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 今日は、昭和時代中期の占領下の1946年(昭和21)に、吉田茂内閣において、「農地制度改革の徹底に関する措置要綱」が閣議決定された日です。
 「農地制度改革の徹底に関する措置要綱(のうちせいどかいかくのてっていにかんするそちようこう)」は、日本政府により国会に提案されていた「農地調整法」改正による第一次農地改革が、GHQに拒否され、その後1946年(昭和21)6月の第7回対日理事会で占領軍の「農地改革覚書案」が作成されたのに基づいて、吉田茂内閣において閣議決定されたものでした。その内容は、①不在地主の小作地はすべて、在村地主の小作地は、北海道4町歩、都府県平均1町歩を超える部分を国が買収する、②国は、農地以外でも自作農創設のため必要の場合は、(イ)採草地、宅地等農業経営に不可欠な農業用地及び農業用施設、(ロ)小開墾可能地を市町村農地委員会の決定によって買収することができる、③農地の買受人は、可能な限度で農地の代価の全部又は一部を一時払することとし、その残額は年利三分二厘、期間最長三十年(据置期間を含める。)の年賦償還とする、④国は、農地の買収及び売渡を二年間に行ふものとし、これがため登記手続の簡易化を図る、⑤農地の買収・売渡し計画の立案・審議、紛争処理の機関として地方自治体に農地委員会を置き、市町村農地委員会は農地の所有者及び小作人から選挙によって同数の者を選ぶ、⑥小作料は定額金納とし、最高小作料率は収穫物価額の二割五分(田)、一割五分(畑)とする、⑦小作契約は、すべて文書によらしめることとし、小作料額、契約期間等の主要事項を明確ならしめる、などとなっています。
 これに基づいて、「自作農創設特別措置法」、「農地調整法」改正が、同年10月に国会で成立し、同月21日に公布(施行は12月29日)されました。この結果、農地改革が推進され、1950年(昭和25)までにほぼ完了し、寄生地主制は解体、農家の90%以上が自作農か自小作農となります。しかし、山林や原野はほとんど解放されず残され、山林地主などは存続することとなりました。
 以下に、「農地制度改革の徹底に関する措置要綱」を全文掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「農地制度改革の徹底に関する措置要綱」1946年(昭和21)7月25日閣議決定

農地制度改革の徹底に関する措置要綱
 昭和21年7月25日 閣議決定

農業生産力の発展と農村民主化の基礎の確立を図るため、さきに農地調整法の改正により農地制度の改革を実施中のところ、情勢の推移に鑑み、更にこれを強化徹底する必要が認められるに至ったので、この際左により現行制度を改正する。

第一 自作農創設を急速且つ公正に行ふため、国は必要な農地を買収し、その売渡を行ふ。

第二 左に掲げる農地は、国が買収する。
 (イ)農地の所有者が、その住所のある市町村の区域(隣接市町村の区域内で、市町村農地委員会が指定した区域を含める。以下同じ。)外において所有する小作地
 (ロ)農地の所有者が、その住所のある市町村の区域内において、一町歩(全都府県平均。北海道は四町歩。)を超える小作地を所有する場合、その面積を超える部分の小作地
 但しその住所のある市町村の区域内において所有する小作地の面積と、自作地の面積との合計が、二町歩(全都府県平均。北海道は十二町歩。)を超えるときは、その面積を超える部分の小作地

第三 左に掲げる農地で都道府県農地委員会又は市町村農地委員会が自作農創設の用に供することが適当と認めたものは、第二にかゝはらず、国が買収することができる。
 (イ)農業経営を目的としない法人その他の団体の所有する農地
 (ロ)農業経営を目的とする法人その他の団体の自作地で、農業の発達上好ましくないもの
 (ハ)個人の自作地で、農業の発達上好ましくないものの第二(ロ)の但書の面積を超える部分の農地

第四 左に掲げる農地は、第二にかゝはらず、国は買収しない。
 (イ)兵役、疾病等特別な事情で一時賃貸借された事が明かであり、その所有者が特別の事情が発生するまで自作して居り、且つ近く自作をすることを相当とするもので市町村農地委員会が認めた農地が第二(ロ)の面積を超える場合、その超える部分の小作地
 (ロ)共同耕作の目的に供されてゐる公有地又は農業団体の所有地等で都道府県農地委員会又は市町村農地委員会の認めたもの
 (ハ)近く宅地となすを相当とする農地、焼畑、切替地、新開墾地、収穫極めて不定な農地等で都道府県農地委員会又は市町村農地委員会において自作農創設のための買収を不適当と認めた農地

第五 第二乃至第四を適用する場合は、世帯を単位とする。

第六 国は、農地以外でも自作農創設のため必要の場合は、左に掲げるものを市町村農地委員会の決定によって買収することができる。
 (イ)採草地、宅地等農業経営に不可欠な農業用地及び農業用施設
 (ロ)小開墾可能地
 右によって買収したものの売渡は、農地に準ずる。

第七 第二、第三及び第五の適用については、昭和二十年十一月二十三日又は買収の時を基準とする。

第八 国は、市町村農地委員会が都道府県農地委員会の認可を得て、定めた計画に従って強制的に土地を買収する。
 農地の所有者は、市町村農地委員会の買収計画について異議の申立をなすことができる。

第九 国の買収した農地は、健全な自作農となる見込のあるものに対して売渡す。
 売渡の相手方は、買収した農地が小作地である場合には、その農地の小作人を原則とする。

第十 農地の買収及び売渡にあたっては、できる限り小作人の土地購入の機会を公正ならしめ、田畑の割合を適当ならしめ、且つ、耕地の集団化を図る。

第十一 第九及び第十の場合において特に必要ある場合には、市町村農地委員会は、農地の所有権、永小作権、賃借権の交換分合を強制的になすことができる。

第十二 農地の価格及び報奨金は、現行通りとする。

第十三 国が買収する農地の対価の支払は、原則として農地証券の交付による。

第十四 農地の買受人は、可能な限度で農地の代価の全部又は一部を一時払することとし、その残額は年利三分二厘、期間最長三十年(据置期間を含める。)の年賦償還とする。但し、買受人は、償還期間を短縮し又は繰上償還をなすことができる。
農地の代価の年賦償還額と農地に対する公租公課との合計額は、将来農産物の価格がいかに下落しても、その農地の平年の収穫物の価額の三分の一以内で中央農地委員会の定める割合を超えないものとする。この割合を超えた場合には、償還金の減免等の措置を講ずる。
農地の流失埋没その他災害に因り償還が著しく困難となった場合の措置は、右に準ずる。

第十五 市町村農地委員会の委員は、農地の所有者及び小作人から選挙によって同数の者を選ぶ。
前項の委員の人数は、十名乃至二十名とする。
選挙による委員の外農地の所有者及び小作人を代表する委員の合議によって、三名以内の委員を置くことができる。
都道府県農地委員会は、市町村農地委員会に準じて改組する。
農地に関する重要事項を処理するため、新に中央農地委員会を置く。
中央農地委員会の委員は、農地の所有者、小作人の代表者、学識経験者等を以て充てる。

第十六 国は、農地の買収及び売渡を二年間に行ふものとし、これがため登記手続の簡易化を図る。

第十七 国の行ふ自作農創設事業の実施のため、一定期間農地の所有権、永小作権、賃借権、その他の権利の設定又は移転及び小作地の取上げの制限を強化する。

第十八 農地証券の発行及び償還、農地代金の受入を処理するため特別会計を設置する。

第十九 第六の(ロ)以外の開墾用地についても、国は農地に準じてこれを買収する。

第二十 将来の農地の兼併を防止すると共に、農地利用の適正化を図るため、その所有権、永小作権、賃借権その他の権利の設定及び移転並に農地の使用目的の変更は、地方長官又は市町村農地委員会の承認を要することとし、尚必要な場合には、その譲渡先を指定することができる等の措置を講ずる。

第二十一 小作関係の改善に関しては、左の措置を講ずる
(イ)将来農産物の価格がいかに下落しても、小作料は、田にあっては平年収穫される米の価額の二割五分、畑にあっては平年収穫される主作物の価額の一割五分以内で、中央農地委員会の定める割合を超えることができない。
(ロ)小作契約は、すべて文書によらしめることとし、小作料額、契約期間等の主要事項を明確ならしめる。

   「農地改革資料集成 第2巻」農地改革資料編纂委員会編より

☆農地改革関係略年表

<1945年(昭和20)>
・11月22日 幣原喜重郎内閣において、「農地制度改革に関する件」が閣議決定される
・12月 第89帝国議会に「農地調整法改正案」が提出される
・12月9日 GHQの最高司令官マッカーサーは、農地改革の徹底のため、日本政府に「農地改革に関する覚書」(SCAPIN-411)を送る
・12月28日 「農地調整法改正」(第1次農地改革)が成立・公布される

<1946年(昭和21)>
・6月 第7回対日理事会で占領軍の「農地改革覚書案」が作成される
・7月25日 吉田茂内閣において、「農地制度改革の徹底に関する措置要綱」が閣議決定される
・10月21日 「自作農創設特別措置法」、「農地調整法再改正」(第2次農地改革)が公布される
・12月29日 「自作農創設特別措置法」、「農地調整法再改正」(第2次農地改革)が施行される

<1947年(昭和22)>
・3月 第1回の農地買収が実施される

<1948年(昭和23)>
・2月4日 GHQの最高司令官マッカーサーは、土地改革法の対象となるすべての土地を遅滞なく購入するように、日本政府に「農地改革に関する覚書」(SCAPIN-1855)を送る

<1950年(昭和25)>
・5月 小作料と農地価格の引き上げが実施される
・9月11日 「自作農の創設に関する政令」が公布・施行され、農地改革がほぼ完了し、寄生地主制は解体、農家の90%以上が自作農か自小作農となる

<1952年(昭和27)>
・7月15日 農地改革の成果維持のため、「農地法」が公布される

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