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 今日は、昭和時代前期の1933年(昭和8)に、斎藤実内閣で、「社会政策ニ関スル具体的方策案」が閣議決定された日です。
 「社会政策ニ関スル具体的方策案」(しゃかいせいさくにかんするぐたいてきほうさくあん)は、思想対策協議委員会が各種の社会政策的施設によって、生活不安を緩和するための具体案を斎藤実内閣に対して報告し、閣議決定されたものでした。その内容は、①失業の防止および救済施設の拡充、②疾病の予防および救護施設の普及、③その他の防貧救貧施設の拡充、④労資関係改善および労働者保護施設の促進、⑤人口問題の調査研究のための適切な対策の樹立、の5項目からなっています。
 1929年(昭和4)に世界恐慌が起き、不況が深刻化、失業者の増大などの社会不安が高まる中で、労働運動や小作争議が激化しました。一方、軍部は1931年(昭和6)に満州事変を引き起こし、翌年には犬養毅首相が暗殺される五・一五事件が起き、社会的な混乱も生じます。
 その中で、極左・極右の思想に対処するためとして、1933年(昭和8)4月11日に、斎藤実内閣は思想対策協議委員会設置を閣議決定し、書記官長を委員長とし、内閣、内務省、司法省、文部省、陸海軍、逓信省の関係勅任官を委員としました。そして、協議が重ねられて具体案を作成、7月14日に「教育・宗教ニ関スル具体的方策案」、8月15日に「思想善導方策具体案」、9月14日に「思想取締方策具体案」、10月6日に「社会政策ニ関スル具体的方策案」が閣議決定されます。
 この流れは、1936年(昭和11)の二・二六事件、日独防共協定調印、翌年の日中戦争の勃発を経て、近衛文麿内閣の下での国民精神総動員運動へと繋がっていき、日本型ファシズムへと向かっていきました。
 以下に、「社会政策ニ関スル具体的方策案」を全文掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「社会政策ニ関スル具体的方策案」1933年(昭和8)10月6日閣議決定

思想対策協議委員ハ思想善導方策及思想取締方策ニ付既ニ報告シタルヲ以テ、更ニ進ンデ社会改善方策ノ審議ニ入リタル処、現時ノ社会状勢ニ鑑ミ、各般ノ社会政策的施設ニ依リ生活不安ヲ緩和スルコトヲ極メテ緊要ナリトシ、差シ当リ社会政策的施設ニシテ速ニ実行ヲ為スべキ具体案ニ付慎重審議ノ結果其ノ一部ニ関シ別紙要綱ヲ得タリ。

(一)失業ノ防止及救済施設ノ拡充ヲ図ルコト
失業ニ対スル根本対策ハ産業ノ振興、貿易ノ増進等ニ依リ労働需要ノ増加ニ俟ツべキハ勿論ナリト雖モ左ノ如キ失業ノ防止及救済ニ関スル各種ノ施設ヲ講ズルノ要アリ
(1)職業紹介機関ノ普及整備ヲ図リ其ノ機能ヲ充分発揮セシムルコト
(2)各種ノ官公営事業ノ施行ニ当リ能フ限リ失業ノ防止及救済ニ有効ナラシムル様努ムルコト
(3)失業救済ヲ目的トスル各種土木事業等ノ起興ヲ奨励助成スルト共ニ之ガ補充トシテ所謂失業共済施設ニ対スル助成ノ途ヲ拓キ以テ失業労働者救済ノ実ヲ挙グルコト
(4)知識階級ノ失業防止及就職難緩和ノ為教育制度ノ刷新改善ヲ考慮スルコト
(5)労働者解雇ノ場合ニ於テ失業中ノ生活ヲ保障スべキ施設ヲ考慮スルコト
(6)移植民ヲ奨励スルコト

(二)疾病ノ予防及救護施設ヲ普及スルコト
(1)健康保険制度ヲ拡張シ工場鉱山以外ニ於ケル労働者ヲモ包括シ且家族給付ヲ認ムルコト
(2)中小商工業者、農民、給料生活者等ニ対スル疾病保険制度ノ創設ヲ考慮スルコト
(3)救療又ハ軽費診療施設ヲ普及セシムルコト
(4)医師ノ在住セザル農漁山村地方ニ対シ公費ニ依ル医師ノ設置ヲ奨励助成スルコト
(5)庶民間ニ蔓延シテ其ノ危害劇甚ナル疾患ニ対シテ特ニ其ノ予防施設ヲ充実スルコト

(三)其ノ他ノ防貧救貧施設ヲ拡充スルコト
(1)現行施設ノ下ニ於テ尚救済ヲ得ザル生活困窮者ニ対シ公費ニ依ル生活救助ヲ考慮スルコト
(2)方面委員制度ノ普及ヲ図リ要保護者ニ対スル救護並指導教化ノ徹底ヲ期スルコト
(3)各種社会事業団体ニ対シ一層指導監督並助成ヲ加ヘ其ノ活動ヲ充分ナラシムルコト

(四)労資関係改善及労働者保護施設ノ促進ヲ図ルコト
(1)労資間ノ融和協調ヲ促進スべキ施設ヲ奨励スルコト
(2)労働争議調停制度ノ改善ニヨリ労働争議ノ激化ヲ防止スルコト
(3)労働者保護立法乃至施設の拡充ニ努ムルコト

(五)人口問題ノ調査研究ヲ為シ適切ナル対策ノ樹立ニ努ムルコト

   「国立国会図書館リサーチナビ」より

☆思想対策協議委員会関係略年表

<1933年(昭和8)>

・4月11日  思想対策協議委員会設置を閣議決定する 
・4月11日  内務省が思想対策根本策7項目を決定する
・4月12日  左右両翼の直接取締8項目を決定する(治安維持法の拡大適用など) 
・7月8日 司法省,思想判事配置方針を決定する
・7月8日 文部省,陸海軍省等との共同編集パンフレット「非常時と国民の覚悟」を全国の学校、教化団体に配布する 
・7月14日 「教育・宗教ニ関スル具体的方策案」が閣議報告される
・7月28日 松本学(警保局長)、思想運動組織として日本文化聯盟を結成する
・8月15日 「思想善導方針具体案」を閣議決定する
・9月14日 思想対策協議委員会が「思想取締対策具体案」を決定する
・9月15日  「不穏思想予防鎮圧取締強化方針」を閣議決定する(忠孝批判の取締りなど)
・9月19日 日本文化聯盟傘下団体として日本労働聯合(町田辰次郎・小林五郎・神野信一ら)結成する
・10月2日 文部省,思想問題研究会設置を地方長官あて通牒する
・10月6日 「社会政策ニ関スル具体的方策案」が閣議報告される 
・12月9日 陸海軍両省、最近の軍部批判は軍民離反を策すものと批判する

<1934年(昭和9)>

・2月11日 日本文化協会(国民精神文化研究所の協力機関)が発足する
・4月3日 全国小学校教員精神作興大会が皇居前に3万5千人参加して開催される
・4月25日 思想検事を増員して全国の地裁に各1人配置する
・5月  警察本部長会議が国家観念の強い警察官錬成のため警察精神作興を提唱する
・5月7日 政府が左右運動掃滅、社会不安解消のため思想対策協議委員会再開を決定する
・6月1日 文部省に思想局を設置する(学生部の拡充)

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

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