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 今日は、室町時代の1428年(正長元)に、正長の土一揆で京都・醍醐附近の地下人が徳政を要求して蜂起した日ですが、新暦では10月26日となります。
 正長の土一揆(しょうちょうのどいっき)は、京都をはじめ畿内一帯に広がった大規模な土一揆で、8月の近江の馬借が徳政令を要求した蜂起に始まりました。同月守護六角氏は8月中に「山上山下一国平均」の徳政令を出し、さらに近畿一円へと広がっていきます。9月18日には醍醐など京都付近の一揆の蜂起が見られ、酒屋や土倉が襲われ、質物が奪還されるとともに、証文類が焼却されましたが、これは幕府の軍勢によって鎮圧されました。
 11月にも土一揆が京中を攻めましたが、室町幕府は徳政令を出さなかったものの、同月に南山城の木津、加茂などの馬借が奈良を攻め、これに宇陀郡の一揆が加わって徳政令の発布を要求し、奈良の興福寺などが徳政令を発布しています。
 この背景には、荘園制支配のもとでの年貢収奪に加え、高利貸資本の収奪にも苦しんでいた広範な民衆の怒りがありました。
 これに関して、奈良県奈良市柳生町の柳生街道峠口の疱瘡地蔵岩に正長の土一揆の際の柳生徳政碑(史跡)があり、神戸四ヵ郷の債務破棄を明記した文言が残されています。また、興福寺大乗院門跡尋尊(じんそん)の『大乗院日記目録』にも、この土一揆の記載があり、『東大寺薬師院文書』には興福寺の徳政令が載っていますので、以下に掲載しておきました。

〇『大乗院日記目録』の正長の土一揆に関する部分(抜粋)

 正長元年九月 日条
 一、天下の土民[1]蜂起[2]す。徳政[3]と号し、酒屋[4]、土倉[5]、寺院[6]等を破却せしめ、雑物等恣にこれを取り、借銭等悉くこれを破る。管領[7]これを成敗す。凡そ亡国の基、これに過ぐべからず。日本開白以来[8]、土民蜂起是れ初めなり。

【注釈】

[1]土民:どみん=下級武士・農民など庶民の総称。
[2]蜂起:ほうき=蜂が一斉に巣を飛び立つように群がりおこること。兵乱・動乱などが一斉に起こること。
[3]徳政:とくせい=貸借関係の契約破棄。
[4]酒屋:さかや=酒造業者だが、高利貸しを兼ねていた。
[5]土倉:どぐう=中世の高利貸業者。
[6]寺院:じいん=当時は祠堂銭などで高利貸しを行っていた。
[7]管領:かんれい=当時の管領畠山満家のこと。
[8]日本開白以来:にほんかいびゃくいらい=日本の国が始まって以来。

<現代語訳>

 正長元年(1428年)九月 日条
一、天下の土民が一斉に暴動を起こした。「徳政」と叫んで、酒屋・土倉・寺院等を破壊し、質入れした品物等を思うままに奪い取り、借金証文などをすべて破棄してしまった。管領(畠山満家)がこれを鎮圧した。およそ国が亡びる原因で、これ以上のものはない。日本の国が始まって以来、土民達が一斉に暴動を起こしたのは初めてである。

〇『大和国添上郡柳生村地蔵石碑』(疱瘡地蔵岩の柳生徳政碑)
 正長元年よりさき[1]者かんへ四かんかう[2]にをゐめ[3]あるへからす

【注釈】

[1]さき=以前。
[2]かんへ四かんかう=神戸四か郷(大柳生・坂原・小柳生・邑地)。
[3]をゐめ=負債。

<現代語訳>

 正長元年(1428年)以前は、神戸四か郷(大柳生・坂原・小柳生・邑地)に負債はないものとする。

〇『興福寺の徳政令』全7条

 禁制[1] 徳政[2]の事

  条々
一 現質[3]に於いては、本の三分の一を以て、これを請く[4]べき事
一 利銭[5]・出挙[6]に於いては、本の三分の一を以て落居[7]すべき事
一 五ヶ年以前の借書[8]に於いては、これを破る[9]べき事
一 慿支[10]は、悉くこれを破る[9]べき事
一 去年以前の年貢等の未進に於いては、これを閣く[11]べき事
一 質物においては、今月より明年二月にいたる間、本銭の三分の一を以て、これを請くべし、もし過ぎれば、限りある本利相当分を以って請く[4]べき事
一 質物は、札面の限月以降三か月の分は、いだすべき事
 右の条々、堅く此の掟を守るべし。違犯せしむる輩に於いては、重科に処せらるべきの旨、衆徒の僉議[12]に依て、下知件の如し。
   正長元年十一月 日

 「東大寺薬師院文書」より  

【注釈】

[1]禁制:きんぜい=立札の形で掟や禁令を庶民に告げ知らせるもの。
[2]徳政:とくせい=貸借関係の契約破棄。
[3]現質:げんじち=現存の確実な質物を担保とした質契約。
[4]請く:うく=請け出す。
[5]利銭:りせん=利子付き貸付金。
[6]出挙:すいこ=利子付き借米。
[7]落居:らくきょ=決着。解決。
[8]借書:しゃくしょ=借金証文。
[9]破る:やぶる=破棄する。
[10]慿支:たのもし=頼母子講。互助的な庶民金融組織。
[11]閣く:さしおく=放っておく。
[12]衆徒の僉議:しゅうとのせんぎ=興福寺の多数の衆徒による評議。