
「第三次日露協約(だいさんじにちろきょうやく)」は、全権大使は、ロシアはセルゲイ・サゾーノフ外相、日本は本野一郎在ロシア日本大使で、辛亥革命後の1911年(明治44)11月の外蒙古の独立という事態をきっかけに、内蒙古の西部をロシアが東部を日本がそれぞれ利益を分割することを協約したものでした。その背景には、アメリカなどの四国借款団が幣制改革、産業開発のために清朝に対して借款を申し入れたことにあり、アメリカの狙いは借款を通して満州に浸透しようとするものであったので、日露両国が提携して阻止しようとしたものとされます。
以下に、「第三次日露協約」の日本語版を全文掲載しておきますので、ご参照下さい。
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〇「日露協約」とは?
日露戦争(1904~05年)後、1907年(明治40)から1916年(大正5)までの4回にわたって、日本とロシアが英米の東アジア進出に対抗する目的で、締結した協約(公開協定と秘密協定からなる)です。1907年(明治40)7月30日に、第一次日露協約によって、公開協定では日露間及び両国と清国の間に結ばれた条約を尊重することと、清国の独立、門戸開放、機会均等の実現を掲げる一方で、秘密協定では日本の南満州、ロシアの北満州での利益範囲を協定しました。
次に、1910年(明治43)7月4日に、第二次日露協約によって、アメリカの南満州鉄道中立案(ノックス提案)に対抗して、満州の現状維持と鉄道利益確保に関する相互協力を約します。続いて、1912年(明治45)7月8日に、第三次日露協約によって、4国借款団の満州進出や辛亥革命などに対応して、内蒙古の西部をロシアが、東部を日本がそれぞれ利益を分割することを約しました。
さらに、1916年(大正5)7月3日に、第四次日露協約によって、第一次世界大戦における日露の関係強化と第三国の中国進出を防ぎ、戦争の場合の相互援助と単独不講和を協定します。これらは、アメリカやイギリスの中国進出に対応するために、領土保全・東アジアにおける両国の権益の相互承認などを決めたものでした。
いずれも、1917年(大正6)のロシア革命後、ソビエト政府が協定を公表し、破棄しています。
次に、1910年(明治43)7月4日に、第二次日露協約によって、アメリカの南満州鉄道中立案(ノックス提案)に対抗して、満州の現状維持と鉄道利益確保に関する相互協力を約します。続いて、1912年(明治45)7月8日に、第三次日露協約によって、4国借款団の満州進出や辛亥革命などに対応して、内蒙古の西部をロシアが、東部を日本がそれぞれ利益を分割することを約しました。
さらに、1916年(大正5)7月3日に、第四次日露協約によって、第一次世界大戦における日露の関係強化と第三国の中国進出を防ぎ、戦争の場合の相互援助と単独不講和を協定します。これらは、アメリカやイギリスの中国進出に対応するために、領土保全・東アジアにおける両国の権益の相互承認などを決めたものでした。
いずれも、1917年(大正6)のロシア革命後、ソビエト政府が協定を公表し、破棄しています。
☆「第三次日露協約」 (全文) 1912年(明治45)7月8日調印
明治四十五年一月十六日閣議決定
帝国政府ハ曩ニ露国政府トノ間ニ南北満洲ニ於ケル両国ノ勢力範囲ヲ画定シ第一回日露協約祕密協約追加約款ヲ以テ之カ分界線ヲ定メタル処該分界線ハ托羅河ト東経百二十二度トノ交叉點迄ニ止マリテ其以西ニ及ハサルヲ以テ帝国ノ勢力カ漸次西方ニ拡大シツツアル今日ニ於テハ早キニ及ンテ該地点以西ノ分界線ヲ協定シ置カサルトキハ遂ニ露国トノ間ニ意外ノ紛争ヲ啓クニ至ルナキヲ保スルコト能ハス帝国政府ハ又第一回日露協約祕密協約第三条ニ依リ外蒙古ニ於ケル露国ノ特殊利益ヲ承認シタリト雖モ内蒙古ニ関シテハ未タ何等ノ協定ヲナシタルコトナキ次第ナル処内蒙古ハ我勢力範囲タル南満州ト最密接ナル関係ヲ有スル地域ナルヲ以テ適当ノ時機ニ於テ日露両国間ニ右ニ関スル協定ヲ遂ケ置クコト帝国将来ノ発展ノ為将又両国永遠ノ親交ノ為得策ナルノミナラス清国今回ノ事変
ノ為蒙古問題ノ一生面ヲ開カントスル今日ニ於テハ此際ヲ以テ内蒙古ニ関スル何等ノ協定ヲナシ置クコト最時機ヲ得タルモノナリト思考ス依テ本大臣ハ過般在露本野大使ニ対シ大要右ノ趣ヲ電報シ別紙甲号ノ通之ニ関スル同大使ノ意見ヲ徴シタル処今回同大使ヨリ別紙乙号ノ通意見ヲ回電シ来レリ
然ルニ一方蒙古問題ハ前記本大臣ノ電訓発送後間益々世間ノ耳目ヲ惹キ露国政府ハ最近別紙丙号ノ通右ニ関スル公式宣明書ヲ発表スルニ至リタル処露国政府ハ右宣明書ニ於テ蒙古ニ対スル同国ノ特種関係ヲ説述スルニ方リ右関係ノ主張ヲ外蒙古ニ限ラサルヤノ嫌アルヲ以テ若シ帝国政府ニ於テ之ヲ默過スルトキハ遂ニ露国ヲシテ前記秘密協約第三条ノ規定アルニ拘ラス其特殊関係ヲ有スル地域ヲ全蒙古ニ拡張スルノ因ヲ啓カシムルノ虞アリ従テ帝国政府ニ於テハ此際右宣明書ニ記載セル蒙古ノ文字ノ意義ニ関シ同国政府ニ問合ヲナスコト必要ナリト思惟スルヲ以テ其機ヲ以テ本野大使ヲシテ南北満洲分界線延長ノ件並ニ内蒙古ニ関スル協定ヲナスノ件ニ付公然トナク露国政府ノ意向ヲ叩キ以テ右両件ニ関スル素地ヲ作ラシムルコト適当ナルヘシト思考ス右ノ場合ニ於テ露国政府ヨリ本野大使ノ想像スルカ如ク満洲問題ノ根本的解決ニ対スル我決心ヲ聞カンコトヲ求ムルコトナキヲ保セサル処帝国政府ノ満洲ニ対スル方針ハ既ニ確定シ居リ適当ノ時機ニ至ラハ該問題ニ相当解決ヲ加フルノ必要アルコトハ固ヨリ論ナキ所ナルヲ以テ本野大使ニ於テ露国政府ト交涉ノ結果若シ之ニ対スル我決心ヲ表示スルコト必要ナルヲ認ムルトキハ同大使ヲシテ露国政府ニ対シ帝国政府カ適当ノ時機ニ至リ満洲問題ノ相当解決ヲナスコトニ対シ敢テ異存ナキ旨ヲ內密ニ説示セシメ之ト同時ニ解決ノ方法及実行ノ時期ハ最モ周密ナル考慮ヲ要スル事項ナルヲ以テ之ニ関シテハ日露両国政府間ニ於テ篤ト協議ヲ遂クルノ必要アル旨ヲ説明セシムルコトニ決定シ置キタシ尤モ前記分界線延長ノ件及内蒙古ニ関スル協定ヲナスノ件ニ付露国政府ニ開談スルトナスモ同国政府ニ於テ果シテ之ニ同意ヲ表スヘキヤ否ヤ固ヨリ之ヲ予見スルヲ得サル次第ナリト雖モ若シ萬一我目的ヲ達スルコト能ハストスルモ之ニ依リ帝国政府ノ意向ハ露国政府ノ了解スル処トナリ将来ノ為極メテ有利ナル結果ヲ生スヘシト思考スルヲ以テ此際露国政府ノ宣明書ニ関シ問合ヲナスヲ機トシ兎ニ角本野大使ヲシテ右ノ趣旨ニ基キ前記ノ両件ニ関シ最内密ニ露国政府ノ意向ヲ叩カシムルコトニ決定シタシ
(甲号)
明治四十五年一月十日本省発電
內田外務大臣
在露
本野全権大使
第五号 極秘
日露秘密協約追加約款ニ依リ定メラレタル南北満洲ノ分界線ハ托羅河ト東経百二十二度トノ交叉点ニ止マリ其以西ニ及ハサルコト並ニ帝国政府カ同協約第三条ニ依リ外蒙古ニ於ケル露国ノ特殊利益ヲ承認シタリト雖内蒙古ニ対スル日露両国ノ利害ニ付キテハ何等ノ規定ヲ設ケ居ラサルコトハ御熟知ノ通リナリ然ルニ日露両国ニ於テ適当ノ時機ヲ以テ東経百二十二度以西ノ分界線ヲ協定 {前1文字空白ママ}且内蒙古ニ於ケル両国ノ勢力範囲ヲ画シ置クハ将来ニ於ケル一切ノ誤解ヲ根絕シ両国永遠ノ親交ヲ計ル為最モ望マシキ義ト思考セラル而シテ本大臣ノ私見ニ依レハ日露両国間ニ右ノ協定ヲ遂クルハ此際ヲ以テ最モ適当トナスヤニ認メラルルノミナラス客年十月二十四日附機密第三七号御報吿ノ露国総理大臣ノ内話ニ徴スレハ右目的ヲ達スルコト必スシモ困難ナラサルヤニ思惟セラル就テハ此際我ヨリ以上ノ趣旨ヲ露国政府ニ申入レ例ヘハ東経百二十二度以西ニ付テハ托羅河ヲ遡リテ興安嶺分水嶺ニ到リ同河及分水嶺ヲ以テ南北満洲分界線ノ延長トナシ又内蒙古ニ付テハ張家口ヨリ庫倫ニ達スル大道ヲ界トシテ内蒙古ヲ東西ニ両分シ東部ヲ我勢力範囲トシ西部ヲ露国ノ勢力範囲トナスカ如キ案ヲ同政府ニ提出シ急速ニ協定ヲ了スルコトヲ得サルヘキヤ右ハ本大臣一個ノ私見ニ属シ未タ閣僚ニモ諮リタルコトナキ次第ナリト雖先ツ之ニ対スル貴官限ノ御意見承知致シタシ何分ノ義電報ヲ乞フ
(乙号)
明治四十五年一月十三日本省着電
本野全権大使
内田外務大臣
第八号極秘
貴電第五号ニ関シ日露両国カ適当ノ時機ニ於テ御来示ノ如キ協定ヲ為スコトハ素ヨリ望マシキ義ナルモ此際右樣ノ協定ヲ遂クルコトヲ適当ト為スヤ否ヤハ慎重ニ考量スルヲ要スル点ナルヘシ満洲問題ニ関シ露国総理大臣及外務当局者ト数次会談ノ結果本官ハ両者ノ意見ニ多少ノ逕庭アルコトヲ認メ居ルニ付本官ニ於テ尚露国当局者ト意見交換ヲ為シタル上ニ非ラサレハ果シテ我方ノ希望ノ通此際容易ニ右樣ノ協定ヲ遂ケ得ヘキヤ的確ノ見込付カス尚又露国総理大臣ノ対清意見ハ客年機密第三七号拙信ヲ以テ申進シタル通余程進ミ居リテ機会タニアラハ日露両国協議ノ上満洲蒙古分割ヲモ断行シタキ鋒鋩ヲ示シ居ルヲ以テ若シ仮ニ本官ヨリ御来示ノ如キ協定談ヲ持出スニ於テハ先方ハ必然右分割問題ニ言及スヘシト思ハルルニ付テハ此際右協定談ヲ始ムルヲ以テ時宜ニ適スルモノトスルモ我方ニ於テハ先方ヨリ右根本問題ヲ提起シタル場合ニ躊躇ナク返答シ得ル丈ノ覺悟無カルヘカラスト確信ス帝國政府ニ於テハ淸國時局ノ發展如何ニ依リテハ日露協約ノ趣旨ニ依リ此ノ機ニ乘シ滿洲問題ノ根本的解決ヲ計ルノ御決心アルヤ否ヤ縱シ未タ廟議ハ確定スルニ至ラストスルモ尠クトモ閣下限リニ於テハ充分踏込ミ対満終局政策ヲ決行スルノ御意見ナルヤ若シ然ラハ御来示ノ提案ニ関シ露国当局者ト意見交換ヲ為スモ可ナルヘケレトモ若シ然ラサルニ於テハ此際本件談判ノ開始ハ恐ラク得策ニアラサルヘシ何トナレハ一方ニ於テハ露国ノ疑惑ヲ招クノ虞アリ他方ニ於テ本件ニシテ万一外間ニ洩ルルコトアラムカ清国ハ勿論列国ノ嫌疑ヲ被リ意外ノ不利ヲ釀スヤモ計リ難キヲ以テナリ
右ノ次第ニ付本官ノ所見ニ依レハ清国今回ノ事変ヲ利用シ満洲問題ヲ根本的ニ解決スルノ御決心ナキ限ハ内蒙古ニ於ケル勢力範囲区画ニ関スル談判ヲ開始セサル方可然ト確信ス
(丙号)
明治四十五年一月十二日本省着電
本野大使
内田外務大臣
第四号
露国外務省ハ蒙古問題ニ関シ一月十一日大要左ノ通リ公報ヲ発表セリ
蒙古人カ庫倫ニ於テ独立ヲ宣言シ露国ニ向テ支持ヲ求メ来ルヤ露国政府ハ蒙古人ニ対シ平穩ニ行動シ清国ト妥協ノ途ヲ見出スヘキ旨忠吿ヲ為シ又在庫倫露国領事ハ清国ノ電信線、銀行及官憲保護ノ為尽力スル所アリタリ其後清国政府及蒙古間ニ談判開始ノ曉ニ於テ仲裁ノ労ヲ取ラレ度旨双方ヨリ依頼セラレタルヲ以テ露国政府ハ之ニ応スルコトニ決シタリ而シテ両者ノ間ノ協商ハ蒙古カ其ノ固有ノ制度ヲ保持スルノ目的ヲ達スルヲ得テ初テ成立スヘキモノナルト認メシヲ以テ露国政府ハ清国人ヲシテ之ヲ尊重セシムルヲ要ストノ見地ヨリ清国政府カ蒙古ニ
一、清国行政ヲ設定シ
二、清国正規{前2文字セイキとルビ}軍ヲ置キ
三、清国人ヲ移住セシムルコト
ハ蒙古人ノ権利ヲ無視シタルモノト蒙古人ニ於テ認識シ居ル事情ヲ顧慮シ清国ノ仲裁依頼ニ対スル回答ニ於テ前記三点ハ両者間協定成立ノ基礎タルヘキコトニ関シ清国政府ノ注意ヲ喚起シタリ尚露国政府ハ蒙古鎮静ノ為ニハ是非共蒙古人ヲシテ蒙古発達ノ為ニスル措置カ露淸両国政府ノ均シク是認スル所ニシテ蒙古問題ニ関シテハ露淸両国間ニ何等意見ノ相違ナキコトヲ会得セシムルヲ要スト認ムルモノナリ故ニ蒙古ノ有ラユル発達ノ為メ露国カ援助ヲ与フルコトハ露清及蒙古ノ利益ニ適合スルモノニシテ之レ露国カ仲裁ノ依頼ニ応シタル所以ナリ露国政府ハ在清露国代理公使ヲ経テ前記ノ趣旨ヲ清国政府ニ通知シ若シ清国ニシテ此趣旨ヲ容ルルニ於テハ露国外交官ハ清蒙間ノ協商ニ付斡旋ノ労ヲ取リ蒙古ヲシテ其義務ヲ果サシムル為尽力スヘキ旨通告セリ露国ハ淸国内ノ事変ニ干渉スルヲ欲セス又蒙古侵略ノ野心ヲ有スルモノニアラスト雖モ露国ノ利益ヲ害スル虞アル国境地方ノ秩序ノ紊乱ハ露国ノ好マサル処ナリ是レ本件仲裁ヲ承諾シタル所以ナリ然リト雖モ露国ハ蒙古ニ於テ大ナル利害関係ヲ有スルヲ以テ事実上蒙古ニ設立セラレタル政府ヲ無視スルコト能ハサルニ付蒙古カ清国トノ関係ヲ絶ツ場合ニハ蒙古政府ト事務上ノ関係ヲ開始スルノ止ムヲ得サルニ至ルヘシ
明治四十五年六月二十五日閣議ニテ内示済
英仏両国政府へ対スル内示案
六月二十六日協定案訳文ト共ニ本件ヲ併セ内田大臣ヨリ上奏
千九百〇七年七月三十日ノ日露秘密協約追加約款ニ定メタル満洲ニ於ケル日露両国利益地域ノ分界線ハ托羅河ト「グリニッチ」東経百二十二度トノ交叉点ニテ止マリ其以西ノ地方ハ当時ノ協定ノ範囲外ニ置カレタリ又外蒙古ニ於ケル露国ノ特殊利益ハ前記秘密協約第三条ニ依リテ承認セラレタリト雖一面満洲ト毘連シ他面外蒙古ト接壞セル地方タル内蒙古ニ於ケル日露両国ノ利益ヲ相互的ニ承認スルコトニ関シテハ何等ノ規定ヲ見サリシコトモ亦注目スヘキ点ナリトス
日本国政府及露西亜国政府ハ前記ノ事実ニ顧ミ又現存協約中ニハ何等前記地方ニ関スル規定ヲ缺ケルモ両国ノ利益互ニ相接触セル該地方ニ於ケル政治上及経済上ノ趨勢ニ鑑ミ前記地方ニ於ケル各自ノ利益地域ニ関シ協定ヲ遂ケ疑惧及誤解ヲ予防シテ両帝国間ノ関係ニ完全ナル康寧ト信頼トヲ確保シ以テ極東平和ノ堅固ニ益々資スル所アラシメンカ為過般来意見ノ交換ヲ行ヒタリ
日本国政府及露西亜国政府ハ千九百〇七年七月三十日及千九百十年七月四日ノ各協約ヲ実行シテ以来其成果ノ良好ナリシニ鑑ミ此等ノ協約ヲ追補スルハ即チ本問題ニ関スル両国政府ノ希望ヲ満タス所以ナルヲ認ムルニ於テ其所見ヲ一ニセリ
幸ニシテ両国政府ハ本問題ニ関シ協定ニ達スルヲ得前記地方ニ於ケル各自ノ利益地域ヲ画定セル新秘密協約ノ作成ヲ見ルニ至レリ新協約ハ從前ノ協約ヲ補足セントスルモノニシテ従前ノ協約ト同樣ニ両締約国善隣ノ関係ヲ鞏固ナラシムヘク従テ全局ノ平和及安寧ノ確保ニ資スル所アルヘシ
※帝国政府ハ従前ノ協約カ千九百五年ノ日英協約ニ対シタル関係ト均ク新協約モ亦千九百十一年ノ日英協約ノ目的ヲ害スルカ如キ何等ノ事項ヲ包含セサルコトヲ確信ス
然リト雖日英同盟国間ニ存在スル最モ親善ナル情誼ニ顧ミ且前例ヲ踏襲シテ帝国政府ハ茲ニ新協約案ヲ英国政府ニ内告スルト共ニ英国政府ニ於テ本協約カ国際永遠ノ安固及康寧ニ新保障ヲ加フルモノタルコトヲ認ムヘキヲ疑ハサルナリ
(仏国政府ヘノ分ハ※印以下ヲ左ノ通改ム)
帝国政府ハ日仏両国間ニ存在スル親善ノ関係ニ顧ミ且前例ヲ踏襲シテ茲ニ新協約案ヲ仏国政府ニ内告スルト共ニ仏国政府ニ於テ本協約カ国際永遠ノ安固及康寧ニ新保障ヲ加フルモノタルコトヲ認ムヘキヲ疑ハサルナリ
日本帝国政府及露西亜帝国政府ハ千九百七年七月三十日即露暦七月十七日及千九百十年七月四日即露暦六月二十一日両国政府間ニ締結セラレタル秘密協約ノ条項ヲ確定補足シ以テ満洲及蒙古ニ於ケル各自ノ特殊利益ニ関シ誤解ノ原因ヲ一切除去セムコトヲ希望シ之カ為前記千九百七年七月三十日即露暦七月十七日ノ協約ノ追加約款ニ定メタル分界線ヲ延長シ且内蒙古ニ於ケル各自ノ特殊利益地域ヲ定ムルコトニ決シ左ノ条項ヲ協定セリ
第一条 前記分界線ハ托羅河ト「グリニッチ」東経二十二度トノ交叉点ヨリ出テ「ウルンチュルン」河及「ムシシヤ」河ノ流ニ依リ「ムシシヤ」河ト「ハルダイタイ」河トノ分水線ニ至リ是ヨリ黑龍江省ト内蒙古トノ境界線ニ依リ内外蒙古境界線ノ終端ニ達ス
第二条 内蒙古ハ北京ノ経度(「グリニッチ」東経百十六度二十七分)ヲ以テ之ヲ東西ノ二部ニ分割ス日本帝国政府ハ前記経度ヨリ西方ノ内蒙古ニ於ケル露西亜国ノ特殊利益ヲ承認シ且之ヲ尊重スルコトヲ約シ露西亜帝国政府ハ該経度ヨリ東方ノ内蒙古ニ於ケル日本国ノ特殊利益ヲ承認シ且之ヲ尊重スルコトヲ約ス
第三条 本協約ハ両締約国ニ於テ厳ニ秘密ニ付スヘシ
右証拠トシテ下名ハ本件ニ付各其ノ政府ヨリ正当ノ委任ヲ受ケ本協約ニ署名調印ス
「日本外交年表竝主要文書 上巻」外務省編より