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 今日は、江戸時代中期の1742年(寛保2)に、江戸幕府の成文法「公事方御定書」上下2巻が一応完成した日ですが、新暦では5月10日となります。
 公事方御定書(くじかたおさだめがき)は、享保の改革の一環として、江戸幕府第8代将軍徳川吉宗が裁判、行政の準拠として編纂させた幕府の内規集でした。
 編纂は、老中松平乗邑(のりさと)のもとに、寺社奉行、町奉行、勘定奉行をメンバーとして、現行の法令、判例を整理して編集されます。その中で、法律に造詣の深かった吉宗自身の意見も、随所に反映して、1742年(寛保2年4月6日)に一応完成し、奥書が書かれました。
 しかし、編集作業は続行され、実質的に完成したのは翌年とされるものの、その後も追加補正が、1754年(宝暦4)まで書き加えられています。その後さらに補修して、1767年(明和4)に、『科条類典』が作成されました。
 上・下の2巻からなり、上巻は評定所の執務規定、司法・警察、高札・御書付・御触書、訴訟手続に関する法規類など(81条)からなり、下巻は刑法、刑訴、民訴など実体法、手続法(103条)で、判決の基準となり、原則として一般庶民に適用され、「御定書百箇条」とも呼ばれています。
 御定書は極秘とされ、奉行のほか他見を禁ずる旨老中松平乗邑の申渡しがありましたが、とくに下巻は写本がかなり広く流布しました。

〇「公事方御定書」下巻(御定書百箇条)の条文のタイトル

1.目安裏書初判之事
2.裁許絵図裏書加印之事 。
3.御料一地頭地頭違出入並びに跡式出入取捌之事
4.無取上願再訴並びに筋違願之事
5.評定所前箱へ度々訴状入候もの之事
6.諸役人非分私曲有之旨訴並びに裁許仕置等之事
7.公事吟味銘々宅にて仕候事
8.重キ御役人評定所一座領知出入取計之事 重御役人評定所
9.重御役人之家来御仕置に成候節其主人差扣伺之事
10.用水悪水並新田新堤川除等出入之事
11.論所見分並地改遣候事
12.論所見分伺書絵図等に書載候品之事
13.裁許可取用証拠書物之事
14.寺社方訴訟人取捌之事
15.出入扱願取上ざる品並扱日限之事
16.誤証文押て取間敷事
17.盗賊火附致詮議方之事
18.旧悪御仕置之事
19.裁許並弁裏判不請もの御仕置之事
20.関所を除山越いたし候もの並関所を忍通候者御仕置之事
21.隠し鉄砲有之村方咎之事
22.御留場にて鳥殺生いたし候もの御仕置之事
23.村方戸締り無之事
24.村方出入に付江戸宿雑用並村方割合之事
25.人別帳に不加他之もの指置候御仕置之事
26.賄賂指出候もの御仕置之事
27.御仕置に成候もの欠所之事
28.地頭へ対し強訴其上致徒党逃散之百姓御仕置之事
29.身代限申付方之事
30.田畑永代売買並隠地いたし候もの御仕置之事
31.質地小作取捌之事
32.質地滞米金日限定之事
33.借金銀取捌之事
34.同取捌定日之事
35.同分散申付方之事
36.家質並船床髪結床書人証文取捌之事
37.二重質二重書人二重売御仕置之事
38.廻船荷物出売出買並びに船荷物致押領候もの御仕置之事
39.倍金並将白紙手形にて金銀致貸借侯も政御仕置之事
40.偽の証文を以金銀貸借いたし候もの御仕置之事
41.譲屋敷取捌之事
42.奉公人請人御仕置之事
43.欠落奉公人御仕置之事
44.欠落いたし候者之儀に付御仕置之事
45.捨子之儀に付御仕置之事
46.養娘遊女奉公に出し候ものの事
47.隠売女御仕置之事
48.密通御仕置之事
49.縁談極候娘と不義いたし候もの之事
50.男女申合相果候もの之事
51.女犯之僧御仕置之事
52.三鳥派不受不施御仕置之事
53.新規之神事仏事並奇怪異説御仕置之事
54.変死之もの内証にて葬候寺院御仕置之事
55.三笠附博奕打取退無尽御仕置之事
56.盗人御仕置之事
57.盗物質に取又は買取候もの御仕置之事
58.悪党もの訴人之事
59.倒死並捨物手負病人等有之を不訴出もの御仕置之事
60.拾もの取計之事
61.人勾引御仕置之事 誘拐罪
62.謀書謀判いたし候もの御仕置之事
63.火札張札捨文いたし候もの御仕置之事
64.巧事かたり事重きねだり事いたし候もの御仕置之事
65.申掛いたし候もの御仕置の事
66.毒薬並びに似せ薬種売御仕置之事
67.似金銀拵候もの御仕置之事
68.似秤似桝似朱墨拵候もの御仕置之事
69.火事に付て之咎之事 失火罪
70.火付御仕置之事 放火罪
71.人殺並疵付候もの御仕置之事
72.相手理不尽之仕方にて下手人に不成御仕置之事
73.疵彼附候もの外之病にて相果疵付候者之事
74.怪我にて相果候もの相手御仕置之事
75.婚礼之節石を打候もの御仕置之事
76.あばれもの御仕置之事
77.酒狂入御仕置之事
78.乱気にて人殺之事
79.拾五歳以下之もの御仕置の事
80.科人為立退並住所を隠候もの之事
81.人相書を以って御尋可成もの之事
82.科人欠落尋之事
83.拷問可申付者之事
84.遠島之者再犯御仕置之事
85.牢抜手鎖外御構之地に立帰候もの御仕置之事
86.辻番人御仕置之事
87.重科人死骸塩誥之事
88.溜預け之事
89.無宿片付之事
90.不縁之妻を理不尽に奪取候もの御仕置事
91.書状切解金子遣捨候飛脚御仕置之事
92.質物出入取捌之事
93.煩之旅人を宿送りいたし候咎之事
94.帯刀いたし候百姓町入御仕置之事
95.新田地に無断家作いたし候もの咎之事
96.御仕置に成候もの欠所田畑押隠候もの咎之事
97.御仕置に成候もの之悴親類に預置候内出家願いたし候もの之事
98.年貢諸役村入用帳面印形不取置村役人咎之事
99.軽き悪事有之もの出牢之上不及咎之事
100.名目重相聞候共事実にゐては強て人之害にならざるは罪科軽重格別之事
101.吟味事之内外之悪事相聞候共旧悪御定之外は不及相糺事
102.詮議事有之時同類又は加判人之内早速及白状候ものの事
103.御仕置仕形之事

○「公事方御定書」下巻(興味深い条文を抜粋)

十六 誤証文押而取間敷事

一、相手不致得心に押而誤証文取申間敷候、たとへ誤証文差出候とも其証文にかかはらす理非次第に裁許可仕事。

二十六 賄賂さしだし候者御仕置の事

一、公事諸願その他請負事などについて、賄賂さしだし候者ならびに取持いたし候者 軽追放、
 ただし、賄賂うけ候者その品相返すこと申し出づるにおいては、共に村役人に候はば役儀取上げ、平百姓に候はば過料申しつくべき事。

五十四 変死之もの内証にて葬候寺院御仕置の事

一、変死之ものを内証ニ而葬候寺院御仕置の事 五十日 逼塞

五十六 盗人御仕置の事

一、人を殺し、盗いたし候者 引廻の上 獄門
一、追剥ぎいたし候者         獄門
一、手元にある品ふと盗取り候類 
   金子は拾両より以上、雑物は代金につもり拾両位より以上は 死罪
   金子は拾両より以下、雑物は代金につもり拾両位より以下は 入墨、敲

五十八 悪党者訴人の事

一、悪事有の者を召捕差出候歟又者訴出候ものにも悪事有之由悪党者方より申掛候とも猥に相糺間敷候若本人より重き悪事を証拠慥に申におゐては双方可致詮議事。
 ただし、惣而罪科の者を訴出におゐては同類たりといふ共其科を被免候事に候條其趣を以可致作略事。

七十 火付御仕置の事

一、火を付候者     火罪

七十一 人殺し並びに疵つけ御仕置の事

一、主殺  二日さらし、一日引廻、鋸挽の上、磔  
一、古主を殺し候もの 晒の上、磔
一、親殺       引廻の上、磔
一、人を殺し候もの  下手人
一、人殺しに手伝いたし候もの 遠島
一、人殺しに手伝は致さず候得共、荷担いたし候もの 中追放
一、主人に手負はせ候者、さらしの上、磔、引廻しに及ばず、没収前に同じ。
一、獄門 浅草、品川におゐて、獄門にかける。…
一、火罪 引廻の上、浅草、品川におゐて、火罪申し付ける。…

九十四 帯刀致候百姓町人御仕置の事

一、自分と帯刀いたし罷在候百姓町人 刀脇差共ニ取上 軽追放

九十六 御仕置に成候者闕所田畑を押隠候もの咎の事

一、闕所ニ可成田畑地面押隠におゐては                  名主 軽追放
                                    組頭 所拂


百一 吟味事之内外之悪事相聞候共旧悪御定之外は不及相糺事

一、惣而吟味事之内より外にも悪事有之趣相聞候共旧悪をも不被免品々は格別其餘之悪事は不及相糺最前より取掛リ候吟味を詰相応之御仕置に可申付事。

百三 御仕置仕形の事

一、鋸挽 一日引廻し、両の肩に刀目を入れ、竹鋸に血を付け側に立置き、二 日晒し、挽申すべしと申ものこれ有る時は、挽かせ候事。
一、磔  浅草・品川において磔に申仕く。在方は悪事いたし候場所え差遣は し候儀もこれ有り。尤も科書の捨札これを建つ。三日の内非人番に附け置く。 但し、引廻し、又は科により引廻すに及ばず。
一、獄門 浅草・品川において獄門に掛る。在方は悪事いたし候所え差遣はし 候儀もこれ有り。引廻し捨札番人右同断。但し、牢内に於て首を刎ぬ。
一、火罪 引廻しの上、浅草・品川におひて火罪申仕く。在方は火を附け候所 え差遣はし候儀もこれ有り。捨札番人右同断。但し、物取りにてこれ無き分 は、捨札に及ばず。
一、斬罪 浅草・品川両所の内に於て、町奉行組同心これを斬る。検使、御徒 目付、町与力。
一、死罪 首を刎ね、死骸取捨て、様者に申仕く。
一、下手人 首を刎ね、死骸取捨て。但し、様者には申仕けず。
一、晒  日本橋において三日晒。
一、遠島 江戸より流罪のものは、大島・八丈島・三宅島・新島・神津島・御 蔵島・利島、右七島の内え遣はす。京・大坂・四国・中国より流罪の分は、 薩摩五島の島々・隠岐国・壱岐国・ 天草郡え遣はす。
  右の趣上聞に達し相極め候。奉行中の外他見有るべからざるもの也

 (注:原文の縦書きを横書きに改め、句読点を付し、一部かなに変えてあります)

   「徳川禁令考」より