今日は、明治時代前期の1885年(明治18)に、「専売特許条例」に基づいて、日本初の専売特許7件が交付された日(専売特許の日)です。
「専売特許条例(せんばいとっきょじょうれい)」は、日本初の特許制度を実施した太政官布告(明治18年太政官布告第7号)でした。幕末の1867年(慶応3)に、福沢諭吉著『海外事情外編』で欧米の特許制度が日本に初めて紹介され、1883年(明治16)には、特許権などの国際的保護に関する「パリ条約」が締結されます。
そこで、最初の特許法として「専売略規則」(明治4年太政官布告第175号)が公布されましたが、運用上の問題が生じたため、施行されることなく翌年には停止されました。その後、当時の不平等条約改正問題を解決し、国際的地位を向上させるためにも特許に関する法律制定の機運が高まり、農商務省は専売特許について調査を行い、1884年(明治17)2月、太政官に「発明専売特許条例按」を上申します。
この農商務省案は、元老院等で審議され、1885年(明治18)4月18日に「専売特許条例」として公布され、同年7月1日に施行されました。この内容は、専売特許を受けるための要件や専売特許の存続期限を認可の日から5、10、15年のいずれか特許取得者が選択した期間とすること、発明者が特許後2年以内に不実施の場合や発明品を輸入した場合は特許を無効とすること、手数料などとなり、外国人の特許取得は認められないこととなります。
これに基づいて、専売特許の申請が受け付けられ、審査の結果、同年8月14日に、日本初の専売特許7件がが交付されましたが、特許第1号は、京都府の堀田瑞松による「堀田式さび止め塗料とその塗法」、第2号~第4号は高林謙三による「生茶葉蒸器械」、「焙茶機械」、「製茶摩擦器械」、第5号は宮本孝之助の「稲麦扱機械」、第6号は松井兵治郎他による「工夫かんざし」で、この日が「専売特許の日」とされてきました。
以下に、「専売特許条例」全28条(明治18年太政官布告第7号)を掲載しておきますので、ご参照下さい。
〇「専売特許条例」全28条(明治18年4月18日太政官布告第7号)明治18年7月1日施行版
第一条 有益ノ事物ヲ発明シテ之ヲ専売セント欲スル者ハ農商務卿ニ願出其特許ヲ受クヘシ
2 農商務卿ハ其専売ヲ特許スヘキモノト認ムルトキハ専売特許証ヲ下付スヘシ
第二条 専売特許ヲ願出ルニハ其願書ニ発明ノ明細書并必要ノ図面ヲ添フヘシ但時宜ニ依リ其現品又ハ雛形ヲ差出サシムルコトアルヘシ
第三条 専売特許ノ年限ハ専売特許証ノ日附ヨリ起算シ十五年ヲ超ユルコトヲ得ス
第四条 左ノ諸項ニ触ルヽモノハ専売特許ヲ願出ルコトヲ得ス
一 他人ノ既ニ発明シタルモノ但他人ヨリ譲受ケタルモノハ此限ニアラス 二 専売特許願出以前公ニ用ヒラレ又ハ公ニ知ラレタルモノ 三 治安、風俗、健康ヲ害スヘキモノ 四 医薬
第五条 軍用ニ必要ナリト認メ又ハ広ク用ヒシムルコトヲ必要ナリト認ムル発明ニハ農商務卿ニ於テ専売特許ヲ与ヘス又ハ既ニ与ヘタルモノト雖モ之ヲ取消スコトアルヘシ
2 前項ノ場合ニ於テハ農商務卿ニ於テ相当ト認ムル報酬金ヲ其発明者ニ下付スヘシ
第六条 専売特許ヲ願出ルノ権及専売ノ権ハ相続者ニ伝ハルヘキモノトス
2 相続者ニ於テ専売ノ権ヲ相続シタルトキハ三ケ月以内ニ農商務省ニ届出ヘシ
第七条 専売ノ権ヲ他人ニ譲与又ハ分与セントスルトキハ農商務卿ニ願出ヘシ
第八条 専売人其発明ヲ改良シタルトキハ追加専売特許ヲ願出ルコトヲ得但追加特許ハ原専売特許ノ年限ヲ超ユルコトヲ得ス
第九条 専売人ノ発明ヲ改良シテ専売特許ヲ得ント欲スル者ハ専売人ノ承諾ヲ経ヘシ
2 専売人其承諾ヲ拒ミ農商務卿ニ於テ改良ニ妨アリト認ムルトキハ其発明ヲ改良ノ部分ト合セテ使用スルノ特許ヲ改良者ニ与フルコトアルヘシ
3 前項ノ場合ニ於テハ農商務卿ニ於テ相当ト認ムル報酬金ヲ改良者ヨリ専売人ニ与ヘシムヘシ
第十条 専売人ハ其発明品ニ専売特許証ノ年月日及年限ヲ標記スヘシ品柄ニ由リ標記スルコトヲ得サルモノハ其上包等ニ標記スヘシ
第十一条 専売人ノ名簿及発明ノ明細書図面等ハ農商務省ニ於テ衆庶ノ観覧ニ供スヘシ
第十二条 専売人転籍転居又ハ氏名ヲ変換シタルトキハ三ケ月以内ニ農商務省ニ届出ヘシ
第十三条 専売特許証ヲ毀損遺失シタルトキハ其再渡ヲ農商務卿ニ願出ヘシ
第十四条 左ノ場合ニ於テハ専売特許無効ニ帰シ其特許証ヲ返納セシムヘシ
一 第四条ノ諸項ニ触レタルコトヲ発見シタルトキ 二 願書并明細書図面等ニ相違ノ事実アルコトヲ発見シタルトキ
第十五条 左ノ場合ニ於テハ専売ノ権ヲ失フ
一 専売特許証ノ日附ヨリ二年ヲ経テ其発明ヲ実施公行セス又ハ事故ヲ届出スシテ二年間之ヲ中止シタルトキ 二 専売特許ノ発明品ヲ外国ヨリ輸入シテ之ヲ販売シタルトキ
第十六条 専売特許証ヲ下付シタルトキ及専売特許無効ニ帰シタルトキ又ハ専売ノ権ヲ失ヒタル者アルトキハ農商務省ヨリ之ヲ広告スヘシ
第十七条 専売特許ヲ願出ル者ハ左ノ免許料ヲ納ムヘシ但願書ヲ却下スルトキハ之ヲ返付スヘシ
一 五年ノ専売特許ヲ願出ル者 金拾円
二 十年ノ専売特許ヲ願出ル者 金拾五円
三 十五年ノ専売特許ヲ願出ル者 金弐拾円
四 譲与分与ヲ願出ル者 金五円
五 追加特許ヲ願出ル者 金五円
六 専売特許証ノ再渡ヲ願出ル者 金壱円
第十八条 専売特許ノ事務ニ関スル官吏ハ専売特許ヲ願出ルコトヲ得ス
第十九条 専売人其専売権ヲ侵サレタルトキハ之ヲ告訴シ并要償ノ訴ヲ為スコトヲ得但第十条ノ標記ヲ為サヽルトキハ要償ノ訴ヲ為スコトヲ得ス
第二十条 専売特許ノ発明品ヲ偽造シ若クハ外国ヨリ輸入シ又ハ専売特許ノ方法ヲ窃用シタル者ハ一月以上一年以下ノ重禁錮ニ処シ四円以上四十円以下ノ罰金ヲ附加ス
第二十一条 専売特許ノ機械又ハ方法ヲ以テ製造シタル物品ト同一種類ノ物品ニ専売人ノ記号ニ紛ラハシキ記号ヲ用ヒタル者ハ十五日以上六月以下ノ重禁錮ニ処シ二円以上二十円以下ノ罰金ヲ附加ス
第二十二条 第二十条第二十一条ノ犯罪ニ係ル物品ヲ情ヲ知テ販売シタル者ハ四円以上四十円以下ノ罰金ニ処ス
第二十三条 第二十条第二十一条第二十二条ノ場合ニ於テハ其物品及犯罪ノ用ニ供シタル物件ヲ没収シテ専売人ニ給付シ其既ニ売捌キタルモノハ代価ヲ追徴シテ之ヲ給付ス
第二十四条 詐偽ノ所為ヲ以テ専売特許ヲ受ケ又ハ専売特許ヲ偽称シタル者ハ十五日以上六月以下ノ重禁錮ニ処シ二円以上二十円以下ノ罰金ヲ附加ス
第二十五条 第六条第二項第十二条ノ届出ヲ其期限内ニ為サヽル者ハ一円以上一円九十五銭以下ノ科料ニ処ス
第二十六条 此条例ヲ犯シタル者ニハ刑法ノ数罪倶発ノ例ヲ用ヒス
第二十七条 第二十条第二十一条第二十二条ノ犯罪ハ専売人ノ告訴ヲ待テ其罪ヲ論ス
第二十八条 専売人告訴ヲ為シタルトキハ裁判官ニ於テ仮ニ其告訴ニ係ル物品ノ販売ヲ停止スルコトヲ得
附 則
1 明治四年四月七日専売略規則布告以後本条例布告以前ニ発明シ明治五年三月第百五号布告但書ニ依リ届出タル事物ニシテ之ヲ専売セント欲スル者ハ公ニ用ヒラレ公ニ知ラレタルモノト雖モ本条例施行ノ日ヨリ六ケ月間ニ其専売特許ヲ農商務卿ニ願出ルコトヲ得
2 本条例布告以前既ニ前項ノ発明ヲ使用シタル者ハ本条例施行ノ日ヨリ一ケ年間ニ其使用特許ヲ農商務卿ニ願出ルコトヲ得此場合ニ於テハ本条例第十七条専売特許ノ免許料ト同一ノ金額ヲ納ムヘシ
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