ガウスの歴史を巡るブログ(その日にあった過去の出来事)

 学生時代からの大の旅行好きで、日本中を旅して回りました。その中でいろいろと歴史に関わる所を巡ってきましたが、日々に関わる歴史上の出来事や感想を紹介します。Yahooブログ閉鎖に伴い、こちらに移動しました。

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 今日は、昭和時代前期の1931年(昭和6)に、平凡社が『大百科事典』の刊行を開始した日です。
 『大百科事典』(だいひゃっかじてん)は、平凡社を設立した下中弥三郎が中心となって編纂された日本の代表的百科事典です。下中弥三郎は、1930年(昭和5)秋に、総合的な百科事典の編纂を行うことを決意し、木村久一を編集長に任命、1931年(昭和6)6月に、百科事典編纂に着手しました。
 大量の編集者を動員するなどして、同年11月25日に、第1巻を刊行し、1935年(昭和10)までに全28巻(本巻26巻・索引1巻・補遺1巻)を刊行して、完結します。その後何度か、改訂版や縮刷版などが出されましたが、1955年(昭和30)からは、林達夫を編集長とし、『世界大百科事典』と名称変更して刊行を開始し、1960年(昭和35)までに全33巻(本巻31巻・索引1巻・補遺1巻)が完結しました。
 その後、1964年(昭和39)~1968年(昭和43)にかけて、索引1巻、地図2巻を含めた計26巻の新版を刊行し、さらに、1972年には全35巻(索引1巻、地図2巻を含む)の改訂新版が刊行されます。1988年(昭和63)に、加藤周一を編集長とし、項目体系、記述を一新した新版(全35巻)を刊行、これを元にして、1998年(平成10)には、日本の大型百科事典としては初めて本格的なCD-ROM版が作成されました。
 2007年(平成19)には、加藤周一を編集長として、1998年(平成10)以来の大規模な改訂を行い『改訂新版世界大百科事典』全34巻(本巻30巻・索引1巻・地図帳2巻・百科便覧1巻)を刊行しています。

〇平凡社の『大百科事典』『世界大百科事典』刊行の歴史

・1931年版(1931年~1935年)『大百科事典』全28巻(本巻26巻・索引1巻・補遺1巻)平凡社初の大百科事典
・1936年版(1936年~1940年)『大百科事典』全29巻(本巻26巻・索引1巻・補遺1巻・新補1巻)1931年版の改訂版
・1943年版(1936年~ )『新輯版大百科事典』7巻にて刊行中止(本巻7巻) 1936年版の戦時改訂版。
・1947年版(1947年~ )『大百科事典』全29巻(本巻26巻・索引1巻・補遺1巻・新補1巻)1931年版の改訂復刊版。1950年までに追加の新補3巻を刊行。
・1951年版(1951年~ )『大百科事典』全16巻(本巻13巻・索引1巻・補遺1巻・新補1巻)1931年版の縮刷版(A5判)。
・1955年版(1955年~1960年)『世界大百科事典』全33巻(本巻31巻・索引1巻・補遺1巻)1963年に補遺1巻も刊行される
・1964年版(1964年~1968年)『世界大百科事典』全26巻(本巻23巻・索引1巻・地図帳2巻)1955年版の改訂新版
・1972年版(1972年)『世界大百科事典』全35巻(本巻32巻・索引補遺1巻・地図帳2巻か地図帳1巻+世界大百科年鑑1巻)1964年版の改訂新装版
・1975年版(1975年)『世界大百科事典』全35巻(本巻32巻・索引補遺1巻・地図帳1巻・世界大百科年鑑1巻)カスタム版
・1981年版(1981年)『世界大百科事典』全36巻(本巻32巻・索引補遺1巻・現代巻1巻・地図帳1巻・世界大百科年鑑1巻)1972年版の新装版。
・1984年版(1984年)『大百科事典』全16巻(本巻15巻・索引1巻)
・1988年版(1988年)『世界大百科事典』全35巻(本巻30巻・索引1巻・地図帳2巻・百科便覧1巻・百科年鑑1巻かアルマナック1巻)1984年版大百科事典を世界大百科事典に書名変更し増補改訂
・2006年版(2006年~ )『改訂版世界大百科事典』全35巻(本巻30巻・索引1巻・地図帳2巻・百科便覧1巻・アルマナック1巻)1988年版の改訂版
・2007年版(2007年~ )『改訂新版世界大百科事典』全34巻(本巻30巻・索引1巻・地図帳2巻・百科便覧1巻)1988年初版以来20年ぶりの大規模改訂版

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

記念日国連総会で定められた「女性に対する暴力撤廃の国際デー」の日詳細
1253年(建長5)鎌倉幕府第5代執権北條時頼が建長寺を創建し落慶法要を挙行(新暦12月24日)詳細
1557年(弘治3)戦国武将毛利元就が子の隆元・元春・隆景に「三子教訓状(十四箇条の遺訓)」を記す(新暦12月15日)詳細
1819年(文政2)江戸幕府の老中・陸奥平藩主安藤信正の誕生日(新暦1820年1月10日)詳細
1876年(明治9)福澤諭吉著『学問のすゝめ』の最終刊・第17篇が刊行される詳細
1936年(昭和11)ドイツのベルリンで「日独防共協定」が調印される詳細
1970年(昭和45)小説家三島由紀夫の命日(憂国忌)詳細
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 今日は、昭和時代中期の1950年(昭和25)に、アメリカの対日講和7原則が公式に公表された日です。
 対日講和7原則(たいにちこうわななげんそく)は、1950年(昭和25)にアメリカが連合国側の国々と日本が講和条約を結んで、戦争状態を終わらせるために示されたもので、正式には「アメリカの対日平和条約に関する七原則」と言いました。その内容は、①参加国の資格、②国際連合への加盟、③領土問題の処置、④独立後の日本の安全保障、⑤通商条約の締結並びに多数国の同条約への加入、⑥日本への請求権の放棄、⑦請求権または賠償の紛争についての国際司法裁判所の処理などの諸事項に関するもので、トルーマン米大統領の指示によるものです。
 同年6月25日に朝鮮戦争が勃発すると、アメリカは日本の独立を急ぐ必要に迫られ、9月には日講和実現の意思を明確に示し、「対日講和七原則」に基づいて各国との協議を開始しました。その過程で、アメリカのUP通信社の10月5日の報道によって、内容が明らかとなり、正式には11月24日に公表されます。
 この中で、日本側は、(1)占領中の改革を平和条約で恒久化しないこと、(2)賠償については日本に外貨負担を課さぬため、役務賠償を原則とすること、(3)戦犯については、これ以上、新たな訴追を行わないことなどを要望しました。特に重要なポイントは「安全保障」の項目で、「日本地域の国際的な平和と安全保障を維持するために、この条約は,日本の諸施設と合衆国および恐らくは他の諸国の軍隊との間に、継続して協調的な責任〔関係〕が存続するように配慮しなければならない。」と、日本の基地化とアメリカ軍駐留を主張していたことです。
 そこで、社会党、日本共産党などの革新政党、日本労働組合総評議会(総評)などの労働組合、文化人グループなどは非武装、中立の立場から、社会主義諸国も含め全面講和を行うべきと主張、大規模な反対運動が起こりました。1951年(昭和26)1月25日に、アメリカのダレス特使一行が来日し、吉田茂首相と会談し、また事務レベル折衝において具体的問題を協議します。
 これをもとに、アメリカはイギリスと共に、「単独講和」などを内容とする共同草案を作成し、1951年(昭和26)3月27日に、米国より平和条約草案(全22条)として提示されました。このような状況下で、交渉が進められ、1951年(昭和26)9月4日のサンフランシスコ講和会議開催の運びとなり、日本からは吉田茂首相が首席全権として出席し、9月8日に連合国48ヶ国との間で、「サンフランシスコ平和条約」が調印されます。
 当時のソビエト連邦、チェコスロバキア、ポーランドは、会議には参加したものの調印を拒否し、インド、ビルマ、ユーゴスラビアは招かれましたが会議に参加せず、中国は会議に招かれなかったので、全面的な講和とはなりませんでした。その後、1952年(昭和27)4月28日に発効し、連合国による日本占領が終わったので、日本は一応独立を回復しましたが、沖縄や小笠原諸島、奄美群島は本土復帰までの間、アメリカ合衆国の施政下に残されることになります。また、この条約と同じ日に、「日米安全保障条約(旧)」にも調印されたので、アメリカ軍の駐留は今日まで続くことになりました。
 以下に、1950年(昭和25)11月24日に正式公表された「アメリカの対日平和条約に関する七原則」の英文と日本語訳を掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「アメリカの対日平和条約に関する七原則」 1950年(昭和25)11月24日公表

Memorandum on the Japanese Peace Treaty Circulated by the United States to the Governments Represented on the Far Eastern Commission, Released to the Press, November 24, 1950

There is given below a brief general statement of the type of Treaty envisioned by the United States government as proper to end the state of war with Japan. It is stressed that this statement is only suggestive and tentative and does not commit the United States Government to the detailed content or wording of any future draft. It is expected that after there has been an opportunity to study this outline there will be a series of informal discussions designed to elaborate on it and make clear any points which may be obscure at first glance.

The United States proposes a treaty with Japan which would end the state of war, restore Japanese sovereignty and bring back Japan as an equal in the society of free peoples. As regards specific matters, the treaty would reflect the principles indicated below:

1. Parties. Any or all nations at war with Japan which are willing to make peace on the basis proposed and as may be agreed.

2. United Nations. Membership by Japan would be contemplated.

3. Territory. Japan would (a) reconize the independence of Korea; (b) agree to U.N. trusteeship, with the U.S. as administering authority, of the Ryukyu and Bonin Islands and (c) accept the future decision of the U.K., U.S.S.R., China and U.S. with reference to the status of Formosa, Pescadores, South Sakhalin and the Kuriles. In the event of no decision within a year after the Treaty came into effect, the U.N. General Assembly would decide. Special rights and interests in China would be renounced.

4. Security. The Treaty would contemplate that, pending satisfactory alternative security arrangements such as U.N. assumption of effective responsibility, there would be continuing cooperative responsibility between Japanese facilities and U.S. and perhaps other forces for the maintenance of international peace and security in the Japan area.

5. Political and Commercial Arrangements. Japan would agree to adhere to multilateral treaties dealing with narcotics and fishing. Prewar bilateral treaties could be revived by mutual agreement. Pending the conclusion of new commercial treaties, Japan would extend most-favored nation treatment, subject to normal exceptions.

6. Claims. All parties would waive claims arising out of war acts prior to September 2, 1945, except that (a) the Allied Powers would, in general, hold Japanese property within their territory and (b) Japan would restore allied property or, if not restorable intact, provide yen to compensate for an agreed percentage of lost value.

7. Disputes. Claims disputes would be settled by a special neutral tribunal to be set up by the President of the International Court of Justice. Other disputes would be referred either to diplomatic settlement, or to the International Court of Justice

  「Nihon Gaiko Shuyo Bunsyo Nenpyo (1)」より

<日本語訳>

アメリカの対日平和条約に関する七原則 (1950年11月24日)

1950年11月24日、米国が極東委員会を代表して政府に回覧した日本平和条約に関する覚書が報道機関に発表された。

以下に、日本との戦争状態を終わらせるのに適切であると米国政府が想定している条約の種類についての簡単な一般的な声明を示します。 この声明は示唆的かつ暫定的なものに過ぎず、米国政府が将来の草案の詳細な内容や文言を確約するものではないことを強調しておきます。この概要を検討後、それについて詳しく説明し、一見不明瞭になる可能性のある点を明らかにするように設定された一連の非公式の議論が行われることが期待されます。

米国は、戦争状態を終わらせ、日本の主権を回復し、自由な人々の社会において日本を対等な構成員として戻すことになる日本との条約を提案している。特定の事項に関して、条約は以下に示す原則を反映すべきものとする。

1.締約国。 日本と戦争をしているいずれかまたはすべての国で、提案された合意に基づいて和平を結ぶ意思のあるもの。

2.国際連合。 日本の加盟は検討されます。

3.領土。 日本は(a)朝鮮の独立を再確認し、(b)米国を施政権者とする琉球諸島と小笠原諸島の国際連合による信託統治に同意し、(c)台湾、澎湖諸島、南樺太および千島列島の地位に関する、英国、ソ連、中国、米国の将来の決定を受け入れなければならない。条約発効後1年以内に決定がない場合は、国連総会が決定する。中国における特別な権利と権益は放棄しなければならない。

4.安全保障。この条約は、国連が有効な責任を引き受けるなどの満足のいく代替の安全保障協定が成立するまで、日本地域の国際的な平和と安全を維持するために、日本の施設と米国およびおそらく他の諸国軍隊との間の協力的責任が続くと考えている。

5.政治的および通商上の取り決め。 日本は、麻薬と漁業を扱う多国間条約を遵守することに同意しなければならない。戦前の二国間条約は、相互の合意によって復活させる可能性がある。新しい通商条約の締結を待つ間、日本は通常の例外措置を条件として最恵国待遇を延長させることができる。

6.請求権。すべての当事国は、1945年9月2日より前の戦争行為に起因する請求を放棄権する。ただし、(a)連合国は一般に、日本人の財産を領土内に保持している場合、(b)日本は連合諸国の財産を回復するか、回復できない場合は、損害額に関する協定で合意された一定の比率を補うために円を提供する場合は、除くものとする。

7.係争。 請求権に関する係争は、国際司法裁判所長によって設立される特別な中立審判によって解決する。その他の係争は、外交的和解または国際司法裁判所のいずれかに付託される。

   ※英語の原文から訳しました。

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

1842年(天保13)佐久間象山が藩主真田幸貫に対して、「海防に關する藩主宛上書」を行なう(新暦12月25日)詳細
1871年(明治4)日本画家山元春挙の誕生日(新暦1872年1月4日)詳細
1873年(明治6)日本画家河合玉堂の誕生日詳細
1909年(明治42)大之浦炭鉱(福岡県)で爆発事故が起こり、死者・行方不明者259人を出す詳細
1919年(大正8)平塚らいてうにより新婦人協会の設立が発表される詳細
1930年(昭和5)警視庁が「エロ演劇取締規則」を制定する詳細
1945年(昭和20)GHQが「戦時利得の除去及び国家財政の再編成に関する覚書」を出す詳細
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 今日は、平成時代の2001年(平成13)に、ハンガリーのブダペストにおいて、「サイバー犯罪に関する条約」に、日本を含む30ヶ国が署名・採択した日です。
 「サイバー犯罪に関する条約」(さいばーはんざいにかんするじょうやく)は、コンピューター犯罪に国際的に対処するための国際条約です。コンピューター・システムを攻撃するような犯罪およびコンピューター・システムを利用して行われる犯罪(いわゆるサイバー犯罪)に対し、国際的に協調して有効な手段をとる必要性から、欧州評議会が2001年(平成13)に発案し、ハンガリーのブダペストで、11月23日に日本を含む30ヶ国が署名・採択したことから「ブダペスト条約」とも呼ばれてきました。
 条約は全48ヶ条で、①違法アクセス、オンライン詐欺、コンピュータ・ウイルスによるデータの破損やシステム機能妨害、児童ポルノ配信、著作権侵害などのサイバー犯罪の類型を定義した刑事実体法部分、②データの保全、捜索、押収、通信傍受などの手法を定めた手続法部分、③国際的な捜査の相互協力、犯罪人引き渡し、裁判権などを定めた条約部分、などで構成されています。日本は、2004年(平成16)4月に国会承認して批准し、同年7月1日に、批准国数の条件を満たして発効しました。2023年(令和5)11月現在の条約の締約国は、68ヶ国となっています。
 以下に、「サイバー犯罪に関する条約」の日本語訳を掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「サイバー犯罪に関する条約」2001年(平成13)11月23日署名・採択、2004年(平成16)7月1日発効

前文

 欧州評議会の加盟国及びこの条約に署名したその他の国は、
 欧州評議会の目的がその加盟国の一層強化された統合を達成することであることを考慮し、
 この条約の他の締約国との協力を促進することの価値を認識し、
 特に適当な法令を制定し及び国際協力を促進することによって、サイバー犯罪から社会を保護することを目的とした共通の刑事政策を優先事項として追求することが必要であることを確信し、コンピュータ・ネットワークがデジタル化され、統合され及び地球的規模で拡大し続けることによってもたらされる大きな変化を認識し、
 コンピュータ・ネットワーク及び電子情報が犯罪を行うためにも利用される可能性があるという危険並びに犯罪に関する証拠がコンピュータ・ネットワークによって蔵置され及び送信される可能性があるという危険を憂慮し、
 サイバー犯罪との戦いにおいて国家と民間業界との間の協力が必要であること並びに情報技術の利用及び開発において正当な利益を保護することが必要であることを認識し、
 サイバー犯罪と効果的に戦うためには、刑事問題に関する国際協力を強化し、迅速に行い、かつ、十分に機能させることが必要であることを確信し、
 この条約に規定する行為を犯罪として定め及びそのような犯罪と効果的に戦うための十分な権限の付与について定めること、そのような犯罪の探知、捜査及び訴追を国内的にも国際的にも促進すること並びに迅速で信頼し得る国際協力のための措置を定めることによって、コンピュータ・システム、コンピュータ・ネットワーク及びコンピュータ・データの秘密性、完全性及び利用可能性に対して向けられた行為並びにコンピュータ・システム、コンピュータ・ネットワーク及びコンピュータ・データの濫用を抑止するために、この条約が必要であることを確信し、
 すべての者が有する干渉されることなく意見を持つ権利、表現の自由(国境とのかかわりなくあらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由等)についての権利及びプライバシーの尊重についての権利を再確認する千九百五十年に欧州評議会で採択された人権及び基本的自由の保護に関する条約、千九百六十六年に国際連合で採択された市民的及び政治的権利に関する国際規約その他の適用される人権に関する国際条約にうたう法の執行の利益と基本的人権の尊重との間に適正な均衡を確保することが必要であることに留意し、
 また、個人情報の保護についての権利(例えば、千九百八十一年に欧州評議会で採択された個人情報の自動処理における個人の保護に関する条約によって付与されている権利)に留意し、
 千九百八十九年に国際連合で採択された児童の権利に関する条約及び千九百九十九年に国際労働機関で採択された最悪の形態の児童労働条約を考慮し、
 欧州評議会で採択された刑事分野における協力に関する現行の諸条約及び欧州評議会の加盟国と他の国々との間に存在する同様の諸条約を考慮し、並びにこの条約が、コンピュータ・システム及びコンピュータ・データに関連する犯罪に関する捜査及び刑事訴訟をより効果的なものとし、かつ、犯罪に関する電子的形態の証拠の収集を可能とするために、それらの条約を補足することを目的とするものであることを強調し、
 国際連合、経済協力開発機構、欧州連合及び主要八箇国(G8)の活動その他の近年の進展により、サイバー犯罪との戦いに関する国際的な理解及び協力が更に進められていることを歓迎し、刑事問題についての相互援助に関する欧州条約の実際の適用(電気通信の傍受に係る嘱託状に関するもの)に関する閣僚委員会勧告第十号(千九百八十五年) 、著作権及び著作隣接権の分野における違法な複製行為に関する同勧告第二号(千九百八十八年) 、警察部門における個人情報の使用を規制する同勧告第十五号(千九百八十七年) 、電気通信サービス(特に電話サービス)の領域における個人情報の保護に関する同勧告第四号(千九百九十五年) 、特定のコンピュータ犯罪の定義について国内の立法機関のための指針を提供するコンピュータに関連する犯罪に関する同勧告第九号(千九百八十九年)及び刑事手続法における情報技術に関連する問題に関する同勧告第十三号(千九百九十五年)を想起し、
 第二十一回欧州司法大臣会議(千九百九十七年六月十日及び十一日にプラハで開催)において採択された決議第一号(国内刑事法の規定を相互に一層類似したものとし及びサイバー犯罪の捜査について効果的な手段を利用可能とするために犯罪問題に関する欧州委員会(CDPC)が実施するサイバー犯罪に関する作業を支持するよう閣僚委員会に勧告したもの)及び第二十三回欧州司法大臣会議(二千年六月八日及び九日にロンドンで開催)において採択された決議第三号(できる限り多数の国がこの条約の締約国となることができるようにするための適当な解決を見いだすために交渉当事国が努力を継続するよう奨励し、及びサイバー犯罪との戦いについての特有の要件を十分に考慮した迅速かつ効果的な国際協力体制の必要性を認めたもの)に考慮を払い、
 また、第二回首脳会議(千九百九十七年十月十日及び十一日にストラスブールで開催)において欧州評議会の加盟国の元首又は政府の長によって採択された行動計画(欧州評議会の基準及び価値に基づき新たな情報技術の開発に対する共通の対応を追求するためのもの)に考慮を払って、
 次のとおり協定した。

第一章 用語

第一条 定義
 この条約の適用上、
a「コンピュータ・システム」とは、プログラムに従ってデータの自動処理を行う装置又は相互に接続された若しくは関連する一群の装置であってそのうちの一若しくは二以上の装置がプログラムに従ってデータの自動処理を行うものをいう。
b「コンピュータ・データ」とは、コンピュータ・システムにおける処理に適した形式によって事実、情報又は概念を表したものをいい、コンピュータ・システムに何らかの機能を実行させるための適当なプログラムを含む。
c「サービス・プロバイダ」とは、次のものをいう。
ⅰ そのサービスの利用者に対しコンピュータ・システムによって通信する能力を提供する者(公私を問わない。 )
ⅱ ⅰに規定する通信サービス又はその利用者のために、コンピュータ・データを処理し又は蔵置するその他の者
d「通信記録」とは、コンピュータ・システムによる通信に関するコンピュータ・データであって、通信の連鎖の一部を構成するコンピュータ・システムによって作り出され、かつ、通信の発信元、発信先、経路、時刻、日付、規模若しくは継続時間又は通信の基礎となるサービスの種類を示すものをいう。

第二章 国内的にとる措置

第一節 刑事実体法

第一款 コンピュータ・データ及びコンピュータ・システムの秘密性、完全性及び利用可能性に対する犯罪

第二条 違法なアクセス
 締約国は、コンピュータ・システムの全部又は一部に対するアクセスが、権限なしに故意に行われることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。締約国は、このようなアクセスが防護措置を侵害することによって行われること、コンピュータ・データを取得する意図その他不正な意図をもって行われること又は他のコンピュータ・システムに接続されているコンピュータ・システムに関連して行われることをこの犯罪の要件とすることができる。

第三条 違法な傍受
 締約国は、コンピュータ・システムへの若しくはそこからの又はその内部におけるコンピュータ・データの非公開送信(コンピュータ・データを伝送するコンピュータ・システムからの電磁的放射を含む。 )の傍受が、技術的手段によって権限なしに故意に行われることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。締約国は、このような傍受が不正な意図をもって行われること又は他のコンピュータ・システムに接続されているコンピュータ・システムに関連して行われることをこの犯罪の要件とすることができる。

第四条 データの妨害
1 締約国は、コンピュータ・データの破損、削除、劣化、改ざん又は隠ぺいが権限なしに故意に行われることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
2 締約国は、1に規定する行為が重大な損害を引き起こすことをこの犯罪の要件とする権利を留保することができる。

第五条 システムの妨害
 締約国は、コンピュータ・データの入力、送信、破損、削除、劣化、改ざん又は隠ぺいによりコンピュータ・システムの機能に対する重大な妨害が権限なしに故意に行われることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。

第六条 装置の濫用
1締約国は、権限なしに故意に行われる次の行為を自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
a第二条から前条までの規定に従って定められる犯罪を行うために使用されることを意図して、次のものを製造し、販売し、使用のために取得し、輸入し、頒布し又はその他の方法によって利用可能とすること。
ⅰ 第二条から前条までの規定に従って定められる犯罪を主として行うために設計され又は改造された装置(コンピュータ・プログラムを含む。 )
ⅱ コンピュータ・システムの全部又は一部にアクセス可能となるようなコンピュータ・パスワード、アクセス・コード又はこれらに類するデータ
b第二条から前条までの規定に従って定められる犯罪を行うために使用されることを意図して、aⅰ又はⅱに規定するものを保有すること。締約国は、自国の法令により、これらのものの一定数の保有を刑事上の責任を課するための要件とすることができる。
2この条の規定は、1に規定する製造、販売、使用のための取得、輸入、頒布若しくはその他の方法によって利用可能とする行為又は保有が、第二条から前条までの規定に従って定められる犯罪を行うことを目的としない場合(例えば、コンピュータ・システムの正当な試験又は保護のために行われる場合)に刑事上の責任を課するものと解してはならない。
3締約国は、1の規定を適用しない権利を留保することができる。ただし、その留保が1ⅰⅱに規定するものの販売、頒布又はその他の方法によって利用可能とする行為に関するものでない場合に限る。

第二款 コンピュータに関連する犯罪

第七条 コンピュータに関連する偽造
 締約国は、コンピュータ・データの入力、改ざん、削除又は隠ぺいにより、真正でないコンピュータ・データ(直接読取りが可能であるか否か及び直接理解が可能であるか否かを問わない。 )を生じさせる行為が、当該データが法律上真正であるとみなされ又は扱われることを意図して権限なしに故意に行われることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。締約国は、詐取する意図又はこれに類する不正な意図を刑事上の責任を課するための要件とすることができる。

第八条 コンピュータに関連する詐欺
 締約国は、自己又は他人のために権限なしに経済的利益を得るという詐欺的な又は不正な意図をもって、権限なしに故意に次の行為が行われ、他人に対し財産上の損害が加えられることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
aコンピュータ・データの入力、改ざん、削除又は隠ぺい
bコンピュータ・システムの機能に対する妨害

第三款 特定の内容に関連する犯罪

第九条 児童ポルノに関連する犯罪
1締約国は、権限なしに故意に行われる次の行為を自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
aコンピュータ・システムを通じて頒布するために児童ポルノを製造すること。
bコンピュータ・システムを通じて児童ポルノの提供を申し出又はその利用を可能にすること。
cコンピュータ・システムを通じて児童ポルノを頒布し又は送信すること。
d自己又は他人のためにコンピュータ・システムを通じて児童ポルノを取得すること。
eコンピュータ・システム又はコンピュータ・データ記憶媒体の内部に児童ポルノを保有すること。
21の規定の適用上、 「児童ポルノ」とは、次のものを視覚的に描写するポルノをいう。
a性的にあからさまな行為を行う未成年者
b性的にあからさまな行為を行う未成年者であると外見上認められる者
c性的にあからさまな行為を行う未成年者を表現する写実的影像
32の規定の適用上、 「未成年者」とは、十八歳未満のすべての者をいう。もっとも、締約国は、より低い年齢(十六歳を下回ってはならない。 )の者のみを未成年者とすることができる。
4締約国は、1d及びe並びに2b及びcの規定の全部又は一部を適用しない権利を留保することができる。

第四款 著作権及び関連する権利の侵害に関連する犯罪

第十条 著作権及び関連する権利の侵害に関連する犯罪
1締約国は、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約の千九百七十一年七月二十四日のパリ改正条約、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定及び著作権に関する世界知的所有権機関条約に基づく義務に従って自国の法令に定める著作権(これらの条約によって付与された人格権を除く。 )の侵害が故意に、商業的規模で、かつ、コンピュータ・システムによって行われることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
2締約国は、実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(ローマ条約) 、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定及び実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約に基づく義務に従って自国の法令に定める関連する権利(これらの条約によって付与された人格権を除く。 )の侵害が故意に、商業的規模で、かつ、コンピュータ・システムによって行われることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
3締約国は、限定的な状況において、1及び2の規定に基づく刑事上の責任を課さない権利を留保することができる。ただし、他の効果的な救済手段が利用可能であり、かつ、その留保が1及び2に規定する国際文書に定める締約国の国際的義務に違反しない場合に限る。

第五款 付随的責任及び制裁

第十一条 未遂及びほう助又は教唆
1締約国は、第二条から前条までの規定に従って定められる犯罪が行われることを意図して故意にこれらの犯罪の実行をほう助し又は教唆することを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
2締約国は、第三条から第五条まで、第七条、第八条並びに第九条1a及びcの規定に従って定められる犯罪であって故意に行われるものの未遂を自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
3いずれの締約国も、2の規定の全部又は一部を適用しない権利を留保することができる。

第十二条 法人の責任
1締約国は、単独で又は法人の機関の一部として活動する自然人であって当該法人内部で指導的地位にあるものが、次のいずれかの権限に基づき、かつ、当該法人の利益のためにこの条約に従って定められる犯罪を行う場合に当該犯罪についての責任を当該法人に負わせ得ることを確保するため、必要な立法その他の措置をとる。
a法人の代表権
b法人のために決定を行う権限c法人内部で管理を行う権限
21に規定する場合に加え、締約国は、法人の権限に基づき活動する自然人が当該法人の利益のためにこの条約に従って定められる犯罪を行う場合において、当該犯罪の実行が1に規定する自然人による監督又は管理の欠如によるものであるときは、当該法人に責任を負わせ得ることを確保するため、必要な措置をとる。
3法人の責任は、締約国の法的原則に従って、刑事上、民事上又は行政上のものとすることができる。
4法人の責任は、犯罪を行った自然人の刑事上の責任に影響を及ぼすものではない。

第十三条 制裁及び措置
1締約国は、第二条から第十一条までの規定に従って定められる犯罪について自由のはく奪その他の制裁であって効果的な、均衡のとれたかつ抑止力のあるものが科されることを確保するため、必要な立法その他の措置をとる。
2締約国は、前条の規定に従って責任を負う法人に対し、刑罰又は刑罰以外の制裁若しくは措置であって効果的な、均衡のとれたかつ抑止力のあるもの(金銭的制裁を含む。 )が科されることを確保する。

第二節手続法

第一款 共通規定

第十四条 手続規定の適用範囲
1締約国は、特定の捜査又は刑事訴訟のためにこの節に定める権限及び手続を設定するため、必要な立法その他の措置をとる。
2第二十一条に別段の定めがある場合を除くほか、締約国は、次の事項について1に規定する権限及び手続を適用する。
a第二条から第十一条までの規定に従って定められる犯罪
bコンピュータ・システムによって行われる他の犯罪
c犯罪に関する電子的形態の証拠の収集
3a締約国は、留保において特定する犯罪又は犯罪類型についてのみ第二十条に定める措置を適用する権利を留保することができる。ただし、当該犯罪又は犯罪類型の範囲が、第二十一条に定める措置を適用する犯罪の範囲よりも制限的とならない場合に限る。締約国は、第二十条に定める措置を最も幅広く適用することができるように留保を制限することを考慮する。
b締約国は、この条約の採択の時に有効な法令における制限により次のÞ及びßのシステムを有するサービス・プロバイダのコンピュータ・システムの内部における通信に第二十条及び第二十一条に定める措置を適用することができない場合には、そのような通信にこれらの措置を適用しない権利を留保することができる。
ⅰ閉鎖されたグループの利用者のために運営されているシステム
ⅱ公共通信ネットワークを利用せず、かつ、他のコンピュータ・システム(公的なものであるか私的なものであるかを問わない。)に接続されていないシステム締約国は、第二十条及び第二十一条に定める措置を最も幅広く適用することができるように留保を制限することを考慮する。

第十五条 条件及び保障措置
1締約国は、この節に定める権限及び手続の設定、実施及び適用が、自国の国内法に定める条件及び保障措置であって、千九百五十年に欧州評議会で採択された人権及び基本的自由の保護に関する条約、千九百六十六年に国際連合で採択された市民的及び政治的権利に関する国際規約その他の適用される人権に関する国際文書に基づく義務に従って生ずる権利その他の人権及び自由の適当な保護を規定しており、かつ、比例原則を含むものに従うことを確保する。
21に規定する条件及び保障措置には、該当する権限又は手続の性質にかんがみ適当な場合には、特に、司法上の又は他の独立した監督、適用を正当化する事由並びに当該権限又は手続の適用範囲及び期間に関する制限を含む。
3締約国は、公共の利益、特に司法の健全な運営に反しない限り、この節に定める権限及び手続が第三者の権利、責任及び正当な利益に及ぼす影響を考慮する。

第二款 蔵置されたコンピュータ・データの迅速な保全

第十六条 蔵置されたコンピュータ・データの迅速な保全
1締約国は、特に、自国の権限のある当局がコンピュータ・システムによって蔵置された特定のコンピュータ・データ(通信記録を含む。 )が特に滅失しやすく又は改変されやすいと信ずるに足りる理由がある場合には、当該権限のある当局が当該コンピュータ・データについて迅速な保全を命令すること又はこれに類する方法によって迅速な保全を確保することを可能にするため、必要な立法その他の措置をとる。
2締約国は、ある者が保有し又は管理している特定の蔵置されたコンピュータ・データを保全するよう当該者に命令することによって1の規定を実施する場合には、自国の権限のある当局が当該コンピュータ・データの開示を求めることを可能にするために必要な期間(九十日を限度とする。)、当該コンピュータ・データの完全性を保全し及び維持することを当該者に義務付けるため、必要な立法その他の措置をとる。締約国は、そのような命令を引き続き更新することができる旨定めることができる。
3締約国は、コンピュータ・データを保全すべき管理者その他の者に対し、1又は2に定める手続がとられていることについて、自国の国内法に定める期間秘密のものとして取り扱うことを義務付けるため、必要な立法その他の措置をとる。
4この条に定める権限及び手続は、前二条の規定に従うものとする。第十七条通信記録の迅速な保全及び部分開示1締約国は、前条の規定に基づいて保全される通信記録について、次のことを行うため、必要な立法その他の措置をとる。
a通信の伝達に関与したサービス・プロバイダが一であるか二以上であるかにかかわらず、通信記録の迅速な保全が可能となることを確保すること。
第十七条 通信記録の迅速な保全及び部分開示
1締約国は、前条の規定に基づいて保全される通信記録について、次のことを行うため、必要な立法その他の措置をとる。
a通信の伝達に関与したサービス・プロバイダが一であるか二以上であるかにかかわらず、通信記録の迅速な保全が可能となることを確保すること。
b当該サービス・プロバイダ及び通信が伝達された経路を自国が特定することができるようにするために十分な量の通信記録が、自国の権限のある当局又は当該権限のある当局によって指名された者に対して迅速に開示されることを確保すること。
2この条に定める権限及び手続は、第十四条及び第十五条の規定に従うものとする。

第三款 提出命令

第十八条 提出命令
1締約国は、自国の権限のある当局に対し次のことを行う権限を与えるため、必要な立法その他の措置をとる。
a自国の領域内に所在する者に対し、当該者が保有し又は管理している特定のコンピュータ・データであって、コンピュータ・システム又はコンピュータ・データ記憶媒体の内部に蔵置されたものを提出するよう命令すること。
b自国の領域内でサービスを提供するサービス・プロバイダに対し、当該サービス・プロバイダが保有し又は管理している当該サービスに関連する加入者情報を提出するよう命令すること。
2この条に定める権限及び手続は、第十四条及び第十五条の規定に従うものとする。3この条の規定の適用上、「加入者情報」とは、コンピュータ・データという形式又はその他の形式による情報のうち、サービス・プロバイダが保有するサービス加入者に関連する情報(通信記録及び通信内容に関連するものを除く。 )であって、それにより次のことが立証されるものをいう。
a利用された通信サービスの種類、当該サービスのためにとられた技術上の措置及びサービスの期間
b加入者の身元、郵便用あて名又は住所及び電話番号その他のアクセスのための番号並びに料金の請求及び支払に関する情報であって、サービスに関する契約又は取決めに基づいて利用可能なもの
c通信設備の設置場所に関するその他の情報であってサービスに関する契約又は取決めに基づいて利用可能なもの

第四款 蔵置されたコンピュータ・データの捜索及び押収

第十九条 蔵置されたコンピュータ・データの捜索及び押収
1締約国は、自国の権限のある当局に対し、自国の領域内において次のものに関し捜索又はこれに類するアクセスを行う権限を与えるため、必要な立法その他の措置をとる。
aコンピュータ・システムの全部又は一部及びその内部に蔵置されたコンピュータ・データ
bコンピュータ・データを蔵置することができるコンピュータ・データ記憶媒体
2締約国は、自国の権限のある当局が1aの規定に基づき特定のコンピュータ・システムの全部又は一部に関し捜索又はこれに類するアクセスを行う場合において、当該捜索等の対象となるデータが自国の領域内にある他のコンピュータ・システムの全部又は一部の内部に蔵置されていると信ずるに足りる理由があり、かつ、当該データが当該特定のコンピュータ・システムから合法的にアクセス可能であるか又は入手可能であるときは、当該権限のある当局が当該他のコンピュータ・システムに関し捜索又はこれに類するアクセスを速やかに行うことができることを確保するため、必要な立法その他の措置をとる。
3締約国は、自国の権限のある当局に対し、1又は2の規定に基づきアクセスしたコンピュータ・データの押収又はこれに類する確保を行う権限を与えるため、必要な立法その他の措置をとる。これらの措置には、次のことを行う権限を与えることを含む。
aコンピュータ・システムの全部若しくは一部又はコンピュータ・データ記憶媒体の押収又はこれに類する確保を行うこと。
b当該コンピュータ・データの複製を作成し及び保管すること。
c関連する蔵置されたコンピュータ・データの完全性を維持すること。
dアクセスしたコンピュータ・システムの内部の当該コンピュータ・データにアクセスすることができないようにすること又は当該コンピュータ・データを移転すること。
4締約国は、自国の権限のある当局に対し、1又は2に定める措置をとることを可能にするために必要な情報を合理的な範囲で提供するようコンピュータ・システムの機能又はコンピュータ・システムの内部のコンピュータ・データを保護するために適用される措置に関する知識を有する者に命令する権限を与えるため、必要な立法その他の措置をとる。
5この条に定める権限及び手続は、第十四条及び第十五条の規定に従うものとする。

第五款 コンピュータ・データのリアルタイム収集

第二十条 通信記録のリアルタイム収集
1締約国は、自国の権限のある当局に対し、コンピュータ・システムによって伝達される自国の領域内における特定の通信に係る通信記録についてリアルタイムで次のことを行う権限を与えるため、必要な立法その他の措置をとる。
a自国の領域内にある技術的手段を用いることにより、当該通信記録を収集し又は記録すること。
bサービス・プロバイダに対し、その既存の技術的能力の範囲内で次のいずれかのことを行うよう強制すること。
ⅰ自国の領域内にある技術的手段を用いることにより、当該通信記録を収集し又は記録すること。
ⅱ当該権限のある当局が当該通信記録を収集し又は記録するに当たり、これに協力し及びこれを支援すること。
2締約国は、自国の国内法制の確立された原則により1aに定める措置をとることができない場合には、当該措置に代えて、自国の領域内にある技術的手段を用いることにより、自国の領域内において伝達される特定の通信に係る通信記録をリアルタイムで収集し又は記録することを確保するため、必要な立法その他の措置をとることができる。
3締約国は、サービス・プロバイダに対し、この条に定める権限の行使の事実及び当該権限の行使に関する情報について秘密のものとして取り扱うことを義務付けるため、必要な立法その他の措置をとる。
4この条に定める権限及び手続は、第十四条及び第十五条の規定に従うものとする。

第二十一条 通信内容の傍受
1締約国は、自国の権限のある当局に対し、自国の国内法に定める範囲の重大な犯罪に関して、コンピュータ・システムによって伝達される自国の領域内における特定の通信の通信内容についてリアルタイムで次のことを行う権限を与えるため、必要な立法その他の措置をとる。
a自国の領域内にある技術的手段を用いることにより、当該通信内容を収集し又は記録すること。
bサービス・プロバイダに対し、その既存の技術的能力の範囲内で次のいずれかのことを行うよう強制すること。
ⅰ自国の領域内にある技術的手段を用いることにより、当該通信内容を収集し又は記録すること。
ⅱ当該権限のある当局が当該通信内容を収集し又は記録するに当たり、これに協力し及びこれを支援すること。
2締約国は、自国の国内法制の確立された原則により1aに定める措置をとることができない場合には、当該措置に代えて、自国の領域内にある技術的手段を用いることにより、自国の領域内における特定の通信の通信内容をリアルタイムで収集し又は記録することを確保するため、必要な立法その他の措置をとることができる。
3締約国は、サービス・プロバイダに対し、この条に定める権限の行使の事実及び当該権限の行使に関する情報について秘密のものとして取り扱うことを義務付けるため、必要な立法その他の措置をとる。
4この条に定める権限及び手続は、第十四条及び第十五条の規定に従うものとする。

第三節 裁判権

第二十二条 裁判権
1締約国は、次の場合において第二条から第十一条までの規定に従って定められる犯罪についての自国の裁判権を設定するため、必要な立法その他の措置をとる。
a犯罪が自国の領域内で行われる場合
b犯罪が自国を旗国とする船舶内で行われる場合
c犯罪が自国の法令により登録されている航空機内で行われる場合
d犯罪が行われた場所の刑事法に基づいて刑を科することができる場合又は犯罪がすべての国の領域的管轄の外で行われる場合において、当該犯罪が自国の国民によって行われるとき。
2締約国は、1bからdまでの全部若しくは一部に定める裁判権に関する規則を適用しない権利又は特定の場合若しくは状況においてのみ当該規則を適用する権利を留保することができる。
3締約国は、容疑者が自国の領域内に所在し、かつ、引渡しの請求を受けたにもかかわらず当該容疑者の国籍のみを理由として他の締約国に当該容疑者の引渡しを行わない場合において第二十四条1に定める犯罪についての裁判権を設定するため、必要な措置をとる。
4この条約は、締約国が自国の国内法に従って行使する刑事裁判権を排除するものではない。
5この条約に従って定められる犯罪が行われたとされる場合において、二以上の締約国が裁判権を主張するときは、関係締約国は、適当な場合には、訴追のために最も適した裁判権を有する国を決定するために協議する。

第三章 国際協力

第一節 一般原則

第一款 国際協力に関する一般原則

第二十三条 国際協力に関する一般原則
 締約国は、この章の規定に従い、かつ、刑事問題についての国際協力に関する関連の国際文書、統一的又は相互主義的な法令を基礎として合意された取極及び国内法の適用を通じ、コンピュータ・システム及びコンピュータ・データに関連する犯罪に関する捜査若しくは刑事訴訟のため又は犯罪に関する電子的形態の証拠の収集のために、できる限り広範に相互に協力する。

第二款 犯罪人引渡しに関する原則

第二十四条 犯罪人引渡し
1aこの条の規定は、第二条から第十一条までの規定に従って定められる犯罪(双方の締約国の法令において長期一年以上自由をはく奪する刑又はこれよりも重い刑を科することができるものに限る。 )に関する締約国間の犯罪人引渡しについて適用する。
b統一的若しくは相互主義的な法令を基礎として合意された取極又は二以上の締約国間で適用可能な犯罪人引渡条約(犯罪人引渡しに関する欧州条約(ETS第二十四号)等)に基づいて適用される最も軽い刑罰が異なる場合には、当該取極又は条約に定める最も軽い刑罰を適用する。
21に定める犯罪は、締約国間の現行の犯罪人引渡条約における引渡犯罪とみなされる。締約国は、締約国間で将来締結されるすべての犯罪人引渡条約に1に定める犯罪を引渡犯罪として含めることを約束する。
3条約の存在を犯罪人引渡しの条件とする締約国は、自国との間に犯罪人引渡条約を締結していない他の締約国から犯罪人引渡しの請求を受けた場合には、この条約を1に定める犯罪に関する犯罪人引渡しのための法的根拠とみなすことができる。
4条約の存在を犯罪人引渡しの条件としない締約国は、相互間で、1に定める犯罪を引渡犯罪と認める。
5犯罪人引渡しは、請求を受けた締約国の法令に定める条件又は適用可能な犯罪人引渡条約に定める条件に従う。これらの条件には、請求を受けた締約国が犯罪人引渡しを拒否することができる理由を含む。
6請求を受けた締約国は、1に定める犯罪に関する犯罪人引渡しにつき、引渡しを求められている者の国籍のみを理由として又は自国が当該犯罪について裁判権を有すると認めることを理由として拒否する場合には、請求を行った締約国からの要請により訴追のため自国の権限のある当局に事件を付託するものとし、適当な時期に確定的な結果を当該請求を行った締約国に報告する。当該権限のある当局は、自国の法令に定めるこれと同様の性質を有する他の犯罪の場合と同様の方法で、決定、捜査及び刑事訴訟を行う。
7a締約国は、署名の際又は批准書、受諾書、承認書若しくは加入書の寄託の際に、欧州評議会事務局長に対し、犯罪人引渡条約が存在しない場合に犯罪人引渡し又は仮拘禁のための請求を行い又は受けることについて責任を有する当局の名称及び所在地を通報する。
b欧州評議会事務局長は、締約国によって指定された当局の登録簿を作成し、これを常に最新のものとする。締約国は、登録簿に記載された事項が常に正確であることを確保する。

第三款 相互援助に関する一般原則

第二十五条 相互援助に関する一般原則
1締約国は、コンピュータ・システム及びコンピュータ・データに関連する犯罪に関する捜査若しくは刑事訴訟のため又は犯罪に関する電子的形態の証拠の収集のために、できる限り広範に相互に援助を提供する。
2締約国は、第二十七条から第三十五条までに定める義務を履行するため、必要な立法その他の措置をとる。
3締約国は、緊急の状況においては、ファクシミリ、電子メール等の緊急の通信手段が適当な水準の安全性及び認証を提供する限り(必要な場合には、暗号の使用を含む。)、このような手段により相互援助の要請又はこれに関連する通報を行うことができる。この場合において、要請を受けた締約国が要求するときは、その後正式な確認を行う。要請を受けた締約国は、このような緊急の通信手段による要請を受け入れ、そのような手段によりこれに回答する。
4この章に別段の定めがある場合を除くほか、相互援助は、要請を受けた締約国の法令に定める条件又は適用可能な相互援助条約に定める条件に従う。これらの条件には、当該締約国が協力を拒否することができる理由を含む。当該締約国は、要請が財政に係る犯罪と認められる犯罪に関係することのみを理由として、第二条から第十一条までに定める犯罪について相互援助を拒否する権利を行使してはならない。
5要請を受けた締約国がこの章の規定に基づき双罰性を相互援助の条件とする場合において、援助が求められている犯罪の基礎を成す行為が当該締約国の法令によって犯罪とされているものであるときは、当該援助が求められている犯罪が、当該締約国の法令により、要請を行った締約国における犯罪類型と同一の犯罪類型に含まれるか否か又は同一の用語で定められているか否かにかかわらず、この条件が満たされているものとみなす。

第二十六条 自発的な情報提供
1締約国は、自国が行った捜査の枠組みの中で入手した情報を他の締約国に開示することが、当該他の締約国がこの条約に従って定められる犯罪に関する捜査若しくは刑事訴訟を開始し若しくは実施するに際して役立つ可能性があると認める場合又はそのような開示により当該他の締約国がこの章の規定に基づき協力を要請することとなる可能性があると認める場合には、自国の国内法の範囲内において当該情報を事前の要請なしに当該他の締約国に送付することができる。
21に規定する情報を提供しようとする締約国は、当該情報を提供する前に、当該情報を秘密のものとして取り扱うこと又は一定の条件を満たす場合にのみ使用することを要請することができる。情報を受領することとなる締約国は、そのような要請に応ずることができない場合には、情報を提供しようとする締約国に対しその旨を通報する。この場合において、情報を提供しようとする締約国は、それにもかかわらず情報を提供すべきか否かについて決定する。情報を受領する締約国は、条件が付された情報を受領する場合には、当該条件に拘束される。

第四款 適用される国際協定が存在しない場合の相互援助の要請に関する手続

第二十七条 適用される国際協定が存在しない場合の相互援助の要請に関する手続
1相互援助条約又は統一的若しくは相互主義的な法令を基礎とする取極であって要請を行った締約国と要請を受けた締約国との間において有効なものが存在しない場合には、2から9までの規定を適用する。そのような条約、取極又は法令が存在する場合には、関係締約国がこれらの条約、取極又は法令に代えて2から9までの規定の一部又は全部を適用することを合意したときを除くほか、この条の規定を適用しない。
2a締約国は、相互援助の要請を送付し及び当該要請に回答し、当該要請を実施し又は当該要請を実施する権限を有する当局に対して当該要請を送付する責任を有する一又は二以上の中央当局を指定する。
b中央当局は、直接相互に連絡する。
c締約国は、署名の際又は批准書、受諾書、承認書若しくは加入書の寄託の際に、欧州評議会事務局長に対し、この2の規定に従って指定した中央当局の名称及び所在地を通報する。
d欧州評議会事務局長は、締約国によって指定された中央当局の登録簿を作成し、これを常に最新のものとする。締約国は、登録簿に記載された事項が常に正確であることを確保する。
3この条の規定による相互援助の要請は、当該要請を受けた締約国の法令と両立しない場合を除くほか、当該要請を行った締約国が定める手続に従って実施される。
4要請を受けた締約国は、第二十五条4に規定する拒否の理由がある場合に加え、次の場合には援助を拒否することができる。
a当該要請が、政治犯罪又はこれに関連する犯罪であると自国が認める犯罪に関係する場合
b当該要請の実施により自国の主権、安全、公の秩序その他の重要な利益を害されるおそれがあると自国が認める場合
5要請を受けた締約国は、当該要請に基づく措置が自国の権限のある当局が行う捜査又は刑事訴訟を害することとなる場合には、当該措置をとることを延期することができる。
6要請を受けた締約国は、援助を拒否し又は延期する前に、当該要請を行った締約国と協議し、適当な場合には、当該要請を部分的に認めるか否か又は当該要請を自国が必要と認める条件に従って認めるか否かについて検討する。
7要請を受けた締約国は、当該要請を行った締約国に対し、援助の要請の実施の結果を速やかに通報する。当該要請を拒否し又は延期する場合には、その理由を示さなければならない。また、当該要請を受けた締約国は、当該要請を行った締約国に対し、当該要請を実施することができない理由又は当該要請の実施を著しく遅延させるおそれのある理由を通報する。
8要請を行った締約国は、当該要請を受けた締約国に対し、当該要請の実施に必要な範囲を除くほか、この章の規定に基づく要請の事実及び内容を秘密のものとして取り扱うことを求めることができる。当該要請を受けた締約国は、当該要請を秘密のものとして取り扱うことができない場合には、速やかにその旨を当該要請を行った締約国に通報する。この場合において、当該要請を行った締約国は、それにもかかわらず当該要請が実施されるべきか否かについて決定する。
9a緊急の場合には、相互援助の要請又はこれに関連する通報は、当該要請を行う締約国の司法当局が当該要請を受ける締約国の司法当局に直接行うことができる。この場合において、当該要請を受ける締約国の中央当局に対し、当該要請を行う締約国の中央当局を通じて当該要請の写しを同時に送付する。
bこの9の規定に基づく要請又は通報は、国際刑事警察機構を通じて行うことができる。
caの規定に基づく要請が行われたが、要請を受けた司法当局が当該要請を取り扱う権限を有していない場合には、当該司法当局は、当該要請を自国の権限のある当局に委託し、その委託の事実を当該要請を行った締約国に直接通報する。
dこの9の規定に基づいて行われる要請又は通報(強制的な措置に関するものを除く。 )は、当該要請を行う締約国の権限のある当局が当該要請を受ける締約国の権限のある当局に直接行うことができる。
e締約国は、署名の際又は批准書、受諾書、承認書若しくは加入書の寄託の際に、この9の規定に基づく要請については効率上の理由により自国の中央当局に対して行われるべきことを欧州評議会事務局長に通報することができる。

第二十八条 秘密性及び使用制限
1相互援助条約又は統一的若しくは相互主義的な法令を基礎とする取極であって要請を行った締約国と要請を受けた締約国との間において有効なものが存在しない場合には、この条の規定を適用する。そのような条約、取極又は法令が存在する場合には、関係締約国がこれらの条約、取極又は法令に代えて2から4までの規定の一部又は全部を適用することを合意したときを除くほか、この条の規定を適用しない。
2要請を受けた締約国は、当該要請に応じて情報又は資料を提供するに際し、次の条件を付することができる。
a秘密保持の条件なしでは法律上の相互援助の要請に応じられない場合に当該情報又は資料が秘密のものとして取り扱われること。
b要請書に記載された捜査又は刑事訴訟以外の捜査又は刑事訴訟に当該情報又は資料が使用されないこと。
3要請を行った締約国は、2に定める条件に従うことができない場合には、速やかにその旨を当該要請を受けた締約国に通報する。この場合において、当該要請を受けた締約国は、それにもかかわらず情報を提供すべきか否かについて決定する。当該要請を行った締約国は、そのような条件を受け入れた場合には、当該条件に拘束される。42に定める条件を付して情報又は資料を提供する締約国は、当該条件に関連して、要請を行った締約国に対し、当該情報又は資料がどのように使用されたかについて説明するよう要求することができる。

第二節 特別規定

第一款 暫定措置に関する相互援助

第二十九条 蔵置されたコンピュータ・データの迅速な保全
1締約国は、他の締約国に対し、コンピュータ・システムによって蔵置されたコンピュータ・データであって、当該他の締約国の領域内に所在し、かつ、自国が当該データに関しその捜索若しくはこれに類するアクセス、その押収若しくはこれに類する確保又はその開示のために相互援助の要請を提出する意図を有するものについて、迅速な保全を命令し又はその他の方法によって迅速な保全を確保するよう要請することができる。
21の規定に基づいて行われる保全の要請書には、次の事項を明記する。
a保全を求める当局
b捜査又は刑事訴訟の対象となっている犯罪及び関連する事実の簡潔な要約
c保全すべき蔵置されたコンピュータ・データ及び当該データとbに規定する犯罪との関係
d蔵置されたコンピュータ・データの管理者又はコンピュータ・システムの所在地を特定する情報であって、利用可能なもの
e保全の必要性f締約国が、蔵置されたコンピュータ・データの捜索若しくはこれに類するアクセス、その押収若しくはこれに類する確保又はその開示のために相互援助の要請を提出する意図を有すること。
3締約国は、他の締約国から要請を受けた場合には、特定のデータを自国の国内法に従って迅速に保全するため、すべての適当な措置をとる。締約国は、要請に応ずるに当たり、双罰性をそのような保全を行うための条件として要求してはならない。
4蔵置されたコンピュータ・データの捜索若しくはこれに類するアクセス、その押収若しくはこれに類する確保又はその開示のための相互援助の要請に応ずる条件として双罰性を要求する締約国は、第二条から第十一条までの規定に従って定められる犯罪以外の犯罪に関し、開示の時点で双罰性の条件が満たされないと信ずるに足りる理由がある場合には、この条の規定に基づく保全のための要請を拒否する権利を留保することができる。
5保全のための要請は、4に定める場合に加え、次の場合にのみ拒否することができる。
a当該要請が、政治犯罪又はこれに関連する犯罪であると当該要請を受けた締約国が認める犯罪に関係する場合
b当該要請の実施により自国の主権、安全、公の秩序その他の重要な利益を害されるおそれがあると当該要請を受けた締約国が認める場合
6要請を受けた締約国は、保全によっては当該要請に係るデータの将来における利用可能性が確保されず、又は当該要請を行った締約国の捜査の秘密性が脅かされ若しくはその他の態様で捜査が害されるであろうと信ずる場合には、当該要請を行った締約国に対し速やかにその旨を通報する。この場合において、当該要請を行った締約国は、それにもかかわらず当該要請が実施されるべきか否かについて決定する。
71に定める要請に応ずるために行われた保全は、当該要請を行った締約国が蔵置されたコンピュータ・データの捜索若しくはこれに類するアクセス、その押収若しくはこれに類する確保又はその開示のための要請を提出することができるようにするため六十日以上の期間のものとする。当該データは、当該要請を受領した後、当該要請に関する決定が行われるまでの間引き続き保全される。

第三十条 保全された通信記録の迅速な開示
1前条の規定に基づいて行われた要請を受けた締約国は、特定の通信に関する通信記録の保全のための要請を実施する過程において、他の国のサービス・プロバイダが当該通信の伝達に関与していたことを知った場合には、要請を行った締約国に対し、当該サービス・プロバイダ及び当該通信が伝達された経路を特定するために十分な量の通信記録を迅速に開示する。
21の規定に基づく通信記録の開示は、次の場合にのみ行わないことができる。
a要請が、政治犯罪又はこれに関連する犯罪であると当該要請を受けた締約国が認める犯罪に関係する場合
b要請の実施により自国の主権、安全、公の秩序その他の重要な利益を害されるおそれがあると当該要請を受けた締約国が認める場合

第二款 捜査の権限に関する相互援助

第三十一条 蔵置されたコンピュータ・データに対するアクセスに関する相互援助
1締約国は、他の締約国に対し、コンピュータ・システムによって蔵置されたコンピュータ・データ(第二十九条の規定に従って保全されたデータを含む。 )であって当該他の締約国の領域内に所在するものの捜索若しくはこれに類するアクセス、その押収若しくはこれに類する確保又はその開示を要請することができる。
2要請を受けた締約国は、第二十三条に規定する国際文書、取極及び法令の適用を通じ、かつ、この章の他の関連する規定に従って、当該要請に応じなければならない。
3要請を受けた締約国は、次の場合には、迅速に当該要請に応じなければならない。
a関連するデータが特に滅失しやすく又は改変されやすいと信ずるに足りる理由がある場合
b2に規定する国際文書、取極及び法令に迅速な協力について別段の定めがある場合

第三十二条 蔵置されたコンピュータ・データに対する国境を越えるアクセス(当該アクセスが同意に基づく場合又は当該データが公に利用可能な場合)
 締約国は、他の締約国の許可なしに、次のことを行うことができる。
a公に利用可能な蔵置されたコンピュータ・データにアクセスすること(当該データが地理的に所在する場所のいかんを問わない。)。
b自国の領域内にあるコンピュータ・システムを通じて、他の締約国に所在する蔵置されたコンピュータ・データにアクセスし又はこれを受領すること。ただし、コンピュータ・システムを通じて当該データを自国に開示する正当な権限を有する者の合法的なかつ任意の同意が得られる場合に限る。

第三十三条 通信記録のリアルタイム収集に関する相互援助
1締約国は、コンピュータ・システムによって伝達される自国の領域内における特定の通信に係る通信記録をリアルタイムで収集することについて、相互に援助を提供する。2の規定に従うことを条件として、この援助は、国内法に定める条件及び手続に従って行う。
2締約国は、少なくとも国内の類似の事件において通信記録のリアルタイム収集を行うことができる犯罪については、1に規定する援助を提供する。

第三十四条 通信内容の傍受に関する相互援助
 締約国は、自国に適用される条約及び国内法によって認められている範囲内で、コンピュータ・システムによって伝達される特定の通信の通信内容をリアルタイムで収集し又は記録することについて、相互に援助を提供する。

第三款二十四/七ネットワーク

第三十五条 二十四/七ネットワーク
1締約国は、コンピュータ・システム及びコンピュータ・データに関連する犯罪に関する捜査若しくは刑事訴訟のため又は犯罪に関する電子的形態の証拠の収集のために速やかに援助することを確保するため、週七日かつ一日二十四時間利用可能な連絡部局を指定する。その援助には、次の措置を促進すること又は国内法及び慣行によって認められている場合には次の措置を直接とることを含む。
a技術上の助言を提供すること。
b第二十九条及び第三十条の規定に従いデータを保全すること。
c証拠を収集し、法律上の情報を提供し、及び容疑者の所在を探すこと。
2a締約国の連絡部局は、他の締約国の連絡部局と迅速に通信する能力を有する。
b締約国が指定する連絡部局は、国際的な相互援助又は犯罪人引渡しについて責任を有する当該締約国の当局の一部でない場合には、当該責任を有する当局と迅速に調整を行うことができることを確保する。
3締約国は、二十四/七ネットワークの運用を促進するため、訓練されかつ装備された要員が利用可能であることを確保する。

第四章 最終規定

第三十六条 署名及び効力発生
1この条約は、欧州評議会の加盟国及びこの条約の作成に参加した欧州評議会の非加盟国による署名のために開放しておく。
2この条約は、批准され、受諾され又は承認されなければならない。批准書、受諾書又は承認書は、欧州評議会事務局長に寄託する。
3この条約は、五の国(欧州評議会の加盟国の少なくとも三の国を含むことを要する。 )が、この条約に拘束されることに同意する旨を1及び2の規定に従って表明した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。
4この条約は、この条約に拘束されることに同意する旨をその後表明する署名国については、その旨を1及び2の規定に従って表明した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。

第三十七条 この条約への加入
1この条約の効力発生の後、欧州評議会閣僚委員会は、この条約の締約国と協議してすべての締約国の同意を得た後に、この条約の作成に参加しなかった欧州評議会の非加盟国に対してこの条約に加入するよう招請することができる。決定は、欧州評議会規程第二十条dに定める多数による議決であって同委員会に出席する資格を有するすべての締約国の代表の賛成票を含むものによって行う。
2この条約は、1の規定によりこの条約に加入する国については、加入書を欧州評議会事務局長に寄託した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。

第三十八条 適用領域
1いずれの国も、署名の際又は批准書、受諾書、承認書若しくは加入書の寄託の際に、この条約を適用する領域を特定することができる。
2いずれの国も、その後いつでも、欧州評議会事務局長にあてた宣言により、当該宣言において特定する他の領域についてこの条約の適用を拡大することができる。この条約は、当該他の領域については、同事務局長が当該宣言を受領した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。
31又は2の規定に基づいて行われたいかなる宣言も、当該宣言において特定された領域について、欧州評議会事務局長にあてた通告により撤回することができる。撤回は、同事務局長が通告を受領した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。

第三十九条 この条約の効果
1この条約は、締約国間で適用される多数国間又は二国間の条約及び取極を補足することを目的とする。これらの条約及び取極には、次のものを含む。千九百五十七年十二月十三日にパリにおいて署名のために開放された犯罪人引渡しに関する欧州条約(ETS第二十四号)千九百五十九年四月二十日にストラスブールにおいて署名のために開放された刑事問題についての相互援助に関する欧州条約(ETS第三十号)千九百七十八年三月十七日にストラスブールにおいて署名のために開放された刑事問題についての相互援助に関する欧州条約の追加議定書(ETS第九十九号)
2二以上の締約国は、この条約に規定する事項に関して、既に協定若しくは条約を締結し若しくは他の方法による固有の関係を確立している場合又は将来そのような協定若しくは条約を締結し若しくはそのような関係を確立する場合には、当該協定若しくは条約を適用し又は当該他の方法による関係に従って当該締約国間の関係を規律する権利を有する。締約国は、この条約に規定する事項に関しこの条約が規律する態様以外の態様でそのような関係を確立する場合には、この条約の目的及び原則に反しないように行う。
3この条約のいかなる規定も、締約国が有する他の権利、制限、義務及び責任に影響を及ぼすものではない。

第四十条 宣言
 いずれの国も、欧州評議会事務局長にあてた書面による通告により、署名の際又は批准書、受諾書、承認書若しくは加入書の寄託の際に、第二条、第三条、第六条1b、第七条、第九条3及び第二十七条9eに定める追加的な要件を課することを宣言することができる。

第四十一条 連邦条項
1連邦制の国は、第三章に定める協力を行うことができることを条件として、第二章に定める義務を中央政府と州その他これに類する領域的主体との間の関係を規律する基本原則に適合する範囲において履行する権利を留保することができる。
2連邦制の国は、1の規定に基づく留保を付する場合には、第二章に定める措置について規定する義務を免除し又は著しく減ずることとなる内容の留保を付してはならない。連邦制の国は、いかなる場合にも、第二章に定める措置について幅広くかつ効果的な法執行能力を規定する。
3この条約の規定であって、州その他これに類する領域的主体の管轄の下で実施されるものであり、かつ、連邦の憲法制度によって州その他これに類する領域的主体が立法措置をとることを義務付けられていないものについては、連邦の政府は、これらの州の権限のある当局に対し、好意的な意見を付してその規定を通報し、その実施のために適当な措置をとることを奨励する。

第四十二条 留保
 いずれの国も、欧州評議会事務局長にあてた書面による通告により、署名の際又は批准書、受諾書、承認書若しくは加入書の寄託の際に、第四条2、第六条3、第九条4、第十条3、第十一条3、第十四条3、第二十二条2、第二十九条4及び第四十一条1に定める留保を付する旨を宣言することができる。その他のいかなる留保も、付することができない。

第四十三条 留保の撤回
1前条の規定に従って留保を付した締約国は、欧州評議会事務局長にあてた通告により留保の全部又は一部を撤回することができる。撤回は、同事務局長が通告を受領した日に効力を生ずる。通告において特定された日に留保の撤回が効力を生ずる旨が記載されており、かつ、当該特定された日が同事務局長による当該通告の受領の日よりも遅い日である場合には、撤回は、当該特定された日に効力を生ずる。
2前条に規定する留保を付した締約国は、状況が許す場合には、その留保の全部又は一部を速やかに撤回する。
3欧州評議会事務局長は、前条に規定する留保を付した締約国に対し、その留保の撤回の見込みについて定期的に照会することができる。

第四十四条 改正
1いずれの締約国も、この条約の改正を提案することができる。欧州評議会事務局長は、改正案を欧州評議会の加盟国、この条約の作成に参加した欧州評議会の非加盟国及び第三十七条の規定によりこの条約に加入し又は加入するよう招請された国に通報する。
2締約国が提案する改正案は、犯罪問題に関する欧州委員会(CDPC)に通報され、CDPCは、当該改正案に関する意見を欧州評議会閣僚委員会に提出する。
3欧州評議会閣僚委員会は、改正案及びCDPCによって提出された意見を検討するものとし、欧州評議会の非加盟国であってこの条約の締約国であるものと協議を行った後、当該改正案を採択することができる。
43の規定に従って欧州評議会閣僚委員会によって採択された改正は、受諾のため締約国に送付される。
53の規定に従って採択された改正は、すべての締約国が欧州評議会事務局長に対しこれを受諾する旨を通告した後三十日目の日に効力を生ずる。

第四十五条 紛争の解決
1犯罪問題に関する欧州委員会(CDPC)は、この条約の解釈及び適用に関して常時通報を受ける。
2この条約の解釈又は適用に関して締約国間で紛争が生じた場合には、当該締約国は、交渉又はその選択する他の平和的手段(関係締約国間の合意に基づき、当該紛争をCDPC、締約国を拘束する決定を行う仲裁裁判所又は国際司法裁判所に付託すること等)により紛争の解決に努める。

第四十六条 締約国間の協議
1締約国は、適当な場合には、次のことを促進するため定期的に協議する。
aこの条約の効果的な活用及び実施(これらに関する問題の特定及びこの条約に基づいて行われた宣言又は留保の効果を含む。 )
bサイバー犯罪及び電子的形態の証拠の収集に関連する法律上、政策上又は技術上の著しい進展に関する情報の交換
cこの条約の補足又は改正の検討
2犯罪問題に関する欧州委員会(CDPC)は、1に規定する協議の結果に関して定期的に通報を受ける。
3CDPCは、適当な場合には、1に規定する協議を促進するものとし、締約国がこの条約の補足又は改正のために努力することを支援するために必要な措置をとる。CDPCは、この条約が効力を生じた後三年以内に、締約国と協力してこの条約のすべての規定を再検討し、必要な場合には、適当な改正を勧告する。
41の規定の実施に要する費用は、欧州評議会が負担する場合を除くほか、締約国が決定する方法で締約国が負担する。
5締約国は、この条の規定に基づく任務を遂行するに当たり、欧州評議会事務局の支援を受ける。

第四十七条 廃棄
1いずれの締約国も、欧州評議会事務局長にあてた通告により、いつでもこの条約を廃棄することができる。
2廃棄は、欧州評議会事務局長が通告を受領した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。

第四十八条 通報
 欧州評議会事務局長は、欧州評議会の加盟国、この条約の作成に参加した欧州評議会の非加盟国及びこの条約に加入し又は加入するよう招請された国に対して次の事項を通報する。
a署名
b批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託
c第三十六条及び第三十七条の規定による効力発生の日
d第四十条の規定に従って行われた宣言及び第四十二条の規定に従って付された留保
eこの条約に関して行われたその他の行為、通告又は通報
 以上の証拠として、下名は、正当に委任を受けてこの条約に署名した。

 二千一年十一月二十三日にブダペストで、ひとしく正文である英語及びフランス語により本書一通を作成した。本書は、欧州評議会に寄託する。欧州評議会事務局長は、欧州評議会の各加盟国、この条約の作成に参加した欧州評議会の非加盟国及びこの条約に加入するよう招請されたすべての国に対しその認証謄本を送付する。

       内閣総理大臣 野田佳彦
       総務大臣   川端達夫
       法務大臣   滝実
       外務大臣   玄葉光一郎
       文部科学大臣 平野博文
       経済産業大臣 枝野幸男

   「ウィキソース」より

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 今日は、昭和時代前期の1938年(昭和13)に、医師・細菌学者秦佐八郎が亡くなった日です。
 秦佐八郎(はた さはちろう)は、明治時代前期の1873年(明治6)3月23日に、島根県美濃郡都茂村(現在の益田市)において、豪農だった父・山根道恭、母・ヒデの8男として生まれましたが、本姓は山根でした。しかし、1887年(明治20)に同村の医家秦徳太・ツタの養子となり、秦姓となっています。
 1895年(明治28)に岡山第三高等中学校医学部を卒業して医師となり、秦徳太の長女チヨと結婚、一年志願兵として近衛歩兵第1連隊(東京)に入営しました。1897年(明治30)には、岡山に戻って、岡山県立病院に勤務するようになります。
 1898年(明治31)に、上京して大日本私立衛生会・伝染病研究所に入所し、北里柴三郎所長に師事、1903年(明治36)には、国立血清薬院部長を兼任しました。1904年(明治37)に日露戦争に従軍し、南満州(現在の中国東北部)各地に赴いた後、1907年(明治40)には、国立伝染病研究所第三部長となり、ドイツへ留学してワッセルマンに学びます。
 その後、エールリヒ、さらにヤコビーのもとで研究し、1910年(明治43)には、サルバルサンを発見、ドイツ学会に発表後、日本へ帰国しました。1911年(明治44)にサルバルサン発見の功績により、勲5等双光旭日章を受章、1912年(明治45)には、学位論文「螺旋菌病のヘモテラピー」により、東京帝国大学医科大学(現在の東京大学大学院医学系研究科・医学部)から医学博士の学位を授与されています。
 1913年(大正2)に国産のサルバルサンを製造することに協力し、日本結核予防協会設立に参画、1914年(大正3)には、伝染病研究所移管に伴い北里所長と共に総辞職し、北里研究所が創立され、部長となりました。1915年(大正4)に国と鈴木梅太郎と三共の協力を得て国産化に取り組んでいたサルバルサンの製造に成功し、アルサミノールの名で販売します。
 1920年(大正9)に慶應義塾大学医学部教授に就任し、細菌学、免疫学を講じ、1926年(大正15)には、ドイツ帝国自然科学院会員に推されました。1931年(昭和6)に恩師北里柴三郎博士が亡くなり、北里研究所副所長に就任、1933年(昭和8)には、帝国学士院(のちの日本学士院)会員に勅選され終身勅任官待遇を受けます。
 1934年(昭和9)に深達性消毒薬の研究で、浅川賞を受賞、1935年(昭和10)には、財団法人保生会創設に参画、常務理事長となったものの、1938年(昭和13)11月22日に、東京の慶応大学付属病院において、65歳で亡くなりました。

〇秦佐八郎の主要な著作

・エールリッヒ共著のドイツ語書『スピロヘーターの実験化学療法』(1910年)
・『化学療法ノ研究』(1911年)
・『サルヴァルサン療法』(1913年)
・『黴毒ノ診断 黴毒ノ療法』(1915年)

☆秦佐八郎関係略年表

・1873年(明治6)3月23日 島根県美濃郡都茂村(現在の益田市)において、豪農だった父・山根道恭、母・ヒデの8男として生まれる
・1887年(明治20) 同村医家 秦徳太・ツタの養子となる
・1891年(明治24) 岡山第三高等中学校医学部に入学する
・1895年(明治28) 岡山第三高等中学校医学部を卒業して医師となり、秦徳太の長女チヨと結婚する
・1897年(明治30) 岡山県立病院に勤務する
・1898年(明治31) 上京して大日本私立衛生会・伝染病研究所に入所し、北里柴三郎所長に師事する
・1903年(明治36) 国立血清薬院部長を兼任する
・1904年(明治37) 日露戦争従軍・南満州(現中国)各地に赴く
・1907年(明治40) 国立伝染病研究所第三部長となり、ドイツへ留学してワッセルマンに学ぶ
・1910年(明治43) ドイツ国立実験治療研究所でエールリッヒ博士を扶けてサルバルサンを発見、ドイツ学会に発表、日本へ帰国する
・1911年(明治44) サルバルサン発見の功績により、勲5等双光旭日章を受ける
・1912年(明治45) 学位論文『螺旋菌病のヘモテラピー』により、東京帝国大学医科大学(現在の東京大学大学院医学系研究科・医学部)から医学博士の学位を授与される
・1913年(大正2) 国産のサルバルサンを製造することになり、協力し、日本結核予防協会設立に参画する
・1914年(大正3) 伝染病研究所移管に伴い北里所長と共に総辞職し、北里研究所が創立され、部長となる
・1915年(大正4) 国と鈴木梅太郎と三共の協力を得て国産化に取り組んでいたサルバルサンの製造に成功し、アルサミノールの名で販売する
・1920年(大正9) 慶應義塾大学医学部教授に就任し、細菌学、免疫学を講じる
・1921年(大正10) 極東熱帯医学会に出席のためインドネシア・ジャワ・バタビヤに出張する
・1923年(大正12) アメリカ・ロックフェラー財団の招きで同国とカナダの医事衛生視察する
・1926年(大正15) ドイツ帝国自然科学院会員に推される
・1928年(昭和3) ドイツで開催された国際連盟主催、サルバルサン標準国際会議に出席する
・1931年(昭和6) 恩師北里柴三郎博士が亡くなり、北里研究所副所長に就任する
・1933年(昭和8) 帝国学士院(のちの日本学士院)会員に勅選され終身勅任官待遇を受ける
・1934年(昭和9) 深達性消毒薬の研究で、浅川賞を受賞する
・1935年(昭和10) 財団法人保生会創設に参画、常務理事長となる
・1938年(昭和13)11月22日 東京の慶応大学付属病院において、65歳で亡くなる

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

1724年(享保9)浄瑠璃・歌舞伎作者近松門左衛門の命日(新暦1725年1月6日)詳細
1917年(大正6)江戸幕府15代将軍・公爵徳川慶喜の命日詳細
1941年(昭和16)「国家総動員法」第5条に基づいて、「国民勤労報国協力令」が交布(施行は同年12月1日)される詳細
1944年(昭和19)米・英・中首脳による日本の戦後処理についてのカイロ会談が始まる詳細
1945年(昭和20)「農地制度改革ニ関スル件」が閣議決定される詳細
GHQ「救済配給のために保管されている予備物資に関する覚書」が指令される詳細
1969年(昭和44)「沖縄返還に関する屋良朝苗琉球政府主席声明」が出される詳細
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satoueisakunikuson01
 今日は、昭和時代後期の1969年(昭和44)に、「佐藤栄作総理大臣とリチャード・M・ニクソン大統領との間の共同声明」で安保堅持と1972年の沖縄返還、貿易自由化の促進などが表明された日です。
 「佐藤栄作総理大臣とリチャード・M・ニクソン大統領との間の共同声明」(さとうえいさくそうりだいじんとりちゃーど・えむ・にくそんだいとうりょうとのあいだのきょうどうせいめい)は、1969年(昭和44)11月19~21日にアメリカのワシントンD.C.で行われた初の首脳会談の最終日に出された共同声明でした。議題は沖縄返還問題、繊維輸出等貿易問題に集中しつつ、声明では、安保体制の堅持と1972年(昭和47)の沖縄返還、貿易自由化の促進などが表明され、対中国政策についても触れるものとなります。 
 その後、これに基づいて、日米での交渉を行ない、1971年(昭和46)6月17日に合意に達し、「沖縄返還協定」が締結され、翌年の5月15日に、批准書が交換されて、発効しました。この協定発効後、沖縄の施政権が返還され、沖縄県が復活しています。
 以下に、「佐藤栄作総理大臣とリチャード・M・ニクソン大統領との間の共同声明」の英語版と日本語版を掲載しておきますので、ご参照下さい。

〇「沖縄返還協定」(おきなわへんかんきょうてい)とは?

 昭和時代後期の1971年(昭和46)6月17日に、宇宙中継を通じて東京とワシントン D.C.で署名された、日本とアメリカ合衆国との条約です。この条約は、1969年(昭和44)11月、ワシントンにて佐藤栄作内閣総理大臣と、リチャード・ニクソンアメリカ合衆国大統領との会談後発表された共同声明に基づいて、交渉を行ない合意に達したものでした。
 正式には「琉球諸島および大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定」といい、翌年の5月15日に、批准書が交換されて、発効したのです。前文と本文9ヶ条から成り、その内容は、前文で「サンフランシスコ平和条約」第3条の規定に基づくすべての権利及び利益を日本国のために放棄するとし、本文では、(1)沖縄の施政権の返還についての確認、(2)アメリカ合衆国との間に締結された条約及びその他の協定の適用の確認、(3)アメリカ軍基地の存続についての確認、(4)アメリカ軍や政府に対する請求権の放棄等について、(5)裁判、訴訟等の効力について、(6)日本政府に移転する沖縄の財産について、(7)総額3億2千万ドルをアメリカ政府に支払う、(8)5年間にわたり沖縄島におけるヴォイス・オヴ・アメリカ中継局の運営を継続すること、(9)批准書の交換についてを規定していました。
 この協定発効後、沖縄の施政権が返還され、沖縄県が復活しましたが、県内に多くのアメリカ軍基地(県全体面積の1割強)が残され、基地騒音やアメリカ兵による犯罪などいろいろな問題が表面化しています。

「佐藤栄作総理大臣とリチャード・M・ニクソン大統領との間の共同声明」1969年(昭和44)11月21日

<英語版>

Joint Statement of Japanese Prime Minister Eisaku Sato and U.S. President Richard Nixon

1 . President Nixon and Prime Minister Sato met in Washington on November 19, 20 and 21, 1969 to exchange views on the present inter-national situation and on other matters of mutual interest to the United States and Japan.

2. The President and the Prime Minister recognized that both the United States and Japan have greatly benefited from their close association in a variety of fields, and they declared that guided by their common principles of democracy and liberty, the two countries would maintain and strengthen their fruitful cooperation in the continuing search for world peace and prosperity and in particular for the relaxation of inter-national tensions. The President expressed his and his government's deep interest in Asia and stated his belief that the United States and Japan should cooperate in contributing to the peace and prosperity of the region. The Prime Minister stated that Japan would make further active contributions to the peace and prosperity of Asia.

3. The President and the Prime Minister exchanged frank views on the current international situation, with particular attention to developments in the Far East. The President, while emphasizing that the countries in the area were expected to make their own efforts for the stability of the area, gave assurance that the United States would continue to contribute to the maintenance of international peace and security in the Far East by honoring its defense treaty obligations in the area. The Prime Minister, appreciating the determination of the United States, stressed that it was important for the peace and security of the Far East that the United States should be in a position to carry out fully its obligations referred to by the President. He further expressed his recognition that, in the light of the present situation, the presence of United States forces in the Far East constituted a mainstay for the stability of the area.

4. The President and the Prime Minister specifically noted the continuing tension over the Korean peninsula. The Prime Minister deeply appreciated the peacekeeping efforts of the United Nations in the area and stated that the security of the Republic of Korea was essential to Japan's own security. The President and the Prime Minister shared the hope that Communist China would adopt a more cooperative and constructive attitude in its external relations. The President referred to the treaty obligations of his country to the Republic of China which the United States would uphold. The Prime Minister said that the maintenance of peace and security in the Taiwan area was also a most important factor for the security of Japan. The President described the earnest efforts made by the United States for a peaceful and just settlement of the Viet-Nam problem. The President and the Prime Minister expressed the strong hope that the war in Viet-Nam would be concluded before the return of the administrative rights over Okinawa to Japan. In this connection, they agreed that, should peace in Viet-Nam not have been realized by the time reversion of Okinawa is scheduled to take place, the two governments would-fully consult with each other in the light of the situation at that time so that reversion would be accomplished without affecting the United States efforts to assure the South Vietnamese people the opportunity to determine their own political future without outside interference. The Prime Minister stated that Japan was exploring what role she could play in bringing about stability in the Indo-China area.

5. In light of the current situation and the prospects in the Far East, the President and the Prime Minister agreed that they highly valued the role played by the Treaty of Mutual Cooperation and Security in maintaining the peace and security of the Far East including Japan, and they affirmed the intention of the two governments firmly to maintain the Treaty on the basis of mutual trust and common evaluation of the international situation. They further agreed that the two governments should maintain close contact with each other on matters affecting the peace and security of the Far East including Japan, and on the implementation of the Treaty of Mutual Cooperation and Security.

6. The Prime Minister emphasized his view that the time had come to respond to the strong desire of the people of Japan, of both the mainland and Okinawa, to have the administrative rights over Okinawa returned to Japan on the basis of the friendly relations between the United States and Japan and thereby to restore Okinawa to its normal status. The President expressed appreciation of the Prime Minister's view. The President and the Prime Minister also recognized the vital role played by United States forces in Okinawa in the present situation in the Far East. As a result of their discussion, it was agreed that the mutual security interests of the United States and Japan could be accommodated within arrangements for the return of the administrative rights over Okinawa to Japan. They therefore agreed that the two governments would immediately enter into consultations regarding specific arrangements for accomplishing the early reversion of Okinawa without detriment to the security of the Far East including Japan. They further agreed to expedite the consultations with a view to accomplishing the reversion during 1972 subject to the conclusion of these specific arrangements with the necessary legislative support. In this connection, the Prime Minister made clear the intention of his government, following reversion, to assume gradually the responsibility for the immediate defense of Okinawa as part of Japan's defense efforts for her own territories. The President and the Prime Minister agreed also that the United States would retain under the terms of the Treaty of Mutual Cooperation and Security such military facilities and areas in Okinawa as required in the mutual security of both countries.

7. The President and the Prime Minister agreed that, upon return of the administrative rights, the Treaty of Mutual Cooperation and Security and its related arrangements would apply to Okinawa without modification thereof. In this connection, the Prime Minister affirmed the recognition of his government that the security of Japan could not be adequately maintained without international peace and security in the Far East and, therefore, the security of countries in the Far East was a matter of serious concern for Japan. The Prime Minister was of the view that, in the light of such recognition on the part of the Japanese Government, the return of the administrative rights over Okinawa in the manner agreed above should not hinder the effective discharge of the international obligations assumed by the United States for the defense of countries in the Far East including Japan.

The President replied that he shared the Prime Minister's view.

8. The Prime Minister described in detail the particular sentiment of the Japanese people against nuclear weapons and the policy of the Japanese Government reflecting such sentiment. The President expressed his deep understanding and assured the Prime Minister that, without prejudice to the position of the United States Government with respect to the prior consultation system under the Treaty of Mutual Cooperation and Security, the reversion of Okinawa would be carried out in a manner consistent with the policy of the Japanese Government as described by the Prime Minister.

9. The President and the Prime Minister took note of the fact that there would be a number of financial and economic problems, including those concerning United States business interests in Okinawa, to be solved between the two countries in connection with the transfer of the administrative rights over Okinawa to Japan and agreed that detailed discussions relative to their solution would be initiated promptly.

10. The President and the Prime Minister, recognizing the complexity of the problems involved in the reversion of Okinawa, agreed that the two governments should consult closely and cooperate on the measures necessary to assure a smooth transfer of administrative rights to the Japanese Government in accordance with reversion arrangements to be agreed to by both governments. They agreed that the United States-Japan Consultative Committee in Tokyo should undertake overall responsibility for this preparatory work. The President and the Prime Minister decided to establish in Okinawa a Preparatory Commission in place of the existing Advisory Cornmittee to the High Commissioner of the Ryukyu Islands for the purpose of consulting and coordinating locally on measures relating to preparation for the transfer of administrative rights, including necessary assistance to the Government of the Ryukyu Islands. The Preparatory Commission will be composed of a represen-tative of the Japanese Government with ambassadorial rank and the High Commissioner of the Ryukyu Islands, with the Chief Executive of the Government of the Ryukyu Islands acting as adviser to the Cornmission. The Commission will report and make recommendations to the two governments through the United States-Japan Consultative Committee.

11. The President and the Prime Minister expressed their conviction that a mutually satisfactory solution of the question of the return of the administrative rights over Okinawa to Japan, which is the last of the major issues between the two countries arising from the Second World War, would further strengthen United States-Japan relations, which are based on friendship and mutual trust and would make a major contribution to the peace and security of the Far East.

12. In their discussion of economic matters, the President and the Prime Minister noted the marked growth in economic relations between the two countries. They also acknowledged that the leading positions which their countries occupy in the world economy impose important responsibilities on each for the maintenance and strengthening of the international trade and monetary system, especially in the light of the current large imbalances in trade and payments. In this regard, the President stressed his determination to bring inflation in the United States under control. He also reaffirmed the commitment of the United States to the principle of promoting freer trade. The Prime Minister indicated the intention of the Japanese Government to accelerate rapidly the reduction of Japan's trade and capital restrictions. Specifically, he stated the intention of the Japanese Government to remove Japan's residual import quota restrictions over a broad range of products by the end of 1971, and to make maximum efforts to accelerate the liberalization of the remaining items. He added that the Japanese Government intends to make periodic reviews of its liberalization program with a view to implementing trade liberalization at a more accelerated pace than hitherto. The President and the Prime Minister agreed that their respective actions would further solidify the foundation of overall United States-Japan relations.

13. The President and the Prime Minister agreed that attention to the economic needs of the developing countries was essential to the development of international peace and stability. The Prime Minister stated the intention of the Japanese Government to expand and improve its aid programs in Asia commensurate with the economic growth of Japan. The President welcomed this statement and confirmed that the United States would continue to contribute to the economic development of Asia. The President and the Prime Minister recognized that there would be major requirements for the post-war rehabilitation of Viet-Nam and elsewhere in Southeast Asia. The Prime Minister stated the intention of the Japanese Government to make a substantial contribution to this end. 14. The Prime Minister congratulated the President on the successful moon landing of Apollo XII, and expressed the hope for a safe journey back to earth for the astronauts. The President and the Prime Minister agreed that the exploration of space offers great opportunities for expanding cooperation in peaceful scientific projects among all nations. In this connection, the Prime Minister noted with pleasure that the United States and Japan last summer had concluded an agreement on space cooperation. The President and the Prime Minister agreed that implementation of this unique program is of importance to both countries.

15. The President and the Prime Minister dis-cussed prospects for the promotion of arms control and the slowing down of the arms race. The President outlined his government's efforts to initiate the strategic arms limitations talks with the Soviet Union that have recently started in Helsinki. The Prime Minister expressed his government's strong hope for the success of these talks. The Prime Minister pointed out his country's strong and traditional interest in effective disarmament measures with a view to achieving general and complete disarmament under strict and effective international control.

<日本語版>

佐藤栄作総理大臣とリチャード・M・ニクソン大統領との間の共同声明

1.佐藤総理大臣とニクソン大統領は、11月19日、20日および21日にワシントンにおいて会談し、現在の国際情勢および日米両国が共通の関心を有する諸問題に関し意見を交換した。

2.総理大臣と大統領は、各種の分野における両国間の緊密な協力関係が日米両国にもたらしてきた利益の大なることを認め、両国が、ともに民主主義と自由の原則を指針として、世界の平和と繁栄の不断の探求のため、とくに国際緊張の緩和のため、両国の成果ある協力を維持強化していくことを明らかにした。大統領は、アジアに対する大統領自身および米国政府の深い関心を披瀝し、この地域の平和と繁栄のため日米両国があい協力して貢献すべきであるとの信念を述べた。総理大臣は、日本はアジアの平和と繁栄のため今後も積極的に貢献する考えであることを述べた。

3.総理大臣と大統領は、現下の国際情勢、特に極東における事態の発展について隔意なく意見を交換した。大統領は、この地域の安定のため域内諸国にその自主的努力を期待する旨を強調したが、同時に米国は域内における防衛条約上の義務は必ず守り、もつて極東における国際の平和と安全の維持に引き続き貢献するものであることを確言した。総理大臣は、米国の決意を多とし、大統領が言及した義務を米国が十分に果たしうる態勢にあることが極東の平和と安全にとつて重要であることを強調した。総理大臣は、さらに、現在の情勢の下においては、米軍の極東における存在がこの地域の安定の大きなささえとなつているという認識を述べた。

4.総理大臣と大統領は、特に、朝鮮半島に依然として緊張状態が存在することに注目した。総理大臣は、朝鮮半島の平和維持のための国際連合の努力を高く評価し、韓国の安全は日本自身の安全にとつて緊要であると述べた。総理大臣と大統領は、中共がその対外関係においてより協調的かつ建設的な態度をとるよう期待する点において双方一致していることを認めた。大統領は、米国の中華民国に対する条約上の義務に言及し、米国はこれを遵守するものであると述べた。総理大臣は、台湾地域における平和と安全の維持も日本の安全にとつてきわめて重要な要素であると述べた。大統領は、ヴィエトナム問題の平和的かつ正当な解決のための米国の誠意ある努力を説明した。総理大臣と大統領は、ヴィエトナム戦争が沖繩の施政権が日本に返還されるまでに終結していることを強く希望する旨を明らかにした。これに関連して、両者は、万一ヴィエトナムにおける平和が沖繩返還予定時に至るも実現していない場合には、両国政府は、南ヴィエトナム人民が外部からの干渉を受けずにその政治的将来を決定する機会を確保するための米国の努力に影響を及ぼすことなく沖繩の返還が実現されるように、そのときの情勢に照らして十分協議することに意見の一致をみた。総理大臣は、日本としてはインドシナ地域の安定のため果たしうる役割を探求している旨を述べた。

5.総理大臣と大統領は、極東情勢の現状および見通しにかんがみ、日米安保条約が日本を含む極東の平和と安全の維持のため果たしている役割をともに高く評価し、相互信頼と国際情勢に対する共通の認識の基礎に立つて安保条約を堅持するとの両国政府の意図を明らかにした。両者は、また、両国政府が日本を含む極東の平和と安全に影響を及ぼす事項および安保条約の実施に関し緊密な相互の接触を維持すべきことに意見の一致をみた。

6.総理大臣は、日米友好関係の基礎に立つて沖繩の施政権を日本に返還し、沖繩を正常な姿に復するようにとの日本本土および沖繩の日本国民の強い願望にこたえるべき時期が到来したとの見解を説いた。大統領は、総理大臣の見解に対する理解を示した。総理大臣と大統領は、また、現在のような極東情勢の下において、沖繩にある米軍が重要な役割を果たしていることを認めた。討議の結果、両者は、日米両国共通の安全保障上の利益は、沖繩の施政権を日本に返還するための取決めにおいて満たしうることに意見が一致した。よつて、両者は、日本を含む極東の安全をそこなうことなく沖繩の日本への早期復帰を達成するための具体的な取決めに関し、両国政府が直ちに協議に入ることに合意した。さらに、両者は、立法府の必要な支持をえて前記の具体的取決めが締結されることを条件に1972年中に沖繩の復帰を達成するよう、この協議を促進すべきことに合意した。これに関連して、総理大臣は、復帰後は沖繩の局地防衛の責務は日本自体の防衛のための努力の一環として徐徐にこれを負うとの日本政府の意図を明らかにした。また、総理大臣と大統領は、米国が、沖繩において両国共通の安全保障上必要な軍事上の施設および区域を日米安保条約に基づいて保持することにつき意見が一致した。

7.総理大臣と大統領は、施政権返還にあたつては、日米安保条約およびこれに関する諸取決めが変更なしに沖繩に適用されることに意見の一致をみた。これに関連して、総理大臣は、日本の安全は極東における国際の平和と安全なくしては十分に維持することができないものであり、したがつて極東の諸国の安全は日本の重大な関心事であるとの日本政府の認識を明らかにした。総理大臣は、日本政府のかかる認識に照らせば、前記のような態様による沖繩の施政権返還は、日本を含む極東の諸国の防衛のために米国が負つている国際義務の効果的遂行の妨げとなるようなものではないとの見解を表明した。大統領は、総理大臣の見解と同意見である旨を述べた。

8.総理大臣は、核兵器に対する日本国民の特殊な感情およびこれを背景とする日本政府の政策について詳細に説明した。これに対し、大統領は、深い理解を示し、日米安保条約の事前協議制度に関する米国政府の立場を害することなく、沖繩の返還を、右の日本政府の政策に背馳しないよう実施する旨を総理大臣に確約した。

9.総理大臣と大統領は、沖繩の施政権の日本への移転に関連して両国間において解決されるべき諸般の財政及び経済上の問題(沖繩における米国企業の利益に関する問題も含む。)があることに留意して、その解決についての具体的な話合いをすみやかに開始することに意見の一致をみた。

10.総理大臣と大統領は、沖繩の復帰に伴う諸問題の複雑性を認め、両国政府が、相互に合意さるべき返還取決めに従って施政権が円滑に日本政府に移転されるようにするために必要な諸措置につき緊密な協議を行ない、協力すべきことに意見の一致をみた。両者は、東京にある日米協議委員会がこの準備作業に対する全般的責任を負うべきことに合意した。総理大臣と大統領は、琉球政府に対する必要な助力を含む施政権の移転の準備に関する諸措置についての現地における協議および調整のため、現存の琉球列島高等弁務官に対する諮問委員会に代えて、沖繩に準備委員会を設置することとした。準備委員会は、大使級の日本政府代表および琉球列島高等弁務官から成り、琉球政府行政主席が委員会の顧問となろう。同委員会は、日米協議委員会を通じて両国政府に対し報告および勧告を行なうものとする。

11.総理大臣と大統領は、沖繩の施政権の日本への返還は、第二次大戦から生じた日米間の主要な懸案の最後のものであり、その双方にとり満足な解決は、友好と相互信頼に基づく日米関係をいつそう固めるゆえんであり、極東の平和と安全のために貢献するところも大なるべきことを確信する旨披瀝した。

12.経済問題の討議において、総理大臣と大統領は、両国間の経済関係の著しい発展に注目した。両者は、また、両国が世界経済において指導的地位を占めていることに伴い、特に貿易および国際収支の大幅な不均衡の現状に照らしても、国際貿易および国際通貨の制度の維持と強化についてそれぞれ重要な責任を負つていることを認めた。これに関連して、大統領は、米国におけるインフレーションを抑制する決意を強調した。また、大統領は、より自由な貿易を促進するとの原則を米国が堅持すべきことを改めて明らかにした。総理大臣は、日本の貿易および資本についての制限の縮小をすみやかに進めるとの日本政府の意図を示した。具体的には、総理大臣は、広い範囲の品目につき日本の残存輸入数量制限を1971年末までに廃止し、また、残余の品目の自由化を促進するよう最大限の努力を行なうとの日本政府の意図を表明した。総理大臣は、日本政府としては、貿易自由化の実施を従来よりいつそう促進するよう、一定の期間を置きつつその自由化計画の見直しを行なつていく考えである旨付言した。総理大臣と大統領は、このような両国のそれぞれの方策が日米関係全般の基礎をいつそう強固にするであろうということに意見の一致をみた。

13.総理大臣と大統領は、発展途上の諸国の経済上の必要と取り組むことが国際の平和と安定の促進にとつて緊要であることに意見の一致をみた。総理大臣は、日本政府としては、日本経済の成長に応じて、そのアジアに対する援助計画の拡大と改善を図る意向であると述べた。大統領は、この総理大臣の発言を歓迎し、米国としても、アジアの経済開発に引き続き寄与するものであることを確認した。総理大臣と大統領は、ヴィエトナム戦後におけるヴィエトナムその他の東南アジアの地域の復興を大規模に進める必要があることを認めた。総理大臣は、このため相当な寄与を行なうとの日本政府の意図を述べた。

14.総理大臣は、大統領に対し、アポロ12号が月面到着に成功したことについて祝意を述べるとともに、宇宙飛行士たちが無事地球に帰還するよう祈念を表明した。総理大臣と大統領は、宇宙の探査が科学の分野における平和目的の諸事業についての協力関係をすべての国の間において拡大する広範な機会をもたらすものであることに意見の一致をみた。これに関連して、総理大臣は、日米両国が本年夏に宇宙協力に関する取決めを結んだことを喜びとする旨述べた。総理大臣と大統領は、この特別な計画の実施が両国にとつて重要なものであることに意見の一致をみた。

15.総理大臣と大統領は、軍備管理の促進と軍備拡大競争の抑制の見通しについて討議した。大統領は、最近ヘルシンキにおいて緒についたソヴィエト連邦との戦略兵器の制限に関する討議を開始することについての米国政府の努力の概要を述べた。総理大臣は、日本政府がこの討議の成功を強く希望する旨述べた。総理大臣は、厳重かつ効果的な国際的管理の下における全面的かつ完全な軍縮を達成するよう、効果的な軍縮措置を実現することについて日本が有している強い伝統的な関心を指摘した。

  「わが外交の近況(外交青書)第14号」より

〇同じ日の過去の出来事(以前にブログで紹介した記事)

734年(天平6)「得度・授戒の制」が定められる(新暦12月20日)詳細
1889年(明治22)東京市京橋区木挽町(現在の東京都中央区銀座四丁目)に歌舞伎座が開場する詳細
1910年(明治43)生化学者江上不二夫の誕生日詳細
1956年(昭和31)歌人・美術史家・書道家会津八一の命日(八一忌・秋艸忌)詳細
1903年(明治36)小説家伊藤永之介の誕生日詳細
1969年(昭和44)俳人石田波郷の命日詳細
1978年(昭和53)第20回ユネスコ総会で「体育およびスポーツに関する国際憲章」が採択される詳細
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