今日は、昭和時代前期の1939年(昭和14)に、「国民徴用令」(勅令第451号)が交布された日です。
国民徴用令(こくみんちょうようれい)は、1938年(昭和13)制定の「国家総動員法」に基づいて、戦時・事変に労働力の不足を補うため強制的に国民を徴集し、生産に従事させることを目的とする勅令でした。「国家総動員法」第4条の規定に基く国民の徴用、第6条の規定に基く被徴用者の使用、賃金、給料、その他従業条件に関する命令の二つについて規定し、同年7月15日より日本内地で、10月1日より朝鮮、台湾、樺太及南洋群島で施行されます。
当初は申告を義務づけられた職種の技能、技術者を対象とし、職業紹介、募集などで重要産業に人員を確保できない場合は、総動員業務を行う官庁の請求により、必要に応じて徴用がなされることになっていました。これによって、戦時下の重要産業の労働力を確保するために、厚生大臣に対して強制的に人員を徴用できる権限を与えるようになり、国民の経済生活の自由は失われていきます。戦争激化のため労働力不足が深刻となると、1943年(昭和18)の改正では、徴用業務の範囲が総動員業務一般に拡大されました。
1945年(昭和20)3月6日に公布・施行された「国民勤労動員令」に吸収されるまで、160万人が徴用されています。以下に、当初の「国民徴用令」(勅令第451号)を全文掲載しておきますので、御参照下さい。
〇「国民勤労動員令」とは?
昭和時代前期の1945年(昭和20)3月6日に公布・施行された、労務関係の5勅令(国民徴用令、労務調整令、学校卒業者使用制限令、国民勤労報国協力令、女子挺身隊勤労令)を一本化した勅令(昭和20年3月6日勅令第94号)です。
太平洋戦争末期には、生産に従事すべき青年層は徴兵等により、新規給源はほとんど皆無の状態となってしまい、そのため労働力の確保は、微用による調達と学生や女子の活用に頼らざるを得なくなりました。そこで、本土決戦に備えた「国民皆働」「総員勤労配置」の実現を目標とし、労働力根こそぎ動員と空襲時の要員確保のためものとなります。
文科系の大学および高等専門学校の閉鎖を実施、病人も動員の対象として、決戦兵器の生産、燃料や原料の確保、食料増産などの緊急部門の労務充足を目指したものでした。しかし、公布後半年余りで敗戦を迎え、1945年(昭和20)10月10日、「国民勤労動員令廃止等ノ件」(勅令第566号)の公布により廃止されます。
ちなみに、敗戦時の労務動員の概数は、被微用者数6,164,000人、動員学徒数1,927,000人、女子挺身隊隊員数473,000人、外地からの労働者移入数357,000人、その他一般従業員数(鉱、工、交通業) 4,183,000人の計13,104,000人となっていました。
〇「国民徴用令」(勅令第451号) 1939年(昭和14)7月8日公布 7月15日より日本内地で施行 10月1日より朝鮮、台湾、樺太及南洋群島で施行
第一条 国家総動員法第四条ノ規定ニ基ク帝国臣民ノ徴用ハ別ニ定ルモノヲ除クノ外本令ノ定ル所ニ依ル
第二条 徴用ハ特別ニ事由アル場合ノ外職業紹介所ノ職業紹介其ノ他ノ募集ノ方法ニ依り所用ノ人員ヲ得ラレザル場合ニ限り之ヲ行フモノトス
第三条 徴用ハ国民職業能力申告令二依ル申告者(以下要申告者ト称ス)二限リ之ヲ行フ但シ徴用中要申告者タラザルニ至リタル者ヲ引続キ徴用スル必要アル場合ハ此ノ限り二在ラズ
第四条 本令ニ依リ徴用スル者ハ国ノ行フ総動員業務ニ従事セシムルモノトス
第五条 徴用及徴用ノ解除ハ厚生大臣ノ命令ニ依リ之ヲ実施ス
第六条 総動員補業務ヲ行フ官衛(陸海軍ノ部隊及学校ヲ含ム以下之二同ジ)ノ所管大臣徴用ニ依リ当該官衛ニ人員ノ配置ヲ必要ト認ルトキハ厚生大臣二之ヲ請求スベシ
第七条 厚生大臣前条ノ規定ニ依ル請求在リタル場合ニ於テ徴用ノ必要アリト認ルトキハ徴用令ヲ発シ徴用セラルベキ者ノ居住地(国民職業能力申告令第二条第一号ノ職業二従事スル者二付テハ其ノ者ノ就業地)ヲ管轄スル地方長官二之ヲ通達スベシ
地方長官徴用令ノ通達ヲ受ケタルトキハ直ニ徴用令書ヲ発シ徴用セラルベキ者二交付スベシ
第八条 徴用書ハ左ニ掲グル事項ヲ記載スベシ但シ軍機保護上特二必要アルトキハ第三号ニ掲グル事項ノ全部又ハ一部ヲ省略スルコトヲ得
一.徴用セラルベキ者ノ氏名、出生ノ年月日、本籍、居住ノ場所(国民職業能力申告令第二條第一号ノ職業ニ従事スル者二付テハ就業ノ場所)
二.従事スベキ総動員業務ヲ行フ官衛ノ名称及所在地
三.従事スベキ総動員業務、職業及場所
四.徴用ノ期間
五.出頭スベキ日時及場所
六.其ノ他必要ト認ル事項
第九条 地方長官ハ徴用セラルベキ者ノ居住及就業ノ場所、職業、技能程度、身体ノ状態、家庭ノ状況、希望等ヲ斟酌シ徴用ノ適否並ニ従事スベキ総動員業務、職業及場所ヲ決定シ徴用令ヲ発スベシ
第十条 地方長官ハ徴用ノ適否其ノ他ヲ判定スル為必要アルトキハ徴用セラルベキ者二出頭ヲ求ムルコトヲ得
第十一条 徴用令書ノ交付ヲ受ケタル者疾病其ノ他避クリベカラザル事故二因リ指定ノ日時及場所二出頭スルコト能ハザル場合ハ命令ノ定ル所二依リ地方長官二其の旨届出ヅルベシ
前項ノ規定二依ル届け出アリタル場合ニ於テ地方長官必要アリト認ルトキハ出頭ノ日時若ハ場所ヲ変更シ又ハ其ノ者徴用二適セズト認ルトキハ徴用ヲ取消スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ出頭変更令書又ハ徴用取消令書ヲ発シ其ノ者ニ之ヲ交付スベシ
第十二条 被徴用者ヲ使用スル官衛ノ所管大臣被徴用者ノ従事スル総動員業務、職業若ハ場所又ハ徴用ノ期間ニ付変更ヲ必要トスルトキハ厚生大臣二之ヲ請求スベシ
第十三条 厚生大臣前条ノ規定ニ依ル請求アリタル場合ニ於テ必要アリト認ルトキハ被徴用者ノ従事スル総動員業務、職業若ハ場所又ハ徴用ノ期間ヲ変更スルコトヲ得
第十四条 被徴用者ヲ使用スル官衛ノ所管大臣被徴用者ガ疾病其ノ他ノ事由二因リ総動員業務ニ従事スル二適セズト認ルトキ又ハ其ノ者ヲシテ総動員業務ニ従事セシムル必要ナキニ至りタルトキハ厚生大臣二徴用解除ヲ請求スベシ
被徴用者疾病其ノ他ノ事由に因リ総動員業務ニ従事シ難キ場合ニ於テハ被徴用者ヲ使用スル官衛ノ所管大臣二其ノ旨ヲ申出ルコトヲ得
第十五条 厚生大臣前条第一項ノ規定ニ依ル請求在リタル場合ニ於テハ徴用ヲ解除スルコトヲ得
厚生大臣必要アリト認ルトキハ前条第一項ノ規定ニ依る請求ナキ場合ト雖モ被徴用者ヲ使用スル官衛ノ所管大臣ト協議シ徴用ヲ解除スルコトヲ得
第十六条 厚生大臣徴用ノ変更又ハ解除ヲ為サントスルトキハ徴用変更命令又ハ徴用解除命令ヲ発シ命令ノ定ル所二依リ被徴用者ノ就業地ヲ管轄スル地方長官、徴用令書ヲ発シタル地方長官又ハ第八條第五号ノ出頭ノ場所ヲ管轄スル地方長官二之ヲ通達スベシ地方長官徴用変更命令又ハ徴用解除命令通達ヲ受ケタルトキハ直ニ徴用変更命令書又ハ徴用解除命令書ヲ発シ被徴用者二交付スベシ
被徴用者本令施行地外ノ場所ニ於テ就業スル場合ニ於テ徴用ノ変更又ハ解除ヲ為サントスルトキハ前二項ノ規定二拘ラズ厚生大臣徴用変更令書又ハ徴用解除令書ヲ発シ被徴用者二之ヲ交付スベシ
第十七条 被徴用者総動員業務ニ従事スル場合ニ於テハ其の総動員業務ヲ行フ官衛ノ長ノ指揮ヲ受クベシ
第十八条 被徴用者二対スル給与ハ其ノ者ノ技能程度、従事スル業務及場所等ニ応ジ且つ従前ノ給与其ノ他之二準ズベキ収入ヲ斟酌シテ之ヲ支給ス
被徴用者二対スル給与ニ関シ必要ナル事項ハ被徴用者ヲ使用スル官衛ノ所管大臣厚生大臣二協議シテ之ヲ定ム
第十九条 徴用セラルベキ者第十条ノ規定ニ依り出頭スル場合、被徴用者徴用令書ノ交付ヲ受ケ指定ノ場所二出頭スル場合又ハ徴用ヲ解除セラレ帰郷スル場合ニ於テハ旅費ヲ支給ス
前項ノ場合ニ於テ前金払ヲ為ス二非ザレバ出頭スルコト能ハザル者ノ旅費ハ其ノ者ノ居住地ノ市町村又ハ之二準ズベキモノニ於テ一時繰替支弁スベシ
徴用セラルベキ者第十条ノ規定ニ依り出頭スル場合ノ旅費及其ノ一時繰替支弁ニ関シ必要ナル事項ハ厚生大臣之ヲ定ム
被徴用者徴用令書ノ交付ヲ受ケ指定ノ場所二出頭スル場合ノ旅費及其ノ一時繰替支弁並二徴用ヲ解除セラレ帰郷スル場合ノ旅費ニ関シ必要ナル事項ハ被徴用者ヲ使用スル官衛ノ所管大臣厚生大臣二協議シテ之ヲ定ム
第二十条 厚生大臣又ハ地方長官ハ命令ノ定ル所二依リ徴用ニ関シ国家総動員法第三十一条ノ規定二基ク報告ヲ徴スルコトヲ得
厚生大臣又ハ地方長官徴用二関シ必要アリト認ルトキハ国家総動員法第三十一条ノ規定二基キ当該管理ヲシテ工場、事業場其ノ他ノ場所二臨検シ業務ノ状況又ハ帳簿書類其ノ他ノ物件ヲ検査セシム
ルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ当該官吏ヲシテ其の身分ヲ示ス証票ヲ携帯セシムベシ
第二十一条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ之ヲ徴用セズ
一 陸海軍軍人ニシテ現役中ノ者(未ダ入営セザル者ヲ除ク)及招集中ノ者(招集中ノ身分取扱ヲ受クル者ヲ含ム)
二 陸海軍学生生徒(海軍予備練習生及海軍予備補修生ヲ含ム)
三 陸海軍軍属(被徴用者ニシテ之二該当スル二至りタルモノヲ除ク)
四 医療関係者職業能力申告令二依リ申告ヲ為スベキ者
五 獣医師職業能力申告令二依リ申告ヲ為スベキ者
六 船員法ノ船員、朝鮮船員令ノ船員及関東州船員令ノ船員
七 法令二依リ拘禁中ノ者
第二十二条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ特別ノ必要アル場合ヲ除クノ外之ヲ徴用セズ
一 余人ヲ以テ代フベカラザル職二在ル官吏、待遇官吏又ハ公吏
二 帝国議会、道府県会、市町村会其ノ他之ニ準ズベキモノノ議員
三 総動員業務ニ従事スル者ニシテ余人ヲ以テ代フベカラザルモノ
第二十三条 厚生大臣は命令ノ定ル所二依リ職業紹介所長ヲシテ徴用ニ関スル事務ノ一部ヲ分掌セシメ又ハ市町村長(東京市、京都市、大阪市、名古屋市、横浜市及神戸市二在リテハ区長)若ハ之二準ズベキ者ヲシテ徴用ニ関スル事務ヲ補助セシムルコトヲ得
市町村長(東京市、京都市、大阪市、名古屋市、横浜市及神戸市二在リテハ区長)又ハ之二準ズルモノノ前項ノ規定ニ依リ徴用ニ関スル事務ヲ執行スル為要スル費用ハ市町村又ハ之二準ズベキモノニ於テ一時繰替支弁スベシ
前項ノ費用及其ニ一時繰り替え支弁ニ関シ必要ナル事項ハ厚生大臣之ヲ定ム
第二十四条 厚生大臣ハ本令ノ施行ニ関スル重要事項ニ付内閣総理大臣二協議スベシ
第二十五条 本令中厚生大臣トアルハ朝鮮、台湾、樺太又ハ南洋群島二在リテハ各朝鮮総督府、台湾総督府、樺太廳長官又ハ南洋廳長官トシ総動員業務ヲ行フ官衛ノ所管大臣又ハ被徴用者ヲ使用スル官衛ノ所管大臣トアルハ其ノ官衛ノ所管大臣ガ陸軍大臣又ハ海軍大臣タル場合ヲ除クノ外朝鮮、台湾、樺太又ハ南洋群島二在リテハ各朝鮮総督府、台湾総督府、樺太廳長官又ハ南洋廳長官トス
本令中地方長官トアルハ朝鮮二在リテハ道知事、台湾ニ在リテハ州知事又ハ廳長、南洋群島二在リテハ南洋廳長官トシ職業紹介所長トアルハ朝鮮二在リテハ府尹、郡守又ハ島司、台湾二在リテハ市尹又ハ郡守(澎湖廳二在リテハ廳長)、樺太二在リテハ樺太廳支廳長、南洋群島二在リテハ南洋廳支廳長トス
第二十六条 本令二規定スルモノノ外徴用ニ関シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
附則
本令ハ昭和十四年七月十五日ヨリ之ヲ施行ス但シ朝鮮、台湾、樺太及南洋群島二在リテハ昭和十四年十月一日ヨリ之ヲ施行ス
「法令全書」より