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 今日は、南北朝時代の1336年(延元元/建武3)に、足利尊氏が室町幕府の基本的な政治方針「建武式目」を制定した日ですが、新暦では12月10日となります。
 これは、足利尊氏が中原是円・真恵らに諮問して政治方針をまとめさせて発布した 17箇条からなる武家法でした。
 後醍醐天皇の建武政権を破って、新しい武家政権を打ち立てるために制定した政治方針の要綱です。
 内容は、前文では、「幕府の所在地を鎌倉に置くか他所に移すか。」、本文17箇条では、「どのような法理によって政道を進めていくか。」の2部構成となっていました。
 条文が17であることは、聖徳太子の十七条憲法を意識したものであると言われています。

〇建武式目 (全文) 1336年(延元元/建武3年11月7日)足利尊氏が発布

建武式目の条々

鎌倉元のごとく柳営たるべきか、他所たるべきや否やの事
 右、漢家本朝、上古の儀遷移これ多く、羅縷に遑あらず。季世に迄り、煩擾あるによつて、移徙容易ならざるか。なかんづく鎌倉郡は、文治に右幕下はじめて武館を構へ、承久に義時朝臣天下を併呑す。武家に於ては、もつとも吉土と謂ふべきか。ここに禄多く権重く、驕を極め欲をほしいままにし、悪を積みて改めず。果たして滅亡せしめ了んぬ。たとひ他所たりといへども、近代覆車の轍を改めずば、傾危なんの疑ひあるべけんや。それ周・秦ともに崤函に宅するなり。秦は二世にして滅び、周は八百の祚を闡く。隋・唐おなじく長安に居するなり。隋は二代にして亡び、唐は三百の業を興す。しからば居処の興廃は、政道の善悪によるべし。これ人凶は宅凶にあらざるの謂なり。ただし、諸人もし遷移せんと欲せば、衆人の情にしたがふべきか。

政道の事
 右、時を量り制を設く。和漢の間、なんの法を用ひらるべきか。まづ武家全盛の跡を逐ひ、もつとも善政を施さるべきか。しからば宿老・評定衆・公人等済々たり。故実を訪はんに於て、なんの不足あるべきか。古典に曰く、徳はこれ嘉政、政は民を安んずるにありと云々。早く万人の愁を休むるの儀、速かに御沙汰あるべきか。その最要あらあら左に註す。
一 倹約を行はるべき事
 近日婆佐羅と号して、専ら過差を好み、綾羅錦繍・精好銀剣・風流服飾、目を驚かさざるはなし。頗る物狂と謂ふべきか。富者はいよいよこれを誇り、貧者は及ばざるを恥づ。俗の凋弊これより甚だしきはなし。もつとも厳制あるべきか。
一 群飲佚遊を制せらるべき事
 格条のごとくば、厳制ことに重し。あまつさへ好女の色に耽り、博奕の業に及ぶ。このほかまた、或は茶寄合と号し、或は連歌会と称して、莫太の賭に及ぶ。その費勝計し難きものか。
一 狼藉を鎮めらるべき事
 昼打入り、夜強盗、処々の屠殺、辻々の引剥、叫喚さらに断絶なし。もつとも警固の御沙汰あるべきか。
一 私宅の点定を止めらるべき事
 尩弱の微力を励まして、構へ造るの私宅、たちまち点定せられ、また壊ち取らるるの間、身を隠すに所なし。即ち浮浪せしめ、つひに活計を失ふ。もつとも不便の次第なり。
一 京中の空地、本主に返さるべき事
 当時のごとくば、京中の過半は空地たり。早く本主に返され、造作を許さるべきか。巷説のごとくば、今度山上の臨幸扈従の人、上下を論ぜず、虚実をいはず、大略没収せらると云々。律条のごとくば、謀反逆叛の人、協同と駈率と罪名同じからざるか。もつとも尋ね究められ、差異あるべきか。およそ承久没収の地、その数あらんか。今またことごとく召し放たれば、公家被官の仁、いよいよ牢籠すべきか。
一 無尽銭・土倉を興行せらるべき事
 或は莫太の課役を充て召され、或は打入りを制せられざるの間、已に断絶せしむるか。貴賤の急用たちまち闕如せしめ、貧乏の活計いよいよ治術を失ふ。いそぎ興行の儀あらば、諸人安堵の基たるべきか。
一 諸国の守護人、ことに政務の器用を択ばるべき事
 当時のごとくば、軍忠に募りて、守護職に補せらるるか。恩賞を行はるべくば、庄園を充て給ふべきか。守護職は上古の吏務なり。国中の治否ただこの職による。もつとも器用を補せられば、撫民の儀に叶ふべきか。
一 権貴ならびに女姓・禅律僧の口入を止めらるべき事
一 公人の緩怠を誡めらるべし。ならびに精撰あるべき事
 この両条代々の制法たり。さらに新儀にあらず。
一 固く賄貨を止めらるべき事
 この条また今に始まらずといへども、ことに厳密の御沙汰あるべし。仮令百文の分際たりといへども、賄賂をなさば、永くその人を召し仕はるべからず。過分たらば、生涯を失はるべきか。
一 殿中内外に付き諸方の進物を返さるべき事
 上の好む所、下必ずこれに随ふ。もつとも精廉の化を行はるべし。
 次に唐物已下の珍奇、ことに賞翫の儀あるべからざるものなり。
一 近習の者を選ばるべき事
 その君を知らずばその臣を見よ、その人を知らずばその友を見よと云々。しからば君の善悪は、必ず臣下により、即ち顕はるるものなり。もつともその器用を択ばるべきか。また党類を結び、互に毀誉を成す。闘乱の基、何事かこれにしかん。漢家本朝この儀多し。或は衣裳、或は能芸已下、好翫をもつて体となし、おのおの心底ことごとく相叶ふものか。違犯の輩に於ては、近辺に召し仕はるべからず。もつとも遠慮あるべきか。
一 礼節を専らにすべき事
 国を理むるの要、礼を好むに過ぐるなし。君に君礼あるべし、臣に臣礼あるべし。およそ上下おのおの分際を守り、言行必ず礼儀を専らにすべきか。
一 廉義の名誉あらば、ことに優賞せらるべき事
 これ善人を進め悪人を退くるの道なり。もつとも褒貶の御沙汰あるべきか。
一 貧弱の輩の訴訟を聞し食さるべき事
 堯舜の政、これをもつて最となす。尚書のごとくば、凡人の軽んずる所、聖人の重んずる所と云々、ことに御意に懸けらるべきなり。御憐愍はすべからく貧家の輩に在るべし。彼等の愁訴を聞し食し入れらるる事、御沙汰の専一たるか。
一 寺社の訴訟、事によつて用捨あるべき事
 或は威猛を振ひ、或は興隆と号し、または奇瑞を耀かし、または御祈と称す。かくのごときの類、もつとも御沙汰を尽くさるべきなり。
一 御沙汰の式日・時刻を定めらるべき事
 諸人の愁、緩怠に過ぐるはなし。また事を早速に寄せ、淵底を究めずば然るべからず。彼といひ此といひ、所詮人愁なきの様、御沙汰あるべきなり。
以前十七箇条、大概かくのごとし。是円李曹の余胤を受くるといへども、すでに草野の庸愚たり。忝くも政道治否の諮詢を蒙り、和漢古今の訓謨をひろふ所なり。方今諸国の干戈いまだ止まらず。もつとも跼蹐あるべきか。古人曰く、安きに居てなほ危ふきを思ふと。今危ふきに居てなんぞ危ふきを思はざるや。恐るべきはこの時なり。慎むべきは近き日なり。遠くは延喜・天暦両聖の徳化を訪ひ、近くは義時・泰時父子の行状をもつて、近代の師となす。ことに万人帰仰の政道を施されば、四海安全の基たるべきか。よつて言上件のごとし。

 建武三年十一月七日
          真 恵
          是 円
  人衆
 前民部卿     是円
 真恵       玄恵法印
 太宰少弐     明石民部大夫
 太田七郎左衛門尉 布施彦三郎入道

                       『中世政治社会思想』(上)より

         *縦書きの原文を横書きに改め、句読点を付してあります。

<現代語訳>

建武式目の条々

鎌倉を元のように幕府の所在地とするべきか、他所に移すべきかどうかの事
 右のことは、中国と日本において、その昔は政治の中心地が移りかわることが多く、じっくりと政治を行う時間の余裕がなかった。末世にいたり、わずらわしいほど乱れることによつて、移転することが容易ではなかったのであろう。特に鎌倉郡は、文治年間に源頼朝がはじめて幕府の館を構へ、承久の乱の勝利で北条義時が天下を一つに合わせて従えることとなった。武家にとっては、もつとも縁起の良い土地といえるだろう。しかし、得宗領などを拡大し、幕府の主要権力を独占し、得意になって威張ることを極めて欲望をほしいままにし、悪事を重ねて改めなかった。従って、予想通り滅亡したのである。たとえ他所に移したとしても、近年の北条氏のような失政を改めなかったならば、政権が傾むく危険があることに何の疑ひがあるだろうか。さて周・秦ともに堅固な地形に拠って本拠を構えていた。しかし、秦は二世にして滅び、周は多くのさいわいをひらいた。隋・唐は、同じように長安に本拠を構えていた。しかし、隋は二代にして亡び、唐は多くの業績を興した。だから、幕府の所在地が栄えるか衰えるかは、政治が良いか悪いかによるのである。これは、人の運命の吉凶は、住居の吉凶によるものではないという意味である。ただし、人々がもし幕府を鎌倉から京都へ移すことを要望するならば、大勢の人々の意向に従うべきであろう。

政治のあり方の事
 右のことは、時代に適応した法律制度を作るということである。日本・中国の様々な法律の中からどのような法を用いるのが良いのだろうか。先ず武家政治の全盛時代、つまり北条義時・泰時の執権政治の全盛時代の事績を踏襲して、善政を行うことが肝要であろう。そうであるならば、旧幕府の重臣・評定衆・下級役人などが健在である。儀式・法令・作法などの故例を調査するにおいて、なんの不足があろうか、ないはずである。古典には、「徳とはこれ良い政治、政治の基本は民を安定させるにある」と言っている。早く万人の不安をなくす方策を早急に処置するべきであろう。その要点の概要を左に記す。
一 倹約をするべき事
 近頃、見栄を張って派手に遠慮なく振る舞ったり、特に分に過ぎた華美やぜいたくを好み、華美な服装、精密に美しく装飾を施した銀剣、華美・美麗な服飾や飾りなど、目を驚かさないものはない。まったく気ちがい沙汰と言うべきであろう。富める者はますますこれを誇り、貧しい者はそれに及ばないことを恥じている。世の中の廃れ衰えることこれより甚だしきものはない。もつとも厳しく取り締まられるべきであろう。
一 多数の人が集まって酒盛りをしたり、きままに遊び惚けることは禁止されるべき事
 格の規定によれば、このことに対する禁制は特に厳しい。そればかりか女色にふけり、金品を賭けて勝負を争っている。このほかまた、あるいは茶を飲んでその種類をあてる賭け事、あるいは連歌を競って得点を付けて賭け事として、極めて大きい額を賭けている。その費用は計算できないほど多いものであろう。
一 無法な荒々しい振る舞いを鎮められるべき事
 昼は無理矢理に商家などへ打入り、夜は強盗をし、所々で人を殺したり牛馬を殺したり、辻々では追いはぎをしたりして、人々のおめき叫ぶ声が絶えない。特に警固の指示があるべきであろう。
一 私宅の財産などを調べて差押えや強制的に没収することを止められるべき事
 貧しい微力を励まして、構築した私宅を、たちまち財産などを調べて差押えや強制的に没収させられ、また壊されて取られる間、身を隠す場所もない。すなわち浮浪せざるを得なくなり、ついには生活を維持することもできなくなる。もつとも憐れむべき事情である。
一 京都中の空地は、元の所有者に返されるべき事
 現在の状態は、京都中の半分以上は空地となっている。早く元の所有者に返され、建築する事を許されるべきであろう。ちまたのうわさようであるならば、この度のことは山上の天皇につき従う人、上級下級を論ぜず、嘘真を問わず、だいたい没収されたと言っている。律条のようであるならば、謀反人・反逆人と協同人・追従人とで罪名が同じなのであろうか。きちんと究明され、差異がはっきりされるべきであろう。およそ承久の変によって没収された土地、その数はどうなのであろう。今またすべてを召し寄せてしまったならば、朝廷および直属の役所に仕える人々は、いよいよ苦境に立つことになるであろう。
一 無尽銭や土倉の営業を盛んにするべき事
 あるいは莫大な仕事を割り当てて任じ、あるいは打入りを制止させることが間に合わない間、すでに家が廃絶してしまはないか。貴人・賤人の急ぎの必要品がたちまち欠如してしまい、貧乏のため生活を維持することが困難になり、ますます治す手立てを失ってしまう。急いで無尽銭や土倉の営業を盛んにすることができれば、多くの人々の生活を安定させる基本となるであろう。
一 諸国の守護人は、特に政務の有能な者が選らばれるべき事
 現在のようであるならば、軍功の恩賞として、守護職に任じられているのであろうか。恩賞を与えるならば、荘園などの所領を給与すべきであろう。守護職は昔の国司の職務に相当する。国中が良く治まるかどうかは、ただこの職に依っている。特に有能な者を任じれば、人民をいたわる方針にかなうことであろう。
一 権門貴族ならびに女性・僧侶の政治介入を止められるべき事
一 下級役人のいいかげんに考えてなまけることを戒められるべし。ならびに人材の選り抜きあるべき事
 この二つの条は、代々の法でも制定されている。特に新しいものではない。
一 かたく賄賂を止められるべき事
 この条はまた今に始まったものでないといっても、ことに厳密な処置があるべきである。たとえ百文程度のものといっても、賄賂をもらったならば、永くその人に職務を与えてはいけない。分を過ぎたものならば、生涯失職させるべきであろう。
一 殿中内外について、いろいろな方からの贈り物を返されるべき事
 上の者が好んで行うことは、下の者が必ずこれに随うものである。もつとも心が清らかで私欲がないように変わるべきである。
 次に舶来品などの珍しい物、特に珍重するものについてはあってはならないことである。
一 近く仕える者を選ばれるべき事
 「その君を知ろうとするならばその臣を見よ、その人を知ろうとするならばその友を見よ」と言われている。そうであるならば君主の善悪は、必ず臣下により、すなわち顕在化するものである。従ってその有能な者が選ばれるべきであろう。また徒党を組み、たがいに悪口を言ったり称賛したりする。戦争の原因は、これによるものに違いない。中国と日本ではこのようなことが多い。あるいは衣裳、あるいは才能と技芸以下、好いてもてあそぶをもつて本質とし、それぞれの心底ことごとく相性とするべきか。法にそむいて罪を犯す者においては、近辺に召し仕わせるべきではない。もつとも遠ざけるべきであろう。
一 礼節を主要なものにすべき事
 国を統治する要点は、礼を好むのに過ぎることはない。君主には君礼があるべきであり、臣下には臣礼があるべきである。およそ上下それぞれの身の程をわきまえ、言葉と行動は必ず礼儀を主要なものにするべきであろう。
一 清く正しいという名誉があれば、ことに手厚くほめるられるべき事
 これは善人を増やし、悪人をなくす道理である。もつとも賞罰の沙汰があるべきであろう。
一 貧しい者・弱い者の訴えを聞き届けられるべき事
 中国の堯と舜の時代の政治(良く治まった世の中の意味)、これをもって最上のものとする。尚書によれば、「凡人の軽んずる所、聖人の重んずる所」と言っているが、ことに心掛けられるべきことである。あわれみは、当然貧しい家の者にあるべきである。彼らの苦しみや悲しみの訴えを聞き届けられるべき事は、処置の第一にするべきことであろう。
一 寺社の訴訟、事によつては取捨あるべき事
 あるいは豪猛な態度をとり、あるいは勢いが盛んになって栄えていると叫ぶ、またはめでたいことの前兆として起こる不思議な現象(吉兆)だときらめかす、または御祈と称する。このような場合には、特に吟味を徹底するべきである。
一 裁判を行う定例日と開始時刻を定められるべき事
 多くの人々の愁うることは、なおざりにされること以上のものはない。従って、事を早速に判断し、物事の奥深いところを探究しなければならない。あれやこれや言っても、行きつくところは、人が心配がない様な、沙汰がされるべきことである。
 これらの十七箇条、大略は以上のとおりである。是円は、法曹家の家柄の子孫ではあるが、すでに民間の凡人である。怖れ多くも幕府政治の是非についての諮問を受けたので、日本・中国の昔から今に至る教訓を拾い集めた次第である。只今諸国の戦争はいまだ収まっていない。特にかしこまって身を慎んで政治を担当するべき時ではないか。昔の人は言っている、「安全な所にいても、尚危険なときのことを考える」と。今危ういところにいて、どうして危険な状態だと思わないのだろうか。恐れるべきは現在である。慎むべきは近き日である。昔では延喜・天暦時代の天皇(醍醐天皇・村上天皇)の徳ある政治を尋ね、近年では北条義時・泰時父子の治績をもって、近代の模範とする。特にすべての人が従い仰ぐ善政を施したならば、日本全国の平和の基本となるであろう。以上のように申し上げる。

  建武三年十一月七日
           真 恵
           是 円
    人衆
 前民部卿     是円
 真恵       玄恵法印
 太宰少弐     明石民部大夫
 太田七郎左衛門尉 布施彦三郎入道


【注釈】
[1]柳営:りゅうえい=将軍の陣営、将軍の御所、幕府の所在地。
[2]漢家本朝:かんかほんちょう=中国と日本。
[3]遷移:せんい=うつりかわること。うつりかわり。推移。
[4]羅縷:らる=網の目のように詳しくということ。
[5]遑:いとま=時間の余裕。ひま。
[6]季世:きせい=末の世。末世。
[7]迄り:いたり=ある物事が最高の状態に達していること。極み。
[8]移徙:いし=移り動くこと。移転。移動。
[9]文治:ぶんち=元号の一つで1185年~1190年のこと。文治元年の守護・地頭の設置を指すと思われる。
[10]幕下:ばっか=近衛大将の唐名で、右近衛大将であった源頼朝を指す。
[11]義時:よしとき=1221年(承久3)の承久の変に勝った北条義時のこと。
[12]併呑:へいどん=一つに合わせて従えること。
[13]吉土:きちど=縁起の良い土地。
[14]禄多く権重く:ろくおおくけんおもく=得宗領などを拡大し、幕府の主要権力を独占したことを指す。
[15]驕:おごり=得意になって威張ること。わがままな振る舞い。
[16]悪を積みて改めず:あくをつみてあらためず=悪事を重ねて改めなかった。
[17]果たして:はたして=案の定。予期した通り。
[18]近代:きんだい=近頃。
[19]覆車:ふくしゃ=車が転覆すること。
[20]轍:てつ=車が通った車輪の跡のことで、転じて先例を意味する。
[21]傾危:けいき=傾いて危ないこと。
[22]なんの疑ひあるべけんや:なんのうたがいあるべけんや=何の疑いもない。
[23]崤函:こうかん=崤山と函谷関の意味で、堅固な地形に拠っていること。
[24]闡く:ひらく=大きくあけひろげる。あけすけにする。
[25]居処の興廃:きょしょのこうはい=幕府の所在地が栄えるか衰えるか。
[26]政道の善悪によるべし:せいどうのぜんあくによるべし=政治が良いか悪いかによる。
[27]人凶:じんきょう=人の運命の吉凶。
[28]宅凶:たくきょう=住居の吉凶。
[29]謂なり:いいなり=という意味である。
[30]衆人:しゅうじん=多くの人々。
[31]情:こころ=意向。
[32]政道の事:せいどうのこと=政治のあり方のこと。
[33]時を量り:ときをはかり=時代に適応した。
[34]制を設く:せいをもうく=法律制度を作る。
[35]和漢の間:わかんのあいだ=日本・中国の様々な法律の中から。
[36]武家全盛:ぶけぜんせい=武家政治の全盛時代、つまり北条義時・泰時の執権政治の全盛時代のこと。
[37]宿老:しゅくろう=幕府の高官。幕府の重臣。
[38]評定衆:ひょうじょうしゅう=鎌倉幕府において、重要政務・訴訟を、執権・連署とともに審議したメンバー。
[39]公人:くにん=政所職員などの下級役人。
[40]済々:せいせい=多く盛んなさま。健在であること。
[41]故実:こじつ=儀式・法令・作法などの故例。
[42]訪はん:とぶらはん=調査する。
[43]何の不足あるべきか:なんのふそくあるべきか=なんの不足があろうか、ないはずである。
[44]嘉政:かせい=良い政治。
[45]安んずる:やすんずる=安らかにする。安定させる。
[46]速かに:すみやかに=早急に。
[47]御沙汰:ごさた=処置。命令。指示。おさばき。
[48]最要:さいよう=肝心なこと。要点。
[49]粗:あらあら=簡潔に。かいつまんで。
[50]婆佐羅:ばさら=見栄を張って派手に遠慮なく振る舞う風俗。
[51]過差:かさ=分に過ぎた華美やぜいたく。
[52]綾羅錦繍:りょうらきんしゅう=あやぎぬとうすぎぬとにしきとぬいとり、華美な服装の意味。
[53]精好:せいごう=精密に美しく装飾を施したもの。
[54]風流服飾:ふりゅうふくしょく=華美・美麗な服飾や飾り。美しく見事な服装や装身具。
[55]頗る:すこぶる=まったく。
[56]物狂:ぶっきょう=気ちがい沙汰。狂気の沙汰。
[57]凋弊:ちょうへい=廃れ衰えること。疲弊。
[58]群飲:ぐんいん=多数の人が集まって酒盛りをすること。
[59]佚遊:いつゆう=きままに遊び惚けること。
[60]格条:きゃくじょう=格の規定のことで、866年(貞観8)の「太政官符」などを指す。
[61]あまつさへ:そればかりか。おまけに。
[62]好女の色に耽り:こうじょのしょくにふけり=女色にふけること。
[63]博奕の業に及ぶ:ばくえきのわざにおよぶ=ばくちまでしている。金品を賭けて勝負を争っている。
[64]茶寄合:ちゃよりあい=茶を飲んでその種類をあてる賭け事。闘茶。
[65]連歌会:れんがえ=連歌を競い、得点を付けて賭け事とした。
[66]莫太:ばくだい=程度や量が甚だしいさま。極めて大きい。
[67]費:ついえ=費用。
[68]狼藉:ろうぜき=無法な荒々しい振る舞い。乱暴な行い。
[69]屠殺:とさつ=家畜などを殺すこと。
[70]引剥:ひっぱぎ=追いはぎ。
[71]叫喚さらに断絶なし:きょうかんさらにだんぜつなし=人々のおめき叫ぶ声が絶えない。
[72]点定:てんじょう=財産などを調べて差押えや強制的に没収すること。
[73]尩弱:おうじゃく=貧しいこと。また、そのさま。
[74]活計:かっけい=生活を維持すること。また、そのための手段。生計。
[75]巷説:こうせつ=ちまたのうわさ。世間の評判。世の中の風説。
[76]臨幸:りんこう=天皇が行幸してその場に臨むこと。
[77]扈従:こじゅう=貴人につき従うこと。また、その人。おとも。こじゅう。
[78]駈率:くそつ=追い従う。
[79]牢籠:ろうろう=苦境に立つこと。追いつめられて悩むこと。思い通りの行動がとれないこと。行き詰まること。
[80]無尽銭:むじんせん=貸付金のこと。
[81]土倉:どそう=財物を預かって金を貸す質屋のこと。
[82]興行:こうぎょう=盛んにすること。
[83]闕如:けつじょ=本来あって然るべきものが、抜け落ちていて、足りないさま。欠落。欠如。
[84]治術:ちじゅつ=国を治める方法。治療の方法。
[85]諸人:もろびと=多くの人々。たくさんの人。 衆人。
[86]安堵:あんど=土地の所有権・知行権などを将軍や領主が承認すること。安心すること。心が落ち着くこと。
[87]器用を択ばるべき事:きようをえらばるべはこと=有能な者が選らばれること。
[88]当時:とうじ=現代。現在。
[89]軍忠に募りて:ぐんちゅうにつのりて=軍功の恩賞として。手柄の大きさによって。
[90]庄園を充て給ふべきか:しょうえんをあてたまふべきか=荘園などの所領を給与すべきであろう。
[91]上古の吏務:かみこのりむ=昔の役人の職務の意味で、昔の国司の職務のこと。
[92]国中の治否:くにじゅうのちひ=国中が良く治まるかどうか。
[93]撫民:ぶみん=人民をいたわる。民をいつくしむ。<br>
[94]権貴:けんき=権力を持ち、とうとい身分であること。また、その人 。
[95]禅律僧:ぜんりつそう=僧侶のこと 。
[96]口入:くちいれ=政治への介入 。
[97]緩怠:かんたい=いいかげんに考えてなまけること。 また、そのさま。
[98]精撰:せいせん=特によいものだけをえらび出すこと。えりぬき。よりぬき。
[99]賄貨:わいか=自分に有利なようにはからってもらうために贈る金品。
[100]仮令:けりょう=たとえば。。かりに。
[101]過分:かぶん=分に過ぎた扱いを受けること。身に余るさま。思い上がっていること。僭越なこと。
[102]進物:しんもつ=人に差し上げる品物。贈り物。
[103]精廉:せいれん=心が清らかで私欲がないこと。また、そのさま。廉潔。
[104]唐物:からもの=中国 大陸 (唐土〈もろこし〉) から渡来した物品の総称。
[105]已下:いか=それより少ないこと、または劣っていることを表す。
[106]賞翫:しょうがん=そのもののよさを楽しむこと。珍重すること。味のよさを楽しむこと。賞味すること。
[107]近習:きんじゅう=近く仕えること。またその人。近侍。近寄衆。
[108]顕はるる:あらはるる=姿を現す。顕在化する。
[109]毀誉:きよ=けなすこととほめること。悪口と称賛。
[110]闘乱:とうらん=戦闘 。 戦い。 闘い。闘争。
[111]能芸:のうげい=才能と技芸。 芸能。また、身につけた芸。
[112]好翫:こうがん=好いてもてあそぶ。
[113]違犯の輩:いはんのやから=法にそむいて罪を犯す者。
[114]礼節:れいせつ=礼儀と節度。また、礼儀。
[115]分際:ぶんざい=身分・地位の程度。 身のほど。分限。
[116]廉義:れんぎ=いさぎよくてよい。清く正しい。
[117]優賞:ゆうじょう=手厚くほめること。また、ほめてほうびを 与えること。
[118]褒貶:ほうへん=ほめることとけなすこと。事のよしあしを 言うこと。
[119]貧弱:ひんじゃく=乏しく、必要を満たすに十分でない こと。また、そのさま。
[120]堯舜の政:ぎょうしゅんのせい=中国の堯と舜の時代の政治のことで、よく 治まった世の中の意味。
[121]御憐愍:ごれんびん= かわいそうに思うこと。あわれむこと。 あわれみ。
[122]愁訴:しゅうそ=つらい事情を明かして嘆き訴えること 。また、その訴え。
[123]威猛を振ひ:いもうをふるい=豪猛な態度。性格や態度が勇ましく猛烈にふるまうこと。
[124]興隆と号し:こうりゅうとごうし=勢いが盛んになって栄えていると叫ぶこと。
[125]奇瑞を耀かし:きずいをかがやかし=めでたいことの前兆として起こる不思議な現象(吉兆)だときらめかす。
[126]御沙汰の式日・時刻:ごさたのしきじつ・じこく=裁判を行う定例日と開始時刻。
[127]緩怠:かんたい=なまけること。なまけるさま。なおざり。
[128]淵底を究めずば:えんていをきわめずば=物事の奥深いところを探究しなければ。奥底を見なければ。
[129]李曹の余胤を受くる:りそうのよいんをうくる=法律家の家の出身。法曹家の家柄の子孫。
[130]草野の庸愚:そうやのようぐ=平凡で愚かな人。民間の凡人。
[131]政道治否の諮詢:せいどうちひのしじゅん=政治の参考の為に尋ねて相談すること。政治の是非についての諮問。
[132]和漢古今の訓謨:わかんこきんのくんぼ=日本・中国の昔から今に至る教訓。
[133]干戈:かんか=干(たて)と戈(ほこ)、つまり戦争のこと。
[134]跼蹐:きょくせき=かしこまって身を縮めること。
[135]延喜・天暦両聖:えんぎ・てんりゃくりょうせい=延喜・天暦時代の天皇(醍醐天皇・村上天皇)を指す。
[136]行状:ぎょうじょう=おこない。治績。
[137]近代の師となす:きんだいのしとなす=近代の模範(手本)とする。
[138]万人帰仰の政道:ばんにんきぎょうのせいどう=すべての人が従い仰ぐ善政。
[139]四海安全の基:しかいあんぜんのもとい=日本全国の平和の基本。
[140]言上件のごとし:ごんじょうくだんのごとし=以上のように申し上げる。