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 昭和時代前期の1945年(昭和20)にGHQが「戦時利得の除去及び国家財政の再編成に関する覚書」を指令した日です。
 太平洋戦争終結にあたり、日本が受諾した「ポツダム宣言」の軍国主義の除去、日本の民主化の条項において、経済分野では、経済の非軍事化を進めると共に、インフレーションの抑制のための経済統制の強化が求められました。その中で、GHQは1945(昭和20)年11月24日に、連合国最高司令官指令として、「戦時利得の除去及び国家財政の再編成に関する覚書」(SCAPIN-337)を日本政府に発出し、戦時利得税の創設、戦時補償の封鎖等を指令します。
 これに基づき、「戦時補償特別措置法」(昭和21年法律第38号)による戦時補償の打ち切りと併せて「財産税法」(昭和21年11月11日法律52号)が制定され、1946年(昭和21)年3月3日午前0時において国内に在住する個人の財産の全額及び国外在住の個人が国内に所有する財産に対して1回限り税が徴収されました。これに先立ち、預金封鎖・新円切替と同時に執行された「臨時財産調査令」(昭和21年2月17日勅令85号)により3月3日時点の財産(金融資産)を強制的に申告させており、この調査結果に基づき課税額を決定しています。
 この調査の結果、所有していた動産・不動産の合計が、10万円以上の個人に課税されましたが、同一家族で該当者が複数ある場合は、合算されました。財産額よる税率は、10万円を超える金額―25%、11万円を超える金額―30%、12万円を超える金額―35%、13万円を超える金額―40%、15万円を超える金額―45%、17万円を超える金額―50%、20万円を超える金額―55%、30万円を超える金額―60%、50万円を超える金額―65%、100万円を超える金額―70%、150万円を超える金額―75%、300万円を超える金額―80%、500万円を超える金額―85%、1500万円を超える金額―90%というように累進課税とされます。
 多くの国民は、物資・賃金統制、配給制等によって、戦時下や戦後直後に窮乏生活を強いられていましたが、軍事物資生産や利権等によって、蓄財していた一部の人々は、財産を吐き出させられることとなりました。この税は、現金で支払うか、物納するか、利息を払って延納するかでしてが、多くのケースで財産が物納されたとされます。
 以下に、「戦時利得の除去および国家財政の再編成に関する覚書」(SCAPIN-337)の日本語訳を掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「戦時利得の除去および国家財政の再編成に関する覚書」(SCAPIN-337)1945年(昭和20)11月24日指令

一、一九四五年十一月十六日附戦争利得の除去並に財政再建に関する大蔵大臣覚書に関し意見次の如し。
二、該計画は日本に於ける平和的且民主的なる勢力の育成に寄与すべき方法及制度の発展を来す為の単なる一手段として原則的に之を承認す。一部の日本人の資産は不正にして且侵略的なる戦争を利用し多年に亘り不法に増大せり。政府は全日本人に対し戦争は経済的に見て利益あるものに非ざることを周知せしむる為貴方提案の第一項Aの税は不信なる真珠湾攻撃の日以後に付てのみならず可能なる限りに於て夫れ以前の期間に付ても適用せしむべし。
三、本計画に関する完全なる法案は一九四六年に開催せらるべき最初の議会に其の協讃を得る為提出せらるべし、右法案は本司令部の承認を求むる為一九四五年十二月三十一日以前に提出すべし。
皇室財産も本計画の適用を免るることなし。
四、必要なる立法措置を完了する迄は日本政府、其の下部機構、代理機関其の他の機関並に一切の者に依り軍需品の生産若は供給、戦争損害又は軍需工場の建設若は転換より生ずる一切の請求権に関し、左の条件を以てするの外支払を為すことを得ず。
(イ)該支払金は日本銀行に於ける封鎖勘定に受益者の名義に依り預金せらるること
(ロ)該勘定よりの支払、振替又は引出は本司令部の許可なくして行ふべからざること
五、日本政府其の下部機構、代理機関其の他の機関並に一切の者は左記のものを担保として信用を供与すべからず。
 a、軍需品の生産若は供給、戦争損害、軍需工場の建設若は転換に起因する請求権
 b、前項の請求権に基く支払に起因する封鎖勘定
六、軍需品の生産若は供給、戦争損害、軍需工場の建設若は転換に起因する請求権に関連し従来封鎖せられ居りたる勘定は本司令部の許可ある場合の外依然之が封鎖を続行すべし。第四項及第五項は斯る勘定に対しても適用せらるべし。
七、日本政府、其の下部機構、代理機関其の他の機関並に一切の者に依る一九四五年八月十五日以降に於ける本文書第四項記述の目的の為にする支払にして一請求権者に対する支払金額五千円を超ゆるものに付ては未だ封鎖が行はれ居らざる場合又は封鎖勘定より其の全部又は一部が解除せられ居る場合は本日後三十日内に受益者をして日本銀行封鎖勘定に再預金せしむべし。若し上述の資金が固定資産に投下せられ居る為又は其の他の理由に依り受益者に不当の困難を与ふることなしに回収し得ざる場合には事情の詳細を記述したる報告を大蔵省に提出せしめ本司令部の考究に資すべし。
八、日本政府、下部機構、代理機関其の他の機関は本司令部の許可なくして左の措置を行ふべからず。
(イ)公債又は其の他の債務証書を発行すること
(ロ)形式の如何を問はず信用を獲得し又信用を供与すること
(ハ)銀行、保険会社、信託会社、証券会社、投資会社、工業又は商業に関する商社其の他の公私の事業に対し今後債務の保証又は支払の約束を為すこと
(ニ)補助金の交付、免税、税の分与、払戻又は類似の便宜を与ふること
但し本指令に依り禁ぜられ居らざる目的の為に政府歳入を政府下部機関に再割当する場合は之を除く
(ホ)不動産又は他の固定資産、設備及他の公共事業又は企業の利益の売却其の他の処分
九、本指令に依り必要とせらるる承認に対する申請には大蔵省の書面に依る副申を附することを要す。
十、覚書の受領の確認を要求す。

 大蔵省財政史室編『昭和財政史-終戦から講和まで-』第17巻(東洋経済新報社)より

☆主要な連合国最高司令官指令(SCAPIN)一覧

<1945年(昭和20年)>
・9月2日 SCAPIN-1 陸海軍解体・軍需工業停止などを指令
・9月10日 SCAPIN-16 「言論及び新聞の自由に関する覚書」
・9月10日 SCAPIN-17 13日24時までの大本営廃止を発令
・9月21日 SCAPIN-33 「日本に与うる新聞遵則」(プレスコード)
・9月22日 SCAPIN-43 「日本に与うる放送遵則」(ラジオコード)
・10月4日 SCAPIN-93 「政治的、公民的及び宗教的自由に対する制限の撤廃に関する覚書」
・10月16日 SCAPIN-146 「映画企業に対するの日本政府の統制の撤廃に関する覚書」
・10月22日 SCAPIN-178 「日本教育制度ニ対スル管理政策」
・10月30日 SCAPIN-212 「教育及ビ教育関係官ノ調査、除外、認可ニ関スル件」
・11月6日 SCAPIN-244 「持株会社解体に関する司令部覚書」
・11月24日 SCAPIN-337 「戦時利得の除去及び国家財政の再編成に関する覚書」
・12月9日 SCAPIN-411 「農地改革ニ関スル覚書」
・12月15日 SCAPIN-448 「国家神道、神社神道ニ対スル政府ノ保証、支援、保全、監督並ニ弘布ノ廃止ニ関スル件」(神道指令)
・12月31日 SCAPIN-519 学校教育における「修身、日本歴史及ビ地理停止ニ関スル件」

<1946年(昭和21年)>
・1月4日 SCAPIN-548  超国家主義団体の解体の指令
・1月4日 SCAPIN-550 公職追放の指令
・1月21日 SCAPIN-635 政府借入及び政府支出の削減
・1月21日 SCAPIN-642 公娼廃止の指令
・1月28日 SCAPIN-658 「映画検閲に関する覚書」
・1月29日 SCAPIN-677 日本の行政権の行使に関する範囲の指令
・2月27日 SCAPIN-775 「社会救済に関する覚書」
・6月22日 SCAPIN-1033 「日本の漁業及び捕鯨業に認可された区域に関する覚書」
・7月23日 SCAPIN-1080 1946年度予算の概算
・10月12日 SCAPIN-1266 日本史学科再開はSCAP認可の教科書使用を条件とする旨の指令
・10月25日 SCAPIN-1294 石油関係法令廃止と配給会社解散を指令

<1948年(昭和23年)>
・2月4日 SCAPIN-1855 「農地改革ニ関スル覚書」

<1949年(昭和24年)>
・4月1日 SCAPIN-1988 ガリオア及びエロア輸入による見返り円
・5月4日 SCAPIN-2001 日本政府の国税行政の改組

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

1873年(明治6)日本画家河合玉堂の誕生日詳細
1919年(大正8)平塚らいてうにより新婦人協会の設立が発表される詳細