ガウスの歴史を巡るブログ(その日にあった過去の出来事)

 学生時代からの大の旅行好きで、日本中を旅して回りました。その中でいろいろと歴史に関わる所を巡ってきましたが、日々に関わる歴史上の出来事や感想を紹介します。Yahooブログ閉鎖に伴い、こちらに移動しました。

2021年02月

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 今日は、昭和時代中期の1952年(昭和27)に、「旧日米安全保障条約」に関わり、日本とアメリカ両国の政府間で「日米行政協定」が調印(同年4月28日発効)された日です。
 「日米行政協定(にちべいぎょうせいきょうてい)」は、1951年(昭和26)9月8日に「サンフランシスコ平和条約」と共に締結された、「(旧)日米安全保障条約」第三条に基づき、在日米軍の日本国内とその周辺における権利その他を定めた二国間協定で、正式には「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定」と言いました。前文と本文29ヶ条および末文から成り、交換公文と議事録が付属、内容は基地施設、経費分担、裁判管轄権などについて詳細に規定、日米合同委員会を紛争処理機関として設置していますが、アメリカ軍人に対し治外法権を認めるなどの不平等性があり、同年4月28日発効しています。
 1960年(昭和35)6月23日の「新日米安全保障条約」発効に伴い、この協定も施設区域の運営管理、通関、民事請求権、防衛分担金等の規定を変更し、「日米地位協定」として継承されました。
 以下に、「日米行政協定」を全文掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「日米行政協定」 1952年(昭和27)2月28日調印、4月28日発効

日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定

前文
 日本国及びアメリカ合衆国は、千九百五十一年九月八日に、日本国内及びその附近における合衆国の陸軍、空軍及び海軍の配備に関する規定を有する安全保障条約に署名したので、
 また、同条約第三条は、合衆国の軍隊の日本国内及びその附近における配備を規律する条件は両政府間の行政協定で決定すると述べているので、
 また、日本国及びアメリカ合衆国は、安全保障条約に基く各自の義務を具体化し、且つ、両国民間の相互の利益及び敬意の緊密なきずなを強化する実際的な行政取極を締結することを希望するので、
 よつて、日本国政府及びアメリカ合衆国政府は、次に掲げる条項によりこの協定を締結した。

第一条
 この協定において、
(a)「合衆国軍隊の構成員」とは、日本国の領域にある間におけるアメリカ合衆国の陸軍、海軍又は空軍に属する人員で現に服役中のものをいう。
(b)「軍属」とは、合衆国の国籍を有する文民で日本国にある合衆国軍隊に雇用され、これに勤務し、又はこれに随伴するもの(通常日本国に在留する者及び第十四条1に掲げる者を除く。)をいう。この協定のみの適用上、合衆国及び日本国の二重国籍者で合衆国が日本国に入れたものは、合衆国国民とみなす。
(c)「家族」とは、次のものをいう。
 (1) 配偶者及び二十一才未満の子
 (2) 父母及び二十一才以上の子で、その生計費の半額以上を合衆国軍隊の構成員又は軍属に依存するもの

第二条
1 日本国は、合衆国に対し、安全保障条約第一条に掲げる目的の遂行に必要な施設及び区域の使用を許すことに同意する。個個の施設及び区域に関する協定は、この協定の効力発生の日までになお両政府が合意に達していないときは、この協定の第二十六条に定める合同委員会を通じて両政府が締結しなければならない。「施設及び区域」には、当該施設及び区域の運営に必要な現存の設備、備品及び定着物を含む。
2 日本国及び合衆国は、いずれか一方の当事者の要請があるときは、前記の取極を再検討しなければならず、また、前記の施設及び区域を日本国に返還すべきこと又は新たに施設及び区域を提供することを合意することができる。
3 合衆国軍隊が使用する施設及び区域は、この協定の目的のため必要でなくなつたときは、いつでも、日本国に返還しなければならない。合衆国は、施設及び区域の必要性を前記の返還を目的としてたえず検討することに同意する。
4(a)合衆国軍隊が射撃場及び演習場のような施設及び区域を一時的に使用していないときは、日本国の当局及び国民は、それを臨時に使用することができる。但し、この使用が、合衆国軍隊による当該施設及び区域の正規の使用の目的にとつて有害でないことが合意された場合に限る。
(b)合衆国軍隊が一定の期間を限つて使用すべき射撃場及び演習場のような施設及び区域に関しては、合同委員会は、当該施設及び区域に関する協定中に、適用があるこの協定の規定の範囲を明記しなければならない。

第三条
1 合衆国は、施設及び区域内において、それらの設定、使用、運営、防衛又は管理のため必要な又は適当な権利、権力及び権能を有する。合衆国は、また、前記の施設及び区域に隣接する土地、領水及び空間又は前記の施設及び区域の近傍において、それらの支持、防衛及び管理のため前記の施設及び区域への出入の便を図るのに必要な権利、権力及び権能を有する。本条で許与される権利、権力及び機能を施設及び区域外で行使するに当つては、必要に応じ、合同委員会を通じて両政府間で協議しなければならない。
2 合衆国は、前記の権利、権力及び権能を、日本国の領域への、領域からの又は領域内の航海、航空、通信又は陸上交通を不必要に妨げるような方法によつては行使しないことに同意する。合衆国が使用する電波放射の装置が用いる周波数、電力及びこれらに類する事項に関するすべての問題は、相互の取極により解決しなければならない。一時的の措置として、合衆国軍隊は、この協定が効力を生ずる時に留保している電力、設計、放射の型式及び周波数の電子装置を日本側からの放射による妨害を受けないで使用する権利を有する。
3 合衆国軍隊が使用する施設及び区域における作業は、公共の安全に妥当な考慮を払つて行わなければならない。

第四条
1 合衆国は、この協定の期間満了の際又はその前に日本国に施設及び区域を返還するに当つて、当該施設及び区域をそれらが合衆国軍隊に提供された時の状態に回復し、又はその回復の代りに日本国に補償する義務を負わない。
2 日本国は、この協定の期間満了の際又はその前における施設及び区域の返還の際、当該施設及び区域に加えられている改良又はそこに残される建物若しくはその他の工作物について、合衆国にいかなる補償をする義務も負わない。
3 前記の規定は、合衆国が日本国との特別取極に基いて行う建設には適用しない。

第五条
1 合衆国及び合衆国以外の国の船舶及び航空機で、合衆国によつて、合衆国のために又は合衆国の管理の下に公の目的で運航されるものは、入港料又は着陸料を課せられないで日本国の港又は飛行場に出入する権利を与えられる。この協定による免除を与えられない貨物又は旅客がそれらの船舶又は航空機に積載されているときは、日本国の当局に通告を与えなければならず、それらの貨物又は旅客は、日本国の法令に従つて入国させなければならない。
2 1に掲げる船舶及び航空機、合衆国政府所有の車両(機甲車両を含む。)並びに合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、合衆国軍隊が使用する施設及び区域に出入し、それらの間を移動し、並びにそれらの施設及び区域と日本国の港との間を移動する権利を与えられる。
3 1に掲げる船舶が日本国の港に入る場合には、通常の状態においては、日本国の当局に適当な通告をしなければならない。前記の船舶は、強制水先を免除される。但し、水先人を使用したときは、相当な料率で水先料を支払わなければならない。

第六条
1 すべての非軍用及び軍用の航空交通管理及び通信の体系は、緊密に協調して発達を図るものとし、且つ、集団安全保障の利益を達成するため必要な程度に整合するものとする。この協調及び整合を図るため必要な手続及びそれに対するその後の変更は、相互の取極によつて定める。
2 合衆国軍隊が使用する施設及び区域並びにそれらに隣接する領水又はそれらの近傍に置かれ、又は設置される燈火その他の航行補助施設及び航空保安施設は、日本国で使用されている様式に合致しなければならない。これらの施設を設置した日本国及び合衆国の当局は、その位置及び特徴を相互に通告しなければならず、且つ、それらの施設を変更し、又は新たに設置する前に予告をしなければならない。

第七条
 合衆国軍隊は、日本国政府の各省各庁に当時適用されている条件よりも不利でない条件で、日本国政府に属し、又は日本国政府によつて管理され、若しくは規制されるすべての公益事業及び公共の役務を利用する権利並びにその利用における優先権を享有する権利を有する。

第八条
 日本国政府は、現行の手続で、次の気象業務を合衆国軍隊に提供することを約束する。但し、その手続は、随時に両政府間で合意されるべき変更又は日本国が国際民間航空機関若しくは世界気象機関の加盟国となつた結果として生ずべき変更を受けるものとする。
(a)地上及び海上からの気象観測(「X」及び「T」という位置にある気象観測船からの観測を含む。)
(b)気象資料(中央気象台の定期的概報及び過去の資料を含む。)
(c)航空機の安全且つ正確な運航のため必要な気象情報を報ずる電気通信業務
(d)地震観測の資料(地震から生ずる津波の予想される程度及びその津波の影響を受ける区域の予報を含む。)

第九条
1 合衆国は、この協定の目的のため合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族である者を日本国に入れる権利を有する。
2 合衆国軍隊の構成員は、日本国の旅券及び査証に関する法令の適用から除外される。合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、外国人の登録及び管理に関する日本国の法令の適用から除外される。但し、日本国の領域に永久的な居住又は住所を有する権利を取得するものとみなしてはならない。
3 合衆国軍隊の構成員は、日本国への入国又は日本国からの出国に当つては、次の文書を携行しなければならない。
(a)氏名、生年月日、階級及び番号、軍の区分並びに写真を掲げる身分証明書
(b)合衆国軍隊の構成員としての個人の身分又は集団の地位及び命令された旅行を証明する個別的又は集団的旅行の命令書
 合衆国軍隊の構成員は、日本国にある間の身分証明のため、前記の身分証明書を携行しなければならない。
4 軍属、その家族及び合衆国軍隊の構成員の家族は、合衆国の当局が発給した適当な文書を携行し、日本国への入国若しくは日本国からの出国に当つて又は日本国にある間その身分を日本国の当局が確認することができるようにしなければならない。
5 本条1に基いて日本国に入国した者の身分に変更があつてその者が前記の入国の権利を有しなくなつた場合には、合衆国の当局は、日本国の当局に通告するものとし、また、その者が日本国から退去することを日本国の当局によつて要求されたときは、日本国政府の負担によらないで相当の期間内に日本国から輸送することを確保しなければならない。

第十条
1 日本国は、合衆国が合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族に対して発給した運転許可証若しくは運転免許証又は軍の運転許可証を、運転者試験又は手数料を課さないで、有効なものとして承認するものとする。
2 合衆国軍隊及び軍属の公用車両は、それを容易に識別させる明確な番号標又は個別の記号を付けていなければならない。
3 合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の私有車両は、日本国民に適用される条件と同一の条件で取得する日本国の登録番号標を付けていなければならない。

第十一条
1 この協定中に規定がある場合を除く外、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、日本国の税関当局によつて執行される法令に服するものとする。
2 合衆国軍隊、合衆国軍隊の公認調達機関又は第十五条に定める諸機関が合衆国軍隊の公用のため又は合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の使用のため輸入するすべての資材、需品及び備品並びに合衆国軍隊が専用すべき資材、需品及び備品又は合衆国軍隊が使用する物品若しくは施設に最終的には合体されるべき資材、需品及び備品は、日本国に入れることを許される。この輸入には、関税その他の課徴金を課さない。前記の資材、需品及び備品は、合衆国軍隊、合衆国軍隊の公認調達機関又は第十五条に定める諸機関が輸入するものである旨の適当な証明書(合衆国軍隊が専用すべき資材、需品及び備品又は前記の軍隊が使用する物品若しくは施設に最終的には合体されるべき資材、需品及び備品にあつては、合衆国軍隊が前記の目的のために受領すべき旨の適当な証明書)を必要とする。
3 合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族に仕向けられ、且つ、これらの者の私用に供せられる財産には、関税その他の課徴金を課する。但し、次のものについては、関税その他の課徴金を課さない。
(a)合衆国軍隊の構成員若しくは軍属が日本国で勤務するため最初に到着した時に輸入し、又はそれらの家族が当該合衆国軍隊の構成員若しくは軍属と同居するため最初に到着した時に輸入するこれらの者の私用のための家具及び家庭用品並びにこれらの者が入国の際携行する私用のための携帯品
(b)合衆国軍隊の構成員又は軍属が自己又はその家族の私用のため輸入する車両及び部品
(c)合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の私用のため合衆国において通常日常用として購入されるような種類の相当量の衣類及び家庭用品で、合衆国軍事郵便局を通じて日本国に郵送されるもの
4 2及び3で与える免除は、物品の輸入の場合のみに適用するものとし、輸入の際税関当局が徴収する関税及び内国消費税が既に徴収された物品を購入する場合にその関税及び内国消費税を払いもどすものと解してはならない。
5 税関検査は、次の場合には行わないものとする。
(a)命令により日本国に入国し、又は日本国から出国する合衆国軍隊の部隊又は合衆国軍隊の構成員
(b)公用の封印がある公文書
(c)合衆国軍事郵便線路上にある郵便物及び合衆国政府の船荷証券により船積される軍事貨物
6 日本国及び合衆国の当局が相互に合意する条件に従つて処分を認める場合を除く外、関税の免除を受けて日本国に輸入された物品は、関税の免除を受けて当該物品を輸入する権利を有しない者に対して日本国内で処分してはならない。
7 2及び3に基いて関税その他の課徴金の免除を受けて日本国に輸入された物品は、関税その他の課徴金の免除を受けて再輸出することができる。
8 合衆国軍隊は、日本国の当局と協力して、本条に従つて合衆国軍隊、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族に与えられる特権の濫用を防止するため必要な措置を執らなければならない。
9(a)日本国政府の税関当局により執行される法令に対する違反行為を防止するため、日本国の当局及び合衆国軍隊は、調査の実施及び証拠の収集について相互に援助しなければならない。
(b)合衆国軍隊は、日本国政府の税関当局によつて行われ、又は税関当局に代つて行われる差押を受けるべき物件が税関当局に引き渡されることを確保するため、可能なすべての援助をあたえなければならない。
(c)合衆国軍隊は、合衆国軍隊の構成員若しくは軍属又はそれらの家族が納付すべき関税、租税及び罰金の納付を確保するため、可能なすべての援助を与えなければならない。
(d)日本国政府の関税又は財政に関する法令に対する違反行為に関連して日本国政府の税関当局が差し押えた合衆国軍隊に属する車両及び物件は、関係部隊の当局に引き渡さなければならない。

第十二条
1 合衆国は、この協定の目的のため又はこの協定で認められるところにより日本国で供給されるべき需品又は行われるべき工事のため、供給者又は工事を行う者の選択に関して制限を受けないで契約する権利を有する。
2 現地で供給される合衆国軍隊の維持のため必要な資材、需品、備品及び役務でその調達が日本国の経済に不利な影響を及ぼす虞があるものは、日本国の権限のある当局との調整の下に、また、望ましいときは、日本国の権限のある当局を通じて又はその援助を得て調達しなければならない。
3 合衆国軍隊又は合衆国軍隊の公認調達機関が適当な証明書によつて日本国で公用のため調達する資材、需品、備品及び役務は、日本国の次の租税を免除される。
(a)物品税
(b)通行税
(c)揮発油税
(d)電気ガス税
 最終的には合衆国軍隊が使用するため調達される資材、需品、備品及び役務は、合衆国軍隊の適当な証明書によつて、物品税及び揮発油税を免除される。本条に特に掲げない日本国の現行の又は将来の租税で、合衆国軍隊によつて調達され、又は最終的には合衆国軍隊が使用するため調達される資材、需品、備品及び役務の購入価格の相当な且つ容易に判別することができる部分をなすと認められるものに関しては、両政府は、本条の目的に合致する免除又は救済を与えるための手続について合意するものとする。
4 合衆国軍隊又は軍属の現地の労務に対する需要は、日本国の当局の援助を得て充足される。
5 所得税及び社会保障のための納付金の源泉徴収及び納付の義務並びに、別に相互に合意される場合を除く外、賃金及び諸手当に関する条件のような雇用及び労働の条件、労働者の保護のための条件並びに労働関係に関する労働者の権利は、日本国の法令で定めるところによらなければならない。
6 軍属は、雇用の条件に関して日本国の法令に服さない。
7 合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、日本国における物品及び役務の個人的購入に関して日本国の法令に基いて課せられる租税その他類似の公課の免除を本条により享有することはない。
8 日本国及び合衆国の当局が相互に合意する条件に従つて処分を認める場合を除く外、3に掲げる租税の免除を受けて日本国で購入した物品は、当該租税の免除を受けて当該物品を購入する権利を有しない者に対して日本国内で処分してはならない。

第十三条
1 合衆国軍隊は、合衆国軍隊が日本国において所有し、使用し、又は移転する財産について租税その他類似の公課を課せられない。
2 合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、これらの者の合衆国軍隊における勤務又は合衆国軍隊若しくは第十五条に定める諸機関による雇用の結果として受ける所得について、日本国政府又は日本国にあるその他の徴税機関に対して日本国の租税を納付する義務を負わない。本条の規定は、前記の個人に対し、日本国の源泉から発生する所得についての日本国の租税の納付を免除するものではなく、また、合衆国の所得税に関し日本国に居所を有することを援用する合衆国市民に対し、所得についての日本国の租税の納付を免除するものではない。前記の者が合衆国軍隊の構成員若しくは軍属又はそれらの家族であるという理由のみによつて日本国にある期間は、日本国の税法の適用上、日本国に居所又は住所を有する期間とは認めない。
3 合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、これらの者が一時的に日本国にあるという理由のみによつて日本国に所在する有体又は無体の動産の所有、使用、これらの者相互間の移転又は死亡による移転について、日本国における課税を免除される。但し、この免除は、投資のため若しくは事業を行うため日本国において所有される財産又は日本国において登録された無体財産権には適用しない。本条の規定は、私有車両による道路の使用に関して納付すべき租税の免除を与える義務を定めるものではない。

第十四条
1 通常合衆国に居住する人(合衆国の法律に基いて組織された法人を含む。)及びその被用者で合衆国軍隊のための合衆国との契約の履行のみを目的として日本国にあるものは、本条に規定がある場合を除く外、日本国の法令に服さなければならない。
2 前記の人及びその被用者は、その身分に関する合衆国の当局の証明があるときは、この協定による次の利益を与えられるものとする。
(a)第五条2に定める出入及び移動の権利
(b)第九条の規定による日本国への入国
(c)合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族について第十一条3に定める関税その他の課徴金の免除
(d)合衆国政府により認められたときは、第十五条に定める諸機関の役務を利用する権利
(e)合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族について第十九条2に定めるもの
(f)合衆国政府により認められたときは、第二十条に定めるところにより軍票を使用する権利
(g)第二十一条に定める郵便施設の利用
(h)雇用の条件に関する日本国の法令の適用からの除外
3 前記の人及びその被用者は、その身分の者であることが旅券に記載されていなければならず、その到着、出発及び日本国にある間の居所は、合衆国軍隊が日本国の当局に随時に通知しなければならない。
4 前記の人及びその被用者が1に掲げる契約の履行のためにのみ所有し、使用し、又は移転する減価償却資産(家屋を除く。)については、合衆国軍隊の権限のある官憲の証明があるときは、日本国の租税その他類似の公課を課せられない。
5 前記の人及びその被用者は、合衆国軍隊の権限のある官憲の証明があるときは、これらの者が一時的に日本国にあるという理由のみによつて日本国に所在する有体又は無体の動産の所有、使用、死亡による移転又はこの協定に基いて租税の免除を受ける権利を有する人若しくは機関への移転について、日本国における課税を免除される。但し、この免除は、投資のため若しくは他の事業を行うため日本国において所有される財産又は日本国において登録された無体財産権には適用しない。本条の規定は、私有車両による道路の使用に関して納付すべき租税の免除を与える義務を定めるものではない。
6 1に掲げる人及びその被用者は、この協定に定めるいずれかの施設又は区域の建設、維持又は運営に関して合衆国政府と合衆国において結んだ契約に基いて発生する所得については、日本国政府又は日本国にあるその他の徴税機関に対して所得税又は法人税を納付する義務を負わない。6の規定は、これらの者に対し、日本国の源泉から発生する所得についての所得税又は法人税の納付を免除するものではなく、また、合衆国の所得税に関し日本国に居所を有することを援用する前記の人及びその被用者に対し、所得についての日本国の租税の納付を免除するものではない。これらの者が合衆国政府との契約の履行に関してのみ日本国にある期間は、前記の課税上、日本国に居所又は住所を有する期間とは認めない。
7 日本国の当局は、本条1に掲げる人及びその被用者に対し、日本国において犯す罪で日本国の法律によつて罰すべきものに関して裁判権を行使する第一次の権利を有する。日本国の当局が前記の裁判権を行使しないことに決定した場合には、日本国の当局は、合衆国の軍当局にできるだけすみやかに通告しなければならない。この通告があつたときは、合衆国の軍当局は、前記の者に対し、合衆国の法律によつて与えられた裁判権を行使する権利を有する。

第十五条
1(a)合衆国の軍当局が公認し、且つ、規制する海軍販売所、ピー・エックス、食堂、社交クラブ、劇場、新聞その他の歳出外資金による諸機関は、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の用に供するため、合衆国軍隊が使用する施設及び区域内に設置することができる。この協定中に特別の規定がある場合を除く外、前記の諸機関は、日本国の規制、免許、手数料、租税その他類似の管理に服さないものとする。
(b)合衆国の軍当局が公認し、且つ、規制する新聞が一般の公衆に販売されるときは、当該新聞は、その頒布に関する限り、日本国の規制、免許、手数料、租税その他類似の管理に服するものとする。
2 前記の諸機関による商品及び役務の販売には、1(b)に定める場合を除く外、日本国の租税を課さない。但し、これらの諸機関による商品及び需品の日本国内における購入には、日本国の租税を課する。
3 日本国及び合衆国の当局が相互に合意する条件に従つて処分を認める場合を除く外、前記の諸機関が販売する物品は、これらの諸機関から購入することを認められない者に対して日本国内で処分してはならない。
4 所得税及び社会保障のための納付金の源泉徴収及び納付に関する義務並びに、別に相互に合意される場合を除く外、賃金及び諸手当に関する条件のような雇用及び労働の条件、労働者の保護のための条件並びに労働関係に関する労働者の権利は、日本国の法令で定めるところによらなければならない。
5 本条に掲げる諸機関は、日本国の当局に対し、日本国の税法が要求するところにより資料を提供するものとする。

第十六条
 日本国において、日本国の法令を尊重し、及びこの協定の精神に反する活動、特に、政治的活動を慎むことは、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の義務である。

第十七条
1 千九百五十一年六月十九日にロンドンで署名された「軍隊の地位に関する北大西洋条約当事国間の協定」が合衆国について効力を生じたときは、合衆国は、直ちに、日本国の選択により、日本国との間に前記の協定の相当規定と同様の刑事裁判権に関する協定を締結するものとする。
2 1に掲げる北大西洋条約協定が合衆国について効力を生ずるまでの間、合衆国の軍事裁判所及び当局は、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族(日本の国籍のみを有するそれらの家族を除く。)が日本国内で犯すすべての罪について、専属的裁判権を日本国内で行使する権利を有する。この裁判権は、いつでも合衆国が放棄することができる。
3 2に定める裁判権が行われる間は、次の規定を適用する。
(a)日本国の当局は、合衆国軍隊が使用する施設及び区域外において、合衆国軍隊の構成員若しくは軍属又はそれらの家族を犯罪の既遂又は未遂について逮捕することができる。しかし、逮捕した場合には、逮捕された一又は二以上の個人を直ちに合衆国軍隊に引き渡さなければならない。合衆国軍隊の裁判権からのがれ、且つ、施設及び区域外の場所で発見された者は、要請に基いて、日本国の当局が逮捕し、且つ、合衆国の当局に引き渡すことができる。
(b)合衆国の当局は、合衆国軍隊が使用する施設又は区域内において、専属的逮捕権を有する。日本国の裁判権に服する者で前記の施設又は区域内で発見されたものは、要請に基いて、日本国の当局に引き渡すものとする。
(c)合衆国の当局は、前記の施設又は区域の近傍で、当該施設又は区域の安全に対する犯罪の既遂又は未遂の現行犯に係る者を法の正当な手続に従つて逮捕することができる。前記の者で合衆国軍隊の裁判権に服さないものは、直ちに日本国の当局に引き渡さなければならない。
(d)3(c)の規定に従うことを条件として、施設及び区域外における合衆国軍隊の軍事警察の活動は、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の秩序及び紀律の維持並びにそれらの者の逮捕のため必要な範囲内に限定される。
(e)日本国及び合衆国の当局は、それぞれの裁判所における刑事上の捜査その他の手続のため証人及び証拠を提供することについて協力し、且つ、捜査を行うことについて相互に援助しなければならない。何人も自己に対する刑事裁判権を有しない裁判所に対する裁判所侮辱、偽証又は審判妨害を行つたときは、これを犯した者に対する裁判権を有する裁判所は、その者が当該裁判所に対してこれらの罪を犯したものとみなしてその者を裁判するものとする。
(f)合衆国軍隊は、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族を日本国から退去させる専属的権利を有する。合衆国は、日本国政府が正当な事由により前記のいずれかの者の退去を要請するときは、この要請に好意的考慮を与えるものとする。
(g)日本国の当局は、合衆国軍隊が使用する施設及び区域内にある者若しくは財産について、又は所在地のいかんを問わず合衆国軍隊の財産について捜索又は差押を行う権利を有しない。合衆国の当局は、日本国の当局の要請があつたときは、その権限の範囲内で前記の捜索及び差押を行い、且つ、その結果について日本国の当局に通知することを約束する。前記の財産(合衆国政府が所有し、又は使用する財産を除く。)に関する判決があつた場合には、合衆国は、日本国の当局にこれを判決に従つて処分するため引き渡すものとする。日本国の当局は、合衆国軍隊が使用する施設及び区域外で、合衆国軍隊の構成員若しくは軍属又はそれらの家族の身体又は財産について捜索又は差押を行う権利を有しない。但し、本条3(a)に従つて逮捕することができる者に関する場合及び前記の捜索が日本国の裁判権の下にある犯人の逮捕のため必要とされる場合は、この限りでない。
(h)死刑の判決は、日本国の法制が同様の場合に死刑の刑を規定していない場合には、合衆国軍隊が日本国で執行してはならない。
4 合衆国は、合衆国の軍事裁判所及び当局が、日本国の法令に違反するすべての罪で合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族が日本国内で犯したと認められることについて充分な証拠があるものを裁判し、且つ、有罪の判決をしたときは、処罰する意思及び能力を有すること並びに合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族が犯したと認められる罪で、日本国の当局が通告するもの又は合衆国の軍事裁判所及び当局が発見するものを捜査し、且つ、正当に処理する意思及び能力を有することを約束する。合衆国政府は、更に、4に基いて生ずるすべての事件について合衆国の軍事裁判所が行つた処分を日本国の当局に通告することを約束する。合衆国は、4に基いて生ずる事件で日本国政府がそれに対する合衆国の裁判権の放棄を特に重要と認めるものについて、日本国の当局がその放棄を要請するときは、この要請に好意的考慮を与えなければならない。この放棄があつたときは、日本国は、その裁判権を行使することができる。
5 日本国が1に掲げる選択をしなかつた場合には、2以下に定める裁判権は、引き続き行われるものとする。前記の北大西洋条約協定がこの協定の効力発生の日から一年以内に効力を生じなかつた場合において、日本国政府の要請があつたときは、合衆国は、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族が日本国で犯した罪に対する裁判権の問題を再考慮するものとする。

第十八条
1 各当事者は、その軍隊の構成員又はその文民たる政府職員が公務の執行に従事している間に日本国において被つた負傷又は死亡については、その負傷又は死亡が公務執行中の他方の当事者の軍隊の構成員又は文民たる職員によるものであるときは、他方の当事者に対するすべての請求権を放棄する。
2 各当事者は、日本国において所有する財産に対する損害については、その損害が公務執行中の他方の当事者の軍隊の構成員又は文民たる政府職員によるものであるときは、他方の当事者に対するすべての請求権を放棄する。
3 契約による請求を除く外、公務執行中の合衆国軍隊の構成員若しくは被用者の作為若しくは不作為又は合衆国軍隊が法律上責任を有するその他の作為、不作為若しくは事故で、非戦闘行為に伴つて生じ、且つ、日本国において第三者に負傷、死亡又は財産上の損害を与えたものから生ずる請求は、日本国が次の規定に従つて処理するものとする。
(a)請求は、請求が生じた日から一年以内に提起するものとし、日本国の被用者の行動から生ずる請求に関する日本国の法令に従つて審査し、且つ、解決し、又は裁判する。
(b)日本国は、前記のいかなる請求も解決することができるものとし、合意され、又は裁判により決定された額の支払は、日本国が円でする。
(c)前記の支払(解決によつてされたものであると日本国の管轄裁判所による事件の裁判によつてされたものであるとを問わない。)又は支払を認めない日本国の管轄裁判所による最終の裁判は、拘束力を有する最終的のものとする。
(d)前諸号に従い請求を満足させるために要した費用は、両国政府が合意する条件で分担する。
(e)日本国が3に従つて承認した又は承認しなかつたすべての請求の明細及び各事件についての認定並びに日本国が支払つた額の明細は、定められるべき手続に従つて、合衆国が支払うべき分担額に対する弁償の要請とともに、合衆国に定期的に送付する。この弁償は、できるだけすみやかに円で行わなければならない。
4 各当事者は、前諸項の実施に当り、その人員が公務の執行に従事していたかどうかを決定する第一次の権利を有する。この決定は、当該請求が提起された後できるだけすみやかに行わなければならない。他方の当事者がこの決定に同意しなかつたときは、その当事者は、この協定の第二十六条の規定に基いて協議のためにその問題を合同委員会に付託することができる。
5 日本国内における不法の作為又は不作為で公務執行中に行われたものでないものから生ずる合衆国軍隊の構成員又は被用者に対する請求は、次の方法で処理するものとする。
(a)日本国の当局は、当該事件に関するすべての事情(損害を受けた者の行動を含む。)を考慮して、公平且つ公正に請求を審査し、及び請求人に対する補償金を査定し、且つ、その事件に関する報告書を作成する。
(b)報告書は、合衆国の当局に交付されるものとし、合衆国の当局は、遅滞なく、慰しや料{しやに強調}の支払を申し出るかどうかを決定し、且つ、申し出る場合には、その額を決定する。
(c)慰しや料{しやに強調}の支払の申出があつた場合において、請求人がその請求の完全な弁済としてこれを受諾したときは、合衆国の当局は、自ら支払をし、且つ、その決定及び支払つた額を日本国の当局に通知する。
(d)5のいかなる規定も、請求の完全な弁済として支払が行われたのではない限り、合衆国軍隊の構成員又は被用者に対する訴を受理する日本国の裁判所の裁判権に影響を及ぼすものではない。
6(a)合衆国軍隊の構成員及び文民たる被用者(日本の国籍のみを有する被用者を除く。)は、3に掲げる請求に関しては、日本国において訴を提起されることがないが、その他のすべての種類の事件については、日本国の裁判所の民事裁判権に服する。
(b)合衆国軍隊が使用する施設及び区域内に日本国の法律に基き強制執行を行うべき私有の動産(合衆国軍隊が使用する動産を除く。)があるときは、合衆国の当局は、日本国の裁判所の要請に基き、それらの財産を差し押えて日本国の当局に引き渡さなければならない。
(c)合衆国の当局は、日本国の裁判所における民事訴訟のため証人及び証拠を提供することについて、日本国の当局と協力しなければならない。
7 合衆国軍隊による又はそのための物資、需品、備品、役務及び労務の調達に関する契約から生ずる紛争でその契約の当事者によつて解決されないものは、合同委員会に調停のために付託することができる。但し、7の規定は、契約の当事者が有することのある民事の訴を提起する権利を害するものではない。

第十九条
1 合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、日本国政府の外国為替管理に服する。
2 1の規定は、合衆国ドル若しくはドル証券で、合衆国の公金であるもの、この協定に関連する勤務若しくは雇用の結果として合衆国軍隊の構成員及び軍属が取得したもの又は前記の者及びそれらの家族が日本国外の源泉から取得したものの日本国内又は日本国外への移転を妨げるものと解してはならない。
3 合衆国の当局は、2に定める特権の濫用又は日本国の外国為替管理の回避を防止するため適当な措置を執らなければならない。

第二十条
1(a)ドルをもつて表示される合衆国軍票は、合衆国によつて認められた者が、合衆国軍隊の使用する施設及び区域内における内部の取引のため使用することができる。合衆国政府は、認められた者が、合衆国の規則により認められる場合を除く外軍票を用いる取引に従事することを禁止されることを確保するため適当な措置を執るものとする。日本国政府は、認められない者に対し軍票を使用する取引に従事することを禁止するため必要な措置を執るものとし、また、合衆国の当局の援助を得て、偽造軍票の製造又は行使に関与する者で日本国の裁判権の下にあるものを逮捕し、及び処罰するものとする。
(b)合衆国の当局が、認められない者に対し軍票を行使する合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族を逮捕し、及び処罰すること並びに、日本国における軍票の認められない使用の結果として、合衆国又はその機関が、これらの認められない者又は日本国政府若しくはその機関に対していかなる義務も負うことはないことが合意される。
2 軍票の管理を行うため、合衆国は、その監督の下に、合衆国が軍票の使用を認めた者の用に供する施設を維持し、及び運営する一定のアメリカの金融機関を指定する権利を有する。軍用銀行施設を維持することを認められた金融機関は、その施設を当該機関の日本国における商業金融業務から場所的に分離して設置し、及び維持するものとし、これに、この施設を維持し且つ運営することを唯一の任務とする職員を置く。この施設は、合衆国通貨による銀行勘定を維持し、且つ、この勘定に関するすべての金融取引(この協定の第十九条2に定める範囲内における資金の受領及び送付を含む。)を行うことを許される。

第二十一条
 合衆国は、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族が利用する合衆国軍事郵便局を、日本国にある合衆国軍事郵便局間及びこれらの軍事郵便局と他の合衆国郵便局との間における郵便物の送達のため、合衆国軍隊が使用する施設及び区域内に設置し、及び運営する権利を有する。

第二十二条
 合衆国は、日本国に在留するすべての適格の合衆国市民を合衆国軍隊の予備役団体に編入し、及び訓練する権利を有する。但し、日本国政府が雇用している者の場合には、日本国政府の事前の同意を得なければならない。

第二十三条
 日本国及び合衆国は、合衆国軍隊、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族並びにこれらのものの財産の安全を確保するため随時に必要となるべき措置を執ることについて協力するものとする。日本国政府は、その領域において合衆国の設備、備品、財産、記録及び公務上の情報の充分な安全及び保護を確保するため、並びに適用されるべき日本国の法令に基いて犯人を罰するため、必要な立法を求め、及び必要なその他の措置を執ることに同意する。

第二十四条
 日本区域において敵対行為又は敵対行為の急迫した脅威が生じた場合には、日本国政府及び合衆国政府は、日本区域の防衛のため必要な共同措置を執り、且つ、安全保障条約第一条の目的を遂行するため、直ちに協議しなければならない。

第二十五条
1 日本国に合衆国軍隊を維持することに伴うすべての経費は、2に規定するところにより日本国が負担すべきものを除く外、この協定の存続期間中日本国に負担をかけないで合衆国が負担することが合意される。
2 日本国は、次のことを行うことが合意される。
(a)第二条及び第三条に定めるすべての施設、区域及び路線権(飛行場及び港における施設及び区域のように共同に使用される施設及び区域を含む。)をこの協定の存続期間中合衆国に負担をかけないで提供し、且つ、相当の場合には、施設、区域及び路線権の所有者及び提供者に補償を行うこと。
(b)定期的再検討の結果締結される新たな取極の効力発生の日までの間、合衆国が輸送その他の必要な役務及び需品を日本国で調達するのに充てるため、年額一億五千五百万ドルに相当する額の日本国通貨を合衆国に負担をかけないでその使用に供すること。円の支払が貸記される際の為替相場は、公定の平価又は次の相場、すなわち、日本国政府が認める相場又は日本国政府、その機関若しくは外国為替取引を行うことを認可された日本国の銀行が何人かとのいずれかの取引において用いる相場で支払の日に何人かが利用することができるもののうち、合衆国が最も有利と認めるもので、両国が国際通貨基金と平価について合意しているときは、国際通貨基金協定で禁止されていないものとする。
3 この協定に基いて生ずる資金上の取引に適用すべき経理のため、日本国政府と合衆国政府との間に取極を行うことが合意される。

第二十六条
1 この協定の実施に関して相互の協議を必要とするすべての事項に関する日本国と合衆国との間の協議機関として、合同委員会を設置する。合同委員会は、特に、合衆国が安全保障条約第一条に掲げる目的の遂行に当つて使用するため必要とされる日本国内の施設又は区域を決定する協議機関として、任務を行う。
2 合同委員会は、日本国の代表者一人及び合衆国の代表者一人で組織し、各代表者は、一人又は二人以上の代理及び職員団を有するものとする。合同委員会は、その手続規則を定め、並びに必要な補助機関及び事務機関を設ける。合同委員会は、日本国又は合衆国のいずれか一方の代表者の要請があるときはいつでも直ちに会合することができるように組織する。
3 合同委員会は、問題を解決することができないときは、適当な経路を通じて、その問題をそれぞれの政府に更に考慮されるように移すものとする。

第二十七条
1 この協定は、日本国と合衆国との間の安全保障条約が効力を生ずる日に効力を生ずる。
2 この協定の各当事者は、この協定の規定中その実施のため予算上及び立法上の措置を必要とするものについて、必要なその措置を立法機関に求めることを約束する。

第二十八条
 いずれの当事者も、この協定のいずれの条についてもその改正をいつでも要請することができる。その場合には、両政府は、適当な経路を通じて交渉するものとする。

第二十九条
 この協定及びその合意された改正は、安全保障条約が有効である間、有効とする。但し、それ以前に両当事者間の合意によつて終了させたときは、この限りでない。
 以上の証拠として、両政府の代表者は、このために正当な委任を受け、この協定に署名した。
 千九百五十二年二月二十八日に東京で、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。

日本国政府のために
岡崎勝男

アメリカ合衆国政府のために
ディーン・ラスク
アール・ジョンソン

   「日本外交主要文書・年表(1)」条約集第30集第11巻より

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

1591年(天正19)商人・茶人千利休の命日(新暦4月21日)詳細
1633年(寛永10)江戸幕府により「寛永十年二月令」(第一次鎖国令)が出される詳細
1864年(元治元)小説家二葉亭四迷の誕生日(新暦4月4日)詳細
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 今日は、安土桃山時代の1594年(文禄3)に、豊臣秀吉による吉野の花見が開宴された日ですが、新暦では4月17日となります。
 吉野の花見(よしののはなみ)は、豊臣秀吉により、大和国吉野郡吉野山村(現在の奈良県吉野郡吉野町)で、旧暦2月27日より5日間に、お能の会、歌会、お茶会、仮装行列などが開催された総勢5千人とされる花見の宴でした。太閤秀吉は、1590年(天正18)に全国統一を果たし、1592年(文禄元)には最初の朝鮮出兵、翌年には実子秀頼が誕生して絶頂期にあり、1594年(文禄3)に吉野で大花見会を行うため、4月25日に大坂を出発します。
 武将では、関白秀次、徳川家康、細川幽斎、織田常真(信雄)、宇喜多秀家、小早川秀秋、前田利家、伊達政宗ら、公家では、右大臣・菊亭晴季、大納言・日野輝資ら、そして連歌師の里村紹巴・昌叱ら、茶人たちを伴い、総勢5千人を引き連れてのこととなりました。27日に紀伊六田橋を渡り、市の坂に至り、千本桜や花園、桜田、ぬたの山、かくれがの松などを鑑賞して歌を詠み、正室ねねと共に、「義経千本桜」の舞台となった吉水城(吉水神社)を本陣として滞在します。
 29日には、歌会が催され、詠五首和歌として各人がそれぞれ、「花の願」、「不散花風」、「瀧の上の花」、「神の前の花」、「花の祝」という、五つの題で歌を詠みました。この時の逸話として、「折悪しく、吉野は雨続きで、秀吉が入山してからも三日間雨が降り続いていましたが、苛立った秀吉は、吉野山に火をつけて下山すると言い出し、吉野の全山の僧侶たちが晴天祈願をしたところ雨がやみ、晴れあがり、盛大な花見が行われた。」と伝えられています。
 花見を終えて、太閤秀吉は、3月3日にお供の人々と共に高野山に登り、青巌寺を参拝、一山衆僧を集めて大法要を催し、5日には連歌興行をし、能興行などもした後、7日に下山して、大阪への帰途に就きました。

〇吉野の花見での短歌

<2月27日>
・「吉野山 梢のはなの いろいろに おどろかれぬる 雪のあけぼの」(豊臣秀吉)
・「芳野山 誰とむるとは なけれども こよひもはなの かげにやどらん」(豊臣秀吉)

<2月29日の歌会>
・(花の歌)「いつしかと 思ひをくりし 芳野山の 花をけふしも 見そめぬ哉」(豊臣秀吉)
・(不散花風)「春風の 吹とも花は 且さきて しつ心にし なかめけるかな」(豊臣秀吉)
・(瀧の上の花)「瀧津波 下すいかたの よしのやま 梢の花の さかりなるかな」(豊臣秀吉)
・(神の前の花)「春はなを 神のめくみの 桜はな まふでゝみるや 御芳野の山」(豊臣秀吉)
・(花の祝)「乙女子が 袖ふる山に 千年へて なかめにあかし 花の色香を」(豊臣秀吉)
・「とし月を 心にかけし 吉野山 花の盛りを 今日見つるかな」(豊臣秀吉)
・「いつかはと 思ひ入りにし み吉野の 吉野の花を 今日こそは見れ」(豊臣秀次)
・「君が代は 千年の春も 吉野山 花にちぎりの 限りあらじな」(徳川家康)
・「千早振る 神の恵みに かなひてぞ 今日み吉野の 花を見るかな」(前田利家)
・「君がため 吉野の山の まきの葉の 常磐に花も 色やそはまし」(伊達政宗)

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1754年(宝暦4)江戸幕府の命で薩摩藩が木曾川の治水工事(宝暦治水)に着手(新暦3月20日)詳細
1875年(明治8)日本初の近代的植物園小石川植物園が開園する詳細
1946年(昭和21)GHQより「社会救済に関する覚書」(SCAPIN-775)が出される詳細


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 今日は、昭和時代中期の1946年(昭和21)に、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)により、「禁止図書その他の出版物に関する覚書」 (SCAPIN-776) が出された日です。
 「禁止図書その他の出版物に関する覚書」(きんしとしょそのたのしゅっぱんぶつにかんするおぼえがき)は、太平洋戦争敗戦後の連合国軍占領下で、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)によって、発令された、連合国最高司令官指令第776号(SCAPIN-776)のことで、英語では「Banned Books and Other Publications」とされました。この指令は、図書館による出版物の自由な閲覧に関するすべての制限を撤廃するよう日本政府に指示したものです。
 戦前の日本では、1872年(明治5)の「出版条例」(のちに1893年(明治26)に「出版法」)と1873年(明治6)の「新聞紙発行条目」から、印刷・出版物に規制が加わり、1875年(明治8)の「新聞紙条例」(のちに1909年(明治42) 「新聞紙法」)では、新聞紙とならんで「時々ニ出版スル雑誌雑報」がその対象に加わり、時々に出版される逐次刊行物は「新聞紙条例」の、それ以外の出版物は「出版条例」の対象とされました。さらに、1925年(大正14)の「治安維持法」、1936年(昭和11)の「不穏文書臨時取締法」、1941年(昭和16)の「新聞紙等掲載制限令」、「言論・出版・集会・結社等臨時取締法」などが制定され、さらに表現活動は強く規制されていきます。
 これらに基づき、書籍、新聞、映画の記事・表現物の内容を審査しましたが、1930年(昭和5)の検閲基準としては、①皇室の尊厳を冒涜する事項、②君主制を否認する事項、③共産主義、無政府主義等の理論乃至戦略、戦術を宣伝し、もしくは其の運動実行を扇動し、又は此の種の革命団体を支持する事項、④法律裁判所等国家権力作用の階級性を高調し、その他甚しく之を曲折する事項、⑤テロ、直接行動、大衆暴動等を扇動する事項、⑥植民地の独立運動を煽動する事項、⑦非合法的に議会制度を否認する事項、⑧国軍存立の基礎を動揺せしむる事項、⑨外国の君主、大統領、又は帝国に派遣せられたる外国使節の名誉を毀損し、之が為め国交上重大なる支障を来す事項、⑩軍事外交上重大なる支障を来す可き機密事項、⑪犯罪を煽動、若は曲庇し、又は犯罪人、若は刑事被告人を賞恤救護する事項、⑫重大犯罪の捜査上甚大なる支障を生じ其の不検挙に依り社会の不安を惹起するが如き事項、⑬財界を攪乱し、この他著しく社会の不安を惹起する事項とし、1933年(昭和8)には⑭戦争挑発の虞ある事項、⑮その他著しく治安を妨害する事項の二項が付け加えられ、これに反する場合には、発行・発売・無償頒布・上演などの禁止や一定期間差止が行われ、行政処分として現物の没収・罰金、司法処分として禁錮刑がありました。また、これらの出版関係の制度により、図書は内務省に複数部数納本(明治26年「出版法以」降は2部)することが義務付けられ、検閲を受けた後、1部は内務省に保管されることとなります。
 その中で、内務省は、1937年(昭和12)以降、閲覧禁止を条件に、発禁図書の副本を帝国図書館等に移管所蔵させました。太平洋戦争敗戦後も図書館には、発禁本などで閲覧制限されている図書が所蔵されているケースがあり、それらの図書を対象に、GHQが1946年(昭和21)2月26日に、図書館による出版物の自由な閲覧に関するすべての制限を撤廃するよう日本政府に指示したものです。
 以下に、「禁止図書その他の出版物に関する覚書」 (SCAPIN-776) の英語版と日本語訳を全文掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「禁止図書その他の出版物に関する覚書」 (SCAPIN-776)  1946年(昭和21)2月26日GHQ指令

GENERAL HEADQUARTERS
SUPREME COMMANDER FOR THE ALLIED POWERS

AG 000.73 (26 Feb 46) CIE         APO 500    
 (SCAPIN-776)             26 February 1946

MEMORANDUM FOR:IMPERIAL JAPANESE GOVERNMENT.
THROUGH:Central Liaison Office, Tokyo.
Subject:Banned Books and Other Publications.

1. Upon receipt of this memoradum, the Imperial Japanese Government Will abrogate all laws, ordinances, edicts, directives, or other governmental regulations expressed or implied which restrict the free circulation of books, pamphlets, periodicals, or other publications in public libraries or educational libraries.

2. The Imperial Japanese Government will submit to this Headquarters, on or before 1 April 1946, a statement of all actions taken by it or any of its subordinate agencies which have resulted in the removal of restrictions referred to in paragraph 1 above.

    FOR THE SUPREME COMMANDER:
              B.M.FICHI
        Brigadiar General,AGD,
           Adjutant General

<日本語訳>

禁止圖書その他の出版物に關する覺書
一九四六年二月二六日

一 この覺書受領と同時に、日本帝國政府は、公共圖書館又は敎育圖書館に於て、書籍、小册子、定期刊行物、その他の出版物の自由な閲覽を制限するやうな明示的または內意的な一切の法律、命令、布吿、指令その他の政府の規則を廢止すべきである。

二 日本帝國政府は、一九四六年四月一日に、又はそれ以前に、日本政府又はその下部機關が取つた處置で、その結果右第一項に述べた制限を除去するに至つた總てのものについて、聯合國最高司令部に報吿を提出すべきである。

        『日本管理法令研究』8巻より

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

1873年(明治6)俳人・随筆家・書家河東碧梧桐の誕生日詳細
1936年(昭和11)二・二六事件(高橋蔵相らが暗殺される)が起こる詳細
2003年(平成15)編集者・紀行作家宮脇俊三の命日詳細



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hachikousenrettshyadattsent

 今日は、昭和時代中期の1947年(昭和22)に、国鉄八高線高麗川駅付近で買い出しで満員の列車が転覆(八高線列車脱線転覆事故)し、死者184人、負傷者495人(戦後最悪の列車事故)を出した日です。
 八高線列車脱線転覆事故(はちこうせんれっしゃだっせんてんぷくじこ)は、当時の日本国有鉄道(国鉄)八高線東飯能駅~高麗川駅間で発生した列車脱線転覆事故でした。この日、八高線八王子駅6時48分発の高崎行き下り第三列車(C57 93が牽引する6両編成)が、東飯能駅を定刻より約7分程遅れて発車、午前7時50分頃に高麗川駅手前約1キロ付近にある20‰の下り勾配で、半径250mの急カーブに差し掛かった際に、後部四両が脱線し高さ約5mの土手から転落し、粉砕大破しました。当時、食料買出し目的の乗客を満載し、定員の3倍を超えていたと言われ、連結器やデッキも鈴なりの状態で、死者184人、負傷者495人という、戦後最悪の列車事故となります。
 事故原因は、定員の3倍を超える重量オーバーで、下り急勾配(20‰)で、充分速度が制御できず、半径250mの急カーブを曲がり切れずに後部4両が脱線し、築堤上から5.6m下の畑に転落、木造客車だったために、粉砕大破したためとされてきました。加えて、列車に速度メーターが装備されておらず(戦時中の金属供出のため速度計を撤去)機関士の目測で速度の調整が行われていたこと、ブレーキの不具合と重量オーバー、戦時中に急速養成された未熟な若い機関士(当時23歳・運転経験6ヶ月)の技量未熟とが重なったためとされています。
 尚、八高線では、1年半前の1945年(昭和20)8月24日にも、小宮駅~拝島駅間で列車の正面衝突事故も発生し、死者105人・負傷者約150人を出していました。

〇太平洋戦争後の列車大事故(死者100人以上)

・1945年(昭和20)8月24日 八高線列車正面衝突事故(死者105人・負傷者約150人)
・1947年(昭和22)2月25日 八高線列車脱線転覆事故(死者184人・負傷者495人)
・1951年(昭和26)4月24日 桜木町電車火災事故(死者106人・負傷者92人)
・1962年(昭和37)5月3日 三河島三重衝突事故(死者160人・負傷者296人)
・1963年(昭和38)11月9日 鶴見三重衝突事故(死者161人・負傷者120人)
・2005年(平成17)4月25日 宝塚線(福知山線)脱線転覆事故(死者107人・負傷者562人)

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

1415年(応永22)僧侶・浄土真宗中興の祖蓮如の誕生日(新暦4月13日)詳細
1944年(昭和19)東条英機内閣により、「決戦非常措置要綱」が閣議決定される詳細
1953年(昭和28)医師・歌人斎藤茂吉の命日(茂吉忌)詳細
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kokusairenmeidattai01

 今日は、昭和時代前期の1933年(昭和8)に、国際連盟総会でのリットン調査団報告書採択に抗議し日本全権大使松岡洋右が退場、国際連盟脱退宣言をした日です。
 国際連盟脱退(こくさいれんめいだったい)は、国際連盟創立以来の原加盟で、常任理事国となっていた日本が、1933年(昭和8)の国際連盟総会でのリットン調査団の報告書により、満州国を不承認としたことに反発、2月24日の対日勧告を含む報告案の票決の結果、42票対1票、棄権1票(タイ)によって可決されたことを不服として退場し、3月27日に国際連盟脱退を通告(1935年発効)したことでした。
 それ以前の1931年(昭和6)9月18日の柳条湖事件(関東軍の謀略による柳条湖付近の南満州鉄道線路爆破事件)の3日後、中国は国際連盟に日本を提訴し、日本は列国から問責非難される立場に立たされます。しかし、翌年3月に、関東軍は満州全土を占領し、清朝最後の皇帝溥儀を「執政」に迎えて、「満州国」の建国を宣言させました。
 リットン調査団は1932年(昭和8)2月29日に来日、3月から6月まで現地および日本を調査を行ないます。日本は、それを既成事実化しようとし、同年9月には、「日満議定書」を交わし、満州の独立を承認しました。
 同年10月には、リットン調査団はこの調査結果を「リットン報告書」として提出、その中で、日本の行為は侵略である認定しましたが、満州に対する日本の権益は認め、日本軍に対しては満州からの撤退を勧告したものの、南満州鉄道沿線については除外されます。同年12月に開催された国際連盟総会では、日中両国の意見が激しく対立し、両国を除く十九人委員会に問題が付託されました。
 翌年2月の国際連盟総会で、リットン調査団報告書を審議し、2月24日の票決の結果、42票対1票、棄権1票(タイ)によって可決され、日本の松岡洋右全権以下の代表団は抗議して、総会から退場します。次いで同年3月27日に、日本政府は連盟事務局に脱退の通告(1935年発効)を行うとともに、同日脱退の声明を発表しました。
 以後、日本は国際的孤立の道を歩むことになり、やがてドイツ・イタリアとの提携の道へと進みます。
 以下に、「国際連盟総会に於ける松岡洋右代表の演説」を全文掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「国際連盟総会に於ける松岡代表の演説」 1933年(昭和8)2月24日

   昭和八年二月二十四日

 日本代表は旣に十九人委員會の作成せる報吿案に同意し難く從つて之を受諾し得ざる旨を總會に通吿した。報吿書全體を通じて感知し得る一つの顯著なる事實は、十九人委員會が、極東の實際的情勢と比類なき且つ戰慄すべき情勢の眞只中にある日本の困難なる立場と、日本をして從來の行動を執るの已むなきに至らしめた其の最終的目的とを認識しなかつたことである。
 極東に於ける紛議の根本原因は、支那の無法律的國情と其の隣國への義務を承認せずして飽くまで自己の意志のみを行はんとする非望之である。支那は今日まで永い間獨立國としての國際義務を怠つて來て居り、日本は其の最も近い隣國として此の點で最も多大の損害を蒙つて來た。
 而して滿洲のみが、昨年まで支那の名目のみの主權の下に支那本土と一種の接觸と聯絡を持つことにより支那の一部分として殘つて居たものである。滿洲が完全に支那の主權下に在つたと言ふ如きは實際的且つ歷史的事實に對する歪曲である。今や此の地方は支那より離れ、獨立國となつた。
 滿洲をして法律及び秩序の國たらしめ、平和及び豐潤の地たらしめ、以て單に東部アジアのみならず、全世界の幸福たらしむることは日本の希望であり決意である。而して此の目的を達成する爲、日本は永年に亙つて支那と協力せんとする用意を有し、數年に亙つて此の協力を求めて來た。併し乍ら支那は我々の友情と援助を受け容れやうとせず、却つて常に日本に妨害を與へ、間斷なき紛爭を生ぜしめた。近年殊に國民黨及び國民政府による計晝的排外思想の助長が行はれ、以來此の對日反對は益々烈しくなり、我々が忍耐を示せば示す程此の反對は激化し、遂に我々の堪へ得べからざる點に迄達した。日本の讓步に對し支那亦讓步を以て我々を迎ふべきであるのに、支那は却つて我々の態度を軟弱と解釋し、遂には日本人の滿洲撤退を主張し、凡ての歷史的背景を無視し、恰も日本人には滿洲に在る理由なきが如く、日本を目して純然たる又單なる侵略國として非難し、日本は最早同地の開發に携るべからずと主張し始むるに至つた。
 日本が認めて居る滿洲の重大性に就ては更めて詳說する必要を余は認めない。總會は最早同地方に於ける日本の經濟的政治的必要を知悉し居るべき筈である。然し余は、此の重大時機に於て今一度諸君の注意を喚起したい。卽ち日本は滿洲に於て二回の戰爭をなし、而も其の一つに於ては日本國民の存立を賭したのである。日本は最早戰爭を欲しない、國際平和は互讓を基礎としてのみ贏ち得られることは眞實である。然し乍ら何れの國もその存立の爲め到底讓步も妥協も不可能な死活問題を持つて居る。滿洲問題は卽ちそれである。同問題は日本國民にとつて實に生死に關する問題とされてゐるのである。
 世界の諸國は永い間假想の下に支那を取扱つて來た、我々は遙か以前に聯盟規約第一條の聯盟國たるべき國、屬領及び植民地は「完全な自治國」たるべきを要することを規定して居ることに氣が附くべきであつた。支那は斯る國ではない、支那本土以外では支那の主權は久しい以前に消失してしまひ、又支那本土內でも之を統治するに足る權威と能力を有する組織ある政府は存在しなかつた。南京政府は今日、支那本土十八省の中僅かに四省に足りない地域の事務を執行するのみである。世界は斯の如き假想の支那を對𧰼として聯盟に對し條約の文面を維持することを要求した。斯る誤れる主義に危險が存在するのである。
 日本が過去に於ても又將來に於ても、極東の平和及秩序並に進步の柱石たることは日本政府の堅き信念である。若し日本が滿洲國の獨立の維持を主張するとすれば、その現在の情勢では滿洲國の獨立のみが極東に於ける平和と秩序への唯一の保障を與へるものであるとの堅い信念によるものである。
 現在の日支紛爭勃發以後に於てすら日本は和協の政策を持續した、從つて若し支那が其時に於て事態の實體を認識し協定に到達せんとする眞摯なる希望を以て日本との交涉を受諾したならば、大なる困難なくして協定を締結し得たであらう。然るに支那は此の方法を撰ばずして聯盟に訴へ、聯盟を構成する列國の干涉によつて日本の手足を縛せんとした。而して聯盟は紛爭中に含まれたる眞實の問題と極東の實際的情勢とを十分諒解せず、更に恐らく支那の眞の動機につき何等の疑を挿まずして支那を鼓舞激勵した。支那が聯盟に訴へたのは、諸君が聽かされる如く決して平和愛好と國際原則に忠實ならんとする精神を其の動機としてゐるものではない。他國より多くの軍人を有する國は平和の國民でない、國際誓約を慣習的に破つた國は國際原則を尊重する國民でない。
 リットン報吿書の或る部分は其の性質に於て皮相的であり、屢問題の根柢を窮めることが出來なかつた。滿洲國の人民の大多數は支那の人民とは明確に相違してゐる。滿洲人口の大半は正しくは滿洲人と稱すべきものより成る、それは舊滿洲族の子孫並に昔の滿洲族と同化した支那民族並に蒙古人から成つてゐるのである。之等人民の大多數は未だ曾て支那に居住したこと無く、支那に對しリットン報吿書の記述してゐるが如き愛着は全然持つてゐないのである。此の點に關し報吿書は明瞭に誤謬に陷つてゐる。
 十九人委員會の報吿書に關しては余は批判的見解を述べざるを得ないものである。我が國の滿洲に於ける善き事業は記錄に留る所である、我々は過去現在を通じ此の未開地域に於ける一大文化的安定的原動力である。若し十九人委員會にして我々が如何に滿洲人に利益を與へたるかを知り、且つ諒解してゐたならば、同委員會は其の見解を改め、斯る事業に好意的意見をなしたであらう。
 次ぎにリットン調査委員會の提出した諸勸吿に轉じやう。此等の勸吿の充分なる意義は今我々の前に置かれた報吿書草案(十九人委員會)の中に於ては看過されて居るやうである。余は特にリットン報吿書第九章に包含されてゐる第十、卽ち最終の原則に言及するものである。右原則は左の通りである。
 「支那の改造に關する國際的協力、支那に於ける現在の政治的不安定は日本との友好關係に對する障碍であり、且つ極東に於ける平和の維持が國際的關心事たる關係上世界の他の部分に對する危惧であると共に、敍上の條件は支那に强固な中央政府が確立されなければ實行することが出來ないから、滿足なる解決の最終的要件は故孫逸仙博士が提議した通り、支那の內部的改造に對する一時的の國際協力である。」
 余は此の明確な警吿を愼重考慮せんことを聯盟に要請するものである。
 余は聯盟が單に支那に對して專門委員會を派遣し、當惑した政府に對し衞生、敎育、鐵道、財政其の他の行政部門に關する忠言を提出することに依つて、支那を一變させることが出來るとの忠吿乃至希望に依つて誤られないことを要請するも、余は余の支那の同僚に對し一の決定的質問を提起せんとするものである。卽ち支那政府には究局迄突き詰めれば、結局支那に對して何等かの形式に於ける國際的管理を課せんとすることを豫定する勸吿を受諾する用意が果してあるのであるか。貴下は此の報吿書草案の表決を爲さんとする總會各代表の前に、此の點に關する貴國政府の立場を明確にせられるのであるか。
 本報吿書を採擇する時は、支那側に對し彼等が一切の責任を許され、從つて依然として日本を蔑視し、而も何等の非難を受けずして濟むとの印𧰼を與へるであらう。更にそれは利害が密接に交錯してゐる日支兩國人の感情を更に惡化せしめるに過ぎないであらう。兩國民は友人たるべきものであり、其の共同の安寧の爲に相互に協力すべきものである。諸卿の前に置かれた報吿書の採擇により、總會は我々卽ち日本人と支那人との何れに對しても如上目標への道程に於て助力を與へるものではなく、且つ平和の大業にも資する所無く、支那に於ける受難の大衆の利益にも貢獻する所は無いのである。
 報吿書草案は更に多少とも實效的な樣式に於て滿洲に支那の主權を確立することを期したものである。換言すれば報吿書草案は支那が從前未だ嘗て有してゐなかつた權力と勢力とを滿洲に導入せんと期するものである。我々は茲に靜思一番し、斯る事が果して理義に適つてゐるか否かを反問すべきではないか。更に報吿書は支那の煽動家の爲に新な途を拓き徒に事態を紛糾せしめ、斯くして新たなる恐らくは更に險惡なる破局を招來するに過ぎないであらう。
 報吿書草案は滿洲全土にある程度の國際管理を確立せんとしてゐる、而も斯る管理は過去並現在を通じて滿洲に存在しなかつたのである。何を根據として此の企圖を敢てせんとするのであるか、余の解するに苦しむ所である。米國人はパナマ運河地帶に斯る管理を設定することに同意するであらうか。英國人は之をエヂプトに於て許容するであらうか。何れにせよ、諸卿は如何にして之を實行せんとするのであるか。諸君の政府の何れが、犧牲を伴ふこと確實な重大責任を執つて此の任に當らんとするのであるか。此の點に關し余は斷然日本國民が、余に取つて餘りに明白で說明の必要すら認めない理由に基き、滿洲に於ける一切の此の種の企圖に反對するであらうことを明言せんとするものである。
 旣に述べた如く且つ旣に或る程度まで述べた理由に依り、日本が置かれてゐる現實の事情の下に於て、我々の前に置かれた報吿書草案に關し日本として他に選ぶべき道がないのである。聯盟は日本に對し他に何等の道をも殘してゐない、日本は卽座に且つ明確に「否」と答へぎるを得ない。紳士諸君、我々の希望は力の及ぶ限り支那を援助せんとするにある、之は我々が爲さねばならぬ義務である。此の聲明は此の際或は諸卿に對して逆說の如くに聞えるかも知れないが、而も之は眞實である。
 而して我々は現在不幸にして滿洲國に關し意見を異にして居るのであるが、而も滿洲國の自立を助けんとしつゝある現在の我々の努力は、やがて後は支那を援助せんとする日本の願望と義務とを實現する契機となり、之によつて東亞を通じて平和の確立に成功するに至るべきことを余は確信する。
 余は此の機關(聯盟)に對し、事實を認識し將來の理想を直視せんことを乞ふものである。余は諸卿に對し、諸卿が我々の言に基いて我々を取扱ひ且つ信賴せられんことを願ふものである。此の我々の要望を拒否することは大なる過誤となるであらう。余は諸卿に此の報吿を採擇せざらんことを要請するものである。

 松岡代表宣言書

   報吿書の採擇に續き松岡首席代表が朗讀した宣言全文左の如し

 報吿書草案が今この總會によつて採擇されたことは、日本代表部並に日本政府にとり深く遺憾とするところである。日本は國際聯盟創立以來その一員である、一九一九年パリ會議の我が代表は聯盟規約の起草に參加した、我々は聯盟の一員として人類共同の一大目的の爲に世界の指導的國家と相協力して來たことを誇りとするものである、日本は外の同僚聯盟國と共に人類共同の然く永く抱懷されたる一大目的を達成するに努めて來たのである。余は同一の目的卽ち恒久平和の確立を見んとする希望が、總て我々の審議並に行動に際して我々の總てを動かしてゐることを疑はぬものであるが故に、今我々が當面しつつある情勢を深く遺憾とするものである。日本の政策が極東における平和を保障し、斯くして全世界を通じて平和の維持に貢獻せんとする純眞なる希望によつて根本的に鼓吹されてゐるものであることは周知の事實である。然しながら總會によつて採擇された報吿書を受諾することは爲し能はざるところであり、特に右報吿書に包含された勸吿が世界の此の部分(極東)に於ける平和を確保するものと思惟し得ないものであることを指摘せざるを得ない。之は日本の苦痛とするところである、日本政府は今や極東に於て平和を達成する樣式に關し、日本と他の聯盟國とが別個の見解を抱いて居るとの結論に達せさるを得ず。然して日本政府は日支紛爭に關し國際聯盟と協力せんとする其の努力の限界に達したことを感ぜざるを得ない。
 然しながら日本政府は極東に於ける平和の確立並に他國との間に於ける親善良好關係の維持並に强化の爲には依然最善の努力を盡すであらう。余は日本政府が飽くまで人類の福祉に貢獻せんとする其の希望を固持し、世界平和に捧げられる事業に誠心誠意協力せんとする政策を持續すべきことを、こゝに付言する必要はあるまいと信ずる。

     「日本外交年表竝主要文書 下巻」外務省編より

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