今日は、昭和時代前期の1939年(唱和14)に、「国家総動員法」に基づいて、「賃金統制令」(昭和14年勅令第128号)が公布(施行は同年4月10日)された日です。
「賃金統制令(ちんぎんとうせいれい)」は、1938年(昭和13)に制定された「国家総動員法」の第6条に基づく勅令で、「従業者雇入制限令」と共に、軍需企業の賃金抑制のため従業員50人以上の事業場を対象に出されました。戦時下の労働力不足に伴い、賃金上昇の傾向があった時で、これを抑制するために、賃金規則の作成とその届出を義務づけ、未経験工採用の際の初給賃金を公定し、その諮問機関として中央および道府県に賃金委員会を設けたものです。
この勅令で、軍需関係工業の初任給の1年間固定措置が臨時的にとられましたが、かえって賃金の部門間不均衡を生じさせたため、7月には指定工場の適用を鉱工業全部門に拡大、9月に女子の初給賃金も公定、10月には、「賃金臨時措置令」で9月18日現在の賃金で1年間凍結しました。翌年には、同令も10月20日に「賃金臨時措置令」を統合して全面改訂されます。
これによって、政府は賃金決定権を全面的に留保し、以降は、地域別・男女別・職業別・業種別・年齢別・経験別の賃金の公定が進み、年功序列賃金制度の確立を促進しました。太平洋戦争敗戦後の「国家総動員法」廃止により、1946年(唱和21)9月30日に失効しています。
以下に、制定当初の「賃金統制令」(昭和14年勅令第128号)を全文掲載しておきますので、ご参照下さい。
〇「賃金統制令」(昭和14年勅令第128号)1939年(唱和14)3月31日公布、4月10日施行
第一条 国家総動員法第六条ノ規定ニ基ク労働者ノ賃金ノ統制ハ別ニ定ムルモノヲ除クノ外本令ノ定ムル所ニ依ル
第二条 本令ハ左ノ各号ノ一ニ該当スル事業ニ之ヲ適用ス
一 工場法ノ適用ヲ受クル工場ニシテ厚生大臣ノ指定スル事業ヲ営ムモノ
二 鉱業法ノ適用ヲ受クル事業
三 其ノ他厚生大臣ノ指定スル事業
第三条 本令ニ於テ賃金ト称スルハ労働者ガ労務ノ対償トシテ事業主ヨリ受クル給与其ノ他ノ利益ヲ謂フ
2 賃金ノ範囲及評価ニ関シテハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四条 常時五十人以上ノ労働者ヲ使用スル工場又ハ事業場ノ事業主ハ賃金規則ヲ作成シ地方長官(東京府ニ在リテハ警視総監以下之ニ同ジ)ニ届出ヅベシ之ヲ変更シタルトキ亦同ジ
2 賃金規則ニ定ムベキ事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
3 地方長官不適当ト認ムルトキハ賃金規則ノ変更ヲ命ズルコトヲ得
第五条 厚生大臣又ハ地方長官ハ命令ノ定ムル所ニ依リ未経験労働者ノ初給賃金ヲ定ムルコトヲ得
2 事業主未経験労働者ヲ雇入レタルトキハ命令ヲ以テ定ムル期間前項ノ規定ニ依ル初給賃金ニ準拠シ賃金ヲ支払フベシ但シ命令ニ別段ノ定アル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
第六条 前条ノ場合ノ外地方長官労働者ニ支払ハレタル賃金ノ額又ハ其ノ支給方法著シク不適当ト認ムルトキハ事業主ニ対シ将来ニ向ツテ之ヲ変更スベキコトヲ命ズルコトヲ得
第七条 第二条第三号ノ規定ニ依ル事業ノ指定、第五条第一項ノ規定ニ依ル初給賃金ノ決定並ニ第四条第三項及前条ノ規定ニ依ル命令ハ賃金委員会ニ諮問シテ之ヲ為ス
2 賃金委員会ニ関スル規程ハ別ニ之ヲ定ム
第八条 厚生大臣又ハ地方長官必要アリト認ムルトキハ賃金ノ統制ニ関シ国家総動員法第三十一条ノ規定ニ基キ事業主ヨリ報告ヲ徴シ又ハ当該官吏ヲシテ工場、事業場、事務所其ノ他ノ場所ニ臨検シ帳簿書類ヲ検査セシムルコトヲ得
2 前項ノ規定ニ依リ当該官吏ヲシテ臨検検査セシムル場合ニ於テハ其ノ身分ヲ示ス証票ヲ携帯セシムベシ
第九条 本令ハ国又ハ道府県ノ事業ニハ之ヲ適用セズ
第十条 本令中地方長官トアルハ内地ニ於ケル鉱業法ノ適用ヲ受クル事業ニ付テハ鉱山監督局長トス
第十一条 本令中工場法ノ適用ヲ受クル工場トアルハ朝鮮、台湾又ハ南洋群島ニ在リテハ常時十人以上ノ労働者ヲ使用スル工場、樺太ニ在リテハ工場取締規則ノ適用ヲ受クル工場トシ鉱業法トアルハ朝鮮ニ在リテハ朝鮮鉱業令、台湾ニ在リテハ台湾鉱業規則、南洋群島ニ在リテハ南洋群島鉱業令トス
2 本令中厚生大臣トアルハ朝鮮ニ在リテハ朝鮮総督、台湾ニ在リテハ台湾総督、樺太ニ在リテハ樺太庁長官、南洋群島ニ在リテハ南洋庁長官トシ地方長官トアルハ朝鮮ニ在リテハ道知事、台湾ニ在リテハ台湾鉱業規則ノ適用ヲ受クル事業ニ付テハ台湾総督、其ノ他ノ事業ニ付テハ州知事又ハ庁長、樺太ニ在リテハ樺太庁長官、南洋群島ニ在リテハ南洋庁長官トシ道府県トアルハ朝鮮ニ在リテハ道、台湾ニ在リテハ州又ハ庁、南洋群島ニ在リテハ南洋群島地方費トス
附 則
本令ハ昭和十四年四月十日ヨリ之ヲ施行ス但シ朝鮮、台湾、樺太及南洋群島ニ在リテハ昭和十四年八月一日ヨリ之ヲ施行ス
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