要件に適合する限りにおいて、当該請求を行った締約国の国内法に従って言い渡された刑又はその残余の執行について考慮する。
14 いずれの者も、自己につきこの条の規定の適用を受ける犯罪のいずれかに関して訴訟手続がとられている場合には、そのすべての段階において公正な取扱い(その者が領域内に所在する締約国の国内法に定められたすべての権利及び保障の享受を含む。)を保障される。
15 この条約のいかなる規定も、犯罪人引渡しの請求を受けた締約国が、性、人種、宗教、国籍、民族的出身若しくは政治的意見を理由として当該請求の対象となる者を訴追し若しくは処罰するために当該請求が行われたと信じ、又は当該請求に応ずることによりその者の地位がこれらの理由によって害されると信ずるに足りる実質的な根拠がある場合には、引渡しを行う義務を課するものと解してはならない。
16 締約国は、犯罪が財政上の問題にも関連すると考えられることのみを理由として、犯罪人引渡しの請求を拒否することはできない。
17 犯罪人引渡しの請求を受けた締約国は、その引渡しを拒否する前に、適当な場合には、請求を行った締約国がその意見を表明し、及びその主張に関する情報を提供する機会を十分に与えるため、当該請求を行った締約国と協議する。
18 締約国は、犯罪人引渡しを行い、又はその実効性を高めるための二国間又は多数国間の協定又は取極を締結するよう努める。
第四十五条 刑を言い渡された者の移送
締約国は、この条約に従って定められる犯罪につき拘禁刑その他の形態の自由をはく奪する刑を言い渡された者が自国の領域においてその刑を終えることを可能とするため、これらの者の自国の領域への移送に関する二国間又は多数国間の協定又は取極を締結することを考慮することができる。
第四十六条 法律上の相互援助
1 締約国は、この条約の対象となる犯罪に関する捜査、訴追及び司法手続において、最大限の法律上の援助を相互に与える。
2 法律上の相互援助は、要請を行う締約国において第二十六条の規定に基づいて法人が責任を負う可能性のある犯罪に関して行われる捜査、訴追及び司法手続について、要請を受けた締約国の関連する法律、条約、協定及び取極の下で、最大限度可能な範囲で与える。
3 この条の規定に従って与えられる法律上の相互援助については、次の事項のために要請することができる。
(a) 供述の取得
(b) 裁判上の文書の送達の実施
(c) 捜索、押収及び凍結の実施
(d) 物及び場所の見分
(e) 情報、証拠物及び鑑定の提供
(f) 関連する文書及び記録(政府、銀行、財務、法人又は業務の記録を含む。)の原本又は証明された謄本の提供
(g) 証拠のための犯罪収益、財産及び道具その他の物の特定又は追跡
(h) 要請を行った締約国において人が任意に出頭することの促進
(i) その他の種類の援助であって要請を受けた締約国の国内法に違反しないもの
(j) 第五章の規定に基づく犯罪収益の特定、凍結及び追跡
(k) 第五章の規定に基づく財産の回復
4 締約国の権限のある当局は、刑事問題に関する情報が、他の締約国の権限のある当局が調査及び刑事手続を行い若しくはこれらを成功裡に完了させるための援助となり得るものであると信じ、又は当該他の締約国がこの条約に基づいて援助の要請を行うことにつながり得るものであると信ずる場合には、事前の要請がないときでも、自国の国内法の範囲内で当該情報を当該他の締約国の権限のある当局に送付することができる。
5 4の規定に基づく情報の送付は、当該情報を提供する権限のある当局の属する国における調査及び刑事手続を妨げるものではない。当該情報を受領した権限のある当局は、当該情報を秘密とすること(一時的に秘密とすることを含む。)の要請又は当該情報の使用に係る制限に従う。ただし、このことは、情報を受領した締約国が自国の手続において被告人の無罪の立証に資するような情報を開示することを妨げるものではない。この場合において、情報を受領した締約国は、情報を送付した締約国に対してその開示に先立って通報し、及び要請があったときは当該情報を送付した締約国と協議する。例外的に事前の通報が不可能であった場合には、情報を受領した締約国は、情報を送付した締約国に対し遅滞なくその開示について通報する。
6 この条の規定は、法律上の相互援助について全面的又は部分的に定める現行の又は将来締結される二国間又は多数国間の他の条約に基づく義務に影響を及ぼすものではない。
7 9から29までの規定は、関係締約国が法律上の相互援助に関する条約によって拘束されていない場合には、この条の規定に従って行われる要請について適用する。当該関係締約国がそのような条約によって拘束されている場合には、そのような条約の対応する規定は、当該関係締約国がこれらの規定に代えて9から29までの規定を適用することに合意する場合を除くほか、適用する。締約国は、9から29までの規定が協力を促進する場合には、これらの規定を適用することを強く奨励される。
8 締約国は、銀行による秘密の保持を理由としては、この条の規定に基づく法律上の相互援助を与えることを拒否することができない。
9(a) 要請を受けた締約国は、双罰性が満たされない場合において、この条の規定に基づく援助の要請に対応するに当たり、第一条に規定するこの条約の目的に留意する。
(b) 締約国は、双罰性が満たされないことを理由として、この条の規定に基づく援助を与えることを拒否することができる。ただし、要請を受けた締約国は、自国の法制の基本的な概念に反するものでない場合には、強制的な措置を伴わない援助を与える。そのような援助については、その要請が軽微な事項に関するものであるとき、又は協力若しくは援助が求められている事項がこの条約の他の規定に基づいて実現可能なものであるときは、拒否することができる。
(c) 締約国は、双罰性が満たされない場合において、この条の規定に基づく一層広範な援助を与えることを可能とするため、必要な措置をとることを考慮することができる。
10 一の締約国の領域内において拘禁され、又は刑に服している者については、当該者が確認、証言その他援助であってこの条約の対象となる犯罪に関する捜査、訴追又は司法手続のための証拠の収集に係るものの提供のために他の締約国において出頭することが要請された場合において、次の条件が満たされるときは、移送することができる。
(a) 当該者が事情を知らされた上で任意に同意を与えること。
(b) 双方の締約国の権限のある当局がこれらの締約国の適当と認める条件に従って合意すること。
11 10の規定の適用上、
(a) 10に規定する者が移送された締約国は、当該者を移送した締約国が別段の要請を行わず、又は承認を与えない限り、移送された当該者を抑留する権限を有し、及び義務を負う。
(b) 10に規定する者が移送された締約国は、自国及び当該者を移送した締約国の双方の権限のある当局による事前又は別段の合意に従い、移送された当該者をその移送した締約国による抑留のために送還する義務を遅滞なく履行する。
(c) 10に規定する者が移送された締約国は、当該者を移送した締約国に対し、当該者の送還のために犯罪人引渡手続を開始するよう要求してはならない。
(d) 移送された者が移送された締約国において抑留された期間は、当該者を移送した国における当該者の刑期に算入する。
12 移送された者は、10及び11の規定に従って当該者を移送する締約国が同意しない限り、その国籍のいかんを問わず、当該者を移送した国の領域を出発する前の行為、不作為又は有罪判決につき、当該者が移送された国の領域内において、訴追されず、拘禁されず、処罰されず、又は身体の自由についての他のいかなる制限も課せられない。
13 締約国は、法律上の相互援助の要請を受領し、及び当該要請を実施し、又は当該要請をその実施のために権限のある当局に送付する責任及び権限を有する中央当局を指定する。締約国は、法律上の相互援助につき別個の制度を有する特別の地域又は領域を有する場合には、当該特別の地域又は領域に関し同じ任務を有する別個の中央当局を指定することができる。中央当局は、受領した要請の迅速かつ適切な実施又は送付を確保する。中央当局は、受領した要請をその実施のために権限のある当局に送付する場合には、その要請が当該権限のある当局によって迅速かつ適切に実施されるよう奨励する。締約国は、この条約の批准書、受諾書、承認書又は加入書を寄託する際に、指定した中央当局を国際連合事務総長に通報する。法律上の相互援助の要請及びこれに関連する連絡は、締約国が指定した中央当局に対して行う。この規定は、このような要請及び連絡が、外交上の経路により又は緊急の状況において関係締約国が合意し、かつ、可能な場合には国際刑事警察機構を通じて行われることを要求する締約国の権利を害するものではない。
14 要請は、当該要請を受ける締約国が受け入れることができる言語による書面又は可能な場合には文書による記録を作成することのできる手段により、当該締約国がその真正を確認することができる条件の下で行う。締約国は、この条約の批准書、受諾書、承認書又は加入書を寄託する際に、自国が受け入れることができる一又は二以上の言語を国際連合事務総長に通報する。緊急の状況において関係締約国が合意する場合には、要請は、口頭によって行うことができるが、直ちに書面によって確認する。
15 法律上の相互援助の要請には、次の事項を含める。
(a) 要請を行う当局の特定
(b) 要請に係る捜査、訴追又は司法手続の対象及びその性質並びにこれらの捜査、訴追又は司法手続を行う当局の名称及び任務
(c) 関連する事実の概要(裁判上の文書の送達のための要請の場合を除く。)
(d) 要請する援助についての記載及び要請を行った締約国がとられることを希望する特別の手続の詳細
(e) 可能な場合には、関係者の身元、居所及び国籍
(f) 証拠、情報又は措置が求められる目的
16 要請を受けた締約国は、追加の情報が自国の国内法に従って当該要請を実施するために必要と認める場合又は追加の情報が当該要請の実施を容易にすることができる場合には、当該追加の情報を求めることができる。
17 要請は、当該要請を受けた締約国の国内法に従って実施し、並びに当該締約国の国内法に違反しない範囲内で及び可能な場合には、当該要請において明示された手続に従って実施する。
18 一の締約国の司法当局が他の締約国の領域内に所在する個人を証人又は専門家として尋問する必要がある場合において、当該個人が当該一の締約国の領域に直接出頭することが不可能であるか又は望ましくないときは、当該個人がその領域内に所在する当該他の締約国は、当該一の締約国の要請により、可能な限り、かつ、自国の国内法の基本原則に従って、ビデオ会議によって尋問を行うことを認めることができる。締約国は、要請を行った締約国の司法当局が尋問を実施し、及び要請を受けた締約国の司法当局がこれに立ち会うことを合意することができる。
19 要請を行った締約国は、当該要請を受けた締約国が提供した情報又は証拠を、当該要請を受けた締約国の事前の同意なしに、当該要請において明記された捜査、訴追又は司法手続以外のもののために送付してはならず、また、利用してはならない。この19の規定は、要請を行った締約国が自国の手続において被告人の無罪の立証に資するような情報又は証拠を開示することを妨げるものではない。この場合において、要請を行った締約国は、要請を受けた締約国に対してその開示に先立って通報し、及び要請があったときは当該要請を受けた締約国と協議する。例外的に事前の通報が不可能であった場合には、要請を行った締約国は、要請を受けた締約国に対し遅滞なくその開示について通報する。
20 要請を行った締約国は、当該要請を受けた締約国が当該要請の実施に必要な範囲を除くほか当該要請の事実及び内容を秘密のものとして取り扱うことを求めることができる。当該要請を受けた締約国が秘密のものとして取り扱うことができない場合には、当該要請を受けた締約国は、速やかにその旨を当該要請を行った締約国に通報する。
21 法律上の相互援助については、次の場合には、拒否することができる。
(a) 要請がこの条の規定に従って行われていない場合
(b) 要請を受けた締約国が、当該要請の実施により自国の主権、安全、公の秩序その他の重要な利益を害されるおそれがあると認める場合
(c) 要請を受けた締約国の当局が、当該要請に係る犯罪と同様の犯罪について捜査、訴追又は司法手続が当該当局の管轄内において行われているとした場合において、要請された措置をとることを自国の国内法により禁止されているとき。
(d) 要請を受け入れることが当該要請を受けた締約国の法律上の相互援助に関する法制に違反することとなる場合
22 締約国は、犯罪が財政上の問題にも関連すると考えられることのみを理由として、法律上の相互援助の要請を拒否することはできない。
23 法律上の相互援助を拒否する場合には、その理由を示さなければならない。
24 法律上の相互援助の要請を受けた締約国は、当該要請を可能な限り速やかに実施し、及び要請を行った締約国が理由を付して示す期限(その理由は当該要請において示されることが望ましい。)を可能な限り考慮する。要請を行った締約国は、要請を受けた締約国が当該要請に応ずるためにとった措置の状況及び進展に関する情報の提供について、合理的な要望を表明することができる。要請を受けた締約国は、当該要請の取扱い及びその取扱いにおける進展について、要請を行った締約国の合理的な要望に応ずる。要請された援助が必要でなくなった場合には、要請を行った締約国は、要請を受けた締約国に速やかに通報する。
25 要請を受けた締約国は、進行中の捜査、訴追又は司法手続が法律上の相互援助により妨げられることを理由として、その援助を延期することができる。
26 要請を受けた締約国は、21の規定に基づいて当該要請を拒否し、又は25の規定に基づいて当該要請の実施を延期する前に、自国が必要と認める条件に従って援助を行うか否かについて検討するために当該要請を行った締約国と協議する。当該要請を行った締約国は、当該条件に従って援助を受ける場合には、その条件に従う。
27 12の規定の適用を妨げることなく、要請を行った締約国の求めに応じて当該要請を行った締約国の領域内で司法手続において証言を行い、又は捜査、訴追若しくは司法手続に協力することに同意する証人、専門家その他の者は、当該要請を受けた締約国の領域を出発する前の行為、不作為又は有罪判決につき、当該要請を行った締約国の領域において訴追されず、拘禁されず、処罰されず、又は身体の自由についての他のいかなる制限も課せられない。このような保証措置は、当該証人、専門家その他の者が、当該要請を行った締約国の司法当局により出頭することを要求されなくなったことを公式に伝えられた日から引き続く十五日の期間(当該両締約国が合意する期間がある場合には、その期間)内において当該要請を行った締約国の領域から離れる機会を有していたにもかかわらず当該領域内に任意に滞在していたときにあっては当該期間が満了した時に又は当該領域から離れた後自己の自由意思で当該領域に戻ってきたときにあってはその時に、それぞれ終了する。
28 要請の実施に要する通常の費用は、関係締約国間において別段の合意がある場合を除くほか、当該要請を受けた締約国が負担する。要請を実施するために高額の経費又は特別な性質の経費が必要であり、又は必要となる場合には、関係締約国は、当該要請を実施する条件及び費用の負担の方法を決定するために協議する。
29 要請を受けた締約国は、
(a) 自国が保有する政府の記録文書、文書又は情報であって自国の国内法上公衆が入手することができるものの写しを要請を行った締約国に提供する。
(b) 裁量により、自国が保有する政府の記録文書、文書又は情報であって自国の国内法上公衆が入手することができないものの写しの全部又は一部を、適当と認める条件に従い、要請を行った締約国に提供することができる。
30 締約国は、必要な場合には、この条の規定の目的に寄与し、この条の規定を効果的に実施し、又はこの条の規定を拡充するための二国間又は多数国間の協定又は取極の締結の可能性を考慮する。
第四十七条 刑事手続の移管
締約国は、裁判の正当な運営の利益になると認める場合、特に二以上の裁判権が関係している場合には、訴追を集中させるために、この条約に従って定められる犯罪の訴追のための手続を相互に移管することの可能性を考慮する。
第四十八条 法執行のための協力
1 締約国は、自国の法律上及び行政上の制度に従い、この条約の対象となる犯罪と戦うための法執行の活動の実効性を高めるため、相互にかつ緊密に協力する。締約国は、特に次の事項のための効果的な措置をとる。
(a) この条約の対象となる犯罪のすべての側面(自国が適当と認める場合には、他の犯罪活動との関連を含む。)に関する情報の確実かつ迅速な交換を促進するため、権限のある当局、機関及び部局の相互間の連絡の経路を強化し、並びに必要なときはこれを設けること。
(b) この条約の対象となる犯罪について次の事項に関して調査するに当たり、他の締約国と協力すること。
(i) 当該犯罪にかかわっていると疑われる者の身元、所在及び活動又は他の関係者の所在
(ii) 当該犯罪の実行により生じた犯罪収益又は財産の移動
(iii) 当該犯罪の実行に用い、又は用いることを予定していた財産、装置又は他の道具の移動
(c) 適当な場合には、分析又は捜査のために必要な物品又は必要な量の物質を提供すること。
(d) 適当な場合には、この条約の対象となる犯罪の実行に使用される特定の手段及び方法(虚偽の身元関係事項、偽造され若しくは変造された文書又は虚偽の文書及び犯罪活動を隠匿する他の手段の利用を含む。)について、他の締約国と情報を交換すること。
(e) 権限のある当局、機関及び部局の相互間の効果的な調整を促進し、並びに職員その他の専門家の交流(関係締約国間の二国間の協定又は取極に従うことを条件として連絡員を配置することを含む。)を推進すること。
(f) この条約の対象となる犯罪の早期発見のため、情報を交換し、及び適宜とられる行政上その他の措置について調整すること。
2 締約国は、この条約を実施するため、それぞれの法執行機関の間で直接協力することに関する二国間又は多数国間の協定又は取極を締結することを考慮し、及びこのような協定又は取極が既に存在する場合には、これらを改正することを考慮する。締約国は、関係締約国間にこのような協定又は取極がない場合には、この条約の対象となる犯罪に関し、この条約を法執行に関する相互の協力の根拠とみなすことができる。締約国は、適当な場合には、それぞれの法執行機関の間の協力を促進するため、協定又は取極(国際機関又は地域機関を含む。)を十分に利用する。
3 締約国は、最新の技術を利用して行われるこの条約の対象となる犯罪に対応するため、自国の有する手段の範囲内で協力するよう努める。
第四十九条 共同捜査
締約国は、一又は二以上の国において捜査、訴追又は司法手続の対象となる事項に関し、関係を有する権限のある当局が共同捜査班を設けることができることを定める二国間又は多数国間の協定又は取極を締結することを考慮する。このような協定又は取極がない場合には、共同捜査は、個々にその事例に応じて合意によって行うことができる。関係締約国は、領域内において共同捜査が行われる締約国の主権が十分に尊重されることを確保する。
第五十条 特別な捜査方法
1 締約国は、腐敗行為と効果的に戦うため、自国の国内法制の基本原則によって認められる限り、かつ、自国の国内法によって定められる条件に従い、自国の権限のある当局が自国の領域内において監視付移転及び適当と認める場合にはその他の特別な捜査方法(電子的その他の形態による監視、潜入して行う捜査等をいう。)を適宜利用することができるようにするため、並びにこれらの特別な捜査方法から得られた証拠の裁判における使用を可能とするため、自国の有する手段の範囲内で必要な措置をとる。
2 締約国は、この条約の対象となる犯罪を捜査するため、必要な場合には、国際的な協力において1に規定する特別な捜査方法を利用するための適当な二国間又は多数国間の協定又は取極を締結することを奨励される。このような協定又は取極は、国の主権平等の原則を完全に遵守して締結され、及び実施されなければならず、かつ、当該協定又は取極に定める条件に厳格に従って実施されなければならない。
3 2に規定する協定又は取極がない場合には、1に規定する特別な捜査方法を国際的に利用することの決定は、個々にその事例に応じて行うものとし、また、必要な場合には、その決定に当たり、財政上の取極及び関係締約国の裁判権の行使に関する了解を考慮に入れることができる。
4 監視付移転を国際的に利用することの決定には、関係締約国の同意の下に、物品又は資金を差し止めた上で、当該物品若しくは資金をそのままにして又はそれらの全部若しくは一部を抜き取って若しくは差し替えて、当該物品又は資金が引き続き送付されることを認める等の方法を含めることができる。

第五章 財産の回復

第五十一条 一般規定
この章の規定に基づく財産の返還は、この条約の基本原則を成すものであり、締約国は、これについて最大限の協力及び援助を相互に行う。
第五十二条 犯罪収益の移転の防止及び探知
1 第十四条の規定の適用を妨げることなく、締約国は、自国の管轄内にある金融機関に対し、顧客の身元を確認すること、高額の預金を有する口座にある資金の受益者の身元を確定するための妥当な措置をとること並びに重要な公的任務を与えられている若しくは与えられていた者、その者の家族及びその者と密接な関係を有する者によって又はこれらの者に代わって開設される又は維持されている口座について厳格な審査を行うことを求めるため、自国の国内法に従って必要な措置をとる。この厳格な審査は、権限のある当局への報告のため、疑わしい取引を探知することを目的として妥当に行われるものとし、金融機関が正当な権利を有する顧客と取引を行うことを抑制し、又は禁止するものと解するべきではない。
2 締約国は、1に規定する措置の実施を容易にするため、自国の国内法に従い、かつ、地域機関、地域間機関及び多数国間機関による関連の提案であって資金洗浄と戦うためのものを参照しつつ、次のことを行う。
(a) 自国の管轄内にある金融機関により厳格な審査を適用することが求められる口座を有する自然人又は法人の類型、特別の注意を払うべき口座及び取引の類型並びにこれらの口座の開設、維持及び記録保持についての適当な措置に関する勧告を発出すること。
(b) 適当な場合には、他の締約国の要請又は自国の発意により、自国の管轄内にある金融機関に対し、これらの金融機関が別途身元を確認することのできる者以外の自然人又は法人であって厳格な審査を適用することが求められる口座を有する特定のものの身元関係事項について通報すること。
3 締約国は、2(a)の規定の実施に当たり、自国の金融機関が1に規定する者に係る口座及び取引の適当な記録(これらの記録には、少なくとも、顧客及び知り得る限りの受益者の身元に関する情報を含めるべきである。)を適当な期間保持することを確保するための措置をとる。
4 締約国は、この条約に従って定められる犯罪の収益の移転を防止し、及び探知するため、自国の規制機関及び監督機関の支援を得て、実体がなく、かつ、規制されている金融上の集団に加入していない銀行の設立を防止するための適当かつ効果的な措置をとる。また、締約国は、自国の金融機関に対し、これらの銀行との取引関係の確立又は継続を拒否すること及びこれらの銀行による口座の利用を認める外国の金融機関との関係の確立を防止することを求めることを考慮することができる。
5 締約国は、自国の国内法に従い、適当な公務員について金融上の情報開示に関する効果的な制度を設けることを考慮し、及びそのような情報開示の不履行に対する適当な制裁について定める。また、締約国は、この条約に従って定められる犯罪の収益について捜査し、及び請求を行い、並びに当該収益を回収するために必要な場合には、自国の権限のある当局が他の締約国の権限のある当局と情報を共有することを認めるため、必要な措置をとることを考慮する。
6 締約国は、外国にある金融機関の口座について権益又は署名その他の権限を有する適当な公務員に対し、適当な当局にそのような関係について報告し、及びこれらの口座に関する適当な記録を保持することを求めるため、自国の国内法に従って必要な措置をとることを考慮する。この措置には、不履行に対する適当な制裁について定めることも含める。
第五十三条 財産の直接的な回復のための措置
締約国は、自国の国内法に従い、次のことを行う。
(a) 自国の裁判所において、他の締約国がこの条約に従って定められる犯罪の実行によって取得された財産に関する権原又は所有権を確定するために民事訴訟を提起することを認めるため、必要な措置をとること。
(b) 自国の裁判所がこの条約に従って定められる犯罪により損害を被った他の締約国に対する賠償の支払を当該犯罪を実行した者に対して命じることを認めるため、必要な措置をとること。
(c) 自国の裁判所又は権限のある当局がこの条約に従って定められる犯罪の実行によって取得された財産を没収することを決定する場合において、当該裁判所又は当該当局が当該財産の正当な所有者としての他の締約国の請求を認めることを可能とするため、必要な措置をとること。
第五十四条 没収についての国際協力による財産の回復のための仕組み
1 締約国は、この条約に従って定められる犯罪の実行によって取得された財産又は当該犯罪の実行に関連する財産に関し、次条の規定に基づく法律上の相互援助を提供するため、自国の国内法に従って次のことを行う。
(a) 自国の権限のある当局が他の締約国の裁判所の出した没収についての命令を執行することを認めるため、必要な措置をとること。
(b) 自国の権限のある当局が管轄権を有する場合において、資金洗浄その他自国が裁判権を有する犯罪についての裁判又は自国の国内法が認めるその他の手続により、外国に起源を有する財産の没収を当該当局が命じることを認めるため、必要な措置をとること。
(c) 死亡、逃亡又は不在を理由として犯人を訴追することができない場合その他適当な場合において、有罪判決なしにこれらの財産を没収することを認めるため、必要な措置をとることを考慮すること。
2 締約国は、次条2に規定する要請に基づき法律上の相互援助を提供するため、自国の国内法に従って次のことを行う。
(a) 要請を行った締約国の裁判所又は権限のある当局が出した凍結又は押収についての命令であって、凍結又は押収を行う十分な理由があり、かつ、財産が最終的に1(a)に規定する没収についての命令の対象となると信ずるに足りる妥当な根拠を与えるものに基づき、自国の権限のある当局が当該財産を凍結し、又は押収することを認めるため、必要な措置をとること。
(b) 凍結又は押収を行う十分な理由があり、かつ、財産が最終的に1(a)に規定する没収についての命令の対象となると信ずるに足りる妥当な根拠を与える要請に基づき、自国の権限のある当局が当該財産を凍結し、又は押収することを認めるため、必要な措置をとること。
(c) 自国の権限のある当局が、財産の取得に係る外国での逮捕、刑事訴追等を理由として、没収に備えて当該財産を保全することを認めるため、追加的な措置をとることを考慮すること。
第五十五条 没収のための国際協力
1 締約国は、第三十一条1に規定する犯罪収益、財産、装置又は他の道具が自国の領域内にある場合において、この条約に従って定められる犯罪について裁判権を有する他の締約国から没収の要請を受けたときは、自国の国内法制において最大限度可能な範囲で、次のいずれかの措置をとる。
(a) 没収についての命令を得るため、当該要請を自国の権限のある当局に提出し、当該命令が出されたときは、これを執行すること。
(b) 当該要請を行った締約国の領域内にある裁判所により出された第三十一条1及び前条1(a)の規定に基づく没収についての命令が、自国の領域内にある第三十一条1に規定する犯罪収益、財産、装置又は他の道具に関するものであるときは、要請される範囲内で当該命令を執行するため、自国の権限のある当局にこれを提出すること。
2 締約国は、この条約に従って定められる犯罪について裁判権を有する他の締約国による要請を受けた場合には、当該他の締約国又は1に規定する要請に従い自国が没収についての命令を最終的に出すために第三十一条1に規定する犯罪収益、財産、装置又は他の道具を特定し、追跡し、及び凍結し、又は押収することができるようにするための措置をとる。
3 第四十六条の規定は、この条の規定を適用する場合について準用する。この条に規定する要請には、第四十六条15に規定する情報のほか、次の事項を含める。
(a) 1(a)の規定に関する要請にあっては、没収されるべき財産についての記載(可能な限り、当該財産の所在地及び適当な場合にはその見積価額を含める。)及び当該要請を行った締約国が基礎とする事実であって、当該要請を受けた締約国がその国内法に従い命令を求めることを可能とするに足りるものの記述
(b) 1(b)の規定に関する要請にあっては、当該要請を行った締約国が出した当該要請に係る没収についての命令の法律上認められる謄本、事実の記述及び命令の執行が要請される範囲に関する情報、善意の第三者に対し適切な通報を行い、かつ、適正な手続を確保するために当該要請を行った締約国がとった措置の記述並びに当該没収についての命令が最終的なものである旨の記述
(c) 2の規定に関する要請にあっては、当該要請を行った締約国が基礎とする事実の記述及び要請する措置についての記載並びに可能な場合には当該要請に係る命令の法律上認められる謄本
4 1及び2に規定する処分又は行為は、要請を受けた締約国の国内法及び手続規則又は当該要請を受けた締約国を当該要請を行った締約国との関係において拘束する二国間若しくは多数国間の協定若しくは取極に従って、かつ、これらを条件として行う。
5 締約国は、この条の規定を実施する自国の法令の写し及びその法令に変更があった場合にはその変更後の法令の写し又はこれらの説明を国際連合事務総長に提出する。
6 関連する条約の存在を1及び2の措置をとるための条件とする締約国は、この条約を必要かつ十分な根拠となる条約として取り扱う。
7 要請を受けた締約国は、十分かつ適時に証拠を受領していない場合又は当該財産の価値がわずかなものである場合には、この条の規定に基づく協力を拒否することができ、また、暫定措置を解除することができる。
8 要請を受けた締約国は、この条の規定に基づく暫定措置を解除する前に、可能な限り、要請を行った締約国に対し、当該暫定措置の継続を希望する理由を提示する機会を与える。
9 この条の規定は、善意の第三者の権利を害するものと解してはならない。
第五十六条 特別な協力
締約国は、この条約に従って定められる犯罪の収益に関する情報の開示が他の締約国による捜査、訴追若しくは司法手続の開始若しくは実施に役立ち、又は他の締約国がこの章の規定に基づく要請を行うことにつながり得ると認める場合には、自国の国内法の適用を妨げることなく、かつ、自国の捜査、訴追又は司法手続に影響を及ぼすことなく、当該他の締約国に対して事前の要請なしにこれらの情報を送付することを可能とするための措置をとるよう努める。
第五十七条 財産の返還及び処分
1 締約国が第三十一条又は第五十五条の規定により没収した財産は、当該締約国がこの条約及び自国の国内法に従って処分する。この処分には、3の規定に従い当該財産を正当な権利を有する従前の所有者へ返還することを含む。
2 締約国は、自国の権限のある当局が、他の締約国の要請に応じて行動する場合において、善意の第三者の権利を考慮しつつ、没収された財産をこの条約に従って返還することができるようにするため、自国の国内法の基本原則に従って必要な立法その他の措置をとる。
3 要請を受けた締約国は、第四十六条、第五十五条並びにこの条の1及び2の規定に従って、次のことを行う。
(a) 第十七条及び第二十三条に規定する公的資金の横領又は横領された公的資金の洗浄の場合については、没収が第第五十五条の規定に従って、かつ、当該要請を行った締約国における確定判決に基づいて行われたときは、当該要請を行った締約国に対し、没収された財産を返還すること。もっとも、当該要請を受けた締約国は、確定判決に基づくという要件を放棄することができる。
(b) この条約の対象となる他の犯罪の収益については、没収が第五十五条の規定に従って、かつ、当該要請を行った締約国における確定判決に基づいて行われた場合において、当該要請を行った締約国が当該要請を受けた締約国に対し没収された財産の従前の所有権を合理的な程度に立証するとき、又は当該要請を受けた締約国が没収された財産の返還の根拠として当該要請を行った締約国に損害が生じていることを認めるときは、当該要請を行った締約国に対し、没収された財産を返還すること。もっとも、当該要請を受けた締約国は、確定判決に基づくという要件を放棄することができる。
(c) その他のすべての場合については、当該要請を行った締約国若しくは正当な権利を有する従前の所有者に対し没収された財産を返還し、又は犯罪の被害者に対し補償を行うことを優先的に考慮すること。
4 要請を受けた締約国は、要請を行った締約国との間で別段の決定を行わない限り、没収された財産をこの条の規定に従って返還し、又は処分する場合において適当なときは、捜査、訴追又は司法手続において生じた相当の経費を差し引くことができる。
5 締約国は、適当な場合には、没収された財産の最終的な処分のため、個々にその事例に応じて協定又は相互に受諾し得る取極を締結することにつき、特別な考慮を払うことができる。
第五十八条 金融情報機関
締約国は、この条約に従って定められる犯罪の収益の移転を防止し、及びこれと戦うこと並びに当該収益を回収する方法及び手段の発展を促進することを目的として相互に協力するものとし、このため、疑わしい金融取引に関する報告を受領し、分析し、及び権限のある当局に送付することについて責任を有する金融情報機関の設置を考慮する。
第五十九条 二国間及び多数国間の協定及び取極
締約国は、この章の規定に基づく国際協力の実効性を高めるため、二国間又は多数国間の協定又は取極を締結することを考慮する。

第六章 技術援助及び情報交換

第六十条 訓練及び技術援助
1 締約国は、必要な範囲内で、腐敗行為を防止し、及びこれと戦うことについて責任を有する自国の職員のための特別な訓練計画を開始し、発展させ、又は改善する。その訓練計画には、特に次の事項を含めることができる。
(a) 腐敗行為の防止、探知、捜査、処罰及び取締りのための効果的な措置(各種の証拠収集の方法及び捜査方法の利用を含む。)
(b) 戦略的な腐敗行為の防止に関する政策の策定及び立案についての能力を構築すること。
(c) この条約の要件を満たす法律上の相互援助の要請に備えて権限のある当局を訓練すること。
(d) 制度、公的役務及び財政(公的調達を含む。)の管理並びに民間部門の管理の評価及び強化
(e) この条約に従って定められる犯罪の収益の移転を防止し、及びこれと戦い、並びに当該収益を回収すること。
(f) この条約に従って定められる犯罪の収益の移転を探知し、及び凍結すること。
(g) この条約に従って定められる犯罪の収益の移動を監視し、及び当該収益の移転、隠匿又は偽装に用いられる方法について監視すること。
(h) この条約に従って定められる犯罪の収益の返還を容易にするための適当かつ効果的な法律上及び行政上の仕組み及び方法
(i) 司法当局に協力する被害者及び証人を保護するために用いられる方法
(j) 国内法令及び国際的な規則並びに語学に関する訓練
2 締約国は、自国の能力に応じ、特に開発途上国の利益のため、腐敗行為と戦うための自国の計画において最大限の技術援助(1に規定する事項に関する物的援助及び訓練、並びに犯罪人引渡し及び法律上の相互援助の分野における締約国間の国際協力を容易にするような訓練、援助並びに関連の経験及び専門知識の交流を含む。)を相互に与えることを考慮する。
3 締約国は、必要な範囲内で、実務上及び訓練上の活動であって、国際機関及び地域機関におけるもの並びに関連する二国間及び多数国間の協定又は取極に基づく枠組みにおけるものを最大限に活用するための努力を強化する。
4 締約国は、権限のある当局及び社会の参加を得つつ、腐敗行為と戦うための戦略及び行動計画を作成するため、自国における腐敗行為の類型、原因及び影響並びに腐敗行為による損失に関する評価、研究及び調査を行うに当たり、要請に応じて相互に援助することを考慮する。
5 締約国は、この条約に従って定められる犯罪の収益の回収を容易にすることを目的として、その目的の達成を援助することができる専門家の氏名を相互に提供することについて協力することができる。
6 締約国は、協力及び技術援助を促進し、並びに相互に関心のある問題(開発途上国及び移行経済国に特有の問題及び必要性を含む。)についての討論を奨励するために、小地域的、地域的及び国際的な会議及びセミナーを利用することを考慮する。
7 締約国は、技術援助の計画及び事業を通じ、この条約を適用するための開発途上国及び移行経済国の努力に対し資金面において貢献するため、任意の仕組みを確立することを考慮する。
8 締約国は、この条約の実施に当たり、国際連合薬物犯罪事務所を通じて開発途上国における計画及び事業を促進するために、同事務所に対して任意の拠出を行うことを考慮する。
第六十一条 腐敗行為に関する情報の収集、交換及び分析
1 締約国は、専門家の協力を得て、自国の領域内における腐敗行為の傾向及び腐敗行為に関する犯罪が行われる事情を分析することを考慮する。
2 締約国は、相互に並びに国際機関及び地域機関を通じて、共通の定義、基準及び方法を可能な限り定めるため統計を作成し、腐敗行為に関する分析についての専門知識を発展させ、及び資料を作成し、並びに腐敗行為を防止し、及びこれと戦うための最良の慣行に関する資料を作成し、並びにこれらを共有することを考慮する。
3 締約国は、腐敗行為と戦うための自国の政策及び実際の措置を監視し、並びにこれらの政策及び措置の実効性及び効率性を評価することを考慮する。
第六十二条 その他の措置(経済的な発展及び技術援助を通じたこの条約の実施)
1 締約国は、腐敗が社会一般、特に持続的な発展に及ぼす悪影響を考慮して、国際協力を通じ、可能な範囲内で、この条約の最も適当な実施に貢献する措置をとる。
2 締約国は、相互に並びに国際機関及び地域機関と調整の上、可能な範囲内で、次の事項のために具体的な努力を払う。
(a) 腐敗行為を防止し、及びこれと戦うための開発途上国の能力を強化するため、様々なレベルにおける開発途上国との間の協力を促進すること。
(b) 効果的に腐敗行為を防止し、及びこれと戦うための開発途上国の努力を支援するため並びに開発途上国がこの条約を成功裡に実施することを援助するため、財政的及び物的な援助を促進すること。
(c) 開発途上国及び移行経済国がこの条約を実施する上での必要性を満たすことができるよう援助するため、これらの国に技術援助を与えること。このため、締約国は、国際連合の資金調達の仕組みにおけるこの目的のために特に指定された口座に十分かつ定期的に任意の拠出を行うよう努める。また、締約国は、自国の国内法及びこの条約に従い、この条約に従って没収された金銭又は犯罪収益若しくは財産の価額の一定の割合を当該口座に拠出することを特に考慮することができる。
(d) 他の国及び金融機関に対し、締約国がこの条の規定の下で行う努力に参加すること(特に、開発途上国がこの条約の目的を達成することを援助するためにより多くの訓練計画及び最新の装置を開発途上国に提供すること)を適宜奨励し、及び説得すること。
3 この条に規定する措置は、可能な限り、現行の対外援助の約束及びその他の資金協力に関する二国間の、地域的な又は国際的な取極に影響を及ぼさないようなものとする。
4 締約国は、この条約に定める国際協力の手段を効果的なものとするため並びに腐敗行為の防止、探知及び取締りのために必要な財政上の取極を考慮に入れて、物的援助及び業務上の援助に関する二国間又は多数国間の協定又は取極を締結することができる。

第七章 条約の実施のための仕組み

第六十三条 締約国会議
1 この条約の目的を達成するために締約国の能力を向上させ、及び締約国間の協力を促進するため、並びにこの条約の実施を促進し、及び検討するため、この条約により締約国会議を設置する。
2 国際連合事務総長は、この条約の効力発生の後一年以内に締約国会議を招集する。その後は、締約国会議が採択する手続規則に従って、締約国会議の通常会合を開催する。
3 締約国会議は、手続規則及びこの条に規定する活動の運営を規律するための規則(オブザーバーの出席及び参加に関する規則並びに当該活動に要する経費の支払に関する規則を含む。)を採択する。
4 締約国会議は、1に規定する目的を達成するための活動、手続及び作業方法について合意する。これらの活動等には、次のことを含める。
(a) 第六十条及び前条並びに第二章から第五章までの規定に基づく締約国の活動を促進すること(任意の拠出の調達を促進することによるものを含む。)。
(b) 腐敗行為の形態及び傾向に関する情報並びに腐敗行為の防止及びこれとの戦い並びに犯罪収益の返還において成功した措置に関する情報の交換を、特にこの条に規定する関連情報の公表を通じ、締約国間で促進すること。
(c) 関連する国際的及び地域的な機関及び仕組み並びに非政府機関と協力すること。
(d) 作業の不必要な重複を避けるため、腐敗行為と戦い、及びこれを防止するための他の国際的及び地域的な仕組みにより提供される関連情報を適宜利用すること。
(e) 締約国によるこの条約の実施状況を定期的に検討すること。
(f) この条約及びその実施の改善のための勧告を行うこと。
(g) この条約の実施に関する締約国の技術援助の必要性に留意すること及びこれについて必要と認める措置を勧告すること。
5 4の規定の適用上、締約国会議は、締約国が提供する情報及び締約国会議が設ける補足的な検討の仕組みを通じて、この条約の実施に当たり締約国がとった措置及びその際に直面した困難に関する必要な知識を入手するものとする。
6 締約国は、締約国会議から要請があったときは、この条約を実施するための計画及び実行並びに立法上及び行政上の措置に関する情報を締約国会議に提供する。締約国会議は、情報(特に、締約国及び権限のある国際機関からの情報を含む。)を受領し、及び当該情報に基づいて行動するための最も効果的な方法について検討する。締約国会議は、締約国会議が決定する手続に従って認定された関連の非政府機関から受領する情報についても、考慮することができる。
7 締約国会議は、必要と認める場合には、4から6までの規定により、この条約の効果的な実施を援助するための適当な仕組み又は機関を設置する。
第六十四条 事務局
1 国際連合事務総長は、締約国会議のために必要な事務局の役務を提供する。
2 事務局は、次の任務を遂行する。
(a) 締約国会議が前条に規定する活動を行うに当たり、締約国会議を補佐し、その会合を準備し、及びこれに必要な役務を提供すること。
(b) 締約国が前条5及び6に規定する締約国会議への情報の提供を行うに当たり、要請に応じて、当該締約国を補佐すること。
(c) 関連する国際機関及び地域機関の事務局と必要な調整を行うこと。

第八章 最終規定

第六十五条 条約の実施
1 締約国は、この条約に定める義務の履行を確保するため、自国の国内法の基本原則に従って、必要な措置(立法上及び行政上の措置を含む。)をとる。
2 締約国は、腐敗行為を防止し、及びこれと戦うため、この条約に定める措置よりも厳しい措置をとることができる。
第六十六条 紛争の解決
1 締約国は、この条約の解釈又は適用に関する紛争を交渉によって解決するよう努める。
2 この条約の解釈又は適用に関する締約国間の紛争で交渉によって合理的な期間内に解決することができないものは、いずれかの紛争当事国の要請により、仲裁に付される。仲裁の要請の日の後六箇月で仲裁の組織について紛争当事国が合意に達しない場合には、いずれの紛争当事国も、国際司法裁判所規程に従って国際司法裁判所に紛争を付託することができる。
3 締約国は、この条約の署名、批准、受諾若しくは承認又はこの条約への加入の際に、2の規定に拘束されない旨を宣言することができる。他の締約国は、そのような留保を付した締約国との関係において2の規定に拘束されない。
4 3の規定に基づいて留保を付した締約国は、国際連合事務総長に対する通告により、いつでもその留保を撤回することができる。
第六十七条 署名、批准、受諾、承認及び加入
1 この条約は、二千三年十二月九日から十一日まではメキシコのメリダにおいて、その後は、二千五年十八五二月九日までニューヨークにある国際連合本部において、すべての国による署名のために開放しておく。
2 この条約は、また、地域的な経済統合のための機関の構成国のうち少なくとも一の国が1の規定に従ってこの条約に署名していることを条件として、当該機関による署名のために開放しておく。
3 この条約は、批准され、受諾され、又は承認されなければならない。批准書、受諾書又は承認書は、国際連合事務総長に寄託する。地域的な経済統合のための機関は、その構成国のうち少なくとも一の国が批准書、受諾書又は承認書を寄託している場合には、当該機関の批准書、受諾書又は承認書を寄託することができる。当該機関は、当該批准書、受諾書又は承認書において、この条約の規律する事項に関する自己の権限の範囲を宣言する。また、当該機関は、自己の権限の範囲の変更で関連するものを寄託者に通報する。
4 この条約は、すべての国又は地域的な経済統合のための機関であってその構成国のうち少なくとも一の国がこの条約の締約国であるものによる加入のために開放しておく。加入書は、国際連合事務総長に寄託する。地域的な経済統合のための機関は、その加入の際に、この条約の規律する事項に関する自己の権限の範囲を宣言する。また、当該機関は、自己の権限の範囲の変更で関連するものを寄託者に通報する。
第六十八条 効力発生
1 この条約は、三十番目の批准書、受諾書、承認書又は加入書が寄託された日の後九十日目の日に効力を生ずる。この1の規定の適用上、地域的な経済統合のための機関によって寄託される文書は、当該機関の構成国によって寄託されたものに追加して数えてはならない。
2 三十番目の批准書、受諾書、承認書又は加入書が寄託された後にこの条約を批准し、受諾し、承認し、又はこれに加入する国又は地域的な経済統合のための機関については、この条約は、当該国若しくは地域的な経済統合のための機関によりこれらの文書が寄託された日の後三十日目の日又は1の規定によりこの条約が効力を生ずる日のうちいずれか遅い日に効力を生ずる。
第六十九条 改正
1 締約国は、この条約の効力発生から五年を経過した後は、改正を提案し、及び改正案を国際連合事務総長に提出することができる。同事務総長は、直ちに、締約国及び締約国会議に対し、改正案をその審議及び決定のために送付する。締約国会議は、各改正案につき、コンセンサス方式により合意に達するようあらゆる努力を払う。コンセンサスのためのあらゆる努力にもかかわらず合意に達しない場合には、改正案は、その採択のため、最後の解決手段として、締約国会議の会合に出席し、かつ、投票する締約国の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
2 地域的な経済統合のための機関は、その権限の範囲内の事項について、この条約の締約国であるその構成国の数と同数の票を投票する権利を行使する。当該機関は、その構成国が自国の投票権を行使する場合には、投票権を行使してはならない。その逆の場合も、同様とする。
3 1の規定に従って採択された改正は、締約国によって批准され、受諾され、又は承認されなければならない。
4 1の規定に従って採択された改正は、締約国が国際連合事務総長に当該改正の批准書、受諾書又は承認書を寄託した日の後九十日で当該締約国について効力を生ずる。
5 改正は、効力を生じたときは、その改正に拘束されることについての同意を表明した締約国を拘束する。他の締約国は、改正前のこの条約の規定(批准し、受諾し、又は承認した従前の改正を含む。)により引き続き拘束される。
第七十条 廃棄
1 締約国は、国際連合事務総長に対して書面による通告を行うことにより、この条約を廃棄することができる。廃棄は、同事務総長がその通告を受領した日の後一年で効力を生ずる。
2 地域的な経済統合のための機関は、当該機関のすべての構成国がこの条約を廃棄した場合には、この条約の締約国でなくなる。
第七十一条 寄託者及び言語
1 国際連合事務総長は、この条約の寄託者に指定される。
2 アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とするこの条約の原本は、国際連合事務総長に寄託する。
以上の証拠として、下名の全権委員は、各自の政府から正当に委任を受けてこの条約に署名した。

  「ウィキソース」より

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GATThonbu01
 今日は、昭和時代中期の1947年(昭和22)に、ジュネーヴでの国際貿易会議において、23ヶ国が「関税および貿易に関する一般協定」(GATT) に調印した日です。
 「関税および貿易に関する一般協定」(かんぜいおよびぼうえきにかんするいっぱんきょうてい)は、第2次世界大戦後に、世界各国が国際貿易を自由化し、拡大する意図のもとに結んだ国際協定でした。戦前の世界経済のブロック化が、戦争の原因になったという反省の上に立って、自由、無差別、多角主義の原則の下で、関税引下げや輸出入制限の撤廃によって、世界貿易と各国の雇用を拡大することを目的としたものです。
 国際通貨基金(IMF)、国際復興開発銀行(世界銀行・IBRD)と共に、戦後の世界経済秩序を支える三本柱の一つとされ、事務局本部をジュネーブに置いていました。1947年(昭和22)10月30日に、ジュネーヴにおいて署名開放され、翌年1月に発効しましたが、発足当時の加盟国数は23ヶ国であり、日本は、1955年(昭和30)6月7日に関税交渉が完了し、9月10日に正式加盟しています。
 1994年(平成6)に、モロッコのマラケシュで開催された閣僚会議で世界貿易機関(WTO)の設立が決定し、「関税および貿易に関する一般協定」(GATT)は、発展的に解消して、1995年(平成7)1月から世界貿易機関(WTO)に引き継がれました。
 以下に、「関税および貿易に関する一般協定」(GATT)の日本語訳を掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「関税及び貿易に関する一般協定」(日本語訳)

前文

オーストラリア連邦、ベルギー王国、ブラジル合衆国、ビルマ、カナダ、セイロン、チリ共和国、中華民国、キューバ共和国、チェッコスロヴァキア共和国、フランス共和国、インド、レバノン、ルクセンブルグ大公国、オランダ王国、ニュー・ジーランド、ノールウェー王国、パキスタン、南ローデシア、シリア、南アフリカ連邦、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国及びアメリカ合衆国の政府は、
貿易及び経済の分野における締約国間の関係が、生活水準を高め、完全雇用並びに高度のかつ着実に増加する実質所得及び有効需要を確保し、世界の資源の完全な利用を発展させ、並びに貨物の生産及び交換を拡大する方向に向けられるべきであることを認め、
関税その他の貿易障害を実質的に軽減し、及び国際通商における差別待遇を廃止するための相互的かつ互恵的な取極を締結することにより、これらの目的に寄与することを希望して、
それぞれの代表者を通じて次のとおり協定した。

第一部

第一条 一般的最恵国待遇
1.いずれかの種類の関税及び課徴金で、輸入若しくは輸出について若しくはそれらに関連して課され、又は輸入若しくは輸出のための支払手段の国際的移転について課せられるものに関し、それらの関税及び課徴金の徴収の方法に関し、輸入及び輸出に関連するすべての規則及び手続に関し、並びに第三条2及び4に掲げるすべての事項に関しては、いずれかの締約国が他国の原産の産品又は他国に仕向けられる産品に対して許与する利益、特典、特権又は免除は、他のすべての締約国の領域の原産の同種の産品又はそれらの領域に仕向けられる同種の産品に対して、即時かつ無条件に許与しなければならない。
2.前項の規定は、輸入税又は輸入に関する課徴金についての特恵で、4に定める限度をこえずかつ次に掲げるところに該当するものの廃止を要求するものではない。
(a)附属書Aに掲げる地域のうちの二以上の地域の間にのみ有効な特恵。ただし、同附属書に定める条件に従わなければならない。
(b)千九百三十九七月一日に共通の主権又は保護関係若しくは宗主権関係によつて結合されていた二以上の地域で、附属書B、C及びDに掲げるものの間にのみ有効な特恵。ただし、それらの附属書に定める条件に従わなければならない。
(c)アメリカ合衆国とキューバ共和国との間にのみ有効な特恵
(d)附属書E及びFに掲げる隣接国の間にのみ有効な特恵
3.1の規定は、以前オットマン帝国の一部であり、かつ、千九百二十三年七月二十四日に同帝国から分離した諸国間の特恵には適用しない。ただし、その特恵は、この点について第二十九条1の規定に照らして適用される第二十五条5(a)の規定に基いて承認されなければならない。
4.2の規定に基いて特恵を許与される産品に対する特恵の限度は、この協定に附属する該当の譲許表に特恵の最高限度が明示的に定められていない場合には、次のものをこえてはならない。
前記の譲許表に掲げる産品に対する輸入税又は課徴金については、その譲許表に定める最恵国税率と特恵税率との間の差。特恵税率が定められていない場合には、特恵税率は、この4の規定の適用上、千九百四十七年四月十日に有効であつたものとし、また、最恵国税率が定められていない場合には、その限度は、千九百四十七年四月十日における最恵国税率と特恵税率との間の差をこえてはならない。
該当の譲許表に掲げられていない産品に対する輸入税又は課徴金については、千九百四十七年四月十日における最恵国税率と特恵税率との間の差
附属書Gに掲げる締約国の場合には、(a)及び(b)の千九百四十七年四月十日という日付は、同附属書に定めるそれぞれの日付と置き替える。

第二条 譲許表
1.
(a)各締約国は、他の締約国の通商に対し、この協定に附属する該当の譲許表の該当の部に定める待遇より不利でない待遇を許与するものとする。
(b)いずれかの締約国の譲許表の第一部に掲げる産品に該当する他の締約国の領域の産品は、その譲許表が関係する領域への輸入に際し、その譲許表に定める条件又は制限に従うことを条件として、その譲許表に定める関税をこえる通常の関税を免除される。これらの産品は、また、輸入について又は輸入に関連して課せられるその他のすべての種類の租税又は課徴金で、この協定の日付の日に課せられているものをこえるもの又はその日にその輸入領域において有効である法令によりその後課することを直接にかつ義務的に要求されているものをこえるものを免除される。
(c)いずれかの締約国の譲許表の第二部に掲げる産品に該当するもので、その譲許表が関係する領域への輸入に際して特恵待遇を受ける権利を前条の規定によつて与えられている領域の産品であるものは、その輸入領域への輸入に際し、その譲許表に定める条件又は制限に従うことを条件として、その譲許表の第二部に定める関税をこえる通常の関税を免除される。これらの産品は、また、輸入について又は輸入に関連して課せられるその他のすべての種類の租税又は課徴金で、この協定の日付の日に課せられているものをこえるもの又はその日にその輸入領域において有効である法令によりその後課することを直接にかつ義務的に要求されているものをこえるものを免除される。この条のいかなる規定も、特恵税率による産品の輸入のための適格要件については、締約国がこの協定の日付の日に存在する要件を維持することを妨げるものではない。
2.この条のいかなる規定も、締約国が産品の輸入に際して次のものを随時課することを妨げるものではない。
(a)同種の国内産品について、又は当該輸入産品の全部若しくは一部がそれから製造され若しくは生産されている物品について次条2の規定に合致して課せられる内国税に相当する課徴金
(b)第六条の規定に合致して課せられるダンピング防止税又は相殺関税
(c)提供された役務の費用に相応する手数料その他の課徴金
3.締約国は、課税価額の決定の方法又は通貨換算の方法をこの協定に附属する該当の譲許表に定める譲許の価値を減ずるように変更してはならない。
4.締約国が、この協定に附属する該当の譲許表に掲げるいずれかの産品の輸入の独占を、正式に又は事実上、設定し、維持し、又は認可するときは、その独占は、その譲許表に別段の定がある場合又は直接に当該譲許を交渉した当事国の間に別段の取極がある場合を除くほか、その譲許表に定める保護の量を平均してこえるように運用してはならない。この項の規定は、締約国がこの協定の他の規定により認められるいずれかの形式の援助を国内生産者に与えることを制限するものではない。
5.締約国は、他の締約国が、いずれかの産品に対して、この協定に附属する該当の譲許表に定める譲許によつて意図されていると考えられる待遇を与えていないと認めるときは、その問題について直接にその締約国の注意を喚起しなければならない。その締約国が、注意を喚起した締約国の要求に同意はするが、その締約国の関税に関する法律に基いてこの協定に意図された待遇を許与するように当該産品を分類することができないと裁判所その他の権限のある機関が裁定したためにその待遇を許与することができないと宣言するときは、これらの二締約国及び実質的に利害関係を有するその他の締約国は、その問題の補償的調整のための交渉を直ちに開始しなければならない。
6.
(a)国際通貨基金の加盟国たる締約国の譲許表に含まれている従量税及び従量課徴金並びにそれらの締約国が維持する従量税及び従量課徴金に関する特恵の限度は、この協定の日付の日に同基金が受諾し又は暫定的に認めた平価における該当の通貨により表示する。したがつて、その平価が国際通貨基金協定に従つて二十パーセントをこえて引き下げられる場合には、その従量税及び従量課徴金並びに特恵の限度は、その引下げを考慮して調整することができる。ただし、締約国団(第二十五条の規定に従つて共同して行動する締約国をいう。)が、その調整の必要性又は緊急性に影響を及ぼすすべての要素を考慮に入れた上、その調整が該当の譲許表又はこの協定の他の部分に定める譲許の価値を減じないものであることに同意することを条件とする。
(b)同基金の加盟国でない締約国は、同基金の加盟国となる日又はその締約国が第十五条に従つて特別為替取極を締結する日から、(a)の規定の適用を受ける。
7.協定附属譲許表は、この協定の第一部の不可分の一体をなす。

第二部

第三条 内国の課税及び規則に関する内国民待遇
1.締約国は、内国税その他の内国課徴金と、産品の国内における販売、販売のための提供、購入、輸送、分配又は使用に関する法令及び要件並びに特定の数量又は割合による産品の混合、加工又は使用を要求する内国の数量規則は、国内生産に保護を与えるように輸入産品又は国内産品に適用してはならないことを認める。
2.いずれかの締約国の領域の産品で他の締約国の領域に輸入されるものは、同種の国内産品に直接又は間接に課せられるいかなる種類の内国税その他の内国課徴金をこえる内国税その他の内国課徴金も、直接であると間接であるとを問わず、課せられることはない。さらに、締約国は、前項に定める原則に反するその他の方法で内国税その他の内国課徴金を輸入産品又は国内産品に課してはならない。
3.現行の内国税で、前項の規定に反するが、千九百四十七年四月十日に有効であり、かつ、当該課税産品に対する輸入税を引き上げないように固定している貿易協定に基いて特に認められているものに関しては、それを課している締約国は、その貿易協定の義務を免除されてその内国税の保護的要素を撤廃する代償として必要な限度までその輸入税を引き上げることができるようになるまでは、その内国税に対する前項の規定の適用を延期することができる。
4.いずれかの締約国の領域の産品で他の締約国の領域に輸入されるものは、その国内における販売、販売のための提供、購入、輸送、分配又は使用に関するすべての法令及び要件に関し、国内原産の同種の産品に許与される待遇より不利でない待遇を許与される。この項の規定は、輸送手段の経済的運用にのみ基き産品の国籍には基いていない差別的国内輸送料金の適用を妨げるものではない。
5.締約国は、特定の数量又は割合による産品の混合、加工又は使用に関する内国の数量規則で、産品の特定の数量又は割合を国内の提供源から供給すべきことを直接又は間接に要求するものを設定し、又は維持してはならない。さらに、締約国は、1に定める原則に反するその他の方法で内国の数量規則を適用してはならない。
6.前項の規定は、締約国の選択により、千九百三十九年七月一日、千九百四十七年四月十日又は千九百四十八年三月二十四日にいずれかの締約国の領域において有効である内国の数量規則には適用されない。ただし、これらの規則で前項の規定に反するものは、輸入に対する障害となるように修正してはならず、また、交渉上は関税とみなして取り扱うものとする。
7.特定の数量又は割合による産品の混合、加工又は使用に関する内国の数量規則は、その数量又は割合を国外の供給源別に割り当てるような方法で適用してはならない。
8.
(a)この条の規定は、商業的再販売のため又は商業的販売のための貨物の生産に使用するためではなく政府用として購入する産品の政府機関による調達を規制する法令又は要件には適用しない。
(b)この条の規定は、国内生産者のみに対する補助金(この条の規定に合致して課せられる内国税又は内国課徴金の収入から国内生産者に交付される補助金及び政府の国内産品購入の方法による補助金を含む。の交付を妨げるものではない。
9.締約国は、内国の最高価格統制措置が、この条の他の規定に合致していてもなお、輸入産品を供給する締約国の利益に不利な影響を及ぼすことがあることを認める。よつて、その措置を執つている締約国は、その不利な影響をできる限り避けるため、輸出締約国の利益を考慮しなければならない。
10.この条の規定は、締約国が、露出済映画フィルムに関する内国の数量規則で第四条の要件に合致するものを設定し、又は維持することを妨げるものではない。

第四条 露出済映画フィルムに関する特別規定
締約国が露出済映画フィルムに関する内国の数量規則を設定し、又は維持するときは、その規則は、次の要件に合致する映写時間割当の方式を採らなければならない。
(a)映写時間割当は、すべての映画フィルム(原産地のいかんを問わない。)の商業的上映のため一年以上の一定期間に実際に利用される総映写時間のうち、最少限度の一定割合の時間国内原産フィルムを上映するように要求することができ、それは、各劇場当りの年間映写時間又はこれに相当するものを基礎として計算されなければならない。
(b)映写時間割当に基いて国内原産フィルムのために保留された映写時間を除くほか、映写時間(国内原産フィルムのために保留された映写時間のうち行政的措置によつて解除された部分を含む。)は、法令上も事実上も供給源別に割り当ててはならない。
(c)(b)の規定にかかわらず、締約国は、(a)の要件に合致する映写時間割当で、その映写時間割当を課している締約国以外の特定の原産地のフィルムのため最少限度の割合の映写時間を保留するものを維持することができる。ただし、映写時間のこの最少限度の割合は、千九百四十七年四月十日現在の水準をこえてはならない。
(d)映写時間割当の制限、緩和又は廃止については、交渉を行うことができる。

第五条 通過の自由
1.貨物(手荷物を含む。)及び船舶その他の輸送手段は、一締約国の領域のそれらの通過が、積換、倉入れ、荷分け又は輸送方法の変更を伴うかどうかを問わず、その締約国の国境外から始まり国境外に終るその通過の全行程の一部にすぎないときは、その領域を通過しているものとみなす。この種の運送は、この条において「通過運送」という。
2.他の締約国の領域へ向かうか又は他の締約国の領域から来る通過運送に対しては、国際通過に最も便利な経路によつて各締約国の領域を通過する自由を与えなければならない。船舶の国籍、原産地、仕出地、入国地、出国地若しくは仕向地による差別、又は貨物若しくは船舶その他の輸送手段の所有の事情に基く差別を設けてはならない。
3.締約国は、自国の領域を通る通過運送について関係税関で所定の手続に従うことを要求することはできるが、関税に関して適用される法令を遵守しなかつた場合を除くほか、他の締約国の領域から来るか又は他の締約国の領域へ向かう通過運送を不必要に遅延させ、又は制限してはならず、また、その通過運送について、輸送料金又は通過に伴う行政的経費若しくは提供された役務の費用に相応する課徴金を除くほか、関税及びすべての通過税その他の通過に関して課せられる課徴金を免除しなければならない。
4.他の締約国の領域へ向かうか又は他の締約国の領域から来る通過運送について締約国が課するすべての課徴金及び規則は、その運送の条件を考慮した合理的なものでなければならない。
5.各締約国は、通過に関するすべての課徴金、規則及び手続に関し、他の締約国の領域へ向かうか又は他の締約国の領域から来る通過運送に対し、第三国へ向かうか又は第三国から来る通過運送に許与する待遇より不利でない待遇を許与しなければならない。
6.各締約国は、他の締約国の領域を通過してくる産品に対し、その産品が当該領域を通過しないで原産地から仕向地へ輸送される場合に許与する待遇より不利でない待遇を許与しなければならない。もつとも、締約国は、直接運送が特恵税率による輸入のための適格要件となつている場合又は当該締約国の関税上の評価方法と関連がある場合の貨物に関し、この協定の日付の日に存在する直接運送の要件を維持することができる。
7.この条の規定は、航空機の通過航行には適用しないが、貨物(手荷物を含む。)の空路による通過には適用する。

第六条 ダンピング防止税及び相殺関税
1.締約国は、ある国の産品をその正常な価額より低い価額で他国の商業へ導入するダンピングが締約国の領域における確立された産業に実質的な損害を与え若しくは与えるおそれがあり、又は国内産業の確立を実質的に遅延させるときは、そのダンピングを非難すべきものと認める。この条の規定の適用上、ある国から他国へ輸出される産品の価格が次のいずれかの価格より低いときは、その産品は、正常の価額より低い価額で輸入国の商業に導入されるものとみなす。
(a)輸出国における消費に向けられる同種の産品の通常の商取引における比較可能の価格
(b)前記の国内価格がない場合には、
 (ⅰ)第三国に輸出される同種の産品の通常の商取引における比較可能の最高価格
 (ⅱ)原産国における産品の生産費に妥当な販売経費及び利潤を加えたもの
販売条件の差異、課税上の差異及び価格の比較に影響を及ぼすその他の差異に対しては、それぞれの場合について妥当な考慮を払わなければならない。
2.締約国は、ダンピングを相殺し又は防止するため、ダンピングされた産品に対し、その産品に関するダンピングの限度をこえない金額のダンピング防止税を課することができる。この条の適用上、ダンピングの限度とは、1の規定に従つて決定される価格差をいう。
3.いずれかの締約国の領域の産品で他の締約国の領域に輸入されるものは、原産国又は輸出国においてその産品の製造、生産又は輸出について直接又は間接に与えられていると認められる奨励金又は補助金(特定の産品の輸送に対する特別の補助金を含む。)の推定額に等しい金額をこえる相殺関税を課せられることはない。「相殺関税」とは、産品の製造、生産又は輸出について直接又は間接に与えられる奨励金又は補助金を相殺する目的で課する特別の関税をいう。
4.いずれかの締約国の領域の産品で他の締約国の領域に輸入されるものは、その産品が原産国若しくは輸出国における消費に向けられる同種の産品が課せられる租税を免除されることを理由として、又はその租税の払いもどしを受けることを理由としてダンピング防止税又は相殺関税を課せられることはない。
5.いずれかの締約国の領域の産品で他の締約国の領域に輸入されるものは、ダンピング又は輸出補助金から生ずる同一の事態を補償するためにダンピング防止税と相殺関税とを併課されることはない。
6.
(a)締約国は、他の締約国のダンピング又は補助金の影響が、自国の確立された国内産業に実質的な損害を与え若しくは与えるおそれがあり、又は自国の国内産業の確立を実質的に遅延させるものであると決定する場合を除くほか、当該他の国の領域の産品の輸入についてダンピング防止税又は相殺関税を課してはならない。
(b)締約国団は、締約国が、輸入締約国の領域に当該産品を輸出する第三国たる締約国の領域における産業に実質的な損害を与え又は与えるおそれがあるダンピング又は補助金の交付を相殺するため当該産品の輸入にダンピング防止税又は相殺関税を課することができるように、(a)の要件を免除することができる。締約国団は、補助金が輸入締約国の領域に当該産品を輸出する第三国たる締約国の領域における産業に実質的な損害を与え又は与えるおそれがあると認める場合には、相殺関税を課することができるように、(a)の要件を免除しなければならない。
(c)もつとも、遅延すれば回復しがたい損害を生ずるような特別の場合においては、締約国は、(b)の目的のため、締約国団の事前の承認を得ないで相殺関税を課することができる。ただし、この措置は、直ちに締約国団に報告しなければならず、かつ、締約国団が否認するときは、相殺関税は、直ちに撤回されるものとする。
7.輸出価格の変動に関係なく、一次産品の国内価格又は国内生産者の収入を安定させるための制度であつて、同種の産品についての国内市場の買手に対する比較可能の価格より低い価格で当該産品を輸出のために販売することがあるものは、当該産品について実質的な利害関係を有する締約国間の協議によつて次の事実が確定されるときは、前項の規定の意味において実質的な損害を与えることになるものとみなさない。
その制度が、また、同種の産品についての国内市場の買手に対する比較可能の価格より高い価格で当該産品を輸出のため販売することにもなつたこと及び
その制度が、生産の実効的な規制その他の方法により不当に輸出を促進しないように、又はその他の締約国の利益を著しく害しないように運用されていること

第七条 関税上の評価
1.締約国は、次の諸項に定める関税上の評価の一般原則が妥当であることを認め、かつ、輸入及び輸出に関する関税その他の課徴金又は制限で価額に基くか又はなんらかの方法で価額によつて規制されるものを課せられるすべての産品について、それらの原則を実施することを約束する。さらに、締約国は、他の締約国の要請を受けたときは、関税上の価額に関する法令の実施について、前記の原則に照らして検討しなければならない。締約国団は、締約国に対し、この条の規定に従つて締約国が執つた措置に関する報告を提出するように要請することができる。
2.
(a)輸入貨物の関税上の価額は、関税を課せられる輸入貨物又は同種の貨物の実際の価額に基くものでなければならず、国内原産の産品の価額又は任意の若しくは架空の価額に基くものであつてはならない。
(b)「実際の価額」とは、輸入国の法令で定める時に、及びその法令で定める場所で、その貨物又は同種の貨物が通常の商取引において完全な競争的条件の下に販売され、又は販売のために提供される価格をいう。その貨物又は同種の貨物の価格が特定の取引の数量によつて支配される限り、考慮される価格は、(i)比較可能の数量又は(ii)輸出国と輸入国との間の貿易において一層多量の貨物が販売される場合の数量より輸入業者にとつて不利でない数量のいずれかに関連を有するものでなければならない。
(c)実際の価額を(b)の規定に従つて確定することができないときは、関税上の価額は、その価額に最も近い相当額に基くものでなければならない。
3.輸入産品の関税上の価額は、原産国又は輸出国において課せられる内国税で、当該輸入産品が免除されたもの又は払いもどしを受けたもの若しくはその後受けるものの金額を含まないものでなければならない。
4.
(a)この4に別段の定がある場合を除くほか、2の規定の適用上締約国が他国の通貨により表示された価格を自国の通貨に換算することを必要とする場合には、使用すべき為替換算率は、各関係通貨につき、国際通貨基金協定に従つて設定された平価、同基金により認められた為替相場又はこの協定の第十五条の規定に基いて締結される特別為替取極に従つて設定された平価に基くものでなければならない。
(b)前記の平価が設定されておらず、また、前記の為替相場が認められていないときは、換算率は、商取引における当該通貨の現在の価値を実効的に反映したものでなければならない。
(c)締約国団は、国際通貨基金との取極により、国際通貨基金協定に合致して維持されている複数為替相場に基き締約国が行う外国通貨の換算を規制する規則を定めなければならない。締約国は、その外国通貨に関し、2の規定の適用上、平価を基礎とする代りに、その規則を適用することができる。締約国団がその規則を採択するまでの間、締約国は、その外国通貨に関し、2の規定の適用上、商取引におけるその外国通貨の価値を実効的に反映させるような換算規則を適用することができる。
(d)この4のいかなる規定も、この協定の日付の日に締約国の領域において適用されている関税上の通貨換算方法の変更が関税の額を全般的に増加する効果を有する場合には、その変更を締約国に要求するものと解してはならない。
価額に基くか又は何らかの方法で価額によつて規制される関税その他の課徴金又は制限を課せられる産品の価額を決定するための基準及び方法は、安定したものでなければならず、また、貿易業者が相当の確実性をもつて関税上の価額を推定することができるように十分に公表されなければならない。

第八条 輸入及び輸出に関する手数料及び手続
1.
(a)性質のいかんを問わず締約国が輸入若しくは輸出について又はそれらに関連して課するすべての手数料及び課徴金(輸入税、輸出税及び第三条の規定の範囲内の租税を除く。)は、提供された役務の概算の費用にその額を限定しなければならず、かつ、国内産品に対する間接的保護又は輸入若しくは輸出に対する財政上の目的のための課税となるものであつてはならない。
(b)締約国は、(a)に掲げる手数料及び課徴金の数及び種類を減少する必要を認める。
(c)締約国は、また、輸入及び輸出の手続の範囲及び複雑性を局限し、並びに輸入及び輸出の所要書類を少くしかつ簡易化する必要を認める。
2.締約国は、他の締約国又は締約国団の要請を受けたときは、この条の規定に照らして自国の法令の実施について検討しなければならない。
3.締約国は、税関規則又は税関手続上の要件の軽微な違反に対して、重い罰を課してはならない。特に、税関書類中の脱落又は誤記で、容易に訂正することができ、かつ、明らかに不正の意図又ははなはだしい怠慢によるものでないものに対する罰は、単に警告に相当するものをこえてはならない。
4.この条の規定は、輸入及び輸出に関連して政府機関が課する手数料、課徴金、手続及び要件(次の事項に関するものを含む。)についても適用する。
(a)領事送状及び領事証明書等の領事手続
(b)数量制限
(c)許可
(d)為替管理
(e)統計事務
(f)書類作成、書類交付及び証明
(g)分析及び検査
(h)検疫、衛生検査及び消毒

第九条 原産地表示
1.各締約国は、他の締約国の領域の産品の表示の要件に関し、第三国の同種の産品に許与する待遇より不利でない待遇を許与しなければならない。
2.締約国は、原産地表示に関する法令の制定及び実施に当り、虚偽の表示又は誤解のおそれのある表示から消費者を保護する必要について妥当な考慮を払つた上で、そのような措置が輸出国の商業及び産業にもたらす困難及び不便を局限しなければならないことを認める。
3.締約国は、行政上可能なときはいつでも、所定の原産地表示を輸入の時に附することを許可しなければならない。
4.輸入産品の表示に関する締約国の法令は、産品に著しい損害を与えることなく、その価値を実質的に減ずることなく、又はその価格を過度に引き上げることなく、遵守することができるものでなければならない。
5.締約国は、表示の訂正が不当に遅延し、虚偽の表示が附され、又は所定の表示が故意に省かれた場合を除くほか、輸入前に表示の要件に従わなかつたことに対しては、原則として、特別税又は罰を課してはならない。
6.締約国は、産品の真の原産地を誤認させるような方法、すなわち、他の締約国の領域の産品の特殊の地方的の又は地理的の名称でその国の法令によつて保護されているものを侵害するような方法による商標の使用を防止するため相互に協力しなければならない。各締約国は、他の締約国が自国に通告した産品の名称に対する前記の侵害に関して当該他の締約国が行う要請又は申入れに対して、十分かつ好意的な考慮を払わなければならない。

第十条 貿易規則の公表及び施行
1.締約国が実施する一般に適用される法令、司法上の判決及び行政上の決定で、産品の関税上の分類若しくは評価に関するもの、関税、租税その他の課徴金の率に関するもの、輸入、輸出若しくはそれらの支払手段の移転の要件、制限若しくは禁止に関するもの又は産品の販売、分配、輸送、保険、倉入れ、検査、展示、加工、混合その他の使用に影響を及ぼすものは、諸政府及び貿易業者が知ることができるような方法により、直ちに公表しなければならない。また、国際貿易政策に影響を及ぼす取極で、いずれかの締約国の政府又は政府機関と他の締約国の政府又は政府機関との間で効力を有するものも、公表しなければならない。この項の規定は、締約国に対し、法令の実施を妨げ、公共の利益に反し、又は公的若しくは私的の特定の企業の正当な商業上の利益を害することとなるような秘密の情報の提供を要求するものではない。
2.締約国が執る一般に適用される措置で、確立された統一的慣行に基いて輸入について課せられる関税その他の課徴金の率を増加し、又は輸入について若しくは輸入のための支払手段の移転について新たな若しくは一層重い要件、制限若しくは禁止を課するものは、その正式の公表前に実施してはならない。
3.
(a)各締約国は、1に掲げる種類のすべての法令、判決及び決定を一律の公平かつ合理的な方法で実施しなければならない。
(b)各締約国は、特に、関税事項に関する行政上の措置をすみやかに審査し、及び是正するため、司法裁判所、調停裁判所若しくは行政裁判所又はそれらの訴訟手続を維持し、又はできる限りすみやかに設定しなければならない。これらの裁判所又は訴訟手続は、行政上の実施の任に当る機関から独立していなければならず、その判決は、輸入業者がその控訴のために定められた期間内に上級の裁判所に控訴しない限り、前記の機関により実施されるものとし、また、前記の機関の行動を規制するものとする。ただし、その機関の中央行政官庁は、その決定を法令の確立された原則又は事実と一致しないと信ずる十分な理由があるときは、その問題について他の手続による審査を受けるため措置を執ることができる。
(c)(b)の規定は、この協定の日付の日に締約国の領域において有効である訴訟手続で、行政上の実施の任に当る機関から完全に又は正式に独立していないが行政上の措置の客観的なかつ公平な審査について事実上規定しているものの廃止又は代替を要求するものではない。その訴訟手続を採用している締約国は、要請を受けたときは、その訴訟手続がこの(c)の要件に合致するかどうかを締約国団が決定することができるように、その訴訟手続に関する完全な情報を締約国団に提供しなければならない。

第十一条 数量制限の一般的廃止
1.締約国は、他の締約国の領域の産品の輸入について、又は他の締約国の領域に仕向けられる産品の輸出若しくは輸出のための販売について、割当によると、輸入又は輸出の許可によると、その他の措置によるとを問わず、関税その他の課徴金以外のいかなる禁止又は制限も新設し、又は維持してはならない。
2.前項の規定は、次のものには適用しない。
(a)輸出の禁止又は制限で、食糧その他輸出締約国にとつて不可欠の産品の危機的な不足を防止し、又は緩和するために一時的に課するもの
(b)輸入及び輸出の禁止又は制限で、国際貿易における産品の分類、格付又は販売に関する基準又は規則の適用のために必要なもの
(c)農業又は漁業の産品に対して輸入の形式のいかんを問わず課せられる輸入制限で、次のことを目的とする政府の措置の実施のために必要なもの
 (ⅰ)販売若しくは生産を許された同種の国内産品の数量又は、同種の産品の実質的な国内生産がないときは、当該輸入産品をもつて直接に代替することができる国内産品の数量を制限すること。
 (ⅱ)同種の国内産品の一時的な過剰又は、同種の産品の実質的な国内生産がないときは、当該輸入産品をもつて直接に代替することができる国内産品の一時的な過剰を、無償で又は現行の市場価格より低い価格で一定の国内消費者の集団に提供することにより、除去すること。
 (ⅲ)生産の全部又は大部分を輸入産品に直接に依存する動物産品について、当該輸入産品の国内生産が比較的にわずかなものである場合に、その生産許可量を制限すること。
この(c)の規定に従つて産品の輸入について制限を課している締約国は、将来の特定の期間中に輸入することを許可する産品の総数量又は総価額及びその数量又は価額の変更を公表しなければならない。さらに、(i)の規定に基いて課せられる制限は、輸入の総計と国内生産の総計との割合を、その制限がない場合に両者の間に成立すると合理的に期待される割合より小さくするものであつてはならない。締約国は、この割合を決定するに当り、過去の代表的な期間に存在していた割合について、及び当該産品の取引に影響を及ぼしたか又は影響を及ぼしている特別の要因について、妥当な考慮を払わなければならない。

第十二条 国際収支の擁護のための制限
1.前条1の規定にかかわらず、締約国は、自国の対外資金状況及び国際収支を擁護するため、この条の次の諸項の規定に従うことを条件として、輸入を許可する商品の数量又は価額を制限することができる。
2.
(a)この条の規定に基いて締約国が新設し、維持し、又は強化する輸入制限は、次のいずれかの目的のために必要な限度をこえてはならない。
 (ⅰ)自国の貨幣準備の著しい減少の急迫した脅威の予防又はそのような減少の阻止
 (ⅱ)きわめて低い貨幣準備を有する締約国の場合には、その貨幣準備の合理的な率による増加
 前記のいずれの場合においても、当該締約国の貨幣準備又はその貨幣準備の必要性に影響を及ぼしていると思われる特別の要因(その締約国が外国の特別の信用その他の資金を利用することができる場合には、その信用又は資金の適当な使用のための準備の必要性を含む。)について妥当な考慮を払わなければならない。
(b)(a)の規定に基く制限を課している締約国は、(a)に定める状態がその制限を課することを正当とする限度においてのみこれを維持するものとし、その状態が改善されるにしたがつてその制限を漸次緩和しなければならない。その締約国は、(a)の規定に基く制限の新設又は維持をもはや正当としないような状態になつたときは、その制限を廃止しなければならない。
3.
(a)締約国は、国内政策の実施に当り、自国の国際収支の均衡を健全かつ永続的な基礎の上に維持し、又は回復することの必要性について、及び生産資源の非経済的利用を防止することが望ましいことについて、妥当な考慮を払うことを約束する。締約国は、この目的を達成するため、国際貿易の縮少ではなくその拡大のための措置をできる限り採用することが望ましいことを認める。
(b)この条の規定に基く制限を課している締約国は、一層重要な産品の輸入に優先権を与えるように、産品別又は産品の種類別に輸入に対する制限の範囲を定めることができる。
(c)この条の規定に基く制限を課している締約国は、次のことを約束する。
 (ⅰ)他の締約国の商業上又は経済上の利益に対する不必要な損害を避けること。
 (ⅱ)いずれかの種類の貨物の商業上の最少限度の数量の輸入でそれを排除すれば正常な交易を阻害することとなるものを不当に妨げるような制限を課さないこと。
 (ⅲ)商業上の見本の輸入を妨げ、又は特許権、商標権若しくは著作権に関する手続若しくは他の類似の手続に従うことを妨げるような制限を課さないこと。
(d)締約国は、完全かつ生産的な雇用の達成及び維持又は経済資源の開発をめざす国内政策の結果として、いずれかの締約国において、2(a)にいうような貨幣準備に対する脅威をもたらす高水準の輸入需要が生ずることがあることを認める。よつて、この条の規定に従つている締約国は、これらの政策を変更すればこの条の規定に基いて自国が課している制限が不必要になるであろうということを理由として制限を撤回し又は修正するように要求されることはない。
4.
(a)新たな制限を課し、又は、この条の規定に基いて適用している措置の実質的な強化により、自国の現行の制限の全般的水準を引き上げる締約国は、その制限を新設し、若しくは強化した後直ちに(又は事前の協議が実際上可能な場合には、その制限を新設し、若しくは強化する前に)、自国の国際収支上の困難の性質、執ることができる代りの是正措置及びその制限が他の締約国の経済に及ぼす影響について、締約国団と協議しなければならない。
(b)締約国団は、締約国団が定める日に、この条の規定に基いてその日に課せられているすべての制限を審査しなければならない。この条の規定に基く輸入制限を課している締約国は、前記の日から一年が経過した後は、毎年、(a)の規定の例による協議を締約国団と行わなければならない。
(c)
 (ⅰ)締約国団は、(a)又は(b)の規定に基く締約国との協議において、制限がこの条又は第十三条の規定(第十四条の規定を留保する。)に合致しないと認めるときは、その不一致の性質を指摘しなければならず、又、その制限を適当に修正するように助言することができる。
 (ⅱ)もつとも、締約国団は、協議の結果、制限がこの条又は第十三条の規定(第十四条の規定を留保する。)に著しく反するような方法で課せられており、かつ、それがいずれかの締約国の貿易に損害を与え又は与えるおそれがあると決定するときは、その制限を課している締約国にその旨を通報し、かつ、その締約国が特定の期間内に前記の規定に従うようにするため適当な勧告を行わなければならない。その締約国が特定の期間内に前記の勧告に従わなかつたときは、締約国団は、その制限により貿易に悪影響を受けた締約国について、その制限を課している締約国に対するこの協定に基く義務で締約国団が状況により適当であると決定するものを免除することができる。
(d)締約国団は、この条の規定に基く制限を課している締約国に対し、その制限がこの条又は第十三条の規定(第十四条の規定を留保する。)に反すること及びそれにより自国の貿易が悪影響を受けていることを一見して明白に立証することができる他の締約国から要請を受けたときは、締約国団と協議するように勧誘しなければならない。もつとも、この勧誘は、関係締約国間の直接の討議が成功しなかつたことを締約国団が確認した場合でなければ行うことはできない。締約国団との協議の結果、合意に達することができず、かつ、制限が前記の規定に反して課せられていること及びその制限がこの手続を開始した締約国の貿易に損害を与え又は与えるおそれがあることを締約国団が決定するときは、締約国団は、その制限の撤回又は修正を勧告しなければならない。締約国団が定める期間内に制限が撤回され、又は修正されないときは、締約国団は、この手続を開始した締約国について、当該制限を課している締約国に対するこの協定に基く義務で締約国団が状況により適当であると決定するものを免除することができる。
(e)締約国団は、この4の規定に基く手続を執るに際し、制限を課している締約国の輸出貿易に悪影響を及ぼしている特別の外的要因に妥当な考慮を払わなければならない。
(f)この4の規定に基く決定は、すみやかに、できれば協議の開始の日から六十日以内に行わなければならない。
5.この条の規定に基く輸入制限が持続的かつ広範囲に課せられており、国際貿易を制限するような一般的不均衡の存在を示しているときは、締約国団は、不均衡の根本原因を除去する目的をもつて、国際収支が逆調に向つている締約国、国際収支が異常に順調に向つている締約国又は適当な政府間機関のいずれかが他の措置を執りうるかどうかについて考慮するための討議を開始しなければならない。締約国は締約国団の勧誘を受けたときは、その討議に参加しなければならない。

第十三条 数量制限の無差別適用
1.締約国は、他の締約国の領域の産品の輸入又は他の締約国の領域に仕向けられる産品の輸出について、すべての第三国の同種の産品の輸入又はすべての第三国に仕向けられる同種の産品の輸出が同様に禁止され、又は制限される場合を除くほか、いかなる禁止又は制限も課してはならない。
2.締約国は、産品に対して輸入制限を課するに当り、その制限がない場合に諸締約国が獲得すると期待される取分にできる限り近づくようにその産品の貿易量を配分することを目標としなければならず、このため次の規定を遵守しなければならない。
(a)可能なときはいつでも、輸入許可品の総量を表わす割当量(供給国間に割り当てられているかどうかを問わない。)を決定し、かつ、その総量を3(b)の規定に従つて公表しなければならない。
(b)割当量の決定が不可能である場合には、割当量を定めない輸入の許可又は免許によつて制限を課することができる。
(c)締約国は、(d)の規定に従つて割り当てられる割当量を実施する場合を除くほか、当該産品を特定の国又は供給源から輸入するために輸入の許可又は免許を利用することを要求してはならない。
(d)供給国間に割当量を割り当てる場合には、制限を課している締約国は、割当量の割当について、当該産品の供給について実質的な利害関係を有する他のすべての締約国と合意することができる。この方法が事実上実行不可能な場合には、関係締約国は、その産品の供給について実質的な利害関係を有する締約国に対し、その産品の貿易に影響を及ぼしたか又は及ぼしているすべての特別の要因に妥当な考慮を払い、過去の代表的な期間中にその締約国がその産品の輸入の総数量又は総価額に対して供給した割合に基いてその産品の取分を割り当てなければならない。いずれかの締約国が前記の総数量又は総価額のうち自国に割り当てられた取分の全部を使用することを妨げるような条件又は手続は、課してはならない。ただし、輸入が当該割当量に関する所定の期間内に行われることを条件とする。
3.
(a)輸入制限に関連して輸入許可証を発給する場合には、制限を課している締約国は、当該産品の貿易について利害関係を有する締約国の要請があつたときは、その制限の実施、最近の期間について与えられた輸入許可証及び供給国間におけるその許可証の配分に関するすべての関係情報を提供しなければならない。ただし、輸入又は供給を行なう企業の名称に関する情報を提供する義務を負わない。
(b)輸入制限が割当量の決定を伴う場合には、制限を課している締約国は、将来の特定の期間中に輸入することを許可する産品の総数量又は総価額及びその総数量又は総価額の変更を公表しなければならない。公表が行われた時に輸送の途中にあつた当該産品の輸入は、拒否してはならない。ただし、実行可能な場合には、当該期間中に輸入することを許可する数量からこれを差し引いて計算することができ、また、必要な場合には、その次の一又は二以上の期間中に輸入することを許可する数量からこれを差し引いて計算することもできる。さらに、締約国が、前記の公表の日の後三十日の期間内に消費のため輸入され、又は消費のため保税倉庫から引き取られる産品について、慣習的に前記の制限を免除するときは、その慣習は、この(b)の規定に完全に合致するものと認める。
(c)供給国間に割当量を割り当てる場合には、制限を課している締約国は、その時に供給国間に割り当てた割当量の取分の数量又は価額を当該産品の供給について利害関係を有する他のすべての締約国に直ちに通報しなければならず、かつ、これを公表しなければならない。
4.2(d)の規定又は第十一条2(c)の規定に基いて課せられる制限に関し、産品に関する代表的な期間の選定及び産品の貿易に影響を及ぼしている特別の要因の評価は、当該制限を課している締約国が最初に行わなければならない。ただし、その締約国は、その産品の供給について実質的な利害関係を有する他の締約国又は締約国団の要請を受けたときは、決定した割当若しくは選定した基準期間の調整の必要について、関係のある特別の要因の再評価の必要について、又は適当な割当量の割当若しくはその割当の無制限使用に関して一方的に設定した条件、手続その他の規定の廃止の必要について、当該他の締約国又は締約国団と直ちに協議しなければならない。
5.この条の規定は、締約国が設定し、又は維持する関税割当に適用するものとし、この条の原則は、できる限り輸出制限にも適用するものとする。

第十四条 無差別待遇の原則の例外
1.第十二条又は第十八条Bの規定に基く制限を課する締約国は、その制限を課するに当り、国際通貨基金協定第八条若しくは第十四条の規定に基き又はこの協定の第十五条6の規定により締結した特別為替取極の類似の規定に基き当該時にその締約国が経常的国際取引のための支払及び資金移動について課することができる制限と等しい効果を有するような方法で、第十三条の規定から逸脱することができる。
2.第十二条又は第十八条Bの規定に基く輸入制限を課している締約国は、自国の対外貿易の一小部分に関し、関係締約国の受ける利益が他の締約国の貿易に与える損害より実質的に大きいときは、締約国団の同意を得て、一時的に第十三条の規定から逸脱することができる。
3.第十三条の規定は、国際通貨基金において共同の割当額をもつ一群の地域が、相互間の輸入にではなく他国からの輸入に対し、第十二条又は第十八条Bの規定に従つて制限を課することを妨げるものではない。ただし、その制限は、他のすべての点で第十三条の規定に合致するものでなければならない。
4.第十二条又は第十八条Bの規定に基く輸入制限を課している締約国は、第十三条の規定から逸脱しないで使用しうる通貨の獲得を増加するように自国の輸出を導く措置を実施することを、この協定の第十一条から第十五条までの規定又は第十八条Bの規定によつて、妨げられることはない。
5.締約国は、次のいずれかの数量制限を課することを、この協定の第十一条から第十五条までの規定又は第十八条Bの規定によつて、妨げられることはない。
(a)国際通貨基金協定第七条第三項(b)の規定に基づいて許可された為替制限と等しい効果を有する数量制限
(b)この協定の附属書Aに定める交渉が成立するまでの間、同附属書に定める特恵取極に基く数量制限

第十五条 為替取極
1.締約国団は、締約国団及び国際通貨基金が、同基金の権限内の為替上の問題並びに締約国団の権限内の数量制限の問題及び貿易上のその他の措置に関して調整された政策を遂行することができるように、同基金との協力に努めなければならない。
2.締約国団は、貨幣準備、国際収支又は外国為替取極に関する問題を審査し、又は処理することを求められるすべての場合に、国際通貨基金と十分に協議しなければならない。その協議において、締約国団は、外国為替、貨幣準備及び国際収支について同基金が提示する統計その他の事実に関するすべての認定を受諾しなければならず、また、為替上の事項に関するいずれかの締約国の措置が国際通貨基金協定又は当該いずれかの締約国と締約国団との間の特別為替取極の条項に従つているかどうかについての同基金の決定を受諾しなければならない。締約国団は、第十二条2(a)又は第十八条9に定める基準に基いて最終的決定をするときは、締約国の貨幣準備の著しい減少、その貨幣準備のきわめて低い水準又はその貨幣準備の合理的な率による増加が何によるものであるかについての同基金の決定及びその場合に協議の対象となるその他の事項の金融的な面に関する同基金の決定を受諾しなければならない。
3.締約国団は、前項の規定に基く協議のための手続について、国際通貨基金との取極の締結を求めなければならない。
4.締約国は、為替上の措置によつてこの協定の規定の趣旨を没却してはならず、また、貿易上の措置によつて国際通貨基金協定の規定の趣旨を没却してはならない。
5.締約国団は、いずれかの締約国が数量制限に関しこの協定で定める例外に反する方法で輸入に関連する支払及び移転について為替制限を課していると認めるときはいつでも、その問題について国際通貨基金に報告しなければならない。
6.国際通貨基金の加盟国でない締約国は、締約国団が同基金と協議して定める期間内に、同基金の加盟国とならなければならず、それが不可能なときは、締約国団と特別為替取極を締結しなければならない。同基金の加盟国でなくなつた締約国は、直ちに締約国団と特別為替取極を締結しなければならない。この項の規定に基いて締約国が締結した特別為替取極は、その締結の時に、その締約国のこの協定に基く義務の一部となる。
7.
(a)前項の規定に基く締約国と締約国団との間の特別為替取極は、当該締約国の為替上の事項に関する措置の結果この協定の目的が没却されないことについて締約国団が必要と認める規定を含まなければならない。
(b)前記の取極の条項は、為替上の事項について国際通貨基金協定が国際通貨基金の加盟国に課する義務より全般的に一層制限的な義務をその締約国に課するものであつてはならない。
8.国際通貨基金の加盟国でない締約国は、国際通貨基金協定第八条第五項の規定の一般的範囲内の情報であつて締約国団がこの協定に基くその任務の遂行のため要求するものを提供しなければならない。
9.この協定のいかなる規定も、次のことを妨げるものではない。
(a)締約国が、国際通貨基金協定又は自国と締約国団との間の特別為替取極に従う為替管理又は為替制限を実施すること。
(b)締約国が、第十一条、第十二条、第十三条及び第十四条の規定に基いて認められる効果のほか前記の為替管理又は為替制限を実効的にする効果がある輸入又は輸出の制限又は統制を実施すること。

第十六条 補助金
A 補助金一般
1.締約国は、補助金(なんらかの形式による所得又は価格の支持を含む。)で、直接又は間接に自国の領域からの産品の輸出を増加させ又は自国の領域への産品の輸入を減少させるものを許与し、又は維持するときは、当該補助金の交付の範囲及び性格について、自国の領域に輸入され又は自国の領域から輸出される産品の数量に対して当該補助金の交付が及ぼすと推定される効果について、並びにその補助金の交付を必要とする事情について、書面により締約国団に通告しなければならない。その補助金が他の締約国の利益に重大な損害を与え、又は与えるおそれがあると決定された場合には、補助金を許与している締約国は、要請を受けたときは、その補助金を制限する可能性について他の関係締約国又は締約国団と討議しなければならない。
B 輸出補助金に関する追加規定
2.締約国団は、締約国によるいずれかの産品に対する輸出補助金の許与が、他の輸入締約国及び輸出締約国に有害な影響を与え、それらの締約国の通常の商業上の利益に不当な障害をもたらし、及びこの協定の目的の達成を阻害することがあることを認める。
3.よつて、締約国は、一次産品の輸出補助金の許与を避けるように努めなければならない。ただし、締約国が自国の領域からの一次産品の輸出を増加するようないずれかの形式の補助金を直接又は間接に許与するときは、その補助金は、過去の代表的な期間における当該産品の世界輸出貿易におけるその締約国の取分及びこのような貿易に影響を与えたか又は与えていると思われる特別の要因を考慮して、当該産品の世界輸出貿易における当該締約国の衡平な取分をこえて拡大するような方法で与えてはならない。
4.さらに、締約国は、千九百五十八年一月一日に、又はその後のできる限り早い日に、一次産品以外の産品の輸出に対し、国内市場の買手が負担する同種の産品の比較可能な価格より低い価格で当該産品を輸出のため販売することとなるようないかなる形式の補助金も、直接であると間接であるとを問わず、許与することを終止するものとする。締約国は、千九百五十七年十二月三十一日までの間、補助金の交付の範囲を、補助金を新設することにより、又は現行の補助金を拡大することにより、千九百五十五年一月一日現在の補助金の交付の範囲をこえて拡大してはならない。
5.締約国団は、この条の規定が、この協定の目的の助長に対し、及び締約国の貿易又は利益に著しく有害な補助金の交付の防止に対し、有効であるかどうかを実際の経験に照らして審査するため、その規定の運用を随時検討しなければならない。

第十七条 国家貿易企業
1.
(a)各締約国は、所在地のいかんを問わず国家企業を設立し、若しくは維持し、又はいずれかの企業に対して排他的な若しくは特別の特権を正式に若しくは事実上許与するときは、その企業を、輸入又は輸出のいずれかを伴う購入又は販売に際し、民間貿易業者が行う輸入又は輸出についての政府の措置に関してこの協定に定める無差別待遇の一般原則に合致する方法で行動させることを約束する。
(b)(a)の規定は、前記の企業が、この協定の他の規定に妥当な考慮を払つた上で、商業的考慮(価格、品質、入手の可能性、市場性、輸送等の購入又は販売の条件に対する考慮をいう。)のみに従つて前記の購入又は販売を行い、かつ、他の締約国の企業に対し、通常の商慣習に従つて前記の購入又は販売に参加するために競争する適当な機会を与えることを要求するものと了解される。
(c)締約国は、自国の管轄権の下にある企業((a)に定める企業であるかどうかを問わない。)が(a)及び(b)の原則に従つて行動することを妨げてはならない。
2.1の規定は、再販売するため又は販売のための貨物の生産に使用するための産品ではなく政府が直接に又は最終的に消費するための産品の輸入には、適用しない。その輸入については、各締約国は、他の締約国の貿易に対して公正かつ衡平な待遇を許与しなければならない。
3.締約国は、1(a)に定める種類の企業の運営が貿易に著しい障害を与えることがあること、よつて、その障害を制限し、又は減少するための相互的かつ互恵的な基礎における交渉が国際貿易の拡大のため重要であることを認める。
4.
(a)締約国は、1(a)に定める種類の企業により自国の領域に輸入され、又はそこから輸出される産品を締約国団に通告しなければならない。
(b)第二条の規定に基く譲許の対象とならない産品について輸入独占を設定し、維持し、又はその特権を与える締約国は、当該産品について実質的数量の貿易を行う他のいずれかの締約国の要請を受けたときは、最近の代表的な期間における当該産品の輸入差益を締約国団に通報しなければならず、その通報を行うことが不可能なときは、当該産品の再販売に当り課せられる価格を通報しなければならない。
(c)締約国団は、この協定に基く自国の利益が1(a)に定める種類の企業の運営により悪影響を受けていると信ずべき根拠を有する締約国から要請を受けたときは、その企業を設立し、維持し、又はこれに特権を与えている締約国に対し、その企業の運営に関する情報でこの協定の規定の実施に関連のあるものを提供するように要請することができる。
(d)この4の規定は、締約国に対し、法令の実施を妨げ、公共の利益に反し、又は特定の企業の正当な商業上の利益を害することとなるような秘密の情報の提供を要求するものではない。

第十八条 経済開発に対する政府の援助
1.締約国は、この協定の目的の達成が、締約国、特に、経済が低生活水準を維持することができるにすぎず、かつ、開発の初期の段階にある締約国の経済の漸進的開発により容易にされることを認める。
2.締約国は、さらに、これらの締約国が、その国民の一般的生活水準を引き上げるための経済開発の計画及び政策を実施するため、輸入に影響する保護措置その他の措置を必要とする場合があること並びにそれらの措置が、この協定の目的の達成を容易にする限り、正当とされることを認める。よつて、締約国は、前記の締約国が、(a)特定の産業の確立のため必要な関税上の保護を与えることができるように、自国の関税構造に十分な弾力性を維持すること及び(b)自国の経済開発計画の実施により予想される継続的な高度の輸入需要を十分に考慮して国際収支のための数量制限を課することを可能ならしめる追加的便益を享有することに同意する。
3.締約国は、最後に、A及びBに定める追加的便益が与えられれば、この協定の規定が締約国にとつてその経済開発の要件を満たすために通常十分であることを認める。もつとも、締約国は、経済開発の過程にある締約国がその国民の一般的生活水準の引上げの意図をもつてする特定の産業の確立を促進するため必要な政府援助を許与するためには、A及びBの規定に合致するいかなる措置も実際上執りえないような事態が存在するかもしれないことに同意する。このような事態に対処するため、C及びDに特別の手続を定める。
4.
(a)よつて、経済が低生活水準を維持することができるにすぎず、かつ、開発の初期の段階にある締約国は、A、B及びCに定めるとおり、この協定の他の条項の規定から一時的に逸脱することができるものとする。
(b)経済が開発の過程にあるが(a)の規定の範囲内にはいらない締約国は、締約国団に対し、Dの規定に基く申請を行うことができる。
5.締約国は、経済が4(a)及び(b)にいう形態をそなえ、かつ、少数の一次産品の輸出に依存する締約国の輸出収入が、その産品の販売の低下により、著しく減少することがあることを認める。よつて、このような締約国は、自国の一次産品の輸出が他の締約国の執つた措置により著しい影響を受けるときは、この協定の第二十二条の協議規定を援用することができる。
6.締約国団は、毎年、C及びDの規定に従つて執られるすべての措置を審査しなければならない。
7.
(a)4(a)の規定の範囲内にはいる締約国は、その国民の一般的生活水準を引き上げる意図をもつて特定の産業の確立を促進するため、この協定に附属する該当の譲許表に含まれる譲許を修正し、又は撤回することが望ましいと考えるときは、その旨を締約国団に通告し、かつ、その譲許について直接に交渉を行つた締約国及びその譲許について実質的な利害関係を有すると締約国団により決定された他の締約国と交渉を行わなければならない。これらの関係締約国の間で合意が成立したときは、これらの締約国は、その合意(関係する補償的調整を含む。)を実施するため、この協定の該当の譲許表に基く譲許を修正し、又は撤回することができるものとする。
(b)(a)に定める通告の日の後六十日以内に合意が成立しなかつたときは、譲許の修正又は撤回を申し出た締約国は、その問題を締約国団に付託することができ、締約国団は、直ちにその問題を審査しなければならない。譲許の修正又は撤回を申し出た締約国が合意に達するためあらゆる努力を払つたこと及びその締約国が提案する補償的調整が適当なものであることを締約国団が認めるときは、その締約国は、同時にその補償的調整を実施することを条件として、その譲許を修正し、又は撤回することができるものとする。締約国団が、譲許の修正又は撤回を申し出た締約国の提案する補償が適当なものであるとは認めないが、その締約国が適当な補償を提案するためあらゆる妥当な努力を払つたことを認めるときは、その締約国は、その修正又は撤回を行うことができるものとする。このような措置が執られたときは、(a)に掲げる他のいずれの締約国も、その措置を執つた締約国と直接に交渉した譲許のうちその措置と実質的に等価値の譲許を修正し、又は撤回することができるものとする。
8.締約国は、4(a)の規定の範囲内にはいる締約国が急速な開発過程にあるときは、そのような締約国においては、その国内市場を拡大するための努力及びその交易条件の不安定性から主として起る国際収支上の困難が生ずることを認める。
9.4(a)の規定の範囲内にはいる締約国は、自国の対外資金状況を擁護するため、及び自国の経済開発計画の実施のために十分な貨幣準備を確保するため、10から12までの規定に従うことを条件として、輸入を許可される商品の数量又は価格を制限することにより輸入の全般的水準を統制することができる。ただし、このようにして新設され、維持され、又は強化される輸入制限は、次のいずれかの目的のために必要な限度をこえてはならない。
(a)自国の貨幣準備の著しい減少の脅威の予防又はそのような減少の阻止
(b)十分な貨幣準備を有しない締約国の場合には、その貨幣準備の合理的な率による増加
 前記のいずれの場合においても、当該締約国の貨幣準備又はその貨幣準備の必要性に影響を及ぼしていると思われる特別の要因(その締約国が外国の特別の信用その他の資金を利用することができる場合には、その信用又は資金の適当な使用のための準備の必要性を含む。)について妥当な考慮を払わなければならない。
10.締約国は、これらの制限を課するに当り、自国の経済開発政策に照らして一層重要な産品の輸入に優先権を与えるように、産品別又は産品の種類別に輸入に対する制限の範囲を定めることができる。ただし、その制限は、他の締約国の商業上又は経済上の利益に対する不必要な損害を避けるように、かつ、いずれかの種類の貨物の商業上の最少限度の数量の輸入でそれを排除すれば正常な交易を阻害することとなるものを不当に妨げないように課さなければならず、また、商業上の見本の輸入を妨げ、又は特許権、商標権若しくは著作権に関する手続若しくは他の類似の手続に従うことを妨げるように課してはならない。
11.締約国は、国内政策の実施に当り、自国の国際収支の均衡を健全かつ永続的な基礎の上に回復することの必要性について、及び生産資源の経済的利用を確保することが望ましいことについて、妥当な考慮を払わなければならない。締約国は、このBの規定に基いて課する制限を、9の条件に基き必要とされる限度においてのみ維持するものとし、状態が改善されるにしたがつて漸次緩和しなければならず、また、その制限の維持をもはや正当としないような状態になつたときは、その制限を廃止しなければならない。ただし、締約国は、その開発政策を変更すればこのBの規定に基いて自国が課している制限が不必要になるであろうということを理由としてその制限を撤回し又は修正するように要求されることはない。
12.
(a)新たな制限を課し、又は、このBの規定に基いて適用している措置の実質的な強化により、自国の現行の制限の全般的水準を引き上げる締約国は、その制限を新設し、若しくは強化した後直ちに(又は事前の協議が実際上可能な場合には、その制限を新設し、若しくは強化する前に)、自国の国際収支上の困難の性質、執ることができる代りの是正措置及びその制限が他の締約国の経済に及ぼす影響について、締約国団と協議しなければならない。
(b)締約国団は、締約国団が定める日に、このBの規定に基いてその日に課せられているすべての制限を審査しなければならない。このBの規定に基く制限を課している締約国は、前記の日から二年を経過した後は、締約国団が毎年作成する計画に従つて大体二年ごとに(その間隔は、二年より短くてはならない。)、(a)の規定の例による協議を締約国団と行わなければならない。ただし、この(b)の規定に基く協議は、この12の他の規定に基く一般的性質の協議の終結の後二年以内に行うことはできない。
(c)
 (ⅰ)締約国団は、(a)又は(b)の規定に基く締約国との協議において、制限がこのB又は第十三条の規定(第十四条の規定を留保する。)に合致しないと認めるときは、その不一致の性質を指摘しなければならず、また、その制限を適当に修正するように助言することができる。
 (ⅱ)もつとも、締約国団は、協議の結果、制限がこのB又は第十三条の規定(第十四条の規定を留保する。)に著しく反するような方法で課せられており、かつ、それがいずれかの締約国の貿易に損害を与え又は与えるおそれがあると決定するときは、その制限を課している締約国にその旨を通報し、かつ、その締約国が特定の期間内に前記の規定に従うようにするため適当な勧告を行わなければならない。その締約国が特定の期間内に前記の勧告に従わなかつたときは、締約国団は、その制限により貿易に悪影響を受けた締約国について、当該制限を課している締約国に対するこの協定に基く義務で締約国団が状況により適当であると決定するものを免除することができる。
(d)締約国団は、このBの規定に基く制限を課している締約国に対し、その制限がこのB又は第十三条の規定(第十四条の規定を留保する。)に反すること及びそれにより自国の貿易が悪影響を受けていることを一見して明白に立証することができる他の締約国から要請を受けたときは、締約国団と協議するように勧誘しなければならない。もつとも、この勧誘は、関係締約国間の直接の討議が成功しなかつたことを締約国団が確認した場合でなければ行うことはできない。締約国団との協議の結果、合意に達することができず、かつ、制限が前記の規定に反して課せられていること及びその制限がこの手続を開始した締約国の貿易に損害を与え又は与えるおそれがあることを締約国団が決定するときは、締約国団は、その制限の撤回又は修正を勧告しなければならない。締約国団が定める期間内に制限が撤回され、又は修正されないときは、締約国団は、この手続を開始した締約国について、当該制限を課している締約国に対するこの協定に基く義務で締約国団が状況により適当であると決定するものを免除することができる。
(e)(c)(ii)又は(d)のいずれかの最後の文の規定に従つて執られた措置の適用を受けている締約国は、締約国団が認める義務の免除により自国の経済開発の計画及び政策の運営が悪影響を受けると認めるときは、その措置が執られた後六十日以内に、締約国団の書記局長に対し、この協定から脱退する意思を書面により通告することができるものとし、その脱退は、同書記局長がその通告書を受領した日の後六十日目に効力を生ずる。
(f)締約国団は、この12の規定に基く手続を執るに際し、2に掲げる要因に妥当な考慮を払わなければならない。この12の規定に基く決定は、すみやかに、できれば協議の開始の日から六十日以内に行わなければならない。
13.4(a)の規定の範囲内にはいる締約国は、その国民の一般的生活水準を引き上げる意図をもつて特定の産業の確立を促進するため、政府の援助が必要であるが、この目的のためにはこの協定の他の規定に合致するいかなる措置も実際上執りえないと認めるときは、このCの規定及び手続を援用することができる。
14.締約国は、13に定める目的を達成するに当つて生ずる特別の困難を締約国団に通告しなければならず、かつ、その困難を除去するために自国が執ることを申し出る特別の措置で輸入に影響を及ぼすものを示さなければならない。その締約国は、前記の措置を、15若しくは17に定める期間の満了前には、又は、その措置がこの協定に附属する該当の譲許表に含まれる譲許の対象たる産品の輸入に影響を及ぼすものであるときは、18の規定に従い締約国団の同意を得ない限り、執ることができない。ただし、援助を受けている産業がすでに生産を開始しているときは、当該締約国は、締約国団に通報した後、当該産品の輸入が通常の水準をこえて実質的に増加することを防ぐための措置を必要とする期間中執ることができる。
15.前記の措置の通告の日の後三十日以内に、締約国団が当該締約国に対して締約国団と協議するように要請しなかつたときは、その締約国は、申し出た措置を執るために必要な限度において、この協定の他の条項の該当の規定から逸脱することができるものとする。
16.締約国団の要請を受けたときは、当該締約国は、申し出た措置の目的、この協定に基いて執ることができる代りの措置並びに申し出た措置が他の締約国の商業上及び経済上の利益に及ぼす影響について、締約国団と協議しなければならない。その協議の結果、締約国団が、この協定の他の規定に合致する措置で13に定める目的の達成のために実際上執ることができるものがないことを認め、かつ、申し出られた措置に同意するときは、当該締約国は、その措置を執るために必要な限度において、この協定の他の条項の該当の規定に基く義務を免除されるものとする。
17.14の規定に基く申し出られた措置の通告の日の後九十日以内に、締約国団がその措置に同意しないときは、当該締約国は、締約国団に通報した後、申し出た措置を執ることができる。
18.申し出た措置がこの協定に附属する該当の譲許表に含まれる譲許の対象たる産品に影響を及ぼすものであるときは、当該締約国は、その譲許について直接に交渉を行つた他の締約国及びその譲許について実質的な利害関係を有すると締約国団により決定された他の締約国と協議を行なわなければならない。締約国団は、この協定の他の規定に合致する措置で13に定める目的の達成のために実際上執ることができるものがないこと及び次のいずれかのことを認めるときは、前記の措置に同意しなければならない。
(a)前記の協議の結果、これらの他の締約国との合意が成立したこと。
(b)締約国団が14に定める通告を受領した日の後六十日以内に、合意が成立しなかつたときは、このCの規定を援用する締約国が合意に達するためあらゆる妥当な努力を払つたこと及び他の締約国の利益が十分に擁護されていること。
このCの規定を援用する締約国は、前記の措置を執るために必要な限度において、この協定の他の条項の該当の規定に基く義務を免除される。
19.13の規定の例による申し出られた措置が、この協定の該当の規定に基いて関係締約国が国際収支上の目的で課した制限によつて附随的に与えられた保護によりその確立が初期において容易にされた産業に関係があるときは、その締約国は、このCの規定及び手続を援用することができる。ただし、その締約国は、締約国団の同意がなければ、申し出た措置を執つてはならない。
20.このCの前諸項のいかなる規定も、この協定の第一条、第二条及び第十三条の規定からの逸脱を認めるものではない。10のただし書は、このCの規定に基くすべての制限に適用する。
21.17の規定に基く措置が執られている間はいつでも、その措置により実質的な影響を受けた締約国は、このCの規定を援用している締約国の貿易に対し、その協定に基く実質的に等価値の譲許その他の義務であつてその適用の停止を締約国団が否認しないものの適用を停止することができる。ただし、影響を受ける締約国に実質的に不利となるように前記の措置が執られ、又は変更された後六箇月以内に、その停止について六十日の事前の通告を締約国団に対して行なわなければならない。この停止を行う締約国は、この協定の第二十二条の規定に従い協議のための適当な機会を与えなければならない。
22.4(b)の規定の範囲内にはいる締約国は、自国の経済の開発のため、特定の産業の確立に関し13の規定の例による措置を執ることを希望するときは、その措置について承認を得るため締約国団に申請することができる。締約国団は、当該締約国と直ちに協議しなければならず、また、決定を下すに当つては、16に定める事項について考慮を払わなければならない。申し出られた措置に締約国団が同意したときは、当該締約国は、その措置を執るために必要な限度において、この協定の他の条項の該当の規定に基く義務を免除される。申し出られた措置が、この協定に附属する該当の譲許表に含まれる譲許の対象たる産品に影響を及ぼすものであるときは、18の規定が適用される。
23.このDの規定に基いて執られる措置は、20の規定に従わなければならない。

第十九条 特定の産品の輸入に対する緊急措置
1.
(a)締約国は、事情の予見されなかつた発展の結果及び自国がこの協定に基いて負う義務(関税譲許を含む。)の効果により、産品が、自国の領域内における同種の産品又は直接的競争産品の国内生産者に重大な損害を与え又は与えるおそれがあるような増加した数量で、及びそのような条件で、自国の領域内に輸入されているときは、その産品について、前記の損害を防止し又は救済するために必要な限度及び期間において、その義務の全部若しくは一部を停止し、又はその譲許を撤回し、若しくは修正することができる。
(b)特恵譲許の対象となつている産品が締約国の領域内に(a)に定める事情の下に輸入され、その結果、その特恵を受けているか又は受けていた他の締約国の領域内における同種の産品又は直接的競争産品の国内生産者に重大な損害を与え又は与えるおそれがある場合において、当該他の締約国の要請を受けたときは、輸入締約国は、当該産品について、前記の損害を防止し又は救済するために必要な限度及び期間において、該当の義務の全部若しくは一部を停止し、又は譲許を撤回し、若しくは修正することができる。
2.締約国は、1の規定に従つて措置を執るに先だち、提案する措置についてできる限り早目に書面により締約国団に通告しなければならず、また、自国と協議する機会を、締約国団及び当該産品の輸出国として実質的に利害関係を有する締約国に与えなければならない。特恵譲許について前記の通告を行うときは、その通告には、その措置を要請した締約国の名を掲げなければならない。遅延すれば回復しがたい損害を生ずるような急迫した事態においては、1の規定に基く措置は、事前の協議を行うことなく暫定的に執ることができる。ただし、その措置を執つた後直ちに協議を行うことを条件とする。
3.
(a)前記の措置について関係締約国間に合意が成立しなかつた場合にも、締約国は、希望するときは、その措置を執り、又は継続することができる。また、その措置が執られ、又は継続されるときは、それによつて影響を受ける締約国は、その措置が執られた後九十日以内に、かつ、締約国団が停止の通告書を受領した日から三十日の期間が経過した時に、その措置を執つている締約国の貿易に対し、又は1(b)に定める場合にはその措置を要請している締約国の貿易に対し、この協定に基く実質的に等価値の譲許その他の義務で締約国団が否認しないものの適用を停止することができる。
(b)(a)の規定にかかわらず、締約国は、事前の協議を行うことなく2の規定に基いて措置が執られ、かつ、その措置がその影響を受ける産品の国内生産者に対して自国の領域内において重大な損害を与え又は与えるおそれがある場合において、遅延すれば回復しがたい損害を生ずるおそれがあるときは、その措置が執られると同時に、及び協議の期間を通じて、損害を防止し又は救済するために必要な譲許その他の義務を停止することができる。

第二十条 一般的例外
この協定の規定は、締約国が次のいずれかの措置を採用すること又は実施することを妨げるものと解してはならない。ただし、それらの措置を、同様の条件の下にある諸国の間において任意の若しくは正当と認められない差別待遇の手段となるような方法で、又は国際貿易の偽装された制限となるような方法で、適用しないことを条件とする。
(a)公徳の保護のために必要な措置
(b)人、動物又は植物の生命又は健康の保護のために必要な措置
(c)金又は銀の輸入又は輸出に関する措置
(d)この協定の規定に反しない法令(税関行政に関する法令、第二条4及び第十七条の規定に基いて運営される独占の実施に関する法令、特許権、商標権及び著作権の保護に関する法令並びに詐欺的慣行の防止に関する法令を含む。)の遵守を確保するために必要な措置
(e)刑務所労働の産品に関する措置
(f)美術的、歴史的又は考古学的価値のある国宝の保護のために執られる措置
(g)有限天然資源の保存に関する措置。ただし、この措置が国内の生産又は消費に対する制限と関連して実施される場合に限る。
(h)締約国団に提出されて否認されなかつた基準に合致する政府間商品協定又は締約国団に提出されて否認されなかつた政府間商品協定のいずれかに基く義務に従つて執られる措置
(i)国内原料の価格が政府の安定計画の一部として国際価格より低位に保たれている期間中、国内の加工業に対してその原料の不可欠の数量を確保するために必要な国内原料の輸出に制限を課する措置。ただし、この制限は、国内産業の産品の輸出を増加するように、又は国内産業に与えられる保護を増大するように運用してはならず、また、無差別待遇に関するこの協定の規定から逸脱してはならない。
(j)一般的に又は地方的に供給が不足している産品の獲得又は分配のために不可欠の措置。ただし、このような措置は、すべての締約国が当該産品の国際的供給について衡平な取分を受ける権利を有するという原則に合致するものでなければならず、また、この協定の他の規定に反するこのような措置は、それを生ぜしめた条件が存在しなくなつたときは、直ちに終止しなければならない。締約国団は、千九百六十年六月三十日以前に、この(j)の規定の必要性について検討しなければならない。

第二十一条 安全保障のための例外
この協定のいかなる規定も、次のいずれかのことを定めるものと解してはならない。
(a)締約国に対し、発表すれば自国の安全保障上の重大な利益に反するとその締約国が認める情報の提供を要求すること。
(b)締約国が自国の安全保障上の重大な利益の保護のために必要であると認める次のいずれかの措置を執ることを妨げること。
 (ⅰ)核分裂性物質又はその生産原料である物質に関する措置
 (ⅱ)武器、弾薬及び軍需品の取引並びに軍事施設に供給するため直接又は間接に行なわれるその他の貨物及び原料の取引に関する措置
 (ⅲ)戦時その他の国際関係の緊急時に執る措置
(c)締約国が国際の平和及び安全の維持のため国際連合憲章に基く義務に従う措置を執ることを妨げること。

第二十二条 協議
1.各締約国は、この協定の運用に関して他の締約国が行う申立に対し好意的な考慮を払い、かつ、その申立に関する協議のため適当な機会を与えなければならない。
2.締約国団は、いずれかの締約国の要請を受けたときは、前項の規定に基く協議により満足しうる解決が得られなかつた事項について、いずれかの一又は二以上の締約国と協議することができる。

第二十三条 無効化又は侵害
1.締約国は、(a)他の締約国がこの協定に基く義務の履行を怠つた結果として、(b)他の締約国が、この協定の規定に抵触するかどうかを問わず、なんらかの措置を適用した結果として、又は(c)その他のなんらかの状態が存在する結果として、この協定に基き直接若しくは間接に自国に与えられた利益が無効にされ、若しくは侵害され、又はこの協定の目的の達成が妨げられていると認めるときは、その問題について満足しうる調整を行うため、関係があると認める他の締約国に対して書面により申立又は提案をすることができる。この申立又は提案を受けた締約国は、その申立又は提案に対して好意的な考慮を払わなければならない。
2.妥当な期間内に関係締約国間に満足しうる調整が行われなかつたとき、又は困難が前項(c)に掲げるものに該当するときは、その問題を締約国団に付託することができる。締約国団は、このようにして付託された問題を直ちに調査し、かつ、関係があると認める締約国に対して適当な勧告を行い、又はその問題について適当に決定を行わなければならない。締約国団は、必要と認めるときは、締約国、国際連合経済社会理事会及び適当な政府間機関と協議することができる。締約国団は、事態が重大であるためそのような措置が正当とされると認めるときは、締約国に対し、この協定に基く譲許その他の義務でその事態にかんがみて適当であると決定するものの他の締約国に対する適用の停止を許可することができる。当該他の締約国に対するいずれかの譲許その他の義務の適用が実際に停止されたときは、その締約国は、停止の措置が執られた後六十日以内に、この協定から脱退する意思を書面により締約国団の書記局長に通告することができ、この脱退は、同書記局長がその脱退通告書を受領した日の後六十日目に効力を生ずる。

第三部

第二十四条 適用地域―国境貿易―関税同盟及び自由貿易地域
1.この協定の規定は、締約国の本土関税地域及び第二十六条の規定に基いてこの協定が受諾され、又は第三十三条の規定に基いて若しくは暫定的適用に関する議定書に従つてこの協定が適用されている他の関税地域に適用する。これらの関税地域は、この協定の適用地域に関する場合に限り、それぞれ一締約国として取り扱うものとする。ただし、この項の規定は、単一の締約国が第二十六条の規定に基いてこの協定を受諾しており、又は第三十三条の規定に基いて若しくは暫定的適用に関する議定書に従つてこの協定を適用している二以上の関税地域の間になんらかの権利又は義務を発生させるものと解してはならない。
2.この協定の適用上、関税地域とは、当該地域とその他の地域との間の貿易の実質的な部分に対して独立の関税その他の通商規則を維持している地域をいう。
3.この協定の規定は、次のものを妨げるものと解してはならない。
(a)締約国が国境貿易を容易にするため隣接国に与える利益
(b)トリエステ自由地域の隣接国が同地域との貿易に与える利益。ただし、その利益が第二次世界戦争の結果締結された平和条約に抵触しないことを条件とする。
4.締約国は、任意の協定により、その協定の当事国間の経済の一層密接な統合を発展させて貿易の自由を増大することが望ましいことを認める。締約国は、また、関税同盟又は自由貿易地域の目的が、その構成領域間の貿易を容易にすることにあり、そのような領域と他の締約国との間の貿易に対する障害を引き上げることにはないことを認める。
5.よつて、この協定の規定は、締約国の領域の間で、関税同盟を組織し、若しくは自由貿易地域を設定し、又は関税同盟の組織若しくは自由貿易地域の設定のために必要な中間協定を締結することを妨げるものではない。ただし、次のことを条件とする。
(a)関税同盟又は関税同盟の組織のための中間協定に関しては、当該関税同盟の創設又は当該中間協定の締結の時にその同盟の構成国又はその協定の当事国でない締約国との貿易に適用される関税その他の通商規則は、全体として、当該関税同盟の組織又は当該中間協定の締結の前にその構成地域において適用されていた関税の全般的な水準及び通商規則よりそれぞれ高度なものであるか又は制限的なものであつてはならない。
(b)自由貿易地域又は自由貿易地域の設定のための中間協定に関しては、各構成地域において維持されている関税その他の通商規則で、その自由貿易地域の設定若しくはその中間協定の締結の時に、当該地域に含まれない締約国又は当該協定の当事国でない締約国の貿易に適用されるものは、自由貿易地域の設定又は中間協定の締結の前にそれらの構成地域に存在していた該当の関税その他の通商規則よりそれぞれ高度なものであるか又は制限的なものであつてはならない。
(c)(a)及び(b)に掲げる中間協定は、妥当な期間内に関税同盟を組織し、又は自由貿易地域を設定するための計画及び日程を含むものでなければならない。
6.5(a)の要件を満たすに当り、締約国が第二条の規定に反して税率を引き上げることを提案したときは、第二十八条に定める手続を適用する。補償的調整を決定するに当つては、関税同盟の他の構成国の対応する関税の引下げによつてすでに与えられた補償に対して妥当な考慮を払わなければならない。
7.
(a)関税同盟若しくは自由貿易地域又は関税同盟の組織のため若しくは自由貿易地域の設定のために締結される中間協定に参加することを決定する締約国は、その旨を直ちに締約国団に通告し、かつ、締約国団が適当と認める報告及び勧告を締約国に対して行うことができるようにその関税同盟又は自由貿易地域に関する情報を締約国団に提供しなければならない。
(b)締約国団は、5に掲げる中間協定に含まれる計画及び日程をその中間協定の当事国と協議して検討し、かつ、(a)の規定に従つて提供された情報に妥当な考慮を払つた後、その協定の当事国の意図する期間内に関税同盟が組織され若しくは自由貿易地域が設定される見込がないか又はその期間が妥当でないと認めたときは、その協定の当事国に対して勧告を行わなければならない。当事国は、その勧告に従つてその中間協定を修正する用意がないときは、それを維持し、又は実施してはならない。
(c)5(c)に掲げる計画又は日程の実質的な変更は、締約国団に通報しなければならない。締約国団は、その変更が関税同盟の組織又は自由貿易地域の設定を危くし、又は不当に遅延させるものであると認めるときは、関係締約国に対し、締約国団と協議するように要請することができる。
8.この協定の適用上、
(a)関税同盟とは、次のことのために単一の関税地域をもつて二以上の関税地域に替えるものをいう。
 (ⅰ)関税その他の制限的通商規則(第十一条、第十二条、第十三条、第十四条、第十五条及び第二十条の規定に基いて認められるもので必要とされるものを除く。)を同盟の構成地域間の実質上のすべての貿易について、又は少くともそれらの地域の原産の産品の実質上のすべての貿易について、廃止すること。
 (ⅱ)9の規定に従うことを条件として、同盟の各構成国が、実質的に同一の関税その他の通商規則をその同盟に含まれない地域の貿易に適用すること。
(b)自由貿易地域とは、関税その他の制限的通商規則(第十一条、第十二条、第十三条、第十四条、第十五条及び第二十条の規定に基いて認められるもので必要とされるものを除く。)がその構成地域の原産の産品の構成地域間における実質上のすべての貿易について廃止されている二以上の関税地域の集団をいう。
9.第一条2に掲げる特恵は、関税同盟の組織又は自由貿易地域の設定によつて影響を受けるものではないが、これによつて影響を受ける締約国との交渉によつて廃止し、又は調整することができる。影響を受ける締約国とのこの交渉の手続は、特に、8(a)(i)及び(b)の規定に合致するために必要とされる特恵の廃止に適用するものとする。
10.締約国団は、5から9までに定める要件に完全には合致しない提案を三分の二の多数によつて承認することができる。ただし、その提案は、この条の規定の意味における関税同盟の組織又は自由貿易地域の設定のためのものでなければならない。
11.締約国は、インド及びパキスタンの独立国としての確立の結果生ずる例外的な事態を考慮し、かつ、両国が長期にわたつて単一の経済単位を構成してきたことを認めるので、両国間の貿易関係が確定的な基礎の上に確立されるまでの間は、この協定の規定が、両国間の貿易に関する両国間の特別の取極の締結を妨げるものではないことに同意する。
12.各締約国は、自国の領域内の地域的な及び地方的な政府及び機関によるこの協定の規定の遵守を確保するため、執ることができる妥当な措置を講ずるものとする。

第二十五条 締約国の共同行動
1.締約国の代表者は、この協定の規定であつて、共同行動を伴うものを実施するため、並びに一般にこの協定の運用を容易にし、及びその目的を助長するため、随時会合しなければならない。この協定において、共同して行動する締約国を指すときはいつでも、締約国団という。
2.国際連合事務総長は、締約国団の第一回会合を招集するように要請される。その会合は、千九百四十八年三月一日以前に行うものとする。
3.各締約国は、締約国団のすべての会合において、一個の投票権を有する。
4.この協定に別段の定がある場合を除くほか、締約国団の決定は、投票の過半数によつて行うものとする。
5.締約国団は、この協定に規定されていない例外的な場合には、この協定により締約国に課せられる義務を免除することができる。ただし、その決定が投票の三分の二の多数により承認されること及びその多数には半数をこえる締約国を含むことを条件とする。締約国団は、また、このような表決方法により、次のことを行うことができる。
 (ⅰ)義務の免除のため他の投票の要件が適用されるべき例外的場合の若干の種類を定めること。
 (ⅱ)この5の規定の適用のため必要な基準を定めること。

第二十六条 受諾、効力発生及び登録
1.この協定の日付は、千九百四十七年十月三十日とする。
2.この協定は、千九百五十五年三月一日にこの協定の締約国であつたか、又はこの協定への加入のため交渉を行つていた締約国による受諾のため、開放される。
3.この協定は、ともに正文である英語及びフランス語の原本一通により作成され、国際連合事務総長に寄託されるものとし、同事務総長は、その認証謄本をすべての関係政府に送付するものとする。
4.この協定を受諾する各政府は、締約国団の書記局長に受諾書を寄託しなければならず、同書記局長は、各受諾書の寄託の日及びこの協定が6の規定に基いて効力を生ずる日をすべての関係政府に通報するものとする。
5.
(a)この協定を受諾する各政府は、その本土領域及びその政府が国際的責任を有する他の地域についてこの協定を受諾するものとする。ただし、受諾の時に締約国団の書記局長に通告される独立の関税地域は、除外する。
(b)(a)のただし書に基いて同書記局長に前記の通告を行つた政府は、自国の受諾が、除外された独立の関税地域のいずれかについて適用される旨をいつでも同書記局長に通告することができ、その通告は、同書記局長がそれを受領した日の後三十日目に効力を生ずる。
(c)いずれかの関税地域で締約国がそれについてこの協定を受諾しているものは、その対外通商関係及びこの協定で定める他の事項の処理について完全な自治権を保持しているか又は取得したときは、責任を有する締約国の当該事実を確証する宣言による提唱に基いて締約国とみなされる。
6.この協定は、附属書Hの該当の欄の百分率に従つて算定して、同附属書に掲げる政府の領域の対外貿易総額の八十五パーセントを占める政府により受諾書が締約国団の書記局長に寄託された日の後三十日目に、この協定を受諾している政府の間で効力を生ずる。その他の各政府の受諾書は、それが寄託された日の後三十日目に効力を生ずる。
7.国際連合は、この協定が効力を生じた後直ちに、この協定を登録する権限を有する。

第二十七条 譲許の停止又は撤回
締約国は、この協定に附属する該当の譲許表に定める譲許で、締約国とならなかつた政府又は締約国でなくなつた政府と直接に交渉した譲許であると決定するものについては、いつでもその全部又は一部を停止し、又は撤回することができる。この措置を執る締約国は、その旨を締約国団に通告しなければならず、また、要請を受けたときは、当該産品について実質的な利害関係を有する締約国と協議しなければならない。

第二十八条 譲許表の修正
1.締約国(以下この条において「申請締約国」という。)は、この協定に附属する該当の譲許表に含まれる譲許を、その譲許について直接に交渉した締約国及び主要供給国としての利害関係を有すると締約国団により決定された他の締約国(これらの二種類の締約国は、申請締約国とともに、以下この条において「主要関係締約国」という。)と交渉し、かつ、合意することにより、及びその譲許について実質的な利害関係を有すると締約国団が決定する他の締約国と協議することを条件として、千九百五十八年一月一日から始まる各三年の期間の最初の日(又は締約国団が投票の三分の二の多数決により定めるその他の期間の最初の日)に、修正し、又は撤回することができる。
2.前記の交渉及び合意(他の産品に関する補償的調整の規定を含むことができる。)において、関係締約国は、その交渉前におけるこの協定に定められた水準より貿易にとつて不利でない相互的かつ互恵的な譲許の一般的水準を維持するように努めなければならない。
3.
(a)千九百五十八年一月一日前に、又は1にいう期間の満了前に、主要関係締約国の間に合意が成立しなかつた場合においても、前記の譲許の修正又は撤回を申し出る締約国は、その修正又は撤回を行うことができ、この措置が執られた場合には、その譲許について直接に交渉した締約国、1の規定に基き主要供給国としての利害関係を有すると決定された締約国及び1の規定に基き実質的な利害関係を有すると決定された締約国は、申請締約国と直接に交渉した譲許のうちその措置と実質的に等価値の譲許の撤回を行なうことができる。ただし、その措置が執られた後六箇月以内に、その撤回について、締約国団が三十日の事前の通告書を受領していることを条件とする。
(b)主要関係締約国の間に合意が成立した場合において、1の規定に基き実質的な利害関係を有すると決定された他の締約国がそれに満足しないときは、当該他の締約国は、申請締約国と直接に交渉した譲許のうち実質的に等価値の譲許の撤回を行うことができる。ただし、前記の合意に基く措置が執られた後六箇月以内に、その撤回について、締約国団が三十日の事前の通告書を受領していることを条件とする。
4.締約国団は、特別の事情があるときはいつでも、次の手続及び条件に従うことを条件として、締約国が、この協定に附属する該当の譲許表に含まれる譲許の修正又は撤回のための交渉を開始することを承認することができる。
(a)この交渉及びそれに関連する協議は、1及び2の規定に従つて行わなければならない。
(b)交渉において主要関係締約国の間に合意が成立したときは、3(b)の規定が適用される。
(c)交渉を開始することが承認された日の後六十日の期間内に又は締約国団が定めるそれより長い期間内に主要関係締約国の間に合意が成立しなかつたときは、申請締約国は、その問題を締約国団に付託することができる。
(d)締約国団は、前記の問題を付託されたときは、直ちにその問題を審査し、かつ、解決を得るために締約国団の見解を主要関係締約国に提示しなければならない。解決が得られたときは、主要関係締約国の間に合意が成立した場合と同様に、3(b)の規定が適用される。主要関係締約国の間で解決が得られなかつたときは、申請締約国は、適当な補償を提案しなかつたことが不当であると締約国団により決定されない限り、当該譲許を修正し、又は撤回することができる。この措置が執られたときは、その譲許について直接に交渉した締約国、(a)の規定に基き主要供給国としての利害関係を有すると決定された締約国及び(a)の規定に基き実質的な利害関係を有すると決定された締約国は、申請締約国と直接に交渉した譲許のうちその措置と実質的に等価値の譲許の修正又は撤回を行うことができる。ただし、その措置が執られた後六箇月以内に、その修正又は撤回について、締約国団が三十日の事前の通告書を受領していることを条件とする。
5.締約国は、締約国団に通告することにより、千九百五十八年一月一日前に、又は1にいう期間の満了前に、該当の譲許表を、次の期間中、1から3までに定める手続に従つて修正する権利を留保することができる。いずれかの締約国がこの権利を留保するときは、他の締約国は、当該期間中、その締約国と直接に交渉した譲許を、同一の手続に従つて修正し、又は撤回する権利を有する。

第二十八条の二 関税交渉
1.締約国は、関税がしばしば貿易に対する著しい障害となること、したがつて、関税その他輸入及び輸出に関する課徴金の一般的水準の実質的な引下げ、特に、最少限度の数量の輸入をも阻害するような高関税の引下げをめざし、かつ、この協定の目的及び各締約国の異なる必要に妥当な考慮を払つて行われる相互的かつ互恵的な交渉が国際貿易の拡大のためきわめて重要であることを認める。よつて、締約国団は、このような交渉を随時主催することができる。
2.
(a)この条の規定に基く交渉は、個個の産品について、又は関係締約国が受諾する多角的手続を適用して、行うことができる。この交渉は、関税の引下げ、関税の現行水準におけるすえ置又は個個の関税若しくは特定の部類の産品に対する平均関税が特定の水準をこえてはならないという約束を目的とすることができる。低関税又は無税のすえ置は、原則として、高関税の引下げと等価値の譲許とみなされる。
(b)締約国は、多角的交渉の成功が、相互間で行う貿易が自国の対外貿易の相当の部分を占めるすべての締約国の参加に依存するものであることを認める。
3.交渉は、次のことを十分に考慮して行わなければならない。
(a)各締約国及び各産業の必要
(b)低開発国がその経済開発を助長するため関税による保護を一層弾力的に利用することの必要及びこれらの国が歳入上の目的で関税を維持することの特別の必要
(c)その他関連のあるすべての事情(関係締約国の財政上、開発上、戦略上その他の必要を含む。

第二十九条 この協定とハヴァナ憲章との関係
1.締約国は、自国の憲法上の手続に従つてハヴァナ憲章を受諾するまでの間、同憲章の第一章から第六章まで及び第九章の一般原則を行政上の権限の最大限度まで遵守することを約束する。
2.この協定の第二部は、ハヴァナ憲章が効力を生ずる日に停止する。
3.千九百四十九年九月三十日までにハヴァナ憲章が効力を生じなかつたときは、締約国は、この協定を改正し、補足し、又は維持すべきかどうかについて合意するため、千九百四十九年十二月三十一日前に会合しなければならない。
4.ハヴァナ憲章が効力を失つたときはいつでも、締約国は、この協定を補足し、改正し、又は維持すべきかどうかについて合意するため、その後できる限りすみやかに会合しなければならない。その合意が成立するまでの間、この協定の第二部の協定は、再び効力を生ずる。ただし、第二十三条の規定以外の第二部の規定は、必要な修正を加えて、当該時におけるハヴァナ憲章の本文と置き替えるものとし、また、締約国は、ハヴァナ憲章が効力を失つた時に自国を拘束していなかつた規定によつて拘束されることはない。
5.ハヴァナ憲章が効力を生ずる日までにいずれかの締約国が同憲章を受諾していないときは、締約国団は、この協定がその締約国と他の締約国との関係に影響を及ぼす限り、この協定を補足し、又は改正すべきかどうかについて、また、補足し、又は改正すべきであればその方法について合意するため、協議しなければならない。その合意が成立するまでの間、この協定の第二部の規定は、2の規定にかかわらず、前記の締約国と他の締約国との間に引き続き適用される。
6.国際貿易機関の加盟国たる締約国は、ハヴァナ憲章の規定の適用を妨げるようにこの協定を援用してはならない。国際貿易機関の加盟国ではない締約国に対するこの項の原則の適用については、前項の規定に基く合意によつて定めるものとする。

第三十条 改正
1.この協定に修正のための別段の定がある場合を除くほか、この協定の第一部の規定又は第二十九条若しくはこの条の規定の改正は、すべての締約国がそれを受諾した時に効力を生ずる。この協定のその他の改正は、締約国の三分の二がその改正を受託した時に、それを受諾した締約国について効力を生じ、その後は、他の各締約国についてその受諾の時に効力を生ずる。
2.この協定の改正を受諾する締約国は、締約国団が定める期間内に、国際連合事務総長に受諾書を寄託しなければならない。締約国団は、この条の規定に基いて効力を生じた改正が、締約国団の定める期間内にそれを受諾しなかつた締約国がこの協定から脱退しうる性格のものであるか、又は締約国団の同意を得て締約国としてとどまりうることができる性格のものであるかを決定することができる。

第三十一条 脱退
締約国は、第十八条12、第二十三条又は第三十条2の規定の適用を妨げることなく、この協定から脱退し、又は自国が国際的責任を有しかつ当該時に対外通商関係及びこの協定で定めるその他の事項の処理について完全な自治権を有する独立の関税地域のために各別に脱退することができる。脱退は、国際連合事務総長が脱退通告書を受領した日から六箇月が経過した時に効力を生ずる。

第三十二条 締約国
1.この協定の締約国とは、第二十六条若しくは第三十三条の規定に基いて又は暫定的適用に関する議定書に従つてこの協定の規定を適用している政府をいう。
2.第二十六条4の規定に従つてこの協定を受諾した締約国は、この協定が第二十六条6の規定に従つて効力を生じた後はいつでも、この協定を受諾しなかつた締約国が締約国でなくなることを決定することができる。

第三十三条 加入
この協定の当事国でない国の政府又は対外通商関係及びこの協定で定めるその他の事項の処理について完全な自治権を有する独立の関税地域のために行動する政府は、その政府自身のため、又は当該関税地域のために、その政府と締約国団との間で合意される条件によりこの協定に加入することができる。この条の規定に基く締約国団の決定は、締約国の三分の二の多数により行われる。

第三十四条 附属書
この協定の附属書は、この協定と不可分の一体をなす。

第三十五条 特定締約国間における協定の不適用
1.この協定又はこの協定の第二条の規定は、次の場合には、いずれかの締約国と他のいずれかの締約国との間には適用されないものとする。
(a)両締約国が相互間の関税交渉を開始しておらず、かつ、
(b)両締約国の一方が締約国となる時にそのいずれかの締約国がその適用に同意しない場合
2.締約国団は、締約国の要請を受けたときは、特定の場合におけるこの条の規定の運用を検討し、及び適当な勧告をすることができる。

第四部 貿易及び開発

第三十六条 原則及び目的
1.締約国は、
(a)この協定の基本的な目的がすべての締約国の生活水準の引上げ及び経済の漸進的開発を含むことを想起し、また、この目的の達成が低開発締約国にとつて特に緊急なものであることを考慮し、
(b)低開発締約国の輸出収入がこれらの締約国の経済開発において決定的な役割を果たすことができること並びにこの寄与の程度が低開発締約国により不可欠な輸入に対して支払われる価格、これらの締約国の輸出の数量及びこれらの輸出に対して支払われる価格にかかつていることを考慮し、
(c)低開発国における生活水準と他の国における生活水準との間に大きい格差があることに留意し、
(d)低開発締約国の経済開発を促進し、かつ、これらの国における生活水準の急速な引上げをもたらすため、個別行動及び共同行動が不可欠であることを認め、
(e)経済的及び社会的な発展を達成する手段としての国際貿易が、この条に定める目的に合致する規則及び手続並びにそのような規則及び手続に適合する措置によつて規律されるべきであることを認め、
(f)低開発締約国がその貿易及び開発を促進するための特別の措置を執ることを締約国団が認めることができることに留意して、次のとおり協定する。
2.低開発締約国の輸出収入の急速かつ持続的な増大が、必要である。
3.成長する国際貿易において低開発締約国がその経済開発上の必要に相応した取分を占めることを確保することを意図した積極的な努力が、必要である。
4.多くの低開発締約国が限られた範囲の一次産品の輸出に引き続き依存しているので、これらの産品の世界市場への進出のための一層有利な条件であつて受諾可能なものを可能な最大限度において設けることが必要であり、また、適当な場合にはいつでも、経済開発のための一層多くの資源をこれらの国に提供するために世界の貿易及び需要の拡大並びにこれらの国の実質的な輸出収入の不断のかつ着実な増大を可能にするように、これらの産品についての世界市場の条件の安定及び改善を意図した措置(特に、価格を安定した、衡平な、かつ、採算のとれるものにすることを意図した措置を含む。)を講ずることが必要である。
5.低開発締約国の経済の急速な拡大は、その経済構造の多様化及び一次産品の輸出に対する過度の依存の回避によつて容易にされる。したがつて、低開発締約国が輸出について特別の関心を現に有し又は将来有することがある加工品及び製品の有利な条件による市場への進出を可能な最大限度において増進することが、必要である。
6.低開発締約国における輸出収入その他の外国為替収入の慢性的な不足のため、貿易と開発のための資金上の援助との間には、重要な相互関係がある。したがつて、締約国団及び国際的な融資機関が、これらの低開発締約国によるその経済開発のための負担を軽減するために最も効果的に貢献することができるように、緊密かつ継続的な協力を行なうことが、必要である。
7.締約国団並びに低開発国の貿易及び経済開発に関連がある活動を行なつている他の政府間機関及び国際連合の諸機関が適切な協力を行なうことが、必要である。
8.先進締約国は、貿易交渉において行なつた関税その他低開発締約国の貿易に対する障害の軽減又は廃止に関する約束について相互主義を期待しない。
9.これらの原則及び目的を具体化するための措置を執ることは、締約国が個個に、及び共同して、目的意識をもつて努力すべき問題である。

第三十七条 約束
1.先進締約国は、可能な最大限度において、すなわち、やむを得ない理由(法的な理由を含む。)によつて不可能である場合を除くほか、次の規定を実施しなければならない。
(a)低開発締約国が輸出について特別の関心を現に有し又は将来有することがある産品についての障害(加工されていない産品と加工された産品との間に不当な差別を設けるような関税その他の制限を含む。)の軽減及び廃止に高度の優先権を与えること。
(b)低開発締約国が輸出について特別の関心を現に有し又は将来有することがある産品について関税又は関税以外の輸入障害を新設し又は強化することを差し控えること。
(c)全部又は大部分が低開発締約国の領域内で生産される一次産品(加工されているといないとを問わない。)の消費の増大を著しく阻害する財政措置で特にこれらの産品に適用されるものについて、
 (ⅰ)そのような財政措置を新たに執ることを差し控えること。
 (ⅱ)財政政策の調整の際に、そのような財政措置の軽減及び廃止に高度の優先権を与えること。
(d)低開発締約国の経済開発を促進し、かつ、これらの国における生活水準の急速な引上げをもたらすため、個別行動及び共同行動が不可欠であることを認め、
(e)経済的及び社会的な発展を達成する手段としての国際貿易が、この条に定める目的に合致する規則及び手続並びにそのような規則及び手続に適合する措置によつて規律されるべきであることを認め、
(f)低開発締約国がその貿易及び開発を促進するための特別の措置を執ることを締約国団が認めることができることに留意して、次のとおり協定する。
2.
(a)1(a)、(b)又は(c)のいずれかの規定が実施されていないと認められるときはいつでも、その問題は、当該規定を実施していない締約国又は他の関係締約国によつて締約国団に報告されなければならない。
(b)
 (ⅰ)締約国団は、いずれかの関係締約国から要請を受けたときは、この問題に関し、当該関係締約国及び他のすべての関係締約国と、第三十六条に定める目的を助長するためにすべての関係締約国にとつて満足な解決に到達することを目的として、協議しなければならない。この協議は、二国間協議を妨げるものではない。これらの協議においては、1(a)、(b)又は(c)の規定が実施されなかつた場合におけるその理由が検討されるものとする。
 (ⅱ)他の先進締約国と共同で行動することによつて1(a)、(b)又は(c)の規定の個個の締約国による実施が一層容易に達成される場合があるので、前記の協議は、適当な場合には、そのような行動を目的として行なうことができる。
 (ⅲ)締約国団による協議は、また、適当な場合には、第二十五条1に定めるこの協定の目的を助長するための共同行動についての合意を目的として行なうことができる。
3.先進締約国は、
(a)全部又は大部分が低開発締約国の領域内で生産される産品の再販売価格を政府が直接又は間接に決定する場合には、販売差益を衡平な水準に維持するため、あらゆる努力を払わなければならない。
(b)低開発締約国からの輸入の増進の可能性を増大させることを意図した他の措置を執ることを積極的に検討し、かつ、このため、適切な国際活動を行なうことに協力しなければならない。
(c)特定の問題に対処するためにこの協定によつて許されている他の措置を執ることを検討する場合には、低開発締約国の貿易上の利益を特に考慮しなければならず、また、これらの措置がこれらの締約国の重大な利益に影響を及ぼすようなものであるときは、これを執るに先だつて、可能なすべての建設的な救済措置を検討しなければならない。
4.低開発締約国は、第四部の規定の実施にあたり、過去における貿易の推移及び低開発締約国全体の貿易上の利害関係を考慮して、現在及び将来における自国の開発上、資金上及び貿易上の必要に合致する限りにおいて、他の低開発締約国の貿易上の利益のために適切な措置を執ることに同意する。
5.各締約国は、1から4までに規定する約束の実施にあたり、生ずることがある問題又は困難に関してこの協定の通常の手続による協議を行なう十分な機会を直ちに他の関係締約国に与えなければならない。

第三十八条 共同行動
1.締約国は、第三十六条に定める目的を助長するため、この協定の枠わく内で、又は適当な場合には他の態様で、共同して行動しなければならない。
2.特に、締約国団は、
(a)適当な場合には、低開発締約国が特別の関心を有する一次産品の世界市場への進出のための改善された条件であつて受諾可能なものを設けるため、並びにこれらの産品についての世界市場の条件の安定及び改善を意図した措置(これらの産品の輸出のための価格を安定した、衡平な、かつ、採算のとれるものにすることを意図した措置を含む。)を講ずるための行動(国際取極による行動を含む。)をしなければならない。
(b)貿易及び開発の政策の問題に関し、国際連合及びその諸機関(国際連合貿易開発会議の勧告に従つて設立される機関を含む。)と適切な協力を行なうように努めなければならない。
(c)個個の低開発締約国の開発の計画及び政策を分析すること並びに潜在的な輸出能力の開発を促進し、及びそのようにして開発された産業の産品の輸出市場への進出を容易にするための具体的な措置を講ずるために貿易と援助との関係を検討することに協力しなければならず、また、この点に関し、個個の低開発締約国の貿易と援助との関係の組織的研究であつて、潜在的な輸出能力、市場の見通し及びさらに必要となることがある行動を明確に分析することを目的とするものにおいて、各国政府及び国際機関(特に、経済開発のための資金上の援助に関して権限のある機関)と適切な協力を行なうように努めなければならない。
(d)低開発締約国の貿易の成長率を特に考慮しつつ世界貿易の推移を絶えず検討し、かつ、締約国に対し、その状況において適当と認められる勧告を行なわなければならない。
(e)各国の政策及び規則の国際的な調和及び調整により、生産、輸送及び市場取引に関する技術上及び商業上の基準の設定により、並びに貿易に関する情報の供給の増大及び市場調査の発達のための措置を通ずる輸出の促進によつて経済開発のために貿易を拡大することにつき、実行可能な方法を求めることに協力しなければならない。
(f)第三十六条に定める目的を助長し、かつ、この部の規定を実施するために必要な制度上の措置を講じなければならない。

(附属書は略)

   「外務省ホームページ」より

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

1850年(嘉永5)医師・蘭学者高野長英の命日詳細
1874年(明治7)評論家・イギリス文学者・翻訳家・詩人上田敏の誕生日詳細
1890年(明治23)「教育ニ関スル勅語(教育勅語)」が発布される詳細
1903年(明治36)小説家尾崎紅葉の命日(紅葉忌)詳細
1945年(昭和20)GHQが「教育及ビ教育関係官ノ調査、除外、認可ニ関スル件」を出す詳細
1999年(平成11)上信越自動車道の中郷IC~上越JCT間が開通、藤岡JCTから長野県長野市を経て上越JCT間が全通する詳細
2006年(平成18)劇作家木下順二の命日詳細
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 今日は、昭和時代の1981年(昭和56)に、都城IC~宮崎IC間の開通により、宮崎自動車道が全線開通した日です。
 宮崎自動車道(みやざきじどうしゃどう)は、宮崎県えびの市のえびのジャンクション (JCT) で九州自動車道から分岐し、同県宮崎市に至る、延長80.7kmの高速道路(高速自動車国道)です。1966年(昭和41)の国土開発幹線自動車道建設法の改正により、九州縦貫自動車道宮崎線が追加され、翌年には、高速自動車国道の路線を指定する政令の改正により、九州縦貫自動車道宮崎線が高速自動車国道に指定されました。
 1976年(昭和51)3月4日には、初めてえびのIC/JCT~高原ICが開通、1981年(昭和56)3月17日には、高原IC~都城IC間が延伸開通します。1981年(昭和56)10月29日に、都城IC~宮崎IC間の開通により全線開通し、2000年(平成12)には、清武JCTの開通により、東九州自動車道と接続しました。
 2005年(平成17)10月1日の日本道路公団民営化により、西日本高速道路株式会社へ継承されています。尚、法令による正式な路線名は、九州縦貫自動車道宮崎線とされてきました。

〇宮崎自動車道関係略年表

・1966年(昭和41)7月31日 国土開発幹線自動車道建設法の改正により九州縦貫自動車道宮崎線が追加される
・1967年(昭和42)11月22日 高速自動車国道の路線を指定する政令の改正により九州縦貫自動車道宮崎線が高速自動車国道に指定される
・1976年(昭和51)3月4日 えびのIC/JCT~高原ICが開通する
・1981年(昭和56)3月17日 高原IC~都城IC間が開通する
・1981年(昭和56)10月29日 都城IC~宮崎IC開通により全線開通する
・2000年(平成12)3月25日 清武JCT開通により東九州自動車道と接続する
・2005年(平成17)10月1日 日本道路公団民営化により西日本高速道路株式会社へ継承される
・2009年(平成21)3月31日 霧島SAの給油所が廃止される
・2011年(平成23)1月26日 霧島山新燃岳の噴火に伴い、高原IC~田野IC間(最大時は小林IC~田野IC間)が通行止めになる
・2011年(平成23)2月9日 全線が高速道路無料化社会実験の対象区間に指定される
・2013年(平成25)6月11日 国土交通省より、山之口SAにスマートインターチェンジの追加設置が許可される
・2013年(平成25)8月1日 一部区間において最高速度規制の引き上げれ、指定最高速度の80 km/h規制から高速自動車国道の法定最高速度である100 km/hに引き上げられた
・2014年(平成26)7月31日 霧島SAの給油所が営業を再開する
・2016年(平成28)9月24日 山之口SA内に山之口スマートICが供用開始する

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

1720年(享保5)水戸藩が『大日本史』250巻(享保本)を幕府へ献上する(新暦11月28日)詳細
1779年(安永8)第118代の天皇とされる後桃園天皇の命日(新暦12月6日)詳細
1815年(文化12)江戸幕府大老・彦根藩第15代藩主井伊直弼の誕生日(新暦11月29日)詳細
1890年(明治23)東京浅草に12階建ての凌雲閣が竣工する詳細
1935年(昭和10)映画監督・アニメーション演出家・プロデューサー・翻訳家高畑勲の誕生日詳細
1961年(昭和36)小説家・劇作家・評論家長与善郎の命日詳細
1976年(昭和51)酒田大火で、1,774棟が焼失する詳細
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 今日は、室町時代の1399年(応永6)に、大内義弘が足利義滿に反して堺で挙兵し、応永の乱が始まった日ですが、新暦では11月26日となります。
 応永の乱(おうえいのらん)は、有力な守護大内義弘が室町幕府に対して起こした反乱でした。大内義弘は6ヵ国(周防・長門・石見・豊前・紀伊・和泉)の守護を兼ね、対朝鮮貿易によって富を蓄え、守護大名の中で最大の勢力を誇って、室町幕府第三代将軍足利義満と対抗します。
 一方、南北朝合一に成功した義満は幕府権力の安定・絶対化を図ろうとして、有力守護への抑圧と服従を強要し、そのチャンスを狙っていました。1396年(応永6)の渋川満頼の九州探題就任以降、九州では動乱が生じており、義満は、義弘が九州へ赴いたのを好機ととらえ、挑発を開始します。
 その中で、九州での動乱平定後も義弘が容易に上洛せず、当時、義満と対立していた鎌倉公方足利満兼と結び対抗しました。10月13日に、義弘は軍勢を率いて和泉堺の浦に着き、義満の政治を批判、満兼の御教書を奉じ討伐の意志を明らかにします。
 これに対し、10月28日に、義満は義弘討伐を命じる治罰御教書を出して、応永の乱が始まり、11月8日に義満は馬廻2000余騎を率いて東寺に陣を構えました。11月14日に義満は八幡まで進み、管領畠山基国と前管領斯波義将が率いる主力3万騎が和泉へ発向し、義弘は評定を開き作戦を談じます。
 11月29日には、幕府軍が一斉に鬨の声をあげて堺への総攻撃を開始しましたが勝敗は決しませんでした。そこで、12月21日に、幕府軍は火攻めを計画して左義長(爆竹)を用意して道を整え、早朝に堺へ総攻撃を開始、大内義弘は討死し、弟弘茂は下り、乱は終結したものの、防長2ヵ国守護職は弘茂に安堵されています。
 翌年3月に、鎌倉公方満兼は伊豆三島神社に願文を奉献し、「小量をもって」幕府に二心を起こしたことを謝罪しました。これによって、大内氏の力をそぎ、守護大名に対する将軍権力が確立したとされています。

〇応永の乱関係略年表

<応永6年(1399年)>
・10月13日 大内義弘は軍勢を率いて和泉堺の浦に着き、家臣の平井新左衛門を入洛させる
・10月27日 足利義満は禅僧の絶海中津を使者として堺へ派遣する
・10月28日 足利義満は大内義弘討伐を命じる治罰御教書を出す(応永の乱の始まり)
・11月8日 足利義満は馬廻2000余騎を率いて東寺に陣を構える
・11月14日 足利義満は八幡まで進み、管領畠山基国と前管領斯波義将が率いる主力3万騎が和泉へ発向し、義弘は評定を開き作戦を談じる
・11月29日 幕府軍が一斉に鬨の声をあげて堺への総攻撃を開始するが勝敗は決せず
・12月21日 幕府軍は火攻めを計画して左義長(爆竹)を用意して道を整え、早朝に堺へ総攻撃を開始、大内義弘は討死し,弟弘茂は下り,乱は終結する

<応永7年(1400年)>
・3月 鎌倉公方足利満兼は伊豆三島神社に願文を奉献し、「小量をもって」幕府に二心を起こしたことを謝罪する

☆足利義満(あしかが よしみつ)とは?

 室町時代の室町幕府第3代将軍です。1358年(延文3/正平13年8月22日)に、室町幕府第2代将軍の父・足利義詮、母・紀良子の長男として、京都で生まれましたが、幼名は春王と言いました。
 1366年(正平21/貞治5)には、後光厳天皇から名字を義満と賜り、従五位下に叙せられます。1367年(貞治6/正平22)に父の死後10歳で家督を継ぎ、翌年に室町幕府第3代将軍に就任しました。
 管領細川頼之の補佐をうけ、1371年以降今川了俊に九州を統一させ、1378年(天授4/永和4)には、室町に新邸(花の御所)を造営して移住し、幕府の基礎を固めます。しかし、1379年(天授5/康暦元)には、細川頼之に帰国を命じ(康暦の政変)、斯波義将を管領としました。
 1390年(明徳元/元中7)の美濃の乱で土岐康行、翌年の明徳の乱で山名氏清を鎮圧して、強力な守護の勢力を弱める一方で、1392年(元中9/明徳3)に南北朝の合一を実現し、幕府権力を確立します。1394年(応永元)には、子の義持に将軍職をゆずって太政大臣となり、翌年出家しますが、実権は保持し続けました。
 一方で、五山制度を整備し、能楽も保護して、1397年(応永4)に北山に金閣を建て、北山殿と呼ばれるようになり、いわゆる北山文化を現出します。さらに、1399年(応永6)には、応永の乱で中国地方の雄大内義弘を滅ぼし、1401年(応永8)に明に入貢、勘合貿易を開いて、「日本国王」として冊封を受け、室町幕府の最盛期を作りました。
 しかし、1408年(応永15年5月6日)には、咳病を患って、49歳で京都の北山第に急逝します。

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

1860年(万延元)教育者・柔道家・講道館柔道の創始者嘉納治五郎の誕生日(新暦12月10日)詳細
1861年(文久元)江戸幕府が種痘所を西洋医学所と改称、教育・解剖・種痘の3科に分かれ西洋医学を講習する所となる詳細
1876年(明治9)萩の乱がおきる詳細
1882年(明治15)田鎖式速記の考案者・田鎖綱紀が東京で日本初の速記講習会を開催する(速記記念日)詳細
1891年(明治24)濃尾地震が起き、死者7,273人を出す詳細
1956年(昭和31)大阪府大阪市浪速区に現在の通天閣(二代目)が完成する詳細
1962年(昭和37)小説家・劇作家・評論家正宗白鳥の命日詳細
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 今日は、昭和時代前期の1928年(昭和3)に、早稲田大学が坪内逍遥を記念して「早稲田大学坪内博士記念演劇博物館」を開館させた日です。
 「早稲田大学坪内博士記念演劇博物館」(わせだだいがくつぼうちはかせきねんえんげきはくぶつかん)は、東京都新宿区の早稲田大学構内にある演劇に関する博物館です。昭和時代前期の1928年(昭和3)に、早稲田大学教授だった坪内逍遙が古稀(70歳)に達したのと、「シェークスピヤ全集」全40巻の翻訳が完成したのを記念して、各界有志の協賛により設立され、同年10月27日に開館しました。
 館内には、世界各地の演劇・映像の貴重な資料を揃えていて、錦絵48,000枚、舞台写真400,000枚、図書270,000冊、チラシ・プログラムなどの演劇上演資料80,000点、衣装・人形・書簡・原稿などの博物資料159,000点、その他貴重書、視聴覚資料など、百万点以上にもおよびます。建物自体も劇場を模した造りになっていて、3階が常設展示で、2階に「逍遙記念室」と、企画展示室があります。
 1987年(昭和62)に建物が新宿区有形文化財にも指定され、1965年(平成7)には、研究成果を発表する媒体として『演劇研究』(演劇博物館紀要)が発行開始されました。2002年(平成14)に21世紀COEプログラム、グローバルCOEプログラムなどの研究拠点にも選ばれ、2009年(平成21)には、共同利用・共同研究拠点に指定されています。

〇早稲田大学坪内博士記念演劇博物館関係略年表

・1928年(昭和3)10月27日 「早稲田大学坪内博士記念演劇博物館」が開館する
・1987年(昭和62) 演劇博物館の建物が新宿区有形文化財にも指定される
・1965年(平成7) 研究成果を発表する媒体として『演劇研究』(演劇博物館紀要)が発行開始される 
・2002年(平成14) 21世紀COEプログラム、グローバルCOEプログラムなどの研究拠点にも選ばれる
・2009年(平成21) 共同利用・共同研究拠点に指定される
・2018年(平成30) 建物が改築される
・2020年(平成32) エレベーターと自動ドアが設置される

☆坪内逍遥(つぼうち しょうよう)とは?

 明治時代から昭和時代前期に活躍した小説家・演劇評論家・劇作家・英文学者です。美濃国加茂郡太田宿(現在の岐阜県美濃加茂市)に、尾張藩代官所役人の父・坪内平右衛門と母・ミチの十人兄妹の末子として、役宅で生まれましたが、本名は勇蔵と言いました。
 明治維新に伴って、実家のある尾張国愛知郡笹島村へ一家で移ります。1876年(明治9)に上京し、東京開成学校へ入学、東京大学予備門を経て、東京大学文学部政治科へと進み、西洋文学に親しみました。
 1883年(明治16)に卒業後、東京専門学校(現在の早稲田大学)の講師(後に教授)となり、翌年にシェイクスピア著『ジュリアス・シーザー』の浄瑠璃風翻訳「該撒奇談 自由太刀余波鋭鋒」を出版します。1885年(明治18)には評論『小説神髄』を発表、小説『当世書生気質』(1885‐86年)を書いて、写実主義を提唱し、日本の近代文学の先駆者となりました。
 1890年(明治23)に東京専門学校に文学科を設け、翌年『早稲田文学』を創刊して、後進の育成にも努めます。また、演劇の改良を志して、戯曲『桐一葉』(1894‐95年)、『牧の方』(1896年)、『沓手鳥(ほととぎす)孤城落月』(1897年)などを発表し、俳優の育成にも尽力しました。
 一方で、『国語読本』の編集にも携わり、日露戦争後の1906年(明治39)には文芸協会を組織しています。その中で、シェークスピアの研究・翻訳を続け、全作品を完訳した『沙翁全集』全40冊(1928年)も刊行しました。
 このように、日本近代文学、演劇の発展史上に大きな功績を残しましたが、1935年(昭和10)2月28日に、静岡県熱海市において、75歳で亡くなっています。

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

記念日「文字・活字文化振興法」により制定された「文字・活字文化の日」です詳細
1876年(明治9)秋月の乱がおこる詳細
1903年(明治36)幸徳秋水と堺利彦が平民社を設立する詳細
1914年(大正3)詩人・俳人木下夕爾の誕生日詳細
1933年(昭和8)小説家半村良の誕生日詳細
1975年(昭和50)実業家・国文学者・俳人角川源義の命日詳細
1977年(昭和52)日本画家前田青邨の命日詳細
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