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 今日は、昭和時代前期の太平洋戦争下の1944年(昭和19)に、小磯国昭内閣により、「老幼者妊婦等ノ疎開実施要綱」が閣議決定された日です。
 「老幼者妊婦等ノ疎開実施要綱(ろうようしゃにんぷとうのそかいじっしようこう)」は、戦局の悪化に伴う都市部の空襲に備え、老人、子供、妊婦等を地方疎開させ、人員の被害を最小限に止めるための措置でした。そのために、①国民学枚初等科の児童、②乳幼児、③妊婦(妊産婦手帳を有する者)、④老者(年齢65歳を超える者)、⑤長期に亘る病者又は不具癈疾者にして介護を要する者に対し、移転奨励金を支給するとしています。
 また、輸送および荷造の便宜を図り、疎開先の受入措置に配慮するなどとしました。一方で、残留者の生活措置として、合宿施設を手当てするとし、各職域に疎開手当の支給を指導するともしています。これによって、人員疎開がいっそう促進されました。
 以下に、「老幼者妊婦等ノ疎開実施要綱」を全文掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「老幼者妊婦等ノ疎開実施要綱」 1944年(昭和19)11月7日閣議決定

老幼者妊婦等ノ疎開実施要綱 昭和19年11月7日 閣議決定

現下ノ情勢ニ鑑ミ特ニ老幼者妊婦等ノ疎開ヲ容易ナラシムル為左ノ各項ニ依リ措置スルモノトス

第一 移転奨励金ノ支給
左ニ掲グル者ノ地方転出ヲ容易ナラシムル如ク従来ノ移転奨励金ノ支給方法ヲ変更ス但シ国民学校初等科ノ児童ニ在リテハ第二学年以下ノ児童ニ対シテノミ移転奨励金ヲ支給ス
一、国民学枚初等科ノ児童
二、乳幼児
三、妊婦(妊産婦手帳ヲ有スル者)
四、老者(年齢六十五歳ヲ超ユル者)
五、長期ニ亘ル病者又ハ不具癈疾者ニシテ介護ヲ要スルモノ

第二 輸送及荷造
一、鉄道輸送ニ付テハ特ニ老幼者妊婦等ノ疎開ニ関シ便宜ヲ供与スルモノトス
二、小運送及荷造ニ付テハ学徒、輸送挺身隊等ノ協力ヲ強化ス
三、荷造用資材ニ付テハ極力手持資材ノ活用ヲ図ルト共ニ必要ナル資材ヲ確保スル如ク措置スルモノトス

第三 受入措置
疎開先ニ於テハ老幼者妊婦等ノ疎開者ノ食糧其ノ他生活必需品ノ供給ヲ円滑ナラシムル如ク配意スルモノトス

第四 残留者ノ生活措置
一、家族ヲ疎開シ残留スル者ニ対シテハ各職域ニ於テ合宿施設ヲ整備セシムルモノトス
二、合宿施設ニ充ツベキ建物ノ確保ニ付斡旋ヲ図ルモノトス
三、合宿施設ニ対シテハ食糧其ノ他生活必需品ノ供給ヲ円滑ナラシムル如ク措置スルモノトス

第五 疎開手当ノ支給
現行疎開手当ノ支給ヲ各職域ニ普及セシムル如ク指導ス

備考
国民学校初等科第三学年以上ノ児童ニ付縁故疎開ヲ勧奨スルノ方針ハ従来通リ変更ナキモノトス

    「国立国会図書館リサーチ・ナビ」より

〇地方疎開とは?

 一般的には、都市部に集中する施設、人員などを地方各地に分散させることですが、太平洋戦争の末期には、大都市の防衛強化のために一連の強制的疎開政策が実施されました。
 これによって、空襲や火災などの被害を少なくするため、官庁、軍需工場、民間企業、住宅家屋、人員などを強制的に比較的安全な地方へ移動させることとなります。
 まず、1943年(昭和18)9月28日に官庁の地方疎開が閣議決定され、同年10月31日の「防空法」再改正で、民防空の定義に「分散疎開」を追加、生産疎開(工場疎開)、建物疎開、人の疎開等の条文が加えられました。そして、同年12月21日に「都市疎開実施要綱」が閣議決定され、具体化されていきます。
 翌年1月26日に、内務省が「改正防空法」により、東京、名古屋の指定区域内の建築物に対して疎開命令(指定区域内の建築物の強制取壊し)を出し、3月3日には、「決戦非常措置要綱」に基づき、疎開促進の要綱が閣議決定され、軍事施設、工場、鉄道、重要道路の周辺や密集地域の建物が取り壊され、防火帯が造られていきました。
 さらに、同年6月30日に、「学童疎開促進要綱」が閣議決定され、集団的な学童疎開が促進され、7月20日には、文部省が集団的な学童疎開の範囲を東京のほか12都市に拡大します。11月7日には、「老幼者、妊婦等の疎開実施要綱」も閣議決定され、人員疎開が促進されて、1945年(昭和20)までに、約1,000万人の住民が地方疎開しました。

☆太平洋戦争下の地方疎開に関する略年表

 <1943年(昭和18)>
・9月28日 「官庁ノ地方疎開ニ関スル件」が閣議決定され、官庁の地方疎開が決められる
 ・10月12日 「官庁ノ第一次地方疎開実施ニ関スル件」が閣議決定され、官庁の地方疎開が具体化される
 ・10月31日 「防空法」再改正で、民防空の定義に「分散疎開」を追加、生産疎開、建物疎開、人の疎開等の条文が加えられる
 ・11月13日 東京都、帝都重要地帯疎開計画が発表される(防火地帯造成、重要工場付近の建物疎開、主要駅前広場造成など)
・12月21日 「都市疎開実施要綱」が閣議決定される

<1944年(昭和19)>
・1月26日 内務省が「改正防空法」により、東京、名古屋に初の疎開を命令する(指定区域内の建築物の強制取壊し)
・2月8日 横浜、川崎に防空地帯が指定される
 ・2月25日 「決戦非常措置要綱」(3月1日実施)が閣議決定される(地方への疎開の推進などの空襲対策など)
・3月3日 「決戦非常措置要綱」に基づき国民学校学童給食、空地利用、疎開促進の3要綱を閣議決定する
 ・4月10日 防空総本部が「京浜地域人員疎開の措置要綱」を決定する
 ・4月17日 東京都が第3次建物疎開の細目を決定する
 ・5月7日 東京千駄木国民学校生徒による初の都立那須戦時疎開学園が開園される
 ・6月30日 東条英機内閣が「学童疎開促進要綱」を閣議決定し、集団的な学童疎開が促進される
 ・7月10日 神戸、尼崎両市の建物疎開が指定される(以後疎開指定都市続出)
・7月20日 文部省が集団的な学童疎開の範囲を東京のほか12都市に拡大する
 ・8月22日 沖縄から本土への学童疎開のための「対馬丸」が米軍潜水艦により撃沈される(対馬丸事件)
・8月24日 大阪、堺で建物疎開を実施する
 ・8月29日 重要工場に疎開命令が出される
 ・11月7日 「老幼者、妊婦等ノ疎開実施要綱」を閣議決定する

<1945年(昭和20)>
・3月9日 「学童疎開強化要綱」を閣議決定する

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