ガウスの歴史を巡るブログ(その日にあった過去の出来事)

 学生時代からの大の旅行好きで、日本中を旅して回りました。その中でいろいろと歴史に関わる所を巡ってきましたが、日々に関わる歴史上の出来事や感想を紹介します。Yahooブログ閉鎖に伴い、こちらに移動しました。

2021年07月

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 今日は、平成時代の2006年(平成18)に、小説家吉村昭の亡くなった日です。
 吉村昭(よしむら あきら)は、1927年(昭和2)5月1日 東京・日暮里で、ふとん綿を製造する工場と綿糸紡績の工場を経営する父・吉村隆策、母・きよじの八男として生まれました。1940年(昭和15)に、私立東京開成中学校に入学し、小説に興味をいだくようになり、校内雑誌に作文も掲載されています。
 1944年(昭和19)に母を、翌年に父を次々と亡くしましたが、1946年(昭和21)には、旧制学習院高等科に入学しました。しかし、1948年(昭和23)に喀血し、旧制学習院高等科を中途退学し、1950年(昭和25)には、療養生活を経て、新制学習院大学文政学部文学科に入学します。
 1952年(昭和27)に文芸部委員長になり、短篇を「赤繪」(「學習院文藝」改称)に発表したものの、1953年(昭和28)には、体力不足になり、さらに学費を長期滞納したことで、大学を除籍となり、三兄の経営する紡績会社に入社し、文芸部で知り合った北原節子(後年の小説家津村節子)と結婚しました。1955年(昭和30)に、丹羽文雄主宰の『文学者』に参加、1958年(昭和33)には、短篇集『青い骨』を自費出版、『週刊新潮』に短篇「密会」を発表して商業誌にデビューします。
 1959年(昭和34)に『鉄橋』、『貝殻』、1962年(昭和37)に『透明標本』、『石の微笑』が芥川賞候補となりましたが、いずれも受賞には至りませんでした。1966年(昭和41)に、『星への旅』で第2回太宰治賞を受賞、同年の『戦艦武蔵』で一転して戦史小説にチャレンジし、『海の史劇』、『関東大震災』(ともに1972年)などを発表しています。
 その後も、1972年(昭和47)の『深海の使者』で第34回文藝春秋読者賞、1973年(昭和48)に一連のドキュメント作品で第21回菊池寛賞、1979年(昭和54)に『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、1985年(昭和60)に『冷い夏、熱い夏』で毎日芸術賞、『破獄』で讀賣文学賞および芸術選奨文部大臣賞を受賞するなど数々の栄誉に輝きました。さらに、1987年(昭和62)に日本芸術院賞、1994年(平成6)に『天狗争乱』で大佛次郎賞を受賞し、1997年(平成9)には、日本芸術院会員となります。
 2004年(平成16)から2006年(平成18)まで、日本芸術院第二部長も務めましたが、2005年(平成17)に癌を宣告され、2006年(平成18)7月31日に、東京都三鷹市の自宅において、79歳で亡くなりました。尚、2017年(平成29)には、東京都荒川区の複合施設「ゆいの森あらかわ」内に「吉村昭記念文学館」が開設されています。

〇吉村昭の主要な著作

・『鉄橋』(1958年)第40回芥川賞候補
・『貝殻』(1959年)第41回芥川賞候補
・『透明標本』(1961年)第46回芥川賞候補
・『石の微笑』(1962年)第47回芥川賞候補
・『少女架刑』(1963年)
・『星への旅』(1966年)第2回太宰治賞受賞
・『戦艦武蔵』(1966年)
・『高熱隧道』(1966年)
・『水の葬列』(1967年)
・『零式戦闘機』(1967年)
・『神々の沈黙』(1969年)
・『陸奥爆沈』(1970年)
・『深海の使者』(1972年)第34回文藝春秋読者賞受賞
・『海の史劇』(1972年)
・『関東大震災』(1972年)
・『北天の星』(1975年)
・『ふぉん・しいほるとの娘』(1979年)吉川英治文学賞受賞
・『海も暮れる』(1980年)
・『虹の翼』(1980年)
・『破獄』(1984年)読売文学賞・芸術選奨文部大臣賞受賞
・『冷い夏,熱い夏』(1985年)毎日芸術賞受賞
・風物誌『東京の下町』(1985年)
・『桜田門外の変』(1990年)
・短編集『法師蝉(ほうしぜみ)』(1993年)
・『天狗争乱』(1994年)大佛次郎賞受賞
・『再婚』(1995年)
・『彦九郎山河』(1995年)
・『生麦(なまむぎ)事件』(1998年)
・『夜明けの雷鳴』(2000年)
・回想記『東京の戦争』(2001年)

☆吉村昭関係略年表

・1927年(昭和2)5月1日 東京・日暮里で、ふとん綿を製造する工場と綿糸紡績の工場を経営する父・吉村隆策、母・きよじの八男として生まれる
・1934年(昭和9)4月 東京市立第四日暮里尋常小学校へ入学する
・1940年(昭和15)4月 私立東京開成中学校に入学する
・1944年(昭和19) 母が子宮癌で死去する
・1945年(昭和20)12月 父が癌で死去する
・1946年(昭和21) 旧制学習院高等科に入学する
・1948年(昭和23) 喀血し、旧制学習院高等科を中途退学する
・1950年(昭和25)4月 療養生活を経て、新制学習院大学文政学部文学科に入学する
・1952年(昭和27) 文芸部委員長になり、短篇を『學習院文藝』改称『赤繪』に発表する
・1953年(昭和28) 大学を除籍となり、三兄の経営する紡績会社に入社するも、10月末に退社、文芸部で知り合った北原節子(後年の小説家津村節子)と結婚する
・1955年(昭和30) 丹羽文雄主宰の『文学者』に参加する
・1958年(昭和33) 短篇集『青い骨』を自費出版、『週刊新潮』に短篇「密会」を発表して商業誌にデビューする
・1959年(昭和34) 『鉄橋』が第40回芥川賞候補、『貝殻』が第41回芥川賞候補となる
・1962年(昭和37) 『透明標本』が第46回芥川賞候補、『石の微笑』が第47回芥川賞候補となる
・1965年(昭和40) 妻の津村節子が芥川賞を受賞する
・1966年(昭和41) 『星への旅』で第2回太宰治賞を受賞する
・1972年(昭和47) 『深海の使者』が第34回文藝春秋読者賞を受賞する
・1973年(昭和48) 『戦艦武蔵』、『関東大震災』など一連のドキュメント作品で第21回菊池寛賞を受賞する
・1979年(昭和54) 『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞を受賞する
・1985年(昭和60) 『冷い夏、熱い夏』で毎日芸術賞、『破獄』で讀賣文学賞および芸術選奨文部大臣賞を受賞する
・1987年(昭和62) 日本芸術院賞を受賞する
・1994年(平成6) 『天狗争乱』で大佛次郎賞を受賞する
・1997年(平成9) 日本芸術院会員となる
・2004年(平成16) 日本芸術院第二部長となる
・2006年(平成18)7月31日 東京都三鷹市の自宅において、79歳で亡くなる
・2017年(平成29) 東京都荒川区の複合施設「ゆいの森あらかわ」内に「吉村昭記念文学館」が開設される

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

1875年(明治8)民俗学者柳田國男の誕生日詳細
1948年(昭和23)政令201号」により公務員の団体交渉権が厳しく制限され、争議権が否認される詳細
1952年(昭和27)警察予備隊を保安隊に改組するための「保安庁法」が制定公布される詳細
1986年(昭和61)外交官・在リトアニア日本領事代理杉原千畝の命日詳細


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 今日は、明治時代後期の1907年(明治40)に、日本とロシアとの間で、「第一次日露協約」が締結された日です。
 「第一次日露協約(だいいちじにちろきょうやく)」は、公開協定では日露間及び両国と清国の間に結ばれた条約を尊重することと、清国の独立、門戸開放、機会均等の実現を掲げる一方で、秘密協定では日本の南満州、ロシアの北満州での利益範囲を協定したものでした。ロシアのセント・ピータースブルグにおいて、ロシアのアレクサンドル・イズヴォリスキー外相と日本の本野一郎在ロシア日本大使を全権大使として調印しましたが、ロシアの外蒙古、日本の朝鮮(大韓帝国)での特殊権益も互いに認めたものです。
 その後、1910年(明治43)7月4日に、第二次日露協約​によって、アメリカの南満州鉄道中立案(ノックス提案)に対抗して、満州の現状維持と鉄道利益確保に関する相互協力を約し、1912年(明治45)7月8日に、第三次日露協約によって、4国借款団の満州進出や辛亥革命などに対応して、内蒙古の西部をロシアが、東部を日本がそれぞれ利益を分割することを約し、1916年(大正5)7月3日に、第四次日露協約によって、第一次世界大戦における日露の関係強化と第三国の中国進出を防ぎ、戦争の場合の相互援助と単独不講和を約しました。これらは、アメリカやイギリスの中国進出に対応するために、領土保全・東アジアにおける両国の権益の相互承認などを決めたもので、第一次~第四次をまとめて「日露協約」とも呼ばれています。いずれも、1917年(大正6)のロシア革命後、ソビエト政府が協定を公表し、破棄しました。
 以下に、「第一次日露協約」の日本語版を全文掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「日露第一回協約」 1907年(明治40)7月30日調印

  明治四〇年(一九〇七年)七月三〇日「セント、ピータースブルグ」ニ於テ記名
  明治四〇年(一九〇七年)八月一五日官報揭載

前文

日本國皇帝陛下ノ政府及全露西亞國皇帝陛下ノ政府ハ幸ニ日本國及露西亞國間ニ克復セラレタル平和及善鄰ノ關係ヲ鞏固ナラシメムコトヲ希望シ且將來兩帝國ノ關係ニ於ケル一切誤解ノ原因ヲ除去セムコトヲ欲シ左ノ條款ヲ協定セリ

 第一條

領土保全ノ尊重

締約國ノ一方ハ他ノ一方ノ現在ニ於ケル領土保全ヲ尊重スルコトヲ約ス又締約國間ニ謄本ヲ交換セル締約國ト淸國トノ現行諸條約及契約ヨリ生スル一切ノ權利(但シ機會均等主義ニ反セサル權利ニ限ル)竝一千九百五年九月五日卽露曆八月二十三日「ポウツマス」ニ於テ調印セラレタル條約及日本國ト露西亞國トノ間ニ締結セラレタル諸特殊條約ヨリ生スル一切ノ權利ハ互ニ之ヲ尊重スルコトヲ約ス

 第二條

淸國ノ獨立、領土保全竝同國ニ於ケル列國商工業ノ機會均等主義

兩締約國ハ淸帝國ノ獨立及領土保全竝同國ニ於ケル列國商工業ノ機會均等主義ヲ承認シ且自國ノ執リ得ヘキ一切ノ平和的手段ニ依リ現狀ノ存續及前記主義ノ確立ヲ擁護支持スルコトヲ約ス

末文

右證據トシテ下名ハ各其ノ政府ヨリ正當ノ委任ヲ受ケ之ニ記名調印スルモノナリ

明治四十年七月三十日卽露曆一千九百七年七月十七日(七月三十日)聖彼得堡ニ於テ本書ヲ作ル

  本野一郞

  イズヴォルスキー

 秘密協約

日本國皇帝陛下ノ政府及全露西亞國皇帝陛下ノ政府ハ滿洲、韓國及蒙古ニ關シ一切ノ紛爭又ハ誤解ノ原因ヲ除去セムコトヲ欲シ左ノ條款ヲ協定セリ

第一條 日本國ハ滿洲ニ於ケル政事上及經濟上ノ利益及活動ノ集注スル自然ノ趨勢ニ顧ミ且競爭ノ結果トシテ生スルコトアルヘキ紛議ヲ避ケムコトヲ希望シ本協約追加約款ニ定メタル分界線以北ノ滿洲ニ於テ自國ノ爲又ハ自國臣民若ハ其ノ他ノ爲何等鐵道又ハ電信ニ關スル權利ノ讓與ヲ求メス又同地域ニ於テ露西亞國政府ノ扶持スル該權利讓與ノ請求ヲ直接間接共ニ妨礙セサルコトヲ約ス露西亞國ハ亦同一ノ平和的旨意ニ基キ前記分界線以南ノ滿洲ニ於テ自國ノ爲又ハ自國臣民若ハ其ノ他ノ爲何等鐵道又ハ電信ニ關スル權利ノ讓與ヲ求メス又同地域ニ於テ日本國政府ノ扶持スル該權利讓與ノ請求ヲ直接間接ニ妨礙セサルコトヲ約ス

一千八百九十六年八月二十八日卽露曆八月十六日及一千八百九十八年六月二十五日卽露曆六月十三日ノ東淸鐵道敷設契約ニ依リ東淸鐵道會社ニ屬スル一切ノ權利及特權ハ追加約款ニ定メタル分界線以南ニ在ル同鐵道ノ部分ニ對シ有效ニ存續スルモノトス

第二條 露西亞國ハ日本國ト韓國トノ間ニ於テ現行諸條約及協約(日本國ヨリ露西亞國政府ニ其ノ謄本ヲ交付セルモノ)ニ基キ存在スル政事上利害共通ノ關係ヲ承認シ該關係ノ益々發展ヲ來スニ當リ之ヲ妨礙シ又ハ之ニ干涉セサルコトヲ約ス又日本國ハ韓國ニ於テ露西亞國ノ政府、領事官、臣民、商業、工業及航海業ニ對シ特ニ之ニ關スル條約ノ締結セラルルマテ一切最惠國待遇ヲ與フルコトヲ約ス

第三條 日本帝國政府ハ外蒙古ニ於ケル露西亞國ノ特殊利益ヲ承認シ該利益ヲ損傷スヘキ何等ノ干涉ヲ爲ササルコトヲ約ス

第四條 本協約ハ兩締約國ニ於テ嚴ニ秘密ニ附スヘシ

 右證據トシテ下名ハ各其ノ政府ヨリ正當ノ委任ヲ受ケ之ニ記名調印スルモノナリ

 明治四十年七月三十日卽露曆一千九百七年七月十七日聖彼得堡ニ於テ本書ヲ作ル

  本野一郞

  イズヴォルスキー

 追加約款

本條約第一條ニ揭ケタル北滿洲及南滿洲ノ分界線ハ左ノ如ク之ヲ定ム

同分界線ハ露韓國境ノ北西端ニ始マリ琿春及必爾藤湖北端ヲ經テ秀水站ニ至ルマテ逐次直線ヲ劃シ秀水站ヨリハ松花江ニ沿ヒ嫩江ノ河口ニ至リ之ヨリ嫩江ノ水路ヲ遡リテ托羅河ノ河口ニ達シ此ノ地點ヨリ托羅河ノ水路ニ沿ヒ同河ト「グリニツチ」東經百二十二度ノ交叉點ニ至ル

  本野一郞

  イズヴォルスキー

 外蒙古ニ於ケル淸國ノ現狀維持及領土保全ニ關シ露國駐劄帝國特命全權公使ヨリ露國外務大臣宛文書

閣下ハ露西亞帝國政府ニ於テ蒙古ニ關スル秘密協約第三條中ヨリ現狀維持及機會均等主義ニ關スル留保ノ削除ヲ希望スル旨本使ニ表明セラレタリ而シテ其ノ理由タル前記ノ主義ハ公表セラルヘキ協約ノ第一條及第二條ニ於テ明確ニ記述セラレ特ニ蒙古ニ關スル條項中ニ再ヒ之ヲ揭クルハ全ク贅言ニ屬ストスルニ在リ依テ本使ハ茲ニ左ノ旨ヲ閣下ニ通吿スルノ光榮ヲ有ス卽蒙古ニ關スル秘密協約第三條ノ規定カ公表セラルヘキ協約第一條及第二條ニ記述セル現狀維持及機會均等ノ主義ニ對シ何等除外例ヲ設クルモノニ非ルハ兩國政府ノ全然所見ヲ一ニスル所ナルカ故ニ帝國政府ハ前記ノ留保ヲ右秘密協約ノ條項中ヨリ削除スルコトニ異議ヲ有セス

本使ハ閣下ニ於テ本公文ヲ領承スル旨ノ囘答ヲ與ヘラレムコトヲ請フト共ニ茲ニ閣下ニ對シ重テ敬意ヲ表ス

 外蒙古ニ於ケル淸國ノ現狀維持及領土保全ニ關シ露國外務大臣ヨリ露國駐劄帝國特命全權公使宛囘答書

本日附貴信ヲ以テ閣下ハ本大臣ニ通吿スルニ蒙古ニ關スル秘密協約ノ規定ハ露西亞政府及日本國政府ノ所見ニ依ルニ公表セラルヘキ協約第一條及第二條ニ記述セル現狀維持及機會均等ノ主義ニ對シ何等除外例ヲ設クルモノニ非ルカ故ニ日本國政府ハ前記秘密協約ノ條項中ヨリ該主義ニ關スル規定ヲ削除スルニ異議ナキ旨ヲ以テセラレタリ本大臣ハ右ノ貴信ヲ領承スルト共ニ茲ニ閣下ニ對シ重テ敬意ヲ表ス

   「條約彙纂 第一卷改訂版」外務省條約局編より

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

1502年(文亀2)連歌師・古典学者宗祇の命日(新暦9月1日)詳細
1913年(大正2)歌人・小説家伊藤左千夫の命日(左千夫忌)詳細
1965年(昭和40)小説家谷崎潤一郎の命日(潤一郎忌)詳細
1971年(昭和46)全日空機雫石衝突事故が起き、乗員乗客162人全員が死亡する詳細


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 今日は、昭和時代中期の1957年(昭和32)に、「国際原子力機関憲章(IAEA憲章)」が発効し、国際原子力機関(略称:IAEA)が設立された日です。
 国際原子力機関(こくさいげんしりょくきかん)は、国連と密接な連携関係をもつ、原子力の平和利用促進と、軍事に転用されないための保障措置を実施する国際機関で、英語では、International Atomic Energy Agency(略称:IAEA)とされてきました。1953年(昭和28)の国連総会で、アイゼンハワー米大統領が平和利用のために原子力技術を開放する「アトムズ・フォー・ピース」演説をし、設立を提唱したことなどにより、憲章草案のための協議が開始され、1956年(昭和31)10月に召集された憲章採択国際会議にて憲章草案が採択され、日本を含む70ヶ国が署名します。
 そして、翌年7月29日に、所要の批准数を得て「国際原子力機関憲章(IAEA憲章)」が発効し、国際機関として設立されて、本部はオーストリアのウィーンに置かれました。原子力の平和利用のために与えられている具体的権限としては、①原子力の研究、開発、実用化を奨励、援助し、加盟国間の役務の実施、物資、設備、施設などの供給について仲介者となり、また独自の活動、役務も行なう。②開発途上地域における必要性を考慮しつつ物資、役務、設備、施設などを提供する。③ 科学上、技術上の情報交換を促進する。④科学者、専門家の交換、訓練を奨励する。⑤健康上、安全上の基準を定めて適用する。⑥軍事転用防止のために保障措置を設定・実施する。などがあります。
 組織は、総会(通常年1回)と理事会(35ヶ国)、事務局(事務局長を筆頭に6人の事務次長他、約2,300人の職員がいる)からなり、2013年現在の加盟国は159ヶ国となりました。尚、2005年(平成17)には、同機関と同機関事務局長モハメド・エルパラダイ(1997年就任)がノーベル平和賞を受賞しています。
 以下に、この機関の設立の基となった「国際原子力機関憲章(IAEA憲章)」の日本語訳を全文掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「国際原子力機関憲章」1957年(昭和32)8月7日 条約第14号
 最終改正 平成2年3月20日条約第1号

<日本語訳>

第1条 機関の設立
この憲章の当事国は、以下に定める条件に基き国際原子力機関(以下「機関」という。) を設立する。

第2条 目的
機関は、全世界における平和、保健及び繁栄に対する原子力の貢献を促進し、及び増大するように努力しなければならない。機関は、できる限り、機関がみずから提供し、その要請により提供され、又はその監督下若しくは管理下において提供された援助がいずれかの軍事的目的を助長するような方法で利用されないことを確保しなければならない。

第3条 任務
A 機関は、次のことを行う権限を有する。
 1 全世界における平和的利用のための原子力の研究、開発及び実用化を奨励しかつ援助し、要請を受けたときは、機関のいずれかの加盟国による他の加盟国のための役務の実施又は物質、設備及び施設の供給を確保するため仲介者として行動し、並びに平和的目的のための原子力の研究、開発又は実用化に役だつ活動又は役務を行うこと。
 2 平和的目的のための原子力の研究、開発及び実用化(電力の生産を含む。) の必要を満たすため、世界の低開発地域におけるその必要に妥当な考慮を払った上で、この憲章に従って、物質、役務、設備及び施設を提供すること。
 3 原子力の平和的利用に関する科学上及び技術上の情報の交換を促進すること。
 4 原子力の平和的利用の分野における科学者及び専門家の交換及び訓練を奨励すること。
 5 機関がみずから提供し、その要請により提供され、又はその監督下若しくは管理下において提供された特殊核分裂性物質その他の物質、役務、設備、施設及び情報がいずれかの軍事的目的を助長するような方法で利用されないことを確保するための保障措置を設定し、かつ、実施すること並びに、いずれかの二国間若しくは多数国間の取極の当時国の要請を受けたときは、その取極に対し、又はいずれかの国の要請を受けたときは、その国の原子力の分野におけるいずれかの活動に対して、保障措置を適用すること。
 6 国際連合の権限のある機関及び関係専門機関と協議し、かつ、適当な場合にはそれらと協力して、健康を保護し、並びに人命及び財産に対する危険を最小にするための安全上の基準(労働条件のための基準を含む。)を設定し、又は採用すること、機関みずからの活動並びに機関がみずから提供し、その要請により提供され、又はその管理下若しくは監督下において提供された物質、役務、設備、施設及び情報を利用する活動に対して、前記の基準が適用されるように措置を執ること並びに、いずれかの二国間若しくは多数国間の取極の当時国の要請を受けたときは、その取極に基く活動に対し、又はいずれかの国の要請を受けたときは、その国の原子力の分野におけるいずれかの活動に対して、前記の基準が適用されるように措置を執ること。
 7 関係地域で機関が利用しうる施設、工場及び設備が、不適当であるか、又は機関の不満足であると考える条件によるほか利用しえないときはいつでも、機関が認められた任務を遂行するため必要な施設、工場及び設備を取得し、又は設置すること。
B 機関は、その任務を遂行するため、次のことを行うものとする。
 1 平和及び国際協力を助長する国際連合の目的及び原則に従い、並びに保障された世界的軍備縮小の確立を促進する国際連合の政策及びその政策に従って締結されるすべての国際協定に従って、機関の事業を行うこと。
 2 機関が受領する特殊核分裂性物質の利用につき、それらの物質が平和的目的にのみ利用されることを確保するため、管理を設定すること
 3 機関の資源を、世界の低開発地域における特別の必要を考慮した上で、世界のすべての地域における効果的な利用及び最大限の一般的利益を確保するような方法により、配分すること。
 4 機関の事業に関する報告を毎年国際連合総会に提出し、かつ、適当な場合には、安全保障理事会に提出すること。機関の事業に関して安全保障理事会の権限内の問題が生じたときは、機関は、国際の平和及び安全の維持に関する主要な責任を負う機関である安全保障理事会に通告するものとし、また、この憲章に基き機関にとって可能な措置(第12条Cに定める措置を含む。) を執ることができる。
 5 国際連合の経済社会理事会その他の機関に対し、それらの機関の権限内の事項に関し、報告を提出すること。
C 機関は、その任務を遂行するに当り、加盟国に対し、この憲章の規定と両立しない政治上、経済上、軍事上その他の条件による援助を行つてはならない。
D 機関の事業は、この憲章の規定及びいずれかの国又は一群の国と機関との間で締結され、かつ、この憲章の規定に合致する諸協定の条項に従うことを条件として、諸国の主権に対して妥当な尊敬を払って実施しなければならない。

第4条 加盟国の地位
A 機関の原加盟国は、この憲章が署名のため解放されてから90日以内にこの憲章に署名した国際連合又はいずれかの専門機関の加盟国で、批准書を寄託したものとする。
B 機関の他の加盟国は、国際連合又はいずれかの専門機関の加盟国であるかどうかを問わず、機関の加盟国としての地位を理事会の勧告に基き総会により承認された後に、この憲章の受諾書を寄託する国とする。理事会及び総会は、いずれかの国の加盟国として勧告し、及び承認するに当り、当該国が機関の加盟国としての義務を履行する能力及び意思を有することを、国際連合憲章の目的及び原則に従って行動することについてのその国の能力及び意思に妥当な考慮を払った上で、決定しなければならない。
C 機関は、すべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおくものとし、すべての加盟国は、加盟国としての地位から生ずる権利及び利益をすべての加盟国に確保するため、この憲章により加盟国が負う義務を誠実に履行しなければならない。

第5条 総会
A すべての加盟国の代表者からなる総会は、年次通常会期において、また、理事会の要請又は加盟国の過半数の要請により事務局長が招集すべき特別会期において、会合する。それらの会期は、総会が別段の決定を行わない限り、機関の本部で開催される。
B 前記の会期において、各加盟国は、1人の代表を出すものとし、代表は、代表代理及び顧問を伴うことができる。代表団の出席の費用は、当該加盟国が負担する。
C 総会は、各会期の初めに、議長及び必要とされる他の役員を選出する。
それらの者は、その会期中、その職にあるものとする。総会は、この憲章の規定に従うことを条件として、総会の手続規則を採択する。各加盟国は、1個の投票権を有する。第14条H、第18条C及び第19条Bの規定による決定は、出席しかつ投票する加盟国の3分の2の多数により行う。他の問題についての決定(3分の2の多数により決定されるべき新たな問題又は問題の部類の決定を含む。) は、出席しかつ投票する加盟国の過半数により行う。加盟国の過半数をもつて、定足数とする。
D 総会は、この憲章の範囲内の問題若しくは事項又はこの憲章に定めるいずれかの機関の権能及び任務に関する問題若しくは事項を討議することができ、かつ、それらの問題又は事項につき、機関の加盟国若しくは理事会又はその双方に対し、勧告を行うことができる。
E 総会は、次のことを行うものとする。
 1 第6条の規定に従って、理事国を選出すること。
 2 第4条の規定に従って、諸国の加盟を承認すること。
 3 第19条の規定に従って、いずれかの加盟国の加盟国としての特権及び権利を停止すること。
 4 理事会の年次報告を審議すること。
 5 第14条の規定に従って、理事会が勧告する機関の予算を承認し、又はその予算の全部若しくは一部についての勧告を附して、総会への再提出のため、理事会に返却すること。
 6 第12条Cにいう報告を除くほか、機関と国際連合との関係に関する協定に従って国際連合に提出すべき報告を承認し、又は総会の勧告を附して、理事会に返却すること。
 7 機関と国際連合又は他の機関との間の第16 条に定める協定を承認し、又は総会の勧告を附して、総会への再提出のため、理事会に返却すること。
 8 第14条Gの規定に従って、理事会の借入権能の行使に関する規則及び制限を承認し、並びに機関に対する任意の拠出の受諾に関する規則を承認し、並びに、第14条Fの規定に従って、同条F にいう一般資金の使用方法を承認すること。
 9 第18条Cの規定に従って、この憲章の改正を承認すること。
 10 第7条Aの規定に従って、事務局長の任命を承認すること。
F 総会は、次の権限を有する。
 1 決定のため理事会が特に総会に付託したすべての事項につき、決定を行う権限
 2 理事会の審議事項を提案し、及び理事会に対し、機関の任務に関するいずれかの事項についての報告を要請する権限

第6条 理事会
A 理事会は、次のとおり構成される。
 1 任期の終了する理事会は、理事国として、原子力に関する技術(原料物質の生産を含む。) の最も進歩した10の加盟国及び、次の地域のうちこれらの10 の加盟国のいずれも含まれない地域のそれぞれにおいて、原子力に関する技術(原料物質の生産を含む。) の最も進歩した1の加盟国を指定する。
 (1) 北アメリカ
 (2) ラテン・アメリカ
 (3) 西ヨーロッパ
 (4) 東ヨーロッパ
 (5) アフリカ
 (6) 中東及び南アジア
 (7) 東南アジア及び太平洋
 (8) 極東
 2 総会は、理事国として、
 (a) A1に掲げる地域の加盟国が理事会全体として公平に代表されるように妥当な考慮を払った上で、ラテン・アメリカ地域の5 人の代表者、西ヨーロッパ地域の4人の代表者、東ヨーロッパ地域の3人の代表者、アフリカ地域の4人の代表者、中東及び南アジア地域の2人の代表者、東南アジア及び太平洋地域の1人の代表者並びに極東地域の1人の代表者が理事会においてこの部類に常に含まれるように、20の加盟国を選出する。いずれか一の任期においてこの部類に含まれた加盟国は、その次の任期にこの部
類で再選される資格を有しない。
 (b) 次の地域の加盟国のうちから、さらに一の加盟国を選出する。
中東及び南アジア
東南アジア及び太平洋
極東
 (c) 次の地域の加盟国のうちから、さらに一の加盟国を選出する。
アフリカ
中東及び南アジア
東南アジア及び太平洋
B A1に定める指定は、総会の各年次通常会期の60 日以前に行うものとする。A 2 に定める選挙は、総会の年次通常会期において行うものとする。
C A1の規定に従い理事会において代表される加盟国は、その指定に続く総会の年次通常会期の終りから、その次の総会の年次通常会期の終りまでを、任期とする。
D A2の規定に従い理事会において代表される加盟国は、自国が選出された総会の年次通常会期の終りから、その後の2 回目の総会の年次通常会期の終りまでを、任期とする。
E 各理事国は、1 個の投票権を有する。機関の予算額の決定は、第14条Hに定めるところに従い、出席しかつ投票する理事国の3 分の2 の多数により行う。他の問題に関する決定( 3 分の2 の多数により決定されるべき新たな問題又は問題の部類の決定を含む。) は、出席しかつ投票する理事国の過半数により行う。全理事国の3分の2をもつて、定足数とする。
F 理事会は、この憲章に定める総会に対する責任に従うことを条件として、この憲章に従い、機関の任務を遂行する権限を有する。
G 理事会は、みずから決定する時に会合する。その会合は、理事会が別段の決定を行わない限り、機関の本部で行う。
H 理事会は、理事のうちから議長及び他の役員を選出するものとし、また、この憲章の規定に従うことを条件として、理事会の手続規則を採択するものとする。
I 理事会は、適当と認める委員会を設けることができる。理事会は、他の機関との関係において理事会を代表すべき者を任命することができる。
J 理事会は、機関の諸事項及び機関により承認されたすべての計画に関し、総会に対する年次報告を作成するものとする。理事会は、また、国際連合又は機関の活動と関連のある活動を行う他の機関に対して機関が提出するように要請されている、又は要請されることのある報告を、総会に提出するため、作成するものとする。これらの報告は、年次報告とともに、総会の年次通常会期の少くとも1箇月前に、機関の加盟国に提出するものとする。

第7条 職員
A 機関の職員の長は、事務局長とする。事務局長は、理事会が、総会の承認を得て、4年を任期として任命する。事務局長は、機関の首席行政官とする。
B 事務局長は、職員の任命、組織及び職務の執行に対して責任を負うものとし、かつ、理事会の権威及び管理の下にあるものとする。事務局長は、理事会が採択する規則に従って、自己の任務を遂行するものとする。
C 職員には、機関の目的及び任務の遂行のため必要な資格を有する科学上、技術上その他の人員を含むものとする。機関は、その恒久職員を最少数に保たなければならないという原則を指針とするものとする。
D 職員の募集及び雇用並びに勤務の条件の決定に際しては、最高水準の能率、技術的能力及び誠実性を有する被用者を確保することに、最大の考慮を払うものとする。この考慮に従うことを条件として、機関に対する加盟国の寄与に対し、及びできる限り広い地理的基礎によって職員を募集することの重要性に対して、妥当な考慮を払うものとする。
E この憲章の規定及び、理事会の勧告に基き、総会が承認する一般規則に従うことを条件として、職員の任命、報酬及び解雇に関する条件は、理事会が作成する規則に従うものとする。
F 事務局長及び職員は、その任務の遂行に際し、機関以外のいかなるところからも指示を求め、又は受けてはならない。それらの者は、機関の職員としての地位に影響を及ぼすいかなる行動も慎まなければならず、また、機関に対する自己の責任に従うことを条件として、機関に対する自己の公的任務により知るに至った産業上の秘密又は他の機密の情報をもらしてはならない。各加盟国は、事務局長及び職員の責任の国際的性質を尊重することを約束し、また、それらの者が任務を遂行するに当って、それらの者に影響を及
ぼそうとしてはならない。
G この条にいう「職員」には、警備員を含む。

第8条 情報の交換
A 各加盟国は、自国の判断により機関にとって有用と考える情報を提供するものとする。
B 各加盟国は、第11 条の規定に従って機関により与えられた援助の結果として得られるすべての科学的情報を機関に提供しなければならない。
C 機関は、A及びBの規定により機関に提供された情報を収集整理し、かつ、それを利用しやすい形式で利用に供するものとする。機関は、原子力の性質及び平和的利用に関する情報の加盟国間における交換の奨励のための積極的措置を執るものとし、また、この目的のため、加盟国間の仲介者となるものとする。

第9条 物質の供給
A 加盟国は、自国で適当と考える量の特殊核分裂性物質を、機関が同意する条件で、機関に提供することができる。機関に提供された物質は、提供する加盟国の裁量により、その加盟国が貯蔵し、又は機関の同意を得て、機関の貯蔵所に貯蔵することができる。
B 加盟国は、また、第20条に定める原料物質及び他の物質を機関に提供することができる。理事会は、第13条に定める協定に基き機関が受諾するそれらの物質の量を決定する。
C 各加盟国は、自国の法律に従って、即時に又は理事会が指定する期間内に提供する用意のある特殊核分裂性物質、原料物質及び他の物質の量、形状及び組成を機関に通告しなければならない。
D 加盟国は、機関の要請を受けたときは、自国が提供した物質のうちから、機関が指定する物質を、機関が指定する量だけ、他の加盟国又は加盟国群に遅滞なく引き渡さなければならず、また、機関の施設における作業及び科学的研究のため実際に必要な物質を、実際に必要な量だけ、機関自体に遅滞なく引き渡さなければならない。
E 加盟国が提供した物質の量、形状及び組成は、理事会の承認を得て、当該加盟国がいつでも変更することができる。
F C の規定による最初の通告は、この憲章が当該加盟国について効力を生じた日から3箇月以内に行わなければならない。理事会が別段の決定を行わない限り、最初に提供される物質は、この憲章が当該加盟国について効力を生じた年に続く暦年による1年の期間に対するものとする。その後の通告も、同様に、理事会が別段の措置を執らない限り、通告が行われた年に続く暦年による1年の期間に関するものとし、また、各年の11月1日以前に行わなければならない。
G 機関は、加盟国が機関に対し提供する用意があると通告した量の物質のうち、機関が引渡を要請した物質の引渡の場所及び方法並びに、適当な場合には、その物質の形状及び組成を指定するものとする。機関は、また、引き渡された物質を検量しなければならず、かつ、そのように引き渡された物質の量を、定期的に、すべての加盟国に報告しなければならない。
H 機関は、その所持する物質の貯蔵及び保護の責任を負うものとする。機関は、それらの物質が、(1) 天候による障害、(2) 許可を得ていない移動又は転用、(3) 破損又は破壊( サボタージュを含む。) 及び(4) 強制的差押から守られることを確保しなければならない。機関は、その所持する特殊核分裂性物質を貯蔵するに当り、その物質が多量にいずれかの国又は世界の一地域に集中しないように、その物質の地理的配分を確保しなければならない。
I 機関は、できる限りすみやかに、次のもののうち必要となるものを設置し、又は取得しなければならない。
 1 物質の受入、貯蔵及び送出のための工場、設備及び施設
 2 物理的保障手段
 3 十分な保健上及び安全上の手段
 4 受領された物質の分析及び検量のための管理試験所
 5 1から4までに掲げるもののため必要な職員のための住居及び行政上の施設
J この条の規定に従って提供された物質は、この憲章の規定に基き理事会が決定するところに従って、利用されるものとする。いずれの加盟国も、自国が機関に提供する物質を機関が別個に保管するように要求する権利又はその物質が利用されるべき特定の計画を指定する権利を有しないものとする。

第10条 役務、設備及び施設
加盟国は、機関に対し、機関の目的及び任務の遂行に役だつ役務、設備及び施設を提供することができる。

第11条 機関の計画
A 機関のいずれかの加盟国又は加盟国群は、平和的目的のための原子力の研究、開発又は実用化の計画を設定することを希望するときは、このため必要な特殊核分裂性物質及び他の物質、役務、設備並びに施設の確保に当って、機関の援助を要請することができる。この要請には、計画の目的及び範囲の説明を添えるものとし、理事会は、その要請を検討するものとする。
B 機関は、また、要請を受けたときは、いずれかの加盟国又は加盟国群が前記の計画を遂行するため必要な融資を外部から確保するように取りきめることについて、援助することができる。この援助の供与に当つては、機関は、その計画のために、いかなる担保の提供又は財政的責任の負担をも要求されないものとする。
C 機関は、要請を行った加盟国の希望を考慮した上、前記の計画のため必要な物質、役務、設備及び施設が、1若しくは2以上の加盟国により供給されるように取り計らうことができるものとし、又は機関が、みずから、それらのもののいずれか若しくはすべてを直接に提供することを引き受けることができる。
D 機関は、前記の要請を検討するため、計画を審査する資格を有する者をその要請を行った加盟国又は加盟国群の領域内に送ることができる。この目的のため、機関は、その要請を行った加盟国又は加盟国群の承認を得て、機関の職員を使用し、又はいずれかの加盟国の国民で適当な資格を有するものを雇用することができる。
E 理事会は、この条の規定に基く計画を承認する前に、次の事項に妥当な考慮を払うものとする。
 1 計画の有用性(その科学的及び技術的実行可能性を含む。)
 2 計画の効果的な実施を確保するための企画、資金及び技術要員の妥当性
 3 物質の取扱及び貯蔵のため並びに施設の運用のための提案された保健上及び安全上の基準の妥当性
 4 要請を行った加盟国又は加盟国群の必要な資金調達、物質、施設、設備及び役務を確保することについての能力の不足
 5 機関が利用しうる物質及び他の資源の公平な配分
 6 世界の低開発地域における特別の必要
 7 その他関係のある事項
F 機関は、計画を承認したときは、その計画を提出した加盟国又は加盟国群と協定を締結するものとし、その協定は、次のことを定めるものとする。
 1 必要な特殊核分裂性物質及び他の物質の計画への割当
 2 特殊核分裂性物質のその時の保管(機関により保管されているか、又は機関の計画への利用のため提供する加盟国により保管されているかを問わない。) の場所から、計画を提出した加盟国又は加盟国群への、必要な積送の安全を確保し、かつ、妥当な保健上及び安全上の基準に合致する条件の下における移転
 3 機関がみずからいずれかの物質、役務、設備及び施設を提供するときは、その提供の条件(料金を含む。) 並びに、いずれかの加盟国がそれらの物質、役務、設備及び施設を供給するときは、計画を提出した加盟国又は加盟国群と供給国とが取りきめる条件
 4 (a) 提供される援助が、いずれかの軍事的目的を助長するような方法で利用されないこと及び(b) 計画が第12条に定める保障措置(関係保障措置は、協定中に明記するものとする。) に従うべきことについて、計画を提出した加盟国又は加盟国群が行う約束
 5 計画から生ずる発明若しくは発見又はその発明若しくは発見に関する特許についての機関及び関係加盟国の権利及び利益に関する適当な規定
 6 紛争の解決に関する適法な規定
 7 その他の適当な規定
G この条の規定は、また、適当な場合には、既存の計画に関する物質、役務、施設又は設備に対する要請にも適用される。

第12条 機関の保障措置
A 機関は、機関のいずれかの計画に関し、又は、他の取極の関係当時国が機関に対して保障措置の適用を要請する場合に、その取極に関し、その計画又は取極に関連する限度において、次のことを行う権利及び責任を有する。
 1 専門的設備及び施設(原子炉を含む。) の設計を検討すること並びに、その設計が軍事的目的を助長するものでなく、妥当な保健上及び安全上の基準に合致しており、かつ、この条に定める保障措置を実効的に適用しうるものであることを確保するという見地からのみ、その設計を承認すること。
 2 機関が定める保健上及び安全上の措置の遵守を要求すること。
 3 前記の計画又は取極において使用され、又は生産される原料物質及び特殊核分裂性物質の計量性の確保に役だつ操作記録の保持及び提出を要求すること。
 4 経過報告を要求し、及び受領すること。
 5 照射を受けた物質の化学処理のため用いられる方法を、その化学処理が物質の軍事的目的への転用に役だてられるものでなく、かつ、妥当な保健上及び安全上の基準に合致するものであることを確保することのみを目的として、承認すること、回収され又は副産物として生産された特殊核分裂性物質が、関係加盟国の指定する研究のため、又はその指定する既存の若しくは建設中の原子炉において、継続的に機関の保障措置の下で、平和的目的に利用されるように要求すること並びに回収され又は副産物として生産された特殊核分裂性物質で前記の利用のため必要な量をこえる余分のものを、その蓄積を防ぐため、機関に寄託するように要求すること。ただし、機関に寄託されたその特殊核分裂性物質は、その後関係加盟国が要請したときは、前記の規定に基く利用のため、関係加盟国にすみやかに返還されるものとする。
 6 機関が関係国と協議の後指定した視察員を受領国の領域に派遣すること。その視察員は、いつでも、供給された原料物質及び特殊核分裂性物質並びに核分裂性生産物の計量のため、並びに第11条F4にいう軍事的目的の助長のために利用しないことについての約束、この条のA2にいう保健上及び安全上の措置並びに機関と関係国との間の協定に定める他のいずれかの条件に対する違反の有無の決定のために必要なすべての場所、資料及び人(この憲章に基き保障措置の適用が要求される物質、設備又は施設に職掌上関係する者) に近づくことができる。機関が指定した視察員は、関係国の要請を受けたときは、自己の職務の執行を遅滞させられ、又は妨げられないことを条件として、その国の当局の代表者を伴わなければならない。
 7 違反が存在し、かつ、受領国が要請された是正措置を適当な期間内に執らなかつたときは、援助を停止し、又は終止し、並びに当該計画の促進のため機関又は加盟国が提供したいずれかの物質及び設備を撤収すること。
B 機関は、必要な場合には、視察部を設置するものとする。視察部は、機関の承認、監督又は管理を受ける計画に対して適用するために定めた保健上及び安全上の措置に機関が違反していないかどうか、並びに機関が保管し、又はその作業において使用され若しくは生産される原料物質及び特殊核分裂性物質がいずれかの軍事的目的の助長のため使用されることを防止するために、機関が十分な措置を執っているかどうかを決定するため、機関がみずから行うすべての作業を検査する責任を負うものとする。機関は、前記の違反が存在すること又は前記の十分な措置が執られていないことを是正するための改善の措置を直ちに執らなければならない。
C 視察部は、また、この条のA6にいう計量の結果を入手しかつ検認する責任並びに第11条F4にいう約束、この条のA2にいう措置及び機関と関係国との間の協定に定める計画の他のすべての条件に対する違反の有無を決定する責任を負うものとする。視察員は、違反を事務局長に報告しなければならず、事務局長は、その報告を理事会に伝達しなければならない。理事会は、発生したと認める違反を直ちに改善するように受領国に要求ししなければならない。理事会は、その違反をすべての加盟国並びに国際連合の安全保障理事会及び総会に報告しなければならない。受領国が適当な期間内に十分な是正措置を執らなかつた場合には、理事会は、機関又は加盟国が提供する援助の削減又は停止を命ずる措置並びに受領加盟国又は受領加盟国群に提供された物質及び設備の返還を要求する措置のうちの一方又は双方を執ることができる。機関は、また、第19条の規定に従い、違反を行った加盟国に対し、加盟国としての特権及び権利の行使を停止することができる。

第13条 加盟国に対する償還
理事会と物質、役務、設備又は施設を機関に提供する加盟国との間に別段の合意がない限り、理事会は、提供される品目の費用の償還を規定する協定をその加盟国と締結するものとする。

第14条 会計
A 理事会は、機関の費用の年次予算見積を総会に提出するものとする。これに関する理事会の作業を容易にするため、事務局長は、最初に予算見積を準備するものとする。総会は、その見積を承認しなかつたときは、勧告を附して、理事会に返却する。この場合には、理事会は、新たな見積を、承認を得るため総会に提出しなければならない。
B 機関の費用は、次の部門に分類するものとする。
 1 行政費。これには、次のものを含むものとする。
 (a) 機関の職員(B2にいう物質、役務、設備及び施設に関連して雇用される職員を除く。) の費用、会議に要する費用並びに機関の計画の準備及び情報の配布のため必要な費用
 (b) 機関の計画に関して、又は第3条A5の規定によりいずれかの2国間若しくは多数国間の取極に関して、第12条に定める保障措置を実施する費用並びに機関による特殊核分裂性物質の取扱及び貯蔵に要する費用(Eにいう貯蔵及び取扱に要する費用を除く。)
 2 機関がその認められた任務を遂行するために取得し、又は設置した物質、施設、工場及び設備に関する費用(1に掲げる費用を除く。) 並びに機関が加盟国との協定に基き提供する物質、役務、設備及び施設の費用C B1(b) の費用を定めるに当り、理事会は、機関と2国間又は多数国間の取極の当時国との間の保障措置の適用に関する協定に基き回収することができる金額を控除するものとする。
D 理事会は、B1に掲げる費用を、総会が定める基準に従って、加盟国に割り当てるものとする。総会は、この基準を定めるに当り、国際連合がその通常予算に対する国際連合の加盟国の分担金の割当の際に採択した原則を指針とするものとする。
E 理事会は、機関が加盟国に提供する物質、役務、設備及び施設の料金(合理的かつ画一的な貯蔵料及び取扱料を含む。) の基準を定期的に定めるものとする。この基準は、B2に掲げる費用( 理事会がF の規定に従ってB2の使途に充てることのある任意の拠出を引いたもの) をまかなうために十分な収入を機関にもたらすように作成しなければならない。前記の料金収入は、加盟国が提供したいずれかの物質、役務、設備又は施設に対してその加盟国に支払うため、及び機関がみずから必要とするB2に掲げる他の費用をまかなうため使用される別個の資金とする。
F Eにいう収入のうち同項にいう費用をこえる金額及び機関に対する任意の拠出は、理事会が総会の承認を得て決定するところに従って使用される一般資金とする。
G 理事会は、総会が承認した規則及び制限に従うことを条件として、機関のために借入機能を行使する権限(ただし、その権限により行われた借款に関して、機関の加盟国にいかなる責任も負わせてはならない。) を有するものとし、また、機関に対して行われる任意の拠出を受諾する権限を有する。
H 会計上の問題に関する総会の決定及び機関の予算額に関する理事会の決定は、出席しかつ投票する者の3分の2の多数を必要とする。

第15条 特権及び免除
A 機関は、各加盟国の領域内において、機関の任務の遂行のため必要な法律上の能力並びにそのため必要な特権及び免除を享有する。
B 加盟国の代表、代表代理及び顧問、理事会のために任命された理事、その代理及び顧問並びに機関の事務局長及び職員は、機関に関連する自己の任務を独立して遂行するために必要な特権及び免除を享有する。
C この条にいう法律上の能力、特権及び免除は、理事会の指示に従って行動する事務局長によってこの目的のために代表される機関と加盟国との間の別個の1又は2以上の協定において定められるものとする。

第16条 他の機関との関係
A 理事会は, 総会の承認を得て、機関と国際連合との間及び機関と他の機関でその業務が機関の業務と関連があるものとの間の妥当な関係を設定する
 1又は2以上の協定を締結する権限を有する。
B 機関と国際連合との関係を設定する1又は2以上の協定は, 次のことを規定するものとする。
 1 機関が、第3条B4及び5に定める報告を提出すること。
 2 機関が、国際連合の総会又はそのいずれかの理事会により採択された機関に関係のある決議を検討すること並びに、要請を受けたとき、前記の検討の結果機関又は機関の加盟国がこの憲章に従って執った措置について、国際連合の適当な機関に対し、報告を提出すること。

第17条 紛争の解決
A この憲章の解釈又は適用に関する問題又は紛争で交渉によって解決されないものは、関係国が他の解決方法について合意する場合を除くほか、国際司法裁判所規定に従い、国際司法裁判所に付託するものとする。
B 総会及び理事会は、それぞれ、国際連合総会の許可を得ることを条件として、機関の活動の範囲内で生ずる法律上の問題に関して、国際司法裁判所の勧告的意見を要請する機能を与えられる。

第18条 改正及び脱退
A この憲章の改正は、いずれの加盟国も提案することができる。事務局長は、改正案の本文の認証謄本を作成し、かつ、総会によるその審議の少くとも90日前までに、これをすべての加盟国に送付するものとする。
B この憲章の規定の全般的再検討の問題は、この憲章の効力発生後の第5回目の年次総会の会期において、同会期の議事日程に記載するものとする。
この再検討は、出席しかつ投票する加盟国の多数決による承認を得たときは、その次の総会において行われる。その後は、この憲章の全般的再検討の問題に関する提案は、同様の手続に従い、総会による決定のため提出することができる。
C 改正は、次の場合において、すべての加盟国につき効力を生ずる。
(i) 総会が、各改正案につき理事会が提出する意見を審議した上、出席しかつ投票する加盟国の3分の2の多数決により承認し、かつ、(ii) 全加盟国の3分の2が、それぞれ自国の憲法上の手続に従って受諾した場合。加盟国による受諾は、第21条Cにいう寄託国政府への受諾書の寄託により行われる。
D 加盟国は、この憲章が第21 条E の規定に従って効力を生じた日から5年後又はその加盟国がこの憲章の改正を受諾することを望まないときはいつでも、第21条Cにいう寄託国政府にあてた書面による脱退通告により、機関から脱退することができるものとし、寄託国政府は、直ちにその旨を理事会及びすべての加盟国に通報しなければならない。
E 加盟国の機関からの脱退は、第11条の規定に従って発生したその加盟国の契約上の義務又は脱退する年についてのその加盟国の財政的義務に影響を及ぼすものではない。

第19条 特権の停止
A 機関の加盟国で機関に対する分担金の支払を滞納しているものは、その滞納金額が当該年度に先だつ2年間に支払うべき分担金の額以上の額となるときは、機関における投票権を失うものとする。もつとも、総会は、支払が行われなかつたことがその加盟国にとってやむを得ない事情によると認めるときは、その加盟国に投票することを許すことができる。
B この憲章又はこの憲章に従って自国が締結したいずれかの協定の規定に継続して違反した加盟国については、理事会の勧告に基き、出席しかつ投票する加盟国の3分の2の多数決をもつて行動する総会が、その加盟国としての特権及び権利の行使を停止することができる。

第20条 定義
この憲章において、
1 「特殊核分裂性物質」とは、プルトニウム239 、ウラン233 、同位元素ウラン235又は233の濃縮ウラン、前記のものの1 又は2 以上を含有している物質及び理事会が随時決定する他の核分裂性物質をいう。ただし、「特殊核分裂性物質」には、原料物質を含まない。
2 「同位元素ウラン235又は233の濃縮ウラン」とは、同位元素ウラン235若しくは233又はその双方を、同位元素ウラン238に対するそれらの2同位元素の合計の含有率が、天然ウランにおける同位元素ウラン238に対する同位元素ウラン235 の率より大きくなる量だけ含有しているウランをいう。
3 「原料物質」とは、次のものをいう。
ウランの同位元素の天然の混合率からなるウラン同位元素ウラン235の劣化ウラントリウム
金属、合金、化合物又は高含有物の形状において前掲のいずれかの物質を含有する物質
他の物質で理事会が随時決定する含有率において前掲の物質の1又は2以上を含有するもの
理事会が随時決定するその他の物質

第21条 署名、受諾及び効力発生
A この憲章は、1956年10月26日に、国際連合又はそのいずれかの専門機関のすべての加盟国による署名のため開放され、かつ、それらの国による署名のため90日間開放しておかれる。
B 署名国は、批准書を寄託することにより、この憲章の当時国となるものとする。
C 署名国の批准書及びこの憲章の第4条Bの規定に基き加盟国としての地位を承認された国の受諾書は、ここに寄託国政府として指定されるアメリカ合衆国政府に寄託するものとする。
D この憲章の批准又は受諾は、各国がその憲法上の手続に従って行うものとする。
E この憲章は、附属書を除くほか、18国(この18国のうちには、カナダ、フランス、ソヴィエト社会主義共和国連邦、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国及びアメリカ合衆国のうち、少くとも3国を含まなければならない。) がBの規定に従って批准書を寄託した時に効力を生ずる。その後に寄託される批准書及び受諾書は、それが受領された日に効力を生ずる。
F 寄託国政府は、この憲章のすべての署名国に対し、各批准書寄託の日及びこの憲章の効力発生の日をすみやかに通報するものとする。寄託国政府は、すべての署名国及び加盟国に対し、いずれかの国がその後この憲章の当事国となる日をすみやかに通報するものとする。
G この憲章の附属書は、この憲章が署名のため開放された最初の日に効力を生ずる。

第22条 国際連合への登録
A この憲章は、寄託国政府により、国際連合憲章第102条の規定に従って登録される。
B 機関と加盟国との間の協定、機関と他の機関との間の協定及び機関の承認を条件とする加盟国間の協定は、機関に登録されるものとする。それらの協定は、国際連合憲章第102条の規定に基き登録を必要とするときは、機関により、国際連合に登録されるものとする。

第23条 正文及び認証謄本
ひとしく正文である中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語により作成されたこの憲章は、寄託国政府の記録に寄託するものとする。この憲章の正当に認証された謄本は、寄託国政府により、他の署名国政府及び第4条Bの規定に基き加盟国としての地位を承認される国の政府に送付されるものとする。

以上の証拠として、下名は、正当に委任を受け、この憲章に署名した。

1956年10月26日に国際連合本部で作成した。

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

1855年(安政2)矢田堀景蔵、勝海舟らが長崎海軍伝習所の一期生に選ばれる(新暦9月10日)詳細
1871年(明治4)日清修好条規」が調印される(新暦9月13日)詳細
1969年(昭和44)冶金学者・化学者村上武次郎の命日詳細
1989年(平成元)小説家森敦の命日詳細


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ohotsukukai01

 今日は、明治時代後期の1907年(明治41)に、ロシアのサンクトペテルブルクにおいて、「日露漁業協約」が調印された日です。
 「日露漁業協約(にちろぎょぎょうきょうやく)」は、日本とロシアとの間で締結された漁業に関する条約で、同年9月9日に批准し、東京において批准書交換、同月11日公付されました。日露戦争の結果、1905年(明治38)9月5日に、「日露講和条約」(ポーツマス条約)が締結され、その第11条「露西亞國ハ日本海・「オコーツク」海及「ベーリング」海ニ瀕スル露西亞國領地ノ沿岸ニ於ケル漁業權ヲ日本國臣民ニ許與セムカ爲日本國ト協定ヲナスヘキコトヲ約ス 」で初めて条約上の権益として日本人の露領漁業権が明文化され、これを受けて調印されたものです。
 その内容は、オホーツク海・ベーリング海などのロシア沿海の漁区の競売、税金、労働者の雇用について日露は同等の取扱いをうけることを定めたもので、漁業技術の高い日本にとって有利にはたらき、サケ・マス漁業の開発が進みました。しかし、1917年(大正6)のソビエト政府成立以降は、日本の北洋漁業独占が困難となり、特に、1919年(大正8)の有効期間終了後は消滅しています。
 以下に、「日露漁業協約及附属議定書」の全文を掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「日露漁業協約及附属議定書」1907年(明治41)7月28日

日本國皇帝陛下及全露西亞國皇帝陛下ハ明治三十八年九月五日卽千九百五年八月二十三日(九月五日)「ポーツマス」ニ於テ締結セラレタル講和條約第十一條ニ依リ一ノ漁業協約ヲ締結セムカ爲日本國皇帝陛下ハ露西亞國駐劄特命全權公使法學博士本野一郞ヲ全露西亞國皇帝陛下ハ外務大臣「メートル、ド、ラ、クール」「アレキサンドル、イズヴォルスキー」、外務次官「コンセイエ、プリヴェ」「コンスタンチン、グバストフ」ヲ各其ノ全權委員ニ任命セリ因テ兩國全權委員ハ互ニ其ノ委任狀ヲ示シ其ノ良好妥當ナルヲ認メ左ノ諸條ヲ協議決定セリ

 第一條 魚類及水產物捕獲製造ノ權利

露西亞帝國政府ハ本協約ノ規定ニ依リ河川及入江(インレット)ヲ除キ日本海、「オコーツク」海及「ベーリング」海ニ瀕スル露西亞國沿岸ニ於テ膃肭獸及臘虎以外ノ一切ノ魚類及水產物ヲ捕獲、採取及製造スルノ權利ヲ日本國臣民ニ許與ス前記入江ハ本協約附屬議定書第一條ニ之ヲ列擧ス

 第二條 漁區貸下ノ方法及右ニ關スル內國待遇

日本國臣民ハ魚類及水產物ノ捕獲及製造ノ目的ヲ以テ特ニ設ケラレタル水陸兩面ニ亙ル漁區ニ於テ魚類及水產物ノ捕獲及製造ニ從事スルコトヲ得ヘシ前記漁區ノ貸下ハ其ノ短期タルト長期タルトヲ問ハス總テ競賣ノ方法ニ依テ之ヲ爲シ日本國臣民ト露西亞國臣民トノ間ニ何等ノ區別ヲ設クルコトナク該事項ニ關シ日本國臣民ハ本協約第一條ニ特定シタル各方面ニ於テ漁區ノ貸下ヲ受ケタル露西亞國臣民ト同一ノ權利ヲ享有スヘシ
前記競賣ノ爲メニ指定シタル時日及場所竝各種漁區ノ貸下ニ關シ必要ナル細目ハ競賣施行ヨリ少クトモ二箇月前浦潮斯德駐在日本國領事へ公然通牒セラルヘシ
特別免許狀ノ效力
特別ノ免許狀ヲ備フル船舶ニ在ル日本國臣民ハ鯨、鱈其ノ他特定漁區內ニ於テ捕獲スルコト能ハサル一切ノ魚類及水產物ノ漁獲ニ從事スルコトヲ得ヘシ

 第三條 岸地ノ使用權

本協約第二條ノ規定ニ依リ漁區ノ貸下ヲ受ケタル日本國臣民ハ其ノ漁區ノ限界內ニ於テ漁業ニ從事スルカ爲貸與セラレタル岸地ヲ自由ニ使用スルノ權利ヲ有スヘシ前記日本國臣民ハ該岸地ニ於テ漁船及漁網ニ必要ナル修繕ヲ加へ、漁網ヲ曳キ、魚類及水產物ヲ揚陸シ竝漁獲物及採取物ヲ鹽漬シ、乾燥シ、製造シ又ハ貯藏スルコトヲ得ヘシ且此等ノ目的ヲ以テ建物、倉庫、小屋及乾燥場ヲ自由ニ築造シ又ハ移轉スルコトヲ得ヘシ

 第四條 漁業權其ノ他ニ對スル課稅ニ關スル內國待遇

本協約第一條ニ特定シタル各方面ニ於テ漁區ノ貸下ヲ受ケタル日本國臣民及露西亞國臣民ハ漁業ヲ爲シ且捕獲物ヲ製造スル權利竝漁業ニ必要ナル動產及不動產ニ對シ賦課シ又ハ賦課セラルルコトアルヘキ一切ノ公課ニ關シテ均等ノ取扱ヲ享クヘシ

 第五條 日本國ニ輸出スル魚類及水產物ノ免稅

露西亞帝國政府ハ沿海洲及黑龍江洲ニ於テ捕獲又ハ採取セラレタル魚類及水產物ニ對シ此等ノ魚類及水產物カ日本國ニ輸出セラルヘキモノナルトキハ其ノ製造セラレタルト否トヲ問ハス何等ノ稅ヲ課スルコトナカルヘシ

 第六條 漁獲及製造ニ使用スル人員ノ國籍

本協約第一條ニ特定セラレタル各方面ニ於テ日本國臣民カ魚類及水產物ノ漁獲又ハ製造ノ爲使用スル人員ノ國籍ニ關シテハ何等ノ制限ヲ設クルコトナカルヘシ

 第七條 魚類等ノ製造方法ノ制限ニ關スル內國待遇

魚類及水產物ノ製造方法ニ關シテハ露西亞帝國政府ハ本協約第一條ニ特定セラレタル各方面ニ於テ漁區ノ貸下ヲ受ケタル露西亞國臣民ニ加ヘサル特別ノ制限ヲ日本國臣民ニ加フルコトナキヲ約ス

 第八條 漁業權取得者ノ日本國ト漁場トノ直接往復

漁業權ヲ取得シタル日本國臣民ハ日本國ニ於テ當該露西亞國領事ノ發シタル證明書及日本國官憲ノ發シタル健康證書ヲ有スル船舶ヲ以テ日本國ト漁場トノ間ニ直接往復スルコトヲ得ヘシ
漁業權取得者ノ各漁場間ノ運搬權
前記船舶ハ何等ノ公課ヲ課セラルルコトナク一ノ漁場ヨリ他ノ漁場ヘ漁業上必要ナル人員、物件竝漁獲物及採取物ヲ運搬スルコトヲ得ヘシ但シ前記船舶ハ他ノ一切ノ關係ニ於テハ沿岸航海ニ關スル露西亞國ノ現行又ハ將來ノ法律ヲ遵守スヘキモノトス

 第九條 魚類ノ養殖保護等ノ法令ニ關スル內國待遇

本協約第一條ニ特定シタル各方面ニ於テ漁區ノ貸下ヲ受ケタル日本國臣民及露西亞國臣民ハ魚類ノ養殖方法、魚類及水產物ノ保護、此等產業ニ關スル取締竝漁業上他ノ一切ノ事項ニ關スル現行又ハ將來ノ法律、命令及規則ニ關シ均等ノ取扱ヲ受クヘシ
前記法律及命令カ新ニ制定セラレタルトキハ其ノ施行ヨリ少クトモ六箇月前日本國政府ニ通牒セラルヘシ
前記規則カ新ニ發布セラレタルトキハ其ノ施行ヨリ少クトモ二箇月前浦潮欺德駐在日本國領事ニ通牒セラルヘシ

 第十條 日本漁業者ノ內國待遇

本協約ニ於テ特ニ規定セサル事項ト雖本協約第一條ニ特定シタル各方面ニ於ケル漁業ニ關係スルモノニ付テハ日本國臣民ハ前記各方面ニ於テ漁區ノ貸下ヲ受ケタル露西亞國臣民ト同一ノ待遇ヲ享クヘシ

 第十一條 特定方面以外ノ借區內ニ於ケル魚類等ノ製造ニ關スル最惠國待遇

日本國臣民ハ本協約第一條ニ特定シタル各方面以外ノ借區內ニ於テ一切ノ魚類及水產物ノ製造ニ從事スルコトヲ得ヘシ但シ此ノ場合ニ於テハ霞{前1文字ママ}西亞國在留一切ノ外國人ニ適用セラルル現行又ハ將來ノ法律、命令及規則ヲ遵守スヘシ

 第十二條 沿海洲及黑龍江洲ノ漁獲物ニ對スル輸入稅ノ免除

日本帝國政府ハ露西亞帝國政府カ本協約ニ依リ日本國臣民ニ對シ漁業權ヲ許與シタルコトニ鑑ミ沿海洲及黑龍江洲ニ於テ漁獲又ハ採取シタル魚類及水產物ニ對シ其ノ製造セラレタルト否トヲ問ハス何等ノ輸入稅ヲ課スルコトナキヲ約ス

 第十三條 本協約ノ有效期間

本協約ハ十二箇年間效力ヲ有スヘク毎十二箇年ノ終ニ於テ兩締約國相互ノ合意ニ依リ之ヲ更新又ハ改正スヘキモノトス

 第十四條 本協約ノ批准

本協約ハ批准セラルヘシ而シテ其ノ批准書ハ成ルヘク速ニ且如何ナル場合ニ於テモ調印後四箇月以內ニ東京ニ於テ交換セラルヘシ

右證據トシテ兩國全權委員ハ本協約ニ記名調印スルモノナリ

 明治四十年七月二十八日卽千九百七年七月十五日(二十八日)聖彼得堡ニ於テ之ヲ作ル

  本野一郞<印>
  イズヴォルスキー<印>
  グバストフ<印>

 同上附屬議定書

日本國皇帝陛下ノ政府及全露西亞國皇帝陛下ノ政府ハ本日調印シタル漁業協約ヨリ生スル或種ノ問題ヲ決定スルノ必要アルヲ認メタルニ因リ兩國全權委員ハ左ノ諸條ヲ協議決定セリ

 第一條 除外入江ノ名稱

本日調印シタル漁業協約第一條ニ記載シタル例外トナルヘキ入江(インレット)ハ左ノ如シ
 一 「ラウレンチイヤ」灣(「プナウグン」岬ト「カルギラク」岬トヲ連結スル直線ニ至ル迄)
 二 「メチグメンスカヤ」灣
 三 「コニアム」灣一名「ペンケグネイ」灣(「ネチホノン」岬ト「カラブ、ビーク」トヲ連結スル直線ニ至ル迄)
 四 「アボレエシエフ」灣一名「コロガン」灣
 五 「ルメレート」灣
 六 「プロヴェデエーニエ」灣(「レソフスキー」岬ト「ルイサヤ、ガラワ」トヲ連結スル直線ニ至ル迄)
 七 「クレスト」灣(「メエエチケン」岬ト同緯線ニ至ル迄)
 八 「アナドイル」灣(「ワシィリヤ」岬ト「グエック」岬トヲ連結スル直線ニ至ル迄)
 九 「パアウエル」灣
 十 「シリューポチナヤ、ガーワニ」
 十一 「チェレニエ」湖
 十二 「シエスチフウトーオエ」湖
 十三 「バロン、コルフ」灣ノ北部
 十四 「カラーガ」港
 十五 「ベチェヴヰンスカヤ」灣{ヰは原文では捨て仮名}
 十六 「アヴアチンスカヤ」灣(「ベヅイミヤンヌイ」岬ト「ダルニー」岬トヲ連結スル直線ニ至ル迄)
 十七 「ペンヂンスカヤ」灣(「マメート」岬ト同緯線ニ至ル迄)
 十八 「コンスタンチン」太公灣
 十九 「ニコライ」灣(「ラムスドルフ」岬ト「グロテ」岬トヲ連結スル直線ニ至ル迄)
 二十 「スチヤスチヤ」灣
 二十一 「バイカル」灣(「チャウノ」岬ト「ヴヰトウトフ」岬トヲ連結スル直線ニ至ル迄){ヰは原文では捨て仮名}
 二十二 「ヌイスキー」灣
 二十三 「ナビリスキー」灣
 二十四 「クレストーワヤ」灣
 二十五 「スタルク」灣
 二十六 「ワニン」灣(「ヴエッセリー」岬「トブールニー」岬トヲ連結スル直線ニ至ル迄)
 二十七 「イムペラートルスカヤ、ガーワニ」(「ミリウチン」岬ト「プチャーチン」岬トヲ連結スル直線ニ至ル迄)
 二十八 「テルネイ」灣(「ストラーシヌイ」岬ト同子午線ニ至ル迄)
 二十九 「ウラヂーミル」灣(「バリユーゼク」岬ト「バトフスキー」岬トヲ連結スル直線ニ至ル迄)
 三十 「プレオブラジエーニエ」灣ノ北東部ニ在ル小ナル入江(「マトヴエーエフ」岬ト同子午線ニ至ル迄)
前記例外ハ露西亞國領水ノ範圍內ニ於テノミ其ノ效力ヲ及ホスヘキモノタルハ別ニ言ヲ俟タサルモノトス

オコーツク海北岸ニ於ケル入江ノ定議

「ポドカゲルナヤ」河口ヨリ「アヤン」港ニ至ル「オコーツク」海ノ北岸ニ於テハ「ペンヂンスカヤ」灣(第十七條參照)ヲ除キ前記例外トナルヘキ入江(インレット)ハ下ノ定義ニ從ヒ之ヲ決定スヘシ卽陸地ニ灣入セル部分ノ長(「タルウェッグ」ノ長)江口ノ幅ノ三倍以上ニ及フ灣ハ之ヲ例外トナルヘキ入江トス

漁業禁止區域

右ノ外左記ノ港灣ノ領水範圍內ニ於テハ軍略上ノ理由ニ依リ日本國臣民及他ノ諸外國人ニ對シテ漁業ヲ禁止スヘシ

 一 「デ、カストリー」灣及「フレデリックス」灣(「カストリー」岬ト「クロステル、カンプ」岬トヲ連結スル直線及「クロステル、カンプ」岬ト「オストルイ」岬トヲ連結スル直線ニ至ル迄)
 二 「オリガ」灣(「マネフスキー」岬ト「シユコート」岬トヲ連結スル直線ニ至ル迄)
 三 彼得大帝灣(「バワロートヌイ」岬ヨリ「ガモウ」岬ニ至ル迄但シ灣內ノ群島ヲ包含ス)
 四 「ポシエット」灣(「ガモウ」岬ヨリ「ブタコウ」岬ニ至ル迄)

 第二條 河海ノ境界

河ト海トノ境界ニ關シテハ兩締約國ハ國際法ノ原則及慣例ニ從テ之ヲ決定スヘシ

 第三條 黑龍江海灣漁業權ノ特別條件

漁業協約ニ依リ黑龍江海灣(リマン)ニ於テ日本國臣民ニ許與セラレタル漁業權ハ左ノ特別條件從フヘキモノトス

 一 日本國臣民ハ該方面ニ於テ露西亞國臣民ト均シク競賣ノ方法ニ依リ漁區ノ貸下ヲ受クルコトヲ得ヘシ
 二 漁區ノ貸下ヲ受ケタル日本國臣民ハ漁業上一切ノ關係ニ於テ漁區競落人タル露西亞國臣民ト均シク黑龍江沿岸河川漁業ニ關シ制定セラレ又ハ制定セラルヘキ法律、命令及規則ニ從フヘク特ニ該方面ニ於ケル漁區借受人ニ對シ外國勞働者ノ使用ヲ禁止スル規則ニ從フヘキモノトス

 第四條 漁區ノ貸下法漁業法令ニ關スル內國待遇

日本國臣民ハ漁業協約第一條ニ特定シタル各方面何レノ所ニ於テモ漁區ノ貸下ヲ請願スルトキハ競賣ノ方法ヲ以テ其ノ貸下ヲ受クルコトヲ得ヘシ但シ前記各方面ニ於ケル魚類ノ養殖及保護、此等產業ノ取締其ノ他漁業ニ關スル現行又ハ將來ノ法律、命令及規則ヲ遵守スルヲ要ス尤日本國臣民ハ前記法律、命令及規則カ前記各方面ニ於テ漁區ノ貸下ヲ受ケタル露西亞國臣民ニ適用アルニアラサレハ之ニ服從スルコトヲ要セサルハ言ヲ俟タサルモノトス

 第五條 漁區ノ貸下ヲ受ケタル露國臣民

「漁區ノ貸下ヲ受ケタル露國亞國臣民」ナル名稱ハ(漁業協約第二條、第四條、第七條、第九條及第十條竝本議定書第四條參照)特別ノ取扱ヲ受クル移住民及土民ニハ之ヲ適用セサルモノトス

 第六條 移住民土民漁業權ノ留保

露西亞帝國政府ハ競落人ニ貸下ケタル漁區ノ存在セサル場所ニ定住ノ爲來着スル移住民ニ對シテハ漁業權ヲ許與スルノ權利ヲ留保スルハ言ヲ俟タサルモノトス土民ニ對シテモ亦同シ
露西亞國政府ハ一度漁區ヲ開設シタル場所ニ於テ漁業協約存續期間內移住民又ハ土民ニ前項ノ權利ヲ許與セサルへキコトヲ約ス
移住民タル資格ハ勞働者ヲ使用スルコトナク自ラ漁業ニ從事スル者及其ノ家族ニノミ之ヲ認ムルモノトス

 第七條 現在漁區

露西亞帝國政府ハ漁業協約第一條ニ特定シタル各方面ニ於テ既ニ存在スル漁區ハ移住民カ自己ノ漁業ノ爲現今占有スルモノヲ除クノ外該協約存續期間內之ヲ開キ置クヘキコトヲ將來ノ爲保證ス

 第八條 漁區ノ貸下期間

競賣ニ付スル漁區ノ貸下期間ハ左ノ如ク之ヲ定ム
 (一)漁業協約施行後ニ於テ始メテ開カルル漁區ニ付テハ一箇年
 (二)一箇年間既ニ經營シタル漁區ニ付テハ三箇年
 (三)三箇年ノ第一期間既ニ經營シタル漁區ニ付テハ三箇年
 (四)三箇年ツツ二期間既ニ經營シタル漁區ニ付テハ五箇年

 第九條 漁業協約滿了ノ際貸下期限未到達ノ漁區

漁業協約第十三條ニ記載シタル十二箇年ノ期間終了ノ際ニ於テ未タ貸下ノ期限到來セサル漁區ハ漁業協約ニ關シ兩締約國ノ爲スヘキ決定如何ニ拘ハラス其ノ貸下ニ付定メタル期間內引續キ有效ナルモノトス

 第十條 鰊及鰊以外ノ魚類ノ肥料製造及紅魚ノ製造ニ關スル權利

露西亞帝國政府ハ日本國臣民カ鰊及鰊群來ノトキ鰊ト共ニ偶然網中ニ入リタル他ノ各種魚類ヲ以テ肥料ヲ製造スルコトニ異義ナシ又日本國臣民カ日本風ノ製法ニ依リ紅魚(鮭鱒ノ種屬)ヲ製シ且鹽漬又ハ鹽引ニスルコトニ關シテモ亦同シ

 第十一條 航海證書

日本國ト露西亞國領水內ノ漁場トノ間ヲ往復スルコトニ關スル航海證書ハ左記ノ事項ヲ證明スヘキ書類ヲ提出シタル日本國漁業者ニ對シ當該露西亞國領事館ヨリ之ヲ交付スヘシ
 一 船舶カ囘航セムトスル一箇又ハ數箇ノ漁區ノ貸下ヲ受ケタル權利
 二 乘組人ノ員數
 三 單ニ漁業ニノミ使用セラルヘキ載貨ノ性質及積量
航海證書ニハ左記ノ事項ヲ記載スヘシ
 一 船舶及船籍港ノ名
 二 漁業者卽一箇又ハ數箇ノ漁區ノ借受權利者ノ名
 三 船舶ノ囘航先ナル一箇又ハ數箇ノ漁區ノ所在地
 四 載貨ノ性質及積量
 五 乘組人ノ員數
前記航海證書及健康證書ヲ有スル船舶ハ航海證書ニ記載シタル露國沿岸ノ地點ニノミ到リ且該地點ニノミ碇泊スルコトヲ得ヘシ該船舶カ常ニ關稅港ニ出入スルコトヲ得ヘキハ言ヲ俟タサルモノトス
鯨鱈等漁獲免許狀
漁業協約第二條第三項ニ依リ鯨、鱈等ノ漁獲ヲ爲スカ爲露西亞國領水內ニ到ル日本船舶ハ豫メ露西亞國ノ特定港ニ碇泊シ當該露國官憲ヨリ該漁獲ニ關シ特別ナル免許狀ノ給付ヲ受クヘシ該免許狀ハ同時ニ航海證書タル性質ヲ有スルモノトス

 第十二條 建網ノ使用

日本國臣民ノ占有スル一切ノ漁區ニ於テハ其ノ河口ニ最モ接近セルモノノ外通常ノ建網ヲ使用スルコトヲ得ヘシ河口ニ最モ接近セル漁區ニ於テモ曳網ニ依リ漁獲ヲ行フコトヲ得サル場合ニ於テハ建網ノ使用ヲ禁止セサルへキコトヲ約ス

 第十三條 魚類及水產物ノ定義

漁業協約及附屬議定書中ニ使用セル「漁類及水產物」ナル文字ハ膃肭獸及獵虎ヲ除クノ外一切ノ魚類、水產動植物其ノ他一切ノ水產物ヲ指示スルモノト解スヘキモノトス

 第十四條 本議定書ハ本日調印シタル漁業協約ノ批准ニ依リ批准セラレタルモノト看做サルヘシ

本議定書ノ存續期間ハ前記協約ノ存續期間ト同一ナルモノトス

右證據トシテ兩國全權委員ハ本議定書ニ記名調印スルモノナリ

 明治四十年七月二十八日卽西曆千九百七年七月十五日(二十八日)聖彼得堡ニ於テ本書二通ヲ作ル
   本野一郞印
   イズヴォルスキー印
   グパストフ印

   「條約彙纂 第一卷」外務省條約局編より

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1873年(明治6)「太政官布告第272号(地租改正)」と付属の「地租改正条例」が公布される詳細
1941年(昭和16)日本軍が南部仏印進駐を開始する詳細
1965年(昭和40)推理小説家江戸川乱歩の命日(乱歩忌)詳細
1989年(平成元)「緑の文明学会」・「社団法人日本公園緑地協会」が日本の都市公園100選を選ぶ詳細


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 今日は、昭和時代前期の1940年(昭和15)に、大本営政府連絡会議において、「世界情勢ノ推移ニ伴フ時局処理要綱」が決定された日です。
 「世界情勢ノ推移ニ伴フ時局処理要綱(せかいじょうせいのすいいにともなうじきょくしょりようこう)」は、大本営と政府間の協議のために設定された大本営政府連絡会議において決定された、第二次近衛内閣の下で泥沼化した日中戦争に対処するための基本国策文書でした。
 1939年(昭和14)9月に始まった第二次世界大戦のヨーロッパ戦線におけるドイツ、イタリアの緒戦の勝利が伝えられる中で、泥沼化した日中戦争にもがき苦しんでいた日本政府が、ひたすらドイツ、イタリアの勝利の余勢に便乗し、泥沼からの脱却を目論みます。第二次近衛内閣発足5日後に大本営政府連絡会議が開催され、南方への武力展開を構想し、後の「大東亜共栄圏」への道筋を示したものでした。
 以下に、「世界情勢ノ推移ニ伴フ時局処理要綱」を全文掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「世界情勢ノ推移ニ伴フ時局処理要綱」1940年(昭和15)7月27日大本營政府連絡会議決定

方針

帝国ハ世界情勢ノ変局ニ対処シ内外ノ情勢ヲ改善シ速二支那事変ノ解決ヲ促進スルト共二好機ヲ捕捉シ対南方問題ヲ解決ス
支那事変ノ処理未タ終ラサル場合ニ於テ対南方施策ヲ重点トスル態勢転換ニ関シテハ内外諸般ノ情勢ヲ考慮シ之ヲ定ム
右二項ニ対処スル各般ノ準備ハ極力之ヲ促進ス

要領

㐧一条 支那事変処理ニ関シテハ政戦両略ノ綜合力ヲ之ニ集中シ特ニ㐧三国ノ援蒋行為ヲ絶滅スル等凡ユル手段ヲ尽シテ速ニ重慶政権ノ屈服ヲ策ス
 対南方施策ニ関シテハ情勢ノ変転ヲ利用シ好機ヲ捕捉シ之カ推進ニ努ム

㐧二条 対外施策二関シテハ支那事変処理ヲ推進スルト共ニ対南方問題ノ解決ヲ目途トシ概ネ左記ニ依ル
 一、先ツ対独伊蘇施策ヲ重点トシ特ニ速ニ独伊トノ政治的結束ヲ强化シ対蘇国交ノ飛躍的調整ヲ図ル
 二、米国ニ対シテハ公正ナル主張ト厳然タル態度ヲ持シ帝国ノ必要トスル施策遂行ニ伴フ已ムヲ得サル自然的悪化ハ敢テ之ヲ辞セサルモ常ニ其動向ニ留意シ我ヨリ求メテ摩擦ヲ多カラシムルハ之ヲ避クル如ク施策ス
 三、佛印及香港等ニ対シテハ左記ニ依ル
 (イ)佛印(広洲湾ヲ含ム)ニ対シテハ援蒋行為遮断ノ徹底ヲ期スルト共ニ速ニ我軍ノ補給担任、軍隊通過及飛行場使用等ヲ容認セシメ且帝国ノ必要ナル資源ノ獲得ニ努ム情況ニヨリ武力ヲ行使スルコトアリ
 (ロ)香港ニ対シテハ「ビルマ」ニ於ケル援蒋「ルート」ノ徹底的遮断ト相俟チ先ツ速ニ敵性ヲ芟除スル如ク强力ニ諸工作ヲ推進ス
 (ハ)租界ニ対シテハ先ツ敵性ノ芟除及交戦国軍隊ノ撤退ヲ図ルト共ニ逐次支那側ヲシテ之ヲ回収セシムル如ク誘導ス
 (ニ)前二項ノ施策ニ当リ武力ヲ行使スルハ㐧三条ニ依ル
 四、蘭印ニ対シテハ暫ク外交的措置ニ依リ其重要資源確保ニ努ム
 五、太平洋上ニ於ケル旧独領及佛領島嶼ハ国防上ノ重大性ニ鑑ミ成シ得レハ外交的措置ニ依リ我領有ニ帰スル如ク処理ス
 六、南方ニ於ケル其他ノ諸邦ニ対シテハ努メテ友好的措置ニヨリ我工作ニ同調セシムル如ク施策ス

㐧三条 対南方武力行使ニ関シテハ左記ニ準拠ス
 一、支那事変処理概ネ終了セル場合ニ於テハ対南方問題解決ノ為内外諸般ノ情勢之ヲ許ス限リ好機ヲ捕捉シ武力ヲ行使ス
 二、支那事変ノ処理未タ終ラサル場合ニ於テハ㐧三国ト開戦ニ至ラサル限度ニ於テ施策スルモ内外諸般ノ情勢特ニ有利ニ進展スルニ至ラハ対南方問題解決ノ為武力ヲ行使スルコトアリ
 三、前二項武力行使ノ時期、範囲、方法等ニ関シテハ情勢ニ応シ之ヲ決定ス
 四、武力行使ニ当リテハ戦争対手ヲ極力英国ノミニ局限スルニ努ム
   但シ此ノ場合ニ於テモ対米開戦ハ之ヲ避ケ得サルコトアルヘキヲ以テ之カ準備ニ遺憾ナキヲ期ス

㐧四条 国内指導ニ関シテハ以上ノ諸施策ヲ実行スルニ必要ナル如ク諸般ノ態勢ヲ誘導整備シツツ新世界情勢ニ基ク国防国家ノ完成ヲ促進ス
 之カ為特ニ左ノ諸件ノ実現ヲ期ス
 一、强力政治ノ実行
 二、総動員法ノ広汎ナル発動
 三、戦時経済態勢ノ確立
 四、戦争資材ノ集積及船腹ノ擴充
   (繰上輸入及特別輸入最大限実施竝ニ消費規正)
 五、生産擴充及軍備充実ノ調整
 六、国民精神ノ昂揚及国内輿論ノ統一

〇「大本営政府連絡会議(だいほんえいせいふれんらくかいぎ)」とは?

 日中戦争(支那事変)勃発後の1937年(昭和12)11月20日に大本営が設置された際、政治と統帥との関係を調整するために設けられた会議です。
 第1回目の連絡会議は同月24日に、第1次近衛文麿内閣の下で、参謀総長、軍令部総長、陸軍大臣、海軍大臣等のメンバーを集めて、首相官邸で開かれました。その後、第1次近衛内閣の下では、何度か開催されましたが、続く、平沼、阿部、米内の各内閣では開かれていません。
 1940年(昭和15)7月に第2次近衛内閣が組閣されると7月27日に2年ぶりに復活し、同年11月28日からはそれまでの連絡会議よりも「軽易に政府と統帥部との連絡懇談」を行なうことを目的とし、大本営政府連絡懇談会が開催されるようになりました。そして、第3次近衛文麿内閣成立直後の1941年(昭和16)7月21日からは、内閣総理大臣、外務大臣、企画院総裁が常任の構成員に加わり、連絡懇談会に代わり連絡会議が定期的に開かれることとなります。
 以後、1944年(昭和19)7月に、東条英機内閣が総辞職するまで続けられたものの、小磯内閣組閣時の8月に開かれた連絡会議で、「最高戦争指導会議」に発展的解消されました。尚、太平洋戦争開戦の決定および戦争指導についての重要事項は、天皇臨席の連絡会議、すなわち御前会議で行われています。

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

1719年(享保4)幕臣・大名・老中田沼意次の誕生日(新暦9月11日)詳細
1835年(天保6)日本画家橋本雅邦の誕生日(新暦8月21日)詳細
1976年(昭和51)田中角榮前首相がロッキード事件で東京地検に逮捕される詳細
1995年(平成7)人吉仮出入口~えびのIC間の開通(暫定2車線)により、九州自動車道が全線開通する詳細
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