今日は、明治時代前期の1872年(明治5)に、明治新政府から「各地ノ風習舊慣ヲ私法ト爲ス等申禁解禁ノ條件」(大蔵省達第118号)が出され、下人(下男)の取り扱いの是正、商業兼業の許可、田畑勝手作の推進などを通達した日ですが、新暦では10月2日となります。
「各地ノ風習舊慣ヲ私法ト爲ス等申禁解禁ノ條件」は、明治維新の改革を進める明治新政府によって出された、各地の土地の因習旧慣を是正するための大蔵省達(第118号)でした。計画されていた地租改正にともなう租税の金納化に備えた措置としての田畑勝手作の推進、土地所有者の特定、商業兼業の許可などであり、下人(下男)の取り扱いの是正も達せられます。
その後、地券を発行し、1873年(明治6)7月28日には、「上諭」と「太政官布告第272号」、「地租改正条例」を発し、①課税標準を従来の収穫量から地価に改める、②税率は100分の3をもって、豊凶に関係なく定率とする、③物納を廃し、すべて金納として、土地所有者に課税するというものとなりました。
以下に、「各地ノ風習舊慣ヲ私法ト爲ス等申禁解禁ノ條件」(大蔵省達第118号)を現代語訳・注釈付で、全文掲載しておきますので、ご参照下さい。
〇「各地ノ風習舊慣ヲ私法ト爲ス等申禁解禁ノ條件」(大蔵省達第118号)明治5年8月30日
「各地ノ風習舊慣ヲ私法ト爲ス等申禁解禁ノ條件」(大蔵省達第118号)
從前土地ノ風俗[1]ニ因リ舊慣[2]ヲ私法[3]トナシ候類間々有之祖先ノ代々召仕候者ヘ地所ヲ付與致シ候分其子孫ニ至ル迄家抱[4]杯ト唱ヘ家來[5]同樣ノ扱ヒニ致シ一村ノ者同輩[6]ニ見倣サス或ハ他ヨリ人材スル者ハ水吞[7]ト唱ヘ是亦同輩[6]ノ交リ不致等ノ類間々有之人民協和交際ノ道ニ相背キ候間右等舊習[8]ヲ以家格[9]相立候儀堅ク可令禁止事
古來荒蕪[10]ノ地ヲ拓キ一村ヲ取立[11]候モノ之ヲ草分ケ[12]ト號ケ[13]舊家タルノ故ヲ以テ他人ヲ輕蔑致シ往々非義[14]ノ擧動[15]致シ候者有之趣最眼先ノ功績ニ誇今日ニ至リ他人ヲ凌クヘキノ理無之候間自今[16]右等ノ唱令禁止暴慢[17]ノ所業致スヘカラサル事
農業ノ傍商業ヲ相營ミ候儀禁止致シ候向モ有之候處自今勝手[18]タルヘキ事
人民所持地所ノ內自他[19]ノ都合ニ依リ池沼川溝等ヲ堀割或ハ道路ヲ附替イタシ候儀自今[16]都テ[20]出願ノ上指揮ヲ受ヘキ事
無願[21]ニシテ社寺(地藏堂稻荷ノ類)創立致シ候儀從前ノ通禁制タルヘキ事
入民所持ノ耕地畔際ヘ擅ニ[22]遺骸ヲ埋葬致シ候者有之趣以ノ外ノ事ニ候自今可爲嚴禁事
河岸場[23]ノ儀新規相成候儀差止候向モ有之候處自今[16]願次第吟味[24]ノ上可差許事
不定地年季[25]ヲ定メ割替[26]致シ來候向ハ向後持主相定可申立事
田畑勝手作[27]ノ儀既ニ去辛未[28]八月御差許シ有之儀[29]ニテ漸々米作ヲ減シ桑茶漆楮土地ニ相應スル物品或ハ牛馬羊豕ノ牧畜等常々心掛充分物產繁殖[30]ノ方法可相立事
但追々外國ヨリ草木禽獸類勸農寮[31]ヘ相集候上分配試驗可致筈ニ付有志ノ者ハ其筋ヘ可願出事
右條件管轄內無遺漏[32]可相觸事
「ウィキソース」より
【注釈】
[1]風俗:ふうぞく=生活上のならわし。しきたり。風習。
[2]舊慣:きゅうかん=古くからのならわし。
[3]私法:しほう=為政者の手によらず、民衆が私的につくった法。
[4]家抱:けほう=農村における譜代の下人(下男)。
[5]家來:けらい=主君や主家に仕える者。家臣。従者。
[6]同輩:どうはい=同じ身分のもの。同じ位のもの。仲間。等輩。
[7]水吞:みずのみ=農村に居住し,田畑を所持せず,小作地を耕作して独立の生計を立てていた農民。
[8]舊習:きゅうしゅう=昔からの習慣。古いならわし。旧慣。
[9]家格:かかく=家の格式。家柄。
[10]荒蕪:こうぶ=土地が荒れて雑草などのおい茂ること。また、その土地。未開墾地。
[11]取立:とりたて=仕立て上げる。
[12]草分ケ:くさわけ=土地を切り開いて、そこに村や町を興すこと。また、その人。
[13]號ケ:さけ=叫ぶ。号する。
[14]非義:ひぎ=義理にそむくこと。道理にはずれること。非理。
[15]擧動:きょどう=立ち居振る舞い。動作。
[16]自今:じこん=今から。以後。今後。
[17]暴慢:ぼうまん=乱暴で、人をはばからぬこと。荒々しく自分勝手なこと。
[18]勝手:かって=他人のことはかまわないで、自分だけに都合がよいように振る舞うこと。また、そのさま。
[19]自他:じた=自分と他人。我と人。
[20]都テ:すべて=皆。全部。
[21]無願:むがん=望むことがない。願いなく。
[22]擅ニ:ほしいままに=》思いのままに。自分のしたいように。
[23]河岸場:かしば=船から荷を上げ下ろしする所。
[24]吟味:ぎんみ=物事を念入りに調べること。また、念入りに調べて選ぶこと。
[25]年季:ねんき=物事の期限。契約の期限。
[26]割替:わりかえ=割りなおすこと。分割しなおすこと。
[27]田畑勝手作:たはたかってづくり=田畑に主穀以外の農作物を任意に作ること。
[28]辛未:しんび=十干(じっかん)と十二支とを組み合わせたものの第八番目。
[29]御差許シ有之儀:おんさしゆるしありのぎ=1871年(明治4年9月7日)に出された大蔵省「田畑夫食取入ノ余ハ諸物品勝手作ヲ許ス」のこと。
[30]繁殖:はんしょく=動物や植物が生まれて増えること。生殖により個体数がふえて再生産が行われること。
[31]勸農寮:かんのうりょう=農業振興を掌る大蔵省の内局。
[32]遺漏:いろう=行為や仕事に、もれや落ちがあること。また、そのもの。
<現代語訳>
「各地の因習旧慣を私法とするなどの禁止の件」(大蔵省118号)
一今まで土地の因習により旧慣を私法とするなどの類が時々有り、あるいは祖先の代に召し仕えた者へ地所を付与したことにより、その子孫に至るまで譜代の下人(下男)だとして、家来同様の扱いにして、一村の者、同輩に見傚させ、あるいは他より入村する者は水呑と呼んで、これまた同輩の交リができない等の類が時々有り、人民の恊和交際の道に相反することなので、右等旧習をもって家格を違えることは堅く禁止すべきこと。
一古来より未開墾地を開拓して一村を形成した者を草分けと称して、旧家であるとの理由をもって、他人を軽蔑し、往々にして道理に外れた挙動をしてきた者などが有り、もっとも祖先の功績を誇リ、今日に至っても他人を凌ぐべき理由が無い場合は、今後は右等のことを禁止し、暴慢の所業をしてはならないこと。
一農業の傍らで商業を兼営することを禁止してきたことがあったところではあるが、今後は勝手にするべきこと。
一人民が所持する地所の内、自分や他人の都合により池・沼・川溝等を掘削あるいは道路を付け替えすることは、今後すべて出願の上で指揮を受けるべきこと。
一無届で社寺[地蔵堂や稲荷の類]を創立することは以前の通り禁止するべきこと。
一人民が所持する耕地や畔際へ死体を埋葬する者がいるが、それはもっての外のことであるので以後はこれを厳禁すること。
一河岸場のことは、新規創設することは差し止めてきたところではあるが、今後は願い次第で検討の上、許可するべきこと。
一土地を定めず期間を定めて割替をしてきたところは、これからは持主を特定して申し立てること。
一田畑に作物を勝手に作ってよいことは、すでに去年8月に許可があったことであり、徐々に米作を減じ桑・茶・漆・楮など相当する物品、あるいは牛・馬・羊・豚の牧蓄等、常々心がけ充分に物産が繁殖できる方法を立てていくこと。
ただし、追々外国より草木・禽獣の類を大蔵省勧農寮へ集めた上で、分配して試験するので、有志の者はその筋へ願い出るべきこと。
右条件は管轄內に漏れなく伝えるべきこと。
〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)
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