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 今日は、昭和時代中期の1946年(昭和21)に、昭和天皇が戦後最初の年頭詔書「新日本建設に関する詔書」(人間宣言)で自己の神格を否定した日です。
 これは、昭和天皇が発した自己の神格否定の詔書で、通称「人間宣言」とも呼ばれてきました。この詔勅では、太平洋戦争敗戦後の新しい日本建設の指針として、1868年(明治元)に出された「五ヵ条の誓文」を掲げ、ついで天皇と国民とのきずなは神話と伝承によって生じたものではなく、また天皇を現人神(あらひとがみ)としそれを根拠に日本民族の他民族に対する優越を説く観念に基づくものでもないとして、天皇の神格を否定したものです。
 太平洋戦争終結にあたり、日本が受諾した「ポツダム宣言」の軍国主義の除去、日本の民主化の条項において、軍国的思想や軍事教育を一掃し、科学的思考力や平和愛好の精神を育てることが求められました。
 その中で、連合国軍最高司令部(GHQ)は、1945年(昭和20)12月15日に「国家神道、神社神道に対する政府の保証、支援、保全、監督並びに弘布の廃止に関する件」(国家神道についての指令)を出します。しかし、それを徹底するためにGHQと日本政府関係者との間で検討され、1946年(昭和21)1月1日の昭和天皇の年頭詔書の形になったものでした。
 以下に、「新日本建設に関する詔書」(人間宣言)を全文掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇新日本建設に関する詔書(いわゆる人間宣言)

詔書

茲ニ新年ヲ迎フ。顧ミレバ明治天皇明治ノ初国是トシテ五箇条ノ御誓文ヲ下シ給ヘリ。曰ク、
一、広ク会議ヲ興シ万機[1]公論[2]ニ決スヘシ
一、上下[3]心ヲ一ニシテ盛ニ経論[4]ヲ行フヘシ
一、官武[5]一途庶民ニ至ル迄各其ノ志ヲ遂ケ人心ヲシテ倦マサラシメン[6]コトヲ要ス
一、旧来ノ陋習[7]ヲ破リ天地ノ公道[8]ニ基 リヘシ
一、智識ヲ世界ニ求メ大ニ皇基[9]ヲ振起スヘシ
叡旨[10]公明正大、又何ヲカ加ヘン。朕ハ茲ニ誓ヲ新ニシテ国運ヲ開カント欲ス。須ラク[11]此ノ御趣旨ニ則リ、旧来ノ陋習[7]ヲ去リ、民意ヲ暢達[12]シ、官民挙ゲテ平和主義ニ徹シ、教養豊カニ文化ヲ築キ、以テ民生ノ向上ヲ図リ、新日本ヲ建設スベシ。
大小都市ノ蒙リタル戦禍、罹災者ノ艱苦[13]、産業ノ停頓、食糧ノ不足、失業者増加ノ趨勢等ハ、真ニ心ヲ痛マシムルモノアリ。然リト雖モ、我国民ガ現在ノ試練ニ直面シ、且徹頭徹尾文明ヲ平和ニ求ムルノ決意固ク、克ク其ノ結束ヲ全ウセバ、独リ我国ノミナラズ全人類ノ為ニ、輝カシキ前途ノ展開セラルルコトヲ疑ハズ。
夫レ家ヲ愛スル心ト国ヲ愛スル心トハ我国ニ於テ特ニ熱烈ナルヲ見ル。今ヤ実ニ此ノ心ヲ拡充シ、人類愛ノ完成ニ向ヒ、献身的努力ヲ效スベキノ秋ナリ。
惟フニ長キニ亘レル戦争ノ敗北ニ終リタル結果、我国民ハ動モスレバ焦躁[14]ニ流レ、失意ノ淵ニ沈淪[15]セントスルノ傾キアリ。詭激[16]ノ風漸ク[17]長ジテ道義ノ念頗ル衰ヘ、為ニ思想混乱ノ兆アルハ洵ニ深憂ニ堪ヘズ。
然レドモ朕ハ爾等国民ト共ニ在リ、常ニ利害ヲ同ジウシ休戚[18]ヲ分タント欲ス。朕ト爾等国民トノ間ノ紐帯[19]ハ、終始相互ノ信頼ト敬愛トニ依リテ結バレ、単ナル神話ト伝説[20]トニ依リテ生ゼルモノニ非ズ。
天皇ヲ以テ現御神[21]トシ、且日本国民ヲ以テ他ノ民族ニ優越セル民族ニシテ、延テ世界ヲ支配スベキ運命ヲ有ストノ架空ナル観念[22]ニ基クモノニモ非ズ。
朕ノ政府ハ国民ノ試練ト苦難トヲ緩和センガ為、アラユル施策ト経営トニ万全ノ方途[23]ヲ講ズベシ。同時ニ朕ハ我国民ガ時艱[24]ニ蹶起[25]シ、当面ノ困苦克服ノ為ニ、又産業及文運[26]振興ノ為ニ勇往[27]センコトヲ希念ス。我国民ガ其ノ公民生活ニ於テ団結シ、相倚リ相扶ケ、寛容相許スノ気風ヲ作興[28]スルニ於テハ、能ク我至高ノ伝統ニ恥ヂザル真価ヲ発揮スルニ至ラン。斯ノ如キハ、実ニ我国民ガ、人類ノ福祉ト向上トノ為、絶大ナル貢献ヲ為ス所以[29]ナルヲ疑ハザルナリ。
一年ノ計ハ年頭ニ在リ。朕ハ朕ノ信頼スル国民ガ朕ト其ノ心ヲ一ニシテ、自ラ奮ヒ、自ラ励マシ、以テ此ノ大業[30]ヲ成就センコトヲ庶幾フ。

御名御璽
昭和二十一年一月一日

   内閣総理大臣兼第一復員大臣第二復員大臣
           男爵 幣原喜重郎
   司法大臣          岩田宙造
   農林大臣          松村謙三
   文部大臣          前田多門
   外務大臣          吉田 茂
   内務大臣          堀切善次郎
   国務大臣          松本烝治
   厚生大臣          芦田 均
   国務大臣          次田大三郎
   大蔵大臣       子爵 渋沢敬三
   運輸大臣          田中武雄
   商工大臣          小笠原三九郎
   国務大臣          小林一三

             「官報號外 昭和21年1月1日」より

【注釈】

[1]万機:ばんき=すべての政治。国家のまつりごと。
[2]公論:こうろん=公平な議論。
[3]上下:じょうげ=身分の上下。
[4]経論:けいろん=国家を治め整えること。国の政策。
[5]官武:かんぶ=公家と武家。
[6]倦マサラシメン:うまさらしめん=人々の気持ちを飽きさせない。
[7]旧来ノ陋習:きゅうらいのろうしゅう=昔からの悪習。ここでは攘夷の風潮のこと。
[8]天地ノ坑道:てんちのこうどう=世界共通の正しい道理。国際法のこと。
[9]皇基:こうき=皇国のもとい。天皇国家の基礎。
[10]叡旨:えいし=天子のお考え。
[11]須ラク:すべからく=当然なすべきこととして。
[12]暢達:ちょうたつ=のびのびと育てる。
[13]艱苦:かんく=なやみ苦しむこと。
[14]焦躁:しゅうそう=あせること。
[15]沈淪:ちんりん=沈んでおちいること。
[16]詭激:きげき=言行が度をこえて激しいこと。
[17]漸ク:ようやく=しだいに。
[18]休戚:きゅうせき=喜びと悲しみ。
[19]紐帯:ちゅうたい=二つのものを結びつける大切なもの。きずな。
[20]神話ト伝説:しんわとでんせつ=「古事記」「日本書紀」などの神話や伝承。
[21]現御神:あきつみかみ=この世に生きている神。
[22]架空ナル観念:かくうなるかんねん=大和民族最優秀論や「八紘一宇」などの根拠のない考え。
[23]方途:ほうと=進むべき道。方法。
[24]時艱:じかん=その時代の当面する難問題。
[25]蹶起:けっき=決意して立ち上がり、行動を起こす。
[26]文運:ぶんうん=文化・文明が発展しようとする気運。学問・芸術が盛んに行われるさま。
[27]勇往:ゆうおう=勇んで突き進む、ためらわずに前進する。
[28]作興:さっこう=盛んにすること。
[29]所以:ゆえん=理由、わけ。
[30]大業:たいぎょう=大きな事業。

<現代語訳>

 ここに新年を迎える。かえりみれば、明治天皇は明治の初め、国の方針として五箇条の御誓文をお示しになられた。それによると、
一、広く会議を開いて、すべての政治は公平な議論によって行われるべきである
一、上の者も下の者も心を一つにして、さかんに国を治め整えていくべきである
一、公家と武家が一体になり、庶民に至るまで、それぞれが志を全うし、人々の心をあきさせないことが必要である
一、昔からの悪しき習慣はやめて、世界共通の正しい道理に合った行動をするべきである
一、新しい知識を世界から学び、天皇国家の基礎を築くようにするべきである
 明治天皇のお考えは、公明正大なものであり、付け加えるべきことは何もない。わたしはここに誓いを新たにして国運を開いていきたい。当然なすべきこととしてこのご趣旨に則り、昔からの悪しき習慣を捨て、民意を自由に広げてもらい、官民あげて平和主義に徹し、教養を豊かにして文化を築き、そうして国民生活の向上を図り、新しい日本を建設しなければならない。
 大小の都市の被った戦禍、罹災者のなやみ苦しみ、産業の停滞、食糧の不足、失業者増加の趨勢などは実に心を痛めることである。とは言えど、我が国民は現在の試練に直面し、なおかつ徹頭徹尾、豊かさを平和の中に求める決意は固く、その結束をよく全うすれば、ただ我が国のみならず、全人類のために、輝かしき未来が展開されることを信じている。
 そもそも家を愛する心と国を愛する心は、我が国では特に熱心だったようだ。今こそこの心を拡充し、人類愛の完成に向かい、献身的な努力をすべき時である。
 思うに長きにわたった戦争が敗北に終わった結果、我が国民はややもすれば思うようにいかず焦り、失意の淵に沈んで落ち込んでしまいそうな傾向がある。言行が度をこえて激しい風潮がだんだんと強まり、道義の感情はとても衰えて、そのせいで思想に混乱の兆しがあるのはとても憂うべきことだ。
 しかし私はあなたたち国民と共にあり、常に利害を同じくし、喜びと悲しみを分けあおうと思う。私とあなたたち国民との間のきずなは、いつもお互いの信頼と敬愛によって結ばれ、単なる神話や伝承とによって生まれたものではない。天皇をこの世に生きている神とし、または日本国民は他より優れた民族だとし、それで世界の支配者となる運命があるというような、根拠のない考えに基くものではない。私が任命した政府は国民の試練と苦難とを緩和するため、あらゆる施策と政府の運営に万全の方法を準備しなければならない。同時に、私は我が国民が当面する難問題の前に決意して立ち上がり、行動を起こし、当面の苦しみを克服するために、また産業と学芸の振興のためにためらわずに前進することを願う。我が国民がその市民生活において団結し、寄り合い助け合い、寛容に許し合う気風が盛んになれば、わが至高の伝統に恥じない真価を発揮することになるだろう。そのようなことは実に我が国民が人類の福祉と向上とのために、絶大な貢献をなす元になることは疑いようがない。
 一年の計は年頭にあり、私は私が信頼する国民が私とその心を一つにして、自ら奮い立ち、自ら力づけ、そうしてこの大きな事業を成就させることを心から願う。