「円本」は、大正時代末期から昭和時代前期にかけて、定価が一冊1円という、当時としては廉価で出版された全集や双書類のことでした。
1923年(大正12)に起きた関東大震災後の出版界の不況打破のために企画され、最初は、1926年(大正15)12月3日から刊行を始めた、改造社発行『現代日本文学全集』に始まります。一挙に23万の予約購読者を獲得するという爆発的な売れ行きを示し、次々と各社から出されるようになって、200点以上にも及び、史上空前の“円本ブーム”を巻き起こしました。
これは、1925年(大正14)に大阪、1927年(昭和2)に東京で登場した市内1円均一の「円タク」から、派生した名称だと言われますが、当時の1円は、大学出の初任給の約2%に相当し、現在ならば4~5千円になると言われます。決して安い価格では有りませんでしたが、それまでの出版物価格(小説ならば1冊2~10円)に比べて格段に安く、庶民に出版物を大いに普及することになりました。
〇主要な「円本」の全集一覧
・「現代日本文学全集」 63巻 (改造社・1926年12月~1931年)
・「世界文学全集」 57巻 (新潮社・1927年3月~1930年)
・「世界大思想全集」 126巻 (春秋社・1927年~1933年)
・「現代大衆文学全集」 40巻 (平凡社・1927年5月~1932年)
・「大日本百科全集」 42巻 (誠文堂・1927年5月~)
・「日本児童文庫」 76巻 (アルス・1927年5月~1930年)
・「小学生全集」 88巻 (興文社・1927年5月~1929年)
・「近代劇全集」 43巻 (第一書房・1927年6月~1930年)
・「明治大正文学全集」 60巻 (春陽堂・1927年6月~1932年)
・「世界美術全集」 36巻 (平凡社・1927年~1932年)
・「日本戯曲全集」 50巻 (春陽堂・1928年~1931年)
・「新興文学全集」 24巻 (平凡社・1928年~1930年)
・「マルクス・エンゲルス全集」 20巻 (改造社・1928年~1930年)
・「経済学全集」 64巻 (改造社・1928年~)
・「現代法学全集」 39巻 (日本評論社・1928年~)
・「現代経済学全集」 37巻 (日本評論社・1928年~)
・「漱石全集普及版」(岩波書店・1928年~)
・「日本随筆大成」 43巻 (吉川弘文館・1928年~)
・「蘆花全集」20巻(新潮社・1928年10月~1930年6月)
・「石川啄木全集」 5巻 (改造社・1929年)
・「菊池寛全集」 12巻 (平凡社・1929年9月~)
・「日本地理大系」 12巻 別巻5巻 (改造社・1929年~1931年)