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 今日は、江戸時代中期の1723年(享保8)に、江戸幕府の第8代将軍徳川吉宗が人材登用のための「足高の制(たしだかのせい)」を制定した日ですが、新暦では7月19日となります。
 これは、いわゆる「享保の改革」の一つとして行われたもので、家禄の低い者が役高の高い役職に就いた場合に、在職中に限りその差額を支給する制度でした。微禄の者で有用な人材を登用するのに役立つと共に、世襲家禄の財政負担の増大を押える効果があったとされています。
 若年寄を除くほとんどの要職で行われ、各役職の基準石高を定め、持高がこれに及ばない場合に一定の役料が与えられました。例えば、1,920石で町奉行になった大岡忠相は、その基準高3,000石に足らない部分の1,080石の足高を受けます。
 この制度は、翌年及び、1731年(享保16)、1738年(元文3)に修正を行って制度の充実が図られ、幕末まで続きました。
 家格にとらわれない、能力主義・個人主義を導入した点において、その後の人材登用制度の重要な柱となります。

〇享保の改革とは?

 江戸幕府第8代将軍徳川吉宗が幕藩体制の安定と強化のため、江戸時代中期に、その在任期間(1716~1745年)を通じて行なった諸改革で、江戸時代の三大改革の一つと言われ、その最初に行われたものです。内容は、幕政機構の再編、法制の立て直し、都市商業資本の統制などで、具体的には以下の主要な政策が実施されました。

<享保の改革の主要政策>
・質素倹約の奨励
・定免制を施行して年貢収納の強化をはかる
・足高の制(各地位ごとに授与される給与を定め、地位についている時に元の禄高に足されて支給した)
・公事方御定書(幕府の基本法典。判例を法規化した刑事裁判の際の基準となる刑事判例集)
・目安箱の設置(施政の参考意見や社会事情の収集などを目的に、庶民の進言を集めるための投書箱)
・堂島米市場の公認
・キリスト教に関係のない漢訳洋書の輸入の緩和
・上げ米の制
・相対済令(金銭貸借についての訴訟を認めず当事者間の話し合いによる解決を命じたもの)
・元文の改鋳(貨幣の品位を低下させ、通貨量を増大させる貨幣改鋳策)
・新田開発の奨励(商人など民間による新田開発を奨励)

☆「足高の制」(抄文)

 諸役人、役柄に応ぜざる小身の面々[1]、前々より御役料[2]定め置かれ下され候処、知行の高下[3]之れ有る故、今迄定め置かれ候御役料[2]にては、小身の者御奉公続き兼ね申すべく候。之れに依て、今度御吟味[4]之れ有り、役柄により其場不相応に小身にて御役勤め候者は、御役勤め候内御足高[5]仰付けられ、御役料増減[6]之れ有り、別紙の通り相極め候。此旨申し渡し可き旨、仰せ出され候。但此度の御定の外取り来り候御役料[2]は其侭下し置かれ候。
 
 五千石より内は、五千石高に成し下さる可く候。
                        御側役
                        留守居
                        大番頭
 四千石より内は、四千石高に成し下さる可く候。 
                        書院番頭
                        小姓組番頭
 三千石より内は、三千石高に成し下さる可く候。 
                        大目付
                        町奉行
                        御勘定奉行
                        百人組頭
                        小普請組支配
 二千石より内は、二千石高に成し下さる可く候。 
                        旗奉行
                        槍奉行
                        西城留守居
                        新番頭
                        作事奉行
                        普請奉行
                        小普請奉行
 一千石より内は、一千石高に成し下さる可く候。 
                        留守居番
                        目付
                        使番
                        書院番組頭
                        小姓組組頭
                        小十人頭
                        徒頭

 (以下略)

                   『御触書寛保集成』より

 *縦書きの原文を横書きに改め、句読点を付してあります。

【注釈】
 [1]小身面々:しょうしんのめんめん=家禄、禄高の少ない者。
 [2]御役料:おんやくりょう=在職中、家禄に加増された手当のこと。
 [3]知行の高下:ちぎょうのこうげ=禄高の高い者と低い者。
 [4]御吟味:ごぎんみ=調査、検討。
 [5]其の場所不相応:そのばしょふそうおう=その役職に相応していない。
 [6]足高:たしだか=役職に応じた役高を設定し、在職中だけその基準に達しない者に不足分を支給すること。
 [7]御役料増減:おんやくりょうぞうげん=加増された手当は、家禄に応じて増減する。

<現代語訳>  

 幕府の諸役人の内、役職を勤めるのに不相応な家禄の少ない者たちには、以前から一定の役職に応じた手当が下されていたが、禄高の高い者と低い者がいるので、今まで決められていた一定の手当では、禄高の少ない者は奉公を続けていくことが困難になってきている。このため、今回よく検討され、役職に不相応な少ない家禄で勤めている者は、在職勤務中だけ役職の禄高基準に達しない不足分を支給することを命じられたので、今までの手当の家禄に応じた増減を別紙の通りに決定した。この旨を申し渡すように命じられた。ただし、今回決められた以外に支給してきた手当はそのまま下されるものとする。

 5千石に足らなくて、5千石になるように不足分をいただける者 
                               御側役
                               留守居
                               大番頭
 4千石に足らなくて、4千石になるように不足分をいただける者 
                               書院番頭
                               小姓組番頭
 3千石に足らなくて、3千石になるように不足分をいただける者 
                               大目付
                               町奉行
                               御勘定奉行
                               百人組頭
                               小普請組支配
 2千石に足らなくて、2千石になるように不足分をいただける者 
                               旗奉行
                               槍奉行
                               西城留守居
                               新番頭
                               作事奉行
                               普請奉行
                               小普請奉行
 1千石に足らなくて、1千石になるように不足分をいただける者 
                               留守居番
                               目付
                               使番
                               書院番組頭
                               小姓組組頭
                               小十人頭
                               徒頭

 (以下略)