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 今日は、昭和時代中期の連合国軍占領下、1946年(昭和21)に、連合国最高司令官に対して、「アメリカ教育使節団第一次報告書」が提出された日です。 
 「アメリカ教育使節団第一次報告書」(アメリカきょういくしせつだんだいいつじほうこくしょ)は、占領下日本の教育再建のため、連合国最高司令部(GHQ)の要請に基づいて、アメリカ政府から派遣された第一次使節団の報告書でした。1946年(昭和21)3月5日と7日に分けて、アメリカのG. D.ストッダードを団長とした27名が来日し、日本の教育事情を調査研究したのち、3月30日に連合国最高司令官に第一次報告書を提出し、4月7日に連合国最高司令部(GHQ)から全文が公表されています。
 その報告書序論で、「教師の最善の能力は、自由の空気のなかにおいてのみ十分に現される。この空気をつくりだすことが行政官の仕事なのであって、その反対の空気をつくることではない。子供のもつ測り知れない資質は、自由主義という日光の下においてのみ豊かな実を結ぶものである。」と、アメリカ自由主義の教育理念を中心に据え、教育の近代化についての諸提案を行ないました。その内容は、6年制小学校と3年制下級中等学校における9か年の無月謝制義務教育および男女共学制、3年制上級中等学校における無月謝制、男女共学制、希望者全員入学制の実現、修身・歴史教科書の改訂、保健体育や職業教育の重視、ローマ字の採用、教育行政制度として地方分権型の公選制教育委員会、教師養成の水準向上、成人教育の充実、高等教育の拡大などとなっています。
 この報告書は、戦前の国家主義教育を批判すると共に、戦後の教育改革の方向を指示し、改革の基本となりました。尚、1950年(昭和25)8月27日に、第2次アメリカ教育使節団5名が来日し、新しい国際情勢に基づいて、9月22日に第二次報告書を提出しています。
 以下に、「アメリカ教育使節団第一次報告書」の構成と要旨を掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「アメリカ教育使節団第一次報告書」

<日本派遣米国教育使節団員>(27名)

・ジョン・N・アンドルウス(John N. Andrews)使節団軍部渉外関係官
・ハロルド・ベンジャミン(Harold Benjamin)連邦教育局事務官。第二次使節団にも参加
・ゴードン・T・ボウルス(Gordon T. Bowles)下院議員
・レオン・カルノフスキー(Leon Carnovsky)シカゴ大学主事
・ウイルソン・コムブトン(Wilson Compton)ワシントン州立大学総長
・ジョージ・S・カウンツ(Geroge S. Counts)コロンビア大学教授、米国教育連盟副会長
・ロイ・J・デフェラリー(Roy J. Deferrari)アメリカカトリック大学(英語版)事務総長
・ジョージ・W・ディーマ(George W. Diemer)ミズーリ州立師範大学長(注:第二次使節団にも参加)
・カーミット・イービー(Kermit Eby)米国産業別組織会議研究教育部長
・フランク・Nフリーマン(Frank N. Freeman)カリフォルニア大学教育学部長
・ヴァージニア・C・ギルダースリーヴ(Virginia C. Gildersleeve)バーナード・カレッジ主席教授
・ウィラード・E・ギヴンス(Willard E. Givens)全国教育連盟書記長(注:第二次使節団団長としても参加)
・アーネスト・R・ヒルガード(Ernest R. Hilgard)スタンフォード大学心理学部長
・フレデリック・G・ホックウォルロ(Frederick G. Hochwalt)全国カトリック教育連盟委員長(注:第二次使節団にも参加)
・ミルドレッド・マカフィー・ホートン(Mildred McAfee Horton)ウェルズリー大学長
・チャールズ・N・ジョンソン(Charles S. Johnson)テネシー州フィスク大学心理学教授
・アイザック・L・カンデル(Issac L. Kandel)コロンビア大学比較教育学教授
・チャールズ・H・マックロイ(Charles H. McCloy)アイオワ大学教育学部長
・E・B・ノートン(E. B. Norton)アラバマ州教育局長
・T・V・スミス(T. V. Smith)シカゴ大学哲学教授・中佐
・ディヴィット・ハリソンステイーヴンス(David Harrison Stevens)ロックフェラー財団慈善部長
・ボール・B・スチュアート(Paul B. Stewart)
・アレクサンダー・J・ストダード(Alexander J. Stoddard)フィラデルフィア督学官
・(団長)ジョージ・J・ストダード(George D. Stoddard, Chm.)イリノイ大学名誉総長、ニューヨーク州教育長官
・W・クラーク・トロウ(W. Clark Trow)ミシガン大学心理学教授
・パール・A・ワナメーカー(Pearl A. Wanamaker) - ワシントン公立学校督学官(注:第二次使節団にも参加)
・エミリー・ウッドワード(Emily Woodward)ジョージア州教育局員

<構成>

・前書き
・序論
・第1章「教育の目的および内容」
・第2章「国語の改革」
・第3章「初等および中等学校の教育行政」
・第4章「教授法と教師養成教育」
・第5章「成人教育」
・第6章「高等教育」
・報告書の摘要
・付録 学校系統図

<要旨>

 ジョージ・D・ストダード博士を団長とする米国教育界代表二十七名より成る米国教育使節団は、本報告の作成に当り日本に本年三月の一か月間滞在し、その間連合国最高司令部民間情報教育部教育課の将校および日本の文部大臣の指名にかかる日本側教育者委員、および日本の学校および各種職域の代表者とも協議をとげたのである。本報告は本使節団の各員の審議を基礎として作製し、ここに連合国最高司令官に提出する次第である。本使節団は占領当初の禁止的指令、例えば帝国主義および国家主義的神道を学校から根絶すべしというが如きものの必要は、十分認めるものではあるが、今回は積極的提案をなすことに主要な重点を置いたのである。
 本使節団はかくすることにより、日本人がみずからその文化のなかに、健全な教育制度再建に必要な諸条件を樹立するための援助をしょうと努めた次第である。
 日本の教育の目的および内容高度に中央集権化された教育制度は、かりにそれが極端な国家主義と軍国主義の網の中に捕えられていないにしても、強固な官僚政治にともなう害悪を受けるおそれがある。教師各自が画一化されることなく適当な指導の下に、それぞれの職務を自由に発展させるためには、地方分権化が必要である。かくするとき教師は初めて、自由な日本国民を作りあげる上に、その役割をはたしうるであろう。この目的のためには、ただ一冊の認定教科書や参考書では得られぬ広い知識と、型通りの試験では試され得ぬ深い知識が、得られなくてはならない。カリキュラムは単に認容された一体の知識だけではなく、学習者の肉体的および精神的活動をも加えて構成されているものである。それには個々の生徒の異たる学習体験および能力の相違が考慮されるのである。それ故にそれは教師をふくめた協力活動によって作成され、生徒の経験を活用しその独創力を発揮させなくてはならないのである。
 日本の教育では独立した地位を占め、かつ従来は服従心の助長に向けられて来た修身は、今までとは異った解釈が下され、自由な国民生活の各分野に行きわたるようにしなくてはならぬ。平等を促す礼儀作法・民主政治の協調精神および日常生活における理想的技術精神、これらは、皆広義の修身である。これらは、民主的学校の各種の計画および諸活動の中に発展させ、かつ実行されなくてはならない。地理および歴史科の教科書は、神話は神話として認め、そうして従前より一そう客観的な見解が教科書や参考書の中に現われるよう、書き直す必要があろう。初級中級学校に対しては地方的資料を従来より一そう多く使用するようにし、上級学校においては優秀なる研究を、種々の方法により助成しなくてはならない。
 保健衛生教育および体育の計画は教育全計画の基礎となるものである。身体検査・栄養および公衆衛生についての教育・体育と娯楽厚生計画を大学程度の学校にまで延長し、また、できるだけ速かに諸設備を取替えるよう勧告する。職業教育はあらゆる水準の学校において強調されるべきものである。よく訓練された職員の指導の下に、各種の職業的経験が要望せられ、同時に工芸、およびその基礎たる技術および理論に重点を置くべきである。技術工および労働者の寄与に対しては、これを社会研究のプログラム中に組み入れ、かつ独創性を発揮する機会が与えられるべきである。
 国語の改革 国字の問題は教育実施上のあらゆる変革にとって基本的なものである。国語の形式のいかなる変更も、国民の中から湧き出てこなければならないものであるが、かような変更に対する刺戟の方は、いかなる方面から与えられても差しつかえない。単に教育計画のためのみならず、将来の日本の青年子弟の発展のためにも、国語改革の重大なる価値を認める人々に対して、激励を与えて差しつかえないのである。何かある形式のローマ字が一般に使用されるよう勧告される次第である。適当なる期間内に、国語に関する総合的な計画を発表する段取にいたるように日本人学者・教育指導者・政治家より成る国語委員会が、早急に設置されるよう提案する次第である。この委員会はいかなる形式のローマ字を採用するかを決定するほか、次の役目を果すことになろう。すなわち
 (一)過渡期における国語改革計画の調整に対する責任をとること。(二)新聞・雑誌・書籍およびその他の文書を通じて、学校および一般社会ならびに国民生活にローマ字を採用するための計画を立てること。(三)口語体の形式をより民主的にするための方策の研究。
 かかる委員会はゆくゆくは国語審議機関に発展する可能性があろう。文字による簡潔にして能率的な伝達方法の必要は十分認められているところで、この重大なる処置を講ずる機会は現在が最適で将来かかる機会はなかなかめぐってこないであろう。言語は交通路であって、障壁であってはならない。この交通路は国際間の相互の理解を増進するため、また知識および思想を伝達するためにその国境を越えた海外にも開かれなくてはならない。
 初等および中等学校の教育行政 教育の民主化の目的のために、学校管理を現在の如く中央集権的なものよりむしろ地方分権的なものにすべきであるという原則は、人の認めるところである。学校における勅語の朗読・御真影の奉拝等の式を挙げることは望ましくない。文部省は本使節団の提案によれば、各種の学校に対し技術的援助および専門的な助言を与えるという重要な任務を負うことになるが、地方の学校に対するその直接の支配力は大いに減少することであろう。市町村および都道府県の住民を広く教育行政に参画させ、学校に対する内務省地方官吏の管理行政を排除するために、市町村および都道府県に一般投票により選出せる教育行政機関の創設を、われわれは提案する次第である。かかる機関には学校の認可・教員の免許状の附与・教科書の選定に関し相当の権限が附与されるであろう。現在はかかる権限は全部中央の文部省ににぎられている。
 課税で維持し、男女共学制を採り、かつ授業料無徴収の学校における義務教育の引上げをなし、修業年限を九か年に延長、換言すれば生徒が十六歳に達するまで教育を施す年限延長改革案をわれわれは提案する。さらに、生徒は最初の六か年は現在と同様小学校において、次の三か年は、現在小学校の卒業児童を入学資格とする各種の学校の合併改変によって創設されるべき「初級中等学校」において、修学することをわれわれは提案する。これらの学校においては、全生徒に対し職業および教育指導をふくむ一般的教育が施されるべきであり、かつ個々の生徒の能力の相違を考慮しうるよう、十分弾力性を持たせなくてはならない。さらに三年制の「上級中等学校」をも設置し、授業料は無徴収、ゆくゆくは男女共学制を採り、初級中等学校よりの進学希望者全部に種々の学習の機会が提供されるようにすべきである。
 初級と上級の中等学校が相伴って、課税により維持されている現在のこの程度の他の諸学校、すなわち小学校高等科・高等女学校・予科・実業学校および青年学校等の果しつつある種々の職能を、継続することになろう。上級中等学校の卒業は、さらに上級の学校への入学条件とされるであろう。本提案によれば、私立諸学校は、生徒が公私立を問わず相互に容易に転校できるようにするため、必要欠くべからざる最低標準に従うことは当然期待されるところであるが、それ以外は、完全な自由を保有することになろう。
 教授法と教師養成教育 新しい教育の目的を達成するためには、つめこみ主義、画一主義および忠孝のような上長への服従に重点を置く教授法は改められ、各自に思考の独立・個性の発展および民主的公民としての権利と責任とを、助長するようにすべきである。例えば、修身の教授は、口頭の教訓によるよりも、むしろ学校および社会の実際の場合における経験から得られる教訓によって行われるべきである。教師の再教育計画は、過渡期における民主主義的教育方法の採用をうながすために、樹立せらるべきである。それがやがて教師の現職教育の一つに発展するよう計画を立てるよう提案する。師範学校は、必要とせられる種類の教師を養成するように、改革されるべきである。師範学校は現在の中学校と同程度の上級中等学校の全課程を修了したるものだけに入学を許し、師範学校予科の現制度は廃止すべきである。現在の高等師範学校とほとんど同等の水準において、再組織された師範学校は四年制となるべきである。この学校では一般教育が続けられ、未来の訓導や教諭に対して十分なる師範教育が授けられるであろう。教員免許状授与をなすその他の教師養成機関においては、公私を問わず新師範学校と同程度の教師養成訓練が、十分に行われなくてはならない。教育行政官および監督官も、教師と同等の師範教育を受け、さらにその与えられるべき任務に適合するような準備教育を受けなくてはならぬ。大学およびその他の高等教育機関は、教師や教育関係官吏がさらに進んだ研究をなしうるような施設を拡充すべきである。それらの学校では、研究の助成と教育指導の実を挙げるべきである。
 成人教育 日本国民の直面する現下の危機において、成人教育は極めて重大な意義を有する。民主主義国家は個々の国民に大なる責任を持たせるからである。学校は成人教育の単なる一機関にすぎないものであるが、両親と教師が一体となった活動により、また成人のための夜学や講座公開により、さらに種々の社会活動に校舎を開放すること等によって、成人教育は助長されるのである。一つの重要な成人教育機関は公立図書館である。大都市には中央公立図書館が多くのその分館とともに設置されるべきで、あらゆる都道府県においても適当な図書館施設の準備をなすべきである。この計画を進めるには文部省内に公立図書館局長を任命するのがよい。科学・芸術および産業博物館も図書館と相まって教育目的に役立つであろう。これに加うるに、社会団体・専門団体・労働組合・政治団体等をふくむあらゆる種類の団体組織が、座談会および討論会の方式を有効に利用するよう、援助しなくてはならない。これらの目的の達成を助長するために、文部省の現在の「成人教育」事務に活を入れ、かつその民主化を計らなくてはならぬ。
 高等教育 日本の自由主義思潮は、第一次世界大戦に続く数年の問に、主として大学専門学校教育を受けた男女によって形成された。高等教育は今や再び自由思想の果敢な探究、および国民のための希望ある行動の、模範を示すべき機会に恵まれている。これらの諸目的を果すために、高等教育は少数者の特権ではなく、多数者のための機会とならなくてはならぬ。
 高等程度の学校における自由主義教育の機会を増大するためには、大学に進む予科学校(高等学校)や専門学校のカリキュラムを相当程度自由主義化し、以て一般的専門教育を、もっと広範囲の人々が受けられるようにすることが望ましいであろう。このことは、あるいは大学における研究を、あるいはまた現在専門学校で与えられるような半職業的水準の専門的訓練を、彼等に受けさせることとなるが、しかしそれは、より広範囲の文化的および社会的重要性を持つ訓練によって一そう充実することとなるであろう。
 専門学校の数を増加するほかに、適当な計画に基いて大学の増設が行われるようわれわれは提案する。高等教育機関の設置や先に規定した諸要件の維持に関する監督には政府機関に責任を持たせるべきである。開校を許可する前に、申請せる高等教育機関の資格審査、および上述の第一要件を満足させているか否かを確認する役目以外には、その政府機関は、高等教育機関に対する統制権を与えられるべきではない。その高等教育機関は、みずから最善と考える方法でその目的を追求するために、あらゆる点において安全な自由を保有しなくてはならない。
 高等教育機関における教授の経済的および学問的自由の確立は、また極めて重要である。この目的達成のため、現在の文官制度の廃止が勧告される次第である。
 学生にとって保証されるべき自由は、その才能に応じてあらゆる水準の高等な研究に進みうる自由である。有能な男女で学資の無いため研究を続けられぬ人々に、続いて研究ができるよう確実に保証してやるため、財政的援助が与えられなくてはならない。現在準備の出来ているすべての女子に対し、今ただちに高等教育への進学の自由が与えられなくてはならない。同時に女子の初等中等教育改善の処置もまた講ぜられなくてはならぬ。
 図書館・研究施設および研究所の拡充をわれわれは勧告する。かかる機関は国家再建期およびその後においても、国民の福利に計り知れぬ重要な寄与をなしうるのである。医療・学校行政・ジャーナリズム・労務関係および一般国家行政の如き分野に対する専門教育の改善に対し特に注意を向ける必要がある。医療および公衆衛生問題の全般を研究する特別委員会の設置をわれわれは要望する。

    「文部科学省ホームページ」より

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