今日は、昭和時代中期の占領下の1946年(昭和21)に、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が「映画検閲に関する覚書」(SCAPIN-658)を出した日です。
「映画検閲に関する覚書」(えいがけんえつにかんするおぼえがき)は、太平洋戦争敗戦後の連合国軍占領下で、GHQによって発令された、連合国最高司令官指令第658号(SCAPIN-658)のことで、英語で「Motion Picture Censorship」と言いました。日本政府に対し、映画・幻燈画(物語、教育、漫画、ニュース映画の全編)のすべての所有者および製作者に、16mmまたは35mm、サイレントまたはサウンドの区別なく、1946年2月28日までに民間検閲局(CCD)に、すべての無修正映画の完全なリストを提出するよう指示したものです。また、これらの中で民間検閲識別番号を持たないものを聴衆に対して供覧することを禁止しました。
これによって、GHQによる二重検閲が始動、英訳した企画書や脚本をCIE映画課に事前提出する〈民間検閲〉と完成後に民間諜報局傘下の民間検閲支隊(CCD)プレス・映画・放送部門から民間検閲認証番号を得る〈軍事検閲〉が行われるようになります。それは、新作だけでなく、旧作の再上映にも認証番号制を敷くことになりました。
さらに、同年11月16日にGHQは、「非民主主義映画除去の指令に関する覚書」(SCAPIN-287)を発令、全455作品の中から選ばれた封建主義的・国家主義的・軍国主義的な236作品(日活映画「薩摩の密使」以下48篇、松竹映画「宮本武藏」以下53篇、大映「紅顏鼓笛隊」以下62篇、東宝映画「日本劍豪傳」以下51篇、日本映画「轟沈」以下11篇、興亜映画「菊水とはに」1篇、新興映画「熱血の道」1篇、朝鮮映画「若き姿」1篇、藝術映画「鬪ふ輸送船團」1篇、朝日映画「陸鷲誕生」以下2篇)の長編劇映画、そして戦中に製作されたほとんどすべてのニュース映画や文化記録映画の上映、交換、売買を禁止し、それらを地方自治体ごとの綿密な探索により没収しています。
その後、1948年(昭和23)に、GHQは社団法人日本映画製作者連盟(映連)に対して自主的な審査機能を設置するよう促し、翌年には、映画倫理規程管理委員(映倫)が設置されました。これで、GHQの二重検閲は、CIEの事後検閲のみとなり、1952年(昭和27)4月28日の「サンフランシスコ平和条約」の発効まで続きました。
以下に、「映画検閲に関する覚書」((SCAPIN-658)の英語原文と筆者による日本語訳を掲載しておきましたので、ご参照下さい。
〇「Motion Picture Censorship」(映画検閲に関する覚書)1946年1月28日にGHQ指令
GENERAL HEADQUARTERS
SUPREME COMMANDER FOR THE ALLIED POWERS
AG 000.76 (28 Jan 46) CIS APO 500
(SCAPIN-658) 28 January 1946
MEMORANDUM FOR:IMPERIAL JAPANESE GOVERNMENT.
THROUGH:Central Liaison Office, Tokyo.
Subject:Motion Picture Censorship.
1. The Japanese government will direct all owners and producers of motion pictures and lantern slides (full feature length, educational, cartoon or newsreel), 16 mm or 35 mm, silent or sound, to submit to the Civil Censorship Officer, SCAP, a complete list of all uncensored film not later than 28 February 1946.
2. The Japanese government will prohibit producers, distributors and exhibitors from showing any motion picture or lantern slide (full feature length, educational, cartoon or newsreel), 16 mm or 35 mm, silent or sound, not bearing Civil Censorship identification number, in the islands of Japan for public or private audiences in places of public entertainment.
FOR THE SUPREME COMMANDER:
H.W.Allen
Colonel,A.G.D.
Asst Adjutant General
※「国立国会図書館デジタルコレクション」より
<日本語訳>
連合国総本部最高司令官
覚書:大日本帝国政府。
経由:東京中央連絡事務所。
件名:映画の検閲。
1.日本政府は、映画および幻燈画(物語、教育、漫画、ニュース映画の全編)のすべての所有者および製作者に、16mmまたは35mm、サイレントまたはサウンドの区別なく、1946年2月28日までに民間検閲局(CCD)に、すべての無修正映画の完全なリストを提出するよう指示しなければならない。
2.日本政府は、映画および幻燈画(物語、教育、漫画、ニュース映画の全編)について、16mmまたは35mm、サイレントまたはサウンドの区別なく、製作者、配給業者、および映画関係者が、日本諸島の公共の娯楽の場所で、公的または私的な聴衆に対して、民間検閲識別番号を持たないものを供覧することを禁止しなければならない。
最高司令官の代り:
H.W.アレン
大佐、A.G.D.
副司令官
※英語原文より筆者が訳しました。
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