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 今日は、昭和時代中期の1946年(昭和21年)に、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が「公務従事ニ適シナイ者ノ公職カラノ除去ニ関スル件」(SCAPIN-550)を出した日です。
 これは、日本が受諾した「ポツダム宣言」の第6条「日本国国民を欺瞞し、之をして世界征服の挙に出づるの過誤を犯さしめたる者の権力及び勢力は、永久に除去せられざるべからず」に基づく、GHQから日本政府に対して指令された公職追放令で、英語名は、Removal and exclusion of undesirable personnel form public office(SCAPIN-550)と言いました。
 同じ日には、「政党、政治結社、協会及ビソノ他ノ団体ノ廃止ニ関スル覚書」(SCAPIN―548)も出され、政府は同年2月28日に勅令第109号「就職禁止、退官、退職等ニ関スル件」(公職追放令)、ならびに閣令・内務省令第1号「『就職禁止、退官、退職等ニ関スル件』施行ニ関スル件」を公布・施行し、公職資格審査を行う第一次公職資格審査委員会が内閣に設置されて審査が開始されます。
 その中では、\鐐菷蛤畤諭↓⊃Χ販Τし蛙Π?⇔Τし馨覆瞭段矛抻/Π?よび官吏、D狭餡伴腟租、暴力主義的、秘密愛国的団体の有力分子、ぢ臉翼賛会、翼賛政治会、大日本政治会の活動における有力分子、テ鐱椶遼陳イ亡愀犬靴振睛撒ヾ悗よび財界、占領地の行政長官、Г修梁召侶街饉腟措圓よび超国家主義者が対象とされ、150万人が書類提出を命じられ、90万人が審査され、1948年(昭和23)5月までに約20万人の日本人が公職追放に処せられました。
 その内訳は、軍人が79.6%、政治家が16.5%、超国家主義者が1.6%、財界人が0.9%、官僚が0.9%、メディア関係が0.5%となっていて、石橋湛山(政治家・ジャーナリスト)、鳩山一郎(政治家)、河野一郎(政治家)、岸信介(東條内閣の商工大臣)、市川房枝(女性運動家)、足立正(王子製紙社長)、二代伊藤忠兵衛(伊藤忠商事と丸紅の社長)、小林一三(阪急電鉄創業者・東宝社長)、五島慶太(東京急行電鉄社長)、下中弥三郎(平凡社社長)、正力松太郎(読売新聞社長)、円谷英二(映画監督)、堤康次郎(西武グループ創設者)、菊池寛(小説家・大映社長)、徳富蘇峰(ジャーナリスト)、平泉澄(歴史学者)、松下幸之助(松下電器産業社長)、安岡正篤(思想家)、保田與重郎(文芸評論家)などが含まれています。
 しかし、冷戦の進展に伴なうアメリカの対日占領政策の転換により、「公職追放令」の終結と追放者の解除が進められることになりました。朝鮮戦争やマッカーサー解任を経て、日本政府は旧軍人や政治家の追放解除を急速に実施し、「サンフランシスコ平和条約」の発効した1952年(昭和27)4月28日には、「公職追放令」は廃止されることになります。
 以下に、「公務従事ニ適シナイ者ノ公職カラノ除去ニ関スル件」(SCAPIN-550)の本文(日本語訳)を掲載しておきますので、ご参照ください。

〇「公務従事ニ適シナイ者ノ公職カラノ除去ニ関スル件」(SCAPIN-550) 1946年(昭和21)1月4日

1 ポツダム宣言は「われ等は、無責任な軍国主義が世界から駆逐されるまでは、平和と安全と正義の新秩序は生じ得ないものであることを主張するものであつて、日本国民を欺き世界征服の挙に出る過誤を犯させた者の権力と勢力とを、永久に根絶させなければならない」と規定してゐる。

2 ポツダム宣言のこの條項を実行する為め日本帝国政府に対し次に列挙する総ての者を、公職より罷免し、且つ官職より排除することを命ずる。

(A)軍国主義的国家主義と侵略の活発な主唱者。
(B)一切の極端な国家主義的団体、暴力主義的団体、又は秘密愛国団体及びそれらの機関又は協力団体の有力分子。
(C)大政翼賛会、翼賛政治会、大日本政治会の活動に於ける有力分子。

尚ここに用ひた語句の解釈はこの指令の附録Aに定義されてゐる。

3 この指令で「公職」と言ふのは次のものを指す。

(A)通例勅任官又はそれ以上の官等(又は改革された官吏制度に於ける同等の官等)にある文官が占める官職。
(B)通例文官の占めないその他一切の地位で勅任官同等又はそれ以上のもの(特殊法人の場合には、右の用語は少くとも取締役会長、総裁社長、副総裁副社長、取締役理事、顧問、監査役、監事を含む)。

4 この指令で、官職といふのは、日本の中央政府、都道府県並にその機関、地方支部局(地方行政事務局を含む)及び事務所での総ての地位並に以上の官庁又はその機関が、実際上または経営上の支配権を持つてゐるやうな資金上の関係にある法人、協会その他の団体での総ての職と地位を意味し且つ包含する。

5 この指令で「公職より罷免す」るといふのは、これに当てはまる人物を現在占めてゐる公職から解任し、直接間接その公職に対して勢力を持ち又これに参加することを停止する意味である。公職から罷免された者は、連合国最高司令部の許可なしには、一切の公私の恩給、その他の手当又は利益を受けることが出来ない。又この手続によつて罷免される者は、直ちに解任されるものであつて、その他の手続を取ることも許されない。

6 この指令に用ひた「官職より排除す」といふのは、これに当てはまる者を、一切の官職から締め出すといふ意味である。このやうにして公職より罷免された者は、他の一切の官職に就く資格を剥奪される。又差当り罷免されるやうな公職についてゐない者でも、今後官職に就任する資格を失ふことがあるかも知れない。この公職就任資格の剥奪は、第一項に引用したポツダム宣言の条項が、日本で完全に実現されるまで継続するものである。

7 ポツダム宣言に述べられてゐる平和と安全と正義の新秩序を打ち立てるには、単にこの指令に述べてあるやうな官公吏を公職より罷免し、且つ官職より排除するとだけで十分とは言へない。日本が真に平和的な傾向を持つた責任ある政府を打ち立てようとするなら、官吏を新たに任命する場合に、日本人民の民主主義的傾向の復活と強化を促進させ、基本的な人権と、言論、宗教、思想の自由を尊重するやうな人物を選ぶやうに、最大の注意を払はなければならない。若し文官の資格を規定する法律で、現在行はれてゐるものの中に、以上に述べたやうな官吏を任命する上に障碍となつたり、又は任命の範囲を不当に狭くするものがあるなら、そのやうな規定法律は、修正するか廃止するかしなければならない。

8 この指令の命ずる公職罷免は比較的重要な地位から始めて出来る限り速やかに実施しなければならない。遠隔地に在る日本軍の復員事務を間違なく実施する為め、又この指令を実行する関係上、絶対に必要な者については、その罷免を延期して差支ない。併しその勤務を絶対に必要とする時期が過ぎた時には、当然罷免しなければならない。このやうな人々の氏名とその地位、その地位にある資格のない理由、臨時的に留意させておかねばならぬ理由、これらについては直ちに連合国最高司令部に報告することが必要である。又これらの人々を最終的に罷免する期日についても直ちに報告することを要する。

9 この指令第二項の条項を実施する為めに、日本政府が公職から罷免し、且つ官職より排除しなければならない者の種類については、附属書Aに記載されてゐる。この付属書Aに載つてゐる種類の人々は、第八項と第一○項の規定に従って、公職から追放され、将来も官職から排除せられるものである。但し、日本帝国政府が、その絶対必要な平和的行政事務を遂行する為めに、一旦罷免した者を臨時に復職させることが緊要であると認め、これに代る適当な者を得ることが出来ないと主張する場合は、日本帝国政府の責任ある官史の署名した右の趣旨を述べる申請書を最高司令部に提出することが出来る。この申請書にはその者について、氏名、官等、地位、職務及び職責を記し、臨時に復職させねばならぬ理由、臨時的復職の必要な期間、これに代る適任者を探す為に払つた努力、これらについて詳細に記することを要する。尚ほこの申請書には、第一○項に述べられてゐる調査票の写しも添へる必要がある。この臨時的復職については、最高司令部が文書で認可する迄、日本帝国政府はこれを実施してはならない。

10 官職から好ましくない人物が一掃せられることを確実ならしめる為、次の措置が取られねばならない。

(A)日本帝国政府は、その各省又は適当な関係機関に命じて、過去に付属書Aに述べた種類に属した経歴を持つてゐる者、又はこの種類に入ることの明瞭な者を、第三項に記してある官職から罷免させなければならない。尚これらの者に罷免を通告する前に、各人から次に述べる調査表を提出せしめておくことを要する。

(B)又日本帝国政府は、各省又はその他適当な関係機関に命じて、第三項に記した地位に在職する一切の者及びその権限内にある官職に将来就任を希望する者に対して、付属書Bの調査表を作り、これを配布させねばならない。この調査表を審査した上、この調査表と政府が入手してゐる情報とを基にし、この指令に規定されてゐる条項に従って、それぞれの者についての罷免と、官職就任の許可不許可を決定するのである。

11 各省又はその他適当な関係機関は、次の各項目について規定する調査書取扱計画を準備しなければならない。

(A)配布。
(B)蒐集。
(C)審査。
(D)調査書から得た報告を基とした処置。
(E)分類と綴込-政府機関、官史の官等、取つた処置(例へば罷免又は留任)に関して調査表を参照することが出来るやうな方式によること。

12 各計画は先づ第一に官等の高い官史の占めてゐる地位から篩ひ分けることを規定する必要がある。出来上つた調査表は、その見本一通を各省又はその他の関係機関の本部に備へておき、いつでも最高司令部が検閲又は持出の出来るやうにしておくことが必要である。

13 調査表の他に、各省又はその他の政府機関は、附属書Cに示してある形式の要領に従つて、調査表記録カードを、アルフアベツト順に綴込んだものを本部に準備し、いつでも最高司令部が検閲又は持出出来るやうにしておかねばならない。カードは英文で記入すること(必要があれば日本文をも用ひること)。各省又は各政府機関を示す記号を、検出記号と一緒に、各調査表とこれについての記録カードに記入しておくこと。

14 軍国主義的国家主義と侵略の幾年かの間、日本の民主主義分子は、帝国議会の議員となることを拒否されてゐたが、次の選挙ではこれらの人々に十分議員となる機会を与へる為めに、又日本国民を欺いて世界制服の挙に出づる過誤を犯させた人々の勢力を、新しい議会から除去する為めに附属書Aに記載されてゐる種類の人々は、帝国議会の一切の選挙に係る地位に対する候補者として立つ資格を剥奪される。又これらの人々は総て貴族院議員を解かれ、今後も議員に任命されない。日本帝国政府に、この選挙にかかる地位に対する候補者となる資格剥奪を実行する為必要な措置を講じなければならない。その措置には、必要な法規を公布すること、この指令に従つて準備した資格喪失の範囲を公表すること、候補者毎に、その本人が候補者としての資格を喪失したものでないといふ証明の三項目が含まれる。立案した措置については洩れなく最高司令部に報告しなければならない。

15 日本帝国政府は、次の報告を英文で三通作製して最高司令部に提出せねばならぬ。

(A)この指令第八項と第一四項の要求する報告。
(B)第一一項によつて要求されてゐる各省またはその他の機関の「計画」についての第一次報告。最高司令部は、不適当と考へた場合には、その計画の修正を命ずることがある。
(C)各省又はその他の機関の所管範囲を各課に分類し、次の項目を記入した週間報告。
  (1) 現在その職に在る者が、調査の目標になる職の総数。
  (2) その一週間とそれ以前に調査せられた地位の数と種類。
  (3) その一週間に罷免され又は就任を拒否された者の数。
  (4) その一週間に罷免され又は就任を拒否された者の氏名、官等、地位と調査表の番号。

16 連合国最高司令部は、この指令が実行されたかどうかを確認する為めに、必要な検閲と調査を行ふ。日本帝国政府は、このやうな検閲と調査の実施上必要な援助を与へなければならない。日本政府が罷免又は就任拒否について、及び選挙による地位に対する候補者となる資格を剥奪することについて採つた処置は、最高司令部に於て審査をなし且つ取り消すことがあるかも知れない。

17 この指令に規定されている調査表、報告若は申請の中で、故意に虚偽の記載をしたり、事実を十分に述べなかつた場合は、降伏条件の違反として、連合国最高司令官はこれを処罰することが出来る。尚日本帝国政府も、このやうな故意の虚偽の記載又は事実の隠蔽に対しては、日本の法廷で、日本の法律によつて、相当の刑罰を加へるに必要な規定を設け、必要に応じて起訴しなければならない。

18 公職全体に亙るこの指令の一般的な規定の他に、最高司令部は、或る特定の分野については、階級の差別なく、一部の者の就職に関連して一層制限的な要求を已に出してもゐるが、今後又出すかもしれない。

19 この指令の規定条項によつて影響を受ける日本帝国政府官吏及び下級職員は総て、この指令の精神及び文句の遵奉及び遵守について個人として且つ厳格に責任を取らねばならない。

(付属書A、B、C略)

  日本管理法令研究会編『日本管理法令研究』1巻7号より