IshiiLansingkyoutei01

 今日は、大正時代の1917年(大正6)に、日本の特派大使石井菊次郎と米国の国務長官ランシングとの間で、中国に関する「石井・ランシング協定」が調印された日です。
 石井・ランシング協定(いしい・ランシングきょうてい)は、第一次世界大戦中にアメリカのワシントンD.C.で、日本の特派大使石井菊次郎と米国の国務長官ランシングとの間で、日本の中国における特殊権益の承認と、中国の領土保全・門戸開放・機会均等などを決めた協定(交換公文)でした。
 ワシントン体制への道に通じる対米協調政策の結果で、その内容は、日本のその時点まで獲得している利権、租借地は認めますが、それ以上の日本の領土拡張は認めないことと、中国に対する門戸解放、機会均等政策の支持となっています。尚、付属の秘密協定では、両国は第一次世界大戦に乗じて中国で新たな特権を求めることはしないことに合意していました。
 その後、ワシントン会議において、1922年(大正11)2月6日に調印された「九カ国条約」の発効により、翌年4月14日に廃棄されています。
 以下に、石井・ランシング協定の全文を掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「石井ランシング協定」(中国に関する日米両国間交換公文)1917年(大正6)11月2日

米国国務卿より 石井特命全権大使宛公文

以書翰致啓上候陳者支那共和国に関して貴我両国政府の共に利害を感ずる諸問題に付本官は最近閣下との会談中意見の一致したるものと了解する所を茲に閣下に通報するの光栄を有し候
近来往々流布せられたる有害なる風説を一掃せんが為閣下及本官は茲に支那に関し両国政府の均しく懐抱する希望及意嚮に付更に公然たる宣言を為すを得策なりと思惟す
合衆国及日本国両政府は領土相近接する国家の間に特殊の関係を生ずることを承認す従って合衆国政府は日本国が支那に於て特殊の利益を有することを承認す日本の所領に接壌せる地方に於て殊に然りとす
尤も支那の領土主権は完全に存在するものにして合衆国政府は日本国が其の地理的位置の結果右特殊の利益を有するも他国の通商に不利なる偏頗の待遇を与え又は条約上支那の従来他国に許与せる商業上の権利を無視することを欲するものにあらざる旨の日本国政府累次の保障に全然信頼す
合衆国及日本国両政府は毫も支那の独立又は領土保全を侵害するの目的を有するものにあらざることを声明す且つ右両政府は常に支那に於て所謂門戸開放又は商工業に対する「機会均等の主義を支持する」ことを声明す
将又凡そ特殊の権利又は特典にして支那の独立又は領土保全を侵害し者は列国臣民又は人民が商業上及工業上にに於ける均等の機会を完全に享有するを妨碍するものに付ては両国政府は何国政府たるを問わず之を獲得するに反対なることを互に声明す
本官は貴我双方間に意見の一致せるものと了解する前記各項に対して閣下の確認を得むことを希望致し候
本官は茲に閣下に向って敬意を表し候敬具
  一千九百十七年十一月二日
   在華盛頓国務省に於て ロバート・ランシング

石井全権大使より 米国国務卿宛公文

以書翰致啓上候陳者支那共和国に関して貴我両国政府の共に利害を感ずる諸問題に付閣下が最近本使との会談中意見の一致したるものと了解せらるる所を本日附書翰を以て御通報相成致敬承候
茲に本国政府の訓令に基き閣下に向って左記の通右了解を確認するを得るは本使の欣幸とする所に有之候
近来往々流布せられる有害なる風説を一掃せむが為閣下及本使は茲に支那に関し両国政府の等しく懐抱する希望及意嚮に付更に公然たる宣言を為すを得策なりと思惟す
日本国及合衆国両政府は領土相近接する国家の間には特殊の関係を生ずることを承認す従って合衆国政府は日本国が支那に於て特殊の利益を有することを承認す日本の所領に接壌せる地方に於て殊に然りとす
尤も支那の領土主権は完全に存在するものにして合衆国政府は日本国が其の地理的位置の結果右特殊の利益を有するも他国の通商に不便なる偏頗の待遇を与え又は条約上支那の従来他国に許与せる商業上の権利を無視することを欲するものに非ざる旨の日本国政府累次の保障に全然信頼す
日本国及合衆国両政府は毫も支那の独立又は領土保全を侵害するの目的を有するものに非ざることを声明す且右両国政府は常に支那に於て所謂門戸開放又は商工業に対する機会均等の主義を支持することを声明す
将又凡そ待殊の権利又は特典にして支那の独立又は領土保全を侵害し若くは列国臣民又は人民が商業上及工業上に於ける均等の機会を完全に享有するを妨碍するものに付ては両国政府は何国政府たるを問わず之を獲得するに反対なることを互に声明す
本使は茲に閣下に向って敬意を表し候敬具
  一千九百十七年十一月二日
   在華盛頓日本帝国大使館に於て
    特派特命全権大使子爵 石井菊次郎

   「大阪朝日新聞」 1923年(大正12)4月1日付より

(不公表)

PROTOCOL.

In the coures of the conversations between the Japanese Special Ambassador and the Secretary of State of the United States which have led to the exchange of notes between them dated this day,declaring the policy of the two Governments with regard to China,the question of embodying the following clause in such declaration came up for discussion:“they(the Governments of Japan and the United States)will not take advantage of the present conditions to seek special rights or privileges in China which would adridge the rights of the subjects or citizens of other friendly states”

Upon careful examination of the question,it was agreed that the clause above quoted being superfluous in the relations of the two Governments and liable to create erroneous impression in the minds of the public,should be eliminated from the declaration.

It was,however,well understood that principle enunciated in the clause which was thus suppressed was in perfect accord with the declared policy of the two Governments in regard to China.

K.Ishii

Robert Lansing

   「日本外交年表竝主要文書 上巻」外務省編より

<上記英文の日本語訳>

覚書

日本の特別大使と米国国務長官との間の今日の日付の交換につながった会話の中で、中国に関する両国政府の政策を宣言し、具体化の問題として、宣言の次の条項が議論のために出された:「彼ら(日米両政府)は、現状を利用して、他の友好国の対象や市民の権利を侵害するような特別な権利や特権を中国に求めることはない。」
質問を注意深く検討した結果、両国政府の関係において不必要であり、国民の心に誤った印象を与える可能性があると引用された上記の条項は、宣言から削除されるべきであることが合意された。
しかし、このように抑制された条項で表明された原則は、中国に関する両政府の宣言された政策と完全に一致していることはよく理解されていた。

K. 石井
ロバート・ランシング

  ※筆者が英語原文から訳しました。

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

1288年(正応元)第96代天皇とされる後醍醐天皇の誕生日(新暦11月26日)詳細
1714年(正徳4)江戸幕府5代将軍徳川綱吉の寵臣・譜代大名柳沢吉保の命日(新暦12月8日)詳細
1942年(昭和17)詩人・歌人北原白秋の命日詳細
1957年(昭和32)ジャーナリスト・思想家・歴史家・評論家徳富蘇峰の命日詳細