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 今日は、昭和時代前期の1940年(昭和15)に、近衛文麿の東京の私邸(荻外荘)に於いて、荻窪会談が開催された日です。
 荻窪会談(おぎくぼかいだん)は、第二次近衛内閣の組閣を任された近衛文麿が、東京府東京市杉並区の私邸(荻外荘)で、大臣就任予定者を招いて開いた会談で、松岡洋右(外相)、吉田善吾(海相)、東條英機(陸相)の計4名が参加しました。ここにおいて、ドイツ・イタリアとの提携強化を含む第二次近衞内閣(7月22日発足)の基本方針が話し合われます。
 当時は、日中戦争が長期化・大規模化する中、ドイツ軍の電撃戦の成功によって、ドイツはベルギー、フランスを席巻し、さらにフランスを降伏させたことで日本の支配層の南進の野望が大きくなった時代背景の下にありました。その内容は、戦争路線の方針決定、日独伊枢軸の強化、日ソ不可侵協定の締結、英・仏・蘭・葡の植民地を東亜新秩序に包含せしめるための積極的処理の実施などとなります。
 この会談後、7月22日に第二次近衛内閣が発足し、その政策として、日独伊三国同盟の締結・全政党解散・大政翼賛会の発会などが行われ、日本型ファシズムの道へと邁進しました。しかし、日米開戦の回避を巡る政府部内で意見が対立し、近衛首相は東條陸相と何度も話し合いをしたものの、妥協点が見つからず、なお戦争回避を模索しつつ、1941年(昭和16)10月16日に総辞職します。
 その後、東條英機内閣が成立しましたが、同年12月8日に「米國及英國ニ對スル宣戰ノ詔書(宣戦詔勅)」が出され、米英両国に宣戦布告、太平洋戦争に突入することとなりました。
 以下に、「荻窪会談覚書」を掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「荻窪会談覚書」 1940年(昭和15)7月19日

一九四〇年七月十九日

一、 支那事變ノ處理及世界新情勢ニ對應スヘキ我方施策ヲ展開スルタメ我戰時經濟政策ノ强化確立ヲ以テ內外政策ノ根基トス之カタメ我經濟活動ハ作戰軍カ軍ノ生存上自ラ處理指導スルコトヲ絕對必要トスルモノヲ除キ一切政府ニ於テ一元的ニ指導シ極力之ヲ振作ス

二、 對世界政策
(一) 世界情勢ノ急變ニ對應シ且速ニ東亞新秩序ヲ建設スルタメ日獨伊樞軸ノ强化ヲ圖リ東亞諸國ハ互ニ策應シテ諸般ノ重要政策ヲ遂行ス但シ右樞軸强化ノ方法及ヒ之カ實現ノ時機等ニ就テハ世界情勢ニ卽應シテ機宜ヲ失ハサルコトヲ期ス
(二) 對ソ關係ハ之ト日滿蒙間國境不可侵協定(有効期間五年乃至十年)ヲ締結シ且懸案ノ急速解決ヲ圖ルト共ニ右不可侵協定有効期間內ニ對ソ不敗ノ軍備ヲ充實ス。
(三) 東亞及隣接島嶼ニ於ケル英佛蘭葡殖民地ヲ東亞新秩序ノ內容ニ包含セシムルタメ積極的ノ處理ヲ行フ但右ニ關シ列國會議ヲ排除スルニ努ム
(四) 米國ニ對シテハ無用ノ衝突ヲ避クルモ東亞新秩序ノ建設ニ關スル限リ彼ノ實力干涉ヲモ排除スルノ固キ決意ヲ以テ我方針ノ實現ヲ期ス

  「日本外交年表竝主要文書 下巻」外務省編より

☆荻窪会談から太平洋戦争開戦に至る略年表

<1940年(昭和15)>

・7月19日 荻窪会議が開催される
・7月21日 第二次近衛内閣が発足、日本労働総同盟が自主解散を決議し、産業報国会に合流する
・7月26日 第二次近衛内閣によって国家の政策の基本方針である「基本国策要綱」が閣議決定される
・7月27日 大本營政府連絡会議において「世界情勢ノ推移ニ伴フ時局処理要綱」が決定される
・8月1日 東京府が食堂・料理屋などでの米食使用を禁止し、販売時間制を実施、東京に「ぜいたくは敵だ!」の立看板1,500本が立てられる
・8月15日 立憲民政党が解党され、日本の全政党が解散、大日本農民組合も解散される
・8月19日 新協・新築地両劇団員100余人が検挙される
・8月30日 文部省が学生生徒の映画・演劇鑑賞を土曜・休日に限ると通達する
・9月 鉄道省によって駅構内の英語表記撤廃検討される
・9月11日 内務省が「部落会町内会等整備要領」を通達、隣組(隣保班)が制度化される
・9月27日 日独伊三国同盟が締結される
・10月6日 大阪で、女子モンペ部隊が、贅沢全廃強調大行進を行う
・10月10日 「牛乳および乳製品配給統制規則」が交布される
・10月12日 大政翼賛会が発足する
・10月24日 農林省令「米穀管理規則」が交布される
・10月31日 東京でダンスホールが完全閉鎖され、タバコの改名が発表される(ゴールデンバット→金鵄、チェリー→桜、カメリア→椿など)
・11月1日 砂糖・マッチ切符制の全国実施がされる
・11月2日 「国民服令」が公布・施行、男子の服装として国民服が定められる
・11月10日 紀元2600年祝賀行事が行われる(昼酒が許可されもち米が特配される)
・11月23日 大日本産業報国会が結成される

<1941年(昭和16)>

・1月1日 全国の映画館で、ニュース映画の強制上映が実施される
・1月11日 「新聞紙等掲載制限令」が公布される
・1月16日 大日本青少年団が結成される
・1月22日 「人口政策確立要綱」が閣議決定される(生めよ殖やせよ)
・1月25日 東京などの商店で午後9時閉店を実施する
・3月1日 「国民学校令」が交布され、尋常小学校(6年)・高等小学校(2年)が、国民学校(初等科6年・高等科2年)に変更される
・3月7日 「国防保安法」が交布される
・3月10日 「治安維持法」改正(予防拘禁制を追加)が交布される
・3月19日 時間外電報が廃止され、慶弔電報の取扱いが中止され、厚生省が婦人標準服研究会を組織する
・3月31日 朝鮮総督府、朝鮮語を学習科目から外す
・4月1日 「生活必需物資統制令」が交布され、六大都市で米穀配給通帳制(1日1人2合3勺=約330g)が実施、米の配給受け取りに必要となる
・4月上旬 中学校新入生の制服が男子は国民服に戦闘帽、女子は襟を右前にしたへちま型となる
・5月8日 初の「肉なしデー」実施、以後月2回とされる(肉屋・食堂で肉の不売実施)
・5月19日 東京市が夏季ビールの配給は1世帯8本と決定する
・6月7日 家庭用食用油の切符制が実施される
・6月10日 「新婦人団体結成要綱」が閣議決定される
・7月1日 全国の隣組、いっせいに常会を開く(以後毎月1日実施)
・7月2日 第5回御前会議において「情勢ノ推移ニ伴フ帝国国策要綱」が決定される
・7月18日 第三次近衛内閣が発足する
・7月21日 文部省教学局から『臣民の道』が刊行される
・7月28日 日本軍が南部仏印進駐を開始する
・8月10日 鉄道省がガソリン節約のためガソリンカーの運転を削減する
・8月30日 「金属類回収令」が交布され、大学に教練担当現役将校が配属される
・9月1日 東京市で砂糖・マッチ・小麦粉・食用油の集成配給切符制が実施され、ガソリンを使用するタクシーが禁止される
・9月6日 第6回御前会議において「帝国国策遂行要綱」が決定される
・9月19日 内閣情報局の指示で、映画制作会社10社が松竹・東宝・大映の三社に統合される
・10月1日 一般家庭用ガスの使用制限が実施される
・10月4日 「臨時郵便取締令」が公布され、外国郵便を開封検閲するようになる
・10月10日 農林省が芋類の増産と桑園の整理を通牒する
・10月16日 第三次近衛内閣が総辞職し、東条英機内閣が誕生する
・10月19日 婦人国民服が公募され、入選発表される
・11月 たばこが値上げされる(敷島35銭、朝日25銭、光18銭)
・11月5日 第7回御前会議において「帝国国策遂行要綱」が決定される
・11月22日 「国民勤労報国協力令」が交布され、14~40歳の男子と14~25歳の未婚女子の年30日以内の勤労奉仕が義務化される
・12月8日 「米國及英國ニ對スル宣戰ノ詔書(宣戦詔勅)」が出され、米英両国に宣戦布告、太平洋戦争が始まる

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