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 今日は、昭和時代前期の太平洋戦争下、1942年(昭和17)に、東条英機内閣によって、「戦時陸運ノ非常体制確立ニ関スル件」が閣議決定された日です。
 「戦時陸運ノ非常体制確立ニ関スル件」(せんじりくうんのひじょうたいせいかくりつにかんするけん)は、戦時下における政府の手による計画輸送体制を強化するため、国内における鉄道・自動車など各輸送手段を重視し、海上貨物を陸上輸送機関に転換するもので、戦時輸送を優先するために、旅客輸送を抑制するものでした。その目的は、内海航路の船舶輸送に携わる船を、国外に向けた軍隊輸送や資源輸送に割り振ると共に、国内では「陸運転嫁」と称して鉄道輸送を強化するものです。
 このため、鉄道は「五大産業(鉄鋼・アルミニウム・船舶・航空機)」に準じた主要産業とされました。具体策として、石炭輸送の確保を主眼とし、逐次鉄鋼その他の重要物資の海上輸送を陸上輸送に移して余剰の船舶を満州・中国大陸方面や南方方面からの輸送に充てるための5項目からなる要綱が定められ、その要綱の下に9項目からなる措置が定められます。
 しかし、この方策はいずれも計画通りには実行されず、1944年(昭和19)3月には、「決戦非常措置要綱」が閣議決定され、これに基づいて、不要不急の旅行が制限され、100km以上の旅行に対して警察署の証明書が必要となり、また乗車券の販売枚数割当等も行われるようになりました。
 以下に、「戦時陸運ノ非常体制確立ニ関スル件」を全文掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「戦時陸運ノ非常体制確立ニ関スル件」1942年(昭和17)10月6日閣議決定

第一 方針
船舶建造ノ遅延、海難其ノ他ノ事由ニ因ル海上輸送力ノ減退状勢ニ対応シ、且ツ今後ニ於ケル非常事態ノ生起ヲモ考慮シ、極力既定物資供給力ノ確保増強ヲ期スル為、既定方針ニ基キ極力造船ノ促進ヲ期スル外、戦時陸運ノ非常体制ヲ確立シ、以テ内地沿岸海上輸送ノ貨物ハ極力之ヲ陸上輸送ニ転移セシメントス、之ガ為左ノ緊急方策ヲ実施ス
尚本体制ノ確立実施ヲ契機トシ、全官民ノ戦時非常意識ニ基ク志気ノ昂揚徹底ヲ図リ、之ヲ全生産分野ニ活用シ、依テ以テ総合的戦力ノ培養増強ニ資セントス

第二 要領
一 差当リ石炭輸送確保ヲ主眼トシテ計画ヲ樹立シ、逐次銑鋼其ノ他重要物資ノ海上輸送ヲモ陸上輸送ニ転移セシム
二 所要貨物輸送力増強ノ為、旅客輸送ノ一大抑制ヲ断行スルハ勿論、既定諸計画ノ根本的改変ヲ行ウト共ニ、所要輸送施設ノ急速増強ヲ図ル
三 右ニ伴ヒ所要ノ資材、人員等ノ供出並ニ海陸一貫輸送ニ必須ナル港湾荷役力及小運送力ノ増強、其ノ他財政処置等ニ関シ必要ナル一切ノ行政的措置ヲ講ズ
四 本趣旨ニ即応シ、樺太及鮮満支ニ於ケル陸上輸送力強化ニ関シテモ同様ニ措置スルモノトス
五 右方策実施ニ伴ヒ生ズル余剰海上輸送力ハ、満支又ハ南方物資ノ輸送力増強ニ之ヲ振向ク

第三 措置
一 九州炭輸送ノ為、関門隧道通過石炭輸送力ヲ年間七五〇万屯程度ヲ目標トシテ増強ス
二 北海道炭輸送ニ付テハ、現有青函間貸車航送力ヲ最大限度ニ活用スルノ外、現ニ建造計画中ノ貨物航送船(二八〇〇屯級)四隻ヲ急速ニ竣工セシメ、年間二五〇万屯程度ヲ目標トシテ輸送力ヲ増強ス
三 表日本ノ海上危険ヲ避クルト共ニ、海上運航効率ノ昂上ヲ図ル為、可及的裏日本揚ゲノ石炭輸送ヲ増加シ(現在ノ月間一三万屯ヲ概ネ五〇万屯程度ニ引上ゲ)、且之ニ照応スル港湾荷役力及陸上輸送力ノ増強ヲ図ル
四 関門隧道複線工事ハ之ヲ概ネ十八年度中ニ繰上竣工セシメ、青函間貨車航送ハ真ニ必要隻数ヲ建造増加セシメ、且ツ之ニ要スル海陸連絡設備ノ急速整備ヲ行フ
五 其ノ他本方針ニヨル輸送状勢ノ変化ニ即応シ、輸送線区又ハ取扱駅ノ施設ニ対スル応急増強工事ノ施工、車両ノ増備又ハ改造、海陸ノ荷役力又ハ小運送ノ増強及石炭荷役設備ノ改変等ニ関シ緊急処置ス
六 樺太炭ニ付テハ、西海岸諸港ニ於ケル秋冬期ノ輸送難ニ対処スル為、泊恵線(一三〇粁)及真縫久春内連絡線(三〇粁)ノ急建設ヲ行ヒ、可及的大泊港ヨリ積出サシムル如ク措置ス
七 北支炭ニ付テハ、現在年間朝鮮向六〇万屯、満洲向六〇万屯、中支向七〇万屯海送中ナル処、之ヲ不取敢陸上輸送ニ転移セシムル如ク措置スルモノトス
八 北支炭ノ水洗励行、朝鮮向内地及樺太炭ノ可及的北支炭ヘノ振替等、荀クモ海上輸送力補填ニ必要ナル一切ノ措置ヲ講ズルモノトス
九 本計画ハ直チニ其ノ準備ニ着手シ、十一月中ヨリ逐次之ヲ実施スルト共ニ、本年度中ヲ以テ概ネ之ガ実施ニ関スル諸般ノ準備ヲ完了スル如ク措置スルモノトス

  「国立国会図書館リサーチ・ナビ」より

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