ガウスの歴史を巡るブログ(その日にあった過去の出来事)

 学生時代からの大の旅行好きで、日本中を旅して回りました。その中でいろいろと歴史に関わる所を巡ってきましたが、日々に関わる歴史上の出来事や感想を紹介します。Yahooブログ閉鎖に伴い、こちらに移動しました。

2017年07月

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 今日は、1881年(明治14)に劇作家・演出家・小説家 小山内薫が誕生した日です。
 明治時代後期から昭和時代前期に活躍した劇作家、演出家、小説家です。1881年(明治14)7月26日に、広島県広島市で、陸軍軍医小山内玄洋の子として生まれました。
 父の死後、東京府東京市麹町区(現在の東京都千代田区)へ転居し、府立一中を経て、旧制一高から東京帝国大学文学部英文科に進学したのです。
 在学中から、舞台演出に関わり、詩や小説なども創作し、卒業後は、1907年(明治40)に雑誌『新思潮』(第一次)を発刊して、西欧の演劇評論・戯曲を紹介しました。
 1909年(明治42)には、2世市川左団次と組んで自由劇場を結成、1915年(大正4)歌舞伎研究の古劇研究会を結成、1918年(大正7)には市村座に入ったものの、翌々年に退座するなど模索を続けています。また、1920年(大正9)には松竹キネマの研究所顧問に迎えられ、映画『路上の霊魂』製作の総指揮にもあたりました。
 そして、1924年(大正13)土方与志らと築地小劇場を興して、現在の新劇の基礎を築いたのです。しかし、1928年(昭和3)12月25日、心臓発作のため47歳で急逝しました。

〇「築地小劇場」とは?
 この劇場は、土方与志と小山内薫を主宰として、東京築地(現在の東京都中央区築地)に、大正時代の1924年(大正13)6月13日に開設した日本最初の新劇専門劇団およびその劇場のことです。
 創立時のメンバーは他に、俳優として友田恭助、汐見洋、効果・照明担当の和田精、経営の浅利鶴雄の6人で、演技部に東屋三郎、青山杉作、研究生として千田是也、丸山定夫、田村秋子、山本安英らがいました。
 関東大震災後ヨーロッパから帰国した土方与志が私財を投じて建設(定員 497名)、ゴシック・ロマネスク様式で、当時最新の機構であるクッペルホリゾントや照明設備、可動舞台などが取入れられたのです。
 その後、5年間に100余編の内外戯曲を連続上演、新劇史上画期的な成果を収め、千田是也、山本安英、滝沢修、杉村春子ら、戦後の演劇界を支えた人々が巣立ちましたが、劇団は1930年(昭和5)に解散し、劇場も1945年(昭和20)に戦災で焼失しました。
 この間、実に多彩なものが上演されていますが、その一部を紹介しておきます。

〇築地小劇場で上演されたもの(一部)
 『海戦』(ラインハルト・ゲーリング作)
 『白鳥の歌』(チェーホフ作)
 『休みの日』(マゾオ作)
 『解放されたドン・キホーテ』(アナトリー・ルナチャルスキー作、千田是也訳、佐野碩演出)
 『夜の宿』(『どん底』)(ゴーリキィ作)
 『令嬢ジュリー』(A.ストリンドベリ作)
 『三人姉妹』(チェーホフ作)
 『国姓爺合戦』(近松門左衛門作)
 『役の行者』(坪内逍遥作)
 『法成寺物語』(谷崎潤一郎作)
 『ピーターパン』(ジェームス・マシュー・バリー作)
 『ダントンの死』(ゲオルク・ビューヒナー作)
 『風の又三郎』(宮沢賢治作)
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 今日は、1933年(昭和8)フェーン現象により山形県山形市で40.8℃を記録した日で、2007年(平成19)8月16日に埼玉県熊谷市と岐阜県多治見市が40.9℃を記録するまで、74年間もの長期にわたり、日本最高気温の記録でした。
 1933年(昭和8)7月26日付の「山形新聞」朝刊の見出しでは、「きのふ 歴史的のあつさ 華氏百五度全国一の高温 測候所でも驚く」と報じ、この暑さによって、山形市周辺では、道路のアスファルトが溶け、木からセミが落ち、5,000羽ものニワトリが死んだとされています。
 山形市の場合は、熱い空気が滞留しやすい盆地にあり、その日は南高北低の夏型で、南西の風が吹いていました。この風が雨を降らせながら山形県内の南西部の山をのぼり、吹き下ろすときに異常乾燥・異常高温の空気が付近の温度を上昇させるフェーン現象が起きたのです。 
 今日は、かつて山形市が日本最高気温40.8℃を記録した日時を記念して、山形市街では恒例の「大打ち水イベント」(場所:ほっとなる広場、大沼本店前他)が、13時〜16時の間に開催されるそうです。

〇日本の最高気温ベスト20
 1位 高知県四万十市江川崎 41.0℃ (2013年8月12日観測)
 2位 埼玉県熊谷市 40.9℃ (2007年8月16日観測)
 2位 岐阜県多治見市 40.9℃ (2007年8月16日観測)
 4位 山形県山形市 40.8℃ (1933年7月25日観測)
 5位 山梨県甲府市 40.7℃ (2013年8月10日観測)
 6位 和歌山県伊都郡かつらぎ町 40.6℃ (1994年8月8日観測)
 6位 静岡県浜松市天竜区 40.6℃ (1994年8月4日観測)
 8位 山梨県甲州市勝沼町 40.5℃ (2013年8月10日観測)
 9位 埼玉県越谷市 40.4℃ (2007年8月16日観測)
 10位 群馬県館林市 40.3℃ (2007年8月16日観測)
 10位 群馬県高崎市上里見町 40.3℃ (1998年7月4日観測)
 10位 愛知県愛西市 40.3℃ (1994年8月5日観測)
 13位 千葉県牛久市 40.2℃ (2004年7月20日観測)
 13位 静岡県浜松市天竜区佐久間 40.2℃ (2001年7月24日観測)
 13位 愛媛県宇和島市 40.2℃ (1927年7月22日観測)
 16位 山形県酒田市 40.1℃ (1978年8月3日観測)
 17位 岐阜県美濃市 40.0℃ (2007年8月16日観測)
 17位 群馬県前橋市 40.0℃ (2001年7月24日観測)
 19位 千葉県茂原市 39.9℃ (2013年8月11日観測)
 19位 埼玉県比企郡鳩山町 39.9℃ (1997年7月5日観測)
 19位 大阪府豊中市 39.9℃ (1994年8月8日観測)
 19位 山梨県大月市 39.9℃ (1990年7月19日観測)
 19位 山形県鶴岡市 39.9℃ (1978年8月3日観測)
 19位 愛知県名古屋市 39.9℃ (1942年8月2日観測)

〇世界の最高気温ベスト3
 1位 アメリカカリフォルニア州デスヴァレー 56.7℃
 2位 イスラエル 53.9℃
 3位 オーストラリア 53.1℃
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 今日は、1927年(昭和2)に小説家 芥川龍之介が亡くなった日で、河童忌と呼ばれています。
 芥川龍之介は、大正時代に活躍した小説家で、1892年(明治25)3月1日に、東京市京橋区入船町(現在の東京都中央区)で生まれました。
 府立第三中学校から第一高校を経て東京帝国大学文科大学英文学科(現在の東京大学文学部)へ進学したのです。
 在学中に菊池寛らと第三次『新思潮』を創刊、第四次『新思潮』に短編「鼻」を発表し、夏目漱石に激賞され、続いて「羅生門」を『帝国文学』に発表し、不動の地位を築きました。
 卒業後、海軍機関学校の教職に就きましたが、それを辞して大阪毎日新聞社に入社し、創作に専念します。
 しかし、胃潰瘍・神経衰弱・不眠症がひどくなり、身内の不幸も重なって、1927年(昭和2)7月24日に35歳で自殺しました。

〇芥川龍之介の主要な作品
 「クラリモンド」 1914年(翻訳、原作テオフィル・ゴーティエ)
 「羅生門」 1915年
 「鼻」 1916年
 「芋粥」 1916年
 「手巾」 1916年
 「煙草と悪魔」 1916年
 「運」 1917年1月
 「蜘蛛の糸」 1918年
 「地獄変」 1918年
 「邪宗門」 1918年
 「奉教人の死」 1918年
 「犬と笛」 1919年
 「きりしとほろ上人伝」 1919年
 「魔術」 1919年
 「蜜柑」 1919年
 「舞踏会」 1920年
 「秋」 1920年
 「南京の基督」 1920年
 「杜子春」 1920年
 「アグニの神」 1920年
 「藪の中」 1921年
 「神神の微笑」 1922年
 「報恩記」 1922年
 「三つの宝」 1922年
 「トロツコ」 1922年
 「魚河岸」 1922年
 「おぎん」 1922年
 「侏儒の言葉」 1923年 - 1927年
 「漱石山房の冬」 1923年
 「猿蟹合戦」 1923年
 「あばばばば」 1923年
 「大導寺信輔の半生」 1925年
 「玄鶴山房」 1927年
 「河童」 1927年
 「蜃気楼」 1927年
 「浅草公園」 1927年
 「文芸的な、余りに文芸的な」 1927年
 「歯車」 1927年
 「或阿呆の一生」 1927年
 「西方の人」 1927年

☆短編小説「鼻」芥川龍之介著(全文)

 禅智内供の鼻と云えば、池の尾おで知らない者はない。長さは五六寸あって上唇の上から顋の下まで下っている。形は元も先も同じように太い。云わば細長い腸詰のような物が、ぶらりと顔のまん中からぶら下っているのである。
 五十歳を越えた内供は、沙弥の昔から、内道場供奉の職に陞った今日まで、内心では始終この鼻を苦に病んで来た。勿論表面では、今でもさほど気にならないような顔をしてすましている。これは専念に当来の浄土を渇仰すべき僧侶の身で、鼻の心配をするのが悪いと思ったからばかりではない。それよりむしろ、自分で鼻を気にしていると云う事を、人に知られるのが嫌だったからである。内供は日常の談話の中に、鼻と云う語が出て来るのを何よりも惧れていた。
 内供が鼻を持てあました理由は二つある。――一つは実際的に、鼻の長いのが不便だったからである。第一飯を食う時にも独りでは食えない。独りで食えば、鼻の先が鋺かなまりの中の飯へとどいてしまう。そこで内供は弟子の一人を膳の向うへ坐らせて、飯を食う間中、広さ一寸長さ二尺ばかりの板で、鼻を持上げていて貰う事にした。しかしこうして飯を食うと云う事は、持上げている弟子にとっても、持上げられている内供にとっても、決して容易な事ではない。一度この弟子の代りをした中童子が、嚏をした拍子に手がふるえて、鼻を粥の中へ落した話は、当時京都まで喧伝された。――けれどもこれは内供にとって、決して鼻を苦に病んだ重な理由ではない。内供は実にこの鼻によって傷つけられる自尊心のために苦しんだのである。
 池の尾の町の者は、こう云う鼻をしている禅智内供のために、内供の俗でない事を仕合せだと云った。あの鼻では誰も妻になる女があるまいと思ったからである。中にはまた、あの鼻だから出家したのだろうと批評する者さえあった。しかし内供は、自分が僧であるために、幾分でもこの鼻に煩わされる事が少くなったと思っていない。内供の自尊心は、妻帯と云うような結果的な事実に左右されるためには、余りにデリケイトに出来ていたのである。そこで内供は、積極的にも消極的にも、この自尊心の毀損を恢復しようと試みた。
 第一に内供の考えたのは、この長い鼻を実際以上に短く見せる方法である。これは人のいない時に、鏡へ向って、いろいろな角度から顔を映しながら、熱心に工夫を凝こらして見た。どうかすると、顔の位置を換えるだけでは、安心が出来なくなって、頬杖をついたり頤の先へ指をあてがったりして、根気よく鏡を覗いて見る事もあった。しかし自分でも満足するほど、鼻が短く見えた事は、これまでにただの一度もない。時によると、苦心すればするほど、かえって長く見えるような気さえした。内供は、こう云う時には、鏡を箱へしまいながら、今更のようにため息をついて、不承不承にまた元の経机へ、観音経をよみに帰るのである。
 それからまた内供は、絶えず人の鼻を気にしていた。池の尾の寺は、僧供講説などのしばしば行われる寺である。寺の内には、僧坊が隙なく建て続いて、湯屋では寺の僧が日毎に湯を沸かしている。従ってここへ出入する僧俗の類も甚だ多い。内供はこう云う人々の顔を根気よく物色した。一人でも自分のような鼻のある人間を見つけて、安心がしたかったからである。だから内供の眼には、紺の水干も白の帷子もはいらない。まして柑子色の帽子や、椎鈍の法衣ころもなぞは、見慣れているだけに、有れども無きが如くである。内供は人を見ずに、ただ、鼻を見た。――しかし鍵鼻はあっても、内供のような鼻は一つも見当らない。その見当らない事が度重なるに従って、内供の心は次第にまた不快になった。内供が人と話しながら、思わずぶらりと下っている鼻の先をつまんで見て、年甲斐としがいもなく顔を赤らめたのは、全くこの不快に動かされての所為である。
 最後に、内供は、内典外典の中に、自分と同じような鼻のある人物を見出して、せめても幾分の心やりにしようとさえ思った事がある。けれども、目連や、舎利弗の鼻が長かったとは、どの経文にも書いてない。勿論竜樹や馬鳴も、人並の鼻を備えた菩薩である。内供は、震旦の話の序ついでに蜀漢の劉玄徳の耳が長かったと云う事を聞いた時に、それが鼻だったら、どのくらい自分は心細くなくなるだろうと思った。
 内供がこう云う消極的な苦心をしながらも、一方ではまた、積極的に鼻の短くなる方法を試みた事は、わざわざここに云うまでもない。内供はこの方面でもほとんど出来るだけの事をした。烏瓜を煎じて飲んで見た事もある。鼠の尿いばりを鼻へなすって見た事もある。しかし何をどうしても、鼻は依然として、五六寸の長さをぶらりと唇の上にぶら下げているではないか。
 所がある年の秋、内供の用を兼ねて、京へ上った弟子の僧が、知己の医者から長い鼻を短くする法を教わって来た。その医者と云うのは、もと震旦から渡って来た男で、当時は長楽寺の供僧になっていたのである。
 内供は、いつものように、鼻などは気にかけないと云う風をして、わざとその法もすぐにやって見ようとは云わずにいた。そうして一方では、気軽な口調で、食事の度毎に、弟子の手数をかけるのが、心苦しいと云うような事を云った。内心では勿論弟子の僧が、自分を説伏せて、この法を試みさせるのを待っていたのである。弟子の僧にも、内供のこの策略がわからない筈はない。しかしそれに対する反感よりは、内供のそう云う策略をとる心もちの方が、より強くこの弟子の僧の同情を動かしたのであろう。弟子の僧は、内供の予期通り、口を極めて、この法を試みる事を勧め出した。そうして、内供自身もまた、その予期通り、結局この熱心な勧告に聴従する事になった。
 その法と云うのは、ただ、湯で鼻を茹でて、その鼻を人に踏ませると云う、極めて簡単なものであった。
 湯は寺の湯屋で、毎日沸かしている。そこで弟子の僧は、指も入れられないような熱い湯を、すぐに提に入れて、湯屋から汲んで来た。しかしじかにこの提へ鼻を入れるとなると、湯気に吹かれて顔を火傷やけどする惧がある。そこで折敷へ穴をあけて、それを提の蓋にして、その穴から鼻を湯の中へ入れる事にした。鼻だけはこの熱い湯の中へ浸しても、少しも熱くないのである。しばらくすると弟子の僧が云った。
 ――もう茹った時分でござろう。
 内供は苦笑した。これだけ聞いたのでは、誰も鼻の話とは気がつかないだろうと思ったからである。鼻は熱湯に蒸むされて、蚤のみの食ったようにむず痒がゆい。
 弟子の僧は、内供が折敷の穴から鼻をぬくと、そのまだ湯気の立っている鼻を、両足に力を入れながら、踏みはじめた。内供は横になって、鼻を床板の上へのばしながら、弟子の僧の足が上下うえしたに動くのを眼の前に見ているのである。弟子の僧は、時々気の毒そうな顔をして、内供の禿はげ頭を見下しながら、こんな事を云った。
 ――痛うはござらぬかな。医師は責せめて踏めと申したで。じゃが、痛うはござらぬかな。
 内供は首を振って、痛くないと云う意味を示そうとした。所が鼻を踏まれているので思うように首が動かない。そこで、上眼を使って、弟子の僧の足に皹のきれているのを眺めながら、腹を立てたような声で、
――痛うはないて。
 と答えた。実際鼻はむず痒い所を踏まれるので、痛いよりもかえって気もちのいいくらいだったのである。
 しばらく踏んでいると、やがて、粟粒のようなものが、鼻へ出来はじめた。云わば毛をむしった小鳥をそっくり丸炙にしたような形である。弟子の僧はこれを見ると、足を止めて独り言のようにこう云った。
 ――これを鑷子でぬけと申す事でござった。
 内供は、不足らしく頬をふくらせて、黙って弟子の僧のするなりに任せて置いた。勿論弟子の僧の親切がわからない訳ではない。それは分っても、自分の鼻をまるで物品のように取扱うのが、不愉快に思われたからである。内供は、信用しない医者の手術をうける患者のような顔をして、不承不承に弟子の僧が、鼻の毛穴から鑷子で脂をとるのを眺めていた。脂は、鳥の羽の茎のような形をして、四分ばかりの長さにぬけるのである。
 やがてこれが一通りすむと、弟子の僧は、ほっと一息ついたような顔をして、
 ――もう一度、これを茹でればようござる。
 と云った。
 内供はやはり、八の字をよせたまま不服らしい顔をして、弟子の僧の云うなりになっていた。
 さて二度目に茹でた鼻を出して見ると、成程、いつになく短くなっている。これではあたりまえの鍵鼻と大した変りはない。内供はその短くなった鼻を撫なでながら、弟子の僧の出してくれる鏡を、極きまりが悪るそうにおずおず覗いて見た。
 鼻は――あの顋の下まで下っていた鼻は、ほとんど嘘のように萎縮して、今は僅わずかに上唇の上で意気地なく残喘を保っている。所々まだらに赤くなっているのは、恐らく踏まれた時の痕であろう。こうなれば、もう誰も哂うものはないにちがいない。――鏡の中にある内供の顔は、鏡の外にある内供の顔を見て、満足そうに眼をしばたたいた。
 しかし、その日はまだ一日、鼻がまた長くなりはしないかと云う不安があった。そこで内供は誦経する時にも、食事をする時にも、暇さえあれば手を出して、そっと鼻の先にさわって見た。が、鼻は行儀よく唇の上に納まっているだけで、格別それより下へぶら下って来る景色もない。それから一晩寝てあくる日早く眼がさめると内供はまず、第一に、自分の鼻を撫でて見た。鼻は依然として短い。内供はそこで、幾年にもなく、法華経書写の功を積んだ時のような、のびのびした気分になった。
 所が二三日たつ中に、内供は意外な事実を発見した。それは折から、用事があって、池の尾の寺を訪れた侍が、前よりも一層可笑しそうな顔をして、話も碌々せずに、じろじろ内供の鼻ばかり眺めていた事である。それのみならず、かつて、内供の鼻を粥の中へ落した事のある中童子なぞは、講堂の外で内供と行きちがった時に、始めは、下を向いて可笑しさをこらえていたが、とうとうこらえ兼ねたと見えて、一度にふっと吹き出してしまった。用を云いつかった下法師たちが、面と向っている間だけは、慎んで聞いていても、内供が後さえ向けば、すぐにくすくす笑い出したのは、一度や二度の事ではない。
 内供ははじめ、これを自分の顔がわりがしたせいだと解釈した。しかしどうもこの解釈だけでは十分に説明がつかないようである。――勿論、中童子や下法師が哂う原因は、そこにあるのにちがいない。けれども同じ哂うにしても、鼻の長かった昔とは、哂うのにどことなく容子がちがう。見慣れた長い鼻より、見慣れない短い鼻の方が滑稽に見えると云えば、それまでである。が、そこにはまだ何かあるらしい。
 ――前にはあのようにつけつけとは哂わなんだて。
 内供は、誦しかけた経文をやめて、禿頭を傾けながら、時々こう呟く事があった。愛すべき内供は、そう云う時になると、必ずぼんやり、傍にかけた普賢の画像を眺めながら、鼻の長かった四五日前の事を憶い出して、「今はむげにいやしくなりさがれる人の、さかえたる昔をしのぶがごとく」ふさぎこんでしまうのである。――内供には、遺憾ながらこの問に答を与える明が欠けていた。
 ――人間の心には互に矛盾した二つの感情がある。勿論、誰でも他人の不幸に同情しない者はない。所がその人がその不幸を、どうにかして切りぬける事が出来ると、今度はこっちで何となく物足りないような心もちがする。少し誇張して云えば、もう一度その人を、同じ不幸に陥おとしいれて見たいような気にさえなる。そうしていつの間にか、消極的ではあるが、ある敵意をその人に対して抱くような事になる。――内供が、理由を知らないながらも、何となく不快に思ったのは、池の尾の僧俗の態度に、この傍観者の利己主義をそれとなく感づいたからにほかならない。
 そこで内供は日毎に機嫌が悪くなった。二言目には、誰でも意地悪く叱しかりつける。しまいには鼻の療治をしたあの弟子の僧でさえ、「内供は法慳貪の罪を受けられるぞ」と陰口をきくほどになった。殊に内供を怒らせたのは、例の悪戯な中童子である。ある日、けたたましく犬の吠える声がするので、内供が何気なく外へ出て見ると、中童子は、二尺ばかりの木の片きれをふりまわして、毛の長い、痩やせた尨犬を逐いまわしている。それもただ、逐いまわしているのではない。「鼻を打たれまい。それ、鼻を打たれまい」と囃しながら、逐いまわしているのである。内供は、中童子の手からその木の片をひったくって、したたかその顔を打った。木の片は以前の鼻持上はなもたげの木だったのである。
 内供はなまじいに、鼻の短くなったのが、かえって恨めしくなった。
 するとある夜の事である。日が暮れてから急に風が出たと見えて、塔の風鐸の鳴る音が、うるさいほど枕に通かよって来た。その上、寒さもめっきり加わったので、老年の内供は寝つこうとしても寝つかれない。そこで床の中でまじまじしていると、ふと鼻がいつになく、むず痒かゆいのに気がついた。手をあてて見ると少し水気が来たようにむくんでいる。どうやらそこだけ、熱さえもあるらしい。
 ――無理に短うしたで、病が起ったのかも知れぬ。
 内供は、仏前に香花を供そなえるような恭しい手つきで、鼻を抑えながら、こう呟いた。
 翌朝、内供がいつものように早く眼をさまして見ると、寺内の銀杏や橡が一晩の中に葉を落したので、庭は黄金を敷いたように明るい。塔の屋根には霜が下りているせいであろう。まだうすい朝日に、九輪がまばゆく光っている。禅智内供は、蔀を上げた縁に立って、深く息をすいこんだ。
 ほとんど、忘れようとしていたある感覚が、再び内供に帰って来たのはこの時である。
 内供は慌てて鼻へ手をやった。手にさわるものは、昨夜の短い鼻ではない。上唇の上から顋の下まで、五六寸あまりもぶら下っている、昔の長い鼻である。内供は鼻が一夜の中に、また元の通り長くなったのを知った。そうしてそれと同時に、鼻が短くなった時と同じような、はればれした心もちが、どこからともなく帰って来るのを感じた。
 ――こうなれば、もう誰も哂うものはないにちがいない。
 内供は心の中でこう自分に囁いた。長い鼻をあけ方の秋風にぶらつかせながら。
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 今日は、1918年(大正7)に富山県魚津町の主婦らが米の県外積出し阻止の行動を起こし、「米騒動」の始まりとされる日です。
 「米騒動」は、大正時代の1918年(大正7)に米価急騰に怒った民衆が米屋等を襲った事件です。
 第1次世界大戦中のインフレ政策で実質賃金は低下し、さらにシベリア出兵の決定によりいっそう米買占めが行われたことと寺内内閣の米価調節失敗のために、7月以降米価は異常に暴騰しました。
 その中で、民衆の生活難と生活不安が深まり、この年の7月に富山県下新川郡魚津町(現在の富山県魚津市)の主婦達の行動に端を発し、県外への米の積み出しを阻止したり、米屋を襲ったりしたものです。
 それが全国に波及して、米屋への安売り要求や打ちこわし、示威行動などが展開されました。
 軍隊が出動して鎮圧されましたが、この事件で寺内内閣は総辞職に追い込まれ、原敬を首相とする政党内閣が出現することになります。
 これらのことは、護憲運動や普通選挙運動、労働運動、農民運動などの発展にも影響を与えた言われています。
 以下に、当時の「米騒動」を報じた新聞記事の一部を掲載しておきます。

〇「米騒動」を報じた新聞記事

・「北陸タイムス」1918年(大正7)7月24日付
「下新川郡魚津町大字上下新猟師町民は主に漁を以て生命を繋ぎ居る者なるが此頃は漁の切れ目で左程収入がなく一方出稼の主人及家族よりも送金がないので,留守宅の妻子等は物価騰貴の影響を受けて糊口に困難する所より誰言ふとなく一つ党を与して役場へ救助方を迫らうでないかと発起したが何れもソレは良策なりと忽ち附和雷同し二十日未明同海岸に於て女房共四十六人集合し役場へ押し寄せんとせしを逸早く魚津警察署に於て探知し巡査数名を同所へ派遣し其不心得を説諭して解散せしめ……」

・「富山日報」1918年(大正7)7月25日付
「下新川郡魚津町の漁民は近来の不漁続きに痛く困憊し、生活難を訴ふる声日に高まり、果ては不穏の形勢を醸すに至りしは昨報の如くなるが、二十三日も汽船伊吹丸が北海道行きの米を積み取る為入港し、艀船にて積込みの荷役中、かくと聞きし細民等は、そは一大事也、さなきだに価格騰貴せる米を他国へ持ち行かれては、品不足となり益々暴騰すべしとの懸念より、群を成して海岸に駆け付け米を積ませじと大騒動に及びし為、仲仕人夫も其気勢に恐れを懐き遂に積込みを中止したり、依って伊吹丸乗組員も此上群集せる細民と争うは危険なりと考え、目的の積込みを中止し早々に錨を抜いて北海道に向け出帆せり。」

・「東京朝日新聞」1918年(大正7)8月5日付
「富山県中新川郡西水橋町町民の大部分は出稼業者なるが、本年度は出稼先なる樺太は不漁にて、帰路の路銀にも差支ふる有様にて、生活頻る窮迫し、加ふるに昨今の米価暴騰にて、困窮愈其極に達し居れるが、三日午後七時漁夫町一帯の女房二百名は海岸に集合して三隊に分れ、一は浜方有志、一は町有志、一は浜地の米屋及び米所有者を襲い、所有米は他に売らざること及び此際義挾的に廉売を嘆願し、之を聞かざれば家を焼払ひ、一家を鏖殺すべしと脅迫し、事態頻る穏かならず。斯くと聞き東水橋警察署より巡査数名を出動させ、必死となりて解散を命じたるに、漸く午後十一時頃より解散せるも、一部の女達は米屋の附近を徘徊し米を他に売るを警戒し居れり。」

・「大阪毎日新聞」1918年(大正7)8月5日付
「高岡市内の十石以上米所有者の二日正午迄に届出たるもの六百七十八石にして三日締切り間際には三千石に達する見込みなるが案外在石の少きに当局も驚き居れり一方市内の米小売業者の少数の除き其大多数は持米の欠乏甚だしく売渡しを差し留め居るものあり四日以後は全く底ざらいとなるべし、一日来市内袋町平野五兵衛(多額納税者)が千三百石を所有せるより当業者一同平野方に詰め掛け売渡しを迫りつつあるも応ぜず憤慨の余り高岡警察に出頭平野に説諭を懇請し居れるが此の儘応ぜざれば由々敷大事発生せんとするやも知れず(高岡来電)」
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 今日は、昭和時代中期の1953年(昭和28)に、「離島振興法」が公布・施行された日です。
 当時は、10年間の時限立法として制定公布・施行され、時々の状況に合わせて何度か改正されていて、現時点では、2023年(平成35)3月31日まで延長されました。
 この法律は、「離島について、人の往来及び生活に必要な物資等の輸送に要する費用が他の地域に比較して多額である状況を改善するとともに、産業基盤及び生活環境等に関する地域格差の是正を図り、並びにその地理的及び自然的特性を生かした振興を図るため、離島の振興に関し、基本理念を定め、及び国の責務を明らかにし、地域における創意工夫を生かしつつ、その基礎条件の改善及び産業振興等に関する対策を樹立し、これに基づく事業を迅速かつ強力に実施する等離島の振興のための特別の措置を講ずることによつて、離島の自立的発展を促進し、島民の生活の安定及び福祉の向上を図るとともに、地域間の交流を促進し、もつて居住する者のない離島の増加及び離島における人口の著しい減少の防止並びに離島における定住の促進を図り、あわせて国民経済の発展及び国民の利益の増進に寄与することを目的とする。」(第1条)とした法律です。
 首相による離島振興対策実施地域の指定、首相・知事による電力・水道・道路・漁港・教育・厚生等の振興計画の作成、事業の実施および助成方法等が規定されました。
 2017年4月1日時点での有人指定離島の合計は、70市31町11村の78地域、258島になりますが、この法律以外でも、「小笠原諸島振興開発特別措置法」に指定されている2島、「奄美群島振興開発特別措置法」に指定されている8島、「沖縄振興特別措置法」に指定されている39島の計49の有人離島が国の振興対象となっています。

〇「離島振興法」の有人指定離島の一覧(2017年4月1日現在)

<北海道>
・礼文島(礼文町)
・利尻島(利尻町、利尻富士町)
・天売島(羽幌町)
・焼尻島(羽幌町)
・奥尻島(奥尻町)
・小島(厚岸町)
<宮城県>
・大島(気仙沼市)
・ 出島(女川町)、
・江島(女川町)
・網地島(石巻市)
・田代島(石巻市)
・寒風沢島(塩竈市)
・野々島(塩竈市)
・桂島(塩竈市)
・朴島(塩竈市)
<山形県>
・飛島(酒田市)
<東京都>
・大島(大島町)
・利島(利島村)
・新島(新島村)
・式根島(新島村)
・神津島(神津島村)
・三宅島(三宅村)
・御蔵島(御蔵島村)
・八丈島(八丈町)
・青ヶ島(青ヶ島村)
<新潟県>
・粟島(粟島浦村)
・佐渡島(佐渡市)
<石川県>
・舳倉島(輪島市)
<静岡県>
・初島(熱海市)
<愛知県>
・佐久島(西尾市)
・日間賀島(南知多町)
・篠島(南知多町)
<三重県>
・神島(西尾市)
・答志島(鳥羽市)
・菅島(鳥羽市)
・坂手島(鳥羽市)
・渡鹿野島(志摩市)
・間崎島(志摩市)
<滋賀県>
・沖島(近江八幡市)
<兵庫県>
・沼島(南淡路市)
・男鹿島(姫路市)
・家島(姫路市)
・坊勢島(姫路市)
・西島(姫路市)
<島根県>
・島後(隠岐の島町)
・中ノ島(海士町)
・西ノ島(西ノ島町)
・知夫里島(知夫村)
<岡山県>
・大多府島(備前市)
・鴻島(備前市)
・犬島(岡山市東区)
・石島(玉野市)
・松島(倉敷市)
・六口島(倉敷市)
・高島(笠岡市)
・白石島(笠岡市)
・北木島(笠岡市)
・真鍋島(笠岡市)
・小飛島(笠岡市)
・大飛島(笠岡市)
・六島(笠岡市)
・前島(瀬戸内市)
<広島県>
・走島(福山市)
・百島(尾道市)
・細島(尾道市)
・佐木島(三原市)
・小佐木島(三原市)
・生野島(大崎上島町)
・大崎上島(大崎上島町)
・長島(大崎上島町)
・三角島(呉市)
・斎島(呉市)
・情島(呉市)
・阿多田島(大竹市)
・似島(広島市南区)
<山口県>
・端島(岩国市)
・柱島(岩国市)
・黒島(岩国市)
・情島(周防大島町)
・浮島(周防大島町)
・前島(周防大島町)
・笠佐島(周防大島町)
・平郡島(柳井市)
・馬島(田布施町)
・佐合島(平生町)
・祝島(上関町)
・八島(上関町)
・牛島(光市)
・大津島(周南市)
・野島(防府市)
・蓋井島(下関市)
・六連島(下関市)
・見島(萩市)
・大島(萩市)
・櫃島(萩市)
・相島(萩市)
<徳島県>
・伊島(阿南市)
・出羽島(牟岐町)
<香川県>
・直島(直島町)
・屏風島(直島町)
・向島(直島町)
・男木島(高松市)
・女木島(高松市)
・大島(高松市)
・櫃石島(坂出市)
・岩黒島(坂出市)
・与島(坂出市)
・小与島(坂出市)
・本島(丸亀市)
・牛島(丸亀市)
・広島(丸亀市)
・手島(丸亀市)
・小手島(丸亀市)
・佐柳島(多度津町)
・高見島(多度津町)
・粟島(三豊市)
・志々島(三豊市)
・伊吹島(観音寺市)
・小豆島(小豆島町、土庄町)
・沖之島(土庄町)
・小豊島(土庄町)
・豊島(土庄町)
<愛媛県>
・高井神島(上島町)
・魚島(上島町)
・弓削島(上島町)
・佐島(上島町)
・生名島(上島町)
・岩城島(上島町)
・赤穂根島(上島町)
・鵜島(今治市)
・津島(今治市)
・大下島(今治市)
・小大下島(今治市)
・小島(今治市)
・来島(今治市)
・馬島(今治市)
・比岐島(今治市)
・大島(新居浜市)
・野忽那島(松山市)
・睦月島(松山市)
・中島(松山市)
・怒和島(松山市)
・津和地島(松山市)
・二神島(松山市)
・釣島(松山市)
・安居島(松山市)
・興居島(松山市)
・青島(大洲市)
・大島(八幡浜市)
・九島(宇和島市)
・嘉島(宇和島市)
・戸島(宇和島市)
・日振島(宇和島市)
・竹ヶ島(宇和島市)
<高知県>
・沖の島(宿毛市)
・鵜来島(宿毛市)
<福岡県>
・馬島(北九州市小倉北区)
・藍島(北九州市小倉北区)
・地島(宗像市)
・大島(宗像市)
・相島(新宮町)
・玄界島(福岡市西区)
・小呂島(福岡市西区)
・姫島(糸島市)
<佐賀県>
・高島(唐津市)
・神集島(唐津市)
・小川島(唐津市)
・加唐島(唐津市)
・松島(唐津市)
・馬渡島(唐津市)
・向島(唐津市)
<長崎県>
・対馬島(対馬市)
・海栗島(対馬市)
・泊島(対馬市)
・赤島(対馬市)
・沖ノ島(対馬市)
・島山島(対馬市)
・壱岐島(壱岐市)
・若宮島(壱岐市)
・原島(壱岐市)
・長島(壱岐市)
・大島(壱岐市)
・黒島(松浦市)
・青島(松浦市)
・飛島(松浦市)
・大島(平戸市)
・度島(平戸市)
・高島(平戸市)
・宇久島(佐世保市)
・寺島(佐世保市)
・高島(佐世保市)
・黒島(佐世保市)
・六島(小値賀町)
・野崎島(小値賀町)
・納島(小値賀町)
・小値賀島(小値賀町)
・黒島(小値賀町)
・大島(小値賀町)
・斑島(小値賀町)
・中通島(新上五島町)
・頭ヶ島(新上五島町)
・桐ノ小島(新上五島町)
・若松島(新上五島町)
・日ノ島(新上五島町)
・有福島(新上五島町)
・漁生浦島
・奈留島(五島市)
・前島(五島市)
・久賀島(五島市)
・蕨小島(五島市)
・椛島(五島市)
・福江島(五島市)
・赤島(五島市)
・黄島(五島市)
・黒島(五島市)
・島山島(五島市)
・嵯峨島(五島市)
・江島(西海市)
・平島(西海市)
・松島(西海市)
・池島(長崎市)
・高島(長崎市)
<熊本県>
・湯島(上天草市)
・中島(上天草市)
・横浦島(天草市)
・牧島(天草市)
・御所浦島(天草市)
・横島(天草市)
<大分県>
・姫島(姫島村)
・地無垢島(津久見市)
・保戸島(津久見市)
・大入島(佐伯市)
・大島(佐伯市)
・屋形島(佐伯市)
・深島(佐伯市)
<宮崎県>
・島野浦島(延岡市)
・大島(日南市)
・築島(串間市)
<鹿児島県>
・獅子島(長島町)
・桂島(出水市)
・上甑島(薩摩川内市)
・中甑島(薩摩川内市)
・下甑島(薩摩川内市)
・新島(鹿児島市)
・種子島(西之表市、中種子町、南種子町)
・馬毛島(西之表市)
・屋久島(屋久島町)
・口永良部島(屋久島町)
・竹島(三島村)
・硫黄島(三島村)
・黒島(三島村)
・口之島(十島村)
・中之島(十島村)
・諏訪之瀬島(十島村)
・平島(十島村)
・悪石島(十島村)
・小宝島(十島村)
・宝島(十島村)

〇「離島振興法」(抄文)

(目的)
第一条  この法律は、我が国の領域、排他的経済水域等の保全、海洋資源の利用、多様な文化の継承、自然環境の保全、自然との触れ合いの場及び機会の提供、食料の安定的な供給等我が国及び国民の利益の保護及び増進に重要な役割を担つている離島が、四方を海等に囲まれ、人口の減少が長期にわたり継続し、かつ、高齢化が急速に進展する等、他の地域に比較して厳しい自然的社会的条件の下にあることに鑑み、離島について、人の往来及び生活に必要な物資等の輸送に要する費用が他の地域に比較して多額である状況を改善するとともに、産業基盤及び生活環境等に関する地域格差の是正を図り、並びにその地理的及び自然的特性を生かした振興を図るため、離島の振興に関し、基本理念を定め、及び国の責務を明らかにし、地域における創意工夫を生かしつつ、その基礎条件の改善及び産業振興等に関する対策を樹立し、これに基づく事業を迅速かつ強力に実施する等離島の振興のための特別の措置を講ずることによつて、離島の自立的発展を促進し、島民の生活の安定及び福祉の向上を図るとともに、地域間の交流を促進し、もつて居住する者のない離島の増加及び離島における人口の著しい減少の防止並びに離島における定住の促進を図り、あわせて国民経済の発展及び国民の利益の増進に寄与することを目的とする。

(基本理念及び国の責務)
第一条の二  離島の振興のための施策は、離島が我が国の領域、排他的経済水域等の保全、海洋資源の利用、多様な文化の継承、自然環境の保全、自然との触れ合いの場及び機会の提供、食料の安定的な供給等我が国及び国民の利益の保護及び増進に重要な役割を担つていることに鑑み、その役割が十分に発揮されるよう、厳しい自然的社会的条件を改善し、地域間の交流の促進、居住する者のない離島の増加及び離島における人口の著しい減少の防止並びに離島における定住の促進が図られることを旨として講ぜられなければならない。
2  国は、前項の基本理念にのつとり、離島の振興のため必要な施策を総合的かつ積極的に策定し、及び実施する責務を有する。

(指定)
第二条  主務大臣は、国土審議会の意見を聴いて、第一条の目的を達成するために必要と認める離島の地域の全部又は一部を、離島振興対策実施地域として指定する。
2  主務大臣は、前項の指定をした場合においては、その旨を公示しなければならない。

(離島振興基本方針)
第三条  主務大臣は、離島振興対策実施地域の振興を図るため、離島振興基本方針を定めるものとする。
2  離島振興基本方針は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一  離島の振興の意義及び方向に関する事項
二  本土と離島及び離島と離島並びに離島内の交通通信を確保するための航路、航空路、港湾、空港、道路等の交通施設及び通信施設の整備、人の往来及び物資の流通(廃棄物の運搬を含む。以下同じ。)に要する費用の低廉化その他の必要な措置に関する基本的な事項
三  農林水産業、商工業等の産業の振興及び資源開発を促進するための漁港、林道、農地、電力施設等の整備その他の必要な措置に関する基本的な事項
四  雇用機会の拡充、職業能力の開発その他の就業の促進に関する基本的な事項
五  生活環境の整備(廃棄物の減量その他その適正な処理を含む。以下同じ。)に関する基本的な事項
六  医療の確保等(妊婦が健康診査を受診し、及び出産に必要な医療を受ける機会を確保するための支援を含む。以下同じ。)に関する基本的な事項
七  介護サービスの確保等に関する基本的な事項
八  高齢者の福祉その他の福祉の増進に関する基本的な事項
九  教育及び文化の振興(子どもの修学の機会を確保するための支援を含む。以下同じ。)に関する基本的な事項
十  観光の開発に関する基本的な事項
十一  国内及び国外の地域との交流の促進に関する基本的な事項
十二  自然環境の保全及び再生に関する基本的な事項
十三  再生可能エネルギーの利用その他のエネルギー対策に関する基本的な事項
十四  水害、風害、地震災害(地震に伴い発生する津波等により生ずる被害を含む。以下同じ。)その他の災害を防除するために必要な国土保全施設等の整備その他の防災対策に関する基本的な事項
十五  離島の振興に寄与する人材の確保及び育成に関する基本的な事項
十六  前各号に掲げるもののほか、離島の振興に関する基本的な事項
3  主務大臣は、離島振興基本方針を定めようとするときは、関係行政機関の長に協議するとともに、国土審議会の意見を聴かなければならない。
4  主務大臣は、離島振興基本方針を定めたときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。
5  前二項の規定は、離島振興基本方針の変更について準用する。

(離島振興計画)
第四条  第二条第一項の規定により離島振興対策実施地域の指定があつた場合においては、関係都道府県は、離島振興基本方針に基づき、当該地域について離島振興計画を定めるよう努めるものとする。
2  離島振興計画は、おおむね次に掲げる事項について定めるものとする。
一  離島の振興の基本的方針に関する事項
二  本土と離島及び離島と離島並びに離島内の交通通信を確保するための航路、航空路、港湾、空港、道路等の交通施設及び通信施設の整備、人の往来及び物資の流通に要する費用の低廉化その他の必要な措置に関する事項
三  農林水産業、商工業等の産業の振興及び資源開発を促進するための漁港、林道、農地、電力施設等の整備その他の必要な措置に関する事項
四  雇用機会の拡充、職業能力の開発その他の就業の促進に関する事項
五  生活環境の整備に関する事項
六  医療の確保等に関する事項
七  介護サービスの確保等に関する事項
八  高齢者の福祉その他の福祉の増進に関する事項
九  教育及び文化の振興に関する事項
十  観光の開発に関する事項
十一  国内及び国外の地域との交流の促進に関する事項
十二  自然環境の保全及び再生に関する事項
十三  再生可能エネルギーの利用その他のエネルギー対策に関する事項
十四  水害、風害、地震災害その他の災害を防除するために必要な国土保全施設等の整備その他の防災対策に関する事項
十五  離島の振興に寄与する人材の確保及び育成に関する事項
十六  前各号に掲げるもののほか、離島振興対策実施地域の振興に関し必要な事項
3  都道府県は、離島振興対策実施地域について離島振興計画を定めようとするときは、あらかじめ、その全部又は一部の区域が当該地域である市町村(次項の規定による要請があつた場合における当該要請をした市町村を除く。以下この項において同じ。)に対し、当該市町村に係る離島振興計画の案を作成し、当該都道府県に提出するよう求めなければならない。この場合において、一の離島振興対策実施地域が二以上の市町村の区域にわたるときは、当該市町村は、共同して、離島振興計画の案を作成し、及び提出することができる。
4  その全部又は一部の区域が一の離島振興対策実施地域である市町村は、当該地域に係る離島振興計画が定められていない場合には、単独で又は共同して、都道府県に対し、当該地域について離島振興計画を定めることを要請することができる。この場合においては、当該市町村に係る離島振興計画の案を添えなければならない。
5  前項の規定による要請があつたときは、都道府県は、速やかに、当該要請に係る離島振興対策実施地域について離島振興計画を定めなければならない。
6  市町村は、第三項又は第四項の案を作成しようとするときは、あらかじめ、その離島振興対策実施地域の住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。
7  第三項又は第四項の案の提出を受けた都道府県は、離島振興計画を定めるに当たつては、当該案の内容をできる限り反映させるよう努めるものとする。
8  都道府県は、離島振興計画を定めたときは、直ちに、これを主務大臣に提出するとともに、その内容を関係市町村に通知しなければならない。
9  主務大臣は、前項の規定により離島振興計画の提出があつた場合においては、直ちに、その内容を関係行政機関の長に通知しなければならない。この場合において、関係行政機関の長は、当該離島振興計画についてその意見を主務大臣に申し出ることができる。
10  主務大臣は、第八項の規定により提出された離島振興計画が離島振興基本方針に適合していないと認めるときは、当該都道府県に対し、これを変更すべきことを求めることができる。
11  主務大臣は、第八項の規定により提出された離島振興計画について前項の規定による措置を執る必要がないと認めるときは、その旨を当該都道府県に通知しなければならない。
12  第三項、第四項及び第六項から前項までの規定は、離島振興計画の変更について準用する。

(事業の実施)
第五条  離島振興計画に基づく事業は、この法律に定めるもののほか、当該事業に関する法律(これに基づく命令を含む。)の規定に従い、国、地方公共団体その他の者が実施するものとする。

(財政上の措置等)
第六条  国は、第一条の二第一項に定める基本理念にのつとり、毎年度、予算で定めるところにより、離島振興計画の円滑な実施その他の離島振興対策実施地域の振興に必要な財政上の措置その他の措置を講ずるものとする。
2  国は、離島振興計画に基づく公共事業の実施に要する経費について予算に計上するに当たつては、離島振興計画の実施に係る予算の明確化について特別の配慮をしなければならない。
3  地方公共団体は、離島振興計画に基づく公共事業の実施に要する経費について予算に計上するに当たつては、離島振興計画の実施に係る予算の明確化について特別の配慮をするよう努めなければならない。

(国の負担又は補助の割合の特例等)
第七条  離島振興計画に基づく事業のうち別表に掲げるものに要する費用について国が負担し又は補助する割合は、当該事業に関する法令の規定にかかわらず、同表に掲げる割合とする。
2  国は、離島振興計画に基づく事業のうち、別表に掲げるものに要する経費に充てるため政令で定める交付金を交付する場合においては、政令で定めるところにより、当該経費について前項の規定を適用したとするならば国が負担し、又は補助することとなる割合を参酌して、当該交付金の額を算定するものとする。
3  第一項の場合において、地方交付税法 (昭和二十五年法律第二百十一号)第十条 に規定する普通交付税の交付を受けない地方公共団体については、別表で定める国庫の負担割合及び補助割合を減ずることができる。ただし、同表に掲げる法律に規定する国庫の負担割合又は補助割合を下ることはできない。
4  離島振興対策実施地域における災害復旧事業については、公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法 (昭和二十六年法律第九十七号)第三条 の規定により地方公共団体に対して国がその費用の一部を負担する場合における当該災害復旧事業費に対する国の負担率は、同法第四条 の規定によつて算定した率が五分の四に満たない場合においては、同条 の規定にかかわらず、五分の四とし、公立学校施設災害復旧費国庫負担法 (昭和二十八年法律第二百四十七号)第三条 の規定により国がその経費の一部を負担する場合における当該公立学校の施設の災害復旧に要する経費に対する国の負担率は、同条 の規定にかかわらず、五分の四とする。
5  国は、離島振興計画に基づき簡易水道の用に供する水道施設の新設又は増設をする地方公共団体に対し、予算の範囲内において、政令の定めるところにより、その新設又は増設に要する費用の二分の一以内を補助することができる。
6  政府は、別表に掲げる費用以外の費用についても、これに対し国が補助する割合及び対象を定める政令がある場合においては、第一項の規定に準じ当該政令の特例を設けるものとする。
7  国は、義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律 (昭和三十三年法律第八十一号)第十二条第一項 の規定により地方公共団体に対して交付金を交付する場合において、当該地方公共団体が同条第二項 の規定により作成した施設整備計画に記載された改築等事業(同法第十一条第一項 に規定する「改築等事業」をいう。)として、離島振興計画に基づく次に掲げる事業がある場合においては、当該事業に要する費用の十分の五・五を下回らない額の交付金が充当されるように算定するものとする。
一  公立の小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校の前期課程又は公立の特別支援学校(視覚障害者又は聴覚障害者である児童又は生徒に対する教育を主として行うものに限る。別表(五)において同じ。)の小学部若しくは中学部に勤務する教員又は職員のための住宅の建築(買収その他これに準ずる方法による取得を含む。)をすること。
二  体育、音楽等の学校教育及び社会教育の用に供するための施設を公立の小学校、中学校若しくは義務教育学校又は中等教育学校の前期課程に設けること。

(離島活性化交付金等事業計画の作成)
第七条の二  都道府県は、離島振興計画に基づく事業又は事務(以下「事業等」という。)のうち、離島振興対策実施地域の活性化に資する事業等(その全部又は一部の区域が離島振興対策実施地域である市町村その他の者(以下「離島関係市町村等」という。)が実施する離島振興対策実施地域の活性化に資する事業等を含む。)を実施するための計画(以下「離島活性化交付金等事業計画」という。)を作成することができる。
2  離島活性化交付金等事業計画には、次に掲げる事項を記載するものとする。
一  離島振興対策実施地域の活性化に資する事業等で政令で定めるものに関する事項
二  計画期間
3  離島活性化交付金等事業計画には、前項に掲げる事項のほか、次に掲げる事項を記載するよう努めるものとする。
一  離島活性化交付金等事業計画の目標
二  その他主務省令で定める事項
4  都道府県は、離島活性化交付金等事業計画を作成しようとするときは、あらかじめ、離島関係市町村等の意見を聴くよう努めるものとする。
5  都道府県は、離島活性化交付金等事業計画に離島関係市町村等が実施する事業等に係る事項を記載しようとするときは、当該事項について、あらかじめ、当該離島関係市町村等の同意を得なければならない。
6  前二項の規定は、離島活性化交付金等事業計画の変更について準用する。

(交付金等の交付等)
第七条の三  都道府県又は離島関係市町村等が次項の交付金等を充てて離島活性化交付金等事業計画に基づく事業等の実施をしようとするときは、当該都道府県は、当該離島活性化交付金等事業計画をそれぞれの事業等を所管する大臣(以下「事業等所管大臣」という。)に提出しなければならない。
2  国は、前項の都道府県又は離島関係市町村等に対し、同項の規定により提出された離島活性化交付金等事業計画に基づく事業等の実施に要する経費に充てるため、予算の範囲内で、それぞれの事業等ごとに、交付金又は補助金(以下「交付金等」という。)の交付を行うことができる。
3  前二項に定めるもののほか、交付金等の交付に関し必要な事項は、主務省令で定める。

(離島振興対策実施地域の活性化に資する事業等の公表)
第七条の四  国は、毎年度、離島活性化交付金等事業計画に記載された事業等及びその他の離島振興対策実施地域の活性化に資する事業等として政令で定めるもので当該年度に実施するものについて、その内容を取りまとめ、公表するものとする。

(地方債についての配慮)
第八条  地方公共団体が離島振興計画を達成するために行う事業に要する経費に充てるために起こす地方債については、法令の範囲内において、資金事情及び当該地方公共団体の財政状況が許す限り、特別の配慮をするものとする。

(資金の確保等)
第九条  国及び地方公共団体は、離島振興計画の達成に資すると認められる事業を営む者に対し、必要な資金の確保その他の援助に努めなければならない。

(医療の確保等)
第十条  都道府県は、離島振興対策実施地域における医療を確保するため、離島振興計画に基づいて、無医地区に関し次に掲げる事業を実施しなければならない。
一  診療所の設置
二  患者輸送車(患者輸送艇を含む。)の整備
三  定期的な巡回診療
四  保健師による保健指導等の活動
五  医療機関の協力体制(救急医療用の機器を装備したヘリコプター等により患者を輸送し、かつ、患者の輸送中に医療を行う体制を含む。以下同じ。)の整備
六  その他無医地区の医療の確保に必要な事業
2  都道府県は、前項に規定する事業を実施する場合において特に必要があると認めるときは、病院又は診療所の開設者又は管理者に対し、次に掲げる事業につき、協力を要請することができる。
一  医師又は歯科医師の派遣
二  巡回診療車(巡回診療船を含む。)による巡回診療
3  国及び都道府県は、離島振興対策実施地域内の無医地区における診療に従事する医師若しくは歯科医師又はこれを補助する看護師(以下「医師等」という。)の確保その他当該無医地区における医療の確保(当該診療に従事する医師又は歯科医師を派遣する病院に対する助成を含む。)に努めなければならない。
4  都道府県は、第一項及び第二項に規定する事業の実施に要する費用を負担する。
5  国は、前項の費用のうち第一項第一号から第三号までに掲げる事業及び第二項に規定する事業に係るものについて、政令の定めるところにより、その二分の一を補助するものとする。
6  国及び都道府県は、離島振興対策実施地域における医療を確保するため、市町村が離島振興計画に基づいて第一項各号に掲げる事業を実施しようとするときは、当該事業が円滑に実施されるよう適切な配慮をするものとする。
7  国及び地方公共団体は、離島振興対策実施地域に居住する妊婦が健康診査を受診し、及び出産に必要な医療を受ける機会を確保するため、妊婦が居住する離島に妊婦の健康診査又は出産に係る保健医療サービスを提供する病院、診療所等が設置されていないことにより当該離島の区域外の病院、診療所等に健康診査の受診又は出産のために必要な通院又は入院をしなければならない場合における当該通院又は入院に対する支援について適切な配慮をするものとする。
8  都道府県は、医療法 (昭和二十三年法律第二百五号)第三十条の四第一項 に規定する医療計画を作成するに当たつては、離島振興対策実施地域における医療の特殊事情に鑑み、当該地域において医師等の確保、病床の確保等により必要な医療が確保されるよう適切な配慮をするものとする。
9  前各項に定めるもののほか、国及び地方公共団体は、離島振興対策実施地域において、必要な医師等の確保、定期的な巡回診療、医療機関の協力体制の整備等により医療の充実が図られるよう適切な配慮をするものとする。

(介護サービスの確保等)
第十条の二  国及び地方公共団体は、離島振興対策実施地域における介護サービスの確保及び充実を図るため、老人福祉法 (昭和三十八年法律第百三十三号)第五条の二第一項 に規定する老人居宅生活支援事業に係る介護サービスの提供、介護サービスに従事する者の確保、介護施設の整備、提供される介護サービスの内容の充実等について適切な配慮をするものとする。

(高齢者の福祉の増進)
第十一条  国及び地方公共団体は、離島振興対策実施地域における高齢者の福祉の増進を図るため、高齢者の居住の用に供するための施設の整備等について適切な配慮をするものとする。

(保健医療サービス等を受けるための住民負担の軽減)
第十一条の二  国及び地方公共団体は、離島振興対策実施地域における保健医療サービス、介護サービス、高齢者福祉サービス及び保育サービスを受けるための条件の他の地域との格差の是正を図るため、離島振興対策実施地域の住民がこれらのサービスを受けるための住民負担の軽減について適切な配慮をするものとする。

(交通の確保等)
第十二条  国及び地方公共団体は、離島振興対策実施地域における人の往来及び物資の流通に関する条件の他の地域との格差の是正、島民の生活の利便性の向上、産業の振興等を図るため、離島振興対策実施地域に係る海上、航空及び陸上の交通について、総合的かつ安定的な確保及びその充実並びに人の往来及び物資の流通に要する費用の低廉化に資するための施策の充実に特別の配慮をするものとする。

(情報の流通の円滑化及び通信体系の充実)
第十三条  国及び地方公共団体は、離島振興対策実施地域における情報通信技術の利用の機会の他の地域との格差の是正、島民の生活の利便性の向上、産業の振興、医療及び教育の充実等を図るため、情報の流通の円滑化及び高度情報通信ネットワークその他の通信体系の充実について適切な配慮をするものとする。

(農林水産業その他の産業の振興)
第十四条  国及び地方公共団体は、離島振興対策実施地域の特性に即した農林水産業の振興を図るため、生産基盤の強化、地域特産物の開発並びに流通及び消費の増進並びに観光業との連携の推進について適切な配慮をするものとする。
2  国及び地方公共団体は、離島における水産業の重要性に鑑み、離島振興対策実施地域の漁業者がその周辺の海域の漁場において安定的に水産業を営むことができるよう、水産動植物の生育環境の保全及び改善について適切な配慮をするものとする。
3  前二項に規定するもののほか、国及び地方公共団体は、離島振興対策実施地域の特性に即した産業の振興を図るため、生産性の向上、産業の振興に寄与する人材の育成及び確保、起業を志望する者に対する支援、先端的な技術の導入並びに他の産業との連携の推進について適切な配慮をするものとする。

(就業の促進)
第十四条の二  国及び地方公共団体は、離島振興対策実施地域の住民及び離島振興対策実施地域へ移住しようとする者の離島振興対策実施地域における就業の促進を図るため、良好な雇用機会の拡充並びに実践的な職業能力の開発及び向上のための施策の充実について適切な配慮をするものとする。

(生活環境の整備)
第十四条の三  国及び地方公共団体は、離島振興対策実施地域における定住の促進に資するため、住宅及び水の確保、汚水及び廃棄物の処理その他の快適な生活環境の確保を図るための施策の充実について適切な配慮をするものとする。

(教育の充実)
第十五条  国及び地方公共団体は、離島振興対策実施地域における教育の特殊事情に鑑み、子どもの修学の機会の確保に資するため、離島の区域(当該離島の区域が二以上の市町村の区域にわたる場合にあつては、当該離島のうち一の市町村の区域に属する区域。以下この項において同じ。)内に高等学校、中等教育学校の後期課程その他これらに準ずる教育施設(以下「高等学校等」という。)が設置されていないことにより当該離島の区域内から当該離島の区域外に所在する高等学校等へ通学する場合又は当該離島の区域外に居住して当該高等学校等へ通学する場合における当該通学又は居住に対する支援について適切な配慮をするものとする。
2  国及び地方公共団体は、離島振興対策実施地域における教育の特殊事情に鑑み、公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律 (昭和三十六年法律第百八十八号)の規定による公立高等学校等を設置する地方公共団体ごとの教員及び職員の定員の算定並びに離島振興対策実施地域に所在する公立の高等学校等に勤務する教員及び職員の定員の決定について特別の配慮をするものとする。
3  前二項に定めるもののほか、国及び地方公共団体は、離島振興対策実施地域において、その教育の特殊事情に鑑み、学校教育及び社会教育の充実に努めるとともに、地域社会の特性に応じた生涯学習の振興に資するための施策の充実について適切な配慮をするものとする。

(地域文化の振興)
第十六条  国及び地方公共団体は、離島振興対策実施地域において伝承されてきた多様な文化的所産の保存及び活用並びに担い手の育成について適切な措置が講ぜられるよう努めるとともに、地域における文化の振興について適切な配慮をするものとする。

(観光の振興及び地域間交流の促進)
第十七条  国及び地方公共団体は、離島には優れた自然の風景地が存すること、国外の地域と近接していること等の特性があることに鑑み、国民の離島に対する理解と関心を深め、離島と他の地域との間の交流を拡大するとともに、離島振興対策実施地域の活性化に資するため、離島振興対策実施地域における観光の振興並びに離島振興対策実施地域と国内及び国外の地域との交流の促進について適切な配慮をするものとする。

(自然環境の保全及び再生)
第十七条の二  国及び地方公共団体は、離島振興対策実施地域及びその周辺の海域における自然環境の保全及び再生に資するため、海岸漂着物等の処理並びに生態系に係る被害を及ぼすおそれのある外来生物及び伝染病の防除及び防疫その他の生態系の維持又は回復について適切な配慮をするものとする。

(エネルギー対策の推進)
第十七条の三  国及び地方公共団体は、離島振興対策実施地域において、その自然的特性を生かしたエネルギーを利用することが、その経済的社会的環境に応じたエネルギーの安定的かつ適切な供給の確保及びエネルギーの供給に係る環境への負荷の低減を図る上で重要であることに鑑み、再生可能エネルギーの利用の推進について適切な配慮をするものとする。
2  前項に規定するもののほか、国及び地方公共団体は、離島振興対策実施地域におけるエネルギーの利用に関する条件の他の地域との格差の是正、島民の生活の利便性の向上、産業の振興等を図るため、離島振興対策実施地域における石油製品の価格の低廉化その他のエネルギーに関する対策の推進について適切な配慮をするものとする。

(防災対策の推進)
第十七条の四  国及び地方公共団体は、離島が四方を海等に囲まれている等厳しい自然条件の下にあることを踏まえ、災害を防除し、及び災害が発生した場合において島民が孤立することを防止するため、離島振興対策実施地域において、国土保全施設、避難施設、備蓄倉庫、防災行政無線設備、人工衛星を利用した通信設備その他の施設及び設備の整備、防災のための住居の集団的移転の促進、防災上必要な教育及び訓練の実施、被災者の救難、救助その他の保護を迅速かつ的確に実施するための体制の整備及び関係行政機関の連携の強化その他の防災対策の推進について適切な配慮をするものとする。

(農地法 等における配慮)
第十八条  国の行政機関の長又は都道府県は、離島振興対策実施地域における農地法 (昭和二十七年法律第二百二十九号)、自然公園法 (昭和三十二年法律第百六十一号)その他の法律の規定の運用に当たつては、離島振興計画に基づく事業の円滑な実施が図られるよう適切な配慮をするものとする。

(離島特別区域制度の整備)
第十八条の二  政府は、地域における創意工夫を生かした離島の振興を図るため、その全部又は一部の区域が離島振興対策実施地域である地方公共団体の申出により当該離島振興対策実施地域内に区域を限つて規制の特例措置その他の特別措置を適用する制度の創設について総合的に検討を加え、必要な措置を講ずるものとする。

(税制上の措置等)
第十九条  国は、離島について、人の往来及び生活に必要な物資等の輸送に要する費用が他の地域に比較して多額である状況を改善するとともに、産業基盤及び生活環境等に関する地域格差の是正を図り、並びにその地理的及び自然的特性を生かした振興を図るため、離島の振興のための特別の措置を講ずることによつて、離島の自立的発展を促進し、島民の生活の安定及び福祉の向上を図るとともに、地域間の交流を促進し、もつて居住する者のない離島の増加及び離島における人口の著しい減少の防止並びに離島における定住の促進を図ること等としている第一条の目的の達成に資するため、租税特別措置法 (昭和三十二年法律第二十六号)等の定めるところにより、離島振興対策実施地域の振興に必要な税制上の措置その他の措置を講ずるものとする。

(地方税の課税免除又は不均一課税に伴う措置)
第二十条  地方税法 (昭和二十五年法律第二百二十六号)第六条 の規定により、地方公共団体が、離島振興対策実施地域内において製造の事業、旅館業(下宿営業を除く。)、情報サービス業その他総務省令で定める事業の用に供する設備を新設し、若しくは増設した者について、その事業に対する事業税、その事業に係る建物若しくはその敷地である土地の取得に対する不動産取得税若しくはその事業に係る機械及び装置若しくはその事業に係る建物若しくはその敷地である土地に対する固定資産税を課さなかつた場合若しくは離島振興対策実施地域内において畜産業、水産業若しくは薪炭製造業を行う個人について、その事業に対する事業税を課さなかつた場合又はこれらの者について、これらの地方税に係る不均一の課税をした場合において、これらの措置が総務省令で定める場合に該当するものと認められるときは、地方交付税法第十四条 の規定による当該地方公共団体の各年度における基準財政収入額は、同条 の規定にかかわらず、当該地方公共団体の当該各年度分の減収額(事業税又は固定資産税に関するこれらの措置による減収額にあつては、これらの措置がされた最初の年度以降三箇年度(個人の行う畜産業、水産業及び薪炭製造業に対するものにあつては、総務省令で定める期間に係る年度)におけるものに限る。)のうち総務省令で定めるところにより算定した額を同条 の規定による当該地方公共団体の当該各年度(これらの措置が総務省令で定める日以後において行われたときは、当該減収額について当該各年度の翌年度)における基準財政収入額となるべき額から控除した額とする。

(国土審議会)
第二十一条  国土審議会は、離島振興に関する重要事項を調査審議する。
2  国土審議会は、前項に規定する事項につき、関係行政機関の長に対し意見を申し出ることができる。

(国土審議会への報告)
第二十一条の二  主務大臣は、毎年、離島の振興に関して講じた施策について、国土審議会に報告するものとする。

(主務大臣等)
第二十一条の三  第二条及び前条における主務大臣は、国土交通大臣、総務大臣及び農林水産大臣とする。
2  第三条第一項、第三項及び第四項(同条第五項において準用する場合を含む。)における主務大臣は、離島振興基本方針のうち、同条第二項第三号及び第十五号に掲げる事項に係る部分については国土交通大臣、総務大臣、農林水産大臣及び経済産業大臣、同項第四号及び第六号から第八号までに掲げる事項に係る部分については国土交通大臣、総務大臣、農林水産大臣及び厚生労働大臣、同項第五号及び第十二号に掲げる事項に係る部分については国土交通大臣、総務大臣、農林水産大臣及び環境大臣、同項第九号に掲げる事項に係る部分については国土交通大臣、総務大臣、農林水産大臣及び文部科学大臣、同項第十三号に掲げる事項に係る部分については国土交通大臣、総務大臣、農林水産大臣、経済産業大臣及び環境大臣とし、その他の部分については国土交通大臣、総務大臣及び農林水産大臣とする。
3  第四条第八項から第十一項まで(同条第十二項において準用する場合を含む。)における主務大臣は、国土交通大臣、総務大臣、農林水産大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣、経済産業大臣及び環境大臣とする。
4  第七条の二第三項第二号における主務省令は、前項に規定する主務大臣の共同で発する命令とする。
5  第七条の三第三項における主務省令は、事業等所管大臣の発する命令とする。

(政令への委任)
第二十二条  この法律の実施のための手続その他必要な事項は、政令で定める。

(以下略)

                 「法令全書」より
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