今日は、昭和時代中期の1947年(昭和22)に、片山哲内閣によって、「新日本建設国民運動要領」が閣議決定された日です。
「新日本建設国民運動要領(しんにほんけんせつこくみんうんどうようりょう)」は、太平洋戦争敗戦後の荒廃した日本を再建するため「新日本建設国民運動」を推進しようという、片山哲内閣での閣議決定でした。内容は、①勤労意欲の高揚、②友愛協力の発揮、③自立精神の養成、④社会正義の実現、⑤合理的・民主的な生活慣習の確立、⑥芸術、宗教およびスポーツの重視、⑦平和運動の推進という七つの目標を達成するための国民運動の展開を呼びかけたものです。
これに基づいて、動員の対象とされたのは、各界代表者、学校、学校関係団体、青年団、婦人会、労働組合、農民組合、各種産業団体、法曹団体、文化団体、宗教団体などで、新聞、雑誌、放送、映画、演劇、音楽、文芸などのメディアの参加も求められました。その中で、憲法普及会と同会を主体とした、日本国憲法に基づく政治教育運動の推進がうたわれていましたが、憲法普及会が1947年(昭和22)末に解散したため、実現していません。
一方、新生活運動推進協議会という地域組織が各地につくられ、片山内閣が退陣し、1955年(昭和30)の保守合同後も、鳩山内閣時の1956年(昭和31)に「(財)新生活運動協会」が設立されます。この組織は、都道府県に支部をおき、より民主的、合理的、文化的な生活を実現することを目的として、①公衆道徳の高揚・助けあい運動・健全娯楽の振興、②冠婚葬祭の簡素化・無駄の排除・貯蓄と家計の合理化・時間励行、③生活行事や慣習の改善・迷信因習の打破、④衣食住の改善・保健衛生の改善、⑤家族計画、など多岐にわる運動を展開し、地域や企業によっては住民ぐるみ、従業員ぐるみの運動となりました。
以下に、閣議決定された「新日本建設国民運動要領」を全文掲載しておきますので、ご参照下さい。
〇「新日本建設国民運動要領」1947年(昭和22)6月20日 閣議決定
勤労を尊ぶ民主的・平和的な文化国家をその現実の目標としながら、敗戦日本の国民生活は、いまや崩壊の危機にひんしている。
財政の窮乏と生産の停滞、インフレーションの高進とヤミの横行などの経済的な悪条件がかさなり合つて、国民の生活苦と生活不安がますます深まり行く反面では、道義はたい廃し、思想は動揺し、その結果、社会の秩序は混乱して、国民協同体の基盤にすら恐ろしい亀裂が生じようとしているのである。
この冷厳な事実のはつきりした認識のもとに、新日本の目標とするすぐれた国家理想をたかく執つて、しかもさしせまるこの危機を乗り切つて行くのには、どうしても全国民の間に、祖国再建をめざす積極的な意欲と情熱にみちた力強く新しい精神がよび起されなければならぬ。なぜならば、かような新精神が国民の末端にまでしみ込んでこそ、人々の間に自立自救の責任感と相互扶助の友愛心が培われ、正しきを踏んで生活の窮苦に打ち克つ心構えが生れ、生産の増強と生活の安定のために国民諸階層のあらゆる力が結集せられて、当面の国家的危機が打開できるからである。
すでに戦時中から、長い不自由な生活を忍びに忍んできた国民に、もう一度耐乏の生活を求めることは、政府としてはまことに堪えがたいところである。しかし、戦いに勝つた国民すら、戦いに敗れたわれわれにも優る戦後の困窮を忍んで、ひたすら国力の回復に努めているという。してみれば、われわれ戦敗国民はさらに一段の勇気をふるつて、この荒れ果てた国土を住みよい日本に築き上げてゆくべきであろう。われわれは明日の正しく明るく力強い文化日本を迎え入れるためにこそ、乏しさを分ち、今日の苦しみに堪えてこの危機を突破しようではないか。かくて政府は、耐乏のうちに希望を失わず、勤労のうちに再建の歓びを感じることのできる新しい国民生活の設計を目当てとして、新生活国民運動が速かに展開されることを期待しつつ、次の七目標をかかげて、文化の面における新日本建設の力強い行進を喚び起したいと思う。
第一 勤労意欲の高揚
国民生活の再建には重要な物資の生産を増強することが極めて大切であるから、肉体労働と頭脳労働とを問わず、勤労者こそ日本再建の推進力であるとの自覚と誇りをもつて、明るい気持で進んで勤労にいそしむように努めるとともに、国家も社会も産業も経営も勤労の尊重をかけ声にとどめず、その具体化に努めること。
第二 友愛協力の発揮
生活の苦しみが増すにつれて、他を顧みる余裕を失い、ひたすら自分の利益のみを追い求める傾きを生じているから、国民は社会連帯意識に目覚めて相互の友愛と協力によつて社会公共の福祉のために貢献するように努めること。
第三 自立精神の養成
新憲法は個人の自由と人格の尊厳を重んずることを定めているが、国民は自由に伴う責任を明らかにするとともに、いたずらに権勢に依頼しあるいは追随するような気風を改めて、自らの責任において自らの生活を立て、万事を処理するような自立の精神を養うこと。
第四 社会正義の実現
いわゆる正直者がばかを見るようなことなく、真面目に働く者は常に報いられ、不正を働く者は必ず斥けられ、さらに公共の負担が公平に割りあてられるような社会正義の行われる社会環境を作つて、国民の気風を一新すること。
第五 合理的・民主的な生活慣習の確立
生活のむだをはぶき、ぜいたくを慎しみ、常に合理的に考え、能率的に処理する生活態度を養うとともに、封建的な風習を取り除いて、明るく快く健康な民主的生活慣習をうち立てるように衣食住の全面にわたつて国民生活に工夫と改善を行うこと。
第六 芸術、宗教およびスポーツの重視
暗いとげとげしい閉鎖的な生活におちいることなく、国民各自が余暇を善用して、清純な芸術、宗教、スポーツ等に親しむゆとりを持ち、人心の深奥を開拓して、乏しさのうちにもうるおいと喜びを見出すことができるような気高く朗らかで開放的な生活環境を作ること。
第七 平和運動の推進
個人的あるいは集団的な利害のみにとらわれて互に相争うような傾向を反省し、道理に従い納得ずくで問題を平和的に解決するように努めるとともに、これを国際関係に及ぼし、ひいては世界文化の発展に貢献するよう、平和運動を積極的に推進すること。
右の国民運動展開のため左のような方策を講ずる。
一、各界代表者の積極的協力を求め、その創意に基く実践運動方策の答申を持ち寄つて、各界それぞれのイニシアテイブの下に運動を推進する。
二、全国各地に国民運動協議会を開き盛んな討論と研究によつて本運動を促進する。
三、学校、学校関係団体、青年団、婦人会、労働組合、農民組合、各種産業団体、法曹団体、文化団体、宗教団体等の奮起を促し、本運動の推進力たらしめる。
四、公民館を活用し、地方の実情に即して新生活の確立を図る。
五、憲法普及会のかつぱつな活動を促し、同会を主体とする政治教育運動の推進を図る。
六、勤労者の教育を徹底し、職域を中心とするリクリエーション運動を促進する。
七、新聞、雑誌、放送、映画、演劇、音楽、文芸等を通じて本運動を展開する。
「国立国会図書館リサーチ・ナビ」より
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